鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回は、ロデニウス以外の諸外国の様子をさらさらっとお見せします。
間章につきましては現在鋭意執筆中につき、今しばらくお待ち願います!



101. 開ける世界

 中央暦1641年3月13日、ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス。

 神聖ミリシアル帝国という“自他共に認める世界最強の国家”と国交を開設することに成功した外務省は、大きな成果を挙げたことで勢い付き、さらなる外交の拡大を目指していた。

 ロデニウス連合王国は、第三文明圏外国の大半と国交を樹立しており、第三文明圏にも国交を開設した国家が多い。しかし、第一文明圏(中央世界)以西の国家で国交を開設した相手と言えば、今のところ神聖ミリシアル帝国とムー国のみである。先日神聖ミリシアル帝国から先進11ヶ国会議への参加を要請された身としては、この機会に多くの国家と国交を開設し、自国の知名度を高めると共に外交基盤を固めておく必要がある。

 

 神聖ミリシアル帝国との国交樹立の立役者となったロデニウス外務省であるが、大きな問題が1つあった。それは、エモール王国との国交開設である。

 簡単に説明しておくと、エモール王国とはミリシエント大陸内、神聖ミリシアル帝国の北にある内陸国である。人口は僅か100万人しかおらず、「竜人族」と呼ばれる単一種族のみが住まう国家である。しかしその竜人族は、ドワーフや獣人族すら超える頑健な身体とハイエルフに並ぶ非常に高い魔力を併せ持ち、さらにはワイバーンオーバーロードよりも遥かに強力な「風竜」と呼ばれる竜を操ることができるなど、少数ながら非常に高い能力を持つ。そのことから、エモール王国は“国家規模”としては「小国」であるにも関わらず、『列強国』にカウントされていた。但し、エモール王国はその国民性として「プライドが非常に高い」というものがあり、そのことから外交が難しいと言われている。

 ちなみに、第二文明圏周辺で侵略を繰り返しているグラ・バルカス帝国については、この世界の住民もその国土の位置や国民性などを良く分かっていないことから、ロデニウス連合王国はこの国との国交開設を後回しとしていた。ロデニウス外務省は現在、このグラ・バルカス帝国について軍部と連携して幅広く情報収集を行っている。

 

 先述した通り、列強エモール王国は極めてプライドが高く、外交がやりにくいという事前情報が大東洋共栄圏の筋やムー国などから寄せられている。また、第一文明圏(中央世界)を成すミリシエント大陸の内陸部に位置しているため、ただ行くだけでも一苦労する状態である。

 ちなみに「プライドが高い」という言葉を聞くと、ロデニウス外務省としてはどうしても“パーパルディア皇国”を連想してしまう。まあ、つい最近まであれほど好き放題やっていた国家であり、また“国家としての存続”を賭けて戦った相手だから、無理もないのだが。それによって、外務省幹部は頭を痛める日々を送っている。

 では、「どこかの国から仲介して貰う」という手は無いのか? と考えそうであるが……エモール王国は“仲介する”といった文化()()()()が無く、「用があるなら、“自分の足”を使って来た者でなければ相手にしない」という考え方なのである。地球の国際常識からは到底考えられないほど、かけ離れた思考であるが。

 

 様々な議論を重ねた末、ロデニウス連合王国外務省は方針を決定した。まず、エモール王国の隣国・ミルキー王国と(神聖ミリシアル帝国を介して)国交を開設する。その後、ミルキー王国内を通過する形でエモール王国へ小規模の使節団を派遣、ファーストコンタクトとするのである。気が遠くなるような回りくどい方法にも思えるが、エモール王国の立地が少々特殊である以上致し方ない。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 時と処変わって、中央暦1641年3月27日、中央世界 列強エモール王国、竜都ドラグスマキラ。

 エモール王国は、面積は日本の四国程度の小国であり、人口も僅か100万人しかいない(参考までに、ロデニウス連合王国の人口は4千万人。如何にエモール王国の人口が少ないかが分かるだろう)。では何故こんなに人口が少ないのかというと、その理由はこの100万人を構成している“種族”にある。エモール王国は「竜人族」と呼ばれる種族のみが住まう単一種族国家であり、この竜人族は世界的には希少民族の1つに数えられているのだ。そのため、エモール王国の人口は多くないのである。

 しかしそれは、エモール王国が“弱い”ということを意味しない。寧ろ竜人族は、ほとんどの種族よりも頑健な身体と高い魔力を併せ持っており、さらには特殊な能力によって「風竜」と呼ばれるワイバーンオーバーロードよりも強力な航空戦力を味方に付けている。そのため、その“総合的な強さ”からエモール王国は小国であるにも関わらず、五大列強国の3番手に数えられていた。

 

 さてそのエモール王国であるが、人口のほとんどが首都である「竜都ドラグスマキラ」に集まっており、国土面積のほとんどは森に覆われている。霊峰アクセン山脈から湧いて流れる大河のほとりに、このドラグスマキラは存在する。なお、この大河は神聖ミリシアル帝国の首都「帝都ルーンポリス」へと続いている。

 

 

 ドラグスマキラの北部には、王城「ウィルマンズ城」が存在する。その王城敷地内の最北にある建物の中で、エモール王国の現国王・竜王ワグドラーンは、空間の占い師アレースルを始めとして、多くの魔導占い師たちを前にしていた。

