鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回はムー統括軍の内情…とその他ちょっとの内容です。
あと、オリジナル人物・設定が出てきます。



107. ムー統括軍の変化と悩み

 中央暦1641年11月1日。

 この日、9月から続いていたロデニウス連合王国とリーム王国との交渉がついにまとまった。その内容によると、リーム王国は“自国の私掠行為”に関する全ての責任を認め、ロデニウス連合王国と大東洋共栄圏に対して“公式に謝罪する”ことが定められた。また、リーム王国は私掠行為によって発生した全ての損害を償うこととなり、ロデニウス連合王国及び大東洋共栄圏に対して総額20億ロデンに達する賠償金を支払うこととなった。支払い期限は中央暦1699年12月31日まで、とされている。

 また、ロデニウス連合王国はリーム()()に対して、捜査員を派遣しての「家宅捜索」を行うこともリーム王国側に認めさせ、その結果として()(かく)されていた自国のボルトアクション式小銃数丁を全て取り返すことができた。これらを以て、今回の件は“手打ち”とすることになったのである。

 

 だが、これで一件落着……と周辺国には見えていたが、実はそうではなかった。

 リーム王国の現国王バンクスは、秘密裏に「第三文明圏(フィルアデス大陸)統一」を邪魔した敵対国家・ロデニウス連合王国()()()()研究を下命。勅命を受けたリーム王下直轄軍は、装備の強化に乗り出した。具体的には、

 

・残された記録資料を基にした、ロデニウス製の銃の解析

・魔導砲の威力及び射程の強化

・戦列艦及び竜母の速度向上

・商人に扮した諜報員による、ロデニウス本土に渡っての情報収集

 

 等である。

 一方のロデニウス連合王国もまた、リーム王国に対して危険意識を高め、人知れず水面下で行動に出ていた。今回の件に合わせてリーム王国と()()()()()()()のを利用し、大使館職員や商人に扮した諜報員をリーム王国に送り込むと共に、アルタラス島・ルバイル基地に展開する第15戦略航空爆撃団を、リーム王国本土(主にセニアを含む飛び地)の高高度偵察に充てた。また、ヒキルガ港の沖合に第13艦隊の潜水艦娘を潜ませると共に、独立第1飛行隊の「ある機材」を投入して、リーム王国本土の秘密偵察に当たらせたのである。

 片や「第三文明圏の統一」という()()を邪魔され、ロデニウス連合王国に対して(くら)い敵意を抱くリーム王国。片や「大東洋共栄圏並びに第三文明圏の平和の旗手」たらんとし、リーム王国の動きに監視の目を光らせるロデニウス連合王国。既に“水面下での対立”が始まっていたのであった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その頃、第三文明圏から西に2万㎞も離れた地、第二文明圏ムー大陸。

 第二文明圏最強の国家・ムー国の首都オタハイトに在るムー統括軍総司令部では、ちょうど人事異動が発表されていた。

 

「むー、今回は“異動無し”か。そろそろ階級くらい上がるんじゃないかと思ってたが……まあ良いか、それなら一層精進するだけだしな」

「間違い無いっすね。私も、今回は異動無しでした」

 

 特に辞令を貰うことの無かったマイラスとリアスが、司令部のカフェで話し合っている。1ヶ月ぶりくらいに会った彼らは、早速情報交換をしていた。

 

「新しい軍艦の様子はどうだ?」

「ラ・トラン級に関しては、今のところ申し分ないっすね。スカパ・ブローのドックでラ・ラツカ級航空母艦の建造も行われていますが、こちらはまだ時間がかかる見込みです。1年はかかるかと」

「ラ・ラツカ級……この前ロデニウスから見本付きで設計図データを送られた艦だな。()()()()()大型空母だ、難航しなければ良いが」

「ええ。でもあの空母がないと、新しい艦載機が運用できないんでしょう?」

「ああ。()()ムーの空母では、新たに導入が認められた全金属製単葉機……それも、我が国初の“雷撃機”と“急降下爆撃機”を運用できないからな。ラ・ラツカ級が造られなきゃ、話が始まらん」

 

 2人の言う「ラ・ラツカ級航空母艦」とは、ムー海軍が建造に乗り出した(うん)(りゅう)型航空母艦である。見本として示されたのが(かつら)()であったため、その名に敬意を表して「ラ・ラツカ」というネームシップにしたのである。

 ムー統括空軍は、グラ・バルカス帝国の脅威に備えて新たな航空機を欲していた。それも、特に“制空戦闘機”を欲した。ロデニウス連合王国から、「グラ・バルカス帝国の戦闘機の性能予想」という形でデータを教えてもらったのだが、それがあまりにも凄まじいものだったからである。ちなみに、ロデニウス連合王国がムー国に渡したデータは複数あり、“弱いもの”で「ブリュースターF2A バッファロー」から「零式艦上戦闘機」・「F4Fワイルドキャット」、“強力なもの”では「F6Fヘルキャット」・「Fw190」・「Yak-9」・「スピットファイア Mk.Ⅸ」・「P-51マスタング」に至るまで、()()()()りであった。 

