鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
「地図によれば、海賊船が入港した2箇所の港街の名は、南岸の方が『セニア』、東岸の方が『ヒルキガ』。それで、この2都市なんですが……
前者はリーム王国の飛び地の中心と見られる都市。そして後者は、
「………
中央暦1641年9月15日、タウイタウイ島 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊司令部にて"
「提督、何かご存知だったのですか?」
「知ってた訳じゃないが、予想を立てていた。どうもキナ臭いと思っていたんだ」
「と仰いますと?」
「まず違和感を抱いたのは、パーパルディア軍残党の“出現時期”だ。パーパルディア皇国が降伏し、パールネウス講和条約によって海軍と国家監察軍を解隊されたのは、『去年の6月末』だった。そしてリンスイ外務大臣の話では、海賊の被害が報告され始めたのは『去年の秋頃から』だという。秋頃とぼかされているから、何月頃から海賊の被害が出るようになったかは不明だが、パーパルディア軍解隊と海賊の出現の間には、明らかに2ヶ月以上のブランクがある。つまりその間、パーパルディア軍崩れの連中が“どうやって食い繋いでいたのか”が不明なんだ。如何に少数の戦列艦と竜母のみとはいえ、結構な数の人間が食いっぱぐれた筈だからな。それだけの数の人間が2ヶ月も食い繋ぐのには無理がある。
それに、よしんば“人間”が食い繋げたとしても、
「確かに、不自然ですね。戦列艦や竜母は、確かにこの周辺では強力な戦力になりますが、その維持には莫大なコストがかかりますから」
理路整然たる堺の説明に、"大淀"も頷いた。
「うん。そして第二の根拠は、“外交トラブル”があったこと。パールネウス講和条約が発効してすぐの頃に、外交上のトラブルがあったんだ。それは、『リーム王国が旧パーパルディア皇国の技術者を何人も自国に連行した』ことだった。ロデニウス政府は新生パールネウス共和国と共に外交ルートでリームに抗議したが、彼らは『あの技術者たちはパーパルディア本国で食い繋ぐ手段を失い、命の危険に晒されていた。我々はその彼らに、救いの手を差し伸べたに過ぎない』と言い張って、その主張が通ってしまった。パールネウス講和条約にそれに関する規定がなく、我々は“穴を衝かれた”格好になったんだ。
この時、リーム王国に連行された技術者たちは、専門分野は多岐に渡ったらしい。ただ……新生パールネウス共和国政府によれば、連行された技術者たちの中には、軍に関わっていた者や軍事技術研究機関の研究者もいた、とのことだ。特に、魔導砲開発やワイバーン関連の研究に関わった研究者や技術者を持って行かれた、と嘆いていたそうだ。飽くまで外務省から聞いただけだから、真偽は知らんけどな」
堺がここまで話すと、"大淀"も彼の言いたいことが分かってきていた。
「つまり、その2ヶ月の間リーム王国はパーパルディア軍残党の糧食を請け負う代わりに、パーパルディア軍の残党に海賊じみたことをさせていたと? そして、2ヶ月とさらに1年の間に戦列艦の魔導砲や砲弾の研究を完了し、量産体制を構築した、ということですか?」
「それだと少し足らんかな。あの国なら、1年2ヶ月の間に戦列艦そのものの量産研究や対魔弾鉄鋼式装甲の研究、ワイバーンロードの量産研究、リントヴルムの調教・飼育法、マスケット銃の開発研究までやっていても不思議は無いと思う。
大東洋共栄圏の筋からの情報によれば、リーム王国はパーパルディアの存在故に、軍需産業に力を入れていたらしい。隣国があんな“超拡張主義国家”だったから、いつその矛先が向けられても自衛できるように研究をしていた……と考えれば、
まあ要するに何が言いたいかというと、リーム王国は去年7月から約1年2ヶ月程度の間に、パーパルディアから連行した技術者を酷使するなり何なりして軍事技術を進歩させ、そしてパーパルディア軍崩れの連中を使って海賊行為をやらせていた……と考えれば、納得できる筋書きができるんだ。ただ……」
