【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
遠坂家に向かう際に、強奪の顛末を聞くとこんな感じになる。
ルーラーと名乗るサーヴァントが遠坂家に襲撃し英雄王が迎撃。
ここでルーラースキル神明裁決が炸裂し、『ルーラーの下につけ』という命令を令呪にて受けてしまう。
英雄王は遠坂時臣に令呪を切ってこれに対抗するように命令するが、最後の令呪を切って英雄王を自害させる事ができなくなる事を恐れてこれを拒否。
元々仲の悪かった事もあって、英雄王は完全に遠坂時臣を見限ってルーラーと共に去ってしまったらしい。
「優雅たれ……か。
それで負けたら元も子もないでしょうに……」
思わず出た俺のため息に言峰綺礼は何も言わない。
かわりに返事をしたのは甘粕正彦である。
「そうはいいますが、人には譲れないものがあるでしょう」
「否定はしないけどな。
魔術師ってのはその譲れないものが、『根源への到達』だったはずなんだよなぁ」
遠坂家のもう一つの遺伝子レベルの宿命『うっかり』も絡んでいるのだろうが、遠坂時臣は魔術師としてかなり破綻している。
いや、この言い方はおかしいか。
人のふりをし過ぎている。
本気で獲りに行くのならば、間桐よろしく当主不死化というのも、アインツベルンよろしくホムンクルス量産というのも間違ってはいない。
けど、遠坂はそこまで人間を辞めていない。
その甘さが結局彼らを聖杯から遠ざけた。
「何かを手に入れる人間って、天才でなければどこか突き抜けていないといけないんだよ」
「ほう。
貴方もそうだったのですか?」
「それを狂気というか努力というかは別として、その最後の一線みたいなものを越えないとその天才の域に行けない」
「当代最高の陰陽師と名高い貴方のお言葉ならば、そうなのでしょうな」
は?
当代最高の陰陽師?
初耳なんだが?
「滅んだと思った陰陽師の家を出たと思ったら、西洋魔術にも長け、式神召喚すらおこなって、付喪神と女神を使役している時点で、こっちではそういう評価になっておりますよ。
クズノハでは適当な女子をあてがって、当代の葛葉ライドウにという声もあるぐらい」
俺がなんて言おうか困っている中、やはり言峰綺礼は何も言わなかった。
遠坂家は破壊されておらず、遠坂時臣も無事だった。
つまり、英雄王にとっては破壊する価値すら無いものだったのだろう。
そんな屋敷の中で、敗者となった遠坂時臣は優雅な椅子に似合わぬ姿でうなだれていた。
「ああ。
君か。
負けた私を笑いに来たのかね?」
ちらりと言峰綺礼の顔を伺うが、やはり奴の表情は読めない。
そんな彼は弟子らしく、師の遠坂時臣を気遣う声をかける。
「ご無事で何よりです。
まだ令呪は残っております。
野良サーヴァントを見つけて再契約するのならば、聖杯戦争に戻る事ができるではないですか?」
「それを俺の前で言うあたり、神父もなかなか人が悪いよな」
「はて?
何のことですかな?」
俺のツッコミと言峰綺礼のやり取りに気づいた遠坂時臣が俺の方を見てすがりつく。
その姿は優雅のかけらも無かった。
「頼む!
君のサーヴァントを譲ってくれ!!
出せるものは何でも出す!!!」
言峰綺礼の口元が歪みそうになったのを俺は見逃さなかった。
愉悦をする為には、希望を与えよときたか。
英雄王とのやり取りで自覚したのかしていないのかわからないが、その傾向は既にこうして出ていると。
「何で、正式参加者になるつもりもない俺に縋っているのかな?
遠坂時臣さん」
この姿を間桐雁夜が見たら、さぞ溜飲を下げる事だろう。
『この顔が見たかったのだ』と。
俺は遠坂時臣を突き放す。
「それよりも、あなたの子供だった桜ちゃんの一件、児童相談所に通報しておきました。
何らかの説明を求められ……」
「それが今必要なことなのかね?
間桐家と遠坂家の合意に基づいて行われた問題のない行為のはすだ。
そんな事は今話す事ではないだろうが!」
遠坂時臣の言動は魔術師としては正しい。
人の親としてはどうかと思うが。
詰まる所、彼の人格構成の根底は魔術師であり、その次が優雅であり、最後が人の親というだけで、追い詰められた彼は人の親と優雅という仮面を投げ捨てて魔術師として俺に縋っている。
滑稽で哀れで、その狂気にやっと彼が聖杯戦争の参加者たり得たと納得した俺が居た。
「こちらとしてはこれ以上何も話すことはない。
失礼させてもらおう。
言峰神父。
彼を落ち着かせて後日また話を」
「承知した」
ドアを開けて去ろうとする俺達に遠坂時臣の声が追いすがる。
その声を供養に俺は間桐雁夜の為に立ち止まって目を閉じるが、遠坂時臣にはその意味がわからないし、わかろうともしないのだろう。
「待ってくれ!
私は何を間違えたのだ!?
準備をし、万全の体制を整えていたのに……
待ってくれ………待て……」
「師よ。
とりあえず聖堂教会へ……」
その声もドアが閉まれば聞こえなくなる。
屋敷を出る間、ついてきていたステンノが楽しそうに笑う。
「私、ああなった人たちをたくさん見てきたわ。
知ってる?
彼らって最後は似たり寄ったりの道を辿って破滅するのよ」
くすくすくす。
考えてみれば、彼女も愉悦部員だったか。
「入即出二佐相当官。
よろしいか?
冬木ハイアットホテルで戦闘が発生した。
火災が起こったらしく、ホテルの人間が避難している」
甘粕正彦の報告に俺はため息を深く深くついた。
叢雲の船に戻るのはまだ無理そうだ。