鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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はい、アイリーン嬢のロデニウス調査報告書の3ページ目です。この報告書も、そろそろ終わりが見えてきたような……

ちなみに、2020年秋の艦これイベント「護衛せよ!船団輸送作戦」は、最終海域の突破ができませんでした…。ナ級なんか大っ嫌いだ! バーカ!



079.13 間章その1 アイリーンのロデニウス文化調査報告書 3頁目

 以下の記載は、ムー国外務省の女性文化調査官アイリーン・グレンジャーが記した、ロデニウス連合王国渡航記録(という名の彼女の日誌)の一部抜粋である。

 

中央暦1640年4月1日

 私の調査活動圏は、ようやくロデニウス大陸の西の方まで来た。今はロウリア州……かつて「ロウリア王国」と名乗っていた国のうち、ロウリア王国本国だった一帯を調べて回っている。

 このロウリア州では、心なしか獣人やエルフ、ドワーフの数がクワ・トイネ州より少ないように思う。人々に尋ねてみたら、どうやら旧ロウリア王国では亜人……つまり獣人やエルフ、ドワーフを(はい)(せき)するばかりか、ロデニウス大陸からの亜人の廃絶を(こく)()としていたそうだ。なるほど、それならばこういった種族の数が少ないのも頷ける。

 ロデニウス大陸の歴史を調べると、どうやら旧ロウリア王国上層部が亜人の根絶を熱心に唱え、「亜人を駆逐し、ロデニウス大陸に人間の王道を(ひら)く」ことを考えていたそうだ。そして昨年、中央暦1639年のこの時期に、旧クワ・トイネ公国と旧クイラ王国に宣戦布告し、戦争を仕掛けたらしい。

 私にしてみれば、亜人を排斥する意味がさっぱり分からない。亜人は確かに人間とは見た目が異なるが、それぞれ素晴らしい特徴を持つ。例えばエルフ族は一般に魔力が高く、人間には扱えない・扱いづらい魔法も扱うことができるし、ドワーフ族は魔力こそ低いが膂力に優れ、また手先も器用で工業を担うにはぴったりだ。獣人族は種族によって特徴も様々で、鳥系の獣人なら夜間視力が劣る代わりに昼間の視力は素晴らしく高く、人間には見えない遠くのものでもすぐ見つけ出す。狼系・虎系の獣人はその狩猟本能を反映してか戦闘力が高く、猫系の獣人なら身のこなしがしなやかで、剣士をやらせれば華麗な体術で人間を圧倒する。また鼠系の獣人は、小柄な体躯と嗅覚を生かし、潜入偵察を得意とする。つまり、みんな違ってみんな良いのだ。我が国ムー国は、その異なる種族同士で助け合い、時には異種族間交配まで行って、この世界において1万2千年もの歴史を形作ってきたのである。

 その亜人を「人間とは違う」というだけの理由で排斥する、という考え方は、私には到底理解できなかった。

 

 ともかくも戦争は始まり、旧ロウリア王国はその圧倒的軍事力(当時のロデニウス大陸基準)を以て、まずは旧クワ・トイネ公国の都市ギムを陥落させた。その際には徹底的な略奪・強姦・虐殺など、やりたい放題の乱暴狼藉が働かれたという。未だ復興半ばのギムを調査した時、街の外に広大な墓地が作られているのを見た。そこには、当時ギムを守るために戦って死んだ旧クワ・トイネ公国の軍人たちの英霊と、ギムの虐殺事件を含め旧ロウリア王国との戦争初期に死んだ旧クワ・トイネ公国の一般国民たち、合わせて1万人以上の遺体を収集できる限り収集して葬り、御霊を慰めているのだという。ささやかながら私も花を添え、ムー国式の鎮魂の祈りを捧げた。

 しかし、旧クワ・トイネ公国はこの時点で既にニホンとの関わりを持っており、クワ・トイネとの外交関係に基づいてニホンの軍隊がこの戦争に参戦。その途端、旧ロウリア王国軍は陸に海に空に連戦連敗となり、本国への逆侵攻すら受けて、ついに敗戦に追い込まれてしまったそうだ。それはそうだろう、相手が悪すぎる。

 マイラス氏によれば、ニホン軍の戦闘力は凄まじく高く、戦艦1つとっても、ラ・カサミ級戦艦でも到底敵わないほどのものを持っているらしい。そんな怪物が相手では、当時の旧ロウリア王国軍はさぞかし絶望的な戦いを強いられたことだろう。

 戦争に敗れた旧ロウリア王国では、当時の国王がニホン軍に捕らえられ、王政は廃止されて共和制に移行したそうだ。また同時に、旧ロウリア王国の属領3ヶ国が一斉に独立し、ロデニウス大陸は一時混乱していたようだ。しかし、最終的には「ロデニウス連合王国」という1つの国にまとまり、今に至っているそうである。

 どうやらロデニウス大陸にあった各国は、互いの恩讐を乗り越え、手を取り合って生き残る途を選んだらしい。それは良いことだと思う。我がムー国にあっても、戦争は長い歴史の間に何度も起きており、周辺国から攻め込まれたことはもちろん、国内での内戦もあった。国家の歴史の流れは往々にして血に塗れたものとなることを、改めて感じた。

