鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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前回のあとがき更新を見ていらっしゃらない方もいるかもしれませんので、改めて通知させていただきます。
若干唐突の感は否めませんが、前話をもちまして第四章「異世界に激震走る」は完結。今話より第五章「愚帝戦役」に入ります!

COVID-19(新型コロナウイルスによる肺炎)のせいで外出もまともにできないので、暇をもて余した結果、1日で書いてしまいました。まあ、原作からの変更点がほとんどなかった、というせいもあるのですが。なので、投稿いたします。
それと、前話のベルテクスと副長の会話の部分について指摘が多かったので、会話内容を一部修正しました。

第五章の出出(でだ)しはマグドラ沖海戦から。神聖ミリシアル帝国とグラ・バルカス帝国の初の武力衝突です。
でもまさか、章始まっていきなりドンパチパートになるとは思わなかった…



第五章 愚帝戦役
110. マグドラ沖海戦(1)


 中央暦1643年4月23日、神聖ミリシアル帝国西部カルアリス地方 マグドラ群島。

 マグドラ群島は、神聖ミリシアル帝国領の中でも「辺境」と言い切っていい地である。神聖ミリシアル帝国本土から遠いことに加え、海流の乱れや霧が発生しやすく、過ごしにくいのだ。そのため、このマグドラ群島には地元民でも寄り付かず、無人島ばかりが集まっている。

 群島というだけあって大小様々な大きさの島が存在し、また霧も発生するため、視界は比較的悪い。その群島の海面を疾走する、何隻もの艦艇の姿があった。いずれも喫水線付近が非常にスリムになっており、また艦体のデザインは、現代地球の護衛艦を知る我々から見ても「SFチック」「未来的」という感想を抱くこと間違い無しの、先進的なフォルムであった。艦橋などは、護衛艦のマストよりもすらっとしている。そしてどの艦艇も、神聖ミリシアル帝国の国旗を掲げていた。

 

 この艦隊こそ、神聖ミリシアル帝国海軍の誇る世界最強の艦隊、「第零式魔導艦隊」である。艦艇総数16隻という数は、人によっては多いようにも少ないようにも見えるかもしれない。だが()()()()()()()()()()()()()()()()、この第零式魔導艦隊は“世界最強”であり、『向かうところ敵無し』とまで考えられていた。

 その陣容は、以下の通りである。

 

・ミスリル級魔導戦艦2隻「コールブランド」・「クラレント」

・ゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」

・プラチナム級重装甲魔導巡洋艦「ロンゴミアンド」他1隻

・ブロンズ級魔導巡洋艦(地球でいう軽巡洋艦相当)3隻

・小型艦(地球でいう駆逐艦相当)8隻

 

 これらの艦の見た目と性能を地球の軍艦で例えるならば、ミスリル級魔導戦艦は主砲が三連装砲であることや副砲が1基しか無いこと等を除けば、フランスの「リシュリュー級」に近いだろうか。ゴールド級魔導戦艦は38.1㎝連装魔導砲を3基装備しており、イギリスの「レナウン級巡洋戦艦」と「クイーン・エリザベス級戦艦」の性能を足して2で割ったくらいと考えていただければよろしいと思う。ロンゴミアンド級はだいたい「ポートランド級重巡洋艦」(アメリカ合衆国海軍)、ブロンズ級は「エマヌエレ・フィリベルト・デュカ・ダオスタ級」(イタリア海軍)、小型艦は「Z1級」(ドイツ海軍)辺りで例えると妥当だろうか。

 なお、何故わざわざブロンズ級魔導巡洋艦と小型艦の後ろに注釈を付けたかというと、神聖ミリシアル帝国の軍艦は“戦術思想の遅れ”から、魚雷や対潜兵器を()()()()()()()()()からである。これまでに神聖ミリシアル帝国が発掘・解析した「古の魔法帝国」の遺跡・遺物には、魚雷に当たる兵器が無かったのだ。そのため、神聖ミリシアル帝国海軍は魚雷を開発することが無く、その魚雷を主兵装とする「潜水艦」も無く、必然的に対潜兵器が開発されることなど無かったのである。そして、神聖ミリシアル帝国ですら発見・解析できていない代物を、ムー国以下の国家が解析できる筈も無かったのだった。

 

 艦隊は二つの集団に分かれ、模擬戦による実戦さながらの艦隊砲撃戦訓練を行っているところだった。練度の維持向上に余念が無い。

 

「ん?」

 

