鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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予告通り、今回は海賊退治と先進11ヶ国会議関連。再びミリシアルが登場します。
そして、海賊退治に関して何やら不穏な報告が…



102. 海賊退治と会議の準備

 中央暦1641年6月14日、ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス 連合王国軍総司令部。

 会議室には、何人もの人々が集まっていた。軍総司令官チェスター・ヤヴィン元帥、海軍大臣ゴーダ・ノウカ大将、空軍大臣ウルダ・アルデバラン大将を筆頭に、海軍第4艦隊司令プロヴォロス・シャークン中将、その他海軍・空軍の幹部クラス。何故か外務大臣ゴンゾーラ・リンスイ卿をはじめとして外務省の面々も混じっている。……そして、海軍第13艦隊司令の堺中将も。

 参加者全員が集まったところでヤヴィン元帥が口を開き、重々しい声で開会を宣言する。

 

「諸君、本日は各人の業務や任務があるにも関わらず、急に集まってもらうこととなった。私としては諸君に謝罪すると共に、感謝を禁じ得ない。

今回集まってもらったのは、外務省から『我が軍の助力を必要とする至急の案件』が寄せられたからだ。詳細はこれより外務省側から説明があるが、私からは本件は大東洋共栄圏の盟主たる我が国にとって()()()()()()であり、共栄圏に参加する各国との信頼関係にも影響しかねない事態である……と、先に申し上げておく。それでは、ここからはリンスイ卿に説明していただく。各自傾注せよ。

ではリンスイ卿、よろしくお願いします」

 

 ヤヴィンが開会宣言を終えると、続いてリンスイが口を開いた。

 

「皆様、本日はご多忙の中私共のためにお集まりいただき、深謝致します。

皆様もご存知の通り、我が国は大東洋共栄圏を主宰して“第三文明圏外”と呼ばれる地域の文明レベルの底上げや、他国との共存共栄を図ると共に、大東洋の海上交通の安寧を守るべく努力を続けて参りました。ですが、その大東洋周辺の海上交通が(おびや)かされています。

実は、去年の秋頃から大東洋全域において、海賊の襲撃が相次いでいるのです。大東洋南部については、以前から海賊の被害の報告例があり、我が国も取り締まってはいるのですが、最近は海賊の(ちょう)(りょう)があまりにも目に余る。被害報告は大東洋全域において確認されており、特にシオス王国やアルタラス王国、更にはマール王国やパンドーラ大魔法公国へ向かう西方航路が脅かされています。このため、特に元パーパルディア皇国の侵攻によって海軍が全滅し、未だその再建成らないアルタラス王国は、海賊の被害に悲鳴を上げており、シオス王国も海賊への対処に苦慮している旨、我が国に伝えてきています。

そこで外務省としましては、ここは海の安全を守る海軍の皆様に対処願う他は無いと判断し、この度海賊の取り締まりのお願いに参った次第です。また、広大な海で海賊を探すのも容易なことではないと愚考致しましたので、空軍の皆様にもご協力をお願い致したく存じます。厚かましいこととは承知の上で、大東洋共栄圏の海上交通の安全を確保するため、ご協力をよろしくお願い申し上げます」

 

 そう述べた後、リンスイは深々と一礼して説明を終えた。ヤヴィンがその後を引き継ぐ。

 

「理解してもらえただろうか。要は海賊退治の依頼だ。

我が国は大東洋共栄圏の盟主である以上、大東洋における“公海全体の航路の安全”に責任を持たなければならない。その観点からも、航路を脅かす海賊の鎮定は必要不可欠だ。そして、舐めた真似をしてくれた海賊共に、我が国の怒りを思い知らせなければならん。

では諸君、これより作戦立案に入る。外務省の皆様は、集められたデータの提供をお願いします」

 

 ヤヴィンの言を受けて、外務省の職員たちが会議用の大きな机の上に地図と各種資料を広げ始めた。

 人垣の後ろの方にいた堺が、半ば背伸びするようにして地図を覗き込んでみると、地図には大東洋のあちこちに日付らしき数字と赤いバツ印が付いている。海賊によって被害が出たポイントを示しているのだろう。そして、アルタラス島とシオス島の周辺は、特にバツ印が密集して真っ赤になっている。

 

「これは酷いな……」

「くそ、俺たちが訓練に明け暮れていた間にこんなことになってたのか……」

 

 幾人かの呟きが聞こえる。

 

(これは確かに酷いな。だが……()()だ)

 

 堺はそんな感想を抱いた。

 海賊の行動範囲は広いようで、地図上の大東洋には東西南北全ての海域にバツ印が付けられている。バツ印の数が最も多いのは西方海域だが……フィルアデス大陸沿岸部、そしてトーパ王国やネーツ公国へ向かう北方航路でも、そこそこの数の海賊の被害が報告されているようだ。

 

(トーパ王国やネーツ公国の海軍は、アルタラスやシオスの海軍に比して近代化が進んでいた筈……。特に、トーパ王国は砲艦とはいえ、“我が国で建造された軍艦”を買って所持していた筈だ。それなのに、ここまでの被害を……? もしや、トーパ海軍では対応しきれないくらい海賊の数が多いのか? それとも、もしかして……)

 

 そんな堺の思考は、ヤヴィンの声で中断された。

 

