鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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ちょっ、待っ!?お、お気に入り75件ですと!?

本当にありがとうございます!!
それにしても皆様、この「日本国召喚」好きすぎるでしょ…。

それとも、皆様愛国心をお持ちなのでしょうか?
それならば、その愛国心に応えねば!(使命感)

てなわけで、ここからは陸上戦メインになります。
さて今回は、第二次世界大戦を模したとあるオンラインゲームに出てくるセリフを1つ、出したのですが、見つかりますか?



009. 基地から出ずに敵を叩く

 中央暦1639年4月28日、クワ・トイネ公国(じょう)(さい)都市エジェイ近郊 ロウリア王国東方征伐軍(せん)(けん)部隊陣地。

 ロウリア王国軍中枢における会議の決議として、「ロデニウス大陸沖で海軍と竜騎士団が大敗し、多数の軍船と全ワイバーンの7割を失った」という情報は、前線の士気の低下を招く危険があったため、ロウリア王、将軍パタジンといった軍の高級幹部を除いて、誰にも知られないよう情報統制された。

 しかし、ギムで少しだけ休みながら食糧を調達して、それから電撃侵攻するつもりが、急に方針転換してギムを拠点化したり、ワイバーン隊へ支給される食糧が減ったりしたことから、前線で戦う将兵たちは事情を知らないなりにも、違和感を抱いていた。

 

 その前線に立つ部隊の1つ、ロウリア王国東部諸侯団の先遣隊では衝撃が走っていた。精鋭のホーク騎士団の中で、先行して威力偵察にあたっていた第15騎兵隊100騎が、急に消息を絶ったからだ。

 陸戦において、騎兵は竜騎士に次ぎ、弓兵と並んで有力な兵科である。馬による機動力は、ワイバーン以外の追随を許さないからだ。早い速度で展開し、敵の兵列を食い破ったりすることもできる。偵察もお手のもの。

 そんな有力な兵科である騎兵隊が、一度に100騎も消息を絶つとは、どうしても考えにくい。いくら敵が大軍で包囲したとしても、1騎くらいは帰ってきそうなものである。

 どうも、何かがおかしい。

 

「何かおかしいとは思わないか? 我々は本当に、クワ・トイネの()(じん)どもと戦っているのだろうか? (どう)()ワッシューナよ、どう思う? 意見を述べよ」

 

 クワ・トイネ公国領内に侵攻中の、ロウリア王国陸軍・東部諸侯団。その先遣隊の隊長、ジューンフィルア(はく)(しゃく)は、(かたわ)らにいる魔導士ワッシューナに意見を求めた。

 

「はい。現場を見ていた生存者がいないので、詳細は不明ですが、魔力探知には一切反応がありませんでした。ですので、ワイバーンのような高い魔法力を持つ生物の使用や、高威力の魔法の使用はなかったと考えられます。しかしそうなると、どうやって100騎もの騎兵を消滅させられるのか、全く想像ができません。ただ……」

「ただ?」

「聞くところによれば、パーパルディア皇国には魔導砲なる武器があるそうです。なんでも、魔力を使って当たると爆発する物体を射出するんだとか。これを()()()使()()()()撃てた場合、理論的には今回のようなことが起きる、と考えられます」

 

 ジューンフィルア伯爵は、これを聞いて驚いた。

 

「なんと、列強にはそんな武器があるのか! 流石(さすが)だな」

「ただ、今申し上げた方法はあくまで『理論』です。実際には、魔力なしで物体を飛ばすとなると、矢のような軽いものを飛ばすが限界です。重いものは飛ばせないでしょう。まして、我が国にできないことがクワ・トイネにできる、とは思えません。そう考えますと、今回の騎兵隊の(しっ)(そう)は、神隠しにでも遭ったとしか思えないのです」

「なんとも、現実味のない話だな」

「ただ、100騎もの騎兵がいなくなったのは事実です。敵の攻撃であると判断し警戒すべきです」

「うむ。軍隊は、常に最悪のケースを想定して動くべきだからな」

 

