鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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一挙に年明けしまして、いよいよ中央暦1642年に突入します。
中央暦1642年といえば…日本国召喚原作読者の皆様は、もうご承知ですよね?



108. 迫る会議、忍び寄る気配

 中央暦1642年2月14日、ロデニウス連合王国。

 年が明けてしばらく経ったにも関わらず、政府要人たちや外務省幹部の面々は気もそぞろになっていた。まあ、それも無理からぬ話かもしれない。

 年明け早々、神聖ミリシアル帝国から外交文書が届いたのだ。そこには、先進11ヶ国会議の詳細要項が記されていた。

 先進11ヶ国会議。それは、「この世界」において非常に“強大な力”を持ち、世界に対して“多大な影響力”を与え得る、と認められた国家が一堂に会して行われる会議。『選ばれた国の代表が神聖ミリシアル帝国に招待され、世界の行く末を話し合って決定する』という、この上無く重要な国際会議である。出席するには、自他共に()()()()と認める神聖ミリシアル帝国の“許可”が必要である。

 この会議は、参加する()()でも世界の全ての国から注目されることになる一大案件である。ロデニウス側が浮わつくのも無理の無い話であった。何せこの世界では、ロデニウス大陸は「第三文明圏外」……つまり、“最も文明が遅れた地域”と見做される場所に位置し、従ってこんな重大な会議とは無縁の状態だったからである。

 

 

 そのロデニウス連合王国、首都クワ・ロデニウスの一角に建つ外務省では、リンスイ外務大臣以下の幹部クラスの面々が集まって、誰を代表として会議に出席させるかを話し合っていた。

 “第三文明圏外”だからといって、舐められる訳には行かない。それ故に、リンスイ外務大臣に同伴させる外交官は、最も優秀な者を慎重に選び出さなければならなかった。

 と言っても、もうほとんど決まりかけていたのだが。

 

「では、今回私の補佐として先進11ヶ国会議に参加して貰うのは2人の外交官……カーイス・ヤゴウとデルムス・フィーナ・メツサルとする。これで決定で良いか?」

 

 幹部たちの推挙をまとめ、最終的に2人を選出したリンスイの決断に、異を唱える者は誰もいなかった。

 

 ちなみに、メツサルは中央暦1642年の年明けと共に、新たな役職を任されていた。“大東洋共栄圏総合管理庁長官”である。彼は豊富な外交経験を有し、特に旧第三文明圏外、現大東洋共栄圏参加各国との外交を経験した数は、ヤゴウと並んでトップである。その経験を買われた格好だった。

 つまり、リンスイの人選は、ロデニウス連合王国を代表する実務者の1人としてヤゴウを、大東洋共栄圏の実務者としてメツサルを起用し、その2人をロデニウス連合王国外務大臣たる自らが束ねる、という形だったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 少しだけ時が進んで、中央暦1642年3月11日。(ところ)はロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス 連合王国軍総司令部。

 先進11ヶ国会議の到来で外務省が浮き足立つのは無論だが、実は軍上層部(特に総司令官ヤヴィン元帥)も浮わついていた。その理由(わけ)はズバリ、「先進11ヶ国会議に出席するリンスイ以下の一行を、どの艦隊に護衛させるか」ということを決めねばならないからである。

 実は先日、リンスイから直々にヤヴィンの下にこんな情報がもたらされた。『先進11ヶ国会議に参加する国は、その全てが「自国の外務大臣一行の()()」と「自国の技術の他国への()()」を目的に軍艦、それも“最新鋭レベルの軍艦”又は“精鋭級の部隊”による護衛艦隊を随伴させる』というものである。しかも情報ソースは、神聖ミリシアル帝国とパンドーラ大魔法公国だそうだ。特にパンドーラは「ロデニウス連合王国がどんな軍艦を出してくるか、楽しみにしている」だそうである。

 これを聞いて、ヤヴィンは即座に考えた。今回は、“艦隊を遠い地まで行かせる”必要がある。何せ、会議の開催地は神聖ミリシアル帝国南端の港街カルトアルパスだからだ。直線距離にして1万㎞以上も離れている。しかし、自国海軍の艦隊はこんな長距離を“一息に航海する”のは難しいかもしれない。