 その訓練の最中、最初に異変を捉えたのは、第零式魔導艦隊旗艦にして神聖ミリシアル帝国海軍の最新鋭戦艦、ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」の魔力探知レーダーだった。

 そのレーダーを操作していたオペレーターが、“多数の人間が集まったような光点”が多数、高速で第零式魔導艦隊に近付いてくるのを発見したのである。

 

「こ……これは……!」

 

 オペレーターは即座に、これが敵襲ではないかと考えた。

 神聖ミリシアル帝国海軍は、ムー統括海軍を仮想敵としている。そのムー海軍は“機械動力艦”を中心戦力にしているため、()()()を魔力探知レーダーで捉えることができない。そこでミリシアル海軍は、「船」から発せられる魔力を捉えるのではなく、船に乗っている「人」の持つ魔力を探知する、という方法を取っている。

 今オペレーターが見ているレーダーは、対ムー海軍戦を想定した訓練の時と同じ動きを示していた。そのため、オペレーターは“機械動力艦による攻撃の可能性あり”と判断し、大声で報告する。

 

「魔力探知レーダーに感あり! 機械動力艦と思われる反応多数、高速で本艦隊に接近中! 12時の方向、距離60㎞、推定速度27ノット!

反応の大きさから、不明艦隊は戦艦級2隻、重装甲巡洋艦級3隻、魔導巡洋艦級2隻、小型船級5隻の計12隻と推定されます。あ、不明艦隊は速度を上げました、現在推定速度29ノット!」

「何だと?」

 

 第零式魔導艦隊司令のクロノ・バッティスタ少将は、オペレーターの報告を聞いて眉間にシワを寄せた。そして叫ぶ。

 

「29ノットだと!? 我が国の主力艦で出せるかどうか、という速度ではないか。ムーの艦にはそんな速度は出せん……となると、相手はグラ・バルカス帝国か?

全艦、戦闘配備! 全艦、戦闘配備! 北方より、不明艦隊が高速で接近中!

これは訓練ではない! 繰り返す、これは訓練ではない!

 

 第零式魔導艦隊の全艦は、突如現れた謎の艦隊に対し、急ぎ戦闘準備に入った。

 各艦の艦内にはアラームが鳴り響き、乗組員が一斉に持ち場へと走る。

 

「不明艦隊、速度30.5ノットまで上昇」

「上空に魔力反応無し!」

「群島の基地に展開している空軍に救援を要請しました。局地戦力しか持っていませんので、友軍の機体は『ジグラント2』25機のみが展開可能です。現在離陸中とのこと、我が艦隊の上空に到着するまであと10分」

 

 多数の報告が「コールブランド」の艦橋に上げられる。

 それらの報告を聞き、バッティスタは「コールブランド」の艦長コーミ・クロムウェル大佐に問いかけた。

 

「この不明艦隊をどう見る?」

 

 この質問は、「全て説明せよ」という意味が籠ったものであった。もちろん、それに気付かないクロムウェルでは無い。

 

「は。この正体不明の艦隊は、おそらくグラ・バルカス帝国の艦隊であると思われます。

戦艦級を2隻含んでいるにも関わらず、速度30.5ノットと高速なのには驚きました。はっきり申し上げて、ムー以上の艦隊です。

我が方には主力戦艦級であるゴールド級が1隻、そして最新鋭艦であるミスリル級が2隻おりますので、“ムーと同じような機械動力艦”が相手であれば、負けることは無いでしょう。問題は、不明艦隊の仲間が“機械動力型の天の浮舟”を持っていた場合ですね。人間1人当たりの魔力量は高が知れていますから、相手が『1人乗りの制空戦闘型天の浮舟』のような機体を持っていた場合、我が方のレーダーでそれを探知するのは困難です。敵の天の浮舟によって、我が方の情報が敵に伝わりやすくなってしまうのが痛いところです」

「うむ」

 

 クロムウェルの説明に、バッティスタは短く返事をし、頷いた。

 水平線の方を見ると、既に不明艦隊と思しき船が小さくだが見える。それらの船は、いずれも黒煙を上げていた。

 

「黒い煙を吐くとは、優雅さの欠片も無いな。哀れなものだ。

()()()()()()()()()が、列強()()の国を倒したからといって調子に乗り、“他国”に対して強気に出るならともかく、この神聖ミリシアル帝国が誇る第零式魔導艦隊に“喧嘩を売る”とは……。貴様らでは、我が艦隊には勝てん。全艦撃沈して、魚の住処にしてやる!」

