【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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洋上人狼 その4

「ありました!

 海保からの連絡で、交信に反応しないタンカーが一隻!

 帝国原油輸送所属『ムーンライト・エンプレス』。

 25万トンタンカーで、ペルシャ湾からの原油を積んで鹿島臨海工業地帯に向かうとの事。

 マラッカ海峡で海賊に襲われたそうですが、半年の交渉の後身代金を払って開放されたと……」

 

 その時点で入れ替わっていたんだろうよ。

 状況が切羽詰まっていたのに政治が邪魔をする。

 

「海保からの呼びかけに応じない場合、臨検を経て……」

「その間に、攻撃を受けたらどうするんだ?

 攻撃を受けるまで待てと?」

 

 梅津海将補が常識的段階を踏んだ対処を説明するが、デグ様はにべもない。

 眼の前で己の命まで危険にさらされているのに法も何もあったものじゃないだろうにという意見なのだろうが、梅津海将補の断言にさすがに毒を抜かれる。

 

「そうです!

 我々は、何があっても先に手を出してはいけないのです!!」

 

 正しくもあり間違ってもいる。

 それを頭ごなしに否定する気にはなれない。

 そう仕向けたのは、デグ様の背後にある星条旗であり、それを追認したのは民主国家である日本国民の総意なのだから。

 俺が横から口を挟んで場をかき混ぜる。

 

「真珠湾のお仕置きがキツすぎましたな。

 若狭湾に次いでこれです。

 半世紀かけて寝た子を起こしますよ」

 

「起こさないと、我々が死ぬのならば遠慮なく起こすさ。

 入即出少将。

 責任は私が取るから、貴官は貴官の最善となる行動をとり給え」

 

 さすデグ。

 この人のことだから、失敗でも成功でもうまく立ち回れるのだろうな。

 問題は、この瞬間俺が生き延びれるかどうかだ。

 

「その言葉、録画しましたからな」

 

「生きていたら、サインまでつけてやる。

 私は死にたくないから、対潜ヘリは出した!

 現時点を持って、『ムーンライト・エンプレス』とそこに隠れる潜水艦を敵対勢力と認定し、これを排除する」

 

 だが、敵の手の方が早かった。

 

「レーダーに飛翔体反応!

 ミサイルです!!

 目標は我が艦隊!!!」

 

「オールウェポンズフリー!

 全て叩き落とせ!!」

 

「ミサイルの画像出ました……

 ……これは、V-1です!

 二次大戦でドイツが使っていたV-1ミサイルです!!!」

 

 

発射されたミサイル          47発

途中墜落したミサイル         5発

遠距離で撃墜したミサイル      13発

近距離で撃墜したミサイル      26発

残りミサイル               3発

 

 

 V-1ミサイルの射程はおよそ250キロ。

 現代戦においてはほぼ至近距離からのミサイル飽和攻撃に1/3の艦の海軍戦術情報システムが潰されたのにも関わらず、できうる限りの防戦に努めたのは特筆に値する。

 特に、『みらい』の防戦は凄まじく、叩き落としたミサイルの大部分はこの艦の活躍無くしては語れない。

 太平洋戦争の神風攻撃の恐怖から始まり、冷戦時ソ連のミサイル飽和攻撃を迎撃する為に開発されたイージスシステムはその機能を十全に発揮していた。

 それでも、残ったミサイルは3発。

 これの1発でも空母イントレピットに当ててはまずいと覚悟を決めた俺はマシュ風に通信する。

 

「マシュ。

 頼む」

 

「はい。先輩」

 

 スキル『アマルガムコードD』発動。

 ミサイルのターゲットをマシュに。

 これでマシュの方にV-1ミサイルが向かう。

 そこで浜風の対空カットイン発動。

 

「これが駆逐艦の本分です!」

 

 それで何とか叩き落としたのが1発。

 残り2発。

 だから俺は、最後の切り札を切る。

 

「令呪を持って命ず。

 モーさん。

 宝具発動。

 ミサイルを全部叩き落とせ!」

 

「待ってました!マスター!

 此れこそは、我が父を滅ぼし邪剣。

 『我が麗しき父への叛逆』!!」

 

「ミサイル反応全て消失しました!」

 

 現在社会において実用化されていないビーム兵器まで使ってミサイルを全て処理。

 現代戦のスピードの速さを思い知る。

 

「諸君。

 気を抜くな。

 おそらく、この騒動に乗じて潜水艦が出た。

 タンカーへの攻撃および、潜水艦の排除に全力をあげよ!」

 

 デグ様の通信によって、引き締まる艦内。

 その間疑問が湧く。

 こちらの艦隊に手を出す場合、あのミサイルが本命?

 違う。

 実際艦隊には一隻も当たっていない。

 では、隠れて潜伏している潜水艦が本命?

 違う。

 自衛隊の対潜スキルは世界有数レベルだし、米海軍も対潜に手を抜く連中ではない。

 じゃあ、奴らの本命は何だ?

 

「陸じゃ大騒ぎになっているでしょうな。

 東京湾の真南で起こった海戦ですから。

 頭が痛いです」

 

 この状況そのものが奴らの狙いとしたら、現状は大成功と言ったところだろうか。

 また一つ、日米安保にヒビが入る結果となったのだから。

 

「こちら『イェルケル』。

 ターゲットのタンカーに向けてミサイルを発射する。

 5,4,3……緊急事態!

 戦術コンピューターシステムダウン!!」

 

「待て!

 ミサイルは発射されているぞ!

 目標は『叢雲』!!」

 

 そう来やがったか。

 潜った潜水艦が活躍するには、邪魔なのが俺の二隻という訳だ。

 潜った潜水艦は対潜ヘリの連中にまかせて、今はこのミサイルをなんとかしないと。

 

「ミサイルを叩き落とせ!」

 

「邪魔よっ!」

 

 まさかの味方からミサイル誤射だが、一発だけなら艦娘である叢雲が対処できない訳がなかった。

 最高レベルの叢雲の25mm三連装機銃集中配備☆10の銃撃は正確にミサイルを撃ち抜き、爆風を艦に叩きつけ衝撃が艦を揺らす。

 手近な物にしがみついた俺の耳に新島副長補佐が叫ぶ。

 

「損害報告!」

 

「各部異常なし。

 衝撃で何体かのハイデッカーが負傷。

 救護班が救護に向かっています」

 

「こりゃ、コンピューターシステムは全部やられていると考えるべきだろうな」

 

 俺のボヤキに、美野原主席幕僚が続く。

 まだ目の前の光景が信じられない顔をしているが幕僚の仕事は忘れていない。

 

「まともな戦闘行動が取れるのは本艦と僚艦のみと思われます」

 

 ならば、動ける俺たちで仕留めるべきと俺が口を開こうとして止まる。

 通信士が敵艦からの通信を報告してくれたからだ。

 

「敵艦から通信!

 今より本艦に攻撃を行った場合、東京にミサイルを発射する。

 なお、これは通常弾頭にあらず。

 繰り返す。

 これは通常弾頭にあらず」


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