鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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不穏な雰囲気が漂い始めたフィルアデス大陸。燻りかけている戦火の火種は、燃え上がるのか…?



104. 戦火の火種は燃え上がるか?

 中央暦1641年9月17日、フィルアデス大陸東部沿岸部 工業都市デュロ。

 嘗ては列強パーパルディア皇国の工業の中心地であり、今はパーパルディアから独立した属領の集合体の1つ「ドーリア共同体」の中心地となっているこの街には現在、全域に避難命令が出されていた。

 市民たちは、大急ぎで必要最小限の荷物を纏めると、家や職場を捨てて南へと退避していく。その群衆は、ドーリア共同体防衛軍兵士たちの指示に従って、長蛇の列となって南へ向かっていた。

 一方、無人と化したデュロの街には、人々や工場の喧騒の代わりに物々しい音が満ち始める。それはガチャガチャという(よろい)(かぶと)の鳴る音であったり、カツカツという(ぐん)()の足音であったり、あるいはキュラキュラキュラというキャタピラの(きし)む音であったりした。

 ドーリア共同体防衛軍の歩兵たち5,000人と、防衛兵力の増援としてデュロに上陸したロデニウス連合王国軍海兵隊2,000人、そしてハノマーク装甲車やⅢ号戦車N型が、デュロ市街地を(かっ)()しているのだ。ロデニウス連合王国軍の兵士たちは、足早にデュロの市街地を抜け、街の北側で応急の防御陣地を構築し始める。ドーリア共同体防衛軍の兵士たちは家具や荷車等で道路を封鎖してバリケードを造り、市街戦の用意を整えつつあった。

 どの兵士の顔にも、緊張が見て取れる。ドーリア共同体の兵士たちは「自分の命に代えてもこの国を守る」という悲愴な決意故に。そしてロデニウス連合王国軍海兵隊の兵士たちは、初とも言える“本格的な軍事衝突”の気配を感じ取って。

 

 そんな中、ロデニウス連合王国軍の中には泰然としている者たちがいた。デュロの港に待機している、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊の艦娘たちと妖精たちである。彼女たちは実戦慣れし過ぎていて、ちょっとやそっとのことでは“動じなくなっている”のだ。まあ、つい最近まで(しん)(かい)(せい)(かん)やら何やらと「命のやり取り」をしていたのだから、無理もないが。

 

「………」

 

 海兵隊を運ぶ輸送船団の護衛艦隊旗艦を務める()()()型軽巡洋艦3番艦「()(はぎ)」の艦橋では、白い服に黒いスカートを履いた1人の女性が、泰然としながらも厳しさを伴った目で海図台に置かれた地図を睨み付けていた。黒い長髪を束ねたポニーテールが大腿の辺りにまで達している。

 彼女の名は"矢矧"。彼女もまた、艦娘である。そして今、彼女は戦艦1・航空母艦1・重巡洋艦1・駆逐艦2を指揮下に置いていた。

 

(日はもう出てきたから、敵の索敵ワイバーンが来るとしたらそろそろね……)

 

 最早、戦闘はいつ始まってもおかしくない状況である。夜明けを待たずに「グラーフ・ツェッペリン」から発進した艦上偵察機「(さい)(うん)」からの報告も、其れを裏付けていた。

 偵察機からの報告では、リーム王国陸軍は未だ国境線付近で集結中のようで、少なくとも動いていない、とのことである。数は約3万、リントヴルムらしき生物約70頭を含む、と報告されていた。ドーリア共同体防衛軍だけで戦ったなら、数刻を経ずして蹴散らされていただろう大戦力だ。

 また、「王都ヒルキガより大艦隊が進発、フィルアデス大陸沿岸部を南下中。デュロに向かうものと推測。編成は戦列艦約80、竜母約5、輸送船60ないし65」という報告も寄せられた。強襲揚陸艦隊らしい。

 

(やはり、海からも来たみたいね。提督の見解は正しかったわね)

 

 そんなことを考えながらも、彼女の頭の中では既に迎撃作戦と布陣が決まっていた。

 現時点で、こちらは敵より()で優越しているが、()が少ない。従って、多少の危険を覚悟で防御戦に徹し、なるべく敵をデュロ市街地に惹き付けて叩く以外に無い。敵軍歩兵隊や騎兵隊の後方にいる砲兵隊に対しては、遠距離から圧倒的な火力をぶつけられる"Bismarck(ビスマルク)"や、急降下爆撃機による遠距離精密爆撃が可能な"Graf(グラーフ) Zeppelin(ツェッペリン)"に任せるしかない。

 

(私はこのままここに留まって、航空戦と各艦隊の管制。"Bismarck"は強力な38㎝砲の連続射撃で対地砲撃。"Graf Zeppelin"は艦載機で市街地及び艦隊上空の制空権奪取と航空攻撃……なんだけど、対地爆撃と艦隊攻撃のどっちに出すかが悩ましいわね。"Prinz(プリンツ)  Eugen(オイゲン)"と"Z1(レーベレヒト・マース)"、"Z3(マックス・シュルツ)"は敵艦隊の迎撃を担当。当座はこれで時間を稼ぐしかないわ)

 