「ええ。黒い煙を吐く船なんて、文明圏外の蛮族に相応しいといえば相応しいですな。そして()()()()()も、文明圏外の蛮族に相応しくなければ」

 

 バッティスタは、鋭い眼光を持って水平線を睨み付けた。そしてその隣では、クロムウェルが相手を思い切りバカにしており、“文明圏外国に対する蔑視の感情”を露わにしていた。

 

 

 同時刻、グラ・バルカス帝国東征艦隊12隻は、神聖ミリシアル帝国艦隊に一撃を与えるべく、30.5ノットの速度で南下していた。艦隊の先頭にいる艦は、既に敵艦隊を目視で捉えている。

 その陣容は、オリオン級戦艦2隻、タウルス級重巡洋艦3隻、キャニス・メジャー級軽巡洋艦2隻、キャニス・ミナー級駆逐艦3隻、エクレウス級駆逐艦2隻の計12隻、というものである。が、“見た目”はどの船も旧日本海軍の艦艇そっくりなので、国旗を見間違えれば立派な『大日本帝国海軍艦隊』となる。

 因みに、オリオン級戦艦は日本海軍の(こん)(ごう)型戦艦に酷似しており、タウルス級重巡洋艦は(たか)()型重巡洋艦に、キャニス・メジャー級軽巡洋艦は(なが)()型軽巡洋艦に、キャニス・ミナー級駆逐艦は吹雪(ふぶき)型(特Ⅰ型)駆逐艦に、そしてエクレウス級駆逐艦は(かげ)(ろう)型駆逐艦に酷似している。

 12隻は煙突から黒煙を靡かせ、波を切り裂いて突き進む。その方向には、敵艦隊がいる。

 

 この艦隊の旗艦、オリオン級戦艦「ベテルギウス」に乗艦している、東征艦隊司令官クライス・アルカイド少将は、同艦の艦長エルンスト・バーダン大佐に問いかける。

 

「敵艦隊の方が、我々よりも数が多いようだな。勝てるか?」

「はっ。今回の敵は、“世界最強”を自負しております。“本艦隊の()()()()の相手”として、不足はありません。

()()()()()()()()()で敵を撃滅できるのであれば、この世界に我が国の敵はいないと言えるでしょう。ですが、何分初めて対峙する相手でありますので、敵がどれほどの強さなのかについては何とも言えない、というのが私の意見です」

 

 バーダンは相手を侮ることなく、冷静に自分の意見を述べる。

 

「うむ、そうだな。

だが、我が国最強の戦艦『グレードアトラスター』は、たったの1隻で敵国、それも()()()と呼ばれた国を滅ぼしているぞ。今回も、そうなるかもしれんな。

まあ、油断はしないに越したことは無い」

 

 アルカイドがそう言った時、

 

「報告!」

 

 レーダーを操作していた士官が叫んだ。

 

「対空レーダーに感あり。群島から、航空機がこちらに向けて飛来しています。機数25、艦隊上空に到達するまであと17分!」

「分かった。全艦、対空戦闘用意! もうすぐ敵艦隊との交戦だ、駆逐艦隊は増速し、艦隊の前へ! 水雷戦闘の準備もしておけ!」

 

 こうして、神聖ミリシアル帝国海軍とグラ・バルカス帝国海軍の、初の交戦が始まろうとしていた。

 

 

 神聖ミリシアル帝国のマグドラ群島基地に所属する飛行隊の隊長オメガは、多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」に搭乗し、僚機24機を率いて飛行していた。目標はただ1つ、グラ・バルカス帝国艦隊と思われる不明艦隊の迎撃である。

 

 オメガは、緊張していた。何しろ初めてと言ってもいい実戦なのだ。

 神聖ミリシアル帝国海軍では、“大艦巨砲主義”が戦術の中心となっており、航空機では停泊中の船はともかく、“()()()()()()戦艦を撃沈することはできない”とされていた。まるで、往時の日本海軍のように。

 この世界においては、“魔導戦艦が航空機の攻撃で沈められた例”は一つとして無い(但し、対空兵装が貧弱で耐久力も無い戦列艦は沈められたことがある)。なので、神聖ミリシアル帝国海軍では、航空機は“戦艦の攻撃をサポートする役割のみ”を担うとされていた。

 そして実際、オメガもそのように考え、敵と思われる艦隊の船体に爆弾による一撃を当てることに集中していた。

 

