圧倒的な力をもって王国に侵攻し、ついに王女を追い詰めた魔王。当初は王女も始末するつもりが、あまりの美しさゆえ自分の女とすることを誓う。さっそく城に連れて帰って自分傍に置こうとしたのはいいものの、王女が意外に強すぎて――!?

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辻褄とかはあんまり期待しないでください。


怪力な王女と受難の魔王

 「姫さま、早くここへお隠れください!」

 

家政婦はドレスの重みでうまく動けない王女の手をとり、3畳にも満たない小部屋に閉じ込めた。

 

 昨年、魔王軍が王国に侵攻したのを皮切りに戦いが始まってしまったのだ。

当初は善戦していた王国軍も圧倒的な勢力で勝る魔王軍に手も足も出なくなり、あっという間に王城を包囲されてしまった。

今や国王さえも身柄を拘束され、追われる身となった王女はひたすら王城内を逃げ回るしかない。

 

「いいですか、姫さま。 絶対に音を立ててはいけませんからね」

 

部屋に閉じ込めた王女にそう告げた時だった。

急に後方から不気味な気配を感じて家政婦はあわてて扉を閉めた。

 

「ほう、そこに王女が隠れておるのだな」

 

目の前にいた男から凍てつくような低声を浴び、ビクッと震えあがる。

 

「あ、あなたは……」

 

琥珀色の輝きを放つ吊りあがった目。

女のような白い美肌と端正な顔立ち、それでいて男らしいがしっとした肩幅。

こめかみの辺りから2本の角が天に向かって生え、体を覆う禍々しいオーラは魔王そのものに違いない。

 

「魔王さまどうかお見逃しください!」

「そこをどけ、家政婦!」

 

魔王は足早に小部屋までやってくると、身を挺して扉の前でガードしていた家政婦を意図も容易く放り投げる。

 

「ここに王女がおるのか」

 

ガッと勢いよく開け、奥にある闇に目を凝らす。

その先にいた若い娘を見て、魔王は思わず感嘆を口にした。

 

腰まで伸びるしなやかな金髪に整った小顔。

歳の割に前に張った胸とくびれのある腰つき。

どこか幼げであどけない童顔が魔王のストライクゾーンのド真ん中を見事に射る。

 

「惜しい、始末してしまうにはあまりに惜しい女ぞ」

 

胸は適度に大きく顔も悪くない。

それでいて可能性を秘めた格別な美しさを持っている。

こんな女をただちに始末してしまうのはやはり男として気が引けるというもの。

 

「よかろう、うぬを我が闇の宮殿に迎え入れようぞ」

「わ、わたくしをですか?」

 

嫌がるというより驚いた表情を見せる王女の前に立ち、その美貌をのぞきこむ。

 

やはり美しい。これほど近く見れば、鼻が大きいだの目が小さいだのといった難点が見つかるものだが、この王女には完璧と言わざるを得ない。

 

魔王は彼女の端正な顎に手を添え、凍てついた笑みを見せた。

 

「うぬの他に誰がおる。 あんなブタ顔の家政婦に用はない」

「家政婦はブタじゃなくてゴリr――あっ、きゃっ!!」

 

グイッと王女の腕を引き寄せ、抵抗する間さえ与えず力強くその華奢な肢体を抱く。

その前に彼女の口から別の動物名称が出た気がするが、気にするほどでもない。

 

「魔王さま、どうか姫さまをお放しください!」

「静まれ豚カツ。 余はこの女を我が物とすると決めたのだ」

「ぶ、ブタとは失礼な――って、そうじゃなく! 姫さまを連れて行かない方が御身のためですから――」

 

家政婦の必死の叫びは届かなかった。

魔王はバサッとマントをひるがえすと、姫を抱いたまま、階段ではなくエレベーターを使って帰ってしまった。

 

 

――☆――☆――

 

 

 戦を終え闇の宮殿に帰還した魔王は、王国から略奪した王女をさっそく城の自室に迎え入れた。

異国から誘拐して間もない彼女を前にし、フカフカの椅子に腰を据え、アームチェアに頬杖をつく。

 

「そういえば、うぬの名を聞いておらんだな」

「……り、リ…ン」

 

王女は体を縮めながら、つぶやくような声を床の紅いカーペットに落とした。

やはりまだ慣れぬ環境からか上手くしゃべれないらしい。

 

魔王は城に帰還するや否や、彼女のことを気遣い、重苦しい雰囲気を無くそうと見張りの城兵や召使い達には人払いを命じた。

だからいつものようにパンパンと手を叩いても城兵がやってくることはないし、その方がメンタル的にも楽だろう。

 

「うぬはリンと申すか」

「…………。」

「案ずるな、余はうぬを気に入っておるのだ。 これからは余の女となるがよい」

「い、いいんですの!?」

 

