【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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書き忘れた話を忘れない内に入れておく。
装輪装甲車を使いたかっただけの話である。


閑話 小ネタ劇場 その5

 警察が自衛隊のクーデターを恐れて警察軍の創設に動いた時、問題になったのは装備だった。

 そもそも、暴徒鎮圧の目的としては、優れた経験と実戦経験を持つ機動隊が存在しており、日本人のしかも自衛隊員を対象にするこの警察軍は実際に非常時だからという事で承認されたといういわくつきの鬼子である。

 という訳で、人員から装備に至るまで自衛隊の手は借りられない。

 そんな状況で、政治的寝技を駆使して帝都警としてその創設にこぎつけた室戸文明は間違いなく悪党であると言わざるを得ない。

 そこに、外様であり鬼札である入即出やる夫が絡んだ結果、実にろくでもない化学反応を発生させたのである。

 

 新潟港。

 絶賛混乱中のロシアからの貨物船から大量に降ろされるBTR-80。

 それを眺めながら室戸文明が呟く。

 

「たしかに、早急な対自衛隊用武装組織は必要だと言ったが、東側から格安で持ってくるという発想はなかったな……」

 

 人間については、ハイデッカーとオイランロイドと対魔忍でなんとかしたが、武装と上級士官連中の確保が問題だった。

 対テロ組織用の部隊が秘密裏に作られてはいたが、クーデター規模の自衛隊部隊に対処するには武装と装備が足りず、クーデター鎮圧後の処遇を考えたらキャリアをそっちに送るのも躊躇われたからだ。

 その点、経済が崩壊して絶賛混乱中の東側からは、武器から人員に至るまで格安で入手できるのだった。

 使い捨てるには実に都合が良い。

 

「あんたが雇い主か?」

「ああ。

 契約は既に交わした通りだ。

 期間は五年、もしくは我が国で起きるクーデターを鎮圧できるまで。

 支払いはドルの現金で、新しく身分も用意する」

「金さえ払われるなら、こっちは問題がない。

 私だけでなく、遊撃隊全てを雇ってもらえて、仮想敵の一つだったヤポンスキを殺せるというのだから乗らないわけがない」

 

 そこで彼女は咥えていた葉巻を海に捨てる。

 壮絶な火傷の痕が彼女の凄みを際立たせる。

 

「ただ、KGBと同じ匂いがするあんたがボスなのは気に入らないが」

「それは失礼。

 とはいえ、我慢してくれたまえ。

 それができるだけのドルは渡していると思うが?」

「たしかに。

 ビジネスに私情を挟むつもりはないさ」

 

 貨物船から降ろされてゆく自動車化狙撃大隊規模の装備を眺めながら、彼女は感慨深い声を漏らす。

 

「ピカピカの新品じゃないか。

 ある所にはあったんだろうねぇ。

 アフガンじゃ、まったく見当たらなかったけど」

 

「ジャパンマネーでロシア極東軍のお偉方をぶん殴っただけさ。

 君たちは汚れ仕事をやってもらう。

 あれを使うのはまた別の連中さ」

 

 入即出やる夫はロシア側の情報にも精通していた。

 彼女みたいな能力があったのに政治的に追われた失脚者や金と友誼でこの国に転んだ連中とかに精通していたのだ。

 

「じゃあ、あのピカピカを使うのはどなた?」

 

「アンドレイ・バラノヴィッチ・コンドラチェンコ元大将さ」

 

 地獄の釜が開いた湾岸戦争のイラク側顧問としてイラク軍の指揮に絡み、あのターニャ・デグレチャフ少将をして『あれが率いる部隊とは戦いたくない』と言わしめる損害を多国籍軍に与えた旧ソ連の英雄も、祖国の崩壊に巻き込まれて妹夫婦の勧めで日本に移住していた。

 その絡みで、彼はこの国で彼の率いていたスペツナズを用いたPMCを運営していた。

 BTR-80は民生品として武装を外されて輸出と書類には書かれているが、目の前のBTR-80には機関銃の長い銃身がしっかりと月明かりに照らし出されていた。

 