 ちなみに、ミリシアル海軍でこんな考えが蔓延(はびこ)っているのは、以前にも申し上げたが、ミリシアル海軍には、いや、この世界のどの国(但しグラ・バルカス帝国とロデニウス連合王国を除く)の海軍にも()()()()()からである。

 

 彼の乗る「ジグラント2」は、急降下爆撃をこなすことのできる多目的戦闘爆撃機(マルチロールファイター)である。

 自国と同程度の敵が存在しなかった神聖ミリシアル帝国にとっては、この機体でも必要十分な性能があった。

 

「総員、俺に続け! 神聖ミリシアル帝国の力を、奴らに思い知らせてやるのだ!」

『『『『おおっ!!』』』』

 

 オメガは魔信で味方に(げき)を飛ばす。魔信からは、部下たちの力強い返答の声が返ってくる。

 そのうち、部隊はついに不明艦隊を発見した。

 

「よし、行くぞ!」

 

 自身への鼓舞を兼ねてオメガは魔信に叫び、操縦捍をぐいと引いた。

 魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの甲高い音が耳を圧する。時速410㎞で不明艦隊上空に達した「ジグラント2」は反転すると、水平線に対して約50゜の角度で不明艦隊に向かって急降下する。腹に抱えた225㎏魔導爆弾をお見舞いしようとしているのだ。

 それに対し、不明艦隊は空に向けて大量の光弾を撃ってくる。そんな中、

 

ドン!

 

 鋭い爆発音と共に、オメガの前方と左方に黒煙が花開いた。

 

「な、爆発だと?」

 

 オメガが呟いた時、左にいた部下の機体が穴だらけにされ、左の翼をもぎ取られて錐揉み状態となった。その機体のコックピットは、赤く染まっている。

 

(まさか、これ……弾が我々の近くを通っただけで爆発するのか!?)

 

 背筋が寒くなるオメガ。しかし、敵は更に強烈な対空射撃を撃ち上げてくる。上空にいた味方機は次々と対空砲火に引っかかり、撃墜されていった。そして、味方はあっという間に20機にまで減らされてしまう。

 

「くそ……」

 

 歯軋りしながらも、オメガは突撃を止めない。照準器に映る敵艦が、ぐんぐん大きくなる。そしてとうとう、オメガは爆弾投下地点に達した。

 

「投下!」

 

 一声叫んで、オメガは投下レバーを引いた。

 機体の腹から爆弾が離れ、ヒュウウウ…という甲高い音を立てて、敵艦へと向かっていく。それに対して、敵の戦艦は進路を左に向け、爆弾を避けようとする。その戦艦に、味方機が投下した爆弾が次々と落ちていった。

 

ズズーン……

 

 オメガが投下した爆弾は、敵艦の回避運動のため目標を外れ、海面に落下した。そして、巨大な水柱を噴き上げる。

 他の味方の爆弾も、水柱を立てるだけに終わる……と思いきや、敵艦の艦上に1回だけ、爆発の閃光が光った。

 

『攻撃終了、敵戦艦に対し命中弾1』

『味方、喪失9機』

 

 部下たちから報告が上がってきた。

 

「くそ、大分やられてしまったな。だが…やはり()()()()()()()()()()()()()

 

 オメガは呟き、敵の弾幕から全速で退避するよう部下に指示を出すのだった。

 

 

「うーむ、やはり航空機での攻撃は難しかったか。こうなれば、やはり砲撃で敵を破るに限る。統制砲撃戦用意!」

 

 第零式魔導艦隊司令バッティスタは、味方航空隊の攻撃の様子を見て、号令を発した。

 

「ん?」

 

 そこで彼は、“敵艦隊の陣形”に不審感を抱く。

 

「おいクロムウェル艦長、あの敵の陣形は何だ?」

 

 敵は、小型艦5隻を前方に押し出してきていたのだ。

 

「分かりませぬ。豆鉄砲しか持たぬ小型船を前方に出すとは……我らの主砲から味方の戦艦を守る、『弾除け』になるつもりかもしれませぬ」

 

 クロムウェルがそう言った時、報告が上がった。

 

「敵戦艦を識別しました。本艦隊の12時方向、距離30㎞!」

「主砲、発射用意。砲弾に魔力注入、属性比率爆82炎16。……砲弾、魔力充填完了。続いて撃発回路に魔力注入、属性比率爆72、炎18、風10。魔力充填50%」

「魔力探知レーダーによる測的完了。方位左22度、仰角42度。初撃命中率、3隻合わせて23%」

 