「証拠が無い、ですか?」
「そ。だから、フィルアデス大陸沿岸部に派遣して海域監視や海賊の追跡に当たらせたヒトミとイヨとは別に、イムヤをリーム王国に張り付かせて監視してたんだが……どうやら尻尾を捕まえたらしい。こりゃあ陰謀の臭いがプンプンするぜ」
そう言うと、堺は手元のファイルを開きながら"大淀"に尋ねた。
「今の潜水艦の展開状況は?」
「はい。伊8と伊19、伊26はシオス島・アルタラス島近海からマール王国沿岸部に掛けての海域で活動中。伊13と伊14は引き続きフィルアデス大陸沿岸部で作戦行動中です。伊58と伊401は、大東洋南方での海賊被害がゼロになったため、作戦終了と見做され帰還中です。本日中には泊地に帰還するでしょう」
「OKだ。ならイムヤは、そのままフィルアデス大陸南岸、セニア方面でリーム王国軍の動向を監視させよう。リーム本国の方は、帰ってきて早々すまないとは思うが、ゴーヤに監視させる。あいつらはこの第13艦隊でもトップの練度を持つ潜水艦だ、期待に応えてくれるだろう。それと、念のため
「"呂500"は確か、艤装の色を塗り直して大東洋式迷彩にしたんでしたね。早速の実戦投入ですね」
ここで一言解説すると、潜水艦に求められることは何よりも「見つかりにくいこと」である。
代表的なのが静音性だ。水上にいる駆逐艦や駆潜艇、あるいはヘリコプターのような航空機は、大体の場合潜水艦の「音」を聞いて位置を割り出し、爆雷や誘導魚雷を叩き込んでくる。それに対抗するには、まず潜水艦自身が静かでなければならない。そのために、世界各国は潜水艦に様々な対策を施している。基本的には、エンジンの騒音を減らすことだ。映画に登場した、原子炉まで駆使して完全無音を達成した架空のタイフーン級原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」は、その極致と言えるだろう。
その他に、意外に思えるかもしれないが、潜水艦や潜望鏡の色を海の色に同化させる、というものもある。皆様は、海の色なんて世界中どこでも同じ青だ、と思ってはいないだろうか? 甘い。実は各地で海の色は微妙に異なるのである。このことは、Uボートの塗装パターンなどをご覧いただければお分かりいただけるだろう。
潜水艦はできるだけ目立たないようにしなければならない。そのため"呂500"は今回、艤装の色を塗り直して“大東洋の海の色そっくり”にしたのである。
「という訳で、早速"伊58"が帰投したら、労を労った上でリーム王国本土の監視任務を課そう。"伊168"は引き続き監視続行だが、そろそろ"呂500"との交代も視野に入れた方が良いかな。任務内容はリーム海軍の偵察と、同海軍の動向監視……!?」
途中まで言いかけて、不意に堺の目が見開かれた。
「動向……?」
たった今、自分自身が発した言葉を
「どうしました、提督?」
"大淀"が尋ねると、堺は「大事なことを忘れていた」と言わんばかりの愕然とした表情で彼女を見据えた。
「拡張主義……軍需産業……。そして、襲われた船の航路……。
なあ大淀、確認するが、トーパ王国やネーツ公国に向かう我が国の船及び大東洋共栄圏関連の輸送船の積み荷って、何が多い?」
「積み荷ですか? ええと……」
急に問われて動揺しながらも、"大淀"はすぐに指を折って数え始めた。
「主だった物としては衣類や石油、蛋白質を多く含む食品及びそれらを加工した保存食品、魔石類。最近は、我が国の工兵隊と連携して『世界の扉』の修復に当たっていますから、そのための建築資材としてコンクリートの原料や石材、
そこまで考え、彼女も
「我が国のボルトアクション式小銃や機関銃及び拳銃の、リーム王国による
「十分あり得るだろう!?」
「はい!」
緊急事態である。
「まずいことになったな……。これは大至急外務省に問い合わせて、襲われた船の積み荷を調べなければ。
