鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、タイトルの通り間章です。第一弾は、ムー外務省の文化調査官アイリーン嬢の報告書!
なお、「報告書」というタイトルながら実際の文体が「日記」っぽくなっているのはお許しください。



第4.5章 間章
079.11 間章その1 アイリーンのロデニウス文化調査報告書 1頁目


 忘れもしない、中央暦1640年1月21日。その日、いつものように外務省で仕事をしていた私は急に上司に呼び出され、ある“特別な仕事”を命じられる。それは、「ロデニウス連合王国」なる第三文明圏外国の風土や文化について、現地で情報収集して来い、というものだった……。

 

 おっと、申し訳ない。自己紹介が遅れた。

 私の名はアイリーン・グレンジャー。第二文明圏の列強ムー国の外務省に勤務している、(女性)文化調査官の1人だ。主な仕事は、第三文明圏外の……正確には、フィルアデス大陸に国土を持たない大東洋周辺諸国の文化について情報を集め、それらの国における人々の物の考え方や文化等を分析すること。こうした分析結果は、ムー国が外交活動を行うに当たって利用される。そのため、仕事に手を抜くことは許されない。

 情報収集と言っても、やり方は色々だ。例えば相手国に直接出かけていき、自分の足で歩き、自分の目で見て分析する。各国を巡る商人たちに話を聞く。商人たちがそうした国々の品物を売り物として持っているなら、買ってみるのも良い。まあとにかく、色々な方法がある。

 それらの方法の中でも、私は特に“実際に出かけて観察する”方法が好きだった。理由は色々あるが、最大の理由は「生きた文化をその場で見ることができ、より正確な情報収集になるから」だ。

 確かに商人から話を聞いても、情報収集()()なる。だけど、商人が語るのは飽くまでも商人()()が聞いたものが大半だ。直接見ている場合もあるけれど、その場合でも「商人の主観」というフィルターがかかってしまい、商人が語る内容が歪んで“事実とは異なったもの”になってしまう。また、商人から品物を買ったとしても、それは文化が根付いた土地から離れてしまったものであり、言ってみれば“死骸か抜け殻のようなもの”だ。そんなものを見ただけでは、正確な情報収集など望むべくもない。だから私は、相手国に直接出かけ、“自分の目で見る”方法が好きだ。

 まあ後は、単に私が“旅行好き”だというのもあるのだが。え? 旅先で「野蛮」とか蔑まれることの多い現地人に襲われたりしないのかって? 大丈夫だ、色々と出かけてみて分かったが、「蛮族」とか言われることの多い現地人であっても“相応のモラル”がある場合が多い。それと、(特に)男が注目することの多い女性の身体の“ある部位”が私の場合()()()から……ってやかましいわ!!

 

 コホン。まあそういう訳で、私は旅こ……ではない、“文化調査”のため相手国に行くのが好きなのである。そしてそれが、どうやら上司の目に止まったようだ。

 私は「ロデニウス連合王国の文化を見て来い」と命じられたのだった。人伝に聞いたところでは、どうやらロデニウス連合王国はパーパルディア皇国と戦争に突入するらしく、それに際して我が国は観戦武官を送るつもりらしい。その観戦武官を乗せる航空機に便乗する形で、私もロデニウスに行くことになる、とのことだ。

 安全? まあ確かに、戦争が起きている国へ行くのだから、自分の身は心配だ。だが同時に、“今回は大丈夫だ”と思っている自分がいる。

 我が国は、他国に観戦武官を送る時は“()()勝つだろう方の国”に送る癖がある。それを信用すると、どうやら政府と軍部は“今回の戦争はロデニウスの勝利になる”と思っているらしい。ならば、大丈夫だろう。()()は禁物だが。

 

 かくて、私は3人の観戦武官とともに旅客機「ラ・カオス」に乗り込み、ロデニウス大陸に向けて飛び立った。中央暦1640年1月21日のことである。

 

