【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
「以上をもって、査問会を終了する」
その一言を敬礼して受け止めると市ヶ谷から来た査問委員たちが部屋を出てゆく。
それを見送って、俺は隣で弁護をしてくれたユーリア・ブラッドストーン大佐に握手する。
「助かりました。大佐」
「向こうも本気でないのは分かっていましたら。
儀礼的なものですよ。少将」
タンカージャック事件は世間を多いに賑わせて国会でも話題になっていたが、事が事だけに機密にしなければならないことが多く、公に発表できる情報は限られていた。それでいて、米艦の誤射ミサイルを俺の叢雲が叩き落としたシーンはTVに何度も放映されたので、反米感情が高まりつつあった。
それを機密でごまかすためにも、査問会を開いて落とし前をつける筋書きに俺が自ら志願したのである。
順調に進む自衛隊クーデターに際して、自衛隊側に恩を売るという訳だ。
この査問会で問題になったのは以下の箇所だ。
1) タンカージャック鎮圧作戦において、米国および英国との指揮連携は適切だったか?
2) 鎮圧作戦時に政府からの指示に従わなかったがそれはどういう理由なのか?
3) あの時自衛隊側の指揮命令系統は適切だったのか?
これに対して俺とブラッドストーン大佐は以下のように論陣を張った。
1)
あの作戦の指揮官はターニャ・デグレチャフ少将であり、彼女の最終決定及び自衛隊への要請に従ったまでである。
この件については、ターニャ・デグレチャフ少将の報告書を米軍より提出する。
2)
日本国排他的経済水域内で発生した今回の事件は、日本国の主導による事態の解決が望ましかったが、同時に日米安全保障条約の範疇に入ると米国は解釈している。
また、シージャックされたタンカーが第50任務部隊に攻撃を加えた時点で米国も当事者となった事を強調しておきたい。
とはいえ、日米間の連絡について問題があることは事実であり、これについては後日実務者協議を行う事を米国より提案したい。
3)
第50任務部隊は日米合同演習を行うために臨時編成された艦隊であり、それに参加した自衛隊艦艇はヤタガラス所属の入即出やる夫海将補相当官が指揮を執るといういびつな構成だった。
また、梅津三郎海将補に指揮を執らせるには国内事情による問題があり、第1護衛隊司令の衣笠秀明一佐も階級の都合上指揮を執る訳にはいかなかった。
そして、海将を出した場合は第50任務部隊のターニャ・デグレチャフ少将の権限を越えてしまうことになるため、任務部隊編成の最終指揮権がターニャ・デグレチャフ少将にある都合上、今回の措置は適切であったと主張する。
なお、米軍は任務部隊編成時にこの問題を考慮して入即出やる夫海将補相当官を少将として扱うと通達しており、次席指揮官として命令の混乱がないように配慮している事を強調しておきたい。
このような主張が認められたことで、無罪放免と相成った。
さすデグである。
本当に感謝するしか無い。
「ターニャ・デグレチャフ提督は今はソマリアですか?」
「ええ。
現地民兵を英戦艦ウォースパイトと共に吹き飛ばしている最中かと」
「お礼が言いたかったのですが、常に戦線に立っていますな」
「それこそ最高の褒め言葉です」
ブラッドストーン大佐は褒め言葉と取っているけど、皮肉だから今のは。
当人の哀れさを一端脇において、雑談という名前の情報交換を行う。
「ちなみに、話せる程度でいいのですが、海軍戦術システム、何処まで復旧しました?」
「横須賀に戻ってバックアップを入れ直した所まで。
何処に穴があったかは現在捜査中です」
「こちらも同じようなものです。
現在全艦艇のチェックに大忙しですよ」
戦闘時におけるクラッキングという最悪の事態が発生した今回の事件で、日米のシステム担当が悲鳴をあげたのは言うまでもない。
基地のコンピューターにすらダメージが出た今回の事件を契機に、慌てて全システムのチェックをやっている最中だった。
なお、そんなチェックにうってつけのハッカー集団であるスプーキーズを俺が手放す訳もなく、彼らを雇ってシステムのチェックに送り込んでいたりする。
という訳で、現在の横須賀基地で何かあった時に安心して即座に動けるのは『みらい』、『叢雲』、『浜風』の三隻だけという現状で、査問会で俺を切る事ができないという裏事情もあった。
「これは独り言ですが、ディノ・ディラッソ中佐の件、かなり闇が深くまだまだ広がりそうです」
ディノ・ディラッソ中佐は小悪党であるが、同時にその小悪党にこういう事を頼んだ誰かの所まで米国諜報機関はたどり着いていなかった。
何しろ、沖縄で秘密製造されていた『GUSOH』が奪われた件でCIAを始めとした米国諜報機関に粛清の嵐が吹き荒れている。
『GUSOH』が何処で使われるかわからない以上、未だ警戒は続けなければならなかったのだが、ミレニアムまで届いているのは俺とデグ様しか居ない。
そして、それを証明する証拠を見つけたいのだが、それを頼みたい諜報機関が……という訳だ。
完全に後手後手に回っている。
「動きたい所だが、こんな状況では動けんよ」
「無理に動く必要はないと少将はおっしゃっていました。
『ナチなら米国か英国だろうし、まずは自国は自国民で守るべきだ。
君は君の国を守りたまえ』とも」
そういう事をサラリと言えるからさすデグ信者が増えるのが分かっているのだろうか?あのお方。
会議室を出ると、場違いな少女が一人。
エルフ耳、麻呂眉、厚底ブーツの和服スカートというフェチズム極まる衣装で護衛を伴って待っていた。
(マスター。あれ、できるぞ)
霊体化してついてきていたモーさんが警戒する。
なお、副官のステンノは実体化してついてきているので、その少女に笑顔でガンを飛ばしていた。
なるほど。
ステンノ様と同系統のお方か。
「はじめまして。
ヨロシサン製薬の役員をやっております、古奈牙柳魅と申します。
この度は弊社商品を大量購入して頂き深く感謝申し上げます。
つきましては、自衛隊におけるハイデッカータイプ導入におけるお話を……」
いつの間にか、こういう接待を受ける側に立ってしまった自分に苦笑するしか無かった。
古奈牙柳魅
こなきば・やいみ。漢字は適当に当てた。
『ニンジャスレイヤー』
属性バーゲンセールだからこそ、迷わず登場。