そして大淀、もう一つ危険性に気付いた」
「何ですか、提督?」
「この世界の国は……特に第三文明圏の国は、基本的に
「!!」
現時点では、あくまで「可能性」の話だ。だが、十分に筋の通った“あり得そうな話”である。
「俺は直ちに外務省に問い合わせるのと、フィルアデス大陸方面に展開している艦隊及び軍司令部に、本件の報告をしてくる。大淀、すまないが、リーム王国が仮に“領土拡大を目的とする軍事行動”を狙っていると仮定して、どこが狙われそうか調べてくれ。
「承知しました!」
思い立ったが吉日、こうなればもはや行動あるのみ。
執務室を飛び出していった"大淀"を横目に見て、堺は大急ぎで電文を作成しながら、暗い思考に囚われた頭を左右に振った。
(こうなった以上、“最悪の事態”を想定して動かなければならない。我が国の銃は、少なからずリーム王国によって鹵獲されていると考えるべきか……。そして、パーパルディア皇国の戦列艦建造ペースから逆算して、リーム王国も既に50隻以上の新型……つまりフィシャヌス級クラスの戦列艦を建造していると見るべきだろう。下手すれば、竜母もあるだろうな。
ただ不幸中の幸いとして、ボルトアクション式銃はフリントロック式マスケット銃よりも遥かに高度な工業技術レベルを要求されるから、既に大量生産されているとは考え難い。マスケットを手に入れたばかりのリーム王国では、金属加工その他の精度がまだ低すぎて、ライフリングを切ったりするまではできていない筈だ。機関銃は考えるまでもないだろう。ただ、ガトリング砲は出てくる可能性があるな。
さて……今回はあまりにも急な案件だから、もし仮に軍隊を動かすとすれば
それにしても……やってくれるな、リーム王国。パーパルディア軍残党の海賊に見せかけた私掠船とはな……そのツケは、いつか10倍の利子を付けて返してやるから、覚悟していろ……!)
既に堺の頭脳はフルスロットルで回転し、あらゆる可能性を計算しつつあった。え、黒い面が出てる? さて、何のことやら……。
問い合わせの結果、銃を搭載した
(やられたっぽいな、これは……。ただ、2隻合わせて数丁しか積んでいないという話だから、まだマシか……。
さて、ヤヴィン総司令への報告も済んだし、うちの第13軍団には出撃待機命令を伝達した。今頃急いで準備しているだろう)
執務机に座って第13艦隊の動員可能な戦力を洗い出しながら、堺はそう考えていた。
実際、泊地全体がドタバタと騒がしくなっているし、雰囲気もかなり物々しいものに変わってきている。対パーパルディア戦争以来の雰囲気だ。
そこへ、ノックも無しに"大淀"が入って来る。え、ノック無しは失礼じゃないかって? 残念、これが“タウイのデフォルト”なのだ。理由は、「誰に対しても閉ざすドアを私は持っていないから」「用事があれば(来客時を除き)いつでもノック無しで入って来て良い」という堺のポリシー故である。
「シミュレーションが完了しました。多面的に考えると、最も狙われる可能性が高いのはデュロ……フィルアデス大陸東岸の工業都市にして、かつてのパーパルディア工業地帯、そして現ドーリア共同体の中心都市です」
「何故そう思う?」
「はい、リーム王国が拡張主義であるということを根拠に、さらなる軍備拡張を図っているならデュロを狙う可能性は高いと判断しました。あそこは元々パーパルディア皇国の工業の中心であり、そこを支配下に入れれば兵器の調達がより円滑になるからです。それと、リーム王国とドーリア共同体の推定軍事力を比較した結果も、リーム王国の優勢を示していました。それにデュロはリーム王国本土から近いですし、沿岸部にありますから、陸上と海上から挟撃できます。以上が根拠です」
「うん、良い発想だ。そして俺も、そこが狙われる可能性が最も高いと踏んでいた」
"大淀"に頷き、堺は一度手元の書類に視線を落とす。