 

 その6日後、1月27日。私たちの乗った航空機(ラ・カオス)は、ついにロデニウス大陸近海まで到達していた。本当に長い旅程だった。船で移動する際は今回以上の日数がかかることも多いが……少なくとも私は、こんなに長い期間航空機に乗り続けたことは無い。

 高度を下げ始めた「ラ・カオス」の座席に身を預けていると、これまで色々とロデニウスの兵器について語っていた観戦武官の1人マイラス・ルクレール氏が、興奮したような口調で口火を切った。

 

「護衛って言うからには戦闘機だろ……どんな機体が来るんだろう?」

 

 どうやら、もうロデニウスの領空に近いらしい。そして、ロデニウス連合王国軍が護衛機を飛ばしてくれるようだ。

 

「あの戦闘機の仲間が来るんですかね?」

 

 マイラスに同調しているのは、リアス・アキリーズという人だ。彼は一度、ロデニウスの戦闘機を見たことがあるらしい。

 

「私は、武器については全く分かりませんが……そんなに凄いのですか?」

 

 つい気になったので尋ねてみると、私の後ろに座っていたラッサン・デヴリンという武官が、冷めたような声で言った。

 

「どうせ大したことはないだろ」

「まあ、それは来たら分かることだな」

 

 マイラス氏がラッサン氏に答えた時、

 

「お、噂をすればちょうどお出ましかな……は!?」

 

 ちょうどロデニウスの戦闘機が来たらしい…が、マイラス氏の声は途中で途切れてしまっている。

 たまたま窓際の席にいた私は、外を見やったのだが……その先にいた機体は、“異様なもの”だった。私も我が国の戦闘機「マリン」とやらを見たことはあるが、ロデニウスの戦闘機は「マリン」とは“全く異なる形”をしている。機体は(やじり)のように尖っており、主翼と“プロペラ”とやらいう機構が機体の後ろにあったのだ。

 

(何、あれ……!?)

 

 その時の驚愕は、今でもよく覚えている。

 

「な、何だあれは!?」

「……え!?」

「いったいどうした……ッ!?」

 

 背後で、観戦武官たちの悲鳴と息を呑む気配が、ありありと伝わって来る。彼らも驚いているようだ。

 

「プ、プロペラが()()()付いているだと!?」

「こ、これがロデニウス連合王国の戦闘機!?」

 

 彼らは、完全に戦闘機に注意を取られていたが……窓際に座っていた私は、夕闇の中で眼下に広がるロデニウス大陸の様子を垣間見ることができた。

 巨大な都市があり、電気らしい明かりが幾つも灯っている。街灯の明かり、家々の窓から漏れる明かりもあるようだ。そして、それらの明かりの中に、海に浮かぶ船の形がぼんやりと見えた。どうやら港湾都市らしい。

 それを通り過ぎて、ロデニウス大陸の北東にある島……確か「タウイタウイ島」と言ったか……に降りた私は、愕然とした。駐機場には、「ラ・カオス」より洗練された形状の機体がズラリと並んでいるではないか。しかも、どれも2つのプロペラを抱えている。こんな機体を量産できるとなると、ロデニウス連合王国の力は相当のものらしい。ひょっとすると、我が国ムーよりも高い国力があるんじゃなかろうか。

 

「こりゃ、とんでもない国に来たらしいな……」

 

 マイラス氏の呟きには、私も大いに賛同するところであった。

 そして、5日ぶりにまともに大地に足を着けた私たちを待っていたのは、1人の非常に(あで)やかな長身の女性だった。長い焦げ茶色の髪を後ろで1つにまとめているが、その髪が非常に長く、膝の辺りにまで達している。袖が分離した奇妙な白い上衣と赤いヒラヒラした下衣(後でそれが“ミニスカ”なる代物だと知った)を着用し、下肢は健康的なまでにスラリとしている。黒い靴下を履いていたが、それの長さが“左右で異なる”のが気になった。あれが、ロデニウスのファッションなのだろうか?