 これらの「怪物的」な戦闘機を見て、ムー統括空軍は完全に腰を抜かしてしまったのだ。今のムー空軍の戦闘機「マリン」はもちろんのこと、新型機・「アラル」艦上戦闘機……もとい九六式艦上戦闘機でも、これらの戦闘機に勝てるとは思えなかったからである。そこでムー統括空軍は、当面の間「マリン」から「アラル」への機種転換を急ぐ一方、新たな機体のテストに乗り出した。それが、仮称「バミウダ」艦上戦闘機である。

 この「バミウダ」は、「マリン」や「アラル」のそれとは一線を画する、“1,200馬力級のエンジン”を備えた戦闘機である。外見としては、酒場に置かれたビール樽にレシプロエンジンを付けたような見た目をしており、樽のように太い胴体からは翼端を四角く切り落としたようなテーパー翼が生えている。武装は、7.92㎜機銃なぞ比較にならない威力を持つ12.7㎜機銃を4丁又は6丁。機首機銃はなく、全て主翼に備えられている。

 

 もう察しが付いていると思うが、この「バミウダ」艦上戦闘機の正体は、「F4Fワイルドキャット」である。第二次世界大戦初期、太平洋戦域にて旧日本軍の零戦相手に(しのぎ)を削った、アメリカ海軍の主力戦闘機であった。

 ちなみに、ワイルドキャットなんぞどこから持ってきたのかというと、元々は"Saratoga(サラトガ)"が装備していたものである。そう、ロデニウス連合王国から“実機ごと供与された機体”であったのだ。このためムー海軍には、「F4F-3」2個飛行隊分と「F4F-4」1個飛行隊分の2種類54機が提供されている。

 

「ただ、ラ・ハンマン級駆逐艦……でしたか、あれがどうも復原性が悪くて」

「みたいだな。俺も一度乗って調べてみたが、よく傾く。あの“でかい艦橋”のせいで、復原性が悪くなってるんじゃないか、っていうのが俺の予想だ」

 

 ラ・ハンマン級駆逐艦……もといアメリカ合衆国海軍のマハン級駆逐艦は、性能()()()バランスよくまとまっているのだが、残念なことに“トップヘビーで復原性が悪い”のである。これは、前級のファラガット級からの欠点であった。

 

「今度またロデニウスに聞いてみるよ。復原性があって武装等を(いじ)らなくて済む駆逐艦の設計図が無いか? って」

「お願いします。ところで、そういう先輩は、“新型機”の方はどうなんですか?」

「『バミウダ』の方は、やっと“過給機”という機構の解析が完了したところだ。あれを知ったら、もう過給機無しの飛行機になんて戻れないよ」

「どんな機構なんですか?」

「簡単に言えば、空気の薄い高空でも“空気を圧縮してエンジンに送り込む”ことで、動作不良を起こすこと無くエンジンを動かし続けられる機構だ。だから、高高度性能がぐんと上がったぞ。『マリン』が時代遅れになるのも分かるわ」

「そ、そうなんすか……ええと、どのくらいまで上がれるんですか?」

「過給機無しの『マリン』なら、いくら何でも高度6,000が限界。それに対して、この過給機を据えた『バミウダ』は、なんと高度11,000まで上がれる」

「ええっ!? 凄いじゃないですか!」

「ああ。しかも、『バミウダ』の最高速度はだいたい時速520㎞。『マリン』はもちろん、『アラル』にも圧勝できる」

「そんな凄い性能が……!」

 

 マイラスの説明に、リアスは目をキラキラさせている。

 

「ただ、残念ながら実機がまだ合計3個飛行隊分しか無いんだ。それに、製造ラインも確立していない。当面は、『アラル』で乗り切るしかない」

「残念っすね。早く切り替えたいですね、そうしたらグラ・バルカスやロデニウスの戦闘機にも勝てるでしょうに!」

「突っ込んで悪いが、『バミウダ』では少なくともロデニウスの戦闘機には勝てんぞ。何しろあいつらの主力艦上戦闘機“レップウ”は、最高時速624㎞を叩き出せるからな」

「ええ……『バミウダ』でも勝てないんですか……」

 

 呆然としてしまったリアス。無理も無いだろう、彼にとっては、「バミウダ」はこれまでの()()()()()を完全に覆す戦闘機であった。それですら勝てないとなると、“ロデニウスの技術の底の知れ無さ”が窺えるというものである。

 

「ああ。グラ・バルカス帝国の戦闘機にしたって絶対に侮れん。『バミウダ』があれば大丈夫、なんて考えない方が良いかもな」

「うう……ところで、爆撃機や雷撃機はどうだったんですか?」

「それなんだがな、ちょっと前に聞いたところによれば、爆撃機を甚く気に入った若手士官がいるらしい。この上無く良い機体を手に入れたって喜んでいるそうだ。そいつ、まだ若いのに凄い腕前らしくて、軍でも期待がかかっているそうだ」

「へえ、そんな人がいるんですね」

「ああ。あと、雷撃機はまだだな。航空魚雷自体が完全じゃない。だから今は、500㎏爆弾を落とす“水平爆撃機”として運用してる」

「うーん、早く航空魚雷も国産化したいっすね」

「全くだ」

 