「外務省に問い合わせた結果、我が国のボルトアクション式銃がリーム王国に鹵獲された可能性がある。これは“悪い情報”だ。
だが同時に、“良いニュース”がある。以前から審議されていたドーリア共同体の大東洋共栄圏への参加申請が、
「了解しました。それに関してですが提督、1つ朗報があります。離島への強襲上陸演習のため、アワン島に展開していた第2訓練任務群がアワン島を出立しました。全速力で飛ばしていますから、明日にはデュロに到着できます」
「好都合だな。まさか、アワン王国軍との共同訓練に当たっていた海兵隊が、こんな形で“即応兵力”になるとは……。
それと、フィルアデス大陸沿岸部に展開して海賊討伐に当たっていた艦隊は、一部を分離してデュロ沖に向かわせる、とのことだ。
戦力がどうにかなりそうだと分かり、"大淀"は少しだけ安堵の表情を浮かべた。
第2訓練任務群の戦力は、まず陸上兵力が、海兵隊約2,000人を輸送する輸送船8隻に、機関銃装備のハノマーク4輌とⅢ号戦車N型4輌。海上戦力は、護衛艦隊旗艦を務める軽巡洋艦「
もし対峙することになった場合、リーム王国海軍の装備は戦列艦と木造帆船型竜母が主な海上戦力になると予想される。ならば、
「承知しました。後は……もしリーム王国が実際にドーリア共同体に侵攻したとして、それを食い止めるべき我々が間に合うかどうか、ですね。それと、敵の数が多すぎないか、ということです」
「ああ。1日あれば、少なくとも第2訓練任務群は間に合うようだから、それまでに敵が動いて、デュロに肉薄しなければ大丈夫だろう。おそらく間に合う筈だ。敵の数が問題だな」
「乗り切れるでしょうか? 第2訓練任務群の海兵隊2.000人とその護衛艦隊で」
「防衛に徹すれば、ある程度は何とかなると思う。幸いにして、増援という形になるだろう第13軍団は、
「承知しました」
堺も"大淀"も、ドーリア共同体の明日を気にしていた。
「ん?」
その時、2人の妖精がちょろちょろと走ってきたかと思うと、2人がかりで運んできた何かの紙切れを堺に差し出した。通信電文らしい。
「何だ? ……ほほう、なるほどな」
怪訝な顔をして紙を受け取った堺が、記された電文を読むや真っ黒な笑みを浮かべる。
「どうしました?」
"大淀"が尋ねると、堺は黒い笑顔のまま答えた。
「……
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、リーム王国 王都ヒルキガ。
リーム王国は、第三文明圏においては「準列強」と呼ばれるほどの軍事力を有しており、国力も相応にある。少なくとも、持ち回り参加国として先進11ヶ国会議に呼ばれるだけの力はある。そのリーム王国の王都ヒルキガは、今日も多くの人々が通りを行き交い、行商人の商いの声が活発に飛び交っている。
そんなヒルキガの中心に立つ王城セルコ城、その一室で4人の男が話し込んでいた。
「どうだレスター? 陸軍の訓練状況は」
「は、リバル様。魔導マスケット銃を装備した戦列歩兵部隊は、訓練は十分と見られます。持ち運び可能な野戦用魔導砲についても十分な数が揃い、砲兵隊の練度も実戦に十分耐え得るものになりました」
「うむ、そうか。良いことだ」
リーム王国王下直轄軍司令部の一角にある「大将軍室」。大将軍リバルの執務室となっているその部屋において、陸軍総司令官レスターがリバルに対して報告を行っていた。レスターは40代半ばくらいと見られる、筋骨隆々の逞しい男である。
「して、兵器開発研究所に回した“あの銃”についてはどうなった? 解析結果は出たか?」
そのレスターに、明らかに五十路に両足を突っ込んでいると思われる老けた感じがする見た目の、しかし眼光鋭い男…リバルが問う。
「は、アワン王国の商船に“抜け荷”のように積まれていたあの銃ですが……兵器開発研究所からの現時点での回答は、『解析が全く進まない』とのことです。どうも、あの銃とマスケット銃とでは、作動機構が全く異なっているようです」
「そんなにあの銃の解析は難しいのか?