 ミスリル級魔導戦艦2隻とゴールド級魔導戦艦1隻の主砲が動き、砲塔が回転する。そして、砲身がぐぐぐっと空へ持ち上げられる。

 だがその時、敵戦艦がパッと眩い光を発した。明らかに、主砲の発砲炎である。

 

『敵艦発砲!!』

 

 艦内用魔信回路を通して見張りが叫ぶ。

 

「何? くそ、主砲への魔力注入中止! 艦体に魔力注入、装甲を強化しろ!」

「は! 主砲魔力充填中止。艦体に魔力注入、属性比率土80水20!」

 

 クロムウェルの命令により、艦体を構成する特殊魔法金属に魔力が注入される。シークエンスの起動に必要な時間である18秒が経過した後、戦艦の艦体が仄かな青い光に包まれた。

 

「この距離で撃ってくるとは……!」

「我々の主砲の最大射程とほぼ同程度ありますな。蛮族に、そんな代物があるとは……」

 

 バッティスタが驚き、クロムウェルが呟く。その直後、ヒュルルルルヒュイーン……という甲高い飛翔音が迫ってきたかと思うと、第零式魔導艦隊の前方300メートルほどの海面に、巨大な水柱が4本立ち上った。

 水柱の太さや高さは、ミリシアル艦隊の戦艦が訓練で撃ち込む砲弾のそれとほとんど変わらない。だが、着弾地点にはバラつきがあるように見えた。

 

「散布界が荒いらしいな。装甲強化を解除、主砲を発射するぞ!」

「はっ! 装甲強化解除。主砲撃発回路へ、再度魔力注入。……70、80、90、100。充填完了!」

 

 主砲の発射準備が整えられた。

 

「発射5秒前。4、3、2、1、発射!」

 

 「発射」の号令がかかった直後、「コールブランド」、「クラレント」、「ガラティーン」の3隻から主砲が発射された。ミスリル級の38.1㎝三連装砲計4基と、ゴールド級の38.1㎝連装砲2基による砲撃である。

 魔法の影響故に、砲弾は青い尾を曳いて飛翔し、敵艦に向かっていく。パッと見は、宇宙戦艦ヤ◯トのショックカノンの発射に似た光景である。

 “世界最強”を誇る神聖ミリシアル帝国、その海軍の中でも最強と謳われる、第零式魔導艦隊の戦艦による砲撃。しかし、敵艦隊は臆すること無く突っ込んできた。バッティスタやクロムウェルはそれを、「文明圏外の蛮族の浅慮」と受け取っていた。

 しばらく後、

 

『5、4、3、2、1、着弾!』

 

 見張り員の声と共に、第零式魔導艦隊の戦艦が撃った主砲弾が着弾した。

 海面に落下した砲弾は、その衝撃で砲弾に刻まれた起爆用の魔術回路が作動し、その魔力を解放する。その結果、敵戦艦付近の海面に多数の水柱が上がった。

 

「命中弾無し。照準修正、左27度、仰角35度!」

「次弾、魔力注入比率そのまま。充填急げ!」

 

 クロムウェルが指示を飛ばす。

 

「はっ。主砲弾への魔力注入が完了次第、主砲撃発回路へ魔力注入。属性比率そのまま!」

 

 砲術長が指示を伝達した。その隣で、クロムウェルは見張り所に尋ねる。

 

「敵艦の様子はどうだ?」

『こちら見張り所、敵艦の発砲無し。敵艦隊、なおもこちらに向かってきます!』

「うむ、了解」

 

 どうやら、敵戦艦の主砲の次弾装填にも相応の時間がかかるようだ。

 敵の次の発砲が早いか、それともこちらの発砲が早いか。

 

「次弾魔力注入完了。主砲撃発回路、魔力充填…80、90、100、充填完了!」

「レーダー測的完了。主砲命中率、42%まで上昇。発射5秒前……3、2、1、発射!」

 

 再び第零式魔導艦隊の戦艦の主砲が咆哮し、緩やかな放物線を描いて18発の砲弾が飛んでいく。敵艦隊の第2射よりも、ミリシアル側の第2射の方が早かった。

 

(さあ、次はどうだ……?)