 とここで、リアスは話題を転じた。

 

「そういえば、ラッサン先輩はどうされました? もう、ロデニウスから帰ってきてた筈ですが」

「ああ、帰ってきたよ。卒業試験に合格して、『教育課程修了』だってさ。今頃辞令でも受け取ってるんじゃないか?」

 

 マイラスがそう言ったその時、カフェの入口に人影が差した。そしてちょうど、ラッサンが入ってきたのである。

 

「お、噂をすれば何とやら、だな」

「ですね……って、あれ? 何か様子が変ですよ?」

 

 リアスの言う通り、ラッサンは何やら顔色がおかしくなっていた。具体的には、血の気がどこへ行ったのかと思うほど青白くなっている。しかもよく見ると、身体が小刻みに震えていた。(ひど)い風邪でも引いたようにしか見えない。

 

「ど、どうしたんだいったい?」

 

 普段のラッサンの姿からは想像も付かない姿に、士官学校以来の間柄であるマイラスも驚いている。さっき会った時にはそんな様子は全くなかったのに、この変貌ぶりである。辞令が影響したに違いない。

 カフェの席に陣取る2人を見付け、ラッサンは歩み寄ってきたのだが……その歩き方もフラフラしていた。しかも、どこか“心ここにあらず”といった様子である。いよいよ以て病人にしか見えない。

 

「ラッサン、大丈夫か? いったい何があったんだ?」

「先輩、大丈夫ですか?」

 

 2人が声をかけると、ラッサンは椅子に腰を下ろしながら、消え入りそうな声で言った。

 

「ある意味、大丈夫じゃ無いな……。これを……見てくれ……」

 

 そう言って、手元の辞令をそっと開いて見せるラッサン。

 2人は同時に辞令を覗き込み……そして仰天する羽目になった。辞令にはたった2行しか書かれていなかったが、その2行の内容が“とんでもないもの”だったのだ。

 

『ムー統括海軍士官 ラッサン・デヴリン中佐

本日付で大佐に昇進の上、ラ・コンゴ級戦艦「ラ・コンゴ」艦長職に任ずる。』

 

「え……えええええぇぇぇーーっ!?」

「静かにしろ!」

 

 予想外にもほどがある辞令の内容に、リアスが大声で叫んだ。マイラスが、慌てて耳を塞ぎながらリアスに怒鳴る。

 

「いやだって、凄いじゃないっすか! 戦艦の艦長ですよ! 30代で戦艦の艦長なんて、最年少記録更新じゃないっすか!? それも、()()()()()の艦長っすよ!」

 

 声の大きさを抑えながらも、リアスは興奮気味にまくし立てる。

 

「まあ、それは確かにそうだ。30代の戦艦の艦長なんて、俺も初耳だ。凄いと思う」

 

 マイラスも、なるべく冷静さを保つよう努めてはいたが、驚きは完全には隠し切れなかった。

 

「……どうした、ラッサン?」

 

 相変わらず、ラッサンは顔色が悪い。マイラスが尋ねると、彼はようやく口を開いた。

 

「せ、戦艦の艦長なんて……俺に、務まるのか……? 自信が、無い……」

「あー……」

 

 どうやら、いきなり大役を押し付けられたためにラッサンは自信が無くなっているらしい。何だかんだと“大役を任されることの多い”マイラスには、彼の気持ちはすぐに分かった。

 

「まあ、お前の気持ちは分かるよ、ラッサン。俺だって、“色々と押し付けられてきた”身だ。ラ・デルタ級の設計改修に始まってラ・カサミ級の主砲の開発、マリンの設計。それが済んだと思ったら、今度はロデニウス関連だ。ソナーやら爆雷やら魚雷やら、“概念すら無かった兵器”まで悉く俺に仕事が回ってくる。俺だって正直、全てのプロジェクトを()()()こなす自信は無い。

けどなラッサン、自信が無くても()()()()()()()()。だったら、まずは“自分にできること”を少しずつやってみたらどうだ? 俺は軍艦の運用については詳しくないけど、戦艦の艦長なら『自分の乗る戦艦の性能や癖を全て知っていなきゃならない』ってことくらいは分かる。だから、まずは『ラ・コンゴ』に乗ってみて、全てを知らなきゃ駄目なんじゃないか? それから、乗組員たちの人身掌握とか艦内風紀の引き締めとか……自分にできることを少しずつやっていけば、自ずと結果は従いてくると思うぜ」

 

 この時ラッサンは、漸く顔を上げてマイラスを見た。

 

「……そういうもんなのか?」

「ああ。俺だって、“できるかも分からないプロジェクト”を命じられてばっかりだ。だから、『今自分にできることは何なのか?』ってことを常に考えてる。それにラッサン、お前はまだマシな方だぜ。何せ、ロデニウスで()()()()()()()んだからな。俺なんて、“手本が無いようなものの開発”を命じられることがあるんだから、頭を抱えることだってザラにあるんだ。勉強してきてる分、お前の方が少しはやりやすいと思うぜ。