暗く沈んでいた顔が急にパッと持ちあがり、真一文字に結ばれていた口の端があからさまに吊り上る。

 

「ほ、ほほ、本当に魔王さまのお嫁さんになっていいんですのね!?」

「あ、え、うむ……」

 

気が付けばリンの顔が自分の鼻の先に触れそうなほどの距離にあり、魔王はあわてて上半身を後退させた。

 

「ああ、あの有名な魔王さまのお嫁になれるなんて……夢のようだわ」

「よ、余のことがそれほどまでに好きか?」

「ええ、ずっとお慕いしておりましたの!」

「ほう」

 

自分は世界にその名を知らしめる闇の帝王。

別に他国の王女がその名を知っていても不思議ではない。

こないだも新聞社から異国侵攻のテクニックについてのインタビューを受け、魔王タイムズにもその記事が掲載されたばかりだ。

リンもきっと新聞や他の雑誌の写真を見て惚れたのだろう。

 

魔王の心の中でリンに対する評価が5点追加される。

 

「リンね、魔王さまがサッカー部時代にお召しになられていた、背番号8番のユニフォームを持っておりましたの!」

「ふむ、余が高校生の時に纏っておった着衣か。 ネトオクで誰が1兆ルピスで落札したのかと思っておれば、うぬであったか」

「はい! あの服を魔王さまが御身に纏っておられたんだと思うと、いつも興奮して股下が濡れて来て――ペロペロしてスーホーするだけでアソコがグチョグチョになって疼いてああもうイク、イっちゃう……ゴホゴホン、……なんでもないですわ」

 

再度ゴホン、とわざとらしく咳払いしてみせる。

 

だが時すでに遅し。

魔王はリンから少なくとも3メートルほど遠ざかっていた。

彼女を健全な美女と思い込んでいただけにドン引きである。

そのうち自分の下着まで盗まれてしまうのではないだろうかと思えてならない。

 

しかし、そこまでして自分を愛してくれていた女は初めてである。

多少マイナスの面が大きいが、彼女の愛を加味して3点マイナスにとどめる。

 

「して、うぬは特技など持ち合わせておるか」

「特技……」

「別になければ正直に無いと申せ」

「ええっと、ぴ、ピアノを少々……」

「ピアノか!」

「5歳の時からメイドや家政婦の前でよくひいてましたの」

「ほう!」

 

再び魔王の中でリンの点数が5点UPする。

ここで「肉じゃがを作れます」などと、具体的な品目を挙げて料理面をアピールできればコラボ技で30点UPだ。

 

「うぬは料理の方も心得ておるか」

「リンね、お料理は大して作れないんですけど、クッキーくらいなら……」

「ほほう!!」

 

これは意外な角度からのサプライジング・アピール。

求めていたのは肉じゃがorカレーだったものの、不意にスイーツ系を攻められ思わず40点UP。

 

「ならばうぬのその腕を見て見たい」

「はい、どうぞ」

 

サッと白いロング手袋をめくって見せる。

 

「いや、ピアノとクッキー作りの腕であって、肉体的な腕は求めておらぬ」

「あっ、」

 

てへぺろっ、と愛らしい笑顔を+3点。

さらに可愛い天然ボケを加味して2点UP。

 

「ちょうどそこに余のピアノがある。 一つひいてみるがよい」

「ピアノをひけばよろしくて?」

「うむ」

 

リンは腕まくりをして、張り切った様子でピアノに向かう。

よほど自信があると見える。

大好きな相手の前で頑張ろうとするその熱意を評価して1点UP。

 

「じゃあ、イきますわね」

「待て、椅子には座らぬのか?」

「座る必要なんてありませんわよ?」

「?」

 

リンはピアノに向かったまではよかったが、なぜか鍵盤に手を添えず、ピアノ台の脚に手を添えるのだ。

だが本人がそれでひくと言うのならその意志を尊重するのがよいと考え、魔王はあえて何も言い返さなかった。

 

「せーのっ!」

 

ギギギギーッ

 

ピアノがギシギシと音を立ててリンに引っ張られていく。

そうだ、確かにピアノはリンによってひかれている。

10トンの大岩を片手で持ち上げる魔王でさえ動かせないピアノを、こうも易々と“ひく”とは大した怪力女である。

 

――ただし魔王の想像していた「ひく」とリンの想像していた「ひく」の漢字が大きく異なっているという現実を指摘しておきたい。

 

「あの、ちょっ、リンよ……そろそろ止め――」

 

バキッ、ガッシャーンッ!!