 

「ようこそ、ロデニウス連合王国へ。遥か遠方から、よくお越しくださいました。私は、ヤマト(大和)と申します。皆様をご案内させていただきます。では、此方へどうぞ」

 

 ヤマトと名乗ったその女性に案内されて歩きながら、私は今晩世話になるらしい建物を見上げた。夕焼けで赤く染まる空の下、建物の壁には複雑な茶色と白の奇妙な模様が描かれているのが分かる。ところが近付いてよく見ると、それは模様ではなく、茶色っぽいブロック状の物体を積み上げ、その隙間を何やら白い物質で埋めたものだと分かった。ブロックや物質が何でできているのか、想像も付かない。

 建物の観察をしていた私の耳に、夕方の風に乗ってマイラス氏とヤマトさんの会話が聞こえてきた。

 

「……因みに、貴女のカンシュはどちらで……?」

「私ですか? センカンです」

 

(センカン……? 何のことだろう……?)

 

 この謎の発音が何なのか、その時の私には分からなかった。そしてその直後、ロデニウスの航空機が時速465㎞で飛べるとか、海面に着水できると聞いて、私はもう頭がパンク寸前になった……。

 

 先に男性の面々を部屋に案内した後、ヤマトさんは私を部屋に案内してくれた。そこは、ムー国の旅館でも見かけるような板張りの床の部屋になっていて、2段ベッドと事務所等で見るようなデスクが2つ置かれていた。本来は2人1室での運用を想定しているらしい。そしてそれ以外に、床の一部が高く盛り上がって緑色に塗られた箇所があり、そこには茶色に塗装された脚の低い丸テーブルと紫色のクッションが1つ置かれており、何かの菓子らしい茶色の円板を入れた籠がテーブルの上に乗せられている。ヤマトさんが言うには、この盛り上がった緑色の部分はタタミと言って、靴を脱いで上がらなければならない所だそうだ。ムー国を始め各国では“靴を履いたまま屋内に上がること”が多いため、それらと比較するとこの国には何とも変わった文化があるものである。小綺麗な白いカーテンが架かった広い窓からは、広大な海を眺めることができた。今は夕焼けで空も海も赤いせいか、何だかロマンチックな印象を受ける。

 ヤマトさんから夕食のメニューを伝えられ、何か希望が無いかと訊かれた私は素早く考えた。サラダ、スープ、パンと200gのビーフステーキ、アイスクリームというメニューは、流石に私には多すぎる。そこで私が、メインのステーキを魚料理に変えられないかと希望すると、ヤマトさんは笑顔で「では対応させていただきます」と言っていた。そして最後に、私に「オフロ」なるものの場所を教えてくれるという。案内された私は、この国にも湯浴みの文化があるのかと感心することになった。第三文明圏外国では湯浴みの習慣が無いところが多く、その度に閉口させられるからだ。湯浴みができるのはありがたい。

 

 夕食まで30分ほど時間がある、ということで、私は早速湯浴みに行った。脱衣所に入ってみると、棚には4人分ほどの衣服が畳んで置かれており、大浴場の方から何やら賑やかな話し声が聞こえる。さっき案内された時は誰もいなかったのだが、どうやら先客がいるらしい。

 浴場にいたのは、年端も行かないように見える4人の少女であった。1人目は短い茶髪に同じ色の瞳が特徴的な少女。2人目は1人目よりも長い茶髪の少女。彼女だけ他の少女と比較して胸が()()大きかった。3人目は薄い紫色という珍しい髪の色が特徴的な少女。そして4人目は、明る目の茶色ロングヘアの少女。全員が身体を洗っている。

 

「およ? お客さんかにゃしぃ?」

「……珍しい」

 

 私が入ってきたのに気付いて、1人目と3人目の少女が声を上げる。

 