 

 戦争が終結してほぼ1年になる現在も、ロウリア州の各地では復興作業が続いている。ロウリア州の州都ジン・ハークでは破壊された城門を再利用して検問所が作られており、市街地でも戦争の被害を受けた建物が急ピッチで修理、または取り壊して再建設されている。ロウリア州の工業の要たるビーズルでも、西方の都市ギルマやピカイアでも、同じような光景が見られた。

 そんな復興半ばの状態でパーパルディア皇国と戦争になり、しかも殲滅戦まで宣言された訳であるが……ロデニウスの住民たちは以前の戦争で受けた被害を必死に立て直そうとしている。それは、まだ戦火がこの大陸まで及んでいないからこその光景であろう。街のあちこちに徴兵ポスターがべたくたと貼られ、行軍する兵士の姿が見られるなど若干ピリピリした雰囲気はあるが、それでも戦時下としては至って平和である。

 だが、ただ1ヶ所、ロデニウス大陸西端にある港湾都市ピカイアだけは、ピリピリした雰囲気が強かった。そして港には、多数の軍艦が集結している様子が遠目にもはっきり見えた。

 市内の酒場などで聞いた噂によれば、ロデニウス連合王国軍はパーパルディア皇国に対する反攻作戦を企図しているそうだ。この街で軍人らしい人間を多く見るのは、どうやら反攻作戦に参加する部隊の兵士がこの街に集まっているかららしい。

 

 ホテル「ラ・ロデニウス」に泊まっているマイラス氏に情報を伝えてみると、マイラス氏は少し考えた後でロデニウス軍の攻撃予想地点について私に話してくれた。曰く、おそらく彼らの攻撃目標はアルタラス島ではないか、とのことである。

 同氏の計算によると、ロデニウス大陸からフィルアデス大陸までの距離は直線距離にしておよそ1,100㎞。これは、補給無しで大規模な陸軍を送り込むには厳しい距離である。急速に発展を遂げたロデニウス連合王国とはいえ、その本質はまだ第三文明圏外国から抜け出せたとは言い切れない。そう考えれば、彼らはフィルアデス大陸・パーパルディア皇国本土へ攻め込むに当たって、まず前進拠点をどこかに確保しなければならない。そして前進拠点として適切なのは、アルタラス島だろう、とのことである。

 同氏は続けて、こう述べた。アルタラス島は比較的大きい島であり、水深の深い港もあるだろうから、多数の陸軍兵を上陸・駐屯させることもできるし、艦隊の泊地として利用することもできる。また、同島にはムー国が建設した空港があったはずだから、それを爆撃隊の前線飛行場として利用することも可能である。さらに、同島からロデニウス大陸までの距離はおよそ600㎞、同島からフィルアデス大陸までの距離はおよそ500㎞であり、この程度の距離ならロデニウス軍による渡洋侵攻も可能だろう。そう考えれば、彼らはまずアルタラス島を占領し、そこを拠点にしてフィルアデス大陸に攻め込む可能性が高い、というのである。

 また、アルタラス島の占領は政治的・外交的にも高い意義がある、とのことであった。そういえば、アルタラス島は元々アルタラス王国が支配していたが、その国は今年の1月にパーパルディア皇国に攻め滅ぼされている。そして、同国の王族では唯一の生存者であるルミエス氏が、ロデニウス国内で「アルタラス王国正統政府」の樹立を宣言していた。ロデニウス軍によるアルタラス島の占領は、いわばアルタラス王国の再独立にもなる。それによって再独立したアルタラス王国に恩を売り、今後の外交に役立てようという思惑もあるのかもしれない。

 ちなみにマイラス氏に、ロデニウス軍の勝率について尋ねると、「ロデニウス軍がパーパルディア軍に負ける可能性を挙げる方が難しい……つまり、ほぼ勝てるということです」とのことであった。曰く、「ロデニウス軍が圧勝する確率が99パーセル(これはパーセントに当たる単位である)、パーパルディア軍が全力を投入することによって、ロデニウス軍はパーパルディア軍に大損害を与えるも物資が尽きかけ、補給のため一時的に撤退する確率が1パーセル」とのことである。つまり、まず間違いなく勝てるのだ。心配することはないだろう。

 

 

中央暦1640年4月15日

 ロウリア州についての調査がほぼ終わり、いよいよロデニウス大陸の南側の調査に入る。地理的な位置関係から、まずエスメラ州、次にイザーク州を調査し、最後にクイラ州を調べることになるだろう。ロデニウス大陸を反時計回りに一周したことになるが……クイラ州は広いので、調査に時間がかかりそうだ。

 ピカイアのピリピリした雰囲気は一層強くなっている。近いうちに軍が出撃するだろう、と市街地ではもっぱらの噂だ。マイラス氏にそれを伝えると、「それじゃ、ちょっと見に行こうかな」とのことであった。

 

 

中央暦1640年4月18日

 どうやらマイラス氏の予想は正しかったようだ。朝早くに散歩を兼ねて港に来てみたが、既に港には群衆が詰めかけている。そして港に集った艦艇はその数をさらに増やしており、兵士たちも輸送船や軍艦に既に乗り込んでいるようであった。出撃は今日なのだろうか。