 ジューンフィルアはそう言いつつ、前方2㎞ほどのところに見える2つの物体……20メートル以上の高さを以てそびえる城壁と、そこから少し離れたところにある、いくつかの建造物を見た。

 城壁は彼らの攻略目標である要塞都市エジェイ。そして建造物は、城壁近くに設けられたクワ・トイネ軍の野営陣地と思しきものである。野営陣地にはクワ・トイネの国旗に混じって、全く見たことのない、“赤い太陽を描いた白い旗”が上がっていた。

 

 

 エジェイは、クワ・トイネ公国が来るべきロウリア戦に備えて建設していた巨大な要塞である。都市そのものが要塞と化しており、街全体が高さ25メートルの城壁で囲まれているため、簡単には破られない。さらに、これを破られたとしても、あちこちに侵入者を阻む機構が設けられ、敵に多大な出血を強いるようになっている。

 城内には水源も確保されており、平時から大量の食糧を備蓄しているため、籠城戦も可能である。

 そしてここに駐屯するクワ・トイネ公国陸軍は、西部方面師団3万人(歩兵2万、弓兵7000、騎兵3000)と、精鋭のワイバーン50騎。ワイバーンがいるので、空からの攻撃にも対応できる。

 まさに鉄壁、という感がある。いかなる大軍を以てしても、ここを攻め落とすのは不可能に見える。

 

 ……まあ、タウイタウイの部隊ならどっかの暑がり空母艦娘の言う「(がい)(しゅう)(いっ)(しょく)」なのだが、それは言っちゃいけないお約束。

 

 そのエジェイの城壁の上から、クワ・トイネ公国陸軍西部方面師団長ノウは、2㎞ほど先に布陣したロウリア軍を見て、歯ぎしりしていた。

 

(くそっ、奴ら、嫌らしい手を使ってきやがる……!)

 

 ロウリア軍が布陣したのは、つい2日前。

 目視した限り、数は約2万というところである。数からしておそらく先遣隊だろう。今のところ攻めてくる様子はない。本隊の到着を待っているものと思われた。

 ところが、何もしてこないのかと思いきや、昼夜問わず300人ほどを城壁の弓の届かない距離まで接近させ、さんざん暴言だの煽り文句だのを吐いて撤退する、という示威行動(あるいは挑発か)を繰り返している。数が数なので、本格的な侵攻かどうかを判断するのは難しいし、この精神攻撃で兵士たちの心が休まる時がない。兵士たちは多大なストレスを受けており、(しょう)(すい)しきっている。これでは、本格的な侵攻があった時に、全力を発揮できるわけがない。

 そして厄介なのは、それだけではなかった。

 

(日本軍の奴らには、陣地から出るなって言ったんだよな……。くそ、こうなるとわかってれば、日本軍をロウリア軍にぶつけて、どっちも消耗させることもできたものを……)

 

 クワ・トイネ公国政府と軍部が、応援として日本国の軍隊を寄越してきたのだが、今のところその日本軍が役に立っていないのである。

 日本軍の司令官が、最初に西部方面師団の司令部を尋ねて挨拶をしに来たとき、ノウは、「ロウリア軍は我々が片付けるのであなた方は陣地から出ることなく、こちらの後方支援をしていただきたい」と言ったのだ。支援といえば聞こえはいいが、2㎞も離れていたら弓も魔法も届かない。実質役に立たなくなるのだ。

 そう、ノウは、意訳すれば「ロウリア軍の相手は我々がやる、お前たちは何もせずに引っ込んでろ」と言ったのだ。相手にもここの守備を任されたプライドがあるだろうことを分かった上で。

 こんなことを言った理由は()(ごく)単純。ノウが、日本軍のことを快く思っていなかったからである。日本はこちらの領空を侵犯し、力を見せつけた後で接触してきた。さらに国交が締結されるや、その軍がクワ・トイネ各地を歩き回っている。政府の許可が出ているとはいえ、ノウは他国の軍が自国領内を歩き回っているのを見て、いい気はしなかった。さらに言うと、今回日本軍が送ってきた兵士8,000名という数も、クワ・トイネ西部方面師団の兵力から比べたら()(へい)でしかなく、やる気があるとは思えない。そのため、あんなことを言ったのだ。