 苦しい局面ではある。だが、それもあと1日2日の辛抱だ。

 既に、フィルアデス方面海賊討伐部隊から軽空母「(りゅう)(じょう)」と軽巡洋艦1隻、駆逐艦4隻が分離し、こちらに全速で急行中である、との連絡が入っている。また、提督直率の大艦隊……戦艦5隻、空母3隻、重巡洋艦6隻を主力とする第13艦隊の増援がタウイタウイ泊地を抜錨しており、早ければ2日後にはこのデュロに到着する見込みである。第13軍団も総動員したとのことであるから、おそらく戦車第11連隊(士魂部隊)もいるだろう。

 これだけ集まれば、勝機がある。それどころか、防衛戦から反転攻勢に転じることも、現実的に可能なレベルだ。

 また、提督からは「外務大臣のリンスイ卿が『ちょっと手を回してみる』と仰っていた」との報告が届いている。何をする気かは知らないが、何かしらこの状況の解決に役立つものである筈だ。

 今私がすべきことは、現状を把握し、困難を打開する策を考えることだけ……

 

「21号対空電探に感あり! 本艦よりの方位40度、距離40㎞、数は1!」

『グラーフよりヤハギへ、FuMO25レーダーが敵機を捕捉した。艦隊よりの方位40度、距離41㎞、敵速約300㎞/h。ワイバーンロードと見られる、数は1。指示を乞う、送れ』

 

 と、"矢矧"の思考を2つの声が遮った。1つは電探を操作していた電測妖精からのもの。もう1つは、通信機から飛び出してきた"Graf Zeppelin"の声だ。

 

(来たわね、索敵機!)

 

 彼女は、素早く思考を切り替えた。

 

「矢矧よりグラーフ、おそらく敵の索敵機よ。ドーリア共同体の領空侵犯は明白、直ちに撃墜しなさい」

『グラーフよりヤハギ、Jawohl(ヤヴォール)

 

 ごく短い"Graf Zeppelin"の返答。そして、やや丸みを帯びた機首を持つ戦闘機が彼女の飛行甲板から飛び立った。母艦が停止しているのに戦闘機が発艦できているのは、飛行甲板先端に設置されたカタパルトの()せる技だ。

 発艦した2機の戦闘機は、あっという間に敵がいる空へと飛び去っていった。

 

 

 力強く羽ばたく翼を以て、青空を駆ける影が1つ。それは、この世界でも主要な航空戦力であるワイバーン…ではなく、その改良型、ワイバーンロードである。第一・第二文明圏では、主要各国の航空戦力として扱われており、第三文明圏においては“最強の航空戦力”と見做されて()()。……そう、「いる」ではなく「いた」、()()()である。パーパルディア皇国がワイバーンオーバーロードの開発に成功した上に、ロデニウス連合王国が戦闘機を投入したせいで、ワイバーンロードの優位性が“完全に”失われてしまったからだ。

 そしてこのワイバーンロードは、背中にリーム王国の国章を描いた旗を付けていた。

 

 リーム王国の竜騎士クルツは、愛騎のワイバーンロードの背中に跨ってドーリア共同体の領空を飛んでいた。何をしているのかというと、“作戦開始前の最終偵察”である。

 リーム王国は、ドーリア共同体の中心都市デュロを、武力を以て攻め落とそうとしていた。その攻勢開始の前に、敵の防衛戦力の規模や配置を偵察することになった。そして彼は、偵察任務を命じられたのであった。

 

(これは良いな。前のワイバーンも悪くないが、このスピードは何者にも代え難い)

 

 身体に吹き付ける風を全身で感じ、クルツは笑みを浮かべる。だが、その笑みは緊張で引きつっていた。

 クルツは、元々竜騎士団ではワイバーンに乗っていた。だが、パーパルディア皇国との戦争が始まった時には、彼は未だ訓練の基礎課程を優秀な成績で終えたばかりであり、実戦に出ることは叶わなかった。しかし、その実戦で先輩方の多くが戦死し、リーム王国軍は一人前の竜騎士を大量に失った。そのため、リーム王国軍は1人でも多くの優秀な竜騎士を補充しようとし、その流れに乗せられる形でクルツは一足飛びに昇進し……そして、当時まだ量産配備が始まったばかりだったワイバーンロードを新人竜騎士の中で誰よりも早く受領した。それから更に鍛錬を積み、そして今に至るのである。

 つまり、クルツにとってはこれが“初めての実戦”であった。訓練と実戦とはまるで異なるものであり、そのため彼は酷く緊張していた。まあ、新兵らしい反応と言えるだろう。

 

(だ……大丈夫だ、充分に訓練は積んだ。相手もワイバーンロードを出して迎撃してくるかもしれないが、自分とこいつなら振り切れる!)

 

 自分に言い聞かせながら、クルツはワイバーンロードの()(づな)を引き、一路デュロを目指す。もう、ドーリア共同体の領空に侵入している筈だ。

 

(……あれか)

 

 そのまま飛び続けること5分、ようやく地平線の辺りに小さく街が見えてきた。多数の煙突らしき高い塔のようなものが見える……間違い無くデュロだ。

 

(さて、敵は……!?)

 

 地上を見下ろそうとしたその瞬間。

 

 クルツの視界の上の方で、“何か”がキラッと光った。同時に、彼の全身を強烈な殺意が貫いた。

 

(上!?)

 

 咄嗟に見上げた彼の視線の先、獲物に向かって突撃する(はやぶさ)(わし)のように高空から舞い降りる2つの影。グオオオオオン……という独特の野太い音を響かせながら、猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 

「……!!」

 

 声にならない声で悲鳴を上げながら、クルツは素早く相棒の手綱を右に引いた。主人の命令に忠実に従い、ワイバーンロードは右に急旋回する。その途端、

 

ダダダダダダダダダダ!!!!

