【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
草木も眠る丑三つ時。
その時間はニンジャのためにあった。
だが、この世界はニンジャの為にある訳ではない。
ある者は潜み、ある者は覗き見、またある者は堂々とそのインストラクションに触れようとしていたのである。
「『少し明るい海』。生産中止と聞いていたんだがね」
「忘れちゃいけない。
少し前まで、たばこは専売だったのだよ。
だったら、これぐらいのお願いはできる程度のコネは、国ならばあって当然だろう?」
フリーランスのニンジャであるシルバーカラスは、胡散臭そうに封の切られていないたばこ一カートンを手に弄びながら、新しいクライアントと対面する。
派手な男だった。
三人もの女を侍らせながら、カチグミのサラリマンめいたムーブで話を進める。
女の一人は長物使い。長刀か?
もう一人の女は盾だな。真ん中の男を庇うそぶりを隠そうともしない。
気になるのは最後の女。一番無害な顔をしているくせに、一番手が読めない。
「君のカルテについては、ヨロシサン製薬から提供してもらった。
先は長くはないのだろう?
だからこそ、笑い翁氏に頼んで君を譲り受けたという訳だ」
「先がないオタッシャな俺に何をさせようと?」
金が払われたのならば、彼がボスである。
先の無い彼に男の名前はボスで十分なのだろう。
そんなボスは、ただ淡々とミッションを説明したのだった。
「大したことじゃない。
まずは、君のツジギリ=ジツを次代に残してほしいという事。
これはついでみたいなものなんだが……」
男は楽しそうに笑う。
まるで、彼を娯楽のように眺めながら。
「知りたいのさ。
君のツジギリ=ジツがどこまで通用するのかをね」
「ドーモ。カギ・タナカです」
「ドーモ。ヤモト・コキです」
「どうも?井河アサギです」
「どうも。葛葉刀子と申します」
麻帆良学園の武道館で胴着姿の四人がそれぞれお辞儀をする。
純粋にカラテを知らぬのは矢本古希のみ。
残りの三者は挨拶から既に互いの力量を図ろうとしていた。
「今回は、うちのボスに言われて、この娘っこにカラテを教えてやるという事なんだが、あんたら二人はつきそいかい?」
「私は、上に言われて彼女と一緒に受けるようにと」
井河アサギは口を開くが、対魔忍であると同時に『逸刀流』の剣術の使い手でもある。
その彼女をして、彼と会話しただけなのに汗が畳に落ちた。
今、立ち会えば死ぬ。その間合いに入っているという事を彼女は自覚していた。
「ここの許可を取ったのは私です。
一応監督という形で来ていますので気にしないでください」
神鳴流の使い手である葛葉刀子は心を乱さない。
それだけの修羅場は潜っているし、ここから相手を切れる手も策も無い訳ではないが油断はしていない。
話しながらも彼との距離は己の刀の間合いに収めていた。
「じゃあ、始めるか」
彼は差し向かいに正座して座る三人を見る。
武道館にはちらちらと人がいる。
明らかに背筋のよいスーツ姿の男たち。
獲物は分からないがカタギではないスーツ姿の女たち。
天井には監視カメラ。
「仕事だからな」
彼は木刀を持つ。
その三人の前で、何人もの命を絶ってきたイアイ=ジツを披露する。
空気が絶たれ、その波紋が武道館に広がる。
「俺のインストラクションは突貫工事もいいところだ。
先は、自分で掴んでいけ」
「うん」
何も知らない、分からない矢本古希は頷く。
こうして、男のインストラクションは始まった。
「助かりたいか?だと?
ヨロシサンの医者ですら、オタッシャ案件と言ったのに?」
男のインストラクションから数日後、ボスは男にこんな事を言った。
男はボスから与えられた『少し明るい海』を部屋でふかすが、ボスはたばこは吸わない男らしい。
灰皿は男の前にしか置かれていない。
「まぁ、色々と手はあるという訳だよ。
持つべきものは金とコネという訳だ」
男の側には前と同じ三人の女が侍っている。
戯れで斬ろうとしても、返り討ちに合う未来しか男の頭には浮かばない。
「なぁ。ボス。
このシルバーカラスは卑しいニンジャだ」
男は紫煙と共に吐き出す。
既に煙草も吸えない体なのだが、習慣はそれを必要としていた。
彼の砂時計はもう残り少ない。
「戦い方も知らぬ罪なき市民を、鳥でも撃つように殺めて来た。
イクサではない。ツジギリだ。誇る物など何も無い殺しだ。
ただ己のカネの為に殺してきた。無益なカネの為にな」
だから問う。
問わねば、その先の答えが出せない。
「つまり、俺は誰を斬ればいいんだ?」
ボスはため息をついてその名前を告げた。
男はそれを是とする。
今までと同じように。
wikiで逸刀流の剣術とあったが、じゃあ逸刀流って何だ?とGoogle先生で調べた出てきたのは『無限の住人』である。これはこれでありかなと思ったり……