 私の隣では、マイラス氏とラッサン氏が興奮した口調で喋り続けている。

 

「でかい……! あれが彼らの戦艦か? 数は、1、2、3、4……7隻ってとこか。マイラス、あの戦艦の性能はどんなものなんだ?」

「はっきりした数値は分からんが、ラ・カサミ級でも勝てないような強大な戦艦であることは確かだ。調べたら、主砲口径は36㎝以上あるってさ」

「36!? それはすごいな……命中すればとんでもない威力になるぞ。砲の命中精度はどれくらいあるんだろう?」

「調べた限りじゃ、どうやら正確な命中を補助する機械式の計算機のようなものを搭載しているらしい。本当にとんでもない技術だぜ。

それ以上に怪物なのが空母だ」

「空母? そういえば、奴らの空母は戦艦と変わらない巨体を持つみたいだな」

「ああ。そしてそれだけでかいってことは、搭載できる艦載機の数も多くなるはずだ」

 

 技術関連の話題についていくことを早々に諦めた私は、港を埋め尽くすように停泊する船を眺めていた。

 私は基本的に技術には知識がなく、そのため港に集結した軍艦がどれほどの力を持つのかは、全くと言って良いほど分からない。だが、船の大きさと数から察するに、ロデニウスの軍艦は非常に高い戦闘力を持つに違いない、ということだけはなんとなく分かった。

 と、港の方から明るく、そしてどこか勇壮なラッパの音が響いてきた。岸壁に集まっていた群衆が拳を空に向かって突き上げ、あるいは手を振って声援を送る中、停泊している艦の艦尾が白く泡立つ。そして、200隻ほども集まっていた艦船は順番に動き出し、港を出ていってしまった。ロデニウス軍の反攻作戦が始まったのだろう。

 私には、彼らロデニウスの軍人のために具体的にできることはないに等しい。できることといえば、彼らが生きて帰って来られることを祈るばかりである。

 

 

中央暦1640年4月20日

 エスメラ州の農業文化を調べているところであるが、ここの農業には面白い特徴がある。

 クワ・トイネ州には「スイデン」という、コメを育てる専用の畑が存在していたが、それらのスイデンは川沿いなどの水源に近い平地に作られていた。ところが、このエスメラ州では、スイデンがなんと山の斜面に沿って階段のように作られているのだ。自然の湧き水を利用している、とのことであったが、これはなんとも面白い方法を考えたものだ。

 農民たちにインタビューしてみたところ、どうやら「タナダ」なる方法を教えられて実践しているようだ。そのタナダの発想がどこから湧いてきたのか聞いてみると、クワ・トイネ州の方から流通してきた1冊の本が原因だという。試しにその本を見せてもらったが、私は一目見てこれはニホンの本だと気付いた。明らかに紙の材質が羊皮紙などとはまるで異なるし、質が高い。しかも、タナダの図解まで載っていたが、なんとカラー印刷である。こんな高度なことができるのは、ニホンの本しか考えられない。そして裏表紙を確認すると、「タウイタウイ図書館」のスタンプが押してあった。やはりというべきか、ニホンの物であるようだ。

 エスメラ州は、人口の割に地形が山がちであるため、広大な農業用地の確保が難しい。そこで様々な工夫を試み、その中でタナダを見つけたのだという。なるほど、この方法なら、例え山の斜面であっても主食となる穀物を栽培できる。いい方法だと思う。これはムー国に是非とも持ち帰りたい。

 

 また、この日昼食のために立ち寄ったカフェで、私はロデニウス軍がアルタラス王国を解放したというニュースを知った。「世界のニュース」で発表されているところから見て、どうやら本当のことらしい。マイラス氏の予想は的中した、ということである。

 

 

中央暦1640年4月25日

 報告書の記載と編纂作業のため、久しぶりにホテル「ラ・ロデニウス」に戻ってきてみると、マイラス氏とリアス氏、ラッサン氏が何やら慌てている。聞いてみると、リアス氏が大変な可能性に気付いたのだという。

 リアス氏の話によれば、ロデニウス軍はパーパルディア皇国に対して無差別爆撃を行う可能性が高い、とのことである。彼は、ロデニウス空軍(うp主からの注意: リアスは勘違いしているが、実際には空軍ではなく海軍航空隊である。ロデニウス連合王国において空軍とは、竜騎士団を指す)が配備している爆撃機は、2,500〜3,000㎞に及ぶ航続距離を持つと説明した。この数字が本当なら、ロデニウス軍は今の時点でもパーパルディア皇国本土を空から攻撃する力を持っていることになるが……今のところそんな攻撃は行っていないらしい。その理由について、リアス氏がロデニウス軍関係者に尋ねたところ、こう言われたとのことだった。

 