 地球で「占い」といえば、言わば「オカルト」の域にある代物であり、当たるかどうかは“怪しい”。しかしこの世界での占いは、地球と違って“魔力を使用する”ため、当たることが多い。そしてエモール王国は、「占い大国」としてもこの世界の国家に知られており、何かに付けて様々な占いが行われる。そうした占いの1つに、国の行く末を左右する行事の1つとして、年に1回行なわれる「空間の占い」がある。

 空間の占いは、エモール王国の国家全体に、あるいは世界そのものに影響があると思われる、重要事項の有無及びその内容について行われ、早期に障害を発見・対処することをその目的とする。そのため、空間の占いはその正確性を極限まで高める必要がある。そこでエモール王国では、ハイエルフに並ぶ魔力を有する竜人族の中でも特に高い魔力を持つ占い師を30人かき集め、その高純度の魔力を限界まで使用して空間の占いを行っている。

 ワグドラーンを始め国の重役一同が見守る中、薄暗いドーム状の部屋の中で儀式が始まる。占い師たちを代表するアレースルの両手には、占い師たちから吸い上げた魔力が宿り、淡い赤色に光る。それと同時にドーム状の天井には、星のようなものが映し出された。

 

「空間の神々の名の下に、これより未来を見る」

 

 アレースルが空間の占いを始める旨を宣言し、一同が緊張した。

 空間の占いは、名前こそ「占い」だが空間の神々に干渉する、“れっきとした高等()()”である。そのため、この空間の占いの的中率は何と98%以上にも及ぶ。それはつまり、この占いで予言された事象は()()()()()起きる、ということを意味する。そのため、占いの中で何かとんでもない事象が予言されはすまいかと、場は緊張に包まれる。そんな中、

 

「なっ! そ……そんな!! 何と言うことだ!!!」

 

 のっけからアレースルが酷く狼狽している。

 

「いったい何だ! 何が見えたというのか?」

 

 竜王ワグドラーンは問う。永遠にも思える数秒の間隔の後、ガクガクと震えるアレースルの口から、ようやく“その一言”だけが絞り出された。

 

「……魔帝なり」

「なっ! 何だと!!」

 

 アレースルの口から出てきた「魔帝」という単語にワグドラーンが反応し、重臣たちもざわつきだす。そしてアレースルの口から、決定的な言葉が飛び出した。

 

「そう遠くない未来……古の魔法帝国は……神話に刻まれしラティストア大陸は、この世界に復活する!!」

「な……何ということだ!!」

 

 その場に居合わせた全員が戦慄した。その理由は、エモール王国が成立する以前の遥か昔にまで遡る。

 古の魔法帝国が存在した時代……つまり今から数万年以上前、この世界には竜の神々の治める「インフィドラグーン」という名の国が存在した。古の魔法帝国は竜の神々に対し、配下の竜人族を毎年一定数差し出すように要求した。竜の神が理由を尋ねると、「竜人族の皮は丈夫で美しく、バッグを作って売ったら国内で売れそうだから」というのが理由だった。

 当然のことながら、竜の神々は竜人族を守るため、断固としてこれを拒否。後に“龍魔戦争”と呼ばれる戦争に発展する。この戦争は激烈を極め、いつまで経っても戦局が好転しないことに痺れを切らした古の魔法帝国は、コア魔法と呼ばれる“究極兵器”の使用に踏み切った。

 インフィドラグーンの大都市は、このコア魔法により消滅してしまい、竜の神々とインフィドラグーンは古の魔法帝国に敗北。自身の身を守るため、竜人族は散り散りになって世界各地への逃走を余儀無くされた。

 

 古の魔法帝国が大陸ごと未来に転移し、この世界から去った後、竜人族は嘗てインフィドラグーンが存在した地の付近に再び集まり、国を作った。これが現在のエモール王国である。

 単体の能力が高い竜人族が他種族に屈したのは、歴史的に見ても古の魔法帝国のみである。そのため、彼らは古の魔法帝国を酷く恐れていた。

 

「時期は!? 復活の時期はいつだ!?」

「……読めぬ」

「では、復活する場所はどこだ?」

「空間の位相に歪みが生じている。場所も読めぬ」

 

 ワグドラーンが慌てて質問するも、アレースルは苦渋の表情で答える。()()()読み切れないのだろう。

 

「して……我が国を含め、全ての種が再び辛酸を嘗めることになるのか?」

「否、読めぬ……未来は不確定なり」

「不確定だと? いったいどういうことだ?」

「言葉の通りなり……」

「では、滅びもしくは従属から回避する手段はある、というのか?」

「ある!」

 

 対抗手段がある、とはっきり言い切ったアレースル。

 あと少しで、アレースルの魔力と集中力・体力が尽き、彼は気絶してしまうだろう。そうなる前に、鍵を得ておきたい。ワグドラーンは急いで尋ねた。

 

「その手段は何だ?」

「新たな国の……出現による」

「新興国か?」

「肯定であり、同時に否定でもある……」

「どういうことだ?」

「新興国だが……どこからか転移した国の一部が……混ざっている。そのような国家だ」

 

 ここまで言った時、アレースルは険しい顔になった。その顔には汗が伝い、息が上がってきている。いよいよ限界が近いようだ。

 

「ム……ウウゥゥ」

「どこだ!? 何という名の国だ!!?」

 

 自身の身体にかかる負荷に耐えるべく、唸り声を上げるアレースルに、ワグドラーンは焦った声で尋ねた。おそらく、その国の名前が“最大の鍵”となるだろうからだ。

 

「東だ……第三文明圏のフィルアデス大陸より更に東、その地にある島国……。その名は……ロデニウス連合王国……!