「お邪魔してすみません、ご一緒させていただきますね」

 

 彼女たちに一声かけてから、私はまず身体を洗いにかかった。

 

(ええと……ああ、こっちが洗体用の石鹸か。なんとも変わった容器に入っている……)

 

 普通、世界各国で石鹸と言えば“四角い固体のもの”ばかりだ。第三文明圏外ともなると石鹸が()()()()()場合も多く、それもまた閉口の種である。しかし、ヤマトさんから聞いたところによれば、なんとロデニウス連合王国の石鹸は“液体”らしい。第三文明圏外に石鹸があること自体も驚きだが、液体石鹸とは更に驚かされる。

 容器の天辺を押すと、蛇口のような形をした容器の口から液体石鹸が出てくる。

 

(なんとも不思議な容器だ……それにしても便利だな、これは。固形石鹸と違って、泡立てるのに苦労しない)

 

 タオルで石鹸を泡立て、それで身体を擦りながらそう考えていると、隣から声をかけられた。さっきの4人の少女たちのうち、少しだけ胸の大きい少女だ。

 

「急にごめんなさい。お背中流したりとか、要ります?」

 

 一瞬だけ考えた末、彼女たちの世話になることにした。

 

 

「え、ここって“軍事拠点”なんですか?」

「……そう。浴槽とか、旅館っぽい感じだけど」

 

 現在、洗体も洗髪も終わった私たち5人は、絶賛入浴中である。やはり湯浴みは良い。長い間航空機の座席に座っていたせいで凝り固まっていた身体が、すうっと解れていくような感じがする。

 一緒に入浴していた4人の少女たちは、1人目から順番に「ムツキ」「キサラギ」「ヤヨイ」「モチヅキ」という名前なのだそうだ。年端も行かないような少女たちにしか見えないが、実は“結構な年齢”(具体的には教えて貰えなかった)で、ここで働いているんだとか。それだけでも驚きなのに、実はこのどこかの旅館にしか見えない風呂も建物も、軍事拠点なんだそうである。とてもそうは見えないのだが。

 私の見る限り、「ヤヨイ」と「モチヅキ」はどうやら無口な方らしい。そして「ムツキ」と「キサラギ」は饒舌なようだ。質問すると色々と教えてくれる。

 

「まあ、こんな設備があるのも提督のお蔭なのよね〜」

「そうそう、仕事の後のお風呂は最高にゃしぃ!」

 

 聞けば、どうやら彼女たちは「提督」なる男性の“部下のようなもの”なのだそうだ。……こんな“年端も行かない見た目の少女たち”を働かせるなんて、「提督」なる男性はいったいどんな御仁なんだろうか?

 

「ところで、アイリーンさんのいるムーっていう国は、どんな国なの?」

「私の国ですか? そうですね、ムーは列強と呼ばれる強国の1つで……」

 

 そして、彼女たちとお国談義をしていると、いつの間にやら夕食の時間が迫っていた。

 

 

 ムツキたちと別れて大急ぎで食堂に来てみると、既に男性陣は全員が席に着いていた。そして、私が着席すると同時に夕食がスタートした。

 最初に出てきたのは、見た目も美しいサラダである。緑色の瑞々しいレタスの葉を容器の縁に盛り付け、その中に細く切ったキャベツや人参、チーズ、トマト、何かの魚のほぐし身等が混ぜられたサラダが、大きなボウルに入って出てきたのだ。シェフのような白いとんがり帽子を被って白いエプロンを付けたヤマトさん曰く、「シーザーサラダ」という一種独特のサラダらしい。そしてそれと一緒に、少量の野菜が入ったオレンジ色の透明なスープが、カップに入れられて各人の前に置かれた。スープの液面には、細かく刻まれた香草らしきものが少量浮いている。これは「コンソメスープ」なるものだそうである。どうやら、このスープとサラダが前菜(オードブル)ということらしい。

 ムー国を始め各国にもサラダ料理はあるので、シーザーサラダはまだ理解できる。だが、こんなオレンジ色のスープは見たことがない。どんな味なのか気になったので、私はスープから先に頂くことにした。

 スプーンを取り、スープを掬って口元に運ぶ。口に入れる前に匂いを嗅いでみると、何とも言えない芳醇な香りがする。これは味も期待できそうだ、と思いながら、スプーンを傾け、スープを口内に流し込む。

 

(!?)