『確かに直接攻撃もできなくはないのですが……今のところ、それは考えられていません。その理由は、第一に航続距離ギリギリであり、沿岸部くらいしか攻撃できないこと。第二に、フィルアデス大陸沿岸周辺の制海権を確保できる見込みがまだ立っておらず、仮にパーパルディア軍に爆撃機を撃墜された場合、搭乗員の回収が絶望的であること。第三に、爆撃機が敵地上空で損傷した場合、その機体を不時着させる飛行場をまだ確保できていないこと。以上の理由から、特に爆撃機搭乗員の生存を優先し、パーパルディア皇国本土への爆撃は行っていません』

 

 だが、それは「これまではそうだった」というだけだ。現に、今回ロデニウス軍が解放したアルタラス王国には、我が国ムーが空港を築いている。この空港を改修して空軍のための前線基地とすれば、不時着用どころか拠点とする飛行場を確保できてしまい、パーパルディア皇国への爆撃がやりやすくなる。現在ロデニウス空軍が配備している2発レシプロエンジンの爆撃機はおろか、配備中だとされる新型の大型爆撃機を配備できてもおかしくないそうだ。

 また、マイラス氏が語ったところではロデニウス軍の戦闘機は航続距離がおよそ2,000㎞に達するらしい。ということは、ロデニウス空軍の爆撃隊は、戦闘機の護衛を伴った状態でパーパルディア本土上空に侵入できることになる。ワイバーンロードは戦闘機に任せ、爆撃隊は自らの職務に専念できる、というのだ。

 さらに、今回の戦争においてパーパルディア皇国はロデニウス連合王国に対し、殲滅戦を宣言している。「おそらくパーパルディア側がロデニウス側を文明圏外国だと見くびって、ロデニウスについてろくに分析しないまま宣言してしまったのだろう」(ラッサン氏談)とのことであるが、これは裏を返せば、ロデニウス連合王国は自国民を守るために如何なる攻撃手段も取ることができる、ということになる。ならば、ロデニウス側がパーパルディア本土に対する無差別爆撃を実行しても、「自国民を守るための措置である」と言い張ることができてしまい、何もおかしいところはない。

 以上のことから、もしロデニウス軍が無差別爆撃を実行することになれば、パーパルディア国内にいるムー人たちの生命と財産が危うい。リアス氏はその可能性に気付いたのだ。それを伝えられ、ラッサン氏とマイラス氏も慌てていたのである。

 

 今はまだ可能性の段階であり、確たる情報がない。だが現実的に起こり得る事象だ。これは放置してはおけない。

 マイラス氏たちは引き続き情報を集め、分析を行うとのことであった。ならば私は、私にしかできないことをすることにしよう。今後の外交交渉やムー国の発展に寄与するべく、ロデニウス連合王国の文化に関する情報を集め、本国に報告するのだ。

 

 

中央暦1640年5月5日

 ロデニウス国内の全6州のうち、実に4州までの調査をほぼ完了した。後はイザーク州とクイラ州のみ……と言いたいところだが、うっかりしていた。州ごとの土着信仰の違いについて調べるのを忘れていたのだ。()(かつ)だった。

 クイラ州については、マイラス氏から少し話を聞いている。それによれば、この州はなんと原油が大地から湧き水のように湧いて出ているばかりか、多数の種類に上る鉱産資源をバンバン産出しており、ロデニウスの重工業の要となっている場所だそうだ。なんだその反則的な地理条件は……と突っ込みたい。

 また、この州はその領域の大半が砂に覆われた不毛の地で、雨もまともに降らないことから耕作には全く向かないそうだ。山脈1つ隔てたクワ・トイネ州は農業がバンバン行われているというのに、この違いはいったい何が原因なのだろうか。調べてみたいものである。

 ただ、こんな不毛の地でも、ニホンからの技術支援を受けて少しずつ耕作が始まっているらしい。どんな方法を使っているのか、興味深いものだ。

 

 それと、調査中に気付いたのだが、この国のスイーツはどれもレベルが高い。第三文明圏外とはとても思えないほどだ。特に「チョコレート」なる様々な形状の茶色い物体は非常に美味い。小分けにされているものもあれば、1枚の板のようになっているものもあり、いくつ食べても飽きが来ない味だ。聞けば、これもどうやらタウイタウイ島が根源のようである。

 それからクワ・トイネ州には、私がこれまでに見た各国のお菓子とは全く異なる、不思議な食感を持つお菓子があった。ワガシというものだそうで、これらもニホンから伝わった文化だそうだ。それらのお菓子は、しばしば「マッチャ」「リョクチャ」などと称する独特の風味の緑色の茶と共に出てくる。この茶は神聖ミリシアル帝国の紅茶などと比べると少々渋味が濃い。人の好みが分かれる味だろう。私はこの味は好みである。茶葉は日持ちするそうだから、是非とも土産としてムー国に持って帰りたいものだ。

 これほど美味い甘味を、ロデニウス大陸のあちこちで味わえるということは、その根源であろうタウイタウイ島にはよほど美味い甘味があるに違いない。あの島にある甘味の店には、帰国する前に何としても寄っておきたいものである。

 

 

中央暦1640年5月8日

 マイラス氏がついに決定的な情報を掴んだそうだ。対パーパルディア戦略を請け負うロデニウス軍の参謀長クラスの幹部から、「パーパルディア本土に無差別爆撃を行うので、パーパルディア国内にいるムー人を国外に脱出させるよう、ムー外務省に取り計らって欲しい」という確かな言質を取ったらしい。