 となると、頼れるのはやはり、「あの」()率いる艦隊だけだろう。……何かある度に()に頼るのも、心苦しいものがあるのだが。

 

 

「という訳で堺殿、卿のところから戦力を派出して、先進11ヶ国会議に出席する外務大臣一行を護衛する艦隊を編成してくれ。規模はそうだな、“戦艦1隻以上を含む10隻以上”で」

「え……いや、仰っていることは分かりましたし、海賊への備えも必要でしょうが、戦艦を含む大規模な艦隊を編成した場合、“砲艦外交”になりませんか? つまり、他国に対して威圧にならないか、と申し上げているのです。我が国は武力による威嚇をしない、と決めております故」

 

 そう、ヤヴィンが戦力派出を命じたのは、堺率いる海軍第13艦隊であった。

 

「何を仰る堺殿、この会議では参加するどの国も、“相応の規模”の護衛を付けているのですぞ。中には、自国の最新鋭海軍戦力を惜し気も無く見せ付けたり、多数の軍艦を動員して他国を威圧することもあるのです。あのパーパルディア皇国なぞは、会議の都度必ず50隻以上の戦列艦を護衛に付けていたとか。それ以外の国も、最低6〜8隻の軍艦を護衛として参加させているのです。これは、神聖ミリシアル帝国から記録を見せて貰って得た、確たる情報ですぞ。

新たに“列強”と認められるかもしれない我が国だけが、()()()()()しか出していない、というのはいただけません。ですので堺殿、数は控え目でも良いですから、()()()護衛をお願いしたい」

 

 こうまで言われては、堺も引き下がらざるを得なかった。世界中どの国もそうしているなら、それに合わせるしかないだろう。

 それに、日本でも「郷に入っては郷に従え」と言うではないか。この世界では、“この世界のルール”に従うしかない。「地球の常識」は通用しないのだ。

 

(カルトアルパスへの軍艦の派遣、か……)

 

 ヤヴィンの執務室を辞し、総司令部の建物の廊下を歩きながら、堺は頭を悩ませていた。

 

(最終的に、“戦艦1隻以上を含む6隻程度”ってことで決着したな……。第13艦隊(うち)から護衛を出すとなると、外務大臣以下の皆様を乗せる船も、うちから出さねばならんな。確かに、我が国の造船業は長足の進歩を遂げ近代化してきているが、鋼鉄製の船は軍向けの建造が最優先されていて、民間船はまだ木造帆船ばっかりだ。()()()()を護衛する()()()……こんなミスマッチな艦隊があって堪るか。輸送船に乗っていただく訳にもいかんしな。となると、うちから出すしかない。

幸いにして、うちには遠洋航海に適した高い安定性と復原性、それと諸外国寄港時に来賓を持て成す設備を兼ね備えた艦が2隻いる。どっちかに、外務大臣一行の搭乗を頼もう。あと、その護衛は駆逐艦を主体に戦艦1隻として……駆逐隊はあいつらで決定だな。そして戦艦は……遠洋航行性能と速度、火力、更に機密保持を考え合わせると……あまり出したくないが、彼女に頼むか……)

 

 

 その2時間後、タウイタウイ泊地へと戻って来た堺は、1人の艦娘を司令部に呼び出していた。

 

「私に、外務大臣と外交官の皆様を乗せるのですか?」

「ああ。君は練習巡洋艦として建造されたから、高い安定性と復原性があるし、燃費も良い。また、遠洋航海演習のついでに“諸外国の表敬訪問”が有ることも想定されていたから、内装も立派だ。他国の要人を迎えるに相応しい。よって、君に頼みたい。

()(とり)でも良かったんだが、彼女は新兵教育の仕事が入ってしまってな。君にしか任せられんのだ。頼む」

「承知しました。海上護衛総隊旗艦鹿()(しま)、出撃致します! えへへっ、やってみます!」

 