 

 軽快な連続音と共に、光弾の嵐がさっきまでクルツのいた位置を貫いた。あと一瞬回避が遅れていたら、あれを喰らっていただろう。

 

(!!!)

 

 今の光弾はいったい何だったのか? そして、それを放ってきた空を飛ぶ「何か」は、いったいどこの何者なのか? 分からない。分からないことだらけだ。だがたった1つだけ、“確実に言えること”があった。

 

(あいつら、俺を殺しにきてる……! それも、()()で!)

 

 あの光弾を喰らったら死ぬ、ということだけは、クルツにははっきり分かった。彼の全身が一気に冷えたのは、風圧と高空の寒さのせい()()ではない。

 急激な右旋回によって、紙一重で光弾を回避したクルツ。そこへ、もう1騎の敵が轟音と共に突っ込み、多数の光弾を浴びせてきた。

 圧倒的な恐怖からほとんど半泣きになりながらも、咄嗟に左に手綱を引くクルツ。ワイバーンロードが左に急旋回した直後に、光弾の嵐が彼とワイバーンロードを掠めた。1発がワイバーンロードの尻尾の付け根にカス当たり(グレイズ)し、火花と鱗の欠片が飛び散る。

 

「うわあぁぁぁぁっ!」

 

 クルツは、恐怖心から悲鳴を上げていた。

 彼は、“初実戦の新兵”にしては十分すぎる能力を発揮しているだろう。初めて戦場に出た航空機搭乗員、特に戦闘機乗りの新兵には、空戦が始まっても敵機の姿が見えず、何が起きているのか理解できぬまま必死で小隊長についていく、ということがあるそうだ。その点からいえば、初実戦にも関わらずしっかりと敵機の姿を捕捉し、辛うじてではあるが初撃の回避に成功したクルツは、相当の能力者と言えるかもしれない。

 

 心臓は激しく脈打ち、額からは汗が滴る。救いを求めるかのように、彼は魔信の機械を操作してチャンネルを合わせ、叫んでいた。

 

「こっ、こちらクルツ! 現在位置デュロ上空! 敵の迎撃を受けている!」

 

 彼が魔信にそう叫んだ時には、既に最初に襲ってきた敵騎(?)が反転し、クルツの背後に付こうとしている。

 

(は、速い! ワイバーンロードより速い!)

 

 迫り来る敵をチラッと振り返り、クルツは戦慄する。初めての実戦、しかも()()()事前偵察で、とんでもない敵と遭遇したものだ。

 

『こちら本部、敵とは何か、説明せよ』

 

 魔信から声が聞こえてきた。しかし、クルツに応答している余裕は無かった。

 彼の後方に占位した敵が、鼻先を光らせたかと思うと再び光弾を浴びせてきたのだ。咄嗟に手綱を引き、急上昇によってすんでのところで光弾を回避する彼のワイバーンロード。寸前で倒すべき獲物に逃げられた敵は、高速を以てクルツを追い抜いた後、上昇していく。

 

「!?」

 

 その時、敵に“ある特徴”を見出し、クルツの顔がさあっと青褪めた。

 まず、敵は「羽ばたいていない」。()()()()()()()にも関わらず、羽ばたいていないのだ。更に、鼻の先には“高速回転する物体”を1つ付けている。そして。

 

 敵の背中には何やら“透明な甲殻”に覆われた部分があり、その中に()()()()()()()のだ。

 

「こちらクルツ! 我、敵の飛行機械に攻撃を受けている!」

 

 彼は、咄嗟に魔信に叫んだ。

 リーム王国は第三文明圏に属する国家であり、従ってごく最近まで“飛行機械”などというものとはほぼ無縁であった。しかし、遠く第二文明圏のムー国が開発した「マリン」の噂くらいは伝わってきている。噂によれば、その「マリン」は羽ばたかない、とのことであった。その特徴に似ていると考えた彼は、半ば()()()()「敵は飛行機械」と報告したのである。……咄嗟の報告にしては十分に事を捉えられている、ということには気付いていなかったが。

 

 自身を追い越していった敵を観察した時、クルツは遠方に“あるもの”を見出して愕然とした。あまりに愕然としたため、魔信からは「飛行機械だと!? それは確かか?」等と声が響いていたが、彼の耳にはそんな声は全く入っていなかった。

 デュロの港に、自国の戦列艦とは比較にならない“超大型艦”が、数隻停泊しているではないか。何れも全長100メートル以上はあるだろう巨艦である。停泊しているせいだろう、()()()()()()()()。そして、艦上には遠くからでも分かるような巨大な魔導砲が載せられていた。

 

「……!」

 

 クルツの目は、それらの艦が掲げている旗を微かにだが捉えた。白地の布に赤い太陽を描いた旗、そしてロデニウス連合王国の国旗。

 

「き、緊急事態! デュロ港に複数の超大型艦あり! 国籍はロデニ……」

 

 しかし、ついにここで運命は彼を見放した。後方に迫ってきた2騎目の鼻先が光り、放たれた多数の弾幕がクルツを捉えたのだ。

 魔信による報告を最後まで言うことができぬまま、魂を失ったクルツの身体が、ワイバーンロードの亡骸と共に鮮血を宙に撒き散らしながら、大地に向かって落下していった。

 

 

