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二つの丸い月がぽっかりと天上に上る。
元の世界に負けず劣らずの星空の下、ハンターは牧場の柵に腰掛けていた。
気温は昼に比べてすっかり下がり、ハンターはブルリと体を少し震わせた。
「ホットドリンク飲むほどじゃないけど、夜は冷えるなぁ…。
酒場行って酒飲みたぁい。
あーぁ、折角餌撒いたんだから、はやく来ねえかなあ」
盛大にため息をついたハンターは、流し眼で後ろに放置した物体を見る。
それは、血が滴る新鮮な生肉だった。
本来だったら村人の胃に収まるものだったが、ハンターが村人に頼み、分けてもらったのだ。
さらにはハンターが陣取るあたり周辺に血が撒かれており、
鼻が効くものだったら遠くからでもわかるはずだった。
「ランポス狩りみたいなノリかと思って身構えたけど、
向こうからきてくれるならわざわざフィールド動き回る必要ないもんな。
楽勝楽勝!」
知らない土地をひたすら探し回るのか、と内心げんなりしていたのだが、
向こうからこちらに来てくれるのだったら作戦を立てるのは容易だった。
ハンターが時々受けていた小型モンスター狩りはフィールド中を走り回る地味に過酷なかつ時間がかかるものだったが、
狙いが最初から分かっているものを探しに行く必要などなかった。
「てか、血の臭いで俺がお腹すいてきた…。
美味しそうな肉だったし、こんがり肉にしたかったなぁ」
簡易的な食事しかとっていないハンターは再びため息をつく。
スタミナ切れるの恐いから、何か食べようかなと思ったハンターの目つきが一瞬で鋭くなる。
森の中で何かが蠢く気配がした。
回避スキルと会心率を重視した装備の所為で、
探知にスキルを振れないハンターは気配など探れない。
しかし、長年ハンターを務めている勘が告げていた。
――獲物はすぐ近くまで来ている、と。
仮面の下で口角を上げ、ハンターは軽い動きで柵から飛び降りた。
そうして、背中に差してある太刀をぬらりと抜く。
地面ギリギリに切っ先が下り、風に揺られて刀身に触れた雑草がはらりと斬れる。
「最近、お前を全力で振るう機会がなくって鈍りそうだったんだ。
死なない程度に頑張ろうぜ」
その言葉に答えるように、刀身は月明かりで怪しく光る。
チャキ、とハンターが太刀を鳴らした時、森の中の気配が動いた。
「ゥォオオォオンッ」
ジンオウガに近く、それでいてあそこまでの威圧感も重圧も感じない遠吠え。
その声を皮切りにいくつもの血に飢えた鳴き声があたりに響く。
大型モンスターのヴォイスほどひどくはないものの、防音スキルを持っていないハンターがうるさい、と感じるその鳴き声に眉をひそめたとき、
声の主たちは動きだした。
「ガゥアァアアッ」
森の奥から動物が放つ怪しい目の光が現れた。
ゆっくりと奥から姿を表した狼の群れは、ざっとの見で30匹程度の大きな群れのようだった。
血に誘われた狼たちの瞳は血走っており、ダラダラと鋭い牙の隙間から唾液が垂れる
そのことにヒューと口笛を鳴らしたハンターに反応するように、群れの中で一番大きい個体が吠えた。
「ウオォオンッ」
「やぁッとお出ましか!
