【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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プリズマ・コーズ探索 その4

「どういう事か説明してもらいたいのだが?」

 

 この調査はトライデントと共同で行っているので、データはそちらにも送っている。

 で、トライデントの主力がルーマニアに行っているのでお目付けを残していったのだが、そのお目付けの名前がこのボーマン少佐である。

 御神苗優の師匠と言った方が分かりやすいだろうか。

 トライデントに移籍しており、その彼は叢雲の客人として俺と向き合っていた。

 露骨に殺気を漂わせているから、隣の木林が震えている。

 

「あの世界での件ですね?

 説明するのは吝かではないが、この話は最初から説明するとかなり長くなる。

 それでもよろしいか?」

 

 無言で頷くボーマン少佐を見て、俺はため息をつきながら説明を始める。

 聖杯戦争の資料を渡して彼がそれを読んでいる間に、叢雲が俺と木林とボーマン少佐にコーヒーを差し出す。

 あ。

 木林が聖杯戦争の資料に食いついた。

 

「ここに居る木林さんが仮説を立ててくれたパラレルワールドの概念。

 その元になっているのが聖杯というワードです。

 聖杯は願望機みたいに言われていますが、それだと説明がちょっと足りない。

 あれは、アカシック・レコードへのアクセス装置と言った方が分かりやすいでしょうな」

 

 声も出ないぐらい驚く木林に対して、ボーマン少佐は納得がいった顔をしている。

 アーカムが冬木の大聖杯の確保と封印を目指しているのは知っているからだろう。

 

「で、その聖杯がらみで見つかったこの世界。

 中々ふざけているでしょう?

 聖杯の元になった少女の内面世界と言った所でしょうか」

 

 もちろん嘘であるが、当たらずとも遠からず。

 美遊は生まれながらの聖杯なのだから。

 それを告げるつもりはないが。

 

「つまり、それがあの少女だと」

 

 木林が確認を取るので、俺は頷く。

 ボーマン少佐は別視点から俺に切り込んでくる。

 

「あの褐色肌の少女との関係は?」

 

「少しプライベートで付き合いがあってね。

 魔術とか魔法とかの話になるので、説明が難しいんだ。

 今回の話については脇道になるから省きたい。

 ボーマン少佐。

 今回の提携は、ターミナルの開発とゲート先の調査だったはずだ。

 そっちの話をしませんか?」

 

「判断するのはこちらだと言いたいが、とりあえずは話を続けてください」

 

 ボーマン少佐の促しに俺は間を取るためにコーヒーを一口。

 木林もボーマン少佐も手をつけていない。

 

「コーヒー冷めますよ。

 さてと、ターミナル開発については随時進めてゆくとして、ゲート調査の方の話をしましょうか。

 木林さん。

 報告をお願いしてもよろしいかな?」

 

「は。はい。

 この世界の広さと調査からいくつか分かった事がありました。

 まず、この世界が今の所ゲート以外と繋がっていない点。

 そして、無人調査や私が入った時は灰色だったのに、今はこうして世界に色がついている点。

 今の発言から、この世界が聖杯戦争と絡んだ何かがある点。

 こんな所でしょうか」

 

 木林はここでコーヒーを手にするが、震えているのでテーブルにこぼしてしまう。

 ボーマン少佐はコーヒーに手をつけもしない。

 

「以上の点から、私はこの世界を風船という感じに見立てています。

 我々の世界から、何かを取り入れて膨らんだ世界というイメージでしょうか」

 

 木林すげぇ。

 何も知らないはずなのに、当たらずとも遠からずでいい線を突いてやがる。

 

「『特異点』。

 あえて省いた魔術とか魔法とかの業界用語でこの異界をそう呼んでいるよ」

 

 ボーマン少佐が口を挟む。

 若干語意が強く、木林がたじろぐ。

 

「なるほど。

 この世界は、その魔術や魔法を知らねば分からないという事は理解した。

 では次に、紅魔館と時空管理局とやらについてご説明願いたい」

 

「少佐。

 その質問に答える前に、トライデントは何処まで他勢力の干渉をはねのけられますかな?」

 

「アーカムと対峙している我々と敵対できる勢力という事ですか?」

 

 ボーマン少佐の質問に俺は無言で頷く。

 少しの沈黙の後、俺は実にわざとらしく説明を始める。

 

「我々の目的であるターミナル開発。

 それを実用化した我々より技術が進んだ連中があの時空管理局ですよ」

 

「待ってください!

 そんな連中が今まで歴史に出てこなかったのはおかしい!」

 

 木林の叫び声に俺は実に楽しそうな笑みを作る。

 彼が程よい観客になってくれるから、こっちはうまく情報の取捨選択をしてボーマン少佐に話すことができるのだから。

 

「それは簡単だ。

 歴史に出る必要がない程度に、彼らにとってはこの世界は辺境だったという訳だ。

 彼らの世界の本拠は地球ではなく、別の次元にある。

 向こうからすると、地球もこのふざけた特異点と同じ辺境次元でしかないという訳だ。

 神隠しのいくつかが、彼らの仕業ですよ」

 

 ボーマン少佐が腕を組んで核心を尋ねる。

 この質問を彼は聞きたがったに違いないのだから。

 

「で、彼らと戦って勝てるのですか?」

 

「勝つことは難しくない。

 問題は、こっちは彼らの本拠を知らないのに、彼らは地球の次元座標を知っている。

 つまり、向こうからすれば面倒だからと地球ごと破壊しても困らないという所かな」

 

 アルカンシェルで地球破壊というのもありえるから困る。

 まぁ、次元震が怖くてそこまで踏み切る覚悟は無いだろうが、それは言わないでおこう。

 

「まぁ、彼らとはこの後共闘という形でその実力を見ることになると思うので、じっくり観察する事をお勧めしますよ。

 とりあえず、こっちの拠点は観測機器を残して退去する事をお勧めします」

 

「勝てるのですか?」

 

 木林の不安そうな確認に、俺は肩をすくめるしかできなかった。

 最悪、このプリズマ・コーズ世界ごとアルカンシェルで吹き飛ばす事も視野に入れているなんて言いたくなかったので。


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