 

 何だこれは!? とても美味しい。

 語るのを忘れていたが、私には旅行の他に好きなことが“もう1つ”ある。美味しいものを食べることだ。これまで私は、自国ムーのみならず各国で色々なものを食べてきた。従って、自慢ではないが私は舌がかなり肥えている(少なくともそう自負している)。その私の舌に照らしても、このスープはそれまで私が飲んだどんなスープよりも美味しかった。

 スープはどうやら野菜がベースになっているようで、太陽の光をたっぷり浴びて育った葉野菜と実野菜の優しい甘さが味の中心だ。だが、その中にどうやらタマネギが入っているらしく、鋭いピリッとした辛味が甘みとコントラストを成して、互いの味を一層引き立たせている。それにほんのりとだが、肉の味もした。肉の味は野菜の味を潰してしまわない程度に、しかし隠れてしまうことがない程度の、絶妙な味加減になっている。これもポイントが高い。スープに浮かぶ香草もさりげないアクセントだ。

 あっという間にスープを飲み終えてしまう。これが“コース料理”であるが故に、スープのお代わりができないのが残念でならない。もしお代わりができるなら、このスープ()()で一食分どうにかできそうな気がする。それほど美味しいスープだった。この味は大衆食堂どころか、ホテルや一流レストランでも十二分に通用するレベルだろう。

 私がスープに舌鼓を打っている間に、男性陣は早くもスープを飲み干して、サラダボウルと格闘していた。空腹の軍人3人でかかればサラダが減るのも早いもので、既にシーザーサラダは約半分が姿を消している。早目に私の分を確保しないと、全部が男性陣の胃袋に消えていきそうだ。

 慌ててトングを取り、皿に大量の野菜を乗せて食べる。野菜は取れたばかりの新鮮な物が使われているようで、どれもシャキシャキして美味しい。それに加えて何を混ぜて作ったのか分からない、透明なソースがうっすらかかっていた。それがちょっとしたアクセントになっている。

 

 サラダボウルの9割が各人の胃袋に消えたところで、ようやくメインディッシュのお出ましだ。私の前に置かれたのは、第三文明圏でよく食されると言われるある種の魚。その大きな切り身が、こんがりとした焼き色を付けて置かれていた。茶色っぽいさらさらしたソースがかかっていて、見るからに美味しそうである。

 私の周囲の男性陣の前に置かれたのは、200g級の大きなビーフステーキだ。焼き色も鮮やかな牛肉が、タマネギ入りらしい茶色のソースをかけられて皿の中央にデンと置かれている。その周囲には、申し訳程度にポテトと人参のグラッセがあった。主食は丸いパン2個である。

 第三文明圏で“パン”と言えば、大体の場合『堅パン』が主流だ。特に、農村ではその傾向が顕著に出る。こうした堅パンは噛んでも歯が立たないことが多く、大抵の場合はスープ等の液体に浸して食べることを余儀無くされる。だが、今目の前にあるパンはどうだ? 持ってみると柔らかい。明らかに堅パン()()()()ことが見て取れた。

 

(これは期待できるか……?)