だから、何でも少しずつやっていけば良いんだよ」

「そうか……そうだよな。少しずつ、やっていくしかないな」

「ああ。応援してるぜ、最年少の戦艦の艦長さんよ!」

 

 マイラスに肩を叩かれて、ラッサンもどうにか自信を回復しつつあった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少し時が進み、中央暦1641年11月3日。(ところ)はムー国西方にある独特の地形「空洞山脈」の麓、ムー統括軍エヌビア基地。

 基地上空を1人の若い馬獣人族のムー統括軍士官が、新型の航空機に乗って空を飛んでいた。

 

 一言解説しておくと「空洞山脈」とは、ムー西部に存在する「マルムッド山脈」の別名だ。なんと、一つの山脈の内部が“自然に”くり抜かれており、()()()トンネルのような格好になっているのである。何とも不思議な地形であった。

 

 その空洞山脈を眼下に見下ろしながら、ムー統括空軍の若き士官「マック・ラスキン少尉」は愛機の「ピラーニ艦上爆撃機」の操縦席に座り、全身を打つ興奮を感じながら操縦桿を握り締めていた。

 このピラーニ艦上爆撃機もまた、バミウダ艦上戦闘機と同時にムー統括空軍が導入した新型機である。「カルハリアス艦上攻撃機」よりも一足先に制式採用が内定した機体で、“強力なエンジンと素直な操縦性”が売りであった。主翼後縁には、『いくつもの穴を開けられた板状の機構』が取り付けられている。これは、それまでムー統括空軍には存在しなかった新機構「ダイブブレーキ」である。これによって、ピラーニ艦上爆撃機はそれまでのムーの複葉爆撃機「ソードフィッシュ」では()()()不可能だった、水平線に対して約60度の角度で降下して爆弾を落とす戦法「急降下爆撃」を可能としていた。爆撃の命中率の大幅な向上が期待できる、画期的な戦術である。

 

 読者の皆様はもう察しが付いているかもしれない。そう、このピラーニ艦上爆撃機の正体は「SBD ドーントレス」……太平洋戦争初期に、アメリカ海軍が使用していた急降下爆撃機である。頑丈な機体構造と素直な運動性から非常に人気だった機体であり、後継機たる「SB2C ヘルダイバー」が登場しても、しばらくは前線で使い続けられた名機である((もっと)もこれは、当のヘルダイバーが「Son of a Bitch 2nd Class(ロクデナシの二流)」と呼ばれるほど散々な性能だったせいもあるのだが)。ちなみにこの機体も、元々"Saratoga"が装備していたものであった。

 機首に12.7㎜機銃2丁を装備し、また胴体下に500㎏爆弾1発、主翼下に小型爆弾2発を装備できる。最高時速約400㎞と脚は遅いが、非常に安定性に優れた機体であり、当時のアメリカ軍パイロットたちにも「Slow But Deadly(遅いけど必殺)」と呼ばれていた。

 なお、ムー国に供出されたこの機体は、タウイタウイ泊地工廠組によって改修されたものである。具体的には、胴体下の懸吊装置は1,000ポンド(454㎏)爆弾より強力な500㎏爆弾を懸吊できるようにしてあるし、主翼下の懸吊装置も強化されて60㎏爆弾を懸吊できるようになっている。それと同時に、エンジンもライトR-1820-60(1,200馬力級エンジン)に換装されており、これによってこのドーントレスは本来「SBD-3」の機体であるにも関わらず、エンジンのみ「SBD-5」にチューンアップされた状態となっていた。そのため、“爆弾搭載量を増やした()()速度性能を維持する”ことができているのである。これらの改修が偶然にも良い方向に作用し、懸吊装置をちょっと弄っただけでムー製の500㎏爆弾や60㎏爆弾も搭載できてしまっていた。

 

 ちなみにカルハリアス艦上攻撃機とは、SBDと同時期に用いられたアメリカ海軍の雷撃機「TBD デヴァステーター」のことである。これまた"Saratoga"に搭載されていた装備品であり、ドーントレスやワイルドキャット共々ムー国に実機とデータを供出されたものだ。

 

 その「ドーントレス改」とでも言うべき機体に座し、急降下爆撃訓練の準備をしながら、ラスキンはふとこれまでの人生を思い返していた。

 元々彼は、アルー出身の平凡な学生に過ぎなかった。オタハイトの大学を卒業したものの学業成績は中の下というべき有り様であり、あまり良い就職口に恵まれなかった。そこに偶然、ムー統括空軍の士官パイロット募集広告を見付け、駄目元で士官学校を受験したらなんと一発で合格してしまった。そして実技を含めて3年間勉強し、卒業間際に進路を決めることになった。同期生はほとんどが戦闘機乗りを志しており、彼もそうしようかと思っていた。するとそこに、たまたまムー統括空軍司令官が学校を視察に訪れて演説を行い、その中で「新型の爆撃機に乗る士官パイロットを探している」という話を聞かされた。ここで彼は「戦闘機パイロットになりたかったが、こんな話を聞かされては仕方無い」と、爆撃機パイロットの道を選んだのである。なお、後に同期生のほぼ全員が戦闘機乗りの道に選ばれたと知って、彼は少し落ち込んだ。