「見ての通り、アルタラスやシオス、そして西方航路での被害報告が多い。被害を受けているのは、最も多いのが各国の木造帆船。次いで我が国の貨客帆船だ。そしてこの方面は、我が国から見ると南西の方角に当たる。つまり、ピカイアに鎮守府を置くシャークン中将の第4艦隊の管轄海域だ、ということだ。

アルタラス王国のルミエス女王は、1日も早い海賊の鎮定を望んでおられる。シャークン中将、(けい)のところの艦隊からは何隻の戦力を出せる?」

 

 ヤヴィンに問われ、シャークンは敬礼して答えた。

 

「はっ。私の艦隊からは、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦8隻、砲艦12隻を動員することが可能です。新兵の教育等もあります故、現時点ではこれ以上の戦力派出は困難です。

しかし正直に申し上げまして、我が艦隊のこの動員数だけでは、担当海域が余りにも広過ぎます。他の艦隊からの応援が必要な状態であります」

「ふむ、応援か……」

 

 シャークンの報告を受けてヤヴィンが考え込みかけた瞬間、堺は(ちゅう)(ちょ)無く手を挙げた。

 

「ヤヴィン閣下、意見具申よろしいでしょうか?」

「む? 堺殿か、どうされた?」

「シャークン中将の仰る通り、この担当海域は第4艦隊の動員戦力に比して広すぎます。そこで提案なのですが、現在第2艦隊に配備されている竜母『アマオウ』を()()()()第4艦隊に転属させ、海賊退治に当たらせては如何でしょうか。いくら海賊であろうとも、ワイバーンのような航空戦力は無いでしょう。また、アマオウ型竜母ならば、下手な海賊船なぞ自前の砲で返り討ちにできます。襲われても問題は無いでしょう。同じ理由により、慣熟訓練が完了したばかりのアマオウ型2番艦『アイベリー』も、正式に第4艦隊に配属させて海賊退治に当てれば、シャークン殿の負担も軽くなるかと存じます。

また、シャークン殿からの要請があれば、私の第13艦隊から相当数の戦力を回すことも可能です。ブルーアイ中将の第1艦隊がクワ・タウイに控えていることを考慮すれば、当方の艦隊から数十隻回したところで問題はありません。いかがでしょうか」

「なるほど。では堺殿、シャークン殿に戦力を融通してやってくれ。竜母も優先的に回そう。何としてでも海賊を鎮定せよ」

「承知致しました。会議が終わり次第、直ちに艦隊の編成にかかります」

「ヤヴィン閣下、堺殿、感謝致します」

 

 ヤヴィンが「アマオウ」の一時転属について、第2艦隊司令のドハム中将と話している間に、堺は素早く次の案を考えた。

 海賊と言っても、24時間365日全てを海上で過ごしている訳では無い筈だ。おそらくどこかの島、もしくは()()()()()()の人目に付かない沿岸部なんかにアジトがあるだろう。ならば、それらも叩かなければ海賊被害を根絶できない。

 

「ヤヴィン閣下、先ほど申し忘れたことがございましたので、追加で意見具申させていただきたいのですが」

 

 ヤヴィンとドハムの話が終わったタイミングを見計らい、堺は再び挙手した。

 

「おお、どうしたのだ?」

「如何に海賊と申せど、()()海上にいる訳では無い、と思います。つまり、どこかの離島等に奴らの拠点がある可能性があります。その場合に備えて、海兵隊の出撃準備も整えておいた方がよろしいかと存じます」

「む、確かにそうだ。今日ここには海兵隊の指揮官は来ていないが、私から彼に話を通しておこう」

 

 ヤヴィンは快諾してくれた。

 

(よし。ならついでに、こっちから潜水艦を送っておきますかね。あの方面なら、おそらく海賊の装備は「風神の涙」も無い帆船の可能性が高いから、最悪潜航したままでも追いかけられる。敵に()()られずに尾行することができるな)

 

 と堺が考えていた時、何か思い出したらしいヤヴィンが「そうそう、皆聞いてくれ」と切り出した。

 

「先ほどまでアルタラス方面の海賊のことばかり話していたから、皆そっちに注意を向けていると思うが……私としては、この方面の海賊を危険視している」

 

 そう言ってヤヴィンが示したのは、大東洋の北から西にかけて……フィルアデス大陸沿岸部方面のバツ印群だった。

 

「被害報告の数はアルタラスの方よりも少ない。だが…実はこちらの海賊の方が危険だ。このデータを見てくれ」

 

 ヤヴィンが示したのは、「海賊による人的・物的被害統計」と題された外務省作成のデータである。それによると、なんとフィルアデス大陸方面の被害が、他海域のそれよりも圧倒的に高いのだ。被害に遭った船舶の数も多いし、中には沈められた船もある。そして死傷者の数も、フィルアデス大陸沿岸部での襲撃によるものが、全体の過半を占めていた。

 

「見ての通り、フィルアデス大陸沿岸部の海賊による被害は、他海域のそれを超えている。これは、“海賊の装備と練度”が原因と見られている。

というのも、アルタラス方面で見られる海賊船は、主にバリスタ装備の帆船だ。それに対して、このフィルアデス大陸沿岸部に出没する海賊船は……はっきり言うが砲艦、いや、戦列艦だ。最悪の場合、装甲戦列艦が出てきたという報告すらある」

「「「「!!?」」」」

 

 ヤヴィンがそう言った瞬間、会議室全体に大きな衝撃が走った。

 

(装甲戦列艦だと!?)

