ここまでは順調。
ピックラックは先導するガブスレイとイフリートを見る。
詐欺のカモとして見てもらえるかどうかが一番の賭けだったがなんとかお眼鏡には適ったらしい。
これでダメなら人を雇わなければならない所だったが手間もかかるし危険も増える。
なによりブレイクデカールのデータは自分自身で対峙したデータが欲しい。
武装も最近のビルドから変更は見られない。シミュレーションと録画である程度の対策は立てたつもりだ。
問題はブレイクデカール使用時の相手に自分の腕でどこまで持つか、だ。
最初から勝てるとは思ってないが、データを取るためには出来るだけ戦闘を継続させて様々なシチュエーションを見ておきたい。
動きは前回の目視の感じでは最大2倍速の動きに対応できれば問題は無いと思う。
…問題はシミュレータで2倍速の相手に対する勝率が5割まで持っていけなかった事だが。
他の手もある事はあるが、これは効くかどうかは相手にもよるものなので博打になる。
個人的に勝算は多いとみているが…。
「よし到着だ。」
ガブスレイから通信が入りピックラックは我に返る。
「ここいらでいいだろ。降りようか。」
イフリートも続けて森林地帯の開けた場所に着地する。
ピックラックもそれに続いてジェノアスを降下させた。
「フランチェスカにこんな所あったんですね。」
さも知らなかったかのようにピックラックは話題を振ってみせた。
「観光用のフィールドだけど郊外は結構自然の景観がそのままの場所もあるのさ。デカい滝がある場所もあるぜ。なあカイレー。」
「まあまあそんな事より早速俺のガブスレイとやろうぜ?ちょいと賭けてさ。」
「やる気ですね。でもまだカイレーさんとは一回もやってないし、練習を兼ねてフリーバトルでやりましょうよ。」
「え?ああもちろんいいよ。」
カイレーは少し拍子抜けしたようだが申し出を快諾した。
その微笑みが一瞬苛立つ表情に変化したのをピックラックは張り付いた微笑みで流す。
ジェノアスのコックピットに乗り込むとガブスレイとお互い距離を取った。
「カイレーさん、時間5分いいですか?エリアはどうします?」
「ああいいよ。エリアは2×2のクローズでいいかな?」
「了解です。」
ここでの2×2は2km×2km四方にバトルエリアを設定するという事である。(GBN基準)
ダメージを与えたら逃げて時間切れによる勝ちを狙う、という戦法をある程度防ぐためのもので、練習やシングルマッチでよく用いられる広さだ。
なお制限高度に言及が無いときは基本的にフィールドの基準高度が設定に用いられる。
エリアラインをオーバーすると負けになるラインか、エリア内にガンプラを閉じ込めるかのクローズの設定が可能だが、
ガンプラとダイバーの地力だけで勝負を決めたい場合はクローズを選択するのが一般的である。
BATTLE START
開幕ガブスレイはフェダーインライフルによる狙撃で牽制を行う。
(いきなり変形して突っ込んでは来ない…まずは様子見か。)
ジェノアスもビームショットで応戦する。キャノンではフェダーインライフルの弾速で硬直を狙われかねない。
アントンのイフリートとは逆でカイレーのガブスレイは遠距離戦にアドバンテージのある機体だ。
恐らく元々は二人でタッグバトルをメインにしていたのではないだろうか。
ガブスレイが援護をしながらイフリートが敵に攻め込む。そう考えるとしっくりくる構成だ。
足りていないのは中距離における武装だが、カイレーは碗部ビームサーベルをキュベレイタイプのアームビームガンに換装している。
射程に穴のないガブスレイは使い手によっては相当な脅威だ。
撃ちあいをしながら互いの距離が詰まる。実際にはジェノアスがじりじりと距離を詰めているのだが。