 また、ロデニウス軍が大きく動くという情報を得たついでに、リアス氏とラッサン氏が観戦武官として招かれたようで、2人は大急ぎでアルタラスへ向かう準備をしていた。マイラス氏も招かれたそうだが、彼は調べなければならない事項があまりにも多く、今回は辞退せざるを得なかったようだ。そういえば、このところマイラス氏の顔色が悪いような気がする。睡眠不足だろうか。

 対する私はといえば……まずい。何がまずいのか、って? ホテルの浴場へ行ったついでに、そこにあった体重計に怖いもの見たさで乗った結果、現実を突き付けられたのだ…! これだけ言えば、察しがつくだろう。

 幸い、ホテルを含めロデニウス大陸のあちこちにはトレーニングジムがあるし、散策に向いた野山も多い。そういったスポットを積極的に利用すると共に、しばらくは移動手段を自転車もしくは徒歩にするべきだろう……。

 え? 徒歩だけにとほほ、って? やかましいわ!!!

 

 

中央暦1640年5月20日

 今日放送された「世界のニュース」に、ロデニウス連合王国軍の総司令官が登場し、「パーパルディア皇国との戦争の()(すう)を決定付ける、最終作戦を開始する決意を固めた」と発言していた。5月28日を期して、いよいよロデニウス軍が、パーパルディア皇国本土への攻撃を開始するらしい。殲滅戦まで宣言されているのだ、さぞやフィルアデス大陸南部は、凄まじいばかりの戦火に覆われ、地獄のような光景が出現するだろう。

 その戦火が、ついでに私のお腹周りの脂肪を10㎏ばかり焼いてくれれば良いのだが……とため息を()かずにはいられない。だが、何としてもタウイタウイの甘味の店だけは行っておきたいものだ。

 

 

中央暦1640年5月28日

 ちょうどタウイタウイ島の図書館に調べ物をしに行く、というマイラス氏に同行する形で、私は久しぶりにタウイタウイ島の土を踏んだ。スイーツも楽しみだが、まずはマイラス氏に付き合ってニホンの図書館の本を調べてみようと思う。

 タウイタウイ島の図書室は、艦隊司令部が入っているらしい建物の1階にある大きめの一室だ。入ってみると壁一面に書棚が並び、どれにもぎっしりと本が詰まっている。窓のある一面にも背の低い棚が並んでおり、そこも本で一杯だった。とても1日やそこらで読み切れる量ではない。

 そのジャンルもまた多種多様で、歴史ものから小説類、数学、科学、文学、農業、漁業、工業、医学書など、数えるのも一苦労するレベルだ。私の知らないことがここには大量にある、と思える。聞けばここに加えて地下に書庫まであるそうだから、蔵書の数は膨大なものになるだろう。

 ()(きん)関係の本を食い入るように見つめ、持参したノートに何やらびっしりと書き込んでいるマイラス氏の隣で、私は地図帳とニホンの歴史の本を持ってきて眺めている。地図帳は、ムー国が元々あった世界……つまり転移前の世界のものだ。しかも「世界地図の変遷」と称した章を見ると、ムー国が元々あった世界「チキュウ」の国々の興亡の様子も分かった。ムー国が転移したこの世界も、国の内外での戦争が多かったが、チキュウもまた同じように、大量の血が流されたのであろうことが容易に想像できた。

 それ以上に興味深いのがニホンの歴史である。1万年ほど前の内容辺りから始まり、「()」と名乗るようになり、王ではなくテンノウが統治するようになり、華やかな貴族の時代(ムー国にもこんな時代はあったようだ)が過ぎ去り、ブシと呼ばれる存在がテンノウに代わって統治する時代が数百年も続く。その間には言葉にするのも憚られるような大きな戦乱が、何度も発生していた。そして統治権がテンノウに戻って文明開化を経験し、急速に国力を増強して国号も「ニホン」に統一された。ただし、「大ニホン帝国」だったようだが。その後は二度に渡る、世界中の国家を巻き込んだ大戦争。特に二度目の大戦争では、ニホンは自国の30倍以上の国力を持つ「アメリカ」なる国と戦い、最終的に国土全域が灰になるような被害を出して負けた。そのどん底状態からなんと復活を果たし、世界有数の経済大国にまでのし上がった。世界平和に貢献していたものの、突如として出現した生物なのか兵器なのかもよく分からない存在との戦争に突入し、それが100年以上も続いている……とされていた。どうやらその戦争の最中に転移したらしい。

 そして、その生物か兵器か分からぬ「深海棲艦」なる存在と戦う少女たちの姿に、私の目は止まった。

 

「マイラスさん、これって……!」

 

 その本にあった1枚の写真。そこには何人かの少女や女性が写っていたのだが、そのうちの1人には見覚えがあったのだ。鋼色の巨大な鎧のようなものを装着し、大砲らしいものを背負っているが、白い服に赤いミニスカを履き、左右で長さの異なる黒い靴下と焦茶色の長髪が目立つその人は明らかに……!

