【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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【短期集中リハビリネタ企画】やる夫は叢雲とステンノとマシュを連れて一年戦争を乗り切るようです その2 一般将兵side

 英雄は負け戦の時にこそ作られる。

 その言葉の通りならば、最後まで残って敗残兵を救助し続けたニューソクデ准将はたしかに英雄だった。

 

「あの人が帰ってきた時、司令部では壊滅した艦隊の再編に頭を抱えていました。

 宇宙空間の戦闘は、艦の撃沈=乗員の死亡みたいなもので、この一週間戦争でどれだけの将兵の命が失われたか考えるだけで吐きそうになりましたよ。

 それを中大破とはいえ、マゼラン3隻とサラミス15隻を、もっと言えばそこに乗っていた乗員を連れ帰ってくれた事がどれだけの功績なのかは司令部の誰もが嫌でも理解してしましたよ。

 とはいえ、准将が帰還して船を司令部に返した時、艦内のイカ臭さだけは文句を言いたくなりましたがね」

 

 

「ルウムにジオン軍が襲ってくるというのは分かっていたので、艦隊の再編は無事な艦を中心にまとめなおし、そこから修理が終わった船に人員を再配置してという流れです。

 ニューソクデ提督の優れていた所は、連邦艦艇のブロック工法を理解してニコイチ修理でとにかくマゼラン2隻とサラミス2隻を前線に投入する事に成功した所でしょうね。

 何しろ、彼の手元にはブリティッシュ作戦撤退時に救助した将兵たちがいまだ残っていたのも大きい。

 負傷者や転属を含めても臨時編成扱いだったニューソクデ戦隊ですが、司令部は取り上げるのをためらった。

 当人は乗艦を返上して戦力も提供して、コネ人事の義理は果たしたつもりなのでしょうが、助けられた将兵からすれば助けてくれた准将から戦力を取り上げるように見えるので、相当突き上げがあったらしいですよ。

 おまけに英雄に祭り上げたものだから、彼の留守番は許されない空気になっていた。

 レビル将軍の本隊に配備したのは、そういう背景があったのですが……」

 

 

「ニューソクデ提督は一週間戦争とブリティッシュ作戦から、MSの優位とルウムでの敗北を予期していた節があります。

 彼の旗艦であるムラクモは対MS用に大量に機銃が増備され、損傷が残ったサラミス一隻は無人艦として運用するという徹底ぶりでした。

 何しろ彼の手元にはそのサラミスに乗せてくれとブリティッシュ作戦時に助けられた将兵が大挙して押し寄せたのに、ついにそれを断ったのですから。

 後に形式的に開かれた査問会で、あの無人艦は『敗走時に爆破させて追ってくるMSの邪魔をする』と答えており、査問委員たちを絶句させています。

 後に大将になったレビル将軍との確執は仕方ないとはいえ、その見識をもっと司令部に伝えてくれていたら……多分鼻で笑われたのでしょうね」

 

 

 ニューソクデ提督の功績における唯一の傷であり、英雄ニューソクデ提督誕生の切欠であるルウム会戦。

 その行動においては過去になった今でも賛否が分かれるものとなっている。

 彼が味方を見捨てて逃亡したのは事実であるが、その過程で正面から奇襲をしようとしたジオン艦隊に痛撃を与え、敵将ドズル・ザビ中将を討ち取ったのも事実である。

 そして、レビル艦隊が壊滅した中でただ一戦隊だけ無傷で生還したのも事実なのだ。

 

 

「あの時、私はムラクモの砲術スタッフとしてムラクモに乗っていましたが、射撃等は自動化されて艦長の直接照準だったんです。

 なんでそんな事をと思ったのですが、あのルウムを体験した身としてオカルトな話になりますが、多分知っていたんじゃないかなと思ってしまいますよ。

 あの船、ムラクモはニコイチ整備で復旧したマゼラン級戦艦なんですが、艦橋の指揮コンソールに全システムが集中するように改造が施されていたんです。

 とにかく、ムラクモ艦長とマシュ副長の艦運営能力がとびぬけていましたね。

 あの二人、肉眼で見て敵艦やMSに当てたんですよ。

 試しに聞いたのですが『10000メートルぐらいなら見える』とか。

 戦後のある時期、あの二人にニュータイプ疑惑が出たらしいですが、どうなんでしょうね?」

 

 

「第5戦艦戦隊にダメージです!」

 

「主砲発射用意!

 目標前方!!

 対艦ミサイルも全弾発射しろ!!」

 

「し、しかし、まだ旗艦が発砲……」

 

「責任は私が取る!

 主砲!撃てぇ!!」

 

「私の前を遮る愚か者め。沈めっ!」

 

「機関最大戦速!

 敵艦隊に突っ込め!!