「第三文明圏外国だと!? 相手は古の魔法帝国だぞ! そんな低文明の連中に何が出来る!?」

「分からぬ……何が出来るか分からぬが……このロデニウス連合王国こそ、古の魔法帝国に対抗する……唯一の鍵となろう……

「鍵……か。そういえばロデニウス大陸には嘗て『太陽神の使い』なる連中が来たんだったな。その『太陽神の使い』の遺品の中に、鍵となるものがあるのかもしれん。おい!」

 

 王は外交担当の貴族を呼ぶ。

 

「は!」

「ロデニウス連合王国について調べろ! 第三文明圏外国如きにこちらから外交を求めるのは(しゃく)だが、どんな国か調べて国交を結べ!」

「はい!」

「なるべく早くしろ! すぐにでもロデニウスへ行け!!」

 

「その必要は……無い……」

 

 その時、弱々しいながらもはっきりとしたアレースルの声が、王の言葉を遮った。フラフラしていたが、彼はまだ立っている。

 

「何故だ!?」

「ロデニウスは……かの国は、向こうから……外交を……求めてくる。……現在、ミルキー王国の砂漠を……通過中だ……。間もなく、第27番の国境の門に……辿り着くだろう……」

 

 そこまで言ったアレースルは、ついに床に崩れ落ちてしまった。集中力と体力、精神力が限界に達したのだ。

 

「アレースル、よくやった。彼を部屋に連れて行ってよく休ませろ!

それにしても……好都合だ。第27門の番人に、門前払いせぬよう魔信で伝えておけ!」

 

 魔帝の恐怖に怯えながらも、竜王ワグドラーンは次々と機敏に指示を飛ばした。

 

 

 その頃、ロデニウス連合王国外務省の小規模国交使節団の面々は、「砂船」と呼ばれるミルキー王国特有の不思議な乗り物に乗って、バムナ砂漠を渡っていた。

 砂船とは、言わば『車輪が付いた帆船』である。車輪が片舷に20個も付き、「風神の涙」による風を帆に受けて砂漠をゆっくりと進む船である。

 

(不思議な船だな、これは……)

 

 メツサルがそんなことを考えていると、大きな声が響いてきた。

 

「お客様にご連絡します。お客様にご連絡します。当船は間もなく、竜人族の治める国、エモール王国の国境の門に到着致します。お降りの方は、ご準備をお願い致します。

長らくのご乗船、お疲れ様でした」

 

 スピーカーがある訳では無いため、船頭が大声で客に告げているのだ。

 

 やがて砂船は停船し、船底のドアが開かれる。乗客はそこから乗り降りする仕掛けになっているのだ。

 砂船の港は砂漠と森の境界に設置されており、船を下りると突然森が現れる。砂の黄色と森の緑が、鮮やかなコントラストを成していた。

 森の先、目測で約2㎞先には、森と不釣合いな青く塗られた巨大な門が見える。

 

「ご利用ありがとうございました、エモール王国です。

お客様にご案内します。森の入口にある石畳の道が、森の先に見えます青い門に繋がっています。あの青い門が、ミルキー王国とエモール王国との国境です」

 

 船頭の案内に従って、メツサルたち5人は石畳の道路を歩く。30分ほど歩いた先には、高さ30メートルはあろうかと思われる巨大な青塗りの門が待ち受けていた。

 門の横には身長が2メートル近くある兵が立ち、そして同じく身長が2メートル近くある独特の民族衣装を着た者たちが、通行証を確認している。

 

 ここで「竜人族」の姿形について一言解説しておくと、平均的な身長は男性が2メートル、女性が175㎝であり、これは大抵のヒト族・亜人族よりも体格で恵まれていることを意味する。顔立ちや見た目は人間に似ているが、よく見ると人間でいう皮膚や獣人でいう毛皮等の代わりに、浅黒い色の微細な鱗が体表を覆っている。また、その顔立ちもどちらかというと(こわ)(もて)であり、体格も相俟って相手に威圧感を感じさせる風貌である。また、一般的に頭部に角が2本生えており(例外有り)、目も髪も赤い。

 

 門の横には窓口があり、長蛇の列が出来ていた。国交使節団らしき正装をした面々から大荷物を抱えた商人まで、様々な人がいる。全員が入国審査待ちなのだろう。

 ロデニウス連合王国外務省の一団は、おとなしく列の最後尾に並び、順番を待っていた。すると、暫くして、

 

「お前たちも列に並べ!」

 

 列の交通整理をしていたエモール王国の職員が、列に割り込もうとした人間の一団を怒鳴り付けた。怒鳴り付けられた一団は抗議している。

 

「我々は、その辺の商人たちと同じでは無い! 第三文明圏の文明国、リーム王国の使者だ! 国交開設の再交渉に来ているのだ。貴国の外交担当の部署に取り次ぎをお願いしたい」

 

 しかし、エモール王国の職員は退かなかった。

 

「国の使者だろうが、商人だろうが何だろうが、ヒト族だろう!