 

 艦隊司令バッティスタが緊張感を持って水平線を睨んだ時、水平線上に見える敵艦が、パッと光を発した。この頃には、既に敵戦艦ははっきりとしたシルエットを形作っており、丈高い艦橋と主砲が朧気ながら見えるようになっている。敵は左に回頭しつつあるようだ。こちらに右の横腹を見せようとしている。

 

「ちっ、撃ってきたか。装甲に魔力注入、属性比率そのまま!」

「はっ! 装甲に魔力注入、属性比率土80水20!」

 

 戦艦が一斉に装甲強化シークエンスに入る。

 シークエンスの起動を待っている間に、見張りが報告を入れてきた。

 

『5、4、3、2、1、着弾!』

 

 敵戦艦と思しき黒い点の周囲に、白い水柱が(そび)え立つ。その最中、敵艦の艦上に白い閃光が走り、続いて赤い炎の柱が見えた。

 

『我が方の砲撃、命中弾1!』

「おお!!」

 

 この海戦で、第零式魔導艦隊は先に命中弾を出し、先手を取ったのだ。

 しかも、見張りは喜ぶべき続報を伝えてくる。

 

『敵戦艦、派手に爆発しています。速力も低下した模様、機関部に損傷を与えたと推察されます』

 

 水上砲撃戦においては、無闇に突進する小型艦と速力の落ちた船ほど、格好の標的にされる物は無い。つまり、敵の戦艦のうち片方の命運を決したようだ。

 

「よし、敵の砲撃をやり過ごした後、砲撃であの戦艦を撃沈せよ!」

「我が方の巡洋艦隊、砲撃開始! 目標は敵小型艦!」

 

 バッティスタは命令を発した。同じタイミングで別の報告が入る。

 水上での砲撃は、そう簡単に当たるものでは無い。何故なら、自分自身も相手も動いている上に、互いに回避運動は取るし、波によって艦体は揺れ、そして場合により風もあるからだ。そのため、砲撃の照準を定めるのは難しい。

 しかし、戦場とは“何が起こるか分からない場所”である。もしかすると、敵の砲撃が今度は第零式魔導艦隊に被害を与えないとも限らない。

 そこへ、ヒュルルルルヒュイーン……という、砲弾の落下音が聞こえてきた。緊張が走る。

 

「敵砲撃来ます!」

「衝撃に備え!」

 

 各戦艦の装甲強化が完了したのを確認し、バッティスタは指示を出した。

 乗組員たちが対ショック体勢を取った途端、艦隊の周囲に水柱が立つ。その時、旗艦「コールブランド」の左100メートルに展開していた、ゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」の喫水線付近に閃光が走った。そして、おどろおどろしい爆発音が響き、黒煙と炎が立ち()めた。

 

『戦艦ガラティーン、被弾!』

 

 見張りが叫ぶ。

 水柱が収まって見ると、「ガラティーン」の右艦体側面、喫水線付近に巨大な破口が開いている。海水が轟々と音を立て、破口から艦内に流れ込んでいた。

 

『喫水線付近に被弾した模様!』

 

 見張りが悲鳴のような報告を上げた。

 

「なんだと? 魔力で強化した装甲を貫いてきたか!

くそっ! どうやら敵戦艦の主砲の砲弾は、我が方の最新型魔導砲のそれと同じくらいの威力があるらしいな」

 

 バッティスタは毒づく。

 いつの間にか、敵の本隊との距離は約18㎞まで近付き、敵前衛の小型艦隊に至っては、僅か4㎞程度の距離しか離れていない。

 その時、

 

『敵小型艦、転進! 離脱します!』

 

 またも、見張りが()()()()()を上げてきた。

 

「何?」

 

 バッティスタが窓の外を見ると、前方に突出してきていた敵の小型艦5隻が、左に反転して遁走に移るところだった。そこへ魔導巡洋艦の主砲弾が降り注ぎ、敵の小型艦の1隻が被弾して真っ二つになる。

 

「クロムウェル艦長、あれはどういうことだ?

あのような小型艦は、今回のような砲撃戦では役に立たぬはずだ。何故、()転進する? “戦艦の弾避け”になるのではなかったのか?」

「分かりませぬ、私にもよく理解できない行動です」

 

 クロムウェルも首を傾げた。

 実はこの時、グラ・バルカス帝国艦隊の駆逐艦は“魚雷の有効射程距離”に入ったと見て、取り舵を切って第零式魔導艦隊に右の横腹を見せると同時に、一斉に53㎝魚雷を放ったのだ。

 そして、離脱にかかっている間にキャニス・ミナー級駆逐艦の1隻が、巡洋艦「ロンゴミアンド」の砲撃を受けて一撃で沈められたのである。

 

