【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
8時間というのは結構待たされる時間である。
同時に、敵タンカー突入の準備は着々と整ってゆく。
交代で仮眠をとっていたら、叢雲からヘリの着艦許可の報告が来る。
「で、相手は?」
「二機あって、一機はイントレピット所属UH-2B。
タンカー制圧作戦の乗員を送ってくるって。
英海軍のジェームズ・ボンド中佐とケイシー・ライバック大尉が率いる4人。
ライバック大尉率いる4人は全員元Navy SEALs」
そりゃデグ様だから海軍特殊部隊とのコネぐらいあるだろう。
実は突入作戦に際して一悶着あったのだ。
誰が指揮を執るかというやつで、俺は出れないので朧をリーダーにして突入班を編成する予定だった。
ここで政治が邪魔をする。
「海の事件なのに、何で陸自が出てくるんだ?」
ある意味当然の市ヶ谷からのツッコミである。
もちろんこの手の介入が大嫌いなデグ様が拒否をするが、じゃあそのためには米軍からも突入要員を用意しないといけない訳で。
これはコックであるケイシー・ライバックでいいだろうと俺たち二人共一致したまでは良かった。
上官とトラブルを起こして左遷された結果、彼の現階級が上等兵曹なのが問題だった。
パナマ侵攻の英雄で対テロ部隊の指揮官を下士官までに左遷させたあげく、戦艦ミズーリでの功績で戻さなかったのか戻せなかったのか知らないが、突入部隊の指揮官が上等兵曹なのはまずい。
何しろ陸自の突入班の朧は三尉、つまり少尉なのだから。
デグ様は野戦任官でとりあえずライバック上等兵曹を元の大尉にまで戻したはいいが、今度は首相官邸がいらない事をする。
「突入作戦において、神田旅団の隊員を送るので突入班は彼らの指揮下に入るべし」
俺とデグ様が頭を抱えたのは言うまでもない。
神田旅団は腐れきった対魔忍世界の首相直轄部隊で、その武力の行使においては秘密警察的な動きを平然とする連中である。
自衛隊からの動きはまだ日米安保を盾に言い逃れはできるが、首相自らの要請にはさすがのデグ様もお断りがしにくい。
何しろ、若狭湾ミサイル流出誤射事件に次いで、今度は米艦から護衛艦にミサイルが撃たれたのだ。
既に外交問題に発展しており、デグ様の政治力では何とかできるレベルを超えていた。
この事件解決に際して、神田旅団の隊員がそのまま俺を拘束粛清というシナリオもないわけではない。
ここで、俺が日米安保協調路線でなく、自主独立路線の人間だった場合、度重なる在日米軍の失策に付け込んで色々できるのだ。
首相官邸の動きは、その色々を首相に吹き込んだ誰かがいる事を確信させた。
ここで助け舟を出してくれたのがボンド中佐である。
「でしたら、私が突入部隊の指揮を執りましょう。
海軍の中佐が指揮を執るのですから、そちらの政府も文句は言わないでしょうし、言う場合は英国政府にです。
今の彼らが英国政府に物を言えるかどうか楽しみですな」
さすが稀代のスパイ。
聖杯戦争絡みでうちの国が買収された事をしっかり掴んでやがる。
この世界、時計塔なりイギリス清教なり魔法省なりHELLSINGなり魔法ゲートなり英国に色々集まっているから、かなり英国の地位が高い。
我が国の腐敗と米国の失態に喜ぶ英国という図も無いわけではないが、その英国は第二次アシカ作戦待ったなしだからなぁ。言わないけど。
「もう一機は?」
「海自のS-61A。
神田旅団の隊員を乗せているそうよ」
「先にUH-2Bを降ろす。
その後でS-61Aだ」
UH-2Bから5人の人間が降りてヘリが飛び去ってゆく。
