【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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掛け金を釣り上げすぎて降りることができなくなったギャンブラーとそれを見てにやつくディーラー

「マスター。

 ちょっといいか?」

 

 召喚後、クー・フーリンが叢雲を見て、俺に声をかける。

 叢雲は、彼の視線を見て首をかしげる。

 

「何よ?」

「いや、この女、獲物使えるだろ?

 なんで何も持たせてねえんだ?」

 

 あ。

「あっ……」

 

 すっかり忘れていた。

 彼女の初期絵はアンテナを武器代わりにしていた絵だったのだ。

 

「とはいえ、私、重火器の方が得意だし」

「もったいねぇなぁ。

 せっかく使えるのならば、その手数は多いほうがいいだろうに」

 

「マスター。

 思ったんだけど……」

「言うなよ。

 俺も同じ事を思ってるんだ」

 

 クー・フーリンが横須賀基地の叢雲を見てやっと納得したのは言うまでもない。

 とはいえ、一理ある意見だったので、叢雲にタクヒのつえという槍を買ってやることにする。

 そのまま銃器も購入する。

 弾の制限があるが、銃器の強さは魅力的だからだ。

 とはいえ携帯は当然違法である。

 銃についてはひとまずおいといて付随効果のある特殊弾頭を購入する。

 小細工に近い形だが、手詰まり感がうっすらと漂ったまま俺達は一旦横須賀に帰ることになった。 

 

 

 

「ここ、いいかな?」

 

 横須賀に帰る途中、転換クロスシートに座っている俺達の前に、堂々と尋ねてくる声が一つ。

 むっとする叢雲がそれを拒否する。

 

「見てわからないの?

 座っているじゃない」

 

「うん。

 知っているよ。

 入即出やる夫くん」

 

 俺はじっと相手の顔を見る。

 帽子をかぶった彼女は女子大生か、それよりちょっと上か下か、まぁそのあたりの年頃の女性のように見えた。

 

「あんた何者だ?」

「臥煙伊豆湖。

 何でも知っているおねーさんだよ」

 

 こういうのまで出てくるのか。

 駄女神よ。

 あんた一体何をどれだけぶちこんだんだよ?

 

「君の状況についてはおおよそ知っている。

 そして、そのためにこれから天海市に行こうとしている事もね」

 

 満員電車の車内で堂々と話す話ではないのだが、彼女はそのあたりをまったく気にしない。

 まるで仕事の愚痴を言うかのごとく、臥煙伊豆湖は滔々と話す。

 

「で、おねーさんとしては、天海市に今行くのはおすすめしない。

 それを言いたくて、この満員電車に乗ってきたという訳だ」

 

「それはご苦労なことで。

 理由をお聞きしても?」

 

「君が学園都市を避けた理由と同じさ。

 全てがコンピュータで管理され、ネットワークで接続された情報環境モデル都市である天海市。

 その街に学園都市の技術が入っていないと何で言いきれるんだい?」

 

「っ!?」

 

 完全に失念していた。

 そりゃ、学園都市なんて科学の都があるのだから、そこからの技術移転という形で話が振れる訳で、ファントムソサエティーがそういう理由を作り上げて天海市でマニトゥ計画を進めたのは筋が通る。

 

「それ、おかしゅうあらしまへんか?

 科学が妖怪変化に力を貸すっちゅうんは、敵味方に分かれたもんが手を組むんと一緒でっしゃろ?」

 

 横から天ヶ崎千草が口を挟むが、臥煙伊豆湖はそれも見透かした目であっさりと反論する。

 

「簡単なことだよ。

 学園都市の統括理事長は、学園都市外の事に関知するつもりは無いのさ。

 いや、いずれ来る主人公の為に、ある程度の混乱状況は歓迎すると言った方がいいのかな?

 どっちにしろ、解決が約束されている物語だ。

 下手に手を出して、かえって状況が悪化する方がまずいと思うよ」

 

 さすが何でも知っている女。

 この分だと、俺の素性もこの物語も全部理解して接触してきたのだろう。

 

「なるほど。

 さりとて、このまま冬木に向かうのは少々怖い。

 あそこの争いはまだ圧倒できる戦力ではないからな」

 

「知っているよ。

 ついでに言うと、今、天海市に行くのは止めておけと言っているのであって、時が来れば君は天海市に行くべきだとも考えている」

 

 車窓を眺めながら、臥煙伊豆湖は笑顔を見せる。

 正直に言おう。

 この笑顔が今までで一番怖いと思った。

 

「そうだね。

 おねーさんからのアドバイスだ。

 あれと戦う組織があったはすだ。

 まずはそれを動かしなさい。

 次に学園都市に行きなさい。

 天海市で捕捉されるより、本拠の玄関を堂々と叩いた方がまだ救いがあるよ。

 最後は、君が平崎市を救った手法を天海市でも使うべきだ」

 

「なるほど。

 その天海市を牛耳っているのは平崎市より大物なんだが、それはどうするんだ?」

 

「それは君が考え給え。

 君の選択肢はデメリットを考えなかったらほぼ無限だ。

 毒が厄介ならば、もっと厄介な毒を用意するべきだな」

 

 駅に着き、臥煙伊豆湖はそこで降りる。

 彼女はその笑顔で手を振ってドアが閉まる前にこんな事を言った。

 

「じゃあ、頑張りたまえ。

 世界が滅ばないようにね」




タクヒのつえ
 女性専用槍でSLEEPの効果がつく

臥煙伊豆湖
 『物語シリーズ』の何でも知っている女。
 このあたりのキャラが回りだしてくると、話が楽で楽で。

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