我が国の国境の門で優遇されるのは、竜人族かハイエルフくらいのものだ。それ以外は如何なる種族であろうと同列だ。列に並んで貰おう」

「くっ! わ、分かりました……」

 

 第三文明圏内の国家であるリーム王国の使者は、列に並ぶことを余儀無くされた。ちなみに彼らが並んだ位置は、ロデニウスの使節団の2つ後ろである。

 

「これは……交渉の難航が予想されますね……」

 

 使節団の随行員の1人、エルフ族の外交官コーデルがメツサルに話しかけた。尚、メツサルの種族はドワーフである。

 

「ああ、大変そうだなこれは……」

 

 苦笑して答えるメツサル。そこへ、

 

「でしたら、私が話してきましょうか? 私はハイエルフですし」

 

 使節団の特別顧問として来ていたカーネルが口を挟んだ。

 

「いえ、止めておきましょう。私たちは国交開設のためにここに来ているのです。それも第三文明圏外として扱われることの多い国が、“ファーストコンタクトのため”に来ているのですよ。ここでしゃしゃり出ては、相手の心象を悪くする可能性があります。おとなしく順番を待つ方が得策でしょう」

「うーむ、言われてみれば確かにそうですね」

 

 メツサルの説明にカーネルが納得した時だった。

 

「ん? あれは何でしょうか?」

 

 コーデルの目が、“あるもの”を捉えた。

 兵士らしき者たち4名の護衛を受け、きっちりとした服を着込んだ竜人が1人、門からこちらの方へ向かって歩いて来る。護衛対象者は、明らかに服の質が他の者とは違う上に、一般的に2本ある頭部の角が4本もあるため、非常に目立つ。竜人族の衣装に詳しくないメツサルにも、そのことがはっきりと分かった。

 交通整理をしていたエモール王国の職員も、その者を見ると慌てたように頭を下げている。

 

「おそらく、この国で格が高い方なのでしょう」

 

 カーネルが解説していると、その者はこちらに向かってどんどん近付いてくる。そして、()()()()()使()()()()()()足を止めた。

 

「え?」

「我々か……?」

 

 使節団の面々がざわつく中、やってきた竜人はよく通る声で話しかけてきた。

 

「我は、列強エモール王国の外交担当の貴族、モーリアウルなり。

そなたらはこの国に何をしに来た? どこから来たのか?」

 

 モーリアウルと名乗ったその竜人男性に、メツサルは姿勢を正して答えた。

 

「初めまして。私たちは東の果て、第三文明圏のあるフィルアデス大陸よりも更に東にある島国、ロデニウス連合王国から参りました。

目的は貴国、エモール王国と国交を開設することです。申し遅れましたが、私はロデニウスの外交官のメツサルと申します。よろしくお願い致します」

 

 メツサルが挨拶をしていると、外野から低い声が聞こえてきた。呟くように話すその声は、明らかにロデニウスの使節団に向けられたものであり、()()()()()()()話されていた。

 

「ロデニウスの連中か……」

「大方パーパルディアを倒していい気になっているんだろう」

「第三文明圏の準列強たる我が国リーム王国ですら、列強エモールとの国交開設に難渋しているというのに、まさか文明圏外国が来るとはな。つっけんどんにされるのがオチだろうさ」

「ハハハ……」

 

 嫌味な言葉が聞こえる。それにコーデルが眉を顰めた瞬間。

 

「おお、そなたらがロデニウス連合王国の使者か! お待ちしておりましたぞ。

さあ、我に続かれたい。国交開設の前提で、貴賓室でお話をしようぞ」

 

 それまでの竜人族たちの態度からは考えられないほど、モーリアウルはあっさり国交開設の手続きを受け入れてくれた。しかも、完全に歓迎ムードである。

 

「え!? あ、はい、よろしくお願い致します!」

 

 予想していた事態と裏腹に、事が余りにもスムーズに行きすぎて、メツサル以下一同は拍子抜けしてしまった。しかし、ギリギリのところで“外交官としての本分”を思い出し、全員が慌てて一礼する。

 

「何……だと……!?」

「ウッソだろ……」

「あのエモールが……!?」

 

 一方、ロデニウス使節団と共に列に並んでいた他国の国交使節団の面々や商人たちは、全員が例外なく呆然としていた。モーリアウルが示した態度は、普段のエモールの尊大な態度からは遠くかけ離れたものであり、信じがたいものだったのである。

 

「ま……待たれたい!」

 

 そこへ、先ほど嫌味を言っていたリーム王国の使者が、話に割って入ってくる。

 

「我々は第三文明圏文明国が一つ、リーム王国の使者である。我々は、貴国と国交開設のための()交渉に参った。

我が国は文明国であります。対応をお願いしたい」

「ふぅ……」

 

 リーム王国の使者に対して、モーリアウルは溜め息を吐く。

 

「リーム王国は確か、()()()()()()だろう。そのまま列に並んで待たれよ」

「なっ!?」

 

 リーム王国の使節団をバッサリと切って捨てたモーリアウルは、ロデニウス連合王国外務省の使節団に振り返る。

 

「さっ、ロデニウスの方々よ、貴賓室にご案内する。来られよ」

 

 事情は分からないながらも、国交開設前提での会談というのであれば良いか、と考えた使節団の面々は、モーリアウルの後に続いてあっさりとエモール王国に入国。手続きも何ら滞りなく順調に進み、翌3月28日、ロデニウス連合王国はエモール王国と国交を開設することに成功した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 さて、ロデニウスとエモールが国交を開設したその日、中央暦1641年3月28日。処はムー大陸西方約500㎞地点にある、第二文明圏外国のイルネティア王国、王都キルクルス。

