【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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更に続く猫の手の確保 その6

「わざわざ別の時間の日本にまで出向く必要はあるのかね?」

 

「未来に発明されたものを過去に持ってくる。

 その技術がそうやってこっちに来ているならば、必要ではあると私は考えますがね」

 

 未来渡航について室戸次官と話す。

 この人は敵に回してはいけないので、基本全部バラしてしまう。

 だからこその冒頭の会話だ。

 

「対悪魔用の戦力の整備は進んでいますが、この技術、デバイスシステムを用いれるならば一般人すら対悪魔戦力に組み込むことができます」

 

 簡単な防御魔法、簡単な回復魔法、『エネミー・ソナー』等のCOMPソフト使用ができるのがこのデバイスシステムの肝である。

 もともとこれらは、魔力やマナが無いと使えず、『リリカルなのは』世界だとリンカーコアという体内魔力形成機関が必要なぐらいである。

 これを、ロリンチちゃんと超鈴音という二人の超天才が解決の手段を見つけてしまう。

 

「うちの所、電力から魔力変換できるけど」

 

とロリンチちゃんが言えば、

 

「じゃあ、このデバイスに無詠唱魔法を全部覚えさせてしまえばいいネ」

 

超鈴音が言い出した訳で、そのためのCADなのだ。

 最終的にはCOMPとデバイスを融合させてCADの中に組み込めたらというかなり野心的な企画である。

 もちろん、この企画にトライデントは食いついた。

 ゲート技術に次いで次世代の戦争のデファクトスタンダードを握れるかも知れないからだ。

 今回の時間跳躍による技術確保実験は、トライデントが握っている政財界のコネを持って根回しが進められているので、室戸次官とて首を横に振れない構図になっている。

 

「気になるのだが、タイムパラドックスについてはどうなるのだ?」

 

 室戸次官の懐刀である荒巻課長が一番の問題点を指摘する。

 時間の移動による事象の改変は何が起こるか分からない怖さが有るからだ。

 それも既に俺以外の人間が理論を構築していた。

 

「放置していて問題ないでしょう。

 この漫画にもある通り、時間という大河の流れは雄大で流れを変えきれるとは思えない。

 まぁ、パラドックスによって国の興亡ぐらいは発生するでしょうが、それですら些事です」

 

 こう前置きして、核心部を告げる。

 俺たちの間で議論して、ここだけはどうにもならないと投げ捨てた場所を。

 

「何よりも、時間改変が起こったことを観測者以外は認識できません」

 

 超鈴音の計画はこの時点で破綻していた。

 彼女は自分の世界に絶望して世界の改変を望んだが、その改変を認識できるのは彼女一人だけ。

 その事実を超鈴音は認識した上で、魔法をバラすという賭けに出た。

 その是非についてはここではおいておこう。

 

「トライデントが推進している計画だ。

 こちらも反対するつもりはないが、メリット・デメリットをきちんと私に話してくれる理由は?」

 

「そりゃ、来年にはそこそこ座り心地の良い椅子を頂けるのですから、それぐらいの礼儀は必要でしょう?

 同じ対応している市ヶ谷はそれすら用意せずに疑心暗鬼に陥っているみたいですが」

 

 俺の苦笑に、室戸次官は笑みを浮かべてこの計画にゴーサインを出す。

 

「君を掻っ攫って本当に良かったと思っているよ」

 

 

 

 今回の時間移動については、マシュがベースとなっているマシュ風を実験艦として使う。

 その中に入れ子構造として、叢雲改二、ジャンヌ・ダルク、大和、叢雲の五隻が艦娘姿で乗り込んで、向こうについたら現界するという形にしている。

 トライデントのおかげで、これら大和とジャンヌ・ダルク以外の三隻の近代化改修はすごい勢いで進んでいた。

 ジャンヌ・ダルクにヘリ運用を任せることにしたので、マシュ風と叢雲は、あぶくま型護衛艦と同装備を搭載する事に。

 大和がイージス艦なので、データリンクを大和中心に行うようにしている。

 もちろん、今回の計画にはそれぞれの艦長である草加二佐と藤堂海将(めでたく昇進した)も巻き込んでいる。

 責任者は俺だが、この艦隊の指揮官は藤堂海将が執ることになっている。

 

「しかし、乗ってくるとは思いませんでしたよ」

 

「市ヶ谷は猛反対していたのだがね。

 貴重な艦娘をまとめて失うのを恐れたのかもしれんが」

 

 マシュ風の艦内で俺と藤堂海将が話す。

 退役が遅れるとぼやいた後での会話である。

 

「彼女の希望なんだよ。

 たとえ別の時間であれ、沖縄が攻められているから救援に行くと言えば彼女が乗ってこない訳無いだろうが」

 

 それは半世紀ほど昔の思い出。

 沖縄に向けて救援のために出撃した大和と浜風はついに沖縄には届かなかった。

 その思いは艦娘としての彼女たちの中にしっかりと残っている。

 そのためだろうか。

 今回の航海、マシュもかなりやる気である。

 

「段取りとしては、沖ノ鳥島の西方200海里水域から離れた所で時間移動します。

 その後、艦隊を展開して沖縄に接近。

 そこからはまぁ流れですね」

 

「まったくいい加減な計画だが、君の所のジャンヌ・ダルクに大量の医療品を積んだ時点でなんとなく察しはついているよ。

 こういう形で経験を積むというのはこの国にとって良いことか悪いことかは私には分からん。

 だが、艦隊の指揮については一任してくれるのだな?」

 

「ええ。お好きにどうぞ。

 こちらも、それが起こるのは望んでいませんから」

 

 そんな事を言いながら、沖縄でそれが起こるのを確信している俺が居た。

 乗り込んでもらった超鈴音によってチューリップクリスタルが花開き、マシュ風の船体を包む。

 そこから始まった時間跳躍についてはどういえばいいのか俺にも言葉が浮かばない。

 けど、時間は次の日付を指していた。

 

 2092年8月11日 AM1:00

 

 大亜細亜連合の攻撃はこの日の早朝に行われる。




この漫画
 『ドラえもん』のセワシくんのパラドックス。
 のび太がジャイ子としずかちゃんのどちらを嫁にしても、セワシくんが登場するという一巻最初の話。
 今、読み直して思うがすげぇ。

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