【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
あれ?この組み合わせやばくね?
この叢雲、元は吹雪型駆逐艦なのだが、大体2000トンほどある。
で、この時期の海上自衛隊にはあぶくま型護衛艦があって、こいつと大体大きさが一緒らしい。
「じゃあ、出港しよう」
「!…出撃するわ!」
早朝。
まだ日も出きっていない。
俺の声に叢雲が返事をし、彼女が動かすことで乗り込んでいた自衛隊員の皆様がおおっと声を上げる。
「いやいや。
凄いものですな」
副長代理として乗り込んできた、新島三佐が感嘆の声を出す。
今回はデモンストレーション航海という事で、海上自衛隊の方をお誘いしたのだが、向こうからしたらこの船を叢雲が一人で動かすことがまだ信じられないらしく、かなりの人間を用意しての乗船である。
その数副長以下砲雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科の120名。
つまり、あぶくま型駆逐艦の運用人員をなんとか確保してきたという訳だ。
彼らの殆どは何もしなくていいことにびっくりしているが。
「間もなく浦賀水道に入ります」
そんな中、お仕事をしているのが船務科と航海科。
世界屈指の船舶過密地帯である浦賀水道だからこそ決まりごとは山ほどあるわけで、これを無視するわけにはいかなかったのである。
このあたりの人員を借りるかなと思っていたが、まさか船一隻まるごと運用する人間を用意してくるとは思わなかった。
叢雲曰く。
「最終的には、全部私一人でやってみせるわよ」
らしいが、その叢雲は艦をコントロールしつつ各科隊員の動きをしっかり覚えようと奮闘中である。
「艦長。
『よし』と言ってください」
「よし」
副長の耳打ちに俺は慌てて艦長らしく振る舞う。
後で聞いたのだが、ちょうどこの時期自衛艦同士の衝突事故があって、その修理中なので人が陸に余っていたらしい。
で、腕が錆びないようにという事で俺の誘いに大挙して乗り込んだと。
彼らは学園都市製造の全自動無人艦の実験という説明をしているらしい。
色々あらはあるが、そのあたりはうまくごまかしてくれるだろう。誰かが。
「おうい。
船長。
この機関はえらく調子がいいじゃないか!
こんなのは儂が乗った船ではとんと見なかったぞ!!」
無線越しに機関長に任命された爺様が闊達な笑い声をあげる。
機関だけは旧式なので、海軍に在籍していた元自衛官を引っ張り出してきたらしい。
それに若い機関科員を足して万一に備えているとか。
「失礼しちゃうわ。
私の機関がじゃじゃ馬みたいじゃないの!」
叢雲の言い方に艦橋内で失笑が起こるが、副長とちらと目線を合わせた時に、互いの思惑が交差する。
多分、俺に資格無しと判断されたら、俺からこの叢雲を乗っ取るつもりだったんだろうなぁと。
これもある意味デメリットと言えよう。
「艦長。
今回の航海を確認します。
浦賀水道沖を出て、房総半島沖の訓練海域へ移動。
そこで装備武装の訓練を行い、横須賀へ帰還。
よろしいですね?」
「ああ。
気楽に動かせるとばかり思っていたが、先は大変そうだ」
元が旧海軍の駆逐艦なので、今の時代と合わない所も多い。
その為、出港前にできるだけ準備という名の小改造が行われた。
艦内伝達の通信機器等は海自が保管していたお古を急遽持ってきて備え付け、医療器具とかもやはり最新式の医薬品に替えられた。
調理器具も新調し、何よりも大型冷蔵庫を備え付けそこに大量の食料が運び込まれた。
もちろん、おやつのアイスクリームつきである。
また、この時代ハンモックが当たり前だったのにとりあえず入れられるだけ兵員室にベッドをつけるあたり、自衛隊の隊員への福利厚生の高さを伺わせる。
なお、叢雲の乗員は219人。
今回乗り込んだ人員が120人である事を考えると、半分近くまで人が減らせているぐらい技術進歩が進んでいると言っていいだろう。
そんな中で何がありがたかったかというと、神棚である。
これは事情を知っているらしい美野原一佐が持たせてくれたものだ。
おかげで、叢雲とステンノの霊格が上がったとか。
何しろ、ステンノは種族『女神』であり、叢雲は種族『付喪神』である。
人の崇められる霊地をもらったようなものなのだろう。
このあたりの費用は後々の借りを作りたくないのでこちらが払うと言ったのだが、副長に押し切られてしまった。
「もらえるものはもらっておいて損はないですよ。
その分こっちもお願いしますから」
「それが怖いんだよ」
航海中に時間を見つけて、叢雲の士官室で各科の長を集めての親睦会の席のこと。
副長以下幹部と共に、俺と叢雲とステンノが作ってもらった食事を頂く。
ここまでほぼ自動で航海できているだけでなく、その叢雲がここに居て食事をしているのに、航海に問題が無いという時点で、ここに居る幹部自衛官たちも『この船やべえ』という認識は持ってくれたようだ。
「通信設備やレーダーがついていなくて最初はあせりましたよ」
船務長が話題を切り出して話が広がってゆく。
何しろ元が戦時の船だから、このあたりの技術進歩にはどうしてもついていけない。
民間船舶用レーダーを急遽用意したというが、製造元を覗いてみたら学園都市製だった。
「なっとらんな!