 

 驚愕しながらも、堺は素早く思考を巡らせる。

 

(この辺で装甲戦列艦といえば、旧パーパルディアのフィシャヌス級戦列艦しかない。そいつが出てきたとなれば、鈍足の輸送船や客船には()()にも等しい相手だ。

そういえば、旧パーパルディア皇国の海軍や国家監察軍は、解隊された時点でまだ何隻か船が残ってたっけ。となると、旧パーパルディア軍崩れの連中か。賊とはいえ仮にも軍人が相手だ、そりゃ輸送船や客船じゃ相手にならんか…。だとしても、何か()だな。何とも言えんが、“違和感”を感じる……)

 

 堺の頭に浮かんでいたのは、タウイタウイ泊地の桟橋にマストが折れた状態で係留されたまま、未だに野晒し同然の状態になっている旧パーパルディア海軍のフィシャヌス級戦列艦「シラント」だ。"(あか)()"や"(くし)()"等の「タウイ工廠組」と軍部の先進魔導研究部等の面々が、「魔法・魔導技術の解析と科学技術への応用」という名目で対魔弾鉄鋼式装甲や魔導砲、「風神の涙」を研究しているが、それが済み次第海没処分にでもするか、それとも武装を全て撤去してマストを直した上で貨客帆船として運用するか、政府や軍部で論争が続いている。

 堺が思考をまとめている間に、ヤヴィンは周囲を鎮めて説明を再開していた。

 

「それらの海賊船の帆には、“何かの紋章”の上に大きな黒のバツ印を描いたマークが描かれているそうだ。しかも、そのバツ印で消されたマークは、間違いなく旧パーパルディア皇国の紋章だ、ということだ。おそらく、パールネウス講和条約の発効で解隊され、食い詰めたパーパルディア皇国の海軍や国家監察軍の残党が海賊化しているものと考えられる。

そういう訳で、このフィルアデス大陸沿岸部の鎮定も急務だ。ここは、フィルアデス大陸方面の海域を担当しているパンカーレ中将の第3艦隊、そして堺中将の第13艦隊に海賊退治を命じたい。二人共、頼んだぞ!」

 

 ヤヴィンの声で我に返った堺は、慌ててパンカーレと共に敬礼した。

 

「「はっ!」」

「他の艦隊及び基地航空隊は、本土近海の哨戒を行うと共に、海賊討伐部隊との情報共有に努めること。

では、これで会議は終了とする。昼前に急に招集して済まなかった。以上解散!」

 

 ヤヴィンが閉会宣言をして、会議は終了した。

 

(さて、海賊討伐か……。近頃の艦娘たちは、演習や哨戒、遠征以外にすることが無くて暇を持て余してばかりだ。そろそろ刺激を入れなければと思っていたが、これは格好の機会だな。誰を派遣するか、早急に考えなければ)

 

 会議室を出て廊下を歩きながら堺がそこまで考えた時、腹の虫が盛大な鳴き声を上げた。

 

(おっと、そういえばもう昼だったな。さて、今日は何にするか……。折角クワ・ロデニウスまで出てきたんだし、久しぶりにカフェでサンドイッチと紅茶でも楽しむかな。

……ん? ()()()()()?)

 

 その時、彼の脳裏を電流が走り抜けた。

 

「そうか、それだ!」

 

 思わず声に出してしまった堺に、周囲にいた人々が驚いて一斉に彼の方を見てくる。慌てて謝りながら、堺はフルスロットルで脳を回転させていた。

 

(パールネウス講和条約の発効は6月30日だ。リンスイ卿は、被害が出始めたのは秋頃だと言っていたから、少なくとも夏の約3ヶ月間は、パーパルディア軍崩れの連中は動いていなかったってことだ。その間、奴らはどこで何をしていた!?

それに、軍崩れとはいえ海賊如きに戦列艦なんぞ手に入れられる訳がない。よしんば戦列艦はパーパルディア皇国が建造したものだとしても、塩害や時間で劣化していく大砲や消耗品たる砲弾を、どこで補充していたのだ、という話になる。さっき感じた違和感の正体は、これだ!)

 

 軍司令部の敷地内に設置されたカフェへと急ぎながら、堺は更に考える。

 

(そういえば、パールネウス講和条約が発効してすぐ、“外交トラブル”を起こした国があったな。確かトラブルの内容は、『多数のパーパルディア皇国の技術者をその国が勝手に連行しちまったこと』だった……。……まさか……!?)