 ムー大陸の西方約500㎞の地点にある島国、イルネティア王国。この国は“国際的な扱い”こそ「文明圏外国」だが、実際の文明レベルは文明国とさして変わらないほどに高い。というか、同じような立地にあって列強レイフォルの筆頭保護国となっていたパガンダ王国よりも、文明レベルが高い。具体的には、イルネティア王国軍は航空戦力こそ()()()のワイバーンだが、魔導砲はパーパルディア皇国が使っていたものと同じ、射程2㎞かつ炸裂魔法が施された砲弾を発射する代物である。陸軍には魔導マスケット銃も配備されているし、海軍の戦列艦も砲門数こそ40門級と小型の、対魔弾鉄鋼式装甲を持たない木造船だが、「風神の涙」をマスト部分だけでなく艦底にも装備することによって海水の抵抗を減らし、第二文明圏最速の20ノットを叩き出せるほどである。それほど高い文明レベルがあるのだ。

 これは、イルネティア島がムー大陸とそれより遥か西、「西方世界」と呼ばれる文明圏外地帯とのちょうど中間くらいのところにあって、交易の中継拠点となっていた点が大きな理由である。ムー国の製品等が流通することもあり、イルネティア王国は“交易の中継国”として相応の利益を得ていたのだ。だからこそ、文明圏外国でありながら並の文明国にも負けない力を持っていたのである。

 

 北海道ほどの面積を持つこの島国イルネティア王国は今、滅亡の淵に瀕していた。

 王国軍統合参謀本部には、各地の戦況が刻々と送られてきている。

 

「西部方面諸侯軍、全滅! 敵の戦闘車輌には、牽引式魔導砲の効果がありません!! 敵は王都キルクルスの西方約30㎞付近に迫っています!!」

「王下直轄海軍・首都防衛艦隊38隻、敵艦10隻に全て撃沈されました! 敵艦の砲は威力・射程距離共に我が方を遥かに凌駕しています!」

「東部方面竜騎士団及び王下直轄竜騎士団のワイバーン、全て撃墜されました! 敵の飛行機械の速度は時速500㎞以上出ている模様です!」

 

 報告は最早悲鳴と化しており、イルネティア王国軍の戦力が次々と破られていることを明確に伝えていた。ここまで何重にも防衛線を張っていたにも関わらず、敵…グラ・バルカス帝国軍はそれを悉く破っており、もう王都陥落も時間の問題である。

 初老の男性、現国王イルティス13世は玉座に座ったまま、力無く呟く。

 

「残存戦力は無きに等しいか……。最早、これまでか……」

 

 突如として現れた、グラ・バルカス帝国という名の強国。その侵略により、1000年の歴史を誇るイルネティア王国は、その歴史に幕を降ろそうとしていた。

 事の発端は中央暦1641年1月のこと。グラ・バルカス帝国は、突如としてイルネティア王国に対し「植民地になれ」と要求してきたのだ。当然、イルティス13世以下のイルネティア王国政府は、これを突っ()ねた。だが、グラ・バルカス帝国が強いということはよく知っている。何せ、列強レイフォルをたった1隻の軍艦「グレードアトラスター」で滅ぼしたほどの国なのだから。

 そこでイルティス13世は、息子にして第一王子のエイテスに対し、このグラ・バルカス帝国の侵略からイルネティア王国を生き残らせるべく、“列強国からの支援”を取り付けてくるよう命じる。レイフォルはグラ・バルカス帝国によって倒されたが、第二文明圏最強を誇るムー国からの支援ならば、そして“自他共に認める”世界最強の神聖ミリシアル帝国からの支援ならば、それを得ることさえできればこの困難をきっと跳ね返せる。そう考えたのだ。その王命を受け、エイテス第一王子はビーリー侯等数人の家臣と共に、先ずムー国に向けて出発した。

 

 一方、植民地化要求を突っ撥ねられたグラ・バルカス帝国は、()()()イルネティア王国に宣戦布告。宣戦布告文書を持った外交官をイルネティア王国最大の経済都市ドイバに送ってきた。それも、その外交官を戦艦「グレードアトラスター」に乗せて。

 宣戦布告文書が手交された直後、ドイバに待機していたイルネティア王国海軍戦列艦隊は全力出撃。ドイバの岸壁を離れた外交官が「グレードアトラスター」に乗り込んだのを確認して、「グレードアトラスター」に全力砲撃を見舞った。しかし、数百門に達する魔導砲の直撃を受けて尚「グレードアトラスター」は健在であり、逆にイルネティア戦列艦隊は返り討ちに遭って全艦が轟沈。最後まで残っていた旗艦「レプシロン」は魔導回路のリミッターまで解除して、船体破損と引き換えに砲の発射時初速を4倍にした高速弾を見舞ったが、それでも相手を沈められなかった。イルネティア艦隊が全滅した後、「グレードアトラスター」はドイバに艦砲射撃を叩き込み、街を完全に破壊してしまっている。

 その後、グラ・バルカス帝国軍主力艦隊が来寇。迎撃に当たったイルネティア艦隊残存部隊及び竜騎士団を撃滅した後、沿岸部に艦砲射撃と航空爆撃を実施し、続いて陸軍部隊を揚陸してきた。イルネティア王国陸軍は制空権を失った状況下でも奮戦したものの、戦車多数を伴ったグラ・バルカス帝国陸軍の進撃を止められず、ついには戦略上の重要拠点だったラルア平野すら失陥し、戦線は次々と後退。そして今や、こうなってしまったのである。

