鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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宣戦布告が行われた先進11ヶ国会議、そして「第零式魔導艦隊の全滅」という情報を得た神聖ミリシアル帝国上層部の反応です。



112. 激震のミリシアルと世界会議

 中央暦1642年4月24日夕刻、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 外務省統括官ヘルベルト・リアージュは、先進11ヶ国会議にて各国の外務大臣を含む使節団一行を相手にしなければならないところを、急遽外務省に呼び出されたため、帝都ルーンポリスの外務省に出頭していた。彼は、困惑しながら廊下を歩いて会議室に向かっているところである。会議室に来いと呼び出されたのだ。

 港街カルトアルパスで開かれている先進11ヶ国会議……数日にも亘って行われるこの会議は、まず3日ほどかけて実務的権限を有している外交官同士で話し合いが行われ、そして3〜4日で外務大臣たちによる会合が行われ、正式な決定が下されて共同声明として発表される。そんな重要な会議の初日に、グラ・バルカス帝国の外務担当官が余りにも傲慢な態度を示し、自分たちの一方的な要求のみ伝えて退席している。しかもそれが、「自国の植民地になれ」という要求だったのだ。このため、実務者協議も荒れ模様が続いている。

 ところが、明日も明後日も重要な会議が控えており、しかも外務大臣の相手も必要なこの時期に、「緊急会議がある」として帝都ルーンポリスに戻るように指示されたのだ。このような重要案件のある時期での緊急会議とは、よほどのことがあったのだろう。

 緊張しながら、彼は指定された会議室の扉を開けた。

 

 扉を開けると、そこには既に何人もの人間が顔を揃えていた。外務省の幹部と、アルネウスを筆頭とする帝国情報局の面々、それに何故か軍の幹部、そしてアグラ国防省長官にシュミールパオ軍務大臣までもが着席していた。根回しも何も無いこの状態で、これだけのメンツが揃うということは、何か重大な事態が発生したに違いない。

 リアージュが着席すると同時に、会議が始まった。

 

「それではこれより、緊急会議を開催致します」

 

 軍の担当官が話し始める。それと同時に各人にレジュメが配られ、プロジェクターのようなものを起動し、担当官は口頭で概要を説明する。

 配られたレジュメに目を通すリアージュ、その中には信じられない内容が記載されていた。

 

「概要を説明致します。

昨日昼頃、本国の西方にあるマグドラ群島で訓練中の第零式魔導艦隊が、『()()()()()艦隊と航空機による攻撃を受けつつある』との連絡を最後に音信不通となっております。また、同群島にある地方空軍基地も、“攻撃を受けつつある”との連絡を最後に音信不通となりました。

陸軍離島防衛隊のみ通信が出来る状態でありまして、そこから報告を受け取りました。それによると、信じられませんが敵艦隊及び航空攻撃により、第零式魔導艦隊は()()。空軍基地も敵航空攻撃により全滅した、とのことであります。

敵の国旗を確認したところ、グラ・バルカス帝国と断定致しました」

 

 全員に、衝撃が走った。

 

「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が()()()()だと? 彼らは数こそ少ないが、“新鋭艦のみで構成された艦隊”だった筈。その力も、“相手が同数”であれば、間違いなく()()()だ。

いくらグラ・バルカス帝国が強かろうと、どれだけの数で押してこようと、損傷ならともかく『全滅』とは……本当なのかね?」

 

 リアージュはあまりの情報に驚き、説明途中で質問をする。

 日頃は必ず人の話を最後まで聞く彼にとって、説明途中で言葉を遮って質問に出るほどに、これは信じられない情報だった。

 

「遺憾ながら、おそらくこれは事実です。今回の敗北は、敵艦隊に対して我が方が少数だったことや、地方の群島であったためにエアカバーが不十分だったこと等が可能性として考えられますが……今回の議題は()()()()()()()()()

 

 一呼吸置いて、軍の担当官は話を続けた。

 

「陸軍離島防衛隊の報告によりますと、艦隊を破った敵は離島空軍基地に艦砲射撃を行い、空軍基地を破壊しました。その後、()()()()()()との報告があります」

 

 その瞬間、リアージュは真っ青になった。

 

「東! 東だと!? ま……まさか!?」

「はい。敵艦隊の進行(侵攻)目標として想定されるのは、我が国の首都ルーンポリス、もしくは……先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスです」

 

 再び全員に衝撃が走った。

 

「防衛体制はどうなっている?」

「離島防衛に向かわせていた第4・第5魔導艦隊を、帝都防衛のため緊急に呼び戻しています。帝都は第4・第5・第6・第7魔導艦隊で防衛を行うため、“万全”といえるでしょう。

