フリーバトルエリア───そこは相手の承認を必要とせずにエリア内のガンプラとバトルする事が出来る場所だ。
主に初心者から中級者が暇つぶしから腕試しまで様々な目的でやってくる。
たまに場を荒らしに来るダイバーもいるが、勝っても負けても特に得るものもないため飽きて帰るか、それとも相手が帰るかで基本的には平和なエリアである。
そんな性質から特に戦闘をせず雑談所として利用するダイバーもいる。
フランチェスカフィールドのフリーバトルエリアも例に漏れず穏やかな場所で、
景観の人気も相まって観光ダイバーからの人気も高い。
アントンとカイレーはいつものようにバトルをしているダイバーの値踏みをしていた。
これから自分たちが引っ掛ける相手を探しているのだが、人を騙してハメるにも色々とコツがある。
まず前提としてあまり警戒心も無く、ちょっとした話にホイホイ付いてくるような相手でなければいけない。
だがそんな間の抜けたダイバーでも多少の強さが無ければ今度はバトルが成立しない。
賭けバトルを承認するような奴は、なにかしら自分が勝てる自信がある。自身の無い奴はそういったものには手を出さない。
「アントン。」
カイレーがアゴで向こうを示唆する。
バトルしているMSが2機。使っている機体はガイアガンダムとジェノアス。
そこそこ動ける奴らだが、特に目を見張るものも無い。カモとしてはうってつけだった。
「いいね、ちょっくらお邪魔するとしようぜカイレー。」
バトルの終わりを見計らってアントンは二人に声をかける。
「すいません。俺達もフリーバトル混ぜてもらっていいかな?」
「ええ、いいですよ。どっちとやります?」
「タッグでもシングルでも構わないけど…二人は知り合い?」
「いやさっきバトルエリアでお互い相手探しててたまたまです。ねえ?」
「そうそう。ちょうど相手してもらって助かっちゃって。」
「ああ、そうなんだ。じゃあとりあえずこっちの二人とそちらの二人別れてシングルでやろうよ。」
「わかりました。じゃあ俺とガブスレイでやります?同じ可変機同士。」
ガイアに乗っていたダイバーがカイレーにバトルを申し込む。
「俺?いいよ。カイレーって言うんだ、よろしく。」
「俺はディードです。お手柔らかに。」
「お前はガイアとやるのね。じゃあ俺は…。」
アントンはジェノアスに乗っていたアバターを見る。
「ピックラックと言います。よろしくお願いします。イフリート、カッコイイですね。」
「俺はアントン。そっちのジェノアスもゴツいキャノン背負って強そうじゃない。よろしく。」
アントンのイフリートはピックラックのジェノアスと、カイレーのガブスレイはディードのガイアとそれぞれバトルを始める。
うまくやれよ、とカイレーに合図するとアントンはイフリートへ乗り込みジェノアスへと向き合う。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
BATTLE START
バトルが始まるなりジェノアスが肩のキャノンを撃ってきた。
アントンはそれを難なくかわし距離を詰める。すると今度は腕のビームユニットからショットを撃ちながら距離を詰めてきた。
実にスタンダードな戦い方だ。だがそれ故に対処もしやすい。動きも素直で何かを狙っている素振りも無い。
(これなら簡単に騙せそうだ。)
アントンはわざと2、3発ビームショットを食らってやると肩のクナイを投げつける。
ジェノアスも回避運動を取るが、全ては避けきれず一部被弾する。
これで相手のある程度の反応速度も分かった。後は接近戦に持ち込んで上手く相手を削りつつも接待してやればいい。
脚部のミサイルポッドを目くらましにしつつジェノアスに向かって回り込み、クロスレンジへの侵入を試みる。
「がら空きだ!」
「懐に入られた!?」
ジェノアスは腰のサイドアーマーにマウントした火器をこちらへ向け狙いも定めず発射した。
ビームの散弾がイフリートの装甲表面を焼く。
「ショットガンか!いい趣味してるぜ。」