「は。まずそもそも、用途不明の機構が多数ある代わりに、火打ち魔石がどこにも見当たらないときているのです。銃弾らしきものも鹵獲したのですが、妙に細長い代わりに発射するための炸裂魔石が無く、どうやって撃っているのか皆目分からない、とのことでした。また、鹵獲した銃のうち1丁を分解したところ、銃身内部には奇妙な“溝のようなもの”が彫られていることが分かりましたが、何のために彫られているのか、どうやって彫ったのか、全く見当が付かないそうです。
せめて何かしらのヒントを得ようと、魔力感知装置にかけてみたのですが、銃本体にしても銃弾らしきものにしてもどこからも魔力反応が無い、という思わぬ結果が出たそうです。我々の知らない何かの技術、おそらくはムーの科学技術のようなからくりが用いられているのだろう、と結論付けられています。何にせよ、あの銃の解析は不可能でした」
「ううむ……」
「解析不能」と言い切られてしまい、考え込むリバル。ややあって彼は口を開いた。
「作動機構は全くの不明、おそらく科学技術の産物……か。パーパルディアが敗れたのも道理かもしれん、警戒しなければ。レスター将軍、報告ご苦労であった」
「はっ!」
「時にフレーゲル、海軍の方はどうだ?」
リバルに名を呼ばれたのは、レスターほど筋骨隆々ではないものの、十分に鍛えられていることが鎧の上からでも分かる、40代後半くらいの男性だった。リーム王国王下直轄海軍総司令官、フレーゲルである。
「はっ。バンクス級戦列艦……旧パーパルディアからの技術を得て建造された我が国初の80門級装甲戦列艦は、現時点で76隻が完成しています。このうち訓練中の艦を除くと、実戦運用が可能な艦は52隻であります」
「存外少ないのだな」
「大将軍閣下の心中はお察し致しますが、何分“最新兵器”であります故御容赦を。ただ、その代わりといっては何ですが、装甲板を持たない戦列艦ならば、30門級・50門級・80門級全て合わせると、222隻を出撃させることが可能です。ただ、最新鋭に近い80門級は、60隻の投入が限界であり、残りは我が国の旧式魔導砲……射程1㎞の球形砲弾を放つ砲を搭載した艦が大半を占めています。それでも2年前に比べれば、我が海軍の戦力は3倍以上に強化されました。竜母にしても、9隻が就役しております」
「分かった。ところで、私直々に海軍に命令した“あの作戦”……フィルアデス大陸沿岸、大東洋北部における海賊を装った通商破壊作戦はどうか?」
リバルは声を潜めて尋ねた。当然、フレーゲルも小さな声で答える。
「そのことなのですが、約3ヶ月前から失敗と不調が続いております。どうやら、ロデニウス連合王国の海軍が動いたようで……」
「何だと? 本当か?」
「はい。実際、約1ヶ月前の8月22日に、我が海軍の第102艦隊がロデニウス海軍の艦隊と遭遇し、10倍の数の差があったにも関わらず大敗を喫しました。第102艦隊30隻のうち、生還したのは僅かに3隻のみ。しかも1隻は大破しており、現在王都の工廠で修理を急いでいます。今回の件を受けて、第102艦隊は解散、生還した2隻はセニアに向かわせ、第103艦隊に編入させました」
「分かった。時に、よもやロデニウスにバレてはいまいな?」
「問題ありません。27隻については全て沈没を確認しましたし、3隻を追ってきた船もワイバーンも飛行機械もございませんでした。また、作戦参加人員にはもし捕虜となった場合、嘘の情報を喋るか自決するよう“教育”してありますので」
「……周到だなお主は」
「お褒めに預かり恐縮です」