 そう言って彼に敬礼しているのは、香取型練習巡洋艦の艦娘"鹿島"だった。ツインテールの銀髪と青い瞳が特徴的な艦娘だ。尉官級正肩章付きの礼装に、紺のプリーツスカートと黒のハイソックスを着用しており、それらとコントラストを成す肌色の絶対領域が何とも艶めかしい。そして礼装の内側には、全く自重しない膨らみが二つ。某ちょび髭閣下が見れば絶対に、「おっぱいぷるーんぷるん!」とツッコミを入れてくるだろう。

 

 

 簡単に説明すると、彼女を含む香取型練習巡洋艦は、旧日本海軍が「専用の練習艦」として建造した()()()艦級である。元々旧日本海軍にも練習艦はあったのだが、それらは日露戦争の頃に使われていた艦であり、はっきり言って古すぎた。具体的には機関(なんと石炭焚き!)とか主砲とか。また、それらを抜きにしてもこういった艦は既に艦齢が30を超えており、老朽化が否めなかった。加えてこれらの艦であっても各地に転用される場合があり、そこへ海軍兵学校の卒業者が増加したため、練習艦が足りなくなるという事態が発生した。そこで、紆余曲折を経て“専用の練習艦の新造”が決定され、香取型が建造されたという訳である。その目的は新兵、特に“士官クラスの養成”であった。

 海軍兵学校を卒業した新米士官たちは、そのまま香取型に乗り込み、在校生や教員の見送りを受けながら早速遠洋航海演習に入る……という運用が予定されており、またその際には諸外国への表敬訪問も予定されていた。従って、外からの目に対応すべく香取型の内装はかなり立派であった。……悲しいことに、戦争の勃発で全て夢と消えたが。

 戦争に突入し、連合艦隊に編入された香取型は、その余裕のある船体構造を生かして艦隊旗艦の座に就いていた。例えばネームシップの「香取」は、第6艦隊(潜水艦を集中的に配備した艦隊)の旗艦となっている。そして、配置や役割を変えながら各地で戦い続け、「香取」は1944年のトラック島空襲の際にアイオワ級を含む米海軍戦艦部隊と撃ち合って撃沈された。「鹿島」は終戦まで生き残り、復員輸送にも当たっていた。

 その特徴は、()()でありながら()()に近い形状をした船体構造だ。これは、新米士官を多数乗せてその教育を行っているために、多少の速度性能よりも安定性・復原性の高さが求められたからだ。軍艦としては少々珍しい形である。

 

 

 とまあそういう訳で、「鹿島」は波荒い外洋においても高い安定性と復原性を持つため、長期間の乗船には慣れていないと思われる使節団の皆様を乗せてカルトアルパスまで行くには、打って付けだったのだ。また、先進11ヶ国会議に出席する他国の使節団の目やカルトアルパスに住まう神聖ミリシアル帝国の民の目もあるため、それらの目に対して「我々は『第三文明圏外国』とは名ばかりの、()()()()()()()である」ということを示すに十分な、立派な内装があることも決め手となった。更に言えば、「鹿島」は比較的燃費が良い。それらの要素から、堺は使節団を乗せる船として「鹿島」を選んだのだ。

 

「それで提督、私の他には誰が出撃するんですか?」

「ああ、君の護衛か。今のところ、第一六駆逐隊の(はつ)(かぜ)(ゆき)(かぜ)(あま)()(かぜ)(とき)()(かぜ)、それに戦艦(なが)()に頼む予定だ」

「随分と物々しいですね。駆逐隊の皆さんはともかく、どうして長門さんを?」

「聞いた話じゃ、この世界では“砲艦外交が当たり前”なんだそうだ。郷に入っては郷に従え、って奴さ。あと、舐められる訳にいかんからな」

「そういうことでしたら、承知しました」

「うむ。では、当日はよろしく頼んだぞ」

「鹿島にお任せくださいませ。うふふっ」

 

 にっこり笑って、"鹿島"は退室した。彼女の姿が見えなくなった途端、

 

「提督。お前が今言ってた艦隊、偏りすぎてやしないか?」

 

 脇に控えて話を聞いていた、本日の秘書艦担当"()()"が口を開いた。

 

