【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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第三者視点


Intermission その1

 衛宮切嗣の体の回復には時間がかかりそうだった。

 未遠川にて謎のマスターを狙撃した彼は銃が暴発し、両腕に大怪我を負ってしまったからである。

 アインツベルンの屋敷内に撤退した彼と久宇舞弥は、アヴァロンにて治癒を行わざるを得なかった。

 そんな彼が目を開けた時、彼の目に入ったのは愛する妻の顔だった。

 

「ああ。

 キリツグ。

 良かった。

 目が覚めたのね」

 

 抱きつくアイリスフィールを気にせず、彼は居るであろう久宇舞弥に声をかける。

 

「状況は?」

 

「考えうる限り最悪です。

 京都府警及び福井県警の機動隊、自衛隊第3師団第7普通科連隊の第1・第5普通科中隊が冬木市全域の警備に当たっています。

 夜間外出禁止令が発令され、街は実質的な戒厳令下に置かれています」

 

 まだ両腕が動かない衛宮切嗣の目に久宇舞弥は写真を見せてゆく。

 明確な武力。

 その象徴が威嚇である事を物々しく語っていた。

 

「戦車を持ち込まないかわりに、やっかいなものを持ち込んだものだ」

 

 鋼の巨人。

 TAことタクティカルアーマーの存在。

 さすがに舞鶴基地からは出していないが、その存在を誇らしげに見せつけていた。

 現代の戦場を知っているからこそ、衛宮切嗣は状況がまずいことを嫌でも理解する。

 現代戦において、ゲリラ側が正規軍に正面切って勝つ可能性は限りなく低い。

 

「未遠川の狙撃についても警察は調べだしています。

 いずれ辿られるのは時間の問題かと」

 

 狙撃失敗後、負傷した衛宮切嗣を連れて撤退した為に、現場の掃除ができなかったのが大失態だった。

 特に銃の暴発で広範囲に飛び散った部品と、負傷した衛宮切嗣の血は決定的な証拠になるだろう。

 

「あの倉庫街に現れたサーヴァントについては?」

 

「それだったら私の方から報告しよう。

 あの時、バーサーカーを抑えていたサーヴァントは私の息子のモードレッドだ」

 

 堂々と『父上』発言しているからセイバーが気づかない方がおかしい。

 そして、セイバーの直感は更に隠していたサーヴァントの存在を感じ取っていた。

 

「それと、あの鉄の船の中にサーヴァントが更に一体か二体。

 外に出ていたやつとは別のが居る可能性が」

「嘘!?

 この聖杯戦争はどうなっているというの?」

 

 アイリスフィールの悲鳴も今の衛宮切嗣には遠く聞こえる。

 三半規管もダメージを負ったらしい。

 セイバーが衛宮切嗣の傷の見立てを告げる。

 

「おそらく回復するのに二日。

 戦闘が行えるまでには三日かかるでしょう」

 

「そんなに待てない。

 今すぐにでも動かないと」

 

「駄目よ!キリツグ!!」

 

 起き上がろうとする衛宮切嗣をアイリスフィールが必死に止める。

 彼の体が戦闘できる体でないことは彼が一番わかっている。

 それ以上に正規軍が正規に法を行使して展開している状況で、三日が経過する事の意味を衛宮切嗣は嫌でも理解していた。

 キャスターに己の陣地に籠もられる方がまだましな状況。

 それなのに彼はアイリスフィールの魔術でまた眠らされる。

 

(駄目だ……奴に、奴らに三日の時間を与えるなんて……)

 

「安心してください。

 マスター。

 マスターとアイリスフィールは私が守ります」

 

 まったく安心できないセイバーの言葉を聞きながら、衛宮切嗣は意識を失った。

 

 

 

「はい。

 はい……ありがとうございます。

 では」

 

 冬木教会の言峰璃正は必死に状況改善のための手を打っていた。

 聖堂教会及び時計塔の政治力はこの時点では深く根を張っているからだ。

 それでも、発生したテロ未遂と港の戦闘が彼らの政治力行使を難しくしていた。

 

「そちらの言い分も分かる。

 だが、我々は魔術師同士が殺し合いをする事を黙認するとは言ったが、都市のど真ん中のホテルを爆破する事まで黙認した覚えは無いのだけどね」

 

 連絡をとった政治家の嫌味はまったくもって正しい。

 言峰璃正にとって致命的だったのは、爆弾テロ未遂の為に自衛隊が展開した事でそれが既成事実化されてしまった事である。

 現に展開したものを圧力で撤回するのは当然現場の自衛隊が泥を被ることを意味する。

 自衛隊の一部に不穏な動きがあると噂されている現状で、そのような命令を出すのは政治家にも躊躇われたのだ。

 彼らの保身と権益が時計塔と聖堂教会の買収という形で合意に達した結果はこのようになっていた。

 

「爆弾テロの犯人が逮捕された時点で自衛隊及び機動隊を撤退させる」

 

 犯人を用意してそれを血祭りにあげる事で、自衛隊撤退の言質をもらったに過ぎなかったのである。

 アインツベルンの莫大な金銭供与による買収にもかかわらず、ここまでしかできなかったというか、ここまで押し込まれていた戦況をなんとかひっくり返す算段がついたというべきか。

 

「父上」

 

 息子である言峰綺礼の声に言峰璃正は振り向く。

 笑顔を作ってその不安を払拭しようとしたが、状況は自衛隊のマスターに更に進められていた。

 

「アサシンからの報告です。

 近く確保したバーサーカーを昼間に間桐家へ特攻させて暴れさせるとの事。

 その件で間桐家に捜査の手が入るでしょう」

 

 言峰璃正は頭を抱えそうになるのをこらえるが、言峰綺礼は更に話を続ける。

 

「その際に令呪を全て消費する事をバーサーカーのマスターは承知しました。

 これで、キャスターに続いてバーサーカーが脱落する事になります」

 

 後始末を考えなければ、二騎目が勝手に自滅するだけの事。

 アーチャーの制御に難がある遠坂時臣を勝たせたい言峰璃正にとってはこの展開は悪くはないものである。

 間桐家で起こるテロ第二幕を見なければ。

 

「時臣くんは?」

「自衛隊のマスターに電話で挑発されていましたが、おちついてバーサーカーの自滅を待つようです」

「そうか」

 

 大丈夫だ。

 まだ戦いは序盤戦。

 地の利を得て時間をかけて準備した我々の勝利は揺るがない。

 そう思っていたのだ。

 言峰綺礼の次の発言を聞かなければ。

 

「自衛隊のマスターに保護されたサーヴァントを率いる者の中に、オルガマリー・アニムスフィアを名乗る者がおり、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと接触を……」

 

 

 

 聖杯戦争が全く違う盤上に変わる。

 その時、駒達はただ踊ることしかできない。

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