儂が戦争に出ていた頃はそんな船で戦ったもんだ」
機関長は己の青春が蘇ったようで闊達としゃべる。
声をかけた時は盆栽いじりしかしていなかったというのだから驚きである。
「装備は更新していきたいですね。
CIWSやハープーンやアスロックも欲しい所ですよ」
砲雷長が素直に言うが、俺は苦笑してその提案を断る。
「個人運営の実験艦扱いだからな。
純粋な戦力化は勘弁してくれ」
「失礼ですが、市ヶ谷の方では真剣にこの船を欲しがっているみたいですよ」
ぴくりと幹部自衛官たちに張り詰めた空気が流れる。
話を振ったのは副長の新島三佐だった。
あぶくま型の建造費用は250億円。
近代装備とかの改造費用がかかるだろうが、100億もかからないと見ている。
それでピカピカの無人運用可能なあぶくま型の護衛艦が手に入ると考えれば、その悪魔の誘惑をささやく人間も出てくるだろう。
「あら?
私はやる夫から離れるつもりはないわよ」
叢雲が俺に抱きついて拒否する。
それを見せつけて、俺は彼らに言ってのける。
「これがこの船の難儀な所で、対象者、つまり艦長に依存するんだよ。
俺から奪っても、この船はその時点で自沈するだろうな。
お世話になる以上、そちらのお願いも無碍にはしないよ。
とりあえずは腹を割って話そうじゃないか」
まだ互いに疑心暗鬼の中である。
話をして妥協点を見つけていけばいいという所で、叢雲がピクリと耳をそばだてる。
「艦長。
近くに潜水艦が居るわ。
二隻」
その声にざわつく幹部自衛官たちをよそに、俺はゆっくりと食事をとっておちつく。
この時点で潜水艦で探りにこれる勢力は二カ国しか無い。
海上自衛隊と米海軍だ。
「ステンノ。
こそこそついてくる人たちにいたずらできるかな?」
「やる夫を困らせるのも楽しいけど、そのやる夫を侮っている人たちが困るのはもっと楽しいわね。
いいわ。
やってあげる♪」
この場の幹部自衛官たちは何をしたか分からなかったが、後日、そこから叢雲が完全に姿を消した事を追跡していた潜水艦から知らされることに事になる。
学園都市製
何かあったら信頼と安心の学園都市製。
30年ほど技術が進んでいる設定だから、今のカタログを見れるのが楽で楽で。
民間レーダー
安いので20万円、高いので40万円。
CIWS
近接防御火器システム 価格6億円
ハープーン
対艦ミサイル 価格1発1億2千万円 システムまで入れても5億かからないかな?
アスロック
艦載用対潜ミサイル 価格1発1億2千万円 ハープーンと同じぐらいらしい。
これらの装備はあぶくま型護衛艦につけられていた。
そして値段が高いのが、レーダーと射撃統制関係。
このあたりを叢雲の艦娘パワーで補うという力技。