 落ち込んだものの、決まってしまっては仕方が無い。彼は自らの選んだ爆撃機「ピラーニ艦上爆撃機」に乗ることになったのだが……一度乗った瞬間、彼はこの機体に()れ込んだ。「この道を選んで正解だった、この『ピラーニ』こそ自分が乗るべき機体だった」と直感したのだ。

 操縦桿を少し傾ければ素直に言うことを聞き、少しくらい乱暴な飛行をしても機嫌を損ねること無く、そして一度急降下すれば破滅的な威力を持った500㎏爆弾を正確に叩き込める。また、機首12.7㎜機銃2丁という「マリン」はおろか「アラル」すら凌ぐ火力を持ち、爆弾を抱えていなければ「マリン」とでも“空中戦で”何とかやり合える。ラスキンにとっては、理想にピタリとマッチした機体だったのだ。後の自伝の中で、彼はこの機に出会った瞬間を「一目惚れとしか言い様の無い、人生に一度あるか無いかの素晴らしい出会いだった」と記している。

 

 え? こんな話どこかで聞いたことがある? さて、どこの誰のことでしょうね。

 

『少尉殿、もう目標に近いですよ』

 

 後部座席に座る相棒に声をかけられ、ラスキンは現実に引き戻された。

 

「よし、行くぞ! 降下!」

 

 現時点で、ムー空軍において最も急降下爆撃に通暁している若き士官パイロットは、機体を翻してまっしぐらに爆撃目標の的めがけて突っ込んでいった。

 

 

 さて同じ頃、ムー統括陸軍は“ある深刻な悩み”を抱えていた。それは……

 

「……やはり、不人気なのか」

「はい。どうも、車高の低さと整備の手間が悪影響をもたらしているようです」

 

 豪華な金の肩モールを付けた軍服を身に纏う40代後半くらいの男性の前で、40代前半と思しきエルフ族の男性が1人、報告を行っていた。その男性エルフの肩モールは、彼の階級が中佐であることを示している。

 陸軍中佐エルク・ウィーズリー。それが、彼の名であった。所属は、ムー陸軍第一打撃機甲軍 第一機甲連隊。「機甲」という言葉で察しが付いたかもしれないが、この部隊が装備しているのは「ラ・スタグ自走砲」……ムー製Ⅲ号突撃砲F型である。“ムー陸軍初の機甲部隊”という訳であった。

 

 

 エルクは元々砲術を専攻しており、戦場における勝敗は“砲兵の砲火力によって決する”と考えていた。そして最近では、「歩兵と連携した機動的な火力の展開」を研究し、26型ガエタン70㎜歩兵砲を装備した歩兵を活用して、「26型ガエタン70㎜歩兵砲を装備した歩兵を自動車に乗せ、強力な砲火力を機動的に運用する」という新たな戦術を編み出していた。この功績により、彼は30代後半にして中佐という、ムー統括陸軍では異例の栄達を果たした。

 だがエルクは、この「火力機動戦」戦術の“更なる強化”を求めた。確かに、26型ガエタン70㎜歩兵砲は強力な火力であるし、これを装備した歩兵を機械化して戦うのは画期的なのだが、いくつか欠点があったのである。

 まずこのガエタン歩兵砲、元々が「軽榴弾砲」なのである。そのため歩兵や簡単な急造陣地相手には有効なのだが、“強固に固められた防御陣地”にはほとんど効果が無い。これが欠点の1つ目である。次に、いくら機械化されたとは言っても歩兵の姿が剥き出しであるし、自動車も装甲化されていないので、機関銃相手には弱い。これが2つ目の欠点。そして、自動車は砲撃や塹壕などによって凸凹になった地面を走行するのは極めて困難である。これが3つ目の欠点であった。

 

 彼としては、これらの欠点を改善したかったのだが……なかなか上手く行かなかったのであった。だが彼は、諦めはしなかった。

 ムー陸軍首都防衛隊に、“特別な車輌”が配備されていると聞いた彼は、それを使うことも検討した。だがその車輌、悪路を走るのには向いていないそうである。しかも走る速度はかなり遅く、人が自分の脚で走る方が速いという有り様であった。このため彼は、この車輌(実は彼が聞いたのは「ラ・テックス戦車」、つまりムーが独自に開発したサン・シャモン突撃戦車擬きだった)は己の考えた「火力機動戦」には使えないと判断した。しかし、一応後学のためにこの車輌を見ておこうと考えた彼は、上司を通じて司令部の許可を取り、わざわざ陸軍首都防衛隊の拠点まで出向いたのである。そしてそこで、彼はとんでもないものを見てしまった。その「とんでもないもの」こそが、首都防衛隊が他の部隊に先駆けて配備した新兵器「ラ・スタグ自走砲」だったのである。