そう言い合うリバルとフレーゲルだが、彼らは全く気付いていなかった。
逃げ帰った3隻の戦列艦……第102艦隊の生き残りが海中から"伊168"に尾行されており、海賊の
「ならば、彼らが事実を知っている可能性は無さそうだな。フレーゲル、ご苦労。次にオーデル、竜騎士団の方はどうか?」
「は!」
今度は30代半ばくらいじゃないかと思われる、まだ若い短髪の男性が答えた。
「我が竜騎士団へのワイバーンロードの配備は比較的順調に進んでおります。現時点では、通常型ワイバーン152騎・ワイバーンロード96騎が、前線での勤務や戦闘に耐えるとされています」
「……質的には向上したが、数としてはまだ少ないな。以前は通常型ワイバーンのみとはいえ、400騎はいたものを……」
「はい。あのパーパルディア皇国との戦争で、我々はあまりに多くのワイバーンを失いすぎましたので」
皆様は覚えておいでかもしれないが、リーム王国が73ヶ国連合軍の味方としてパーパルディア皇国と戦った際、リーム王国王下直轄軍は多数の竜騎士をワイバーンごと失った。あの戦いでは、国防のために残した約100騎を除いて300騎もの竜騎士が対パーパルディア戦線に出陣したのだが、そのうち約220騎を……率にして70%以上を失ったのだ。この損害はあまりに大きかった。
そのため、リーム王国竜騎士団はほぼ壊滅状態に陥り、国防は何とかなるものの外征は不可能となった。そして今も、質的には損害は取り戻すことができたが、数は対パーパルディア戦争前よりも少ない状態が続いている。
なお、この損害の大半を引き起こした陸軍の将軍カルマは、陸軍兵の方にも甚大な被害をもたらすきっかけを作ってしまったことから、既に更迭どころか懲戒免職とされ、軍からは不名誉除隊処分を受けている。
「まあ、あれだけの損害は一朝一夕には回復できんか。全滅しなかっただけでもマシ、ということだろう。
オーデル、引き続き竜騎士団の錬成に努めよ。フィルアデス統一作戦実行の日は近い」
「は!」
こうして、リーム王国王下直轄軍上層部の報告会が終了した。
3人を持ち場に帰し、国王に報告すべく廊下を歩きながら、リバルは1人考えていた。
(フィルアデス大陸全域を我が国の支配下に収め、ゆくゆくは第三文明圏全体を支配する大国となる……。この希望、パーパルディア皇国がいる間は全く達成できる見込みが無かったが、今やあの国は大幅に弱体化し、新生パールネウス共和国とやらいう小さな領土を維持するのが精一杯だ。我が王下直轄軍の敵にはならん。従って、フィルアデス大陸を制圧するなら今が好機だ。
問題はロデニウス連合王国だが……あの国は
そのリバルもまた、ドーリア共同体の大東洋共栄圏参加がたった今認められたことを知らないのである。まあ、“海外で起こったことをリアルタイムで知る”なんて、この世界では非常に難しいことであるから、この点は仕方無い。
(では……かねてから陛下がお命じになっていたデュロ攻略を今実行に移すよう、陛下に上申しよう。ドーリア共同体の軍事力は、我が国のそれと比較すれば我が国が優勢だ。彼らもマスケット銃や野戦砲はあるだろうが、ワイバーンロードは我が国より少ないらしいから、何とかなる。本国の軍でデュロを攻め落としたら、次はかつてのパーパルディアの属領だ。クーズから始めるかな?
フフフ……フィルアデス大陸の覇者となるのは我々リーム王国だ! そしてゆくゆくは、技術を発達させてロデニウス連合王国も攻め落とし、フィルアデス大陸の内外全域を我が国が支配するのだ……!)