『こちらレオパルト2(ツヴァイ)、目標撃墜! 送れ!』

『レオパルト1(アインス)よりグラーフ、侵入したワイバーンの撃墜を確認。旗を見る限り、相手はリーム王国竜騎士団の所属だったと推定される。指示を乞う、送れ』

 

 緊急発進(スクランブル)した2機の戦闘機からの報告を受け、"Graf Zeppelin"は直ぐに指示を出した。

 

「グラーフよりレオパルト、艦隊上空に帰還し、そのまま戦闘空中哨戒(C.A.P)に当たれ。送れ」

『レオパルト1、Jawohl。以上(オーバー)

『レオパルト2、Jawohl! 以上』

 

 指示を出し終えた彼女は、帰還してくる2機の戦闘機を見上げながら呟いた。

 

「これまで使っていたBf109T改(メッサーシュミット)からFw190T改(フォッケウルフ)に変えたのに、何で2対1で初撃ミスるかな……? 新鋭機に装備更新されて弛んでるのかもな、今度カガの連中にでも〆て貰うか……」

 

 そう。クルツを撃墜した飛行機械の正体は、空母「グラーフ・ツェッペリン」から発進した艦上戦闘機……液冷エンジン大国ドイツにしては珍しい、空冷エンジンを持つ戦闘機「フォッケウルフFw190T改」だった。

 史実において、主力戦闘機がBf109()()()()ことに危機感を抱いたドイツ空軍は、Bf109を補助する戦闘機の開発をフォッケウルフ社に指示した。これに応えたのが、クルト・タンク博士たち12人の少人数チームである。補助戦闘機の開発に際してタンク博士が明言したことは、「強力な軍馬を作ること」であった。当のドイツの主力機であるBf109や、敵国イギリスの戦闘機スピットファイアを「サラブレッド」と言い切り、「我々が作り出すべきは()()()()()()ではない。どんな過酷な局面でも安定して性能を発揮でき、量産性や整備性にも優れた()()である」としたのだ。かくして生み出されたのが、Fw190だったのである。

 タンク博士たちの尽力の結果、Fw190は素晴らしい性能を獲得した。なんと、高高度性能以外ではBf109を凌ぐ性能を持つに至ったのだ。また、イギリスのスピットファイア Mk.Vと空戦をした時には、Fw190はスピットファイア Mk.Vを圧倒する性能を叩き出した。これにより、Fw190は大戦中期から後期にかけての、“ドイツ空軍主力戦闘機の座”を獲得したのである。

 そのFw190だが、大戦後期のドイツ空軍主力を担っただけあって、幾つものバージョンが作られた。純粋な戦闘機として作られたものもあれば、制空戦闘と対地攻撃の2つの役割を持つタイプもあるし、高空を飛ぶイギリスやアメリカの重爆撃機を迎え撃つ高高度迎撃機を目指したタイプもある。意外に思われるかもしれないが、「シュトゥーカ大佐」と謳われし空の魔王「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」も、このFw190を使用していた。大戦後期ともなればソ連にも高速化つ高火力の戦闘機が出現し、鈍足鈍重なJu87では戦えなくなったためである。

 そして、そのFw190では珍しい「艦載機型」として開発されていた……()()()()()()タイプ、それがこの「Fw190T改」である。“妖精さんたちの謎技術”により、「陸上機として開発されたFw190が、グラーフ・ツェッペリン級航空母艦就役と共に艦載型バージョンが作られていたら……」という“IF装備”として具現化したものであった。

 

 ちなみに、メッサーシュミット「Bf109T改」の性能とフォッケウルフ「Fw190T改」の性能を比較すると、ざっとこんな感じである。

 

Bf109T改(Bf109E-3がベースと仮定)

エンジン出力 1,100馬力

最高時速 555㎞

航続距離 1,000㎞

主武装 機首7.92㎜機銃2丁・主翼20㎜機銃2丁

 

Fw190T改(Fw190A-8がベースと仮定)

エンジン出力 1,700馬力

最高時速 640㎞

航続距離 1,053㎞

主武装 機首13㎜機銃2丁・主翼20㎜機銃「マウザー砲」4丁

 

 「Fw190T改」がどれほど優れた性能を持つか、お分かりいただけるだろう。

 ちなみにだが、「Fw190T改」は航続距離では、流石に日本やアメリカの艦上戦闘機には勝てない。まあ、これは仕方無いと言えるだろう。艦隊上空のエアカバーを担う“強力な直衛戦闘機”として働いてくれるあたり、まだマシだと考えるしかない。

 

 

 そしてその頃、ドーリア共同体との国境線付近に集結していた、リーム王国陸軍部隊の本陣及びヒルキガの王城内に設けられたドーリア共同体攻略作戦本部には、凄まじい衝撃が走っていた。その原因は、竜騎士クルツが発した魔信である。

 

『敵の飛行機械に攻撃を受けている!』

『デュロ港に複数の超大型艦あり! 国籍はロデニ……』

 

 報告中に魔信が途絶してしまったため、クルツからの通信は尻切れとんぼで終わってしまった。だが、彼が“言いたかった内容”は十分に推測できた。

 まず、この第三文明圏周辺において「飛行機械」があること。この時点で、相手は随分限られてくる。第三文明圏周辺で飛行機械なんぞを運用しているのは、大東洋共栄圏を主宰しているロデニウス連合王国及び大東洋共栄圏傘下(参加)各国、又はこの辺にも空港を建設しているムー国だけだ。それも、飛行機械の配備数や種類から考えると、圧倒的にロデニウス連合王国所属の飛行機械である可能性が高い。因みに、大東洋共栄圏傘下各国で運用されている機体は、()()こそ各国空軍であっても機体の()()()はロデニウス連合王国であるため、第三文明圏周辺における飛行機械は、90%以上の確率でロデニウス製である(残り10%以下はムー製)。