「何がだ、摩耶?」

「アタシに言わせりゃ、その艦隊じゃ戦力不足だ。鹿島や駆逐艦の主砲を高角砲に換装したとしても、“航空機に対する備え”がまるで無い。空母の1隻でも連れてった方が良いと思うぜ」

 

 堺との付き合いが長いこともあり、"摩耶"は上司たる彼に対しても一切物怖じせずにズバリと意見を述べてくる。それもまた、堺が彼女を頼もしく思い、全幅の信頼を置いている理由である。

 

「流石に鋭いな、お前は。そう、この艦隊では正直言って、航空機相手には不安要素しかない。だが、この艦隊は飽くまで“国際会議に出席する外務大臣一行を護衛するためのもの”であって、他国を“武力で威圧する”もんじゃない。それにどうやら、各地でグラ・バルカス帝国の諜報員が動き回ってるようだ。奴らに余計な情報を与える訳にもいかん。長門を入れた以上、この上空母を入れるのは無理だ」

「んじゃ、長門の代わりに空母入れろよ?」

「そりゃ愚策だ。この世界は言わば『大艦巨砲主義』。他国にとってもこっちの実力を測りやすい、大口径砲を搭載した長門を入れとかないと、意味が無いんだ。それに、戦艦を入れるのは“総司令官からの命令”だからな」

「んじゃどうするってんだ!?」

 

 声が昂りかけた"摩耶"に、堺は「まあ落ち着け」と声をかけておいて、机の引き出しからカードの束を取り出した。黒や赤でダイヤモンドのような菱形やハート、クローバーのマークと数字が書かれた何枚ものカード……それは明らかにトランプであった。「何だ何だ、急にトランプなんか出して。堂々とサボる気か?」と"摩耶"。

 

「そうじゃねぇ、物の例えだよ」

 

 言いながら、堺はトランプの束からカードを1枚取り出した。

 

「この外務大臣護衛艦隊をトランプに例えるなら……まず、鹿島はこれだ」

 

 机の上に、クイーンのカードが置かれた。

 

「んで、長門は……これ」

 

 クイーンの右に、キングのカードが置かれる。

 

「そして、一六駆は……これだ」

 

 今度は、クイーンの左にジャックのカードが並んだ。

 

「各国の連中には、うちの艦隊はこれに見える」

「??」

 

 彼が何を言いたいのか分からず、"摩耶"は首を傾げていた。

 

 

 それから数日は、飛ぶように過ぎていった。

 結局、外務大臣護衛艦隊は戦艦1・練習巡洋艦1・駆逐艦4の6隻で決定され、正式に選ばれた6人の艦娘たちは自身の艤装を丹念に手入れし始めた。駆逐艦艦娘たちは、主砲を「10㎝連装高角砲+高射装置」に換装しての砲撃訓練に余念が無い。尚、この装備は(あき)(づき)型駆逐艦の"秋月"・"(てる)(づき)"・"(はつ)(づき)"に借りたものである。

 

「提督よ」

「む、どうした長門?」

 

 駆逐艦娘たちが対空戦闘訓練に明け暮れる傍ら、"(あか)()"の主導の下で機関を「新型高温高圧缶」と「改良型艦本式タービン」に交換しての高速航行訓練を行う"鹿島"。それを眺めていた堺に、"長門"が声をかけた。

 

「この間、“工廠組”が新型の対空砲弾を開発したって聞いたんだが、それはどうするんだ?」

「そうそう、それを言うのを忘れていたよ」

 

 堺はポンと手を打った。

 

「すまんが長門、その新型砲弾、今回持って行ってくれんか? 物騒なこの世界のことだ、“何かあった時のお守り”としたい」

「そうか、分かった。適当に弾薬庫に入れておくよ」

「ああ、頼んだ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、中央暦1642年3月25日朝。ついに出発の時は来た。