 

「気付きましたか。そうです、ヤマトさんです」

 

 マイラス氏も手を止め、写真を覗き込んで断言した。

 いったいこれはどういうことだ? もしやヤマトさんは人間のようで、人間ではない存在なのか!?

 混乱している私に、マイラス氏はゆっくりと語った。

 

「実は、このタウイタウイ島に集う海上戦力は、只者ではないのです。ここに集っているのは『艦娘』と呼ばれる、軍艦に変身できる少女というべき存在です。我が国ムーどころか、おそらく神聖ミリシアル帝国も、こんなものは持っていないでしょう」

 

 この島にはやたら女性が多いなと思っていたのだが、どうやらその女性たちの全員が「艦娘」なる存在であるようだ。それも種類が多く、戦艦、巡洋艦、航空母艦、駆逐艦などと多数に上るらしい。

 もしかして、と思った私は、本のページをめくってみて……見つけてしまった。

 

(やっぱり、彼女たちも……)

 

 この国に来た初日に、浴場で出会った4人の少女たちが写った写真、そのキャプションにこう書かれているのを見つけたのだ。

 

()(つき)型駆逐艦娘の一部。左から順に”睦月”、”如月(きさらぎ)”、”弥生(やよい)”、”(もち)(づき)”』

 

 これは、私にとって大きな衝撃であった。

 

 そんな衝撃の事実が発覚した後、私は歴史書と地図帳を棚に戻して甘味の作り方などを書いた本を見ていた。甘味類の作り方も、ムー国に持ち帰りたかったのだ。これまでに食べた甘味を見つけ出しては、その作り方を調べ、材料と共に手帳に書き込む。チョコレートの作り方がまだ分からないので、調べたいが……時間があっという間に過ぎ去り、私たちが気付いた時には時計の針は3時45分を指し、太陽はやや傾いていた。

 

「もうこんな時間……そろそろ休憩して、甘いものでも食べに行きますか?」

 

 マイラス氏の言葉で私も我に返った。そうそう、ここには甘いものを食べに来たのだ。……体重が増える? 今はそんなことはどうでもよろしい。

 マイラス氏に連れて行かれた先にあったのは、なんとも情緒漂う独特の雰囲気を持つ建物だった。赤い布をかけられたベンチが店の前に置かれ、変わった形状の赤い傘が日陰を作っている。店先にはあのノレンなる飾りがかかっていた。

 マイラス氏によれば、ここは「マミヤ&イラコ」なる甘味の店で、この店をやっているのもまた艦娘たちであるそうだ。どうやら「給糧艦」という、軍艦に乗る兵士のために食糧を供給する補給艦の一種らしい。店に入って席についたマイラス氏は「特盛りアンミツを2つ」とあっさり注文していた。どうやら何度もこの店を利用しているらしい。後で聞いたら、難しい調べ物や考え事をしなければならず、頭が疲れてしまうことが多いのだそうだ。その際に、疲労した頭を癒やしにこの店の甘味を食べるのだそうだ。

 戦争中であるにも関わらず、店内の女性客は結構な数に上っている。この全員が艦娘なのか、と思うと、改めて彼女たちの見た目に驚かされる。何せパッと見た限りは、普通のヒト族の女性にしか見えないのだから。だが、彼女たちの身体には私の想像もつかない凄まじい力が秘められている。それもまた、事実なのだろう。

 

「うわぁ……!」

 

 一時して出てきた、この店の名物だという「特盛りアンミツ」を見て、私は思わず歓声を上げてしまった。無理もない、出されたのは私の想像を超えた代物だったのだ。

 まずそもそも、スイーツとしては量がやたらと多い。まるで山か何かのように、こんもりと盛り上がっているのだ。実に食べ応えがありそうだ。

 次に、美しい。全体的な造形のバランスが取れており、そして具の色のコントラストも非常に見栄えがある。写真に収めて観光業の会社にでも売り込めば、間違いなく雑誌に採用されることとなるだろう。

 ざっと確認したところ、器の下の方にはフルーツが多めに入っているようだ。目にも鮮やかな黄緑色のフルーツや、三日月形のオレンジ色のフルーツが見える。その他に、白色や桃色のアイスクリームも見える。後は……アンミツの下部には見たことのない物が幾つも見られた。無色透明の四角い物体や、確か「アンコ」と称する幾つもの粒が寄り集まっているらしい紫色の物体、そして黄土色の円柱形の物体。それらの上には天に向かって突き立つように円形に並んだ黄白色の細長い物体、そしてその上に山の頂にかかった雪のように大量のクリームが乗っている。そしてクリームの上には見たことのない、桃色の四角い物体が3つ乗っていた。予想を超える凄まじいボリュームだ、食べ切れるだろうか。

 アンミツの隣には、例によってリョクチャが置かれている。ということは、これもワガシの一種なのだろう。

 

 アンミツの見た目とボリュームに感動しているうちに、マイラス氏は早くも匙を手に、この巨大な甘い山を制覇しにかかっている。そういえばアイスクリームが下の方にあるんだった。この暑さだ、早く食べなければ溶けてしまうだろう。負けじと私も、木製の匙を手に取った。