 だが日本軍の指揮官は、今のところノウの要請を馬鹿正直に守っていた。エジェイに、観測要員として20人ほどの人員と観測に使うらしい何かの機材を置いただけで、日本軍は陣地に籠って()()()()()()()。それがまた、ノウの癪に触る。

 

 とその時、ノウのもとに伝令兵が1人やってきて、報告してきた。

 

「司令! 日本軍より、通信が入りました」

「読め」

「は! 『現在、エジェイ西方約2㎞に屯している軍勢は、全てロウリア軍で間違いないか? また、その近辺にクワ・トイネ軍の兵士はいないか? いないのであれば、あの軍勢を攻撃したいのだが、よろしいか?』とのことです」

 

 ノウは眉をしかめ、チッと舌打ちをした。

 

「基地から出るなと言うのに……なんだ、奴らやっぱり手柄が欲しくなったのか。まあいい、許可すると伝えろ!」

「はっ!」

 

 伝令兵は退散した。

 ノウは、ロウリア軍と日本軍を見比べ、心の中で呟く。

 

(2㎞も離れては、何もできやしないというのに……。まあ、日本軍がどんなことをやって赤恥をかくか、高みの見物としよう)

 

 

 ノウから許可を得たことを確認すると、日本国陸戦隊「クワ・トイネ救援軍」の司令官である堺は、直ちに戦闘態勢の指示を発した。

 

「全隊、砲撃用意! 観測員は正確な情報を提供し、砲兵隊に標的を指示せよ!」

 

 伝令が飛び交い、次々と大砲が敵陣を向く。九〇式野砲、九四式37㎜速射砲、八八式75㎜野戦高射砲、九六式15㎝榴弾砲……それらに混じって、妙なものが動く。

 それは、短い鉄骨でフレームを作られた、何かの発射装置と思しき、三連装の四角い物体だった。それが12個ある。それぞれの中には、九六式15㎝榴弾砲の砲弾よりはるかに大きい、直径30㎝ほどの円筒形の物体が収められている。

 それは、第三帝国謹製の多連装ロケット砲、ヴルフゲレート42。そう、艦◯れ提督諸氏にはおなじみの対地攻撃兵器「WG42」である。

 

「各隊、砲撃準備よし!」

ロケラン(WG42)は待機しろ! その他は、全砲門開け!

砲撃開始! てーっ!」

 

ズドオオオォォォォォォォンッ!!!

 

 堺の命令が下ったその瞬間、日本軍の砲が一斉に火を吹いた。大小の火砲が敵陣に向けて、死を招く砲弾を撃ち出していく。

 砲声が止むと、今度は敵陣のほうから爆発音が響いてきた。同時に、猛烈な黒煙が敵陣のど真ん中から立ち上る。これで敵を驚かすことはできたはずだ。

 

「ロケラン1番、用意!」

 

 1番隊の「WG42」が上下角を調整し、敵陣に照準する。

 

「ロケラン1番、てぇ!」

「発射!」

 

バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

 

 特徴的な音と大量の白煙と、まばゆい光を発して、6発の30㎝ロケット弾が発射される。

 「WG42」の前身となった15㎝六連装ロケット砲「ネーベルヴェルファー」は、発射すると特徴的な音と光と煙とで、位置がすぐにバレたという。「WG42」も根本が同じ兵器である以上、性質は変わらない。この派手な演出で、敵のヘイトを完全に稼げただろう。

 

(さあ来い、ロウリアのクソ野郎ども。まとめて蜂の巣にしてやるから……!)