 朝日照らすタウイタウイ泊地、埠頭には大小6隻の軍艦がその身を浮かべている。戦艦「長門」、練習巡洋艦「鹿島」、駆逐艦「初風」・「雪風」・「天津風」・「時津風」だ。

 「長門」はその外見に変わったところは無いが、「鹿島」は主砲が換装され、明らかにいつも彼女が搭載している「14㎝連装砲」より小さな口径の砲を搭載していた。但し、その砲は大仰角をかけられることが想定されており、“対空砲”としての機能を持っている。他に礼砲と魚雷発射管が撤去され、その分対空機銃が増設されている。第一六駆逐隊の駆逐艦4隻は、主砲がいつもの「12.7㎝連装砲」から「10㎝連装高角砲+高射装置」に換装されていた。但し数が足りなかったため、"雪風"のみ通常型の「10㎝連装高角砲」を装備している。

 各艦娘の装備を「艦これ」流に言うと、以下の通りである。

 

戦 長門改

41㎝連装砲×2

三式弾改二

零式水上観測機

 

練巡 鹿島改

新型高温高圧缶

改良型艦本式タービン

5inch連装砲Mk.28 mod.2

Boffors40㎜四連装機関砲

 

駆 初風改

10㎝連装高角砲+高射装置×2

13号対空電探改

 

駆 雪風改

10㎝連装高角砲×2

???

 

駆 天津風改

10㎝連装高角砲+高射装置×2

13号対空電探改

 

駆 時津風改

10㎝連装高角砲+高射装置×2

13号対空電探改

 

 リンスイ、ヤゴウ、メツサルの3人は、既に「鹿島」に乗り込んでいる。そして堺はというと、何と駆逐艦「雪風」の艦橋にいた。「どうしても、護衛艦隊の指揮を直接執って欲しい」という、ヤヴィン元帥(総司令官)の強い意向を受けた結果である。

 

「出港!」

 

 0700時きっかり、堺が号令を発し、出港ラッパが高らかに鳴り渡る。そして、戦艦1・練習巡洋艦1・駆逐艦4から成る「第一護衛艦隊」は、"大和(やまと)"以下の見送りを受けてタウイタウイ泊地を出港した。目的地は、神聖ミリシアル帝国南端部にある港街カルトアルパスである。

 

 

 その頃、ロデニウス大陸から見て世界の反対側と言える地にある島国グラ・バルカス帝国、帝都ラグナ。

 グラ・バルカス帝国では、国の今後を決定付ける“重大な会議”が行われようとしていた。

 

「これより、帝前会議を開催致します」

 

 司会進行係が会議の開始を宣言し、会議が始まる。

 既に全員に根回しは終わっており、この会議で行われるのは“最終的な意思決定”だけだ。

 

「カイザル、ミレケネス。間もなく先進11ヶ国会議が開催されるが、準備は整っているな?」

 

 帝王グラ・ルークスは、席に顔を連ねる2人の軍人…男性1人と女性1人に確認を行う。男性は、帝国海軍東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド。そして女性は、帝国海軍特務軍艦隊司令長官アンネッタ・ミレケネスだ。

 

「「はい、帝王陛下。準備は全て整っております」」

 

 二人は、口を揃えて答えた。

 

「陛下。今回の作戦で、現地人どもは……世界は震撼し、我らに(ひれ)()すことになるでしょう」

 

 その隣で、外務省長官ラウス・モポールが自信を持って発言する。

 

「よもや、神聖ミリシアル帝国に遅れを取ることはあるまいな? この世界では、()()と言われているようだが」

 

 グラ・ルークスの問いに対しては、海軍総司令官を務めるアルメダ・ホーキンス元帥が答えた。

 

「現地人に遅れを取ることは考えられません。兵器の設計思想を見れば、かの国の“間違った方向性”が見えてきました。

我が国を止められる者は、この世界にはおりません」

「そうか。では本件は、許可することとする。(みな)、頼んだぞ!!」

 

 グラ・ルークスの言葉に出席者全員が敬礼し、それを以て帝前会議は終了した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それから更に時が進み、中央暦1642年4月1日。処はパンドーラ大魔法公国西方80㎞の海域。

 その海域を、8隻の木造帆船が航行していた。パンドーラ大魔法公国の魔導船団である。その目的は、先進11ヶ国会議に出席する外務大臣一行をカルトアルパスまで送り届けること。同時に、世界にも誇るパンドーラ大魔法公国の魔導技術を、世界に知らしめることである。