 山のてっぺんに盛られたクリームを掬い、まずは一口。……ああ……幸せだ。これは美味い。口当たりが非常にまろやかで、これぞクリームだと言い切れる物である。甘さも強すぎず弱すぎずのちょうど良い匙加減で、そこもポイントが高い。桃色の四角い物体は……歯応えから考える限りゼリーに似ている。ほんのりと甘い香りと味がする、おそらく何かの果汁を染み込ませているのだろう。

 それらの甘さに、リョクチャの渋さはよく合う。甘さを渋さでリセットし、そこにまた甘いクリームを流し込む。ある程度甘さを味わったところで渋みのあるリョクチャを一口。うーん、これがたまらない。

 

 そうだ、蛇足ながら、ムー国にもゼリーはある。果汁入りのものもあるし、敢えて何も入れずに食感を楽しむだけのものもある。ただしウナギ入りゼリー、貴様だけは絶対に認めない。あんな悪臭まみれで調味料必須の代物がゼリーであって堪るか。

 

 クリームの山はあっという間に消え去っていき、()り返った白いフルーツのようなものがその姿を現す。食べると、舌だけでも押し潰せるような柔らかい果肉の中から甘い汁がどっと出てくる。マミヤさんに聞くと、これは「モモ」というフルーツだそうだ。何だかヒノマワリ王国で同じようなものを食べた気がする。

 続いて、白や桃色といった薄い色合いの具が多い中に一際存在感を放つ、黄緑色の具を匙で掬う。観察すると、中心には白っぽい部分があり、それをぐるりと囲むようにして黒い粒が円状に配置されている。この黄緑色の物体そのものがフルーツだとすれば、黒い粒は差し詰め種だろう。食べてみると、こちらは思ったより酸っぱい。甘いことは甘いが、その中に鋭い酸味が隠れている。これまで甘いものばかりだっただけに、この酸味は新鮮だ。この意外性は良い。イラコさんによれば、これは「キウイフルーツ」なる代物だそうで、比較的温暖な地で育つ植物の果実だそうだ。温暖な地ということは、我が国で言うなら南部の方でなら育てられるかもしれない。できるなら、種か苗木の輸入もしてみたい。我が国の新しい名物になるかもしれないし。

 あと、さっきから見かける桃色や無色透明の四角いぷるぷるした物体は「カンテン」と言って、ある種の草から粘性のある物質を煮込んで取り出し、凍結・乾燥させたものらしい。我が国のゼリーのお仲間だろうか。

 

 あと、黄土色の円形の物体は、その表面に「間宮」と書かれていた。これでマミヤと読むのだろう。聞けば、これは「モナカ」というワガシの一種だそうだ。中にアンコが詰まっていて、まるで甘味の宝石箱のようだったのを覚えている。

 そして30分ほどで、私はこの山盛りのアンミツを完食してしまった。

 

 先にアンミツを完食していたマイラス氏の話では、ここではアンミツやモナカ以外にも多くのワガシが供されているそうだ。例えば、

 

「また留守番だなんて……不幸だわ……」

 

 そう言って、妹らしい女性に慰められている女性の前には、紫黒色の汁物が置かれていた。微かに湯気が立っているところから見て、どうやら温かいスイーツのようだ。聞けば、アンコをメインに使用した「シルコ」とか「ゼンザイ」という物らしい。ただ、どんな違いがあるのかは知らない、とマイラス氏は語った。これは是非私の舌で調べてみたい……が、それをやると身体的に洒落にならないダメージを負うことになりそうだ……。

 また、マイラス氏が愛用しているワガシの1つに「ヨウカン」という物があるそうだ。なんでも、アンコを硬く練って四角に整形した甘味らしい。アンミツなどと違って持ち運びが容易で、しかも非常に甘く糖分が多いらしいので、マイラス氏はこれを特に夜間の間食の友としているそうだ。常温でも比較的日持ちするそうなので、お土産には良いかもしれない。ただ、マイラス氏曰く「艦娘たちにも人気の一品のようで、見つけたら速攻で買わないとあっという間に売り切れてしまう」とのことだ。どうにかしてヨウカンを確保する機会を得られないものか。

 

 タウイタウイ島の甘味が美味であり、そしてなんで軍がスイーツの発祥に関係するのか、という疑問をようやく解決できた。艦娘たちも根は人間であり、疲労すれば甘いものを欲する、ということなのだ。艦娘とはいったい、どんな存在なのだろうか?