待ちくたびれてたんだよぉ!」
声に反応すように飛び出して来た2匹の狼を、ハンターは横一線で切り捨てる。
恐ろしいまでの切れ味の刃に切り捨てられて、狼は勢いそのまま二つ裂けて落ちる。
しかし、狼たちはそれに憶することなくも地面にその鋭い爪を蹴って飛び出し、ハンターに襲い掛かる。
「ハァッ」
横に薙いだ刃を背中に回して、ハンターに向かって飛び出してきた一頭に振り下ろす。
そして、ハンターは転がり、置きあがりの瞬間太刀を振りあげ、飛びあがった一頭を切り裂く。
さらに、ステップを踏みながら太刀を横に振ると、一気に数頭の狼が「ギャンッ」と声を上げて血しぶきを撒いた。
「いっくぞ、おらぁ!」
血しぶきを上げて、一瞬固まった個体を突きで仕留め、さらに横に薙ぐことで他の個体も一気に仕留めた。
ぐちゃり、と地面を濡らした血と臓物を踏みしめて、ハンターは練気をためる。
「よっと、な!」
同時に飛びかかろうとした数頭の向かい、溜めた練気を解放する。
ハンターが放った気刃切りはその数頭を肉塊に変え、湿った音を立てて倒れる狼たちを背後に太刀を納める。
そうして、じろりと残った狼たちを睨みつけたハンターはぼそりとつぶやいた。
鈍く輝く仮面の下の瞳が、獲物を捕らえて楽し気に光る。
「あと、9匹。」
その低い声にただならぬ殺気と、闘気を感じた狼たちが逃げようと後ろ脚に重心をかけた。
しかし、ハンターはその隙を見逃さず一気に駆け抜ける。
後ろに反転し、逃げようとする個体を抜刀と同時に切り捨て、さらに後ろにいた狼に刃を突く。
「1,2!」
ハンターが狼を突いたことで、その体に刃が貫通し、一瞬だけ動きが止まる。
その隙をついて別の個体がハンターに襲い掛かろうと飛びあがった。
「3」
しかしハンターは焦らず、太刀を切りあげて処理する。
その間に森に向かって走りだした個体を、ハンターは冷静に納刀をしてから追い、すこし盛り上がった段差で
思いっきり飛んだ。
「4」
振り下ろした刃で切り捨てられた個体を無視し、横に一回転するように刃を薙いだ。
「5,6」
先頭を走っていた一際大きな個体が、「バウッ」と何か指示するように吠える。
それに反応して逃げようと駆けていた2頭の狼が体を勢いよく反転させて、そのままハンターに飛びかかる。
当然、追いかけてきていたハンターとの距離は近く、勢いがついた鋭い爪と牙を普通の人間だったら避けられなかっただろう。
「7,8!」
だが、ハンターは当たる直前で体を前に転がるように回避させると、
起き上がりと同時にそれを切って捨てる。
返り血はハンターの黒い鎧につき、ぬらりと月明かりに照らされた。
立ち止まったハンターは思いっきり舌打ちをし、逃げる大きな狼の後姿を見つめる。
「…おいおい、忠臣見捨てて大将だけが逃げるなんてちょっと情けないんじゃないのか?」
そう言いながらハンターはアイテムポーチを漁ると、あるものを取り出す。
ハンターはスッと片足を後ろに退いて、利き腕を振りあげて、それを思いっきり投擲する。
「ギャンッ」
ゴッと鈍い音をとともに、短い狼の悲鳴が響く。
森まであと少しのところまで駆けていたボス狼の体が、転がる。
「よっしゃ、ナイスピッチング。
伊達に何年もペイントボール投げてないんだよなぁ」
ハンターが投げた石ころは見事にボス狼に当たり、
ボス狼はその衝撃で地面に転がったのだった。
ハンターは倒れながらもカシカシと足をばたつかせ、なおも逃げようとするボス狼にゆっくりと近づき、
その身体を見降ろす。
「さて、と。
お前に罪があるわけでも、なんでもないんだけど…”ハンター”だからな」
納刀していた太刀を出すと、ボス狼の目が怯えたように光る。
きゅんきゅんと憐れみを持ちたくなるような声で鳴き、
尻尾を丸める狼だったが、ハンターは揺るがなかった。
「…よっ」
シャンッと降ろされた太刀は寸分たがわずボス狼の首を刎ね、
コロコロと転がっていった。
ハンターはそれを見届けると、血を払ってから、刀を納めた。
「これで9…。
クエストクリア・・・ってな!」
立って居るものはハンターしかいなくなった平地で、
ハンターはガッツポーズをした。
意外と便利アイテムな石ころ。
素材はもちろん、大タル爆弾着火するときにたまに使ってます。
男なら黙って自爆するべきですけど、
無駄にダメージ負いたくない時とかは便利です。
漢起爆はモンハンのお約束ネタ(暴論)
あと、ワールドだとスリンガーなるものがあるとのことですが、
ハンターさんは違う地域のハンターなので使用しない設定です。