 

 そう考えながら、パンを1つちぎって口に運ぶ。うん、可も無く不可も無い、()()()パンだ。ムー国を始め、第二文明圏各国で食されているパンと()()()()()()()

 そこでようやく、パンの隣に赤色のジャムとバターが置かれているのに気付いた。必要ならご自由に、ということらしい。ありがたく使わせて貰おう。バターはともかくとして、ジャムは果物を使って作られることが多い以上、“地域ごとの特質が顕著に現れる”食べ物の1つだ。この国のジャムはどんな味なのか、非常に楽しみである。

 パンにジャムを塗って食してみると、なんというか、少し独特な味がした。ムー国では「ベリー」と呼ばれる種の果物のジャムがよく食されているが、ロデニウスのジャムはそのムーのジャムにどことなく似た味がする。そして、ムーのジャムよりも“強烈な甘さ”がある。ここまで甘いジャムは食したことがない。

 後で聞いたら、なんと()が入っているのだとか。甘さが求められるジャムに何故しょっぱい塩なんかが入っているのか? と思ったら、どうやら『甘いものに塩を少量かけると甘さが引き立つ』のだそうだ。ムー国でもそんな発想はない。これは良いことを聞いた。

 なお、バターは可もなく不可もない“普通の”バターだった。

 

 おおっと、そろそろ魚を食べてみなければ。完全に失念していた。

 ナイフとフォークを手に取り、魚の切り身を小さく切ってみる。何やら少し変わった皮のようなものに包まれた白い身はよく焼けており、見ているだけで食欲をそそられる。食べてみると、どこか懐かしい味がした。かつてマール王国に行ったことがあるが、その時出てきた魚の味と同じものだ。尤も、マール王国のそれはただの焼き魚であり、ここまで調理されてはいなかったが。

 ソースも変わった風味だが、上手く魚の味を引き立てている。下手な料理人が自作のソースをかけると、ソースが食材の味を消してしまうことがあるのだが、このソースにはそんなところは全くない。寧ろ魚の味と上手く調和している。あとでこのソースの作り方と、“魚を包む奇妙な皮”の作り方も聞いておきたいところだ。

 

「お口に合いましたでしょうか?」

 

 ヤマトさんが感想を尋ねると、真っ先にマイラス氏が手を挙げた。

 

「完璧です。ここまで旨い料理を()()()()()()食せるとは思いませんでした。肉の焼き加減とソースの味がよく合っています!」

 

 そう言うマイラス氏の皿は、既に半分以上空になっている。美味しすぎてあっという間に食べてしまったらしい。

 

「これは、我が国においても“一級品の料理”として出せるレベルですよ」

「そうそう、一流ホテルか三ツ星レストランでも十分通用します」

 

 リアス氏とラッサン氏も同じ感想であった。もちろん、私も異論はない。

 

「こちらの魚も美味しいです。何やら見たことのない、パリッとした皮に覆われていますが、これは何でしょう?」

「ああ、それは“ムニエル”と言いまして、魚の切り身に薄く小麦粉とバターをつけて焼いたものになります。パリッとした皮は、小麦粉とバターに熱が入ってできたものですね」

「ムニエル……後で作り方を教えていただいても良いですか? それと、できればこのソースも。どちらも是非国に持って帰りたいものです」

「承知しました。では、明日以降のどこかで都合を合わせることに致しましょう。

さて、まだアイスクリームが残っていますから、あまり満腹になりすぎないようにお願いしますよ?」

 

 そうそう、()()()()()()にアイスクリームがあるんだった。ムー国にもアイスクリームは存在しているが、こんな南方の国でアイスクリームが出てきたことはない。いったいどんなアイスが出てくるのだろうか。

 

 十分にメインディッシュを堪能した後、いよいよアイスクリームが食後の紅茶と共に出てきたのだが……驚いた。まさか、こんな南方の国で我が国のアイスクリームと“ほぼ同じ見た目の物”にお目にかかるとは!