 次に、デュロの港に停泊しているという「複数の超大型艦」。第三文明圏周辺において、リーム王国の戦列艦すら上回る大型艦、それも“遠くから見ても目立つレベルの超大型艦”など、ロデニウス連合王国海軍の艦艇くらいしか考えられない。

 そして、魔信の最後にある「国籍はロデニ」という言葉。これが伝えようとしたことは明白だ。「国籍はロデニウス連合王国」、こう言おうとしたに違いない。

 

 つまり、“何が起きている”のかは明白だ。デュロにロデニウス連合王国軍が……第三文明圏最強を誇ったパーパルディア皇国軍を完膚無きまでに叩き潰した、()()ロデニウス連合王国の軍が、いる。そういうことだ。

 

「飛行機械に……超大型艦……? まさか、ロデニウスの軍がデュロにいるのか?」

「馬鹿な、あり得ん! ドーリア共同体は、大東洋共栄圏には()()()()()()()()だぞ!」

「見間違いだろうか?」

 

 ドーリア共同体攻略作戦本部では、そこに詰めていた何人もの軍幹部たちが焦った様子で言葉を交わし合う。

 彼らとしても、これは完全に“想定外”だった。まさか、デュロに他国の軍がいるとは! しかも、その相手はよりにもよってロデニウス連合王国ときた。列強パーパルディア皇国すら打倒した、あのロデニウス連合王国である。

 もし正面から戦えば、“様々な意味”で勝ち目はかなり薄い。まず、ロデニウス連合王国の戦力自体があまりにも強大である。戦列艦すら超える超大型艦を何隻も保有し、空軍にしても飛行機械を実用化している。また、陸軍も連発可能な銃を保有しているらしい、という情報が73ヶ国連合軍と共に戦った兵士たちから寄せられていた。あまりにも、戦力差が大きすぎる。

 また、それを抜きにしたとしても、ロデニウス連合王国は第三文明圏周辺に対する影響力がかなり大きい。只でさえ大東洋共栄圏を主宰して、第三文明圏外国を次々とその影響下に入れているのだ。それらの国は、第三文明圏外国とは思えない程強大な軍事力を有するに至っているとの噂もある。それだけに留まらず、最近では第三文明圏の()()()ですらこの共栄圏に参加する国がある。パンドーラ大魔法公国やマール王国がその例だ。今や「大東洋共栄圏」という単語が指す領域は、「第三文明圏」とほぼ同化しつつある、と言っても過言ではないのである。

 そんな大国を敵に回してしまえば……どうなるかは、“馬鹿でも分かる”というものだ。つまり、戦った部隊はロデニウス連合王国軍の前に例外無く叩き潰され、陸上でも海上でもロデニウス軍を食い止められぬまま、リーム王国は敗北宣言文書に署名のペンを走らせることとなるだろう。しかも最悪の場合、大東洋共栄圏参加各国の重包囲下に置かれ、外国からの支援も得られぬまま立ち枯れとなるだろう。

 

「リバル! これはどういうことだ!?」

 

 その喧騒の中で、リーム王国・現国王バンクスが、王下直轄軍の大将軍リバルを怒鳴り付ける。

 

「分かりませぬ陛下。ですが、デュロ偵察に派遣した竜騎士は、初実戦とはいえ優秀な者です。その彼が見間違えるとは思えません。つまり、デュロには()()()ロデニウス連合王国の艦隊と軍がいる可能性があります!」

 

 ワナワナと唇を震わせながらも、混乱した頭をどうにか立て直し、震え声でバンクスに意見を述べるリバル。そこへ、

 

「こちらにいらっしゃいましたか、陛下!」

 

 また1人、慌てて飛び込んできた男がいる。彼の名はキルタナ、リーム王国の王都に住まう諸侯の1人だ。現リーム政権において総務を任されており、かなり重要なポジションにある者の1人である。

 

如何(いかが)した、キルタナ?」

 

 バンクスが尋ねると、キルタナは真っ青な顔をしたまま、直立不動で報告した。

 

「一大事にございます。今しがた、外務省にこの魔信が届けられました! まずはこちらをご覧下さい」

 

 そう言って、キルタナはバンクスに1枚の紙を手渡す。それは、受信した魔信の内容を書き写したものだった。

 それを一読するや、バンクスの顔がさぁっと青くなった。

 

『文書番号 ロ連外第7726号

      大東洋第3218号

発:ロデニウス連合王国外務省 第三文明圏担当部

  大東洋共栄圏総合管理庁

宛:リーム王国政府

 

貴国の行いは全て明るみに出ている。

ロデニウス連合王国並びに大東洋共栄圏は、貴国の行いに対し遺憾の意を表明する。

直ちにドーリア共同体との国境に展開中の全ての軍を撤退せしむると共に、ヒルキガ港を出港し南下中の艦隊を反転、帰還せしめられたし。また、()()()()()()()の行いに関して、一切の罪を認め公式に謝罪すると共に、貴国の私掠船団の行いにより発生した当方並びに大東洋共栄圏参加国の損害全てを賠償されたし。

