冒険者組合の入り口がゆっくり開き、一人の人物が入ってきた。
その人物が入ってきたとき、誰もがその方向を凝視した。
何故ならば、その人物は見たこともない黒装束の鎧に身を包んでいたからだ。
闇のように黒い衣装に、表情がうかがえない仮面。
マフラーを棚引かせ、すこしあたりを見回しながらもまっすぐに歩いて行く黒い人物には、何とも言えない威圧感があった。
体格がとてもしっかりとしているため、おそらく男であることがうかがえる。
ガシャガシャと金属をすり合わせる音を響かせながら、その人物は受付まで歩く。
「すみません、こちらで冒険者登録ができると聞いたのですが?」
面妖ないでたちの男に身を固くしていた受付嬢に首を傾げつつ、鎧の人物はその見た目に反して優しい声で問いかけた。
低く通りの良い声からして、見た目通り男性だろうと受付嬢は判断した。
「は、はい。
冒険者受付はこちらですよ!
それでは冒険者記録用紙にご記入をお願いします!
文字の読み書きはできますか?」
仮面の男は差し出された紙をじっと見ていたが、やがて首を左右に振り、
お手上げという風に手を広げた。
「…うーん、ちょっと、無理っぽいですね」
「はい、では代筆いたしますね。
では順にお答えください。まずはお名前を―――…」
既定の質問をすると、男はすこし考え込みながらもしっかりと答えていく。
一部本人も知らないということで空欄になってしまった部分があるが、
必要事項はすべて埋めることが出来た。
「では、最後にご職業をお聞きしますね。
見たところ、剣士さんでしょうか?」
「うぅーん?まぁ、武器のスタイル的にはそれも間違えちゃいないけど…。
残念だけど、違いますね」
「そうなんですか?では、ご職業はなにをされているのでしょうか?」
男は受付嬢の質問に少し面食らったように少し止まったが、
仮面の下でかすかに笑ったようだった。
笑い声が、仮面の隙間から漏れ出る。
「なぁに、ただのしがないハンターですよ。
気軽にハンターさん…もしくはサムライさんって呼んでください」
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そもそも仮面の男…もといハンターがここにいるのは正に運命の悪戯、
もしくは超常現象の結果だった。
男はギルドからの依頼をこなしながら武者修行をする、どこにでもいるG級ハンターだった。
男は今日も今日とて勝手に宿敵認定をしているナルガクルガと戯れながら、殺し合いにいそしんでいた。
いつも闘っている相手で、慣れていたというのは後からの言い訳になるだろう。
ナルガクルガのモーションに対応が一瞬遅れ、尻尾の叩きつけ攻撃をもろに喰らってしまった。
男は太刀遣いで、ガードの態勢はとれず、そのまま吹き飛ばされた。
更に運が悪いことに、吹き飛ばされた先には高い崖があった。
普段飛び降りるところよりも、数段高い崖に軽々と身が投げ出される。
煌めく星々と月を見て「ぁ、これ死んだわ」とスローモーションで人生のシーンが流れた。
「これは、乙りますね…」
運が良ければそのままテントに輸送、悪ければそのまま死亡だろう。
なんて案外いろいろなことを考えながら落ちていき、葉にぶつかり、枝に突っ込み、そのまま地面に落ちた。
背中から落ちた衝撃で、呼吸が一瞬止まる。
げほげほとむせ返り、胸を抑えながら仰向けになる。
頭を少し打ったのか、思考は霞がかり、視界が揺れる。
しばらくうずくまり、痛みに耐える。
「いってぇええぇええぇ…ッ!ディアブロスに突進されたくらい痛いぃ…ッ!」
震える指でアイテムポーチを漁り、回復薬Gを取り出すと一息であおる。
痛みが引き、ボロボロになった体が癒されていく。
そうして、冷静に物事を判断で切るようになったハンターはあたりを見回し、首を傾げた。
「…なんじゃ、ここ」
そこは見たことがない森だった。
深いことには深いが、自分がいた原生林のように雄大で力強くはなかった。
いつも騒がしいくらいに聞こえるモンスターの声ではなく、
どこにでもいそうな鳥の声。
木漏れる日の光は柔らかく、穏やかだった。
「…渓流?いや、原生林にいたんだぞ俺・・・?」
立ちあがって、ハンターは森を歩く。
歩く廻っても見かけるのは草食動物であろう無害な動物だけだった。
アオアシラのようなクマもいたが、ハンターの姿を見た瞬間逃げ出した。
動物の本能が彼の装備に使われた上位者の気配に恐れおののいたのだろう。
そうとも知らないハンターは「なんか、アオアシラっぽいのにヘタレだなぁ」とのんきしていた。
そうして散策しながらザクザクと進んでいくと、煙の臭いがした。
ハンターは柄に手をかけ、臨戦態勢をとりながらしゃがんで状況を判断する。
離れた場所から漂う煙の香りは、焦げた匂いはなくどこかいい匂いがした。
「…香草を煮る臭い?
ってことは、人里が近いのか」
ハンターは警戒をしながら、少し小走りで煙の臭いが濃く香るほうへ赴くと森の切れ目に建築物が見えた。
「やったー!村だ!これで勝つる!」
男はガサガサと草をかき分けて森を出る。
開けた平地に村があった。
農場らしいその村には何人か人も住んでいるらしく、安堵しながらハンターは村に近づいた。
「すいませーん、ちょっとお尋ねしたいんですけど」
牛を世話をしていた初老の男性に声をかける。
男性は全身黒づくめの仮面の人物が現れたことに驚き、
明らかな警戒態勢をとった。
ハンターを睨む目つきは、厳しい。
「…ぉおう」
「な、なんだあんたは!」
「怪しいものじゃないんですが…。
ちょっと道に迷ってしまったハンターです。
道を教えていただきたいのですが…」
「……」
「…ひぇえ」
猜疑の目で見つめられ、百戦錬磨のハンターもどう対応していいのかわからなかった。
そもそもこんな目で見られた経験があまりないため、なにをしていいのかもわからない。
武装を解除し、素顔を見せるという発想は、装備をしたまま生活するのに慣れたハンターにはなかった。
「おじさん?どうかした…の…?」
しばらくにらみ合いという名の距離の取り合いをしていた二人に、柔らかい声がかかる。
ハンターが声の方を見れば、ふんわりと穏やかそうな少女が不安そうにこちらを見つめていた。
「あの、どなたでしょうか…?」
「道に迷ったハンターです。
道を教えていただきたいのですが…驚かせてしまって、申し訳ありません」
頭を深く下げ、謝罪するハンターに二人は顔を見合わせた。
あまりに真摯で穏やかな口調に敵意や害意は感じられなかった。
「それは、お気の毒ですね。
どちらまで行かれる予定ですか?」
「そうですね…。
とりあえず、近くのハンターズギルドのある村か街までの道を教えていただけますか?」
ほっと息を吐いて、安堵しながら質問したハンターにまたも二人は顔を見合わせた。
しかも今度は何を言われたかわからない、という風に首を傾げ、
互いに答えを知らないとわかると困惑したように質問をした。
「…はんたーず、ぎるど?
えっと、冒険者ギルドではなく?」
「冒険者?
なんですか、それ?」
今度はハンターの方が困惑してしまい、
三人で首を傾げ合うことになった。
ハンター=サンの装備は白疾風装備です。
メイン武器は太刀『無明刀【空諦】』に設定してます。
不審者感を全面的に出したかったので、この装備になりました。
現実的に考えて、こんなのが森から出てきたら不審者でしかない…討伐しなきゃ。