「流石に浅いか!」
「ショットガンなら、こっちも得意でね!」
イフリートも自前のショットガンを構えジェノアスへ撃ちこむ。
奇しくも同じショットガン持ち同士、気づけば近~中距離の射撃戦となり、状況は硬直状態に陥った。
アントンとしては機動力を生かして得意の格闘戦へ持ち込みたい。
相手のジェノアスは見たところ全距離対応のオールラウンダーである。こちらの得意分野に持ち込めればこの均衡は崩せるだろう。
それに今回は勝つ必要は無いのだ。強引に行ったところで何の問題も無い。
今までの撃ち合いから一転、アントンはバックダッシュで距離を取るとミサイルからのラケーテンバズ掃射で戦闘のリズムを崩す。
突然間合いを外されたジェノアスは一瞬動きが遅れた。応戦して肩のキャノンを撃つもその動きは悪手であった。
機動力に特化したイフリートはそのままキャノンを避けガトリングシールドを打ち込みながら最短ルートで距離を詰める。
キャノンの発射で硬直したジェノアスはその対応に大きな後れを取った。
「さあどうするよ!?」
イフリートはヒートソードを抜きそのままジェノアス胴体へ向かって横へと薙ぎ払う。
「っ!!ぁあっ!!」
瞬間、ジェノアスは腕のビームユニット兼シールドでそれを受け止めるとイフリートへ向かってショットガンを打ち込んだ。
(あれを凌いだか!)
アントンはピックラックの反応に感心し、クナイで牽制しつつ距離を取った。
散弾でも密着して被弾すればただではすまない。一気にイフリートの耐久値を削られた。
「潮時か。」
アントンは呟くと碗部グレネードで牽制しつつ後退しながらバズーカをばら撒く消極的な戦法に切り替える。
これを好機と見たピックラックは逆にビームショットで弾幕を貼りつつ詰めにかかった。
そしてじわじわとイフリートの耐久を削り続け、結果ジェノアスの勝利で戦いは決した。
「ありがとうございました。強いですね。一気に距離詰められたときはもう駄目だと思いました。」
「いや負けたのは俺の方だし、あそこで決められなきゃどうしようもないって。完敗だよ。」
バトル後にお互いを褒め称え談笑していると、カイレーとディードが戻ってきた。
「カイレーお疲れ、どうだった?」
「いやー、ガイア強いわ。4脚なのに飛んできて接近戦も出来るし。」
「結構接戦だったじゃない。ガブスレイも動き早いし。」
「でも次やったら俺ガイアに勝てそうな気するんだよね~。」
カイレーはアントンに目配せをする。
「ああ、それじゃ二人とももうちょっとバトルやらない?
今度はちょっとしたポイントとかかけてさ。その方が燃えるじゃん?」
「へえ、面白い。俺やりますよ!」
勝った事に気をよくしたのかピックラックが食い気味に乗ってきた。
手加減されたのも知らずにちょろいもんだ。
「あー、ごめん。面白そうだけどそろそろ落ちるわ。また会ったらね。」
ディードの方はそんなに乗り気にならなかったようで、そのまま挨拶するとログアウトしてしまった。
とりあえず一人引っ掛けられただけでもよしとするか。気を取り直してアントンとカイレーはピックラックに話しかける。
「次は俺のガブスレイとね。ジェノアスとやるのは初めてかも。」
「それじゃ場所変えようか、バトルの後に良ければそこのミッションとか手伝ってもらえると嬉しいな。」
「いいですよ。お任せします。」
「あ、でもポイント賭けるって言っても無ければ別にいいよ。ランク戦でやろう。」
「今ポイントの手持ちそこそこあるんでどっちでも行けますよ。腕も同じくらいだしガンガンやりましょうよ。」
完全に調子に乗っているピックラックを見てアントンとカイレーはほくそ笑んだ。
こいつはとことん絞りがいがありそうだ。
三人は談笑をしながらフリーバトルエリアから森林地帯へと場所を移動する。
この時、その様子をずっと伺っていた一人のアバターがいたのだが、三人とも終ぞ気づく事は無かった。
彼は三人が移動したのを確認すると自分も後を追うようにフリーバトルエリアから姿を消したのだった。