ゴブリンスレイヤー、と名乗った鎧の青年はこちらへの視線を外すと肉塊となったゴブリンの数を数える。
縛りがあった所為で数える余裕などなく、ゴブリンスレイヤーが数えた数でようやく自分が何匹狩ったのかわかった。
そして、転がる肉塊を見て、吐き気が湧く。
変に人の形と似ている所為で、少しだけ罪悪感が湧いたのだ。
「…15。
この数を、こんな狭い場所でそのデカい太刀で斬ったのか」
「入る前に狭いとはわかってたけど…こんなに狭いとは予想外だったからな。
でも、突けば問題ないかと思ってな」
「それもいいが、もっと刃渡りの短いものを使ったほうがいい。
隙が出来て危険だし、倒すのに時間がかかる。
奴らは臆病だから、その隙に逃げ出しかねない」
「…それもそうだな」
確かに、突きだけでは振り回すよりも多少時間はかかるだろう。
だったら短い刃渡りの武器で即殺したほうがリスクは減る。
そこまで考えていなかったので、ゴブリンスレイヤーの意見に呻く。
「でも今更引き返せないしな・・・。
もう奴らに侵入はばれてるし、逃亡のリスクを増やしたくないし…」
「だったら、こいつらの武器を使えばいい」
「え?」
そう言ってゴブリンスレイヤーは転がっていた死体の傍に落ちていたナイフを渡して来た。
刃がボロボロで手入れは一切されていない鈍らに、顔が引きつる。
「使えるものは何でも使ったほうがいい。
その刀で突くよりは、楽だ」
「そうなんですけど…うっわ、なんだこれ酷いな。
ボロピッケルで闘ったほうがまだましなレベルだぞ…」
ひゅんひゅんと振り回し、感覚を調整する。
メイン武器が太刀で、片手剣など初期の初期でしか使ったことがないため感覚がわからないが、習うよりも慣れろ精神でうなずいた。
「うん、問題ない。いける」
「そうか、ならば戻るぞ」
「…?
何故?」
来た道を戻るゴブリンスレイヤーの後ろを歩く。
「おそらく、この先はダミーだろう。
本命はあの横穴だ」
「あっちが本命か…」
「気づいていたのか?」
「気づいてたけど…どっちを探索すればいいのかわからなかった。
どうせ挟撃されるなら変わらないと思ってな…」
だがはずれの道を突き進んでいただけのようだった。
それが早い段階で分かっただけ儲けものと考えるハンターは前向きだった。
「今度から、分かっていたのならな何らかの対策をした方がいい。
いくら腕に自信があるとはいえ、狭い場所で挟撃されればこちらが圧倒的に不利だ」
「身に染みてわかったわ…。
あそこに罠でも仕掛けてればよかったと後悔してる」
「そうすべきだ」
そう会話しながらトーテムまで戻った。
ゴブリンスレイヤーによれば、このトーテムはシャーマンという呪文遣いがいる証拠で、
シャーマンが群れを率いているということをハンターに教える。
呪文や奇跡が良く分かっていないハンターだったが、こちらの世界特有の技だろうと判断し、重要事項として頭の中にメモをする。
そうしてゴブリン退治に置ける重要事項を教授されながら横道を進んでいくと、洞窟の奥から歪で不愉快な鳴き声が聞こえてきた。
「おそらく、この先に広間がある。
奴らの寝床もそこだろう」
「了解。
作戦は?」
「俺が中に特攻する。
お前は奴らが逃げ出さそうとする奴を掃討してくれ」
「任せとけ、ハンターだからな。
雑魚狩りもお手の物だ」
ぐっと親指を立てると、ゴブリンスレイヤーは「そうか」と頷いた。
万が一逃げられた場合のため、縄を出口に設置し、倒れたところに突き刺さる位置にナイフを立てる罠を設置した。
「…行くぞ」
「了解ッ!」
ゴブリンスレイヤーが特攻した後、ゴブリンたちが混乱した瞬間にハンターも広間に入り、逃げ出そうとした個体にナイフをつきたてた。
中は存外広く、これならば太刀を振り回せる広さだと判断したが…同士討ちを避けるため、あえて使わなかった。
確実に仕留めるため、脳天に突き刺したナイフを捨て、
死んだゴブリンが持っていた小ぶりのソードで横を抜けようとした個体を一刀両断にする。
更に、こちらに矢を射ってきたのを、しゃがんで回避すると、踏み込んで弓を持った個体にソードをつきたてた。
そしてその弓を奪うと、こちらに向かってきた複数の個体の頭をめがけて弓を射かけた。
正確に射抜かれたゴブリンは倒れこみ、痙攣するがそんなものには目もくれない。
「たく、何から何まで粗悪品かよ・・・初期装備の方が圧倒的に優良だぞ、これ」
数回射かけただけで弦が切れてしまった弓を投げ捨てて、拾ったナイフで小さな個体の心臓につきたて、絶命させる。
「ラストォッ!」
逆上し、こちらに突進してきた一回り大きなゴブリンの個体を抜刀術で切り伏せる。
下半身と上半身で分かれたゴブリンからは血があふれ、返り血が付くが、漆黒の鎧に染みを作ることさえできない。
「こっちはおわったぜ、そっちはどうだ?」
「こちらも終わった。」
槍のようなもので、他の個体とは違う上位者らしきゴブリンにとどめを刺すゴブリンスレイヤーに、サムズアップを送る。
見ると広間で息をしている個体はもうおらず、立っているのはハンターとゴブリンスレイヤーのみだった。
そして、冷静にあたりが見回せるようになり・・・吐き気がした。
いくつも転がった人骨に、装備、人間の手足・・・なによりハンターにとって衝撃的だったのは娘たちの存在だった。
一糸まとわぬ姿をしたいたいけな少女たちが数人、地面に倒れていた。
全員に暴行の跡があり、無傷の少女は居なかった。
悲惨なその姿に、思わず目をそらす。
適当に落ちていた布をかけながら呼吸を確認すると、かすかだが全員息があるようだった。
「これで任務終了か?」
「…いや、まだだ」
「へ?」
ゴブリンスレイヤーは広間の奥にあった小さな木のバリケードを見つけると、それを蹴り壊す。
隠すようにあったその洞穴に入り…絶句した。
そこには、小さなゴブリンたちが複数体いた。
ゴブリンの子供、というものと先ほどの無残な姿をした少女たちが結びつき、口の中にすっぱいものが広がる。
「…なあ、これをどうするつもりだ」
吐き気を堪えつつ、ゴブリンスレイヤーに質問をする。
その手に握られたソードから、彼が何をしようとしているのか察してしまった。
「殺す。
生き残りは学習し、知恵をつける。生かしておく理由など何一つない。」
「…そう、か」
ハンターは振り下ろされるナイフを、目に焼き付ける。
それが、命を奪うもののせめてもの責任だと思ったからだ。
響き渡る悲鳴、憎悪の鳴き声。
やがてそれは静かになり…ハンターとゴブリンスレイヤーの任務は終わったのだった。
邂逅編でしたー。シリアスしてるとふざけたくなる…。
ちなみに、彼が無名刀【空諦】を使って居るのは
見た目がハンターさん好みだったから…?
というのは冗談で、彼は宿敵をナルガクルガと認定(勝手に)してるので、
ナルガを狩るときは防具は白疾風、武器はナルガという変なこだわりがあるだけです。
そんなに深い理由はあんまりない。
ちゃんといろんな武器と装備は持ってるけど、
来たときに持ってたのがたまたまこの装備だったというだけでもある。
しかし深く考えたら負けである。