【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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始動

 1994年。

 宮内省始動。

 霞が関の合同庁舎内で室戸次官の訓示を受けた後、本格的に仕事が始まる。

 その仕事は、日本各地で発生しているオカルト事件の把握と対処だった。

 

「こんなにあるのか……」

「こんなにあるのね……」

「こんなにいるのね……」

 

 八百万の神々の国日本。

 そのオカルトがらみのトラブルは大から小にかけてこんなにあるのかと唖然とするしかない。

 さらに唖然としたのは、それを個々の組織が連携なしで解決していたという現実。

 宮内省とその下部組織である神祇院は、その案件を一元的に管理するために生まれた以上、これに対処する必要性に迫られたのである。

 霞が関地下に作られた旧関東機関本部を接収し、神祇院本部となったその建物内では電話が鳴り響き、ファックスが吐き出しを続け、最新鋭のパソコンに次々とデータが送られてきていた。

 そこで働くのは、百人近いマシュ・茶々丸たちが信じられないスピードで情報を処理してゆく。

 

「まず情報をくれ。

 それをこちらで判別して、対処を決める」

 

 完全に後手になる事を覚悟したうえで俺たちはこの方針を貫いたのは、各対魔組織の上に屋上屋を重ねたようなもので、各組織の忠誠がどこまでかわからないというのが一つ。

 そして、もう一つこっちの方が重要なのだが、個々の事情に戦力を逐次投入した結果本命の世界の危機に対処する戦力がありませんでしたという事を恐れたというのがある。

 

「で、信頼できる戦力はどれぐらいだ?」

 

 俺の質問にスーツ姿のマシュが答える。

 ステンノもスーツで叢雲は海自制服である。

 俺もここではスーツになっている。

 

「はい。

 横須賀基地側でシーマ二佐とその配下の部隊人員が使えるので、ハイデッカーとオイランロイドと対魔忍の皆様をこっちに移しています。

 あと、ここを拠点にしていた関東機関の職員およそ50人もこちらで警備をしてもらっています」

 

 

 シーマ二佐はちゃんと日本苗字があるのだが、言いやすいのでこっちで。

 それはともかく、待遇改善を約束してひとまずの忠誠は買ったが、この関東機関の連中がどれだけ使えるかいまいちわからなかった。

 叢雲が懸念を告げる。

 

「いやなのが、横須賀までどうやって行くかなのよね」

 

 車は却下。

 電車は一般人の巻き込みを考えたら選択肢から外すしかない。

 となるとヘリだが、飛行系悪魔や魔法があるのにどうぞ狙ってくれというものである。

 ターミナルで繋ぐという考えも浮かんだが、つないだ結果敵に侵攻されましたというオチが見えるのでこれも選択肢から外した。

 結果、俺たちは横須賀に待機し、ここは信頼できる人間に預けるしかないだろう。

 という訳で、ここを任せるために引っこ抜いた苦労人を肩を俺は叩く。

 

「という訳で、ここが君の城という訳だ。

 存分に働き給え」

 

「……了解しました」

 

 山本信繁元内務省公共安全庁調査第三部部長は、神祇院総裁としてこの場所から日本のオカルトがらみのあれこれを差配する事になる。

 大抜擢なのだが、オカルト側の情報に精通している内務官僚な時点で彼の抜擢は規定路線だったといっていいだろう。

 俺がその椅子に座るには外様過ぎたからこそ、その上の統括審議官という局長級待遇で飼い殺したからだ。

 そんな心温まる光景を、那田蒼一郎旧宮内庁神霊班主任、現神祇院副総裁がうろんな目で見つめる。

 初日という事で幹部があつまっての会議の席の一コマである。

 

「なかなか心温まる職場ですなぁ」

 

 『宮内省』特殊査察部執行官の入江省三が茶化すが誰も笑わない。

 彼が、俺の監視であるのは言うまでもない。

 

 

 

 一方で、集まり出したデータを解析しだした時点ですでにいやな兆候が手元に届いている。

 