 

「ほ、本格的ですね……!」

 

 リアス氏が絶句してしまっている。

 私たちの前に置かれたアイスクリームは、全員が一律に同じものだ。白みがかった黄色のアイス本体に、紫色のソースがかかっている。ヤマトさんの説明によれば、これは「バニラ」なる植物の果実の汁で味付けしたアイスクリームで、「ブルーベリー」という果物のソースをかけているのだそうだ。ブルーベリーはなんとなく想像できるが、バニラは聞いたことがない。これは実に楽しみだ、早速ご馳走になろう。

 

「!!?」

 

 一口掬って口に運んだ瞬間、私は絶句した。何だこれは!? ここまで美味しいアイスクリームは、ムー国でも食べたことが無い!

 食べるとまず、口の中にほんのりと甘い芳香が広がる。おそらくこれがバニラの香りなのだろう。そしてアイスクリーム本体は、風味から考えておそらく牛乳が主体だ。そこにバニラがマッチして、互いの風味をより引き立たせ、完璧なハーモニーを奏でているのだ。牛乳にここまで合う食材を、私は今まで体験したことが無い。

 そのアイスに紫色のソースを絡ませて食べると、甘さの中にちょっぴり酸味が混じる。酸味の元はブルーベリーだろう。「ベリー」という名が付いているのだし。そしてこの酸味が混じることで、このアイスクリームの味が完成される。音楽で例えるなら、「バニラアイス」という吹奏楽に「ブルーベリー」という弦楽器が合わさって、完璧な管弦楽となるのだ。

 さっきからのコース料理で大分満腹になっている筈なのに、アイスクリームだけは妙にお腹に入っていく。ムーでは「甘いものは別腹」とよく言われるが、本当にそうなのではないだろうか?

 

 男性陣も一口アイスを食べるや目を見開き、後は無言であっという間にアイスを食していく。やはり、甘いものは良いものだ。

 

「ふう……ヤマトさん、素晴らしいご馳走をありがとうございました。お蔭様で、5日間も飛行機に揺られた旅の疲れが一気に吹き飛んだような気がします」

 

 真っ先にアイスを完食したマイラス氏が、口元をナプキンで拭きながらヤマトさんに感想を述べている。

 

「お気に召したようで、何よりです。

それでは、明日フェンにいらっしゃる方は、今日はお早めにお休みになってくださいね。どなたがフェンにいらっしゃるのでしょうか?」

「ああ。私と、こちらのラッサンです」

 

 マイラス氏がヤマトさんの質問に答えている。

 

「承知しました。それでは、明日は3時20分頃に起こしに伺いますので、今日のうちにフェンに持っていく物を準備しておいてくださいね。必要ない物は部屋に置いて行っていただいて結構です」

「分かりました。って、うわ、もうこんな時間!?」

 

 腕に付けているムー製の腕時計を見て、マイラス氏が悲鳴を上げる。ちらっと見ると、時刻はもう夜の9時だ。早目に寝ておかないと、特にマイラス氏とラッサン氏は明日起きるのに苦労することになる。

 

「いかん。ラッサン、明日の支度だけしてすぐ寝るぞ!」

「あ、ああ!」

 

 あたふたと食堂を出て行く2人を見て、思わず微笑んでしまった……。それを見たヤマトさんは、妙な顔をしていた。

 

 フカフカのベッドで1人横になりながら、眠くなるまで考え事に(ふけ)る。

 まだ“到着して1日も経っていない”というのに、初めて見聞きするものが山ほどあった。どうやらロデニウス連合王国には、私の知らない()()()()()()がいくつも眠っているらしい。たった半年の間にどれだけ見つけられるかは分からないが、力の及ぶ限り調べてみることにしよう。

 どこから出かけようか。まずは、このタウイタウイ島を一通り探索してみるのも良いし、いきなりロデニウス大陸の西側まで行って、調べ物をするのも良いかもしれない……




書いていて、この報告書はあまりにも分量が多くなりすぎると判断致しましたので、数回に分けてお送りしたいと思います。従いまして、今回はちょうど切りも良いですし、ここで1頁目終了、とさせていただきます。

また近いうちに、続きをお送りすることになろうかと思います。
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