 

 堺の思考はそこで一旦止まった。というのも、彼がケバブサンドとブランデー擬き入り紅茶にありついたためである。

 

 

 約2時間後、タウイタウイ島・第13艦隊司令部へと戻って来た堺は、演習報告の合間を縫って海賊討伐艦隊の編成を考え始めた。

 

(まず、ルミエス女王が悲鳴を上げているというアルタラス・シオス方面に派遣する艦隊だ……。ここは担当海域が広いから、航空機を運用できて索敵能力が高い艦を選ぶのが良い。となると、航空戦艦の"()(そう)"と"(やま)(しろ)"、航空巡洋艦の"()()"と"(ちく)()"、空母は……アマオウ型竜母の支援も受けられるから、"(うん)(りゅう)"と"(あま)()"で良いか。後は、"()()(くま)"以下の第一水雷戦隊と"()()"以下の第四水雷戦隊がいれば問題無い。よってこの(めん)()にしよう)

 

(次に、フィルアデス大陸沿岸部に派遣する艦隊……こっちは本気も本気のガチ勢でいくか。まず航空戦艦の"()()"と"日向(ひゅうが)"、戦艦"Iowa(アイオワ)"。軽空母は"(りゅう)(じょう)"、"(じゅん)(よう)"と"()(よう)"、追加で正規空母の"(そう)(りゅう)"と"()(りゅう)"。航空巡洋艦の"()(がみ)"と"()(くま)"に第五戦隊。軽巡洋艦と駆逐艦の面々は……第二水雷戦隊と第三水雷戦隊、それと第六一駆逐隊にしよう)

 

(結構な動員数になってしまうし、第二航空戦隊と第二水雷戦隊にはムーからの留学武官もいるが……教官やってる彼女たちなら問題無いだろう。それとこの作戦、最も重要な役割を担うのは潜水艦だ。潜水艦なら、海賊共に気付かれずに哨戒・尾行が行える。機密保持のためにも、後でヤヴィン総司令に相談して、極秘任務として処理したいところだな。

んで、アルタラスを含む西部方面で活動させるのは"伊19(イク)"と"伊26(ニム)"に"伊8(ハチ)"。南は索敵範囲が広大だから、"伊58(ゴーヤ)"と"伊401(シオイ)"に任せよう。北のフィルアデス大陸沿岸部方面は、"伊13(ヒトミ)"と"伊14(イヨ)"で良いな。"呂500(ロー)"と"まるゆ"は予備戦力として待機。……そして、"伊58"に次ぐベテランの"伊168(イムヤ)"は、別途重要任務だ……)

 

 その後堺は、出撃が決定した艦娘たち全員を講堂に集めて海賊討伐任務…「復讐者(アヴェンジャー)」作戦の開始を告げた。そして、ロデニウス連合王国海軍・空軍・海兵隊の(さん)()(いっ)(たい)の作戦により、“海賊たちの悪夢”が始まったのである……。

 

 

〈以下、die(ダイ)ジェスト〉

 

 アルタラス島東方のとある海域にて。

 

「カシラぁ! 1隻で航行してる帆船です!」

「獲物だな! 早速積荷と女をいただk…って、何だありゃあぁぁ!?」

「単独航行の輸送船だと思った? 残念! 囮船でーす!」

「我々はロデニウス連合王国海軍だ! お前たちは包囲されている、直ちに降伏しろ! さもなければ、お前たちの船を撃沈する!」

 

 降伏しなかったので、この後海賊船は、41㎝砲の巨弾で木っ端微塵にされました。

 

 

 また別の海域では。

 

「あ、あれは……」

「間違いねぇ……俺たちは、()()()()()()()()()()()()()()にケンカを売っちまったんだ……!」

「神様ぁ!」

 

 絶望し切った表情で空を見上げる海賊たち、その上を飛ぶのは10数頭の竜。もちろん、ロデニウス海軍の竜母から発進したワイバーンである。海賊がワイバーンなんて高価な兵器を持っている訳が無いし、海賊船のバリスタではワイバーンの撃墜はほぼ不可能だ。

 その上、絶望の倍プッシュだ、とばかりに「(すい)(せい)」艦上爆撃機までがこれに加わる。ワイバーンの咆哮に水冷発動機の轟音が合わさり、「風神の涙」も持たない海賊船が逃走することなぞ不可能な状態となった。そしてこの後、駆け付けた駆逐艦の臨検によって、海賊たちは1人残らず御用となったのである。

 

 

 そして、ある別の無人島でも。

 

(かしら)ぁぁ! 大変(てぇへん)だぁぁぁ!」

「どうした! いったい何があったんだ!?」

「島が……島が、囲まれてやがるんです! それも、軍隊に!」

「軍隊だぁ!? どこの国だ!?」

 

 そこへ、海上から大声が響く。もちろん拡声器で拡声されたものだ。

 

『アー、アー、我々はロデニウス連合王国海軍である! 海賊共に告ぐ、お前たちのアジトがあるのは分かっている! 無駄な抵抗は止せ、我らに降伏せよ! そうすれば、命は保証する! 繰り返す、無駄な抵抗は止せ、我らに降伏せよ! そうすれば命は助けてやる!』

 

「聞いての通り、ロデニウス連合王国らしいです!」

「何だと!? ちくしょう、いったいどうやってここを突き止めた!?」

 

 頭目は怒鳴ったが、実はこれは無理からぬことであった。

 アルタラス島に向かっていた2隻の輸送船(どちらも帆船)を、この海賊たちの一派が襲撃したのだが、それは残念ながらただの輸送船団ではなく、仮装巡洋艦と仮装空母による()()()だったのだ。それに引っかかった海賊船団は、5隻で襲いかかって僅か2隻にまで討ち減らされ、命からがら撤退したのである。だが、海賊たちは“命からがら逃げ遂せた”と思っていたのだが、それは「泳がせて追跡する」()であった。遁走する2隻の海賊船を"伊26(ニム)"がこっそり尾行し、アジトのある島を突き止めて無線電波を発するビーコンを置いていったのだ。それにより、海賊たちのアジトは見事に位置バレしてしまったのである。