万が一貴国の軍並びに艦隊が反転せず、ドーリア共同体を含む第三国を攻撃した場合、我が国は大東洋共栄圏に参加せし盟邦その他の国家を救援する。それと共に、貴国リーム王国を大東洋共栄圏並びに第三文明圏の平和に対する重大な脅威と見做し、かかる脅威を排除すべく()()()()も辞さぬ覚悟である。貴国の賢明な判断に期待せんとす』

 

 以上が、魔信の内容である。

 

「なっ! な……な……!?」

 

 理解が追い付かず、意味不明な声を上げるバンクス。

 こんな外交文書が届けられた以上、ロデニウス連合王国軍がデュロに展開しているのは、最早明白であった。それに加えていったいどうやって把握したのか、「貴国の()()()()の行い」と書かれている辺り、リーム王国王下直轄海軍が実施していた“パーパルディア軍残党崩れの()()()()()()通商破壊”が、完全にバレてしまっている。

 フィルアデス大陸の統一は、バンクスのかねてからの野望であった。しかし、攻略目標であるドーリア共同体の領域にロデニウス連合王国軍がいる現状、もし予定通りに攻略を実施すれば、それは即ち“ロデニウス連合王国との武力衝突の発生”を意味している。除隊させた将軍カルマからの報告により、バンクスもロデニウス連合王国軍の強さについては把握していた。……そして、自国の(というよりパーパルディア皇国の)マスケット銃などでは、ロデニウス連合王国陸軍には太刀打ちできない、ということも。

 海軍にしても、あれだけの数と質を誇ったパーパルディア海軍を壊滅せしめた以上、ロデニウス連合王国海軍がムー海軍や神聖ミリシアル帝国海軍にも匹敵する力を持っていることは明白であった。そしてそれは、リーム王国の戦列艦隊では到底勝てない相手である、ということをも雄弁に物語っていた。

 空軍に至っては、もう考えるまでもない。『一度飛び立てば7つの軍をも滅せる』と言われた最強のパーパルディア竜騎士団、それを全滅に追いやったのがロデニウス連合王国の飛行機械なのだ。そんな化け物が相手ならば、リーム王国の竜騎士団全てを投入したとしても勝てないのは明らかだ。何せ、パーパルディアが作っていた「最強のワイバーン」ワイバーンオーバーロードであっても、ロデニウスの戦闘機に勝てなかったのだから。

 

「陛下、リバル殿、ロデニウス連合王国が“本気”であることは明らかです。私は軍人ではありませんが、それでも国の(まつりごと)や外交の一端を司る者として、“ある程度の情報”は得ております。

もし敵対すれば、我が国に勝ち目は無いかと存じます。陛下、リバル殿、どうかご再考を!」

 

 そう言い残して、キルタナは大急ぎで退室した。というのも、外務部の職員が顔面蒼白でキルタナを探しに来たからだ。何か“別の事態”が発生したらしい。

 

「これは……」

 

 バンクスも決して暗君ではない。ロデニウス連合王国の化け物染みた強さくらい、“言われるまでも無く”分かっている。

 しかし、「フィルアデス大陸の統一」という野望を叶えたいという気持ちも有った。自身の野望と、ロデニウス連合王国の実力。その二つが、バンクスの中で激しくせめぎ合っている。

 

「陛下……」

 

 流石に、リバルも口を挟めずにいた。

 

 

 そして、職員に呼び出されて外務部へと急いだキルタナは、外務部に割り当てられた部屋に飛び込むや目を丸くした。

 魔信のベルは引っ切り無しに鳴り響き、青い顔をした職員が対応に追われている。そして、魔信の内容を聞き取ったメモは次々と重ねられ、既に机の上で小さな山と化していた。

 

「これは、どうしたのだ?」

 

 キルタナが尋ねると、職員は「あれをお読みください」と、魔信のメモの山を指差した。山の上から1枚を取り、目を通したキルタナの目が真ん丸に見開かれる。

 

「こ、これは……!」

 

 更に、山を成すメモに次々と手を伸ばし、キルタナは受信した魔信を読み続ける。その顔が次第に、苦痛に歪んだような表情になっていく。その間にも、1枚また1枚とメモが重ねられる。

 

「なんて……ことだ……」

 

 ようやくのことで追加分も含めた全てのメモを読み終えたキルタナは、ハイライトを失った虚ろな目をして、蚊が鳴くような小さな声でそう呟いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、戦乱の火種が燻るフィルアデス大陸から西に約2万㎞も離れた地、ムー大陸。同大陸最大最強の国家・第二文明圏列強ムー国の北部にある造船都市スカパ・ブローの港には、中小の艦艇群に混じって1隻の大型艦が停泊していた。

 それは、全長が明らかに200メートルを超える大型艦。隣に停泊するラ・コンゴ級戦艦「ラ・コンゴ」(ついに完成、就役した)よりも大きい。そして、「ラ・コンゴ」が砲塔やら艦橋やらを艦上に所狭しと並べているのに対し、この大型艦は艦体右舷中央に申し訳程度に建てられた艦橋の他は、真っ平らな甲板がだだっ広く広がっているのみである。それはつまり、この艦が“空母”であることを示していた。

 それは、ムー海軍の艦艇ではない。(うん)(りゅう)型航空母艦3番艦「(かつら)()」……つまりロデニウス海軍(もとい日本海軍)の空母である。旧日本海軍が最後に就役させた空母は今、スカパ・ブローの秋の空の下に緑を基調とする迷彩色の艦体を横たえていた。