 

 堺は相手を睨み付けた。

 

 

「司令、挑発はなかなかに効いているようです」

 

 部隊からの報告をまとめてきた幹部に、ジューンフィルアは満足そうに頷いた。

 今回命じられた任務は、ロウリア軍の本隊がくるまでに、どんな手を使ってでも相手の軍を弱らせておくこと。そのため、彼はその手段として精神攻撃を選んだ。今のところ壁外の敵陣も沈黙しており、何もしてこない。

 敵軍は、この精神攻撃で憔悴しているだろう。対してこちらの兵士たちは、ギムで奪った旨い食糧を食べぐっすり休んでいる。士気も十分だ。

 

(これなら、遠からず敵も参るだろう。もしかすると、本隊が到着する前に敵を片付けることもできるかも……)

 

 ジューンフィルアの思考は、唐突に中断させられた。

 エジェイの隣の敵陣地…赤い太陽の旗を掲げたその陣地が、いきなりパッと光ったのだ。

 

「何だ?」

 

 呟いた時だった。

 

ドーン!

ドカーンドカーンドカーン!

 

 ものすごい音と光と炎と衝撃が、自陣を襲った。

 これまで苦難をともにし、同じ訓練を一緒に受けて、同じ釜の飯を食った仲間が、訓練で培った技量を発揮する前に木っ端微塵に吹き飛んでいく。

 

「な!?」

 

 ジューンフィルアは、敵の陣地を見据えた。今の攻撃は間違いなく敵陣からだ。エジェイからではない。

 

「ワッシューナ!」

 

 彼は、すぐ近くにいた魔導士ワッシューナを呼ぶ。

 

「はっ!」

「なんだこの攻撃は!? 新手の魔導か!?」

「いえ、魔力反応は確認されていません! そんな……馬鹿な……」

 

 顔面蒼白で呟くワッシューナ。

 

「なに!? ではこれは魔法ではないと…!?」

 

 なおも吹き飛ばされていく仲間たち。

 ふいに、ジューンフィルアは気付いた。

 

「こいつだ! 多分、こいつらかその仲間が、第15騎兵隊を殺ったんだ!」

 

 実はジューンフィルアのこの推測、正解である。

 今ジューンフィルアの隊に猛烈な攻撃を食らわせているダイタル基地……その一角で、第15騎兵隊を壊滅に追いやった張本人が、シュトゥーカのエンジンを回して出撃の時を待っているのだ。

 

「おのれ……!」

 

 ジューンフィルアが叫んだ直後、

 

バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

 

 独特の音とともに、光と大量の白煙をばらまいて“何か”が発射され、こちらに飛んできた。

 これまでのよりさらに大きい炎が発生し、一瞬で100人以上がもの言わぬ骸と化す。

 ジューンフィルアは、完全にキレた。

 

「おのれ、馬鹿にしおって!

全軍前進! あの陣地を揉み潰せ!」

 

 号令とともに、ロウリア軍は歩兵も騎兵も、一斉に敵陣へと殺到し始めた。

 

 

「ロケラン着弾! 敵、こちらへ向かってきます!」

「よぅし、食い付いた!」

 

 観測員からの報告に、堺は頷いてさらに指示を飛ばした。

 

「全門、今の要領で一斉砲撃を繰り返せ! 敵を挑発し、惹き付けて叩く! 戦車隊、前進よーい!」

「各砲、撃ち方用意できてます!」

「てェ!」

「発射!」

 

 またも全砲門から、死が撃ち込まれた。1.5㎞ほど先のロウリア軍が、猛烈な爆炎に包まれる。

 

「ロケラン2番、撃て!」

 

 6発の30㎝ロケット弾が、空を切って飛翔する。着弾と同時にすさまじい量の黒煙が発生し、敵軍はその向こうに見えなくなった。

 

「第3斉射、砲撃準備! 砲撃と同時に、戦車、前へ(パンツァー・フォー)! 歩兵隊は全員配置! (なが)(しの)の戦いの再来だ、奴らを蜂の巣にしてやれ!」

 

 命令を受けて、歩兵隊妖精が一斉に動き出す。塹壕に入った機関銃中隊は、九六式軽機関銃を塹壕の外に突き出し、他の歩兵が次々と三八式歩兵銃を持って塹壕に入る。建造物の屋上によじ登った狙撃兵が、九七式狙撃銃のスコープを覗き、(ざん)(ごう)を掘った土で作った()(るい)の横で、八九式重擲弾筒が構えられる。