 

 上空にはグラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機、シリウス型艦上爆撃機が乱舞している。敵飛行機械の発するブーンという音や、急降下する際に聞こえる甲高いエンジン音は、王国臣民に恐怖を与える。ついに、グラ・バルカス帝国軍の王都キルクルス侵攻が始まったのだ。

 王都キルクルスに()(だま)する爆撃音……国王イルティス13世は最後まで指揮を執り続けたものの、「シリウス」が投下した爆弾が王宮を直撃した際に、強烈な閃光と共にこの世を去った。

 

この日、中央暦1641年3月28日。第二文明圏外国イルネティア王国は、グラ・バルカス帝国に滅ぼされた。ちょうどエイテス王子一行が、神聖ミリシアル帝国に到着した頃のことだった。

第二文明圏列強国ムーは、来る先進11ヶ国会議の場において、次々と侵略を繰り返すグラ・バルカス帝国に対し、非難声明を出すと共に2年以上の交易制限を発議することを決めていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ここで一度、グラ・バルカス帝国本土の様子を見てみよう。

 グラ・バルカス帝国は、第二文明圏があるムー大陸から見て更に西……「第二文明圏外」と呼ばれる地域にある大帝国である。突如としてこの世界の表舞台に現れ、瞬く間に周囲の文明圏外国を制圧。ついには第二文明圏との境界にあったパガンダ王国すらも落とし、更にパガンダの宗主国だった列強レイフォルをも、()()()1()()()()()()()()という伝説級の戦果を挙げた国である。

 この世界の人々にとって、「グラ・バルカス帝国」の名とレイフォルを1隻で落とした軍艦「グレードアトラスター」の名は恐怖の代名詞であり、一部では“神聖ミリシアル帝国よりも強い”とすら噂されている。

 

 そんな世界の注目を集める国グラ・バルカス帝国、その帝都ラグナは、現代地球の日本人から見ると「古き時代」の……具体的には昭和時代前期くらいの東京を思わせる都市である。整然と並ぶ家並みや高層建築の間を、平らに舗装された道路が走り、多くの人々と自動車が行き交っている。太い幹線道路には自動車に混じって路面電車も走っていた。他に地下鉄網もある。人口は数百万人にも達し、この世界の人々からすると“機械文明を極めた街”に見えることだろう。

 但し、武器等の製造工場の煙突からはモクモクと煙が立ち昇っており、また併設されている造船所(ラグナは海に面した都市である)、あるいは高炉等からも黒煙が上がっていた。決して火事になっているのではない。()()である。そのため、ラグナの空はこうした煤煙と自動車の排ガスが合わさって、青い空であろうといつも霞んで見えている。尤もグラ・バルカス帝国人は、この霞んで見える空を「機械文明、豊かさの象徴」だとか言って()()()()()()()()のだが。

 

 現代地球の日本から見ると、あるまじき大気汚染ぶりである。どれくらい酷いのか大雑把に言えば、一時期ニュースを騒がせた、PM2.5や黄砂その他によって曇ってしまった北京の街並み。あれくらいを想像してもらえば良い。

 

 その繁栄ぶりを皇城の自室から眺め、考えに耽る男が一人。グラ・バルカス帝国の現トップ、帝王グラ・ルークスである。

 

「この世界は我々に何を求める?」

 

 栄華を極めた自国の首都の街並みを見下ろしながら、彼は呟く。

 彼にしてみれば、国ごと異世界に転移するなどという、“バカげたこと”が現実となったことが、まだ夢のように思えることがあった。

 

 そう。突然現れたこのグラ・バルカス帝国は、実は日本やムー国と同じく“転移国家”だったのだ。

 前世界、ユグドと呼ばれた惑星において最大の勢力を誇ったグラ・バルカス帝国。ユグドでは「始世の国」と呼ばれる、ミルーク神を祀りしケイン神王国と世界を二分し、世界大戦を行っていた。因みにユグドには計9つの国があったのだが、人口・国力・技術力そして軍事力、どれを取ってもグラ・バルカス帝国が世界一だった。2番手のケイン神王国すら、大差を付けて引き離していたのである。グラ・バルカス帝国が戦争に勝利することは、誰の目にも明らかだった。

 豊富な資源、圧倒的な生産力、そして世界最高の技術力。グラ・バルカス帝国には、それら全てがあった。

 

 しかし、あまりにも突然起こった“転移”と呼ばれる現象により、本土のみがこの世界へと来てしまう。

 

 海外の植民地を中心に、広大な土地を失ってしまった。また、植民していた国民や植民地護衛艦隊の艦艇・陸軍植民地護衛部隊の兵士たちを中心に、多くの人間がユグドに取り残されてしまった。しかし不幸中の幸いにして、ケイン神王国本土攻撃のため、主力部隊の全てを本土に一時帰国させていた時に転移が起こった。そのため、外国駐在陸軍基地や海外駐留中の艦艇を除けば、主力部隊の戦力のほとんどは失われなかった。そしてライバルたるケイン神王国は、ユグドの他の国家共々消えた。

 

 “変な星”に転移し、一時帝国は混乱した。だが東を向くと、眼前には広大な土地と貧弱な武装を持つ現地人たちがいた。相手に対する自国の優位性は明らかであり、先ずは国家の安定を比較的容易に図れそうであることに、皆歓喜した。

