【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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船頭多くして船山に登る その2

「知っての通り、海上自衛隊特殊任務群編成案を葬ったのは我々だ。

 入即出やる夫宮内省技術総括審議官」

 

「まだできていない省の役職で呼ばれるのは妙な感じですな」

 

「慣れておきたまえ。

 少なくとも、この国の神道系退魔組織の最上位現場指揮官として我々は扱うつもりではいる」

 

 俺の突っ込みなど室戸文明は気にする様子もない。

 俺が何か言う前に荒巻大輔が補足説明を加える。

 

「室戸さんは、省庁再編後、宮内省の事務次官となる予定になっている。

 今回の技術統括審議官のポストは室戸さんが強烈に推した結果という事を理解して欲しい」

 

 技術統括審議官は技官の最高位のポストであり、局長級の扱いとなる。

 今の自衛隊で同じポストを探すと舞鶴や大湊の地方総監となるから、感覚で行けば少将である海将補より一つ上という所だろうか。

 本人のあずかり知らぬ所でまた出世したものである。

 

「ただの護国組織の構成員が宮内省の技術統括審議官ですか。

 あちこちから妬まれそうですな」

 

「闇に隠れて生きているならばそれもまた良しだが、表に出た以上は表のルールに従ってもらおう。

 君は君が使役している艦娘との関係から、必然的に海自との関係を深めており、それを海自も歓迎する事については別に問題はない。

 とはいえ、君の本籍がヤタガラスであるならば、そちらを忘れないようにしてほしいという訳だよ」

 

 国を影から守っていた故に、そもそも公務員という意識すら無い護国組織ヤタガラス。

 その上に宮内庁というか日本神話の守護という名目からの退魔組織でしかないから、個人の力に依存して組織としての体を成していなかった。

 結果、クズノハみたいな血統と伝統のある退魔一族に依存せざるを得ないという状況に陥っていた。

 

「宮内省を警察の植民地にできたという所ですか。

 その段階で俺は自衛隊に傾きすぎている。

 排除は問題外である以上、俺の引き戻しに走ったという所ですかな?」

 

 俺の皮肉に室戸文明も荒巻大輔も動じない。

 そういう政治的寝技を駆使してこの国を守ってきた悪魔とは別の妖怪達が俺の目の前にいる二人なのだ。

 

「隠すつもりもないが、自衛隊内の一部組織に置いてクーデターの動きがある。

 自衛隊内でもその粛清に手間取っており、決起が発生した時に君が同調されると困るというのもある」

 

「俺はクーデターには参加しませんよ」

 

「米軍の介入を警戒しているからか。

 悪くない理由だがそれだけでは信用できないからこうして君を呼んだ。

 君は米軍の何を警戒しているのかね?」

 

 さすが警察官僚の頂点の一人。

 寝技も事前情報も全部準備してこちらを詰めに来ている。

 自然と苦笑していたらしく俺の唇が笑っていたのに気づいて戻す。

 

「米軍の核攻撃と言ったら信用しますか?」

 

「少し前だったら鼻で笑った所だが、ミサイルの誤射事件から日米安保が揺らいでいるのも事実だ。

 可能性は排除できないが、君はその米軍ともパイプを作っているはずだ。

 改めて聞こう。

 米軍の核攻撃。

 それはどのようなプロセスで発生すると思っているのかね?」

 

 荒巻大輔の質問に、原作とも絡みがあるなと気づいて俺は悪魔の話を振る。

 

「悪魔というのが情報生命体であるという理論が近年発見されて、その理論を元に悪魔召喚が飛躍的に容易になりました。

 荒巻さんの担当の言葉で言うのならば、悪魔もまた自立し実体化するプログラムであるという所でしょうか」

 

 荒巻大輔の顔色がはっきりと変わった。

 俺の言葉の意味を理解したからに他ならない。

 

「まさか、あのミサイル誤射が悪魔の仕業というのか?」

 

「残念ながら、あれは正真正銘のウイルスですよ。

 ですが、学園都市の人工衛星まで使用不能にしたパラダイムXの障害は悪魔の仕業です」

 

 あれを主導したのは俺なのだが、当然二人はそれを知っているだろう。

 だが、その過程で大活躍をした電霊ネミッサのことなどまでは彼らは知らない。

 

「あのタンカージャック事件では、ウイルスのせいで横須賀基地から市ヶ谷、挙げ句にはハワイ真珠湾にまで被害が及びました。

 そのウイルスが自立し進化し思考する。

 現在の悪魔というのはそういうものなのです」

 

 俺の言葉に二の句がつげない二人。

 愛国心もあるし権勢欲も無いわけではないだろう。

 とはいえ、この退魔組織というのがブラック確定の組織の体をなしていないと知っていたかどうかは怪しいところである。

 今更遅いと言えば遅いのだろうが。

 

「わかった。

 今から君の仕事は、そういう情報を整理しマニュアル化して、最低限神祇院だけでも戦力化させる事だ。

 くり返し言うが、我々は自衛隊のクーデターを許容しない。

 その上で君がこちらにつくのならば、それ相応の地位を約束しよう」

 

 現状技官最上位の技術総括審議官なのにまだ上があると申すか。

 顔に出ていたらしい俺に室戸文明は笑う。

 

「クーデターが起きない事が理想だが、起きても起きなくても上の椅子は大量に空く。

 その時、君がこちらに居たならば、好きな所に座り給え」

 

「えらく俺を買っていますね?」

 

 俺の苦笑に室戸文明は皮肉を含めてその理由を告げた。

 分かりやすい理由を。

 

「この手の政治的駆け引きができてかつ実力がある上に、政治的色がまだ比較的ついていないのが君しか残っていなかったというだけだよ」


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