 そして、戦車壕にダックインしていた八九式中戦車や、「士魂部隊」の九五式軽戦車ハ号、九七式中戦車チハがぞろぞろと出てきて、車列を構成し始めた。

 

「チハ改とハ号は背面機銃で応戦せよ。チハと八九式は、ひたすら榴弾を撃ちまくれ!」

 

 号令が飛ぶ。

 戦車隊と擲弾兵たちは砲撃の目印…距離800メートルを示す、最も外側に設置した鉄条網に、その狙いを定めた。

 その間にも砲兵隊は、一斉砲撃とロケット弾発射を交互に繰り返し、確実に敵の兵力を削り取っている。

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

 クワ・トイネ公国西部方面師団長ノウは、呆然としたまま呟いた。

 日本軍の陣地からものすごい威力を持つと端から見てもわかる、大量の“何か”が投射されたのだ。それは、次々とロウリア軍陣地に命中し、野営建造物だろうと人だろうと馬だろうと、粉微塵に吹き飛ばしていく。

 

「何なのだ、これは!? 日本軍は全員が魔導士だというのか!? いや、8千名の魔導士を動員してもこれほどの爆裂魔法が発動できるはずが…!」

 

 ノウの独り言は、大量の白煙を撒き散らして飛翔した何か……「WG42」の30㎝ロケット弾により、強制中断させられた。

 

「あ、あんなことまで……! だ、だが、あれだけ派手な真似をしたら、敵の全員が日本軍に向かうはずだ。あれだけの威力の魔法、斬り合いのような至近距離では撃てないのでは……?」

 

 さすがノウ、将軍なだけあって鋭い考察である。

 ノウは、日本軍と敵の動きに目をやった。日本軍は、()()()()()()()()()()。対してロウリア軍は、全軍が日本軍陣地に殺到しつつあった。

 

「やはりな。さて、どうなる……?」

 

 

「進め!」

 

 ロウリア軍の先遣隊9千は、司令官たるジューンフィルア伯爵の指令の下、太陽の旗を掲げた敵陣めがけて突進していた。本当は2万いたのだが、さっきからの攻撃で半数以上が吹っ飛んでしまっている。吹き飛ばされた者は、誰一人生き残っていない。

 速度の差から、騎兵隊が先に飛び出していく。その後ろに歩兵隊が、さらにその後ろから盾を構えた重装歩兵隊と魔導士が続く。

 

「突撃! 第15騎兵隊の敵討ちだ!」

 

 先頭を走るホーク騎士団長ホーク、身長190㎝に迫る堂々たる体躯を持つ男は、部下たちに吼えた。

 第15騎兵隊隊長、赤目のジョーヴ。素行は決してよくはなかったが、武芸と勇気という意味では、頼りになる部下だった。なんだかんだ言っても家族の一員、というような感じはしていた。それを失ったのは、まあまあくるものがある。

 

(家族を殺した償いは、てめぇらの死で担ってもらう!)

 

 ホークはそう考え……足元に気付くのが遅れた。

 

 次の瞬間、馬は何かに引っかかり、悲鳴をあげて転倒する。その拍子に、ホークの体は前方へ放り出された。

 

「うぐっ!」

 

 10メートルばかりも宙を舞った後、地面に背中から叩きつけられ、ホークの唇の間からうめき声が漏れる。

 悪態をつきながらホークが振り返ってみると、地面には奇妙なものが設置されていた。4本の杭を地面に立て、その間に細い銀色の線をぐるぐる巻き付けている。よくみると、その線にはトゲが付けられていた。馬はこれにひっかかったようだ。

 

「団長!」

 

 部下の1人が、馬を操って障害物を飛び越え、こちらに駆け寄ってくる。

 

「団長、ごぶ……」

 

 ご無事ですか、と呼びかけてきた部下は次の瞬間、馬ごと爆炎に包まれて吹き飛んだ。有効射程800メートルを誇る日本軍歩兵携行型の軽迫撃砲「八九式重擲弾筒」から放たれた擲弾が、みごとに命中したのだ。

 大気を裂く滑空音と共に、空から雨霰と擲弾が降ってくる。

 

「くそっ!」

 

 馬はいなくなったが、自分の足がある。鎧を着ていたせいもあってか、奇跡的に背骨を折りはしなかったようだ。

 ホークは、自分の足で走るべく立とうとする。騎兵隊や歩兵隊の一部は、すでに敵陣に肉薄しつつあった。

 が、それ以上の接近は許されはしなかった。

 

「撃ち方はじめ!」

 

 どこからか号令が響くや、

 

ズダダダダダダダダダダダダダ!!!