 「ラ・スタグ自走砲」が動く姿を見たエルクは、唖然とした。「ラ・スタグ自走砲」は「ラ・テックス戦車」よりも強力な長砲身の大口径砲を備え、その砲撃は堅固な建物ですら容易く撃ち抜いていた。また、ガエタン70㎜歩兵砲の直撃にもビクともしない重装甲があった。そして何よりその自走砲は、“凸凹になった大地”ですら走り抜いてみせる素晴らしい機動力を有していたのである。しかも、流石に自動車には負けるものの、「ラ・テックス戦車」より速度が速い。

 それを見た瞬間、エルクは「これだ!」と直感した。堅固な防御陣地をも容易に穿つ凄まじい火力、機関銃どころか歩兵砲でも物ともしない重装甲、悪路ですら平然と走り抜いてみせる機動力。「ラ・スタグ自走砲」は、彼が求めて已まなかった物全てを持っていたのである。

 エルクは、直ちにこの新たな自走砲について色々と調べてみた。その結果、それが“ロデニウス連合王国からもたらされた新兵器”であることを知った。そして彼は、「こんな兵器がある以上、ロデニウスにはこの自走砲を()()()使()()()()があるに違いない。そしてそれは、『火力機動戦』理論の完成に繋がるものであるに違いない」と考えたのだ。

 そう考えるや否や、彼は直ちに上司にかけ合って、ロデニウス連合王国陸軍に学ぶ許可を得た。そしてラッサンたち共々、ロデニウスに派遣される交換軍事留学生の第一陣としてムーを発ったのである。

 

 ロデニウスに到着したエルクは、陸軍第13軍団に弟子入りすることになり、そこで“素晴らしい師匠”と出会った。それが、第13軍団機甲部隊の総指揮官を務め、仲間内で“ハインツ・グデーリアン”と呼ばれる妖精だった。そう、旧ドイツ第三帝国の軍人にして電撃戦(ブリッツクリーク)の提唱者、ハインツ・グデーリアン元帥の生まれ変わりだったのである。

 それと同時に、エルクはロデニウス陸軍が配備した自走砲と戦車、そしてそれらによる戦術も併せて勉強した。スポンジの如く新たな知識と技術と思考を吸収し、それらを「火力機動戦」のコンセプトに当てはめて考えた結果、彼は「この電撃戦こそ、火力機動戦の極致である」と確信するに至った。その後も彼は勉強を続け、見事卒業試験に一発で合格し、晴れてラッサンと共に帰国第一陣となったのである。

 

 

 そして今、ムー国に帰国したエルクは「ラ・スタグ自走砲」を配備した近代的な機甲部隊を率いることになったのだが、その部隊編成に難渋していたのである。

 

「准将閣下もご存知と思いますが、我が国には高身長の方が多いです。そういった方々には、車高の低いラ・スタグ自走砲の中は窮屈に感じられるのです。それを敬遠している……ということだと、小官は考えます」

「ううむ。私も『ラ・スタグ』に乗ったことはあるが、確かにあれは窮屈だな」

 

 エルクの報告を聞いているのは、立派な体格を持つ虎獣人の男性であった。彼の名はジョージア・パックス。所属は「ムー統括陸軍第一打撃機甲軍」、階級は准将。エルクの良き理解者であり、彼の「火力機動戦」説を強力に後押ししている男である。実は、エルクをロデニウスに送り出すよう上層部に交渉したのも、第一機甲連隊の編成に一躍買ったのも、この男であった。

 

「その他に、ラ・スタグ自走砲の“整備性の悪さ”も影響していると小官は考えます」

「整備性?」

「はい。ラ・スタグ自走砲は、確かに強力な火力を持ち、防御力・機動力も申し分無いのですが、エンジンが複雑で整備が難しい面があるのです。そしてエンジンが複雑なのに、場合によっては運転に“デリケートな対応”が必要となります。それもまた、不人気の原因かと存じます」

「なるほどな……」

「あと、もう一つ申し上げるならば、ラ・スタグ自走砲は砲が車体前面に固定されている上に、これまでの我が国の車輌とは操縦方式が違いますので、少々使い勝手が悪いのです。

小官はロデニウスに留学した際に、自走砲だけではなく戦車にも乗る機会を得ました。ロデニウスの主力戦車であるⅣ号戦車は、ラ・スタグと同じ火力を持ちながら、回転砲塔の搭載によって非常に使い勝手が良い車輌にまとめられております。小官は、自走砲よりも戦車を導入すべきではないかと愚考します。ただ、Ⅳ号戦車も整備が複雑なことがありますし、操縦方式も異なるので、より簡便なものを搭載するか、せめてマニュアルを読み易くすべきかと存じます」

「戦車か」

 

 エルクの話を聞いて、ジョージアは腕組みをして考え込んだ。ややあって口を開く。

 

「これは、まだ陸軍上層部にしか伝わっていない話なんだが……ロデニウス連合王国は、“我が国の国内に”戦車の製造工場を建設するつもりでいるらしい。グラ・バルカス帝国との戦争を想定した準備をしているようだ。

そしてそれに合わせて、我が国の情報分析課が新しい戦車の“設計図を含む詳細なデータ”を手に入れたらしい。何でも、『ラ・スタグ』と同程度の主砲火力と装甲・機動力を持ちながら、少しくらい乱暴な運転をしても壊れないくらい信頼性が高く、生産性も考慮されており、おまけに“誰でも扱えるマニュアル”が付いているんだそうだ。しかも、車高がかなり高いから、高身長の人間が多い我が軍でも乗り心地が若干向上しているそうだ」

