【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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この日だけでやる事が多すぎる


第四次聖杯戦争介入 その3

 クーデターに必要なのは何か?

 一つは最低限の兵力。

 これは鎮圧されない戦力である事が望ましい。

 そしてその最低限の戦力でないといけない理由。

 速さである。

 

「こちら特殊作戦群甲河班。

 倉庫街にて死にかけた青年を発見。

 回収する」

 

「了解した。

 そいつ中に虫が居るから、注意するように。

 点滴と共に睡眠薬を打って眠らせておけ。

 彼の監視と拘束は、必ず悪魔と共に行うこと」

 

 間桐雁夜が目覚めて艦内がバイオハザードなんて事態は避けたいので、回収した対魔忍たちに注意を促してゆく。

 今の俺は出迎えのパトカーの中で、冬木ハイアットホテルに大急ぎで向かっている所なのだ。

 

「既に警察の爆弾処理班が爆発物を発見。

 広範囲に避難勧告を出して処理にあたっています。

 まもなく自衛隊の爆弾処理班も到着する予定です」

 

「爆弾の構造は携帯電話を使ったもので、既に電話会社に連絡し周囲の基地局を止めて電波が入らないようにしています。

 更に、二階以降の複数階にも爆発物が仕掛けられており……」

 

「警察発表にて、テロ組織に爆弾テロを公表。

 湾岸地区の爆発は、テロ組織とそれを阻止しようとした海上自衛隊の交戦によるものと発表……

 ホテルの爆弾が本命として周辺に避難勧告……」

 

「上層階にはトラップが仕掛けられているとの報告有り。

 陸自の爆弾処理班が到着するまで手を出すな……」

 

 無線機からの報告で入る情報が、聖堂教会と時計塔では状況をコントロールできない事を如実に物語っていた。

 上が腐っていても影で隠密に行われる魔術儀式だからこそ許されたのであって、テロ同然にビルを破壊するなんて許容できるほどこの国の人間は甘くない。

 

「先輩。

 お会いできて嬉しいです。

 ステンノさんはお久しぶりですが、もう片方の方は?」

 

「特型駆逐艦、5番艦の叢雲よ。

 え、知らないって?

 全く、ありえないわね。

 南方作戦や、古鷹の救援、数々の作戦に参加した名艦の私を知らないって、あんた、もぐりでしょ!」

 

 さすがに水着はまずいので、マシュには霊基再臨第三段階の姿になってもらっている。

 もうひとりのマシュとの区別は腰布で、実はこっちの方がエロ…げふんげふん。

 運転している警官の視線がバックミラー越しにとても厳しい。

 視線を合わせないように外を……

 うん。

 霊体化して楽しそうについてきているモーさんが手を振っている。

 こんだけ派手に暴れられるのだから実に楽しそうだ。

 で、後ろのパトカーなりタクシーなりに乗り込んでいるが、カルデアの面々とロリンチちゃん。

 彼らにとっては今頃情報収集に勤しんでいるだろう。

 知って頭を抱えているかも知れないが。

 なお、完全に放置されたセイバー陣営はそのまま立ち去った。

 テロリストの共犯として捕まえてもいいのだが、あそこで更に一戦するのは嫌だったのと、露骨にセイバー陣営を潰すのを嫌がった征服王の不満そうな顔を見て見逃したというのが本音である。

 その征服王はまだまだシナリオが続いているので霊体化してついてくるらしい。

 おかげで、彼のマスターは手配したタクシーの中でまだ気を失っている。

 かわいそうに。

 

「到着しました」

「ありがとう。

 今夜は大変な夜になるよ」

「でしょうね」

 

 海上自衛隊の制服姿で俺達はパトカーを降り、爆発物解除の手配をしている本部に入ると確保していた女性と面会する。

 なお、マシュの盾はパトカーの後ろにくくりつけてきた。

 

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ女史ですね?」

「それを知って私を拘束する事。

 覚悟はできているのでしょうね?」

 

 堂々たる女帝ぶりだが、こっちはここで喧嘩をしたい訳ではない。

 状況から衛宮切嗣やケイネス教授が隠れてここに来なければならないのに対して、こちらはパトカーという緊急車両で堂々とやってこれた速さの勝利である。

 

「むしろこちらがお聞きしたい。

 貴方方はこの国の主権をどう考えているのかとね。

 分かっていますか?

 貴方方を殺すためだけにこのホテルを敵は標的にしたのですよ」

 

「そこまでにして頂きたい」

 

 声は落ち着いたふりをしているが、吐く息と額の汗が隠しきれないケイネス教授。

 事を荒立てないように必死に警備の警官や避難者たちを避けるように魔術を行使してきたのだろう。

 婚約者が拘束されたので奪還をと考えているのだろうが、彼ならば気づいているはずだ。

 隣のステンノとマシュがサーヴァントである上に、霊体化したモードレッドがうきうきしてこっちを見ている事に。

 

「こちらからも尋ねさせてもらう。

 聖杯戦争のマスターよ。

 これは君たちの仕業か?」

 

「だったらこんな事をしませんよ。

 護国機関ヤタガラス所属。

 入即出やる夫二佐相当官と申します。

 今回の聖杯戦争において、監視を名目にこちらに来ております。

 一応確認しますが、この爆弾、そちらが自ら仕掛けたのではないでしょうね?」

 

「何をバカなことを!