そのロデニウス連合王国の最精鋭部隊たる海軍第13艦隊と陸軍第13軍団が、デュロを守るべく全速力で現地に急行していることなど知る由もなく、リバルは国王の元へ向かっていた。
国王執務室は、王城の最上階にある。やや苦労しながら階段を登り、執務室前に辿り着いたリバルは、乱れかけていた呼吸を整えると衛兵に謁見の許可を請うた。謁見はすぐに認められ、リバルは恭しい様子で執務室に足を踏み入れる。
執務室は比較的質素な感じの部屋だが、使われている調度品は間違い無く一級品である。まあその代わりに、国王
「リバルよ、どうしたのだ?」
「陛下、急な訪問をお許しくださいませ。ですが、大事な朗報であります故、一刻も早く陛下にご報告致したいと思いまして、参上致しました。
我がリーム王国王下直轄軍は、全ての準備が整いつつあります。軍を移動させ、補給体制を構築すれば、3日後にはデュロ攻略を開始できる状態になりました」
「おお!」
リバルが改まった口調で報告すると、バンクスは相好を崩した。
「では、いよいよ事始めだな? フィルアデス大陸統一事業の」
「は。我がリーム王国王下直轄軍、全力を挙げて陛下のご威光を知らしめてご覧に入れまする」
「そうか……! ふふ、フハハハハハハ! いよいよだな! いよいよ、余の野望が果たされる時が来たのだな!」
「はい、陛下。陛下のご威光がフィルアデス大陸全土を照らしめるのも、近日中のこととなりましょう。
では陛下、かねてより準備しておりましたデュロ攻略を開始致してもよろしいでしょうか?」
「おお、良いぞ。始めてくれ。いよいよフィルアデス大陸を統一する大事業が始まるのだな……余は嬉しいぞ」
「陛下、私も同じ気持ちでございます」
「してリバルよ、どれほどの兵力を投入するのだ?」
「はっ、陸軍兵力は先遣隊として3万5千人、本隊として30万人。これを、陸と海の2方向に分けて投入します。先遣隊のうち陸から進攻する部隊は3万人、これには新兵科となる鉄砲騎馬を2,500人含みます。それ以外にリントヴルム65頭、ワイバーンロード20騎、ワイバーン55騎、持ち運び可能な野戦用魔導砲250門。そして海上から残り5,000人を輸送船に乗せてデュロの港に強行上陸させ、占領する算段です。海上輸送の護衛は、最新鋭の装甲戦列艦を含む戦列艦85隻と竜母4隻です。艦隊の航空戦力はワイバーンロード30騎、ワイバーン50騎です」
「勝てるのか?」
「ドーリア共同体の兵力は、陸軍は我が軍と質的には同程度と見られますが、ワイバーンロードの保有数は少ないでしょう。海軍の数に関してはこちらの圧勝です。ご心配には及びません」
「そうか。では、頼んだぞリバル」
「はっ! 粉骨砕身して陛下のご威光を満天下に知らしめてご覧に入れます」
かくて、デュロ攻略はあっさり許可を得た。そして彼らは、デュロ攻略は“ほぼ100%の確率で成功する”と、信じて疑っていない。……既に、成功率は
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、中央暦1641年9月16日。
まだ朝日も昇らぬうちに、闇の中をロデニウス連合王国・タウイタウイ島から多数の艦艇が出港していた。針路は北北西、デュロの方角である。第13艦隊のドーリア共同体救援部隊であった。
その陣容は、速度を重視した編成になっていた。兵員輸送艦隊は高雄型重巡洋艦「高雄」を旗艦として、重巡洋艦「
しかもこれだけに飽き足らず、火力支援を担当する第2艦隊がその後方に従いていた。戦艦「ウォースパイト」を旗艦に、戦艦「イタリア」「ローマ」、航空母艦「アクィラ」、重巡洋艦「ザラ」「ポーラ」、軽巡洋艦「
この艦隊だけで戦艦5隻、第2訓練任務群の「ビスマルク」も含めると6隻も戦艦を動員している辺り、かなり本気である。……大和型を持ってきて
「ちょうど良い機会なので、ここでyouのスキルを見極めさせていただきマス。既にテートクと榛名には了承を得てありマスので、youがこの艦を指揮してくだサイ!
