ブートキャンプ……あれはやばかった
今日も元気に頑張るぞい!
ロビーのどこからか聞こえてきたその声に俺は何言ってんだ、と思い声の主であるナナを見る。
ソファに寝ころびながら楽し気に過ごすナナとロミオとフィル。ナナの手には昔あった言葉集という本があった。どうやらそれを見てさっきの言葉が出たらしい。
つうかナナ、お前、自分の履いてるズボン、どんなものか理解してるか? パンツ、見えかけてんぞ~?
「ナナ、いきなり何言ってんだよ」
「この本で書いてあったんだ! 頑張るときに言う言葉だって!」
いやいや、それ絶対違うでしょ! とツッコむロミオ。それについては俺も同意だ。
なんだ、ぞいって。どうみても舐めてるだろうが!
ナナはそんなツッコミどこ吹く風、頁を捲ると次は何かな~と楽し気に言葉を探し始めた。
いらん言葉を探すなよ。
「相手のゴールにショォォォォォォォっト!!」
間違いなくロビー内にいるやつら全員がビビった。間違いない、絶対にだ。後であれは没収だ、絶対にだ!!
「教官?」
「ええ」
帰投中のヘリの中、いきなりジュリウスに言われた次回お前教官な! 宣言に俺はしかめっ面になる。
別に教官を引き受けるのに問題は無い。問題は無いんだが……
「どうして俺なんだよ。基本というか全部お前に一任状態だったじゃねえか」
「ですが最近は俺が単独で行く任務も少なからず増えています」
「まあ、そりゃ仕方ないといえば仕方ないけどな」
確かに俺やジュリウスが単独で任務に臨むことは最近であるが増えてきている。
それもこれも中型のアラガミが増えてきているからだ。
何が原因なのか俺自身任務と並行しながら調査はしているが手詰まり状態。何一つ良い情報は得られていない。本部の方も調べてはいるそうだが音沙汰なし。
そうなるとジュリウスが言うように俺かジュリウスの単独行動が増えてくる。
理由としてはまだ新人や在籍しているメンバーの実力不足にある。
ナナは一撃が強いブーストハンマーを使いこなしてはいるが飛び道具であるブラストの扱いがなっていない。それにハンマーに振り回されているところが時々ではあるし、回避が遅れて被弾することも多々ある。
ギルは実力自体は問題ない。あのジュリウスを除いた4人の中では1番の安定感もある。だが何処か焦りを持ってるような感じがして行かせられないというのが現状。
フィルは伸びしろ自体はすごくある。いずれはこのブラッド隊の中で断トツの実力保持者になると断言できるくらいに。
何度か任務に同行してみたがいざという時は根性を見せるし、動きのキレも良し。状況判断力もまだ未熟ながらも備わっている。
が。不意を突かれたり、想定外の何かが起こるとすぐにパニくるところがある。
そうなるといくら伸びがあってキレもあると言えどソロで行かすわけにはいかない。 戦場はいつ何が起こるかわからんからな。
ロミオはそもそもどれをとっても未熟としか言えない。いや、伸びしろはある。将来ソロでそこらの中型大型を潰せるくらいに。
しかしそれは将来の話だ。今の現状ではまだまだ半人前。ソロなんて無理である。
後前に話したエミールもいると言えばいるが、ここに所属してるわけではなく、そう遠くないうちに所属の支部に帰るだろう。ならカウントに入れるわけにはいかない。
それに実力もまだまだ未熟だ。
このようにまだまだ問題のあるやつばかり。だからこそ、俺やジュリウスにお鉢が回るのだが……
「でもお鉢が回らないように俺もそれなりに潰しに出てるんだぞ? それでも足りないのか?」
「ええ。どうもそれを上回る速度で増えてきているようです」
「うわぁ……」
てことは何か? 叩きのめされて復活したアラガミ以外にも、新手のアラガミが来てるってことか? なにそれ嫌がらせ?
「分かった。今打てる手が部隊の実力の底上げしかないっていうなら俺も手を貸す」
「ありがとうございます」
しかし出来るのかねぇ。教官なんて前所属のあそこ以来やってないんだが…
俺は久方ぶりにすることになった教官を上手いことこなせるか不安に思いながらも帰投していくのであった。
次の日の朝、ロビーに集合したジュリウスを除くメンバーに全員に改めて挨拶をすることにした。
反応は薄い。まああいつら――ギルは除く――からしたら今更なわけだ。だって普段一緒に出撃しているから。
いまいちピンとこない様子のメンバー。まあどういうふうに変わるかは現場で体験してもらおう。これでも元は鬼教官と言われていたんだ。それなりの覚悟はしてもらうぜ。
「おらナナ! コンゴウ相手にいつまで時間かけてる! さっさと潰せ!」
「そんなこと言われても~~!!」
「寝言言ってんじゃねえぞ! 甘ったれたこと言ってるとこれからのお前の飯全部パンonlyにしてやるからな!!」
「それは嫌だ!!」
「ならささっと潰せ! フィル! お前動きが雑くなってるぞ! もうガス欠か!?」
「ま、まだまだです!」
「おうおう、だったらお前もさっさとコンゴウ潰せ! ギルなんてもうコンゴウ潰して暇こいてんだぞ!」
「やってやりますよぉぉぉぉぉ!!」
黎明の亡都にて早速特訓を開始したブラッド隊。
教官を務めている間、俺はよほどの緊急事態でない限り一切手出ししないようにしている。戦場において手を貸してくれる仲間が常に居るなんて甘えた考えを持つようじゃ先に待ってるのは死。常に己のみで戦うことになる場合もあるということを想定していかなければならない。
ちょっと嫌われるかもしれないがこれもあいつらが生存する確率を上げるためだ。
ジュリウスからは俺の判断で卒業を認定してかまわないと言われているので、ちゃんと出来上がるまで教えまくりである。もちろん、目標はソロで中型を狩れるようになること。これが出来れば晴れて卒業だ。
そうこうしているうちにナナ、フィル共にコンゴウを倒し、俺とギルに合流する。
「お疲れ。どうだ、最速を目指感じは」
「大変です。今までの戦い方を一から組み立てて、如何に素早く、無駄なく、損害なく…単独での戦いとは難しいです」
「だろうな」
「だねぇ。でも何か掴めそうでちょっと達成感があるよ」
「そう思えるなら良い兆候だ」
正直悪態の一つでもつかれるかと思ったが、予想外にも真面目に取り組もうとしている。少しうれしい誤算。
「そういえばロミオ先輩はどうしてこなかったの?」
「ああ、あいつか。あいつならジュリウスと訓練に行ってる」
全員を一度に訓練できるわけではないからな。ある程度はジュリウスと分担してやることになっている。
「それにしてもあれだよね三島さん」
「ん?」
「慣れてる感じがするというかなんというか」
「あ、そうですね。まるで前にもやったことがある感じがありました」
「あ~……」
痛いところを…。
所属していたということだけなら行っても問題ないだろうが、変に軽く言うと何かの時に困りそうであれだしなぁ。
悩んだ俺はとりあえず軽く言うだけにすればいいだろうと判断し極東の方でな、と手短に答えた。
「へ~! 極東でですか!」
「ああ」
「どうりで慣れてるわけだ。あんたすげぇな」
「そりゃどうも」
「すごい!」
「ありがとよ。ほらほら、さっさと帰るぞ」
これ以上聞かれるのはこっちとしては面倒なので話を切るような感じで帰投の準備を指示する。
俺も準備を始める。