「メシア教とガイア教の介入が多いな」

 

 第一次報告を持ってきた朔月陽代子神祇院参事官は、苦々しい顔で報告をする。

 

「手が回らない上に人口が多い都市部にかなり浸透していますね。

 世は新興宗教ブーム真っただ中で終末思想もはびこっていますから、報告されていない情報を考えたらさらにもっと多くの介入があると思いますよ」

 

 一般人にはわからないアンダーグラウンドな事件なだけに、介入した事件の多さを考えればいやでもこの結論に行きつかざるを得ない。

 つまり、メシアもガイアも、オカルトがらみではこちらと一戦できるだけの戦力をすでに確保していると。

 

「仕方ないな。

 更に戦力を増やすか」

 

「あてはあるんですか?」

 

「ないわけじゃない。

 使いたくはなかったけどな」

 

 幹部連中の見ている中で、俺は携帯電話を操作する。

 かけたのは、かつて取引をしたヴィクトリア・ザハロフ。

 

「ああ。すまない。

 またビジネスをお願いしたい。

 そっちで娼婦に堕ちた対魔忍、全員引き取りたい。

 何人ぐらい居る?

 そう。クローンですらないやつで、生きているならば四肢がもげても、箱でも問題ない奴だ」

 

 しばらく待っていると、那田蒼一郎が低い声でつぶやく。

 目に怒気が宿っていた。

 

「ずいぶん、ろくでもない言葉が聞こえてきましたが?」

 

「彼女たちを買い取って治療するのさ。

 その昔からこの国の魔を討ってきたものたちだから、治療すれば戦力化に寄与する。

 その治療費はこちらが出すよ」

 

 そのまま視線を山本信繁に移す。

 対魔忍の惨状は彼が一番よく知っているだけに、彼だけは俺のすることに異を唱えない。

 

「対魔忍育成学校の五車学園を麻帆良学園に移設したろ?

 麻帆良も麻帆良で問題があるが、対魔忍はそれ以下だ。

 あそこを立て直さないと、戦力化と状況の安定は望めんよ」

 

「その戦力化と状況の安定は期待してもよろしいので?」

 

 入江省三が楽しそうな声で確認するので俺も笑顔で返事をする。

 なお、年が明けた麻帆良学園には『文部省』の入江省三が監察官として赴任しているはずである。

 麻帆良学園の主権をメガロメセンブリア元老院から奪い返すのが彼の使命である。

 

「まあな。

 ……もしもし、615人。

 一括で買おう。

 価格は?

 300億、まけてくれ。

 どうせ半分以上は使い物にすらならない連中なんだろう?

 150……仕方ない。175億でいい。

 今日中に麻帆良学園都市に搬入してくれ。

 受け入れ準備は、こっちでする」

 

 電話を切って、再度かけなおす。

 かけるのは、学園都市の絡繰茶々丸。

 

「やあ。

 授業中すまない。

 ちょっと急ぎの仕事を頼む。

 君の主のダイオラマ魔法球を借りたくてね。

 あと、超鈴音くんに連絡を頼む。

 向こうから電話をかけてくれると助かる」

 

 エヴァの持つダイオラマ魔法球のすばらしい所は、中に入れば時間がずれるという事だ。

 具体的に言うと、外の一時間がダイオラマ魔法球の一日になる。

 つまり、中で長時間治療が可能という訳だ。

 具体的に言うと、メディアリリィの『修補すべき全ての疵』撃ち放題。

 

「……どうしたの?」

「別に」

 

 ふと見ていたのに気づいた叢雲が声をかけてくるが、俺は適当にはぐらかす。

 叢雲を見たのは、宇宙開発技術を学園都市に渡した結果、この世界の宇宙開発が加速して、ある船のアンロックが確認できたからだ。

 

 

村雨型宇宙巡洋艦 ムラクモ

 

 

 つまり、叢雲を宇宙船化して木星のプラントを確保に行けるのだ。

 時間さえあるならば。

 その時間が、現在の所決定的に足りない。

 

「っ!?