 

強く引きずり過ぎるあまり、脚がバキバキに砕けてピアノは落下――粉砕。

 

「ぬあああああああッ!!!」

 

沈没寸前のタイタ○ック号の如く、真っ二つに割れた超高級ピアノを見て魔王は四つん這いになって沈んだ。

その手前でピアノを“弾く”のではなく、“引いて”いたリンは脂っこい汗を顔に滲ませる。

 

「てへっ」

「『てへっ』ではない!!! 清水の舞台から飛び降りる気で買った超高級ピアノをよくもー!!!」

 

思わず涙目になって訴える魔王の気迫に圧倒され、リンはここで初めて自分がマズイことをしたと気づき狼狽した。

 

ピアノ台が落ちた衝撃で鍵盤や中の機器が部屋中に広がり、大小の破片が散乱。

ちょっとやそっとの修理でどうにかなるレベルではない。

 

魔王の中でリンの評価が50点マイナスされる。

 

「キサマ!! 余のピアノをどうしてくれる!!」

 

さらに語気を強めた怒声を放つ。

 

とはいっても、あたふたと右往左往するリンにこれ以上どうこう迫るつもりはなかった。

故意ではなくうっかり(――にしておこう)の範囲で壊されたのだ。

妻にした女から修繕費を出させるほど自分も鬼ではない。

 

リンに向かって「今後は気をつけよ」と言おうとして、「こ」を口にした瞬間だった。

魔王の前でリンの腰からドレスの革製ベルトが落ちたのだ。

 

「しゅ、修理費はリンのカラダでお支払しますわ……」

 

バサッと落ちるドレス。

白いシャツの下に花柄のブラ、その下にはお揃い柄のパンツが露わとなる。

これは流石にマズイ、とあたふたしている間にブラが胸から離れ落ちた。

 

「魔王さま、どうです? 温かいですか?」

 

ふくよかな乳房を魔王の大きな手に押し当て、上目遣いに優しく問いかける。

流れるような金髪から漂う花の香りが鼻孔を刺激し、どこか恥ずかしそうに赤面するその表情があまりに愛おしい。

ああ、このまま彼女を抱きしめたい。

滑らかな肌をする乳房に手を添え、ほんのりとした熱が伝わってくると魔王は激しい欲情に駆り立てられた。

 

リンをムリヤリ押し倒して――ということももちろん可能だ。

相手がこんな痴女なら多少乱暴に扱ったとしても不平は言われまい。

 

ところが、ふと足元の飛び散ったピアノの破片を見てしまい、“衝動”は90パーセントほど消え失せた。

 

「……リンよ」

「え?」

「早く服を着るがよい」

「で、でもピアノのお金……」

 

ぐすっ、と湿った声でそう言われ、女に経験の無い魔王はリンの涙を見て唇を歪めた。

たとえ大切なものを壊されたからとて、やはり女の涙には耐えられない。

 

「も、もうピアノの件は不問ぞ。 だから泣くでない」

「ぼんどにいいんでずか?」

「余に二言は無い」

 

超高級ピアノを壊されたのはかなりツラいが、リンの涙を見るのはさらにツラい。

まさかこれが女のウソ泣きだとも知らず、魔王は特別に40点を付与したのである。

 

「まあ、せめてもの詫びといってはなんだが、余のためにクッキーを焼いてはくれぬか」

「え、ええ……」

「どうした? 元気がないが」

「いえ、なんでもありませんわ! あはははっ……はあ」

 

語尾にため息のようなものが出た気もするが、リンの焼くクッキーが楽しみでそんな声など耳に入りはしなかった。

 

 

 一階の調理場にリンを案内すると、彼女から「恥ずかしいのでみないでくださいね」といわれ、魔王は一階から離れた。

 

自室に続く階段を上がっていると、脳裏によぎるリンの姿に思わず笑みが溢れる。

新妻となったリンが自分のためにクッキーを焼いてくれると聞いた時は戦争で勝利した時より舞い上がったものだ。

街で適当に拾ったメイドなんぞが作るより、よほど情が籠っていて美味であるに違いない。

 

まあピアノギャグでは心底落胆したが、もし家庭的な腕が確かならば現在幽閉しているリンの父親、つまりは国王をも釈放してやってもよいと考えていた。

 

「まったく、世話の焼ける女ぞ」

 

軽いため息をついて自室を見遣る。

床に散乱したピアノの破片を一つ一つ拾いながら、今頃調理場で一生懸命になっているであろうリンの横顔を想像する。

 

当初、魔王には偏見に似たリンのイメージがあった。

クッキー作りに挑戦するものの、なかなか上手く焼けず、何度も黒コゲにして最後に上出来のクッキーを持ってきてくれる可愛い姿。

そんな彼女に「うぬはドジな奴よのう」と言い笑い合う、ほんわかした仲睦まじい夫婦のイメージ。

 