 

「くそ! 捕まれば、俺たちゃオシマイだ……。

野郎共、こうなれば命を賭けて戦い、逃げるまでだ! 帆を張れ、錨を上げろ! このアジトを捨て、脱出するぞ!」

 

 そして、20隻ほどの海賊船は一斉に抜錨。ロデニウス第4艦隊と第13艦隊の包囲網を突破しようとしたのだが……当然ながら、そんなことができる筈もなかった。

 強行突破を試みる海賊団に対し、ロデニウス連合王国軍はわざわざ“高コストの戦艦”を出すまでもないと、高速の駆逐艦と軽巡洋艦、それに竜母「アイベリー」から発進したワイバーン隊で対抗。砲撃で沈められるか、ワイバーンの導力火炎弾でマストを焼かれて航行不能になるかして、海賊船はあっという間に全滅した。その後、海賊団のアジトがあった無人島に、ロデニウス連合王国軍海兵隊が上陸し、島内を全て探索。海賊の生き残りが1人もいないことを確認していった。これにより、また1つの海賊団が根切りに遭ったのである。

 

 

 そして、

 

「お、"伊58(ゴーヤ)"から報告か。ふむ、海賊の後をつけて……彼らが入港した島で港湾都市を発見した? それも、そこそこの規模の?

どこの島だ? ……ちょっと外務省に問い合わせるか」

 

 思いがけない発見なんかもあったりした。

 

 

 およそ3ヶ月後、中央暦1641年9月15日。

 ロデニウス連合王国の「アヴェンジャー作戦」により、大東洋周辺を騒がせていた海賊の活動はかなり沈静化していた。 駆逐艦娘"(ゆう)(だち)"の言う「素敵なパーティ」によって()()()()()()()()を受けた海賊団は実に43にも達し、その中にはアジトごと壊滅させられたものも約20含まれている。これに伴って、大東洋の航路の安全が確保されつつあると共に、創設されたばかりの海兵隊には良い実戦訓練となった。

 また、海賊討伐の真っ最中に新たな国家との出会いがあった。相手は、ロデニウス連合王国本土の南方400㎞の洋上に位置する島にある「ナハナート王国」という第三文明圏外国である。縦横70㎞ほどの小島1つを支配している国家で、国家面積は小さいのだが、第三文明圏と南方世界を繋ぐ交易の中継地としてそこそこ栄えていた。しかし、そこそこ栄えているとは言っても、国力はロデニウス連合王国と比較すれば雀の涙程度しかなく、そのため国家を守る正規軍の規模は非常に小さかった。その軍事力不足を補うため、なんと冒険者や海賊までも取り込んで()()()していたのである。ロデニウス連合王国軍が摘発しようとした海賊には、このナハナート王国に拠点を置く連中がいたのだ。

 "伊58(ゴーヤ)"からの報告によりこの国家の存在を知ったロデニウス連合王国は、直ちにナハナート王国と接触し、国交を開設。「ロデニウス連合王国による食糧や資源等の支援を行う代わりに、ナハナート王国軍管理下の海賊は大東洋周辺では海賊行為をしないこと」という取り決めを交わした。そのお蔭もあって、西部航路での海賊被害は、現在ではほぼ報告されなくなっている。

 海賊討伐の成功を受けて、アルタラス王国のルミエス女王からは感謝状が直々に授与されていた。また、シオス王国からも外務省に謝辞が届けられている。そしてロデニウス連合王国政府と軍部は、大東洋共栄圏内規定や大東洋憲章、及び安全保障条約の内容に基付いて、アルタラス王国海軍の再建支援に乗り出していた。

 

「これでだいたい解決したかな。フィルアデス大陸の沿岸部で、まだ若干の被害が報告されているのが気になるが……」

 

 3ヶ月前の地図と比べて、めっきりバツ印が減った地図を見ながら堺が執務室で呟いていた時、ドアをノックして"(おお)(よど)"が入ってきた。

 

「提督、極秘任務を帯びていた"伊168(イムヤ)"から、報告電文が届きました」

「お、来たか。早速報告してくれ」

 

 堺が頷くと、彼女はバインダーに挟んだ報告書を読み始めた。

 

「はい。中央暦1641年9月1日、彼女はフィルアデス大陸東部近海で、パーパルディア皇国の国章にバツ印を付けた帆を掲げた戦列艦隊と遭遇しました。数は全部で3隻、うち1隻は大きく損傷していた、ということです」

「その日付だと……うちの(第13)艦隊がアワン島沖で叩き潰したものだな」

「はい」

 

 中央暦1641年8月22日に、第13艦隊麾下の第六一駆逐隊("(あき)(づき)"・"(てる)(づき)"・"(はつ)(づき)")はアワン島沖で海賊団と遭遇。30隻いた海賊船(という名の戦列艦)にたった3隻で挑み、装甲戦列艦を含む大半の海賊船を撃沈破していた。どうやらその残党の一部を"伊168"が捕捉・追尾したようだ。