各艦との通信は私がやりマスが、それ以外はyouの采配デース! これは言わば『卒業試験』の1つと心得てくだサーイ!」
「承知しました!」
そんな中、戦艦「金剛」の指揮権が入れ替わっていた。何と今回の作戦に限り、ムーから留学武官として来ているラッサンが、「金剛」の指揮を執ることになったのである。
ラッサンは砲術が専門であり、かつてはラ・シキベ級軽巡洋艦の艦長を一時期務めたこともある。だが戦艦を、それも就役済みかつ自国最大の戦艦「ラ・カサミ級」より大きい艦を指揮したことは全くない。これが初めての経験である。
しかし、ラッサンはほとんど緊張していなかった。寧ろ、“高揚感”すら覚えていた。
(ついに、臨時とはいえ戦艦の
右手の拳を握り締め、ラッサンはこの試験に一発で合格することを期していた。
なお、実はこれはラッサンに限った話ではない。第二水雷戦隊に配属されて勉強していた留学武官バーグもまた、臨時指揮官を任されていたのだ。……1個駆逐隊の指揮を。
そう、実は「龍驤」を護衛する1個駆逐隊に「
ちなみに、旗艦不在の状態となってしまう残り3個駆逐隊には、本土で待機していた「
その頃、ドーリア共同体の中心都市デュロ。
まだ夜闇の中に沈んでいるデュロであるが、工場の一部は稼働しており、その部分だけは明るくなっていた。その薄明かりに照らされて、巨大な艦のシルエットが闇の中にぼんやり浮き上がっている。
それは、第2訓練任務群の戦艦「ビスマルク」であった。その付近には輸送船8隻が順に接岸し、戦車や装甲車・兵士を揚陸している。それに混じって航空母艦「グラーフ・ツェッペリン」が、平べったい艦体を横たえていた。重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」、軽巡洋艦「矢矧」、駆逐艦「レーベレヒト・マース」「マックス・シュルツ」は彼女たちの後方に布陣して、沖合からの敵襲に備えていた。
「まさか、
戦艦「ビスマルク」の艦橋では、艦娘"Bismarck"が眠気覚ましのコーヒーを
彼女は一度、このデュロに来たことがある。その時は、デュロを守っていたパーパルディア皇国軍に自慢の38㎝砲弾を次々と叩き込み、陸上作戦前の艦砲射撃で相手を蹴散らしたものだ。
「今度も、相手にこの主砲を見舞うことになるのかしら。ま、それはAdmiralとYahagiが決めることね。でも…私としては、対地砲撃だけじゃなくて
彼女の呟きを聞く者は、夜間当直員以外に誰もいなかった。
そして時を同じくして、リーム王国軍もまた動き出そうとしている。
リーム王国の南側、ドーリア共同体との国境地帯付近には既に機動力の高い騎兵部隊が集結しつつあり、マスケット銃を装備した戦列歩兵部隊もこれに続かんとしている。また、王都ヒキルガの港では多数の戦列艦と兵員輸送用の帆船、それに4隻の竜母が出港準備を整えつつあった。
フィルアデス大陸における戦乱の気運は、高まりつつあったのである……
リーム、また貴様か! と言いたくなった人は挙手。
さて、ついに動き出す第13艦隊。果たしてこの武力は衝突に発展するのか? 行く末や如何に?
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次回予告。
フィルアデス大陸の一極支配を目論むリーム王国。それに対して盟邦ドーリア共同体を守るべく立ち上がったロデニウス連合王国。デュロの陸に海に空に、両者対立の気配満ちる…
次回「戦火の火種は燃え上がるか?」