 

 猛烈な魔導(ホークにはそう思えた)の嵐が彼らを襲った。次々に部下が血を流し、地面に倒れて動かなくなる。部下たちの体は肉をズタズタにされ、血液、髄液、さまざまなものが混じった液体が地面に撒き散らされていた。犠牲者はみるみるうちに増えていく。

 だが、それは奇跡だろうか、ホークの方には“向いていない”ように見えた。

 

(ならば……!)

 

 今のうちに肉薄しようと、ホークは走り出しかけた。

 次の瞬間、脳に強烈な痛みが走り抜け、ホークの意識は一瞬で消滅した。

 

 

「よし、次」

 

 野営建造物の屋上で、九七式狙撃銃のスコープを覗いていたある妖精は、自らの撃った弾により、大男が頭から血を流して倒れるのを見て、小さく呟いた。

 辺りには、機関銃中隊が持ってきた九六式軽機関銃と、三八式歩兵銃、九七式狙撃銃、戦車の車載機関銃が繰り出す様々な銃弾が飛び交い、鉄の暴風とでもいうべき嵐が吹き荒れていた。時折、擲弾や戦車砲の榴弾の爆発がそれに混じる。

 先行突入したロウリア軍の騎兵隊、および歩兵隊の一部は、あっという間にその数を減らしていった。その後ろ、800メートルの鉄条網の少し先で、盾を構えた歩兵隊の群れが立ち止まっている。先行突入した部隊の悲劇を見て、恐れをなしたか。

 

「あと1分もすりゃ、掃討完了だな。さて、次は……」

 

 妖精は呟き、スコープを覗いて目標を探す。

 

「よし、アイツにしよう」

 

 

「な……バカな……」

 

 ジューンフィルア伯爵は、唖然として呟いた。

 突撃した兵士は、騎兵隊・歩兵隊問わずその全員が蜂の巣にされ、地面に倒れて死んでいる。一騎当千を謳われたホーク騎士団も例外なく全滅した。

 

「おのれ……だが、盾を持った重装歩兵部隊ならば!

全員、重装歩兵隊の後ろに集まれ! 密集隊形で前進、攻撃する!」

 

 盾があれば、あの爆裂魔法は無理でも、この小さい攻撃なら防げるだろう。

 

 しかしジューンフィルアは、とんでもない勘違いをしでかしていた。

 

 

 

 

 

 銃による攻撃には、歩兵の盾など意味がないこと、そしてこれらの銃や砲の射程距離は、少なくとも数百メートル〜3㎞はあるのである。

 

 

 

 

 

 距離800メートルを示す鉄条網の外で、動かずにいるロウリア軍を排除すべく、堺はただ一言、命じた。

 

「撃て」

 

 次の瞬間、装填済みだった戦車砲、野戦砲、高射砲、機関銃、ロケットランチャー、ありとあらゆる火器が一斉に火を吹き、一ヶ所に集まっていたロウリア軍先遣隊めがけて集中砲火を浴びせた。

 

 

「密集隊形、陣形構築完了です」

 

 魔導士ワッシューナから報告を受け、ジューンフィルアは決断した。

 

「よし、全軍前し……」

 

 だが、そこまでだった。

 密集隊形で陣形を構築したということは、兵士のほぼ全てが一ヶ所に集まったということ。

 

 

 ……つまり、日本軍のいい的なのである。

 

 

ドドォォォォォン! バシュバシュバシュ! ズダダダダダダダダダダダダダ!!

