【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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第四次聖杯戦争あとしまつ その1

 結局の所第四次聖杯戦争は約一週間という速さで終わった。

 原作と違ってプレイヤーとしての人間のゲーム思考が、早期の同盟や襲撃を発生させると書いていたのはどのやる夫スレだったか。

 準備と後始末に莫大な時間がかかり、イベントは僅か一瞬の花火のよう。

 そんな聖杯戦争の後始末の時間である。

 

「書類。

 書類。

 書類……」

 

「ハンコ。

 ハンコ。

 ハンコ……」

 

「報連相。

 報連相。

 ホウレンソウ……」

 

 舞鶴基地に与えられた一室にて、膨大な後始末に追われる俺たち。

 穏便に片付けたと言っても、関係各所に出す書類は山のように発生し、俺と叢雲とステンノは末期戦よろしくその戦いに無駄な抵抗を続けることに。

 でっちあげるにしても、現場最上位指揮官だった俺がストーリーを作らないと齟齬が発生しかねないし、その齟齬でこの修羅場をきょとんと眺めているアマテラス様が露見したら目も当てられない。

 

「あ!

 それを持ってゆくのならば、我が……」

 

「私が持っていきますのでお座りください」

 

「はい……」

 

 立ち上がったはいいが、鬼咒嵐のインターセプトによって今日何度目かの天津神様のしょんぼりおすわりシーンを横目に、後始末という名前のでっちあげに奔走する俺。

 

「とりあえず、火山の噴火で片付けるとして、学者の調査とかはさせないように文部省に通達を」

「テロ事件については、間桐雁夜と雨生龍之介を犯人として公表して警察と話をつけるように」

「今回の出動にかかった経費のごまかし?

 大蔵省の入江執行官に聞いてくれ!!」

 

「海将補相当官。

 済まないが少しよろしいか?」

 

 こういう時に堂々と入ってくる甘粕正彦は度胸があると言うか、ある種納得すると言うか。

 書類から視線を上げて彼を見るとちょいちょいと指を振って俺を外に連れ出す。

 話すのは男子トイレ。

 個室にも誰も居ないのを確認した甘粕正彦は、要件を切り出した。

 

「上からの情報です。

 市ヶ谷が政府に激怒している」

 

 知ってた。

 ここまで現場に泥をぶっかけたのだから、むしろ怒らない方がおかしい。

 となると、先の話も大体見当がつく。

 

「一つ現地部隊を宥める策がある。

 基地祭の訓練と称して、栄誉礼を考えている。

 もちろん、あの神様へだ」

 

 この提案は既に舞鶴地方総監に伝えており、海自だけでなく展開していた陸自や空自、救助活動に参加した警察や消防も参加したがっているとか。

 あの降臨シーンを生で見たらそうなるだろうなぁ。

 ガス抜きにはちょうどいいイベントだろう。

 

「甘粕一尉。

 貴官が何を言いたいか、何に誘いたいかは薄々知っているが、それに参加するつもりはないし止めておけと言っておこう」

 

「分かっていて、告発しないのは?」

 

「あの政府の事だ。

 多分自壊する」

 

 人の悪いところと言うか、人の宿痾というか、腐れば腐るほどその腐臭に気づかずに立ち枯れてゆくのだ。

 それはもう自業自得だが、問題はその先だ。

 

「問題は米軍だ。

 俺の所にまで漏れている話がこうして放置されているのは何でだと思う?

 米軍はこれを機会に介入を企んでいる。

 そっちの方が目も当てられん」

 

 国家に真の友人は居ない。

 ましてやあの政府ならばそれこそ金がある間のみで、助けの手を差し出す国がどれだけあるのやら。

 そっちの対処だけで精一杯なのだ。

 

「……惜しいな。

 共に理想を目指して進んでいけると思ったのだが」

 

「それでも、この聖杯戦争では友であり共に戦った。

 それを俺は忘れるつもりはない」

 

 甘粕正彦は俺の言葉に少しだけ視線を反らせて、嬉しそうに笑った。

 

「それは嬉しい事だな」

 

 

 

「だから、アマテラス様の寝所をどうするか聞いているのよ!」

 

 長いトイレから帰ってきたら、皇北都がエキサイトしていた。

 その後ろでアマテラス様が意味もわからずオロオロしているのがかわいい。

 

「何だ騒がしいな?」

 

「ちょっと!

 いくら、アマテラス様をお呼びになったとは言え、その後を考えていないってどういうつもりよ!?

 寝所も決まっていないって、最高級ホテルぐらい取っておきなさいよ!」

 

 あ。

 キレイに忘れていた。

 何しろ呼び出した事が目的であって、呼んだ後の事は考えていなかったからだ。

 オロオロしていた当人の手にあるのは観光ガイドブック。

 見事なまでにバカンスモードである。

 

「寝所については伊勢に動座して頂きたく」

 

 何を当たり前のことをという顔で鬼咒嵐が言い切る。

 これはどうも宮内庁なり神社本庁なりヤタガラスなり関西呪術協会の既定路線みたいだ。

 こちらとしてもそれに異存はないが、アマテラス様の持っている観光ガイドブックのタイトルを口に出す。

 

「『初夏のグルメを独り占め!若狭湾の海の幸を堪能する旅行……』」

 

「口に出して読まないでください!」

 

 神様も一応こういう所は恥ずかしいらしい。

 なお、そのガイドブック、たっぷり付箋がつけられているのだが、全部食べる気なのだろうか?

 

「若狭グジ……鯵……太刀魚……越前うに……夏牡蠣……スズキ……」

 

 ごくりと叢雲の喉が鳴った。

 

「但馬牛……舞鶴の肉じゃが……海軍カレー……」

 

 ステンノも手を止めて神様が持っているガイドブックを見ている。

 

「地酒……丹波ワイン……山崎のウィスキー……」

 

 皇北都がうんうんと満面の笑みで策にハマった俺たちを見ている。

 けど、さすが伊勢の巫女は動じない。

 

「今日中にヘリの手配をお願いします」

 

「貴方には人の心ってのが無いの!!!」

 

 夕方、泣きながらヘリに乗る皇北都と天津神アマテラス様、その二人をヘリに押し込めようとする鬼咒嵐の姿が舞鶴基地にて確認された。

 その日の晩ごはんは宮津市まで出かけて、但馬牛のステーキと山崎のウィスキーという実に豪勢な夕食となり、当たり前のようについてきた征服王とウェイバー、モードレッドとドレイク船長の代金も俺持ちとなった。




Q アマテラス様伊勢神宮に行かないの?
A そこまで行かせるまでで力尽きた

栄誉礼
 ノリは一日基地司令。
 神様相手の規定なんて当然無いので、それで押し通す予定。

若狭グジ
 アマダイの事で和の最高級食材の一つらしい。
 ぐぐって出てきたのを出しているので、私は食べたことはない。
 けど美味しそうだな。

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