 それと、甘味を味わっている間も、タウイタウイ島には戦時特有のピリピリした雰囲気が漂っているのを感じ取れた。ロデニウス側がパーパルディア側に通告した攻撃の日が今日であることが、その主な原因であろう。

 攻撃についてのロデニウス政府からの公式発表はまだないが、それでも私は結果についてはあまり気にしていない。おそらく勝てるだろう、という確信があるからである。

 

 

中央暦1640年6月2日

 数日遅れでロデニウス政府から公式発表があった。といっても、アルタラス王国のルミエス女王の口を通してだが。その内容についてはまあ、想像通りというところだった。ロデニウス軍はエストシラント沖にて、パーパルディア軍を打ち破ったらしい。それも、どうやら皇都防衛隊を壊滅させたようだ。

 私もパーパルディア皇国に行ったことがあるが、あの国はマスケット銃の配備が限界であり、従って陸軍歩兵は密集して戦うことが多い。また、回転砲塔なんてものはなく、蒸気機関や魔導機関の技術も未熟であり、海軍戦力は数こそ多いものの戦列艦が限界、航空戦力もワイバーンロードが主力であった。しかし、こんな軍備ではロデニウス軍に勝てないのは間違いない。何せこの国は、我が国の最新鋭戦艦ですら遠く及ばないような海軍力を保有しているからである。ならば陸軍や空軍の戦力も、それに見合ったものになるだろう。

 

 ちなみに私は、あのマミヤ&イラコの店でこのニュースを聞いた。ついつい誘惑に負けて、シルコを自分の舌で調べてしまったのである。それもこれも、魅力的な甘味をこれでもかと繰り出すこの店が悪い。

 

 

中央暦1640年6月14日

 クイラ州の文化調査を始めて1週間以上が経つが……暑い。とにかく暑い。しかもどこへ行っても水気がまるで感じられず、カラカラだ。この州だけ環境がまるで異なる。これはどうやら、クワ・トイネ州とクイラ州の境界にある山脈に風がぶつかって、そこに含まれていた水分を雨としてクワ・トイネ州側に落としてしまい、その結果クイラ州側にはカラカラになった風しか吹いてこないかららしい。

 このクイラ州は、その大半が熱砂に覆われた不毛の地だ。行けども行けども砂しか見えない、なんてことはザラにある。最近は鉄道が走るようになり、道路網も整備されているようだが、それでもまだまだ未開の状態が多いように思う。うっかり道に迷えば、広大な砂の荒地の中で干からびるのみだろう。

 都市は少しずつ発展しており、オタハイトに見られるような高層建築もちらほら出現している。特に港のあるシャプールは、クワ・タウイやマイハークと大差ない光景が見られるようになっていた。他の都市も少しずつ発展しているようだが、それはまだ州全体には行き渡っていない、というところだろう。

 食べ物は基本的に貧しく、土地特有の食べ物といってもオアシスに生えるヤシの実とある種のイモの料理くらいだ。あと、民族衣装は熱や砂を通さないよう、全身を覆うような形状のものになっており、白い布がよく使われている。この布はおそらくクワ・トイネ州との交易で手に入れた物だろう。建物は、特に村の方では(れん)()作りが多いようだ。といっても日干し煉瓦だが。

 あまりにも暑い上に、どっちを向いても砂ばかりで道が悪いため、1日の調査だけでも非常に疲れる。水筒を持っていかなければならないため荷物が重くなってしまうのも、悩みの種だ。ここの環境は、暮らすにはかなり酷である。ただ1つのメリットといえば、あまりに過酷な環境であるせいで体脂肪がエネルギーとしてどんどん消費されることだ。この州の調査を始めてから、私は少なくとも1㎏は痩せている。痩せるためだけにこの砂の地を踏む、というのも気が遠くなるような話であるが……背に腹はかえられぬ。

 

 戦況については、ロデニウス政府からの発表によると、6月初旬にパーパルディア皇国本土に上陸して以来快進撃を続けていたロデニウス陸軍は、昨日6月13日、パールネウスを占領したそうだ。エストシラント、デュロをはじめ、国内の主要都市を次々と失陥していたパーパルディア皇国だが、これはおそらく止めを刺されたと見て良いだろう。どうやら戦争は、もう終わるようだ。

 

 

中央暦1640年6月18日

 調査は、クイラ州のエージェイ山脈側に移ってきた。ここでは、水を染み込ませた綿や水を通す細いホースを駆使して、砂の荒地で植物を育てる実験が行われている。聞けば、これもニホンの農業技術が為せる技だとか。こんな酷暑、しかも水一滴見当たらない砂の大地で植物を育てるとは、全くニホンの技術はどれほどすごいのだろうか。

 

 今日、ロデニウス政府からの発表で、パーパルディア皇国側から降伏が具申され、講和会議のための予備交渉が始まったことを知らされた。戦争は終わった、ということだろう。

 パーパルディア皇国がどうなるかは、まだ分からない。だが、殲滅戦まで宣言していたことから考えると、もしかすると「パーパルディア皇国」という国自体がなくなってしまうかもしれない。

 列強国が文明圏外国に負けた、ということで、おそらく神聖ミリシアル帝国の外務省辺りはかなりの騒ぎになるだろうが……私の預かり知らぬことである。私はただ、ムー国外務省の文化調査官として、己の職務を尽くすだけだ。




【悲報】ムー国、○国面に堕ちている説が濃厚に
まさかのムーにもウナギのゼリーがあるという。ウナギゼリーといえば、地球にも「うなぎのゼリー寄せ」って食べ物がありますね。どこの食べ物かは……お察しください。

そして読者の方が危惧されていた通り、彼女の体重が……(察し)

これで、残りの記載は中央暦1640年の7月、そして8月の分のみとなりました。彼女は8月15日にムー国への帰国の途に就いていますから、残す報告書は1ページ、ということになります。
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