そう思えたからだろうか。

たとえ一階でチュバドーンッと火柱があがっても、二階の窓まで不気味な黒煙が上がってきても気にはならなかった。

 

――だが、突如一階が爆発して二階が大きく揺れると鈍感な魔王にも衝撃が走った。

 

「なっ……」

 

ふとテーブルの上に目をやれば、コップに入った水がおかしな角度に偏り始めているではないか。

しかも占い師から購入した水晶玉は台から転げ落ちて壁の方へコロコロ。

それだけではない。

拾おうと手を伸ばしていた鍵盤の破片でさえ水晶玉と同じ方向に遠ざかって行くのだ。

 

「へ、部屋が傾いているだとッ!?」

 

あわてて外に出ようとすると、勢いよく自室のドアが開き、一階で見張りをしていた城兵が駆け込んできた。

 

「魔王さま、一階が爆発しました!」

「爆発とな!?」

「はっ! 出火元は調理場と見られ、調理場付近の壁半分が吹き飛びました!!」

 

敵軍の奇襲にも増援にも臆さない魔王であったが、さすがにこればかりはアゴを落とし、リンに言いつけられたことを無視して一階へ駆ける。

 

「リン!!!」

 

水浸しになった床と立ち込める硝煙の中、魔王は口と鼻をマントで覆いながら必死にその名を呼び続ける。

すると数秒後に「……はい」と弱々しい返事が返ってきた。

 

すぐさま声のした方に向かうと、爆発したオーブンの前で黒コゲになって立ち尽くしているリンがいた。

手元にはおかしな方向にひん曲がった蛇口があり、蛇口の外れた水栓から水が勢いよく床に噴きだしている。

 

100歩譲ったとしても女が金属製の蛇口を破壊したのは信じられないが、リンがピアノを引くほどの怪力だというのを思い出せば妙に納得であった。

 

「そ、その蛇口は――」

「ち、違いますの! 単に『えいっ!』って捻ったらバキッて……」

「なぜそこで掛け声をかけた!?」

 

相手は超が付くほど常軌を逸した怪力の持ち主である。

蛇口を小指で触るだけで水がドバドバ出そうだというのに、わざわざ気合を入れて捻ってくれたらしい。

 

「ま、まあ1万歩譲って水道は見逃そうぞ。 しかしどうやったら城の壁半分が吹き飛ぶのだ」

「ええっと、生地を作って型に流し込んで、」

「ほう」

「オーブンに入れて焼こうと」

 

あまりに普通のことを言われ、魔王は首を傾げた。

自分に誘拐されたことに腹を立てて壁を殴ったわけでもなければ、青函トンネル貫通工事の要領でダイナマイトを使用された風でも無い。

壊れる要素なんか一つも無いように思われた。

 

――のに、

 

「オーブンに入れて、勢い余って蓋をドンって」

「ドン!?」

 

その後の稚拙な言い訳を解するに、どうやらオーブンの蓋を閉める際に勢いをつけすぎたらしい。

おかげでオーブンは大破。

一発目のチュバドーンはこれが原因とみて間違いない。

 

しかもその後ガスコンロを蛇口と同じ要領で破壊し、管から漏れたガスがオーブン破壊時に発生した火に接触して大爆発を起こしたそうだ。

 

魔王の中でリンの評価が80点下がる。

だがそれだけならまだ可愛らしかった。

 

なんにせよ早くこの状況を呑み込もうと必死に頭を働かせていると、先ほどの城兵がトンデモナイことを告げに転がり込んできたのだ。

 

「大変です魔王さま、城が崩れます!!」

「なぬ!?」

「もう持ちません!! 早くお逃げください!!!」

 

リンの起こした爆発により折れてはならぬ柱が吹っ飛んだらしく、二人が外に出たと同時に城がドミノ倒しの如く端から崩壊していく。

 

長年使い続けた思い出深い城。

壁に落書きしたり押し入れに秘密基地と称して自分だけの空間を作り出したあの日の記憶。

大人になった今でも忘れた日は無い。

 

「よ、余の城が……」

 

想いの詰まった城が意図もたやすく崩れ去る様子を見て、魔王の中で何かが音を立てて崩れていったのだった。

 

 

――☆――☆――

 

 

 翌日。

 

魔王は『闇の宮殿』と称した仮設のプレハブ小屋に閉じこもったきり、1日中外に出ることはなかった。

メイドや城兵が声をかけ、さらにはリンがひたすら謝っても出てくる気配はみせない。

 

それからというもの、まともに妻リンと口を利けたのは、城が再建された数年後のことであった。

 

 

これは王女リンによって闇の帝国がいつの間にか乗っ取られる3年前のお話。

 

 





リンちゃんの点数は結局何点だったでしょうか。

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