「汚れ仕事は慣れている。

 で、誰を殺れと?」

 

 彼女の質問に室戸文明は一言。

 社会主義的世界に長く居た彼女はそれをジョークとして捉えた。

 

「悪魔さ」

 

 

 

 

『日本におけるロボット兵器の開発は豪和インダストリーのタクティカルアーマー(以下TA)がスタートとなるが、商品としてヒットしたのは篠原重工が開発したぴっける君である。

 山岳作業用レイバーとして、バブル華やかなるリゾート開発やダム建設に活躍したこのレイバーと、軍事開発されたTAの完成度に技術的跳躍があると関係者が噂したのは記憶に新しい。

 豪和インダストリーはこのTA開発について秘密主義を貫いており、三流オカルト雑誌では超古代文明の技術を使用しているとまで噂されたがその真偽はついに闇の中……』

 

 

 そんなスポーツ新聞を読み終えた宮内庁神霊班班長の那田蒼一郎は新聞を机の上に置く。

 仕事はここ最近の悪魔絡みの事件の急増に溜まりに溜まっている。

 来年、組織再編に伴って宮内庁は宮内省となるのだが、そんな中でこの神霊班は再編の動きから取り残されたというより乗らなかったというべきだろうか。

 

「主任。

 お客様ですよ。

 いつもの方」

 

「わかった。

 来客室の方に通してくれ」

 

 那田主任は頭をかきながら応接室の方に出向く。

 ここ最近やってきている来客は、いつものように立って那田主任を待っていた。

 

「あなたもしつこいですな。

 荒巻課長」

 

「何度でも来ますとも。

 今、悪魔が跋扈しつつある中、国内の組織の協力は絶対に必要なのです。

 特に、あの御方が降臨してしまった今は」

 

 宮内庁神霊班。

 その実態は、皇室の御下命で動く神殺し四家を中心にした退魔組織。

 この国を守護する神官でもある皇室の数少ない直接退魔組織である。

 天津神アマテラス様を殺せるとしたら唯一ここだけだろうと言われるこの組織を、宮内省は組織再編の中に入れることができていなかった。

 

「我々は御下命のみによって動く。

 これまでも、これからもだ」

 

「だが、昨今の状況はその建前すら吹き飛ばす状況になっているのは、貴方もご存知のはずだ」

 

「ええ。

 古い組織ですから、戦前にこの国がどう狂ったかなどは貴方よりもはるかに知っていますとも」

 

 退魔組織といえども、太平洋戦争時に戦力として人と戦い、そして負けた。

 その過程で日本の霊的守護は決定的に弱体化させられたが、その悲惨な状況を宮内庁心霊班は生き残った。

 その反省は未だ守られている。

 それが、荒巻課長と平行線をたどる理由でもあった。

 

「また来ます」

「ええ。

 答えは変わりませんが」

 

 それでも荒巻課長も退けなかった。

 ここ数年がこの国どころか、この世界において重大な選択が迫られるだろうと確信しているがために。

 それを教えてくれた入即出やる夫を掣肘できる組織であるが為に。




バラライカ大尉
 『ブラックラグーン』
 悪魔退治の他、悪魔を使う連中に対する汚れ仕事をさせようとスカウト。
 やる夫自身の抹殺まで視野に入れた上で、やる夫が進言した。


アンドレイ・バラノヴィッチ・コンドラチェンコ大将
 『征途』
 ベトナムの英雄が湾岸の英雄となって、ソ連崩壊と共に国を追われることに。
 藤堂守は終戦後ソ連に亡命という形でソ連空軍で活躍するが、ソ連崩壊と共に日本にコンドラチェンコと共に亡命。
 その身元引受人が藤堂進海将補だったりするというこの物語限定の設定。


那田蒼一郎
 『レイセン』
 林トモアキ作品シリーズだとこの時代は多分『お・り・が・み』世代の前だったりする。
 けど、この作品を出すとアウター連中がヒャッハーしだすしなぁ。
 まぁ、今更か。

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