【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
衛宮切嗣はこの聖杯戦争に関与するつもりはなかった。
冬木の大聖杯は既に魔力が使われた上に、日本政府や他の機関が厳重に監視と研究をしている。
ならば、学園都市にあるらしい聖杯は何なのだ?
聖杯戦争御三家であるアインツベルンに居たからこそ、彼はこの聖杯戦争が別物である事を理解してかかわる事を拒否したのである。
もっとも、衛宮切嗣もアインツベルンも世界唯一の超大国米国の本気を見誤っていたという事になるのだが。
第5学区。
大学生をメインとした学区で成年向けの施設も多い。
そこにあるラブホテルが衛宮切嗣の最初の拠点だった。
キャスター・リンボの襲撃によってはやくも第二拠点に移ることになったのだが。
「よくやってくれた。
貴重なデータを提供してくれて助かる」
電話越しに嬉しそうなオーランド・リーヴに衛宮切嗣は淡々と返事をする。
「それで、襲ってきたやつの正体は?」
「ああ。
日本の機関にデータがあった。
キャスター・リンボ。
井の頭公園のエコービル襲撃の実行犯だ」
ちらりと衛宮切嗣は己が召喚したキャスターであるアマデウスを見る。
だとしたら、あのキャスター・リンボはキャスターではない。
これはかなり大きな情報である。
「そのビルはどうして襲われた?」
「……えらくセキュリティーランクが高くてアクセスに時間がかかる」
日米安保があるのにも関わらず、セキュリティーランクが高くて弾かれるゲースというのはほぼ間違いなく学園都市がらみだ。
そこから考えると、やはりこの学園都市には何かがあるのだろう。
「わかった。
所詮僕たちは囮だ。
クライアントが報酬を払った以上、僕はそれに従うつもりだ。
で、今後は?」
「まだ、セイバー、ランサー、アサシンが分からないらしい。
そいつらが分かったら一気に押し込むという話だ。
しばらくはそちらにも攻撃が行くだろうが、サポートはするので耐えてくれ。
以上だ」
そして電話を切る。
呼び出したキャスターアマデウスとはろくな会話もしていないが、向こうもこちらに話しかけていないのでまだ関係は破綻していない。
むしろ、前回の戦いより戦いやすいと言えるだろう。
(……セイバー、ランサー、アサシンがわからない?
どういう事だ?)
「どうしたの?
切嗣?」
「なんでもないよ。アイリ」
シャワーを浴びてバスタオル姿のアイリスフィールが尋ね、衛宮切嗣は笑顔で思考を打ち切った。
あの聖杯戦争で衛宮切嗣は小聖杯を確保したが、それは同時にあの聖杯戦争のログを入手したといっても良かった。
そして、その小聖杯に残っていたアイリスフィールの魂を取り出して新たなホムンクルス体に移す技術をアインツベルンは持っていた。
「で、どうだい?」
「だめ。
私から呼びかけても反応がないわ。
何か魔術的なもので遮断されているのか、それとも……」
この聖杯戦争に参加したのは、アイリスフィールの存在がある。
彼女がいるおかげで、聖杯の情報を他陣営より知ることができるのだ。
米国と取引ができたのは彼女の存在が大きい。
彼は米国提供のファイルを取り出し、その情報を丹念に読み込む。
「入即出やる夫。
前の聖杯戦争時には海自将官、今は日本国内に新設された宮内省のNo3。
米国にも太いパイプがあるという、彼の手駒にステンノとモードレッドが居るのは分かっている。
にもかかわらず、彼はこの聖杯戦争に乗ってきていない?」
魔術師殺しとして魔術師から離れた思考をもっていたとしても、ある意味テロリストに近い活動をしていた衛宮切嗣の限界と言ってよかった。
日米関係の軋轢や内部派閥の相克などを耳にするには彼のコネは限られていた。
「入即出やる夫が出れば二騎、僕も入れて四騎。
制圧ができない事はない。
他の参加者を始末したあとで僕とオーランド・リーヴを潰して手持ちの一騎を消せば聖杯に手が届く」
携帯が鳴り衛宮切嗣は通話ボタンを押す。
調査に出ていた久宇舞弥だった。
「確認しました。
麻帆良学園都市に在籍しています。
名前は、クロエ・フォン・アインツベルン。
朔月陽代子神祇院参事官が保護者として登録されています。
今の所、彼女は動いてはいません」
聖杯にアクセスできるアイリスフィールの能力はかなり便利であり、大聖杯経由でクロエの存在を探り出したのも彼女である。
世界線が違うのだが、アインツベルンだしでガバ登録する大聖杯も問題があると思うが、とにかくクロエの存在暴露はアインツベルン陣営を慌てさせた。
彼らがこの聖杯戦争に出てきた最大の理由である。
「わかった。
一旦引き上げろ。
それとなく、情報を他勢力に流して入即出やる夫を遠ざけておけ」
クロエの存在は聖杯戦争において切り札になるゆえに、そこの防衛に戦力を割かなければならない。
または、これを米国が知って日米安保の協力として提供させてもこちらは懐は傷まない。
「アイリ。
今回の戦いは君の力が全てだ。
前回とは逆で、僕がマスターとして振る舞うから、君がサマナーである事を隠すんだ」
「ええ。わかっているわ。
切嗣」
悪魔召喚は己のレベル以上だとこちらの命令に従わないだけでなく、裏切り襲いかかる事がある。
所詮魔術師でしかない衛宮切嗣は、キャスターアマデウスを召喚すると同時に、メシア教団と交渉し性能の悪い一体しか仲魔にできないCOMPを一つ用意させていた。
そのCOMPを衛宮切嗣は迷うことなくアイリスフィールに与えたのだ。
聖杯と一体化したその体は高位の悪魔召喚を可能とした。
彼女が従える悪魔は、
大天使 アールマディ レベル76
大聖杯がアンリマユで汚染されたあとで浄化されていなければ、アイリスフィールが大聖杯と一体化したあとに魂を分離されたので霊核が強化されていなければ、この悪魔が居なければ、衛宮陣営はキャスター・リンボに敗北していた。
(けど、どこまで持つかな……)
アイリスフィールの存在は切り札であると同時に他勢力の集中攻撃を食らうことを意味する。
そして、終盤になれば、いらない駒としてオーランド・リーヴも切り捨てにかかるだろう。
聖杯戦争は、そういう意味では同盟が組みにくいシステムになって……
(待てよ!?
米国の連中はどうしてここ学園都市で聖杯戦争に介入するんだ?
あの広い北米大陸、冬木なみの霊地は探せば必ずあるはず。
冬木の大聖杯は違うのはアイリが確認した。
じゃあ、聖杯は誰が持っているんだ?)
彼のつぶやきは、ついに声にまで出てしまう。
アイリスフィールがそれに振り向いても彼は気づくことはなかった。
「……いや、米国はどうしてこの聖杯戦争に大戦力を投入する決定を下したんだ?」
小聖杯衛宮切嗣が持ち帰っていたな。
浄化された上に、アイリスフィールの魂小聖杯に残ってね?
体用意してアイリスフィール戻せるじゃん。
あ、クロエの存在バレる。
あ、アイリスフィールレベル80キャスター転用だから、高位悪魔召喚できね?
ちょうどそこに浄化されたアンリマユは入っていた聖杯とつながった小聖杯が……
こんな感じで衛宮陣営強化終了。
このテロリスト、いい感じで人の足を引っ張ることに関しては長けているなぁ……