【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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インターミッション その1

 麻帆良学園都市。

 爆発テロが発生した割に生徒たちの空気がそれほど悪くなってはいないのは、犠牲者が出なかったという点が大きいだろう。

 それでも空気がひりついているのは、交差点に立っている自衛隊員の存在によるものだ。

 メガロメセンブリア元老院は世界樹防衛と治癒の為にアリアドネー魔法騎士団を派遣したまではいいが、その活動を完全に阻害されていた。

 

「駄目です。

 日本政府の奴ら、聞く耳を持っていません」

 

 教師でもあるガンドルフィーニが関東魔法協会理事長でもある近衛近右衛門にぼやく。

 事が、表向きは学園都市聖杯戦争に伴う日本政府と米軍特殊部隊との交戦の余波なだけに、暴露する訳にもいかず。

 暴露したら今度はメシア教の暗躍と麻帆良学園都市にそびえる世界樹の事を明かさないといけない訳で。

 テロリストの捜査と治安維持という名目で居座っている自衛隊を麻帆良学園都市は排除できなかったのである。

 

「はて?

 テロリストを警戒し、埼玉県知事の正式要請によって展開している自衛隊に何か問題でも?」

 

 魔法先生たちのきつい視線なんて気にする様子もなく、入江省三監察官が笑顔で言い切る。

 麻帆良学園都市の主権をメガロメセンブリア元老院から日本政府に奪還するのが彼の仕事なだけに、この現状は喜びこそすれ、困りはしない。

 

「そもそも、この麻帆良学園都市が何故か襲撃を受け続けているという事がおかしいのですけどね」

 

 それを言われると、魔法先生も黙らざるを得ない。

 世界樹の防衛、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを狙う賞金稼ぎ、関東魔法協会に対する攻撃など狙われる理由はいくつもあったのだ。

 それらの襲撃も、これだけ自衛隊が表に出ると鎮静化せざるを得ない。

 

「五車学園に対する襲撃については既に手打ちが成立しています。

 向こうは麻帆良学園都市の生徒に手は出さないと約束してくださいました」

 

「それをどこまで信用できるのかね?」

 

 ガンドルフィーニの確認に入江省三はあっさりと言い切る。

 笑顔でためらいなく。

 

「できる訳ないでしょう。

 で、その上で所沢を拠点とする彼らネコソギ・ファンド社、いや、ソウカイ・シンジケートにあなた方は全戦力を投入できるので?」

 

 それに答えられない現状が今の麻帆良学園を端的に表していた。

 各地で頻発する悪魔絡みの事件、それに対処する為に設置された宮内省とその実行部隊である神祇院の中核部隊として、クローン対魔忍とオイランロイド・ハイデッカーは手放せないものになりつつある。

 それと深く繋がっていたのがソウカイ・シンジケートであり、ノマドが国内で打撃を受けた今、その供給について話を持ち掛けたという裏もある。

 なお、麻帆良に展開した自衛隊の部隊員の中にも、これらオイランロイドとハイデッカーが試験的に配備され始めていた。

 

「そして、メガロメセンブリア元老院はアリアドネー魔法騎士団を派遣したまではいいが、一戦する覚悟がない。

 そりゃそうでしょう。

 向こうは大分裂戦争の傷が癒えていないのでしょう?」

 

 魔法世界を二分した大分裂戦争。

 それが終わったのが1983年である。

 まだ10年ほどしか経っておらず、その復旧の為にもこちらの世界の繋がりは必須だった。

 黙り込む一同を見て当り前のようにいるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが嗤う。

 

「ふん!

 10年も経てば、そのあたりの感覚がさび付いてるのだろうさ!

 じじい。

 先に言っておくが、この状況さらに悪化するぞ。

 どっちにつくか考えておくんだな!!」

 

 

 

 そんな不毛な会議が終わると、エヴァと入江省三が並んで歩く。

 敵意も害意もこの二人に意味がない。

 

「あなたも素直じゃない。

 あれじゃあ、メガロメセンブリア元老院が暴発するじゃないですか」

 

「貴様の仕事の肩代わりをしてやったまでだ。

 派遣されたアリアドネー魔法騎士団が潰されたら完全に麻帆良は日本政府の影響下に落ちる。

 かといって、アリアドネー魔法騎士団が自重したとしてもその失墜は免れない。

 で、自衛隊とアリアドネー魔法騎士団が交戦でもしようものなら、魔法世界のパワーバランスが崩れて大戦争再びだ。

 今のこの国は、魔法戦力を急速に整えているぞ」

 

「私だって、戦争狂じゃありませんよ。

 仮にも文明人なんですから話し合いで片付くならその方がいいでしょう?」

 

 冬木の聖杯戦争では関東魔法協会は入即出やる夫と組んで、勝ち組に回った。

 やる夫の手腕を関東魔法協会は良く知っていた。

 メガロメセンブリア元老院を見限るという考えが浮かぶ程度には。

 

「エヴァちゃーん!」

 

 エヴァの同級生が手を振って駆けて来る。

 彼女の表はこの麻帆良学園の女子高生である。

 その表の顔を潰さないぐらいの気遣いぐらいは入江省三でもできた。

 

「では。また改めて」

「ああ。そう遠くないうちに」

 

 日本人社会人によくあるお辞儀をして入江省三が離れてゆく。

 寄ってきた同級生が入江省三の方を見たので、エヴァが先に言い訳をした。

 

「知らないおっさんさ。道を尋ねられたので、案内していた」

 

と。


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