【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

174 / 226
閑話 小ネタ劇場 その9

 冬木市。

 聖杯戦争が終わったその地に一人の英霊が姿を現した。

 

「……ふむ。

 この姿で出たという事は、今は何時だ?」

 

 慣れた手つきで公園のゴミ箱をあさる。

 はたから見れば長身イケメンの外人がゴミ漁りをしているのだから目立つことこの上ない。

 それでも彼はお目当てのものを見つける。

 新聞に書かれている日付だ。

 

「1994年、2月1日か。

 大体、それぐらいの日時という事は、本来の私は時計塔に帰ったあたりか?

 さてと、マスターに合流するためには……」

 

 新聞をゴミ箱に投げ捨てて、彼はしばらくベンチに座って待つ。

 己が目立つことをしている自覚はあった。

 だとしたら、次に来るのは大体想像がつく。

 

「Excuse me?」

 

 巡回中のパトカーとそこから降りてきた警官による職務質問。

 穏便かつ合法的な接触こそ彼が望むものだった。

 

「助けてほしい。

 旅行中に、荷物を取られて……」

 

 警察署に行き、事情聴取の間に情報を入手する。

 彼にとっては過去の事だが、彼のマスターにとっては未来の事なので少し新鮮味があると言ったら嘘になるだろう。

 

「なるほど。

 大学時代の知人に会いにいらっしゃった。

 それでパスポートを含めた荷物一式を失って途方に暮れたという訳ですね?」

 

「ええ。

 お恥ずかしい話ですが、自販機で飲み物を買う為に荷物を横に置いてしまった際に置き引きにあってしまい……」

 

 流暢な日本語で事情を説明すると、警察官も警戒心を下げる。

 元々冬木市は外国人が多いこともあって、こういうトラブルにもある意味慣れていたというのもある。

 

「で、失礼ですが、どなたに会いに来られたのですか?

 その方に身元保証をしていただけたら、ここからお出しする事もやぶさかではないのですが?」

 

 その言葉を待っていた彼は警察官にその名前を告げた。

 

「はい。

 入即出やる夫という人なのですが?」

 

 笑顔を作っていた警官にはっきりと緊張の色が一瞬浮かんだのを彼は見逃さなかった。

 まずい事を言ったかとも思ったが、マスターの話だと穏便に解決したという話だったのだが?

 

「少しお待ちしていただいてよろしいですか?

 担当の者を呼んできますので」

 

 席を外す警官が出たドアを眺めて、彼はため息をつく。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか?

 それほど分の悪い賭けではなかったはすだが?

 そんな事を考えていたら、ドアが開いてスーツ姿の男が入っている。

 

「おやおや。

 ようやくのお出ましですか。孔明殿」

 

「貴殿も来ていたとはな。

 で、説明をしていただけるのだろうな?

 陳宮殿」

 

 同じマスターに仕えた軍師としての再会を祝福するような様子もなく、緊迫感すら漂わせて陳宮は孔明ことロードエルメロイ二世の前に座る。

 

「実を言うと私も同じ口でしてね。

 呼ばれて来たはいいが、今、我が主は聖杯戦争の真っ最中でして。

 会いに行くにはタイミングが悪いという訳で、ここで状況が落ち着くのを待っている次第にて」

 

「警察内部に入り込むのにどういう手管を使ったのやら……」

 

「たいした事ではないですよ。

 貴方がマスターに自分の身分保障をさせる前に、私は華僑を頼った。

 そこからは堂々と中に」

 

 華僑社会は外に対する警戒の裏返しとして身内に対する保護によって成り立っている。

 中華街に行って、チンピラあたりを暗示魔術で仲間と誤認させて戸籍等を確保したら、その才覚でどうとでものし上がれるだけの才能がなければ軍師なんてできはしない。

 

「聖杯戦争?

 冬木のは終わったのだろう?」

 

「ええ。

 今行われているのは帝都、この国の首都である東京での聖杯戦争ですな。

 ありとあらゆる勢力が入り乱れて複雑怪奇な状況になっているので、場に出る事自体が悪手となっているので、ここで静観するしかないという次第にて」

 

 野良サーヴァント扱いの彼らが帝都に行ってキャスター認定されるのを恐れたともいう。

 そして、その流れでどの勢力がキャスターとして陳宮を使うかという事が読めないから、陳宮はここでおとなしくしていたという訳らしい。

 

「で、我がマスターは勝てるのか?」

「勝つ勝たないのレベルはすでに超えています。孔明殿」

 

 陳宮のその声には、マスターに対する期待と確信がある。

 入即出やる夫というマスターは聖杯戦争の勝ち負けに拘らなかった。

 それよりも高所から聖杯戦争そのものをぶっ壊すタイプのマスターだったのだから。

 

「まぁ、マスターが聖杯戦争に絡んでいる間、背後の守りを固めるのは軍師の役目。

 孔明殿も協力していただけると嬉しいのですがな?」

 

「……協力しなければここから出られないようにしてよく言う?」

「当り前じゃないですか?

 我々はそういう生き物ですよ?」

 

 吐き捨てるように言った孔明に対して陳宮は白々しく苦笑する。

 そして真顔になって、本題に入った。

 

「私というサーヴァントは中国異聞帯になって登場した」

 

「っ!?

 うちのマスターは人理焼却を阻止した時点でカルデアを離れたはずだぞ!」

 

「そう。

 この世界ではまだ漂白が行われていない。

 最も、それ以上に厄介であると言わざるを得ないのですけどね。

 まだ、人理焼却に対抗するカルデアが残っていますしね」

 

 その説明を理解できない孔明ではない。

 椅子にもたれかかって額に手を当てて嘆く。

 

「……シュレーディンガーの箱庭か。ここは……」

 

「そのとおり。

 生きているか死んでいるかは箱を開けねば分からない。

 孔明殿。

 我らはその箱の鍵になりかねない。

 だからここでおとなしくしているべきなのですよ」

 

「了解した。

 ここは貴殿の言うとおりにしよう」

 

 陳宮は立ち上がってドアを開ける。

 見ていた警察官が陳宮に向けて敬礼しているあたりかなりの地位を得ているらしい。

 

「一体どのような手管でその地位を手に入れた?」

 

 警察署を出てから事が事なので孔明は小声で陳宮に尋ねる。

 帰ってきた陳宮の台詞はろくでもないものだった。

 

「自殺したキャリア官僚の籍を頂きましてね。

 こういう時の華僑のネットワークは偉大ですな。

 こちらでは別の名前になっているので、陳宮と呼ばないでくださいよ」

 

 背乗りと呼ばれる行為を晒しながら、さらに陳宮は続ける。

 少なくとも歪みながらもマスターに対する信頼はあるのがこの男なのだ。

 

「あとはマスターのコネを勝手に使用させてもらいましたよ。

 うまく使って、マスターに届かぬように周りを忖度させるのは都から離れた地方の常套手段の一つ。

 法も官僚も我らが居た時代より整っているこの国において造作もない事です」

 

 そこで言葉を区切り、陳宮は孔明にマスターの現役職を教えてやった。

 

「宮内省統括審議官。

 我らが居た漢の役職に当てはめるならば、この国の九卿ぐらいまで上り詰めようとしていますよ。

 我がマスターは」 




 2000DL記念で念願の孔明を手に入れたぞ!!!
 ついでに陳宮も出すことにした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。