 

「この3隻のうち、損傷の酷い1隻はフィルアデス大陸“東岸”に()()し、残り2隻はフィルアデス大陸“南岸”へ移動して()()したようです。"伊168"は、引き続きフィルアデス大陸南岸の監視を続けています」

「ちょっと待て、入港? 海賊如きが利用できる港があるのか?」

 

 "大淀"が使った「入港」という表現に、堺は猛烈な違和感を抱いた。

 

「はい。間違いなく『入港』でした。3隻共、沿()()()()()()()()に入港した、とのことです」

「……詳しく聞かせて貰おう。どういうことだ? 海賊を()()する国家なんかがあるのか? だとしたら、そいつらは海賊じゃなくて()()()だった、ってことになりかねんぞ」

 

 ()(りゃく)(せん)とは、簡単に言えば「国家公認の海賊」である。国の主の許可を得て、敵国の船を攻撃・拿捕することができる海賊だ。

 報告内容を聞いて、堺は嫌な予感を感じた。作戦開始前から、彼は「ある国」についてキナ臭さを感じていたのだが、どうやらそれが“現実味を帯びて”きている。

 

「その可能性は高いと思います。"伊168"の報告にあった港街を世界地図と照合した結果、地名が判明しました。

地図によれば、その2箇所の港街の名は、南岸の方が『セニア』、東岸の方が『ヒルキガ』。それで、この2都市なんですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前者はリーム王国の飛び地の中心と見られる都市。そして後者は、()()()()()()()()です

 

 

 

 

「………やっぱりそうか」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 大東洋の海賊討伐に際して堺が思わぬ事実を見出していた頃、元第二文明圏列強レイフォル国、首都レイフォリア跡地。

 グラ・バルカス帝国の超弩級戦艦「グレードアトラスター」の全力砲撃により、灰燼に帰したレイフォリア。街が消えた際に皇城も吹き飛ばされ、皇帝も戦死した。それにより、余りにもあっさりとグラ・バルカス帝国に降伏した列強レイフォル国。

 かつてレイフォル国があったこの地は現在、グラ・バルカス帝国領レイフォル州と改名されていた。グラ・バルカス帝国によって完全占領された証である。そしてレイフォリアの跡地には、グラ・バルカス帝国様式の建造物が…地球で言うならバロック建築に似た建物が多数、建築中であった。また、レイフォル州の州都となったレイフォリアの郊外には空港が整備され、海軍航空隊が駐留している。そのため、レイフォリアの上空にはレシプロ戦闘機が…グラ・バルカス帝国軍のアンタレス07式艦上戦闘機やシリウス型艦上爆撃機、ベガ型双発爆撃機等の機体が、訓練や哨戒のため飛び回っている。

 

 その光景を眺めながら、溜め息を吐く者たちが4名。彼らは皆、グラ・バルカス帝国風の服を着ておらず、明らかに“異国人”という出で立ちである。

 彼らは、神聖ミリシアル帝国の使節団であった。メンバー構成は、西部担当外交部長シワルフ、武官パーシャ、技官ゴルメス、そして帝国情報局第4課(MI4)課長ザマスという面々である。

 何故ミリシアルの人間である彼らがこんなところにいるのかというと、先進11ヶ国会議の説明のためだった。神聖ミリシアル帝国政府は、グラ・バルカス帝国が先進11ヶ国会議に参加することを了承する決断をしたのだ。そのため、彼らは先進11ヶ国会議の概要の通達と若干の事項の確認のため、ゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」に乗艦し、海路でグラ・バルカス帝国領レイフォル地区までやってきたのである。本来ならばグラ・バルカス帝国本土へ行く筈なのであるが、グラ・バルカス帝国側の意向により、会議の場所はこのレイフォル州に指定された。そのため彼らはここにいるのである。

 

 上空を飛び回る戦闘機を眺め、武官パーシャは真剣な面持ちで話す。

 

「速いな……。もしかすると、我が国の制空戦闘型天の浮舟の速度に迫るかもしれない……」

 

 すると、技官ゴルメスも同調した。

 

「確かに。それに沖に見える戦艦も、我が国の主力魔導戦艦に匹敵するほどの大きさを持っている。

レイフォルの戦列艦程度では、あれは手に負えなかっただろう」

「グラ・バルカス帝国との、ファーストコンタクトか……」

 

 シワルフの呟きに、4人は緊張した面持ちになった。そして、神聖ミリシアル帝国の美意識とは異なる、別種の美しさを持った建物……別の言い方をすれば、『機能美』を追求した建物に案内された。使節団は最終的に応接室に案内され、ソファーに座り、グラ・バルカス帝国の外交官を待つ。待つこと2分程度でドアが開き、グラ・バルカス帝国の外交官ダラスが入室してきた。神聖ミリシアル帝国の使節団の面々はソファーから立ち上がり、代表として外交官シワルフが挨拶を始める。

 

「初めまして。私は、中央世界の中心にある神聖ミリシアル帝国の、西部担当外交部長のシワルフと申します。

この度、貴国から打診のあった先進11ヶ国会議への貴国の出席要請について、神聖ミリシアル帝国政府の決定をお伝えしたいと思い、来訪しました」

 