「まあ良い、目標はあの足が遅くなった戦艦だ! 巡洋艦隊と『ガラティーン』は、健全な方の戦艦及び巡洋艦に砲撃し、これを牽制せよ。本艦と『クラレント』で、足が遅くなった戦艦を叩く!」

「はっ!」

 

 しかし、ゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」は、先の被弾のために速度を出せず、まだあまりダメージを受けていない重装甲魔導巡洋艦2隻と魔導巡洋艦3隻が中心となって、敵の戦艦や巡洋艦を牽制した。その間に、ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」と「クラレント」が、零式38.1㎝三連装魔導砲で機関に損傷を受けた敵戦艦……オリオン級戦艦「プロキオン」を砲撃する。

 途中で敵の戦艦「ベテルギウス」から砲撃を受け、「コールブランド」が小破する被害を出し、更に敵巡洋艦との撃ち合いで重装甲魔導巡洋艦1隻が大破する被害を出したものの、第零式魔導艦隊は敵戦艦「プロキオン」を滅多撃ちにしていった。

 その結果、グラ・バルカス帝国のオリオン級戦艦「プロキオン」は、戦艦からの砲弾12発、重装甲魔導巡洋艦からの砲弾7発もの直撃を受け、「クラレント」の砲撃が決め手となって弾薬庫が爆発。物凄い爆発音を轟かせると、破片と炎と黒煙とを高々と噴き上げ、真っ二つとなって海面に消えた。そのついでとばかりに、タウルス級重巡洋艦1隻も「ガラティーン」以下の艦隊の砲撃で沈められていた。

 そしてついに、グラ・バルカス帝国艦隊が第零式魔導艦隊に背を向けた。反転すると全速力で離脱していく。

 

『敵艦隊反転! 離脱していきます!』

 

 見張りの歓喜を伴った報告の声に、バッティスタは苦々しげな顔付きで答えた。

 

「うむ、勝った。しかし……我が方の被害が……」

 

 そう、グラ・バルカス帝国艦隊に被害を与え、戦艦を1隻撃沈して撃退したのは良いものの、第零式魔導艦隊にも決して小さくない被害が出ていたのだ。

 それではここで、両軍の被害を比較してみよう。

 

 

グラ・バルカス帝国海軍 東征艦隊

喪失 オリオン級戦艦1、タウルス級重巡洋艦1、キャニス・ミナー級駆逐艦1

大破 タウルス級重巡洋艦1

中破 キャニス・メジャー級軽巡洋艦1

小破 オリオン級戦艦1他多数

 

神聖ミリシアル帝国海軍 第零式魔導艦隊

喪失 小型艦1

大破 ゴールド級魔導戦艦1、プラチナム級重装甲魔導巡洋艦1、シルバー級魔導巡洋艦1

中破 シルバー級魔導巡洋艦1

小破 ミスリル級魔導戦艦2、以下多数

 

 

 勝つには勝ったが、この被害は決して小さくない。

 

()()()ばかりを集めた艦隊が、これ程の被害を受けるとはな……。グラ・バルカス帝国……侮れん」

 

 バッティスタは呟く。

 いかに相手が、列強レイフォルを倒した国だとはいえ、“文明圏外国の軍”に栄えある神聖ミリシアル帝国軍が……それも、世界最強と謳われる第零式魔導艦隊が、これほどの被害を出したことは、バッティスタにとって屈辱的であり、世界最強のプライドを打ち砕くものがあった。

 

「ともかくも、何とか相手を撃退できた。小型艦は周囲の状況を確認せよ。損傷艦艇は、各艦応急修理にかかれ。ガラティーンは……」

 

 バッティスタが指示を出し始めた、その時だった。

 いきなり魔信から、「コールブランド」見張りの絶叫が飛び込んできたのだ。

 

『か、海上に異常探知! 海の中を、()()が進んできます!!』

「なんだと!?」

 

 この絶叫に、「コールブランド」艦橋にいたクルーは、その全員が窓の外を見た。

 見ると、海面に幾つもの“白い細い筋”が現れ、それが艦隊に向けて迫ってくる。海面を走るその筋が向かう先には……大破して右に傾斜しているゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」の姿があった。

 

「い、いかん! ガラティーンに至急魔信、回避させろ!」

 

 バッティスタが叫ぶ。しかし、時既に遅かった。

 「ガラティーン」は、よろよろしながらも面舵を切り、白い筋を回避しようとしているが、大破したことで船脚が鈍っており、避け切れない。どうすることもできぬまま、白い筋はガラティーンに向けて突っ込んだ。