 何故「葛城」がこんなところにいるのかというと、ムー海軍に“近代的な航空母艦の手本”を見せるためである。

 

 

 中央暦1641年の1月にロデニウス連合王国と軍事同盟を締結して以来、グラ・バルカス帝国の脅威に対抗するために大幅な軍備増強に乗り出したムー国。その影響は海軍にも及んでおり、ラ・コンゴ級戦艦の配備を皮切りに、ムー海軍は次々と新型の艦艇を実用化していった。

 今「葛城」と並ぶ「ラ・コンゴ」のすぐ隣を、2隻の小型艦が訓練のため出港していく。ムー海軍が初めて採用した駆逐艦「ラ・ハンマン級駆逐艦」だ。ロデニウス連合王国、もとい日本のタウイタウイ泊地からデータ供与された、アメリカ合衆国海軍の「マハン級駆逐艦」のムー国産型である。ムー統括軍情報通信部・情報分析課がロデニウスに「初心者にも優しい駆逐艦のお勧め教えて(意訳)」と言ったら、これの設計図データを渡されたので、実用化してみせたのだ。既に7隻が建造されており、うち2隻が就役済み。今も続々と建造・就役が進みつつある。

 5インチ単装砲を主砲としており、従来のムー海軍の艦載砲に比べれば豆鉄砲かもしれない。だが、この砲は“対空戦闘も可能な()()()”として開発されたため、艦隊砲戦にも対空戦闘にも対応できた。これは、ムーにとっては画期的な砲であった。しかも、これと同時に「三式爆雷投射機」と「三式水中探信儀」、「四式水中聴音機」も使えるようになったため、ムー海軍は()()()()にも対応できるようになったのだ。これは大きかった。

 

 ちなみにロデニウス海軍第13艦隊においては、「三式水中探信儀」は既に使用されていない。ではどんなソナーが使われているのか、というと、第13艦隊の主力艦が使用しているのは「四式水中聴音機」と「Type124 ASDIC」である。また、「第一海上護衛隊」と呼ばれる“潜水艦狩りのエキスパートたち”には、1ランク上の新装備「Type144/147 ASDIC」が配備されていた。この2つのソナーは、共に英国製のソナーであり、"Warspite(ウォースパイト)"から伝授してもらって速攻で実用化したものである。「サイレントハンター」と恐れられたUボートを絶対ぶっ殺すために開発されたソナーなのだ、もちろん強力な代物である。

 

 また、これに併せて太さ53㎝の空気式魚雷もムー国に供与されていた。これにより、ついにムー海軍も魚雷を持つに至ったのである。ただ、「未だ技術未熟故に、あっても“宝の持ち腐れ”である」として、旧日本海軍のチート魚雷「九三式酸素魚雷」は供与されていない。

 そして魚雷が入ってきたことで、ムー海軍ではいよいよ潜水艦の研究がスタートしていた。まだ実用化には時間がかかる研究だが、それでもこの艦が新時代の海軍を担うのならばと、急ピッチで研究が進められている。

 

 それから、ラ・ハンマン級駆逐艦に続いて、ロデニウスから供与された設計図を元に完成させた新型巡洋艦があった。従来のムー海軍の巡洋艦が「艦隊決戦における戦艦の火力補佐」を主要な役割としていたのに対し、これは「駆逐艦を指揮する水雷戦隊旗艦」としての役割を持ちながら「対空戦闘」を徹底的に追求した艦である。

 艦級は「ラ・トラン級防空巡洋艦」。名前で察しが付いているかもしれないが、こちらは合衆国海軍の「アトランタ級防空巡洋艦」である。マイラスが「対空戦闘ができて水雷戦隊旗艦が務まる巡洋艦の設計図持ってない?(意訳)」とロデニウスに注文したら、本級の設計図データが届いたのだった。

 5インチ連装両用砲をなんと6基も搭載、それ以外にも40㎜クラスの機関砲や20㎜クラスの機銃を大量に搭載しており、「航空機は1機も近寄らせない」という気迫が感じられる素晴らしい武装である。量産され艦隊に配備された暁には、本級は空からの攻撃を防ぐ「艦隊の盾」として、絶大な威力を発揮するだろう。喜んだマイラスは、直ちに軍上層部と造船部門にこの設計図を持ち込んで直談判し、すぐにも制式採用許可を得ようとした。尚その際、レイダー少将やテナル大佐、ムレス少将が根回し等をして全力でマイラスを後押ししている。ロデニウス艦隊との合同演習で酷い目に遭わされたために、彼らはこと航空機にはアレルギーと同レベルの過敏症状を呈しており、「敵航空機から艦隊を守る盾」と聞いて、何としてでもそれを得ようとしたのだ。マイラスの熱意と彼らの必死の努力が効を奏し、ラ・トラン級は無事に制式採用を勝ち取っている。採用が発表された時には、ムー海軍機動部隊とムー首都防衛艦隊の乗組員たちが揃って万歳三唱で喜んだとか。

 現在このラ・トラン級は、まだ2隻しか竣工しておらず、ムー海軍は後続艦の竣工を急ぐと共に、必死に慣熟訓練を行って年末までに戦力化しようとしている。

 