 パンドーラ大魔法公国は、第三文明圏において突出した高い魔導技術を持ち、その技術はかのパーパルディア皇国にも勝るとも劣らないものであった。いや、第一文明圏や第二文明圏を向こうに回しても通用し得るレベルだったのである。

 そのパンドーラ大魔法公国の魔導船団だが……船団司令コルバー以下の護衛船団の乗組員たち、そして公国外務省から派遣された使節団の面々は、沈黙を余儀無くされていた。

 

「………」

「………」

「………」

 

 彼らの視線は、先ほどから船団の左の方向に向けられている。その視線の先にいるのは、1隻の超大型艦を含む“6隻の機械動力艦”だった。どの船も、煙突からモクモクと黒煙を吐き出し白波を蹴立てながら、雄々しい姿を惜し気も無くこちらに見せ付けている。そしてマストには、赤い太陽を描いた白地の旗(旭日旗)と、ロデニウス連合王国の国旗を掲げている。そう、ロデニウス連合王国第一護衛艦隊だった。

 彼らはパンドーラ大魔法公国を出港して比較的すぐに、この艦隊と遭遇(ランデブー)したのである。そして、改めてロデニウス連合王国の軍事力の高さを感じると共に……彼我の“純然たる性能差”を見せ付けられていた。

 というのも、ロデニウス連合王国艦隊は明らかに自分たちの艦隊よりも()()なのである。現在、パンドーラ大魔法公国の魔導船団は、「風神の涙」を()()()使用して15ノットの速度で走っている。にも関わらず、ロデニウス艦隊との距離が()()()()()()()()のだ。

 

 実はこの時、戦艦「長門」以下のロデニウス連合王国艦隊は18ノットの速度で航行していたのである。しかも、これは飽くまで「巡航速度」であり、要は“最も燃費の良い走り”しかしていない。その気になれば、25ノット以上の速度を発揮可能だ。()()()全開速度ですらない状態で、この有り様なのである(無論、パンドーラ側はロデニウス艦隊が25ノットも出せるとは思っていない)。

 

 え? 「鹿島」が巡航速度で18ノットも出せるのか、って? ……君のような勘の良いガキは嫌いだよ。

 そう、香取型練習巡洋艦は確かに18ノットを出せる。しかし、それは「最高速度」であり、決して()()()()ではない。

 では何故、「鹿島」は18ノットを巡航速度で出せるのか? それは、この艦が「鹿島」ではなく"鹿島"だから……()()では無く()()だからである。

 少々メタい話になるが、「艦隊これくしょん〜艦これ〜」には「高速化」というシステムがある。これは、タービンと缶を組み合わせて搭載することで、本来「低速」である艦を「高速」にしたり、元から「高速」である艦を更に高速化できる、というものだ。

 ここで、()()"鹿島"の装備を振り返って貰いたい。今の彼女は「新型高温高圧缶」と「改良型艦本式タービン」を搭載していなかっただろうか? ……そう、“そういうこと”である。この二つの装備を組み合わせて搭載したことで、"鹿島"は本来「低速」である筈のところを「高速」の艦として航行できるのだ。

 現在の"鹿島"の速度性能は、巡航速度18ノット、最高速度30ノット。凄まじいものである。この高速のため、"鹿島"は速力30ノットを発揮できる駆逐艦たちと、艦隊を組んで航行することも可能なのである。

 

「あ、あんなにデカいのに、我が国の魔導船団より船脚が速いなんて……。文字通り、次元が違いすぎる……! ロデニウス連合王国の技術は、どれだけ高いんだ……?」

 

 弱々しく呟いて、コルバーは大きな溜め息を吐いた。

 彼自身も、ロデニウス連合王国軍の噂は耳にしたことがある。対パーパルディア戦争……「第三文明圏大戦」の折に、パンドーラ大魔法公国政府上層部の面々は、パーパルディア皇国に自国の兵力を送り込んで、ロデニウス連合王国軍の進撃を援護しようとしたことがある。その際に自国軍から伝えられた魔信によって、彼らはロデニウス連合王国の技術を探っていた。