 次の瞬間、ズズーン! という鈍い音と共に、「ガラティーン」の左舷に、3本の白い水柱が太く高く突き上がる。

 

 そう。グラ・バルカス帝国軍駆逐艦部隊が放った53㎝魚雷が、ついに第零式魔導艦隊に到達したのだ。

 ミリシアル側の砲火が激しく、想定より大きな被害が出てしまったため、グラ・バルカス艦隊は魚雷の到達を待たずに撤退を余儀無くされた。だが、もし自分たちの放った魚雷で戦艦に一撃を与えられたと知ったら、グラ・バルカス艦隊の駆逐艦乗り達は誇りに思ったことだろう。

 

 3本もの魚雷を同時に喰らった戦艦「ガラティーン」は一度右に傾いた後、急速に左舷に浸水して左へと横転していき、あっという間も無く転覆して、海面下に姿を消してしまった。

 まさか()()()()()()()()とは思っておらず、バッティスタの握り拳が怒りに震える。

 

「お……おのれぇ!」

 

 バッティスタは、思わず握り拳で椅子の肘かけをドンと叩いた。

 

「グラ・バルカス帝国め……ゆ、許さんぞ!」

 

 

 一方、海域から一時撤退しつつあるグラ・バルカス帝国東征艦隊旗艦「ベテルギウス」の艦橋では、艦隊司令アルカイドが溜め息を吐いていた。

 

「威力偵察のつもりが、随分とやられてしまったな。“ある程度の損害”は覚悟していたが、まさか戦艦を撃沈されるとは思わなかった。

帰ったら、報告書が大変だな……」

 

 「ベテルギウス」の艦長バーダンが、アルカイドを慰めるように言葉をかける。

 

「アルカイド司令官閣下、艦隊に被害が出たのは仕方が無いかと存じます。

そもそも今回の作戦は、帝国特務軍司令官のミレケネス様が、このような“小規模戦力”で、それも()()()()()()()()で、『この世界最強の艦隊と戦ってこい』と仰ったが故のものです。しかもその理由は、『この程度の戦力でどれだけ戦えるか見てみたい』とのことでした。

これについては、閣下も含めて何人もの同胞が、戦力が少ないと感じて意見具申しましたが、ミレケネス様はこれを全て突っ()ねられました。

アルカイド司令官閣下は、その“ミレケネス様の仰る通りの戦力”で戦ったのですから、閣下には落ち度は無いかと存じます」

「ううむ、そう言ってもらえると助かる。すまんな、バーダン艦長」

「いえいえ」

 

 ひとしきり言葉を交わした後、アルカイドは不気味な笑みを浮かべた。

 

「さて、ここから第2ラウンドだ。次は、帝国海軍の誇る機動部隊から出撃した航空部隊が、あの艦隊を攻撃する手筈になっている。

総勢200機の航空機による攻撃……あの程度の艦隊では、あっさり全滅するだろうな」

 

 アルカイドがそう言った時、「ベテルギウス」のレーダーを操作していた乗組員が報告を上げた。

 

「対空レーダーに感! 航空機多数が接近中! 本艦隊から見て12時の方向、高度約1,000、数は約200! 航空機の来襲方向と数から見て、我が軍の攻撃隊と思われます!」

「む、来たか。さて、我々の任務は一旦終了だ。一度反転し、本隊からの指示に従って動く。完了するまでが任務なのだから、気を抜くなよ!」

「はっ!」

 

 アルカイドの言葉に、敬礼で答えるバーダン。

 やってきたグラ・バルカス海軍攻撃隊200機は、東征艦隊の頭上を飛び越え、神聖ミリシアル帝国の誇る第零式魔導艦隊へと向かっていった。




今回は艦隊同士の水上砲戦のみで終了。次回、グラ・バルカス帝国軍の母艦航空隊が「第零式魔導艦隊」に襲いかかります。


感想やメッセージにおいて、いろいろなご意見をいただきまして、本当にありがとうございます。皆様からのご意見は、私としては非常に有難いものであります。

評価5をくださいました暗算様
評価9をくださいましたfumo666様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

グラ・バルカス帝国艦隊を撃退した「第零式魔導艦隊」。しかし、グラ・バルカス帝国軍の攻撃は、むしろこれからが本番。200機もの航空機が、「第零式魔導艦隊」を襲う…!
次回「マグドラ沖海戦(2)」
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