 シワルフの言葉を聞いて、ダラスは顔に僅かに笑みを浮かべた。但し、それは相手を“歓迎する”ものではない。寧ろ相手を嘲笑う類のものである。

 

「貴方方()()()()()()でここまで来るのは、さぞや大変だったでしょう。先ずはその労を労います。

フッ……『中央世界』か、()()()()()ですな。して、結果はどうなりましたでしょうか?」

 

 ダラスの嫌味を受け流し、シワルフは返答した。

 

「列強レイフォル国に代わって貴国、グラ・バルカス帝国の参加を認めることとします。

開催の要綱は、こちらの書類に全て記載してあります」

 

 ダラスは笑いを堪えることに必死になっていたが、シワルフの手から書類を受け取った途端、堪え切れなくなって噴き出した。

 

「クックック……ハーッハッハッハハ……。

いや、失礼失礼。“我が国の戦艦たったの1隻”に降伏した()()()レイフォルが、()()()ですと?

噂には聞いていましたが、()()()列強だったとは、ハッハッハ。あまりにも“あなた方現地人の基準”が低過ぎて、笑わざるを得ないのです。ハハハハ……」

 

 あまりにも傲岸不遜極まるダラスの物言いに、静まり返るミリシアル使節団。彼らは、これほどまでに舐めた態度を取られたことが無かったのだ。

 この世界において「神聖ミリシアル帝国」といえば、紛れもない()()国家の証である。そのため、各国はミリシアルに“舐めた態度”を取ればどうなるか分かっている。どんな国家であろうと……それこそ、プライドが無駄に高いことで知られた元列強パーパルディア皇国でも、ミリシアルが相手ならば態度を改めたものだ。それが、ダラスの態度はそういったものとは懸け離れている。

 シワルフはゆっくりと口を開く。

 

「国家間の会議でその言い様……“弱小国家が文明圏内国家に虚勢を張った場面”は、何回も目にしてきましたが、中央世界の神聖ミリシアル帝国の外交官に対してそこまで言ったのは、貴方が初めてです。その()()は認めましょう。しかし、はっきり言って不愉快ですね。

一口に世界の五大列強国といっても、その国力には“大きな差”があります。貴国は列強()()のレイフォル国に勝ち、少し鼻が伸びているようですが、気を付けた方が良い。我が国やムー国を、レイフォルと同じと思って対応すると、大きなケガを負いますぞ。

我が国は、貴国グラ・バルカス帝国を先進11ヶ国会議への“参加に足る”国、と判断したに過ぎません。貴国が辺境でいかに強力であろうと、中央世界では通用しないでしょう。世界は一国のみでは生きられませぬぞ」

「貴方のその言葉、そのまま皇帝陛下にお伝えしましょう」

 

 シワルフのちょっとした脅しにも、ダラスは何ら動じること無く、涼しい顔でそう答えた。

 残る事項は若干の確認事項である。シワルフは会議を進めた。

 

「会議に先立って確認を行いたいのですが、貴国の本国の位置と、首都を教えていただきたい」

 

 ところが、なんとダラスは首を横に振った。

 

「本国の位置は、現地人に対しては“極秘事項”です。首都の位置も、お教えする事はできません。

帝国への連絡事項があれば、ここレイフォル地区で承ります」

 

 失礼にも程がある対応に、流石のシワルフの口調も、素っ気無いものに変わっていた。

 

「国同士のやり取りでそれでは、お話になりませんな。

今後、会議参加について不明な点があれば、神聖ミリシアル帝国まで足を運んでいただきたい。では、伝えるべきことは全て伝えましたので、我々はこれで失礼します」

 

 本国の位置すら教えない、というグラ・バルカス帝国の姿勢に嫌悪感を抱きつつ、使節団は再び魔導戦艦「ガラティーン」に乗り込み、グラ・バルカス帝国領レイフォル州を後にした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 約2週間後、中央暦1641年9月27日。処は神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス、帝国情報局。

 局長室では、情報局長アルネウスと2人の職員が、報告を含めた会議を行っていた。2人の職員とは、ロデニウス連合王国に派遣され、同国及び大東洋共栄圏の情報収集と分析を行う第6課(MI6)課長ライドルカと、グラ・バルカス帝国領レイフォル州から帰ってきたばかりのMI4課長ザマスである。3人は先ず、情報を共有しようとしていた。

 現在は、先にザマスがアルネウスにグラ・バルカス帝国についての報告を行っているところで、ライドルカは順番待ちである。その彼の手には、何やら丸められた1枚の紙があった。

 

「という訳で、先進11ヶ国会議の概要は伝えました。ですが、グラ・バルカス帝国の外交官は終始素っ気無い対応であり、本国の位置や首都名ですら教えないという、国際関係上信じられない暴挙に出ました。同国は、旧レイフォル国の首都レイフォリアを外交窓口とするとの事です。会議に参加するのかも怪しい状況であり、あの国は本当に“要注意国家”です。

尚、レイフォルの首都上空を飛んでいた飛行機械は、ムーのそれよりも速く、我が国の制空戦闘型天の浮舟に匹敵する速度が出ていました。あの国は国力や軍事力等の総合力が全く不明な状態ですが、少なくとも技術力は侮れません」

 