 

『ロデニウス連合王国の戦艦は、信じがたいことに“城と同じくらい”に大きな船体を持ち、搭載した魔導砲も口径・砲身長共に長い。また、それほど強力な装備を持ちながら、非常に速い速度で海上を疾走することができる』

 

 その結果、手に入ったのがこんな()()()()()()()である。

 当初は、“こんな大型軍艦がある筈が無い”として否定され、「戦争の雰囲気に呑まれた連中が、“ちょっと大型の戦列艦”を少々大袈裟に話しているだけ」と判断されていた。だが……今この瞬間、ロデニウス連合王国の軍艦は目の前にいる。それも、本当に()()()()()()が。

 

(あの話、本当だったのだな……。今目の前で見ても、信じられん……)

 

 コルバーは半ば呆れた様子で、首を左右に振るのだった。

 

 もしこの時、対パーパルディア戦線に参加し、ロデニウス連合王国の軍艦を目の当たりにした兵士が一人でもいたら、その兵士は呆然としてこう呟いただろう。「あの時見た軍艦と、違う……」と。

 実は、対パーパルディア戦線に参加した兵士たちは、確かに“ロデニウス連合王国の超大型軍艦”を見た。だが、その時彼らが見た軍艦はアイオワ級戦艦「アイオワ」であり、「長門」()()()()。それはつまり……ロデニウス連合王国がこうした超大型軍艦を、()()()()()二隻同時に保有・運用できるだけの国力・技術力を有している、ということを物語っていた。

 

 ……だが事実を知ったら、ロデニウスの軍艦を目の当たりにした兵士たちですら卒倒するだろう。

 実際には、ロデニウス連合王国が運用している超大型軍艦……つまり戦艦は、少なくとも17隻に上るのである。そしてその中には、とんでもない量の資源を消費する()()もいる。はっきり言えば、()(そう)型改二やアイオワ級、そして大和型。特に大和型戦艦は、長門型戦艦の()()()もの燃料や弾薬をペロリと平らげてしまうほどである。そんな“怪物的な消費能力を持つ戦艦を17隻も運用できる”となると、国力も相応にあると考えるのが妥当である。

 そして、戦艦だけでは(なま)(ぬる)い。戦艦には及ばないものの、正規空母だって相当の消費能力を持つ。特に第13艦隊は「大食いキャラ」が定着している"(あか)()"を筆頭に、正規空母最大の巨躯と消費能力を持つ"()()"、"(たい)(ほう)"・"(しょう)(かく)"・"(ずい)(かく)"よりなる装甲空母部隊等、消費能力の高い空母を揃えているのだ。その他巡洋艦や駆逐艦・潜水艦にしても、“一人当たりの消費”は少ないかもしれないが、「塵も積もれば山となる」というもので、総勢200人近い艦娘たちを養うコストは、洒落にならないことになっている。それを支え続けることができているのだから、ロデニウス連合王国の国力は低くないどころか、寧ろ高いのである。

 

 

 コルバーたちの驚きと呆れをよそに、18ノットの巡航速度で一路西へと向かう第一護衛艦隊。その目指す先は、神聖ミリシアル帝国の港街カルトアルパスである。

 果たして、先進11ヶ国会議でリンスイたちを、堺を、艦娘たちを待ち受けているのは何か? それはまだ、誰にも分からなかった。




はい、今回は先進11ヶ国会議の前日譚でした。リンスイ外務大臣直々に赴くことになりましたが、これは相手が神聖ミリシアル帝国である以上、その立場に配慮した、ということです。
そして何やら不穏な動きを見せるグラ・バルカス帝国。原作の会議では、確か…(察し)


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次回予告。

ロデニウス連合王国やグラ・バルカス帝国、そして世界中から選ばれた、合計10ヶ国の代表たち。それぞれが神聖ミリシアル帝国の港街カルトアルパスに集い、この世界の行く末を決める重要な会議が始まる…
次回「開催、先進11ヶ国会議」

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