 当初、周辺国は帝国に対して()()()であるにも関わらず、あまりにも文明レベルが遅れていた。具体的には、こちらはボルトアクション式銃や機関銃、戦車。それに対して、相手はマスケット銃すら無く、鎧兜に剣・槍・弓という有り様である。そのため、それらの国家をあっさりと制圧した。

 しかし、それらの弱小国を支配する事で、この世界には文明圏と呼ばれる、“上位の共同体”があることが判明する。

 

 文明圏がどの程度の国か、当初は全く分かっていなかった。また、ここは“全く未知の世界”であるため、慎重な意見が相次ぎ、話し合いによる国交の設立といった「融和政策」が模索された。そして、“手探りによる外交”が開始されたのである。

 しかし、接触した国はどれも、「魔法」という未知の技術こそあるものの、これまでに聞いた噂と比べて余りにも文明レベルが()()。それにも関わらず、自国はその“転移した場所”故に()()()()()と侮られ、外交は全く進まない。

 

 痺れを切らした融和政策の代表格たる皇族ハイラスが、わざわざ弱小国……パガンダ王国とか言ったか……に足を運んで()()()。ところがそれにも関わらず、パガンダの王族だか何だかから「世界のことを全く知らない蛮族」と罵られ、ハイラスはそれに反論したところ、不敬罪で処刑されてしまう。

 この一件で、この世界で融和政策を推進しようとする融和派はいなくなった。そして()()()()()()に、武力による統治及び領土拡大政策が推し進められることになった。

 

 まずは、皇族を不敬罪で殺すといった“大罪”を犯した国、パガンダ王国を強襲制圧し、あっさりと落とすことに成功する。そして一週間で同国の国民を皆殺しにし、民族浄化(ジェノサイド)を行った。

 その後、世界でも5本の指に入ると呼ばれた列強国レイフォルに宣戦布告されるも、このレイフォルもあまりにあっさりと我等に降伏する。

 

 この世界において、文明圏外国家だろうと列強国だろうと、我等の前では()()()に過ぎない。

 

「全く……滑稽な世界よ」

 

 嘲笑いながらも、帝王グラ・ルークスは世界を統治する夢を見ていた。

 

 

 その頃、情報局では各国の技術力の分析と把握が飽くこと無く繰り返されていた。

 薄暗い部屋、鳴り響く電子音……まるでモールス信号のような音が鳴り続ける通信室。その隣には茶色を基調とする、格式の高さを感じさせる部屋があった。これはバミダルのオフィスである。そこに1人の男……ナグアノが訪れてきた。

 ナグアノは上司たるバミダルに報告を行うため、ドアをノックする。

 

「入れ」

 

 中から低い声で許可を受け、ナグアノは中に入る。

 

「閣下、ロデニウス連合王国に関する戦力分析の報告書が出来ましたので、提出に参りました」

 

 ナグアノは、バミダルに書類を手渡す。そして、バミダルが書類に目を通す間に、口頭で概要を説明する。

 

「申し訳ありませんが、今回はロデニウス連合王国に関する情報が少ないです。何分距離が遠いもので……。

アルタラス王国では入国管理が厳しく、今回の主要な戦いを職員が目視するに至っておりません。また、エストシラントに諜報員を放っていましたが、どうやら戦火に巻き込まれて死亡した模様です。従って、ロデニウスに関して得られた情報は少なくなってしまいました。ですが、“思わぬ収穫”がありました」

 

 ここでナグアノは一旦言葉を切り、それから話を続けた。

 

「ロデニウス連合王国は、どうやら“航空機”を持っているようです。それも、我が国のアンタレスやシリウス、リゲル、ベガに似た機体を」

「何だと?」

 

 ナグアノが報告すると、バミダルの眉が吊り上がった。

 

「間違い無いのか?」

「はい。エンリケスが見間違えるとも思えません」

(まずいな)

 

 バミダルは腹の内で毒づいた。

 アンタレス型艦上戦闘機は、今のところこの世界においては「無敵の航空戦力」と認識されている。ワイバーンとかいう竜にも負けない、どころか圧勝できる戦力だ。だが、それと同じようなものを“ロデニウスが持っている”となると、もし敵対した場合、グラ・バルカス帝国空軍に相応の被害が出る可能性がある。

 

「それと第三文明圏の戦いで、ロデニウス連合王国は列強の一角に数えられるパーパルディア皇国を破り、滅ぼしました。しかし、()()()()()()()()()()()()()

「何? それは本当か?」

 

 バミダルは目を見開いた。

 国家が富み栄えるためには、国力や軍事力を付けることもそうだが、何よりも“多くの資源を得る”ことが必要だ。それを果たすためには、“外国を征服して植民地にし、資源を得る”ことが必要となる。なのに、ロデニウス連合王国がやったことは、それに真っ向から反することだった。それが、バミダルには意外に思えたのだ。

 

「第三国を経由してのルートですが、複数のルートから同じ情報を得ていますので、間違いなく事実でしょう。

ということは、ロデニウス連合王国には元パーパルディア皇国を統治するだけの国力、もしくは“植民地経営のノウハウが無い”ということになります。

また、ロデニウス連合王国は滅ぼしたパーパルディア皇国領内における“新国家の樹立”を支援することまでしています。そう、最近まで敵だった者たちを支援しているのです。これは、今後の自国に攻撃的勢力が出る可能性を残すような()()()()()()としか思えません。そのことが、“ロデニウスの国力の無さ”を裏付けています」