 ザマスから報告を受けた局長アルネウスは、下顎に手を当てて考え込んだ。

 

「では、グラ・バルカス帝国本国の位置は、不明のままか……?」

「はい……」

 

 その会話を最後に、2人は沈黙した。すると、様子を伺ってライドルカが口を開く。

 

「局長、ロデニウス連合王国に関する報告の前ですが、1つよろしいでしょうか?」

「む? 何だ?」

「それでは、こちらをご覧下さい」

 

 そう言って、ライドルカはアルネウスの机の上に、丸めた紙を広げて置いた。それを見た瞬間、アルネウスとザマスの顔が驚愕に染め上げられる。

 

「なっ!!?」

「こっ! これは!?」

 

 机の上に広げられたそれは、世界地図だった。だが、地図にしてはあまりにも精巧すぎる。

 各地の山の高さ、谷の位置、主な川の流れ、主立った街の詳細な位置……ロデニウス連合王国はもちろん、ムー国や神聖ミリシアル帝国といった列強国から文明国、果ては第三文明圏外国に至るまで、ほぼ全ての国家の地図が精巧に描かれていた。特に、極秘にしてきた自国の精巧な地図に、アルネウスとザマスの視線は釘付けになっていた。

 

「我が国が精巧に描かれていることに驚かれるのも分かりますが、グラ・バルカス帝国と見られる国の位置はここです」

 

 ライドルカは、地図上の一点を指差した。それは、第二文明圏外と呼ばれる地域である。

 見ると、ムー大陸よりも更に西方、「アストラル大陸」と呼ばれるやや小規模の大陸を挟んで、ムー大陸からの距離にして約5,000㎞の位置に、島というには大きく、大陸と呼ぶには小さい陸地が見える。その陸地にも山や湖の位置が精巧に記されており、ご丁寧にも主立った街の位置等も記されていた。

 

 これは、第13艦隊が極秘裏に進めていた「世界地図作成プロジェクト」の集大成にして賜物である。各地に派遣した独立第1飛行隊の「ディグロッケ」等からの飛行記録(ログ)と航空写真を元に、"釧路"以下の「工廠組」の面々や「艦隊の頭脳派」こと"(きり)(しま)""(ちょう)(かい)"といった面々が必死で計算して海抜高度を弾き出し、ほぼ1年がかりで完成させた大作であった。

 

「こ……これはどうしたのだ?」

 

 やっとのことで我に返ったアルネウスが、震え声で尋ねる。

 

「実は先日、大使館を通じてロデニウス連合王国から、先進11ヶ国会議への出席を決定した旨が我が国に通知されると共に問い合わせがありまして。その際、我が国に駐在しているロデニウス大使のヤゴウ殿がこの地図を持参してきて、どの部分を通過して神聖ミリシアル帝国に来れば良いか、尋ねてきたのです。目的として、他国の領海や聖地指定をしているような部分を避けて航行するため、とのことです。ヤゴウ殿は『この地域の地図を持参した』と申し立てておりました。そのこととこの地図の精巧さからすると、もしかするとロデニウス連合王国は、この世界の全容を掴んでいるのかもしれません。

私は、他国の領海等を正確に調べて回答するため“地図を持ち帰って良いか”と尋ねると、ヤゴウ殿は問題無いと答えておりました。そのため、地図を持ち帰ることが出来ました。通常は極秘事項に認定される地図を、こんなにもあっさり入手出来るとは思っていませんでしたが……。

ヤゴウ殿は、先進11ヶ国会議に関係する国が記された地図を持ってきましたと言っておりました。それ故に、ご丁寧に『グラ・バルカス帝国の位置も記載されたもの』を持ってきたのでしょう。正直、かなり驚きましたが……」

 

 アルネウスとザマスは絶句してしまっていた。それは、この余りに“衝撃的すぎる代物”のせいである。

 一時の沈黙の後、アルネウスがゆっくりと口を開いた。

 

「何と言っていいのか分からんな……。ちょうど良い、ロデニウス連合王国について、話を聞かせて貰おう」

「はい。先日の報告書にも書きましたが、私としてはロデニウス連合王国の軍事技術は、我が国のそれに匹敵し得るものがある、と考えております。根拠としては、まずはかの国の戦艦です……」

 

 そしてこの後30分にも亘って、ライドルカによるロデニウス連合王国に関する説明が続いたのであった。




【速報】パーパルディア軍崩れの海賊、リーム王国による私掠船の可能性あり

ま た お 前 か

以上の感想を抱いた人、もしくはリーム王国にゴミを見るような視線を向けた人は、手を挙げろっ!
さてどうなるか。総統閣下の映画よろしく全員が「ハイッ!」と手を挙げるのか、それとも…?


UA43万突破! ご愛読本当にありがとうございます!!
評価7をくださいました福來様、ヘカート2様
評価9をくださいましたARI様、Zakuweru様、マサル様
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次回予告。

フィルアデス大陸沿岸部を騒がせていた海賊に関して、リーム王国の私掠船だった可能性が浮上するという、予想外の事態が発覚した第13艦隊司令部。堺は急ぎ対応策を講じ、事態への対処に当たる。そしてその頃、リーム王国ではある野望が頭をもたげていた…
次回「フィルアデス大陸の暗雲」

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