 互いに秘術を尽くしての決闘が聖杯戦争だろうに。

 こんな神秘を侮辱するような事を誰が行うというか!!!」

 

 激高するケイネスに俺は頭を下げる。

 とはいえ、彼は状況が圧倒的に不利なのは理解している。

 ここで俺を殺して逃亡するにはリスクが高いし、彼ご自慢の魔術工房はこのままではビルごと爆破の危機にある。

 手出しができないからこそ、彼は怒ることで状況を改善しようとしていた。

 こちらの思惑のままに。

 

「失礼しました。

 こちらが求めるのは今夜だけの一時休戦です。

 あの爆弾を解除しないと、貴方方も安心して眠れないでしょう。

 そのためにも、そちらの魔術工房を一旦解除して頂きたい」

 

「……承知した」

 

「こちらはお詫びの品です。

 今のあなた達には必要でしょうからね」

 

 そう言って、俺はケイネスに菓子箱を手渡す。

 中に入っているのはディスチャーム。

 魅了解除アイテムである。

 ケイネスの目がじろりと俺を睨むがそれ以上は何も言わずに彼はその菓子箱を受け取った。

 

「せっかくですから、もう一つ詫びを入れましょう」

 

 

 

「ケイネス先生。

 ……申し訳ありませんでした」

 

 十数分後。 

 双方のサーヴァント立ち会いのもとで、ケイネスに頭を下げるウェイバー・ベルベットの姿が。

 目が覚めた彼に事情を聞き、当たり前の事である聖遺物の強奪に対する謝罪である。

 余興ではあるが、ケイネスのプライドを刺激するのに十分だし、征服王の侮辱で腹が立っていた後でマスターが頭を下げるのだから、気分が良くならない訳がない。

 かといって許すわけでもないが。

 

「ウェイバーくん。

 この聖杯戦争では未だ敵同士だ。

 その発言を私は取り消すつもりはない」

 

 ピクリと震えるウェイバーだが、だからこそケイネスはここで彼を殺さない。

 彼のプライドが元弟子であるウェイバーの謝罪を受け入れざるを得ないからだ。

 そして、既にセイバーモードレッドとアサシンステンノを抱えるイレギュラー陣営が、盤上で暴れまくっている。

 話がわかる、または脅して指揮下における可能性があるウェイバーとの関係改善という打算が、彼に寛容を強制させる。

 

「とはいえ、君の行いは恥ずべきものだが、このようにビルを爆破しようとする外道ではない。

 君にはそういう魔術師にはなってほしくないと思っている。

 無事に生き残り給え。

 罰は与えるが、名誉回復の機会も与えよう」

 

 ウェイバーの謝罪の後、当たり前のようについてくるイスカンダルが俺に声をかける。

 

「なぁ。

 あの謝罪必要だったのか?」

 

「征服王。

 あんたは過去の人だが、あの二人は人間で未来がある。

 元々は師匠と弟子の関係だ。

 要するに、あんたのマスターはあの師匠に認められたかったんだよ。

 本人は分かっていないふりをしているがな」

 

「なるほどな。

 余もあったな。

 アリストテレス先生に認められたくて」

 

 当たり前のように出てくる歴史上の偉人の名前に俺は苦笑し、彼の肩を俺は軽く叩く。

 そんな自分が少し嬉しいのを自覚しながら。

 

「あの若造死なせるなよ」

「当たり前だ。

 余を誰だと思っている」

 

「やぁ。マスター。

 この姿でははじめましてだな。

 それでも、面影で分かったかな?」

 

 そんなやり取りをしていたら、ホテルから出てきたロリンチちゃんに俺は笑いかける。

 全てはこの企みのためでもあった。

 

「あのホテルにあった魔術工房は全部見させてもらったよ。

 複製は可能だ。

 特に君が欲しがっていた魔力炉についてもね」

 

 さすが万能の人。

 俺の企みに気づいて征服王が笑い出す。

 

「貴様もやるではないか!

 ああいう事をする理由の真の狙いは、彼らの陣地偵察だったか!!」

 

「もちろん、口止め条件として彼女の見てきた工房の情報を提供するがいかがかな?」

 

 征服王は実にいい笑顔であっさりと俺の企みに乗った。

 そして、ついに冬木ハイアットホテルは爆破されなかった。




アリストテレス
 ギリシャの哲学者であり、征服王の家庭教師。
 なお、彼の師匠がプラトンというまた凄い知の巨人。
 この征服王、その見かけによらず超英才教育を受けていた事になる。


 これを書くために『Fate/ZERO』を見直してるが征服王がかっこいい。
 そして衛宮切嗣が外道すぎる。

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