 そして、これらの艦の導入に伴って新型の対空機銃…エリコン20㎜機銃やボフォース40㎜機関砲が入ってくるや否や、予定が空いているムー海軍の艦艇も片っ端からドック入りさせて近代化改修を行い、非力な8㎜単装対空機銃を全て撤去して20㎜機銃に交換している。こうした対空兵装は、元々8㎜対空機銃を製造していたムー国の民間企業「ヒッカーズ社」が中心となって量産していた。余談だが、ヒッカーズ社はあの「88㎜Flak36野戦高射砲(アハトアハト)」もライセンス生産している。

 

 ともかくこうして、ムー海軍は続々と戦力を増強し、これまでからは考えられない勢いで、次々と新型艦を開発・量産・配備していた。ラ・コンゴ級戦艦の建造を少し控え目にしてでも、とにかくラ・ハンマン級駆逐艦とラ・トラン級防空巡洋艦の数を揃え、機動部隊の護衛を形作ろうとしたのだ。その結果、ラ・ハンマン級は「週刊駆逐艦」、ラ・トラン級は「月刊巡洋艦」と呼ばれるほどの勢いで量産されている。リグリエラ・ビサンズ社やマイカル重工業等の民間企業にも、ドックが空いた側からムー海軍からの発注が舞い込み、ムーの造船業界は空前の好景気に沸いている。

 そしてムー海軍は、いよいよ次のステップとして「新型航空母艦の建造」に乗り出した。やっと量産が軌道に乗った「アラル」艦上戦闘機(ムー国産九六式艦上戦闘機)の他に、ロデニウス連合王国から設計図を()()()()供与された「TBDデヴァステーター」「SBDドーントレス」「F4F-3、F4F-4ワイルドキャット」の量産研究が始まる等、ムー空軍も飛躍的な戦力強化を続けている。しかし、ここで問題が発生した。これらの新型機は、「ラ・コスタ級航空母艦」及び「ラ・ヴァニア級航空母艦」では“運用できない”ことが分かったのだ。理由は偏に「空母の速度の遅さに起因する合成風力不足」と「飛行甲板の短さ=滑走距離が足りない」、これに尽きる。ムー海軍では、こうした新型機でも問題無く運用できる空母を欲したのだ。そこで造船部門に、「全長200メートル以上かつ最大速力30ノット以上で、少なくとも50機の航空機を運用でき、量産性にも配慮された大型航空母艦の設計図を至急研究しろ」と、命令が出たのである。

 この悪魔めいた仕様要求に造船部門は悲鳴を上げ、情報分析課に「何とかしてくれ」と泣き付いた。困り果てたマイラス率いる情報分析課は、「困った時のロデニウス」とばかりに「これこれの条件を満たす大型航空母艦の設計図が欲しいです(涙)」とロデニウスに注文。そうしたら何と「これでも良い?」と、1枚の設計図を渡されたのである。それが、航空母艦「葛城」の設計をちょっと(いじ)って、対空火器を換装したものだったのだ。

 

 ヤヴィンを通じて外務省からマイラスの要請書を渡された時、堺はムー海軍の状況を一瞬で理解した。以前渡したデヴァステーターやドーントレス、ワイルドキャットをムー国の従来の空母で運用できないから、新型の大型高速空母を欲したのだろう、と。また、グラ・バルカス帝国の脅威がある今、ムー国にはあまり時間が残されていないから、できるだけ短時間で作れる空母が欲しい、ということなのだろう、と。

 それを元に堺が選んだのは、雲龍型空母の設計図だった。理由としては、まずムー海軍は全長200メートル級の空母を運用した経験が無いから、“まずは中型空母から始めるべき”だろうと考えられたこと。それから、中型空母かつ「見本」を用意できる空母で、量産性に配慮された空母、という条件を満たすこと。これらの判断基準により、選ばれたのが雲龍型だったのである。

 そしてこの設計図をムー国に提供する際、堺は“ちょっとしたサービス”を付けた。「いつもウチの武器を買ってくれてありがとう。お礼として、今回は()()()()()()で設計図送ります。実物見本は二週間だけそっちにお貸しするから、二週間の間にありったけ研究してね」という形で、設計図と一緒に"葛城"を送り込んだのである。

 

 設計図だけでなく、実物見本まで付いてきたと知ったムー海軍造船部門は大騒ぎとなり、急いで"葛城"をスカパ・ブローに招待して、“彼女の実艦の姿”を徹底的に研究した。「ロデニウスの空母が来た」と聞いたマイラスも、一部の仕事をドタキャンしてすっ飛んでくる始末である。

 

「本当に、勉強になりますね! これで我が国も、新鋭空母を持つことが叶いそうです!」

「ああ。設計図データを提供してくれた上に実物の見学まで許可してくれたロデニウス連合王国には、感謝してもし切れないな……」

 

 迷彩塗装が塗られた「葛城」の飛行甲板を歩きながら、リアスとマイラスはそう言い合っていた。




はい、今回はリームとロデニウスがすわ衝突なるか……というところで終了。どうなるかは次回です。
そしてマイラス、葛城の中を覗く(意味深)って?オイオイオイ死ぬわアイツ(嘘)。


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次回予告。

フィルアデス大陸統一の野望を果たさんとし、兵力を動かそうとするリーム王国。しかし、それに待ったをかけるロデニウス連合王国。リーム王国軍の攻略目標にされた、ドーリア共同体の運命は…?
次回「And then there were none(of Reem soldiers).」

P.S. 間章の第一弾「アイリーンのロデニウス文化調査報告書」1頁目が書き上がりましたので、先に投稿させていただいております。098. と099. の間に入れていますので、そちらもよろしくお願い申し上げます。
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