その中で中佐の階級章をつけた色男に俺は手を差し出し、相手も笑顔のまま握り返す。
「入即出やる夫海将補相当官です。
護衛艦叢雲へようこそ」
「ジェームズ・ボンド中佐と申します。
私も結構遊んできたのですが、少将も中々色男ですな」
諧謔と皮肉はイギリスのDNAなのだろう。
とはいえ稀代の色男にそう言われるのも悪くない。
「おかげさまで、良い女を捕まえられたのでこうして司令官の真似事をしていますよ。
少し休憩してください。
もう一機到着したら、ブリーフィングを行いましょう」
そのまま今度はケイシー・ライバック大尉に手を差し出す。
ライバック大尉は流暢な日本語の挨拶と共に俺の手を握ってくれた。
「ターニャ・デグレチャフ少将から聞いている。
あんたが、俺を呼び寄せたそうだな」
「ああ。
うまい料理が食べたくてな。
得意なのだろう?」
「ああ。
どうせ作戦開始まで時間がある。
食堂を貸していただけるならば、それ相応のものをお出ししますが?」
「それは楽しみだ。
食堂の利用許可を出すから、美味しいものを頼むよ」
冗談で言ったのだが、本当に作り出すとは思わなかった。
なお、うちの食材で作ったブイヤベースは本当に美味しくて、叢雲とステンノが完食する出来だった事をここに記しておこう。
それからしばらくして、S-61Aが着艦し十数名の隊員が乗艦する。
「入即出やる夫海将補相当官です。
護衛艦叢雲へようこそ」
「的場毅二佐です。
入即出海将補相当官。
あな……」
「じゃあ……これならどうかしら♥」
的場二佐がステンノに魅了されて言葉を失う。
何かアクションを起こそうとした隊員達も動きを止めざるを得ない。
「ヘリに揺られてお疲れでしょう。
ブリーフィングまで時間があります。
食堂にて少しお休みください」
かくして、的場二佐と隊員達を送り出して、後部甲板のヘリポートに残ったのは一人だけ。
あきらかに自衛隊員でないその姿は少年兵のように見えるし、歴戦の兵士にも見えた。
「……あんた、一体何をした?」
「ちょっとした魔法さ。
官邸が作戦の主導権を求めて俺を拘束する可能性は考えていたからな。
予防させてもらった」
殺しはしないだろうが、拘束・監禁して指揮を官邸に一元化させる。
成功したら官邸の功績、失敗したら俺に押し付けて米軍と自衛隊を叩くという感じなのだろう。
首相官邸と自衛隊の間を察することができるならこの相互不信が何を意味するか言うまでもない。
自衛隊のクーデターフラグが順調に進んでいるという訳だ。
「あんたに貼り付けと言った山本さんの理由が今理解できたよ。
御神苗優だ。
あんた、何をやったんだ?」
アーカムの影響力の一端をさらりと見せてくれるスプリガンの派遣。
俺は苦笑して、真実を茶化して伝えることにした。
「強いて言うなら、女神様の尻拭いかな?」
最強のコックの元の地位。
今の上等兵曹は左遷された結果で、対テロ部隊の指揮官やっているのだからと階級を探すが不明。
よって類似作戦から探してみると、レッド・ウィング作戦(アフガニスタン)を見つけて、そこから大尉に設定。
官邸の思惑
自衛隊不審+自主独立路線議員と官僚の圧力+後ろで囁く警察官僚+『やる夫掣肘した方がよくね?』という関係者の嫉妬+事件は会議室で起こっている=クーデターフラグは順調に進行中
的場毅
『戦国自衛隊1549』。
福井晴敏作品の海兵旅団の生みの親。
この作品では、海兵旅団は生まれたけど権力闘争に負けて、神田旅団の幹部の一人なっている設定。
御神苗優
『スプリガン』。
聖杯がらみで派遣。
当事者の一人であるやる夫の調査が目的であり、最終目的は、冬木の大聖杯の保護なのは言うまでもない。