 

 ナグアノは、一呼吸置いて報告を続けた。

 

「ロデニウス連合王国の人口は約4千万人。国土面積に比べると人口は少し多めです。しかし食料自給率は高く、国内で多くの資源をも産出するようです。恐らく、それを完全には“有効活用”できていない可能性があります」

「ふむ。ということは、()()()有効利用できる資源はまだまだありそうだな」

「ええ。ただロデニウスも、不完全ながら資源の有用性を分かっているようです」

「何? どういうことだ?」

「第三国経由の情報ですが、どうやらロデニウス連合王国軍ではオリオン級クラスの戦艦が運用されているようなのです。それも、複数隻いるものと見られます」

「オリオン級か。旧式艦だが、腐っても戦艦だ、油断はできんぞ」

「はい。ですがヘルクレス級以上の戦艦の目撃報告はありません。オリオン級の配備が限界なのでしょう」

 

 ナグアノはまた一息吐き、更に話を続けた。

 

「ロデニウス連合王国は、『大東洋共栄圏』なる共同体を組織しているようですが、その大東洋共栄圏の行動規則となる大東洋憲章の中で、『専守防衛しか行わない』ことを規定しています。おそらくですが、この規定によって辛うじて自己防衛ができる程度の軍事力しか持たないよう、制限しているのでしょう。それでも、この世界の蛮族共にとっては重大な脅威となる、オリオン級クラスの戦艦を配備しているのですが。

この様子なら、おそらく陸軍も空軍も大した数も質も無いのでしょう。パーパルディア軍を打ち負かし、フィルアデス大陸の比較的奥地まで進軍する程度の力はあるようですが、最終的にパーパルディアから領土を全く取らず、植民地化しなかった、という事実が“証拠”になります」

 

 この時、ちょうど報告書を読み終えたバミダルがコメントした。

 

「そうか。ロデニウス連合王国軍は、言わば『防衛軍』なのだな。大規模な外征の能力は無い……ということだろう。

翻って、我が国の軍は実戦経験も豊富にあり、練度も技術も世界一だ。もし彼らの軍と我が国の軍が激突したとしても、彼らは何もできまい」

「はい。正直なところ、ロデニウス連合王国は恐るるに足りません。我らの覇を止められる者はいません」

 

 バミダルのコメントに、相槌を打つナグアノ。

 かくして、グラ・バルカス帝国は新たな世界秩序構築のために動き始めていた。「世界征服」という野心を胸に宿して。

 

 ……なお余談だが、ロデニウス連合王国軍は確かに“専守防衛”を旨としているものの、実のところは遥かに強力な軍隊である。何せグラ・バルカス帝国軍でいうヘルクレス級戦艦((なが)()型戦艦)やグレードアトラスター級戦艦(大和(やまと)型戦艦)も保有しているし、航空機に関してはアンタレスを上回る性能を持つ「(れっ)(ぷう)一一型」を母艦航空隊の主力戦闘機とし、更にはグラ・バルカス帝国では未だ構想段階にしかないジェットエンジンを装備した「(ふん)(しき)(けい)(うん)(かい)」や「(きっ)()(かい)」、「F-86D改 セイバードッグ」すらも、グラ・バルカス帝国には()()()()()()誘導弾「サイドワインダー」空対空ミサイルごと実用化している。あまつさえグラ・バルカス帝国の想像も及ばないSF的兵器であるUFO(ディグロッケ)に電磁投擲砲(レールガン)まで持っているのだ。

 そして更にツッコミを入れると、ロデニウス連合王国軍に“外征能力”はある。主に海軍の第13艦隊や基地航空隊・海兵隊、そして陸軍戦略航空軍と独立第1飛行隊がそうだ。特に第13艦隊は“超長距離外征”ができるだけの能力と、古の魔法帝国を除く“この世界のほぼ全ての国家と互角以上に戦える戦闘力”を有する。

 このことにグラ・バルカス帝国が気付くのは、いつになるやら……




というわけで、ロデニウス連合王国は神聖ミリシアル帝国に続き、エモール王国とも国交を樹立。しかし、自国が魔帝に対する鍵になっているとは知らされておりません。

そして原作通り、イルネティア王国はグラ・バルカス帝国の侵攻により滅亡。更にはグラ・バルカス帝国の様子がちらっと出てきました。
グラ・バルカス帝国の兵器、特に陸軍の兵器に関しては、まだ明かされていない情報が多いですね。Web版原作ではグ帝の戦車は九七式中戦車チハ擬き(それも旧砲塔チハ)らしいですが、もしそうなら、旧日本陸軍の数的主力を担った九五式軽戦車擬きもあるんだろうか…とぼんやり考える今日この頃です。うp主の現住地は田舎なので、「日本国召喚」の書籍は書店の店先に並ばないんですよね…wikiのネタバレ解禁を待つしかないか。


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次回予告。

パーパルディア海軍が消滅し、大東洋共栄圏における交易は盛んになっていた。しかし、アルタラスやパンドーラに向かう航路で海賊被害が多発。業を煮やしたロデニウス連合王国は、最も実戦慣れしている海軍第13艦隊を中心に、多数の戦力を動員して海賊討伐を図る。一方、神聖ミリシアル帝国には、先進11ヶ国会議に出席する各国の情報が集まってきていた…
次回「海賊退治と会議の準備」
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