ファイターズ・ウォークライ - 01
「クソッ!なんだってんだよあのイフリート!!」
壁を強く叩き、怒りの言葉をアラートの鳴り響くコックピットに吐き捨てた。
自機であるサーペントのダメージは耐久力の7割を超えている。
立て直しは絶望的な状況であった。
それでも遠距離攻撃に特化したサーペントなら、相手との距離を保ち弾をばらまき続けられれば状況を覆す事は可能である。
相対する敵機を睨み付ける。相手イフリートとの距離は1kmといったところだろうか。
薄っすらと黒い炎のようなものを纏ったイフリートは周りの情景に溶け込むのを拒むようにありありとその姿を誇示していた。
「くたばれこの野郎!!」
武装選択で両肩の8連装ミサイルランチャーを選択し全弾発射する。
その瞬間けたたましい接近警報が鳴った。体が反応し画面を見て絶句する。
そこには遠方にいたはずのイフリートが目の前に迫り、今まさにヒートソードを振りぬこうとしている様が映し出されていた。
「うわああああああ!!」
ありえない。
いくら推力を強化した近接特化型のイフリートとはいえあの距離を一瞬で詰めるなんて量子テレポートでもなければ不可能だ。
あの炎だ。
さっきまでは自分が優勢だったはずなのにイフリートがあの炎のようなものを纏ってから急に動きが変わった。
動きだけではない、装甲も、攻撃力も何もかもその前とは桁違いだ。まるで全く別のガンプラを相手にしているようだ。
咄嗟にサーペント胸部に仕込んだ隠しガトリングを展開し前方へ掃射する。
だが既にイフリートの姿はモニターには映っていなかった。
「畜生!畜生畜生畜生畜生畜生!!」
最早正常な判断を失ったサーペントはなりふり構わず全方位へすべての武器をばら撒く。
そこにはもう勝ちに向かう意志は無かった。
突然、サーペントの動きが止まった。
その機体には深々とヒートソードが突き刺さっている。
空中からヒートソードを投げたイフリートは、そのまま動かなくなった相手にラケーテンバズを打ち込んだ。
BATTLE ENDED
「アントン、今の奴結構ポイント持ってたぜ。もうちょっと剥いでも良かったんじゃねえのか?」
後方のガブスレイから通信が入る。
「そうだな、たんまり持ってるだけあって結構やる奴だった。こっちもデカール使う羽目になっちまった。」
アントンは語気に少し苛立ちを含んでそう答えるとイフリートのブースターを少し強めにふかした。
アントンとカイレーはいつものように手頃な観光客を見つけては辺鄙な場所で賭けバトルを繰り返していた。
二人は今フランチェスカフィールド外れの森林地帯からメインである浜辺へと向かっている。次の相手(カモ)を探すためだ。
森林地帯フィールドから二体がエリアアウトすると、何もない森林の中から機体が現れる。
ソレスタルビーイング由来の光学迷彩粒子でコーティングしていたピックラックのジェノアスクラッカーである。
その手にはアストレイアウトフレームのガンカメラを持っていた。
「ブレイクデカール、確かに撮らせてもらったよ。」
アントンとカイレーにビーコンを付けてから三日、ピックラックは二人の動向を密かに監視していた。
本当に二人がブレイクデカールを持っているのかの確証が欲しかったからである。
随分じらされたがこれで彼らがデカール所持者だという裏が取れた。
情報に聞いた通り二人は観光客にバトルをふっかけてポイントを巻き上げてはいたが、中々ブレイクデカールを使わない。
これは長期の張り込みになると覚悟していた矢先の出来事だった。
「本当にログに残らないなんて事があるのかね。」
散々巷で聞いた話とはいえ、多少プログラムに精通する身としてはイマイチ信じられない。
「ま、解析してみれば分かる事だろ。」
遠雷の音が響いた。向こうからやってくる雨雲を見やり、ピックラックも森林地帯から退散することにした。
「マジかよ。」
ログアウトした後、記録映像を確認したピックラックは思わず呟いた。
ガンカメラの録画映像からはイフリートを包んでいたオーラのようなものが綺麗さっぱり無くなっている。
戦闘もイフリートのありえない挙動やスピードがマイルドになっており、
サーペントの撃破された地点も実際よりイフリート側に寄っている。
ログを漁っても記録映像と同様のデータが出て来るばかりだ。
本来は高速で突撃してくるイフリートに圧倒されたサーペントが、記録映像ではまるで突撃するイフリートに吸い寄せられるような動きになっていた。
どういうことだ…?映像とログが改竄されている…?
いや第三者が気づかれずに秘密裏に記録したものにそんな事を出来る奴なんてまずいない。
しかも記録してから一日も経ってないのにそんな事は不可能なはず…。
ピックラックはこの不可解な現象の答えを導き出そうと思考を巡らす。
引っかかる…。そうこの映像は何かが引っ掛かるのだ。
そもそも映像自体が事実と異なっているがそういう事ではない。
映像の違和感、映像だけでは気づけない違和感。何だ…考えろ…何が引っ掛かる…。
事実と違う…事実と映像…あの時、俺が見た実際の戦闘との違い…その違和感…。
ピタリ、と動きが止まる。
「そうだ、改竄じゃない。これは補正だ。流れを作っているのか?
記録映像のブレイクデカールの痕跡を消しつつ、実際の戦闘後の結果に辿り着くように?
…まさか。」
違和感の答え。合っているかどうかはともかく自分の直感はそれが正しいと言っている。
だがどうやって?その方法、手段は全く手掛かりが掴めないままだ。
この記録映像だけではこれ以上の手掛かりも得られない。
裏付けのための検証材料が圧倒的に不足していた。
データがいる。この推論を裏付けるための実戦データが。
ならば現状やれる事は一つだ。
「仕掛けるか。」
呟いてハンガーのジェノアスクラッカーを見つめる。
久方ぶりのGBNでのガンプラバトル。やるんだったらとことん楽しくやろうじゃないか。
相手はあのブレイクデカール。だったらこちらも全力でやらなきゃいけない。
そう、使えるものはなんでも使って、だ。