ガブスレイも後退しながら距離をキープし、じわじわライフルでこちらの耐久値を削ってくる。
この距離で付き合うとこのまま削り負ける。なんとか中距離戦に持ち込みたい。
「ここだ!」
ピックラックはビームショットの牽制を止め、一気にブーストを噴かせるとガブスレイとの距離を詰める。
この距離なら機動力で相手の射線を外しながら戦わなければならない。中距離戦の間合いだ。
長距離狙撃向きのフェダーインライフルではこちらを狙うのも厳しいはずだ。
するとガブスレイも慣れたもので、右手に持ったフェダーインライフルを右手の指でくるりと180度回転させた。
銃の尾からビームサーベルが光を放つ。左手の碗部アーマーからはアームビームガンを展開、機動戦の構えを取った。
「そうくるよなぁ!」
ピックラックはガブスレイがその構えを変える瞬間、ジェノアスの肩キャノンを発射する。
体に大きなGがかかり機体がガクンと揺れた。
耐G警報が鳴り響く中そのまま反動を殺さぬようにブースターを逆にふかして一気に大きく距離を取る。
予想外の動きにガブスレイもその動きを一瞬止めた。だがキャノンの直撃はすんでの所で避けてみせる。
「味な真似を!」
ガブスレイが追撃のためMAに変形しようとしたその時、避けたはずのキャノンの弾が爆発した。
「なんだと!?」
爆発したビーム球が拡散されガブスレイを襲う。予想外の攻撃にカイレーは近距離でかなりの散弾を食らってしまった。
(あのビームキャノンは球自体を爆発できるようにも設定できるのか!)
カイレーは遠ざかるジェノアスを見つめる。
「ショットガンといい随分散弾が好きなんだな。しっかり相手に当てる自信がないのか!?」
カイレーは負けじと肩のメガ粒子砲をジェノアスへ向けて撃ちこみ、MAへ変形する。
向こうからはさらに1発、2発と追撃のキャノンが飛びこんでくる。
一発はメガ粒子砲で相殺、2発目は爆発より先に高速でかわして突っ切り、ジェノアスへ迫る。
「ガブスレイの距離は遠距離だけじゃねえ!」
フェダーインライフルが正面のジェノアスを捉える。ビームショットを難なくかわしその胸元へ撃ちこんだ。
「やべっ!」
すんでの所でライフルをかわすピックラック。瞬間、がくん。と機体の動きが止まった。
「捕まえたぞ。」
見るとジェノアスの足がガブスレイの脚部クローに掴まれていた。いつの間にか半MA形態に変形している。
上半身はMSだが下半身のはクローの異形、相手を捕えて弄る為の形。
「っと離せよ!」
腰部アーマーにマウントした左右のドッズショットガンをガブスレイに向ける。
しかし、ガブスレイのもう片方の脚部クローがショットガンを一つ握り潰し、フェダーインサーベルがもう片方を突き刺した。
「だがまだ!!」
ピックラックは両腕のビームユニットをガブスレイへ向け、そのままビームサーベルを形成して突き刺そうとする。
それを読んでいたカイレーはアームビームサーベルで大きく薙ぎ払った。
「近接も!ガブスレイのテリトリーなんだよ!!」
腰部拡散ビーム砲と頭部バルカンを同時に掃射するガブスレイ。ジェノアスの耐久値がみるみる低下していく。
「んならこっちもヤケだ!!」
ジェノアスの肩キャノンをガブスレイへ向ける。この距離で爆発すればジェノアス自身もただでは済まない。
「本気か!?」
「確かめてみなよ!!」
間髪入れずにキャノンからビーム球が放たれた。二機の間に巨大な爆発が起こる。
互いの視界が一瞬遮られたが、ジェノアスは既にビームユニットをガブスレイへ向けていた。
そしてそのままビームショットをロックカーソル頼りに乱射し距離を取る。
「ぐああああっ!!」
追撃をまともに食らったガブスレイが体制を立て直そうとアームビームガンをジェノアスへ向ける。