「なんと、そんな戦車の導入計画が……」

「ああ。陸軍首都防衛隊は『ラ・スタグ』で満足しているようだから、君さえ良ければ私から上層部にかけ合って、第一打撃機甲軍に新型戦車を優先的に配備して貰えるよう交渉してみるが、どうだ?」

「是非ともお願い致します!」

 

 エルクは即決で、ジョージアに頭を下げた。

 

「そうなると、後は新兵教育が問題だな」

「は。自走砲や戦車は、我が国でも類を見ない兵器ですからね。教官の確保が難しいです。ロデニウスから実機供与されたⅣ号戦車が幾つかあった筈ですので、まずは“我々がそれを使えるようになる”必要がありますね」

 

 そう、『新兵教育ができる教官の確保』もまた、“ムー統括軍全体の課題”なのである。戦闘機や戦艦は曲がりなりにも教育ができるが、“新型の高速空母”や“戦車”となるとそうは行かない。何せ、ムー国にそういった兵器がこれまで()()()()()()()のだから。こうなると、新兵教育が務まる教官の確保が問題になるのだ。

 ムー統括軍では“交換軍事()()()”として、ロデニウスから“教官”を派遣してもらうことで、この急場を凌ぐ苦肉の策としている。そして、(しょう)(へい)した教官に新兵たちを鍛えてもらっている間に、大急ぎで自国の軍人をロデニウスで勉強させ、こうした新兵器を扱える教官を()()していたのであった。

 かなりの“無茶”であることは、ムー統括軍上層部も重々承知している。しかし、こうでもしないとグラ・バルカス帝国に対抗できるか不安なのだ。ロデニウスと同程度の技術力を持つとされるグラ・バルカス帝国、これに対抗できなければムー国の将来は無い。そのため、半ば“強迫観念めいた強化”がムー統括軍では続いていたのであった……。

 

 

 そして、当の情報分析課では。

 

「よーし……何とか完成したぞ……。これで回転砲塔の技術も熟成されるだろうし、我が国も戦車を持てる……!」

 

 半ば充血した目をして、マイラスが机の前で(うわ)(ごと)のように呟いている。彼の前には、1枚の設計図が広げられていた。そこに、“新型戦車の三面図”が描かれている。

 その三面図から新型戦車の姿を説明すると、まず全体的な印象としては丸っこい。車高がかなり高く、車体前面と後面は傾斜装甲を持っているので、妙にずんぐりしているような感じがする。車体側面は垂直になっており、それはこの戦車が“船による長距離輸送に向いた車輌”であることを物語っていた。その車体の上に比較的小ぶりな砲塔が載っており、パッと見ると“ボールに砲塔を載せた”ように見えなくもない。主砲は、ラ・スタグ自走砲……もといⅢ号突撃砲と同じ、48口径75㎜砲である。

 この戦闘車輌の名は「ラ・シマン戦車」。採用されれば、ムー統括陸軍初の“戦車”となる車輌である。ムー北部に拠点を持つ火砲製造企業・ガエタン社での製造が予定されていた。因みにこの会社は、「26型ガエタン70㎜歩兵砲」の製造元でもある。

 

 ……もう察しが付いている方もいるだろう。そう、この「ラ・シマン戦車」の正体は、「M4シャーマン中戦車」。第二次世界大戦においてアメリカ陸軍が全面的に使用していた、「偉大なる()()と呼ばれる戦車である。

 このM4シャーマンは、性能的には大したことは無い。例えばM4シャーマンの初期生産型を調べてみると、主砲は37口径75㎜砲。Ⅳ号戦車の初期型等よりは強力な火力だが、Ⅳ号戦車H型やパンター戦車・ティーガー戦車等と比べると火力は弱い。防御装甲は、車体前面80㎜・車体側面55㎜・車体後面50㎜。車体前面こそ比較的厚いが、それ以外は堅いとは言えない。特に、車体側面なぞ垂直装甲なのだし。そして、機動力も同世代の戦車と同程度である。よって、性能的には“特に秀でたところ”は無い。

 しかし、この戦車の()()は、数字には現れない部分にある。例えば機械的信頼性。M4シャーマンの中には、フランスのノルマンディーからドイツ国内まで走り通したにも関わらず、壊れなかった車輌もあったほどである。当時の戦車は機械的信頼性が低く、しょっちゅう故障を起こしていたことを考えれば、これは凄い。

 また、生産性や整備性も徹底して合理化されている。M4シャーマンは、部品の規格統一が徹底されており、複数の会社が製造を担当したのだが、“どの会社のどの工場で作った部品”であっても、ピタリと一致させることができた。これは、特に“戦場における応急修理”で大きな強みとなる。いちいち“特定の工場で作られた部品”の到着を待たなくても、簡単に壊れた部品を交換して戦場に再投入することができるからだ。他にも、M4シャーマンのエンジンは航空機用の星形エンジンが使われており、これは車高の高さによって目立ちやすくなる欠点を持つ一方で、“製造ラインの分化”を必要としなくなるため、生産性が高まることを意味していた。