 本戦隊はそのまま離脱する!!」

 

 

 後に開かれた査問会に提出された艦橋映像である。

 ニューソクデ提督、次いで査問会に出たムラクモ艦長の「見えていたのに何で撃たないんです?」の一言に、同じ映像を見て誰一人近づいていたジオン艦を発見できなかった査問委員はあの時の様子を語ってくれた。

 

 

「形式だけの査問会ですよ。

 ルウムでレビル艦隊が壊滅した中でどうしても英雄を作らないといけなかった。

 そんな中で、敵将を討ち取って指揮戦隊を無傷で生還させた彼を軍法会議にかけることは最初から無理だと分かっていましたからね。

 ドズル・ザビを討った事を誇るならば、どうしても討った将であるニューソクデ提督を持ち上げないといけなかった。

 今だから明かしますが、ニューソクデ提督側からは左遷を条件に手打ちをと持ち掛けられていたのですが、ジャブローも連邦政府も英雄が必要だった。

 まさかレビル将軍がジオンから脱出してあんな演説をするなんてわからないじゃないですか。

 対ジオン戦の総司令官となったレビル将軍と彼を見捨てたニューソクデ提督の確執はあそこから始まったと思っていますが、ついに彼はその確執を表に出さずに戦争を終わらせることに成功しました。

 軍官僚としては色々と言いたいことはありますが、個人としては尊敬しますよ。

 最も、身近に居てほしくはないとも思いますけどね」

 

 

「ルウムにおけるニューソクデ提督の功績は見映えのするドズル・ザビ座乗のワルキューレ撃沈をあげる人が多いのでしょうが、本当に凄いのは、あの戦いで対MS防衛戦術を構築し完成させた所にあるんです。

 その後の戦いで連邦艦艇の対MSによる撃沈数が目に見えて低下したのがその証拠でしょう。

 弾幕の構築と速力を利用した離脱はその後の対MS戦術で大きな効果をあげたのです。

 どういう事かというと、艦船とMSでは稼働時間が違う。そして、移動だけでなく方向転換にも推力が必要になるという事は、敵を近づけないだけでなく、敵に無駄な移動をさせる事で逃げられる距離を稼げるという事を意味します。

 このルウム会戦でニューソクデ戦隊の対MS戦闘を指揮したマシュ副長は、MSに直接当てるのではなく、当たるような射線を見せることで敵MSに回避を強要したと答えています。

 実際、敵はニューソクデ戦隊追撃の為に10機ものMSを向けていますが、敵が回避すればそれだけ推力を失い、こちらに追いつけなくなって追撃をあきらめていきました。

 このMSの推進剤に目をつけた対MS戦闘はこちらのMSができるまで連邦艦隊の戦術として有効に機能しました。

 彼の戦争序盤の功績はこっちの方が大きいと思ってますよ」 

 

 

「ルウム会戦後のルナ2基地の空気の悪さといったら最悪なんてものじゃなかったですよ。

 席次ではティアンム中将が最上位で、基地司令のワッケイン少将の下にニューソクデ提督が来るのですから。

 英雄が欲しかったジャブローが査問会の最中に彼を少将に昇進させたのがその証拠です。

 ティアンム艦隊からすれば、『何で逃げた』と罵倒したかった所でしょうが、ブリティッシュ作戦で彼に助けられた将兵がルナ2に残っていた事と、査問会の過程で提出されたニューソクデ戦隊が撮影したMS戦の映像からその声が消えるのは早かったですね。

 ただ、わだかまりが消える訳もないから基地内では何とも言えない空気が漂っていましたよ。

 あと、あの提督の女好きから風紀が乱れて憲兵からは蛇蝎のごとく嫌われていましたね。

 特に違法娼婦を見つけてしょっ引いたらニューソクデ戦隊のオボロ少佐が迎えに来るというのがザラで、しかもそいつらがとびきりの上玉ばかり、オボロ少佐もニューソクデ提督の愛人という噂だったのですが、大体ルナ2の風俗絡みのトラブルはあの人の所に行くんですよ。

 上玉の娼婦を抱いて、提督と兄弟になったなんて下世話な笑い話を酒場でしたのが懐かしいですよ。

 たしか小隊規模で全員を准尉待遇で戦時任官したとかで、ニューソクデ提督が歩くと前後左右をムラクモ大佐、マシュ中佐、ステンノ少佐、オボロ少佐が囲んでそいつらが色気をだしてついてゆくんですよ。

 あれは男としてうらやましいと……女房にはこの会話言わないでくださいよ。

 あの行列の中に居たんですよ。うちの女房。

 戦争が終わった後に告白したらOKもらえて、足を洗って今は五人の子供の母親やっていますよ」

 

 

 英雄となったニューソクデ提督だが、ジオンの重力戦線形成に伴ってしばらく表に出なくなる。

 とはいえ、それは彼の飛躍の前の少しの休息でしかなかった。

 

--あるジャーナリストの記述より--


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