だが時既に遅く、ダメ押しのキャノンがガブスレイを捉えていた。
BATTLE ENDED
「ピックラック君強いね。いけると思ったんだけどな。」
「正直密着された時は負けたと思いましたよ。ガブスレイの近接武装やばいですね。」
「くやしいなぁ。でも次は負けないよ。お互い手の内は見せたし、ガチでやろう。」
「わかりました。じゃあ取りあえずポイント賭けてやってみますか。」
タヌキが。
ピックラックは内心毒づいた。
あの時、目の前でキャノンを撃ちこんでお互いの視界が死んだ時、こっちはロック機能に頼ってビームを撃ちこんで形勢を逆転した。
だが気づいていた。こちらがガブスレイを目視できていなくても、モニターにはガブスレイからのロック表示が映されていた。
撃とうと思えばあちらもこっちを撃てたはずだ。残りの耐久値的には撃ちあえば負けたのは自分のはず。
大方こちらをわざと勝たせて調子づかせようとしたといった所だろう。
カモを逃がす気はない…ってか。ピックラックは微笑んだ。
「始めましょう。こっちもやる気出てきましたよ。どっちからやります?」
ここからが本番だ。ここでこいつらにブレイクデカールを使わせないと次は無い。
一度食い散らかしたカモはもうエサとして見てもらえないだろう。
エサがどこまで食らいつけるかはわからないが、やってやるさ。
バトル時間5分中出来れば2分…いや3分、デカールのデータを収集できればこちらの勝ちだ。
突然けたたましいアラートが鳴り響いた。
驚いてモニターを見ると、バトル要請を出した機体の接近表示が点灯していた。
ピックラックは困惑した。
「バトル要請!?何で俺に!」
接近する機体が目視できる距離まで近づく。
「あれは…」
その機体を見てピックラックの脳裏に一つの記憶が呼び起される。
サンセットビーチのメンバーに不正者の聞き込みをしていた時の話だ。
「最近その詐欺ってる奴らの仲間が増えたみたいなんだよね~。二人じゃなくて三人でなんかやってるの時々見られてるんだ。」
「増えたんですか。じゃあ今は三人組で活動してるんですね。」
「いやでも二人だったり三人だったりマチマチみたいよ。基本は二人だって~。」
「はぁ。ちなみにその三人目が乗ってる機体ってわかります?」
「見た人の話によるとね~…」
「…ジェムズガン!」
純正グレーカラーのジェムズガン。その背中にはビームバズーカとランスのようなものをキャノンのようにマウントしている。
機体自体は多少汚れた印象だが、手持ちの武装だけは見るからに手の込んだカスタムを施されていた。
(何て間の悪い!!)
ピックラックは焦った。
三人目の事は知っていたが、森林地帯へ来た時点で今回は出てこないものとタカをくくっていた。
まさかこのタイミングで出てくるとは。最悪だ。こいつに関してはジェムズガンに乗っているらしいとしか情報が無い。
こいつもブレイクデカール使用者だとしたら使わせる前に倒せるかどうか、俺の腕じゃ予習無しじゃ可能性は低い。
ジェムズガンのコックピットが開き、一人の男のアバターが顔を出した。
「よう、やってるな。俺も混ぜろよ、いいだろ?」
ピックラックは舌打ちをしながらアントンとカイレーを見た。
だがその表情はピックラックが想像したものと違っていた。
アントンとカイレーも先程の柔和な表情を捨て、むき出しの敵意をその男に向けていたのだ。
「そう嫌な顔するなよ。いつもの事だろ。」
「また来やがったのか。馬鹿は死んでも治らねえみたいだな。」
ピックラックの前だというのにアントンとカイレーは最早取り繕う気は無いようだった。
どういう事だ?こいつらは仲間じゃないのか?
不明瞭な状況に戸惑うピックラック。
互いに威嚇し対峙する三人のデカールプレイヤー。
事態は混迷の様相を見せて始めていた。