 更に、()()でも扱える」マニュアル付きである。これは、一見凄いことには見えないかもしれないが、実は“とんでもなく重要なこと”である。だって、戦場では()()()()()()()()()()()からだ。「敵の砲撃が直撃して専門の操縦手が戦死しました」なんてことになっても、“マニュアル()()読めば誰でも扱える”のならば、苦境を切り開いて生還できる可能性はぐんと高まる。それは“戦車の搭乗員の経験”となり、その経験もまた「軍全体にフィードバック」され、間接的に“軍全体の練度向上の一助”となるのだ。戦場において、生存性は非常に重要な要素なのである。

 そして、拡張性も高い。当のアメリカ陸軍でも、M4シャーマンは基礎設計をそのままに、何度も性能的アップデートが繰り返され、どんどん強化されていった。初期生産型であるM4シャーマン(無印)と後期生産型の「M4A3E8シャーマン(シャーマン・イージーエイト)」を比べてみると、どれほどの強化があったかが良く分かる。こうした“広い拡張性”も、一つの無視できない要素であった。

 第二次世界大戦においてアメリカ陸軍が投入したM4シャーマンは、全タイプ合わせてなんと4万輌を超える。この数を以て、アメリカ陸軍は大陸ヨーロッパにて強敵ドイツ機甲師団と戦い、多くの犠牲を払いながらもこれを破ったのであった。戦いは数だよ兄貴!

 

 その「M4シャーマン中戦車」の設計図データがタウイタウイ泊地からムー国に届けられ、マイラスはそれを利用して、主砲を48口径75㎜砲に……つまり、ラ・スタグ自走砲と同じ主砲を搭載できるように設計を変更したのだ。また併せてエンジンも改設計し、バミウダ艦上戦闘機のエンジンを流用できるようにしている。これにより、生産性を確保できる筈であった。

 

 なお余談ながら、マイラスの机の引き出しには、造船部に提出する新しい設計図が入っている。そこには、「ラ・フレッツ級駆逐艦」と銘打たれた軍艦が描かれていた。平甲板型の駆逐艦で、5inch単装両用砲5基と53㎝魚雷発射管、それに複数の大口径対空機銃と爆雷投射器を搭載した小型艦である。

 これもまた、ロデニウスから届けられた新兵器の設計図であった。「ラ・ハンマン級駆逐艦」もといマハン級駆逐艦が、トップヘビーで復原性が悪いため、造船部から「どうにかしてくれ」と苦情が来たのである。そこでマイラスが、「ラ・ハンマン級から武装を弄らなくて良い、しかも復原性の高い駆逐艦の設計図ない?(意訳)」とタウイタウイに注文したら、この駆逐艦……「フレッチャー級駆逐艦」の設計図が届いたのだった。

 

 フレッチャー級駆逐艦……これもまた、第二次世界大戦に於けるアメリカ海軍の駆逐艦である。そしてM4シャーマン中戦車と並ぶ、()()()の代表的存在であった。

 このフレッチャー級、なんと175隻も建造されているのである。単純計算で、2・3日に1隻は造られた勘定だ。そのことから「日刊駆逐艦」なんて呼ばれることもある。アメリカの工業力おかしい。

 では性能はどうかというと、非常に“高い水準”でバランス良く性能がまとめられている。主砲の砲戦火力と魚雷の威力は、同時期に建造された旧日本海軍の(かげ)(ろう)型駆逐艦」に劣るが、その分対空戦闘能力と対潜戦闘能力は完全に陽炎型を凌駕しており、船団護衛にも向いている。陽炎型駆逐艦を「水上決戦志向型」とするなら、フレッチャー級はどんな局面にも対応できる「オールラウンダー型」であった。この「オールラウンドに対応できる」という能力は、現代のイージス護衛艦にも繋がる考え方である。そこから考えれば、フレッチャー級駆逐艦を設計した人にはかなりの“先見の明”があった、と言えるかもしれない。

 なお、陽炎型の建造数が19隻(諸説有り)なのに対して、フレッチャー級はなんと175隻。更に、改設計型である「アレン・M・サムナー級」を含めれば、その数は329隻にも達する。造る物量を()()間違えてないですかね? と言いたい。そしてやっぱりアメリカの工業力おかしい(確信)。

 

 

 こうしてムー統括軍では、新たな課題に悩みつつも(予算の許す範囲において)、飽くなき強化が続いていたのであった。




暗い野望を燃やすリーム王国。グラ・バルカス帝国の諜報員が動く一方で、この国も動き始めました。

そして着々と進む、ムー統括軍の近代化。グラ・バルカス帝国が侵攻してきた時、この国はある程度戦えるまでになっているのか…?


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次回予告。

年が明けて、中央暦1642年。来るビッグイベント「先進11ヶ国会議」に向けて、ロデニウス連合王国は準備を進めていく。一方、グラ・バルカス帝国は…
次回「迫る会議、忍び寄る気配」
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