【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
ジャブロー。
かつて連邦軍本部があったそこには、地下都市、宇宙港、生産工場という重要施設が全て揃っており、キリマンジャロ基地とニューギニア基地の二つで代替しようとしたティターンズは、ここを去るにあたり水爆で爆破して使用できないようにと企んだ。
この企ては失敗に終わったのだが、それは同時にそれらの施設が使用可能なまま第三者——つまりヤルオ・ニューソクデ大将——の手に渡るという事を意味していた。
後の史家は言うだろう。
この基地を彼に渡してしまったことが、すべての始まりだったと。
ジャブローの空港にガルダ級大型航空空母アウドムラが着艦する。
そこから降りてくる人員は全て宇宙に上げられることになっていた。
「失礼します。
アムロ・レイ大尉入ります」
アウドムラから降りてきたアムロは司令室に通される。
その指揮官の椅子に座っていた人物に思う所がなかったかといえば嘘になる。
「楽にしたまえ。アムロ大尉。
一年戦争では色々あったが、私の方は気にしていないよ」
そんな事を言うエルラン将軍だが、それが嘘なのはニュータイプの勘を使わなくてもわかった。
「まったく、ニューソクデ閣下も困ったものだ。
君にサラミスを与えて好きにさせろだなんて」
エルラン将軍はわざと愚痴りながら司令室のモニターを眺める。
そこには、生産設備がフル稼働しているジャブローの姿があった。
「とりあえずサラミス改を百隻、ハイザックを500機、マラサイとネモをそれぞれ100機作らせている。
この施設の再稼働にはゴップ議員とアナハイムの多大な尽力があった。
まぁ、君にはさほど関係がない話か。
たとえ、帰ってくるアクシズが何か企もうとしても、それを打ち破るだけの戦力をここは生み出せる」
エルラン将軍は書類の入った封筒をテーブルに投げる。
アムロ絡みの連邦軍正規の命令書とここで作られているサラミス改の譲渡書類が入ったそれをアムロは無言で受け取って敬礼する。
「用が済んだら行き給え。
ありがたくもあるが、ままならんものだな。戦争というものは」
エルラン将軍の愚痴をアムロは聞かなかったことにした。
彼の復権は連邦軍だけでなく連邦政府内部にも異論があったが、それを押し通すだけの功績をニューソクデ大将は持っており、エルラン将軍もそれに応えてこのジャブロー爆破を阻止してみせたのである。
結果、彼の復権に誰も文句はつけられなくなっていた。
それは、『自由に動け』と言われたアムロにも適応されていた。
彼ら二人は立場も理由も違うが、このグリプス戦役にて復権を許されたと言っていいだろう。
それを本人たちが望んでいたのかどうかについては別問題になるのだが。
「アムロ。
既にサラミスへの乗組は終了している。
後はお前だけだ」
待っていたハヤト・コバヤシとカツ・コバヤシにアムロは書類を見せる。
連邦政府承認の独立裁量権を持ったそれは、当のニューソクデ大将の命令すらはねのけるという強力なものだった。
これは、アムロをニューソクデ大将の下におきたくないという連邦軍内部の圧力と、それを見越したニューソクデ大将の妥協によって成立していたのだが、各方面からかえってスカウトが来る始末となっていた。
「これでやっと宇宙に上がれますね。
ティターンズも酷かったですが、ニューディサイズのやり方ではきっと誰も幸せになりませんよ」
カツ・コバヤシの物言いにアムロとハヤトはなんとも言えない顔になる。
それは、一年戦争時の二人と同じだったのだから。
それを理解する程度には二人共大人になっていた。
「何をやっているのよ!
早く早く!」
サラミス改の入り口でベルトーチカ・イルマが手を振っていた。
このサラミス改はジャブローで製造された1番艦であり、その命名はエルラン将軍が名付けたという。
艦の名前は『バターン』。
一年戦争のオデッサ作戦。その連邦軍ビッグトレー旗艦の名前をつけた意味はエルラン将軍にしかわからないだろうが、良い意味ではないというぐらいはアムロもニュータイプの勘を使わずとも分かる程度には大人になっていた。
彼ら四人がこのサラミス改のパイロットであり、四人揃って格納庫に行くと乗機のMSが四機格納庫に鎮座していた。
「凄い……最新鋭のネモが三機も。
あの奥の機体は何ですか?」
「ガーベラ・テトラ改。
アムロへの贈り物の一つだよ。
予備部品を手に入れるのに苦労するから壊さないでくれと、整備班から直々に言われたよ」
カツが嬉しそうに新型のネモを眺め、ハヤトがその好待遇ぶりに苦笑する。
地球上では、ジオン残党の蜂起に伴ってティターンズの弾圧が成功に終わり、ジオン残党とカラバが壊滅に追い込まれていた。
そんな両勢力の残党はここジャブローから宇宙に上がっており、ある者はジオン共和国に、ある者はエウーゴにと流れた結果、ティターンズの覇権が地球で確立してしまっていた。
あとは宇宙をどうするかだったのだが、地球のことしか頭になかった連邦政府高官たちはこれ以上のティターンズの伸張を望まず、バスク・オムが焚き付けたニューディサイズ結成の支援を裏から行っていたのである。
それが当人たちの予想外の大成功に終わり、実質的なニューディサイズのクーデターになったあたり本末転倒すぎて笑うに笑えないのだが。
「まぁ、アムロなら大丈夫でしょ?」
「よしてくれ。ベルトーチカ。
僕がガーベラ・テトラ改で出て、後は二人がつく形にしよう。
常に一人は残って、艦を守るんだ」
「アムロ大尉!
艦長がお呼びです!!」
整備兵の一人がアムロたちを呼ぶ。
彼らは独立裁量権を与えられたが、階級がそれを邪魔しかねない。
おまけに、正規の士官教育を受けておらず、これ以上の出世は組織的に見て問題があると判断した連邦軍は、彼らの為に頭をという名前のお目付けを用意したのである。
「アムロ・レイ大尉以下着任しました。艦長」
アムロ以下四人は艦橋に入り艦長に敬礼する。
艦長オットー・ミタス中佐はしかめっ面で敬礼を返した。
「君たちに与えられた独立裁量権は理解している。
私はそれを邪魔するつもりはないが、艦の操作については口を挟まないでくれると嬉しい。
また、着任と同時に野戦任官で君たちの階級がこの作戦に限り上がるようになっている。
アムロ少佐はMS隊の指揮を。
ハヤト少佐は副長についてもらう。
で、まもなく打ち上げだが、宇宙に上がった後何処に向かうのかね?」
オットー艦長の質問にアムロは答えた。
まるでニュータイプが次の戦場を察したかのように。
「月に」
打ち上げから数時間後。
連邦軍の内部告発という形でティターンズの毒ガス攻撃が暴露され、その指揮官としてバスク大佐の名前が取り沙汰される前の話である。