 何事だ!?」

 

 初日からこれである。

 木星までの往復でどれぐらい時間がかかるか?

 半年もあけていたら、人類滅んでいましたになりかねないのがこの世界の怖い所である。

 緊急連絡のスピーカーから慌てた声が響く。

 

「こちらエコービルのターミナル実験施設。

 所属不明の勢力の攻撃を受けて防戦中!

 支援をお願いします!!」

 

敵勢力

1 超人 ドウマン レベル15

2 キャスター・リンボ レベル90

 

2 キャスター・リンボ レベル90

 

 

守備隊

 八意思兼神 高位分霊 レベル130

 

90:130=4:6

 

1 キャスター・リンボ勝利 エコービル制圧 八意思兼神消滅

2 キャスター・リンボ勝利 エコービル制圧

3 キャスター・リンボ勝利

4 交戦中

5 八意思兼神勝利

6 八意思兼神勝利 キャスター・リンボ撤退

7 八意思兼神勝利 キャスター・リンボ撤退

8 八意思兼神勝利 キャスター・リンボ撤退

9 八意思兼神勝利 キャスター・リンボ消滅

10 熱烈歓迎

 

結果 8 八意思兼神勝利 キャスター・リンボ撤退

 

「落ち着け。

 状況はどうなっている?」

 

 マイク越しに俺が問い返すと、前に聞いた事のある声に変わる。

 交戦していた八意思兼神らしい。

 

「敵はターミナルから出てきて私と交戦。

 これを撃退しました。

 そのままターミナルの中に入って逃げた所です」

 

 カメラにはしっかりと戦っている八意思兼神の姿とキャスター・リンボの姿が見える。

 ここ、本来のボスは超人ドウマンだからなぁ……

 

「あれだけ世界を渡っていたら、向こうも気づくでしょう?」

 

 ステンノの楽しそうな突っ込みに俺は黙るしかない。

 ああいうのが出たという事は、魔術王や向こうの神も気づくという事で。

 という訳で通信を冬木とプリズマ・ゴーズの方に向ける。

 

「こっちには来ていませんよ?」

「こっちも来ていないわよ」

 

 冬木のターミナルを守護する八衢比売神とプリズマ・コーズを管理する悪魔ほむらはそれぞれ返事をする。

 ターミナルから出てそこから逃げたとなると後は……

 俺は地図を見てため息をつく。

 このターミナル実験で科学側の提供をしているのは学園都市。

 その為、学園都市にもターミナル端末が置かれている。

 治外法権の学園都市。

 この組織の穴に逃げ込まれた手際にこちらは感心するしかない。

 

「この件は室戸次官に報告する。

 アポイントメントを頼む。

 あと、吉祥寺周辺に戦力を投入する。

 人員は任せるが、ああいうのと当たるのを考慮すること。

 以上だ」

 

 おそらくは『真・女神転生』のシナリオも始まっている。

 どこまで戦力を確保できるか?

 どこまで世界と物語が闇鍋になっているのか?

 それを考えてもきりがないので、報告書ができるまで俺は与えられた部屋の机に座って盛大にため息を吐くことしかできなかった。

 

 

 なお、615人の対魔忍は翌日に回復し、240人が即戦力として組み込まれた。

 残りは治療と再教育で3日の時間が必要になった。




組織の再確認

宮内省
 室戸文明事務次官
  入即出やる夫統括審議官 (局長級)
   入江省三特殊査察部執行官

 神祇院 (宮内省外局)
  山本信繁神祇院総裁
   那田蒼一郎神祇院副総裁
    朔月陽代子神祇院参事官


村雨型宇宙巡洋艦 ムラクモ
『宇宙戦艦ヤマト2199』
 別の投稿サイトで書いていた時の叢雲は、エグゼクター級スター・ドレッドノートという感じでちょっと宣伝。なお打ち切りエンド風。
 あれの続編の時間断層を用いた生産をエヴァの魔法球でやろうとしているのがやる夫。

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