 

 

 ありとあらゆる火器が一斉に浴びせられ…ジューンフィルアもワッシューナも、粉々に吹き飛ばされた。

 かくしてロウリア軍先遣隊2万は、ことごとく全滅した。日本軍には一兵の死傷者もない。予定通りの完全勝利であった。

 

 

「なんてことだ……」

 

 ノウは、もはや言葉を失っていた。

 予想通り、日本軍陣地に殺到したロウリア軍。しかし彼らは、斬り合いに入る前に弓矢も届かない遠距離から一方的に攻撃され、全滅させられたのだ。対して日本軍は約束通り「陣地から出ることなく」行動している。にも関わらず、クワ・トイネ陸軍には()()()()()()()()()

 

「奴ら……何者なんだ……?」

 

 ロウリア軍が駆逐され、一時的に勝利を確保した時点で本来喜ぶべき状況であるのだが、ノウは1人、ものすごい敗北感を感じていた。

 

 

 一方、ダイタル平原の日本軍基地では、ロウリア軍との戦闘も、ノウ将軍の敗北感も、知ったこっちゃないとでも言うように、エンジン音が響き渡る。

 「一式戦闘機 (はやぶさ)」がエンジンを噴かし、「一式陸上攻撃機」が暖機運転を行う。彼らは、ギム付近に陣取るロウリア王国軍を撃破しようとして、出撃する準備をしているのである。

 滑走路には、Jumo211エンジンの爆音が響いている。「Ju87C改(Rudel Gruppe)」が、攻撃隊の先陣として発進しようとしているのだ。目標は、ギム周辺に展開しているロウリア王国軍の主力部隊。

 

「攻撃隊、発進せよ!」

 

 号令が下る。

 ドイツの誇る傑作急降下爆撃機「Ju87C改」を先頭に、攻撃隊は次々と空へ舞い上がった。




まあ、第二次世界大戦頃の陸軍となれば、野戦砲くらいは余裕で配備していますよね。
ということで、初めての妖精陸戦隊の戦闘を描いてみました。ボリューム不足でしたら、すみません…
それと、ゲームのセリフというのは、「砲兵隊に標的を指示せよ!」です。バトルフィールド1942のボイスなんかで脳内再生された人、正直に手を挙げなさい。

一応日本軍の砲の説明上げておきますね。

九〇式野砲
旧日本陸軍の主力野戦砲。口径75㎜。非常に良好な性能を示し、日中戦争、太平洋戦争を戦った。現在も何門かが、良好な状態で世界各地に保存されている。なお、今回の戦いで使用した砲は、牽引輸送することを見越した機動九〇式野砲ではない。

九四式37㎜速射砲
旧日本陸軍が用いた野戦砲。口径37㎜。速射砲という名前だが、用途は対戦車砲。威力不足を承知で、太平洋戦争末期まで、前線に投入され続けている。もしかするとM4シャーマン中戦車を撃破したかもしれない砲。

八八式75㎜野戦高射砲
旧日本陸軍の野戦高射砲。口径75㎜。八八式、という名前の通り皇紀2588年(つまり西暦1928年)に採用された砲。高射砲なので初速が早く、軽量なのであちこちに持ち込みやすい。そのため、オンボロだが太平洋戦線にまで投入され、戦車はぶっ壊すわ、航空機は撃墜するわ、大暴れした。

九六式15㎝榴弾砲
旧日本陸軍の榴弾砲。口径150㎜。野戦重砲兵連隊の主力兵器として使われた。太平洋戦線でも利用されている。沖縄戦の最中、当時沖縄を攻撃していたアメリカ軍の総司令官、サイモン・B・バックナー中将を戦死させたのは、本砲だと言われている。(一式機動47㎜速射砲だとする説もある)

ざっとこんな感じです。


次回予告。

みごと基地から出ることなく、敵の先遣隊を撃滅した日本軍。そして、彼らはクワ・トイネ公国西部方面師団と連携し、空爆と陸上進撃の2段構えで、ロウリア軍が占領しているギムへと突き進む…
次回「ギムは再び、クワ・トイネに還る」

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