問題は、港街カルトアルパスです。現在東方のベリアーレ海に展開中の第1・第2・第3魔導艦隊を、カルトアルパス周辺に展開させるように手配を行っていますが……離島からの距離を考慮すると、敵の方がカルトアルパスに早く到着する可能性があります。今カルトアルパスを守れる艦隊は、在泊地方隊の巡洋艦クラス8隻のみとなります。

制空戦闘型を含めた天の浮舟を装備する空軍部隊は、迅速にカルトアルパス周辺の空軍飛行場に移動させますが、空軍はともかく魔導艦隊が間に合わない可能性が高い。現在カルトアルパスでは先進11ヶ国会議が行われているため、外務省統括官の意見も伺いたいと思い、今回の会議にお呼びしました」

 

 リアージュが尋ねると、アグラ国防省長官が回答した。

 一瞬沈黙した後、リアージュの口から言葉の奔流が迸る。

 

「じょ……冗談じゃない!! “世界最強”であり、“世界に敵無し”と謳われる神聖ミリシアル帝国が、その()()()()を賭けて警備を行っている先進11ヶ国会議の開催期間中に、()()に攻められ守り切れないかもしれないので避難してください』などと、言えるものか!! そんなことを言ったら、文明圏外の属国が大量に離反し始めるし、列強や文明圏外国も我が国を軽く見始める!!

国体や繁栄の維持のためには、“強さを見せる”必要があるのだ!! そんなことを各国に伝えるくらいならば、『大艦隊に奇襲を受けた』と、()()()()()()()発表する方がまだマシだ。“奇襲を受けて被害が出る”ならば、各国も対グラ・バルカス帝国で纏まるだろう。

“攻めてくる”ことを()()()()()()()()()()のならば、各国は我が国をグラ・バルカス帝国よりも“弱い国”と見るだろう」

 

 しかしそこへ、アグラが手を挙げた。

 

「リアージュ殿。確かに仰る通り、今回の第零式魔導艦隊が敗れたことは“想定外”であり、恥ずべきことです。

ただ、奴らは……グラ・バルカス帝国は()()()。私は、“蛮族と侮ってはいけない相手”だと認識致しました。

このままでは最悪の場合、“先進11ヶ国会議がめちゃくちゃにされる可能性”が有ります。各国の外務大臣級が全て殺されでもしようものなら、『何故敵の接近を探知できなかったのか』と各国は思うでしょう。その方が、我が国の能力を疑われます。“我が国の能力で探知できない筈は無い”と各国は思うでしょう。()()()()()()()()とまで考えるかもしれません。

ここは正直に、各国の代表に事情を話した上で、会議の延期を申し入れ、各国の代表に一時避難を促すべきかと思います」

「アグラ殿は気楽だな。そんなことをすれば、()()()我が国の能力を疑われかねない。

艦隊が間に合わないのならば、古代兵器・海上要塞パルカオンを使用することは出来ないのか? あれを使用すれば、グラ・バルカス帝国がどのような大艦隊で来ようが(せん)(めつ)出来るだろう?」

 

 とんでもないことを言い出したリアージュに、アグラは額に汗を浮かべて沈黙する。彼に代わってシュミールパオが後を引き受けた。

 

「古代兵器パルカオンは、我が帝国にたった1隻だけ残っている、“国家存続の危機”がある場合のみ使用可能な、古の魔法帝国の超兵器です。

ただ、まだ50パーセル(地球でいうパーセントに当たる単位)程度しか解明できていないため、よく分からない兵器が多数あり、本来の力がほとんど出せておりません。その状態でも、グラ・バルカス帝国の艦隊()()なら殲滅できるでしょうが、投入には皇帝陛下の決裁が必要でありますし、“この程度の事象”で投入することは出来ないでしょう。

これは、“来るべき古の魔法帝国との戦い”において、魔法帝国の兵器に唯一通用する()()()()()()()となる兵器であるため、この程度の事象で出すことは出来ないと思います。それに万が一損傷でもしたら、()()()()()

 

 会議は深夜にまで及んだ。その結果、明日の夕方までに各国の代表に対して、以下のようなことを伝えることが決定した。

 

・グラ・バルカス帝国の大艦隊が迫っている。

・これは()()()()であり、現在展開している神聖ミリシアル帝国の戦力では、“討ち漏らしが起こる可能性”がある。

・万が一の被害防止のため、各国代表においては港街カルトアルパスから、東方にある都市カン・ブリッドに“一時移動”をお願いしたい。

 

 神聖ミリシアル帝国にとって、苦渋の決断であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 翌4月25日朝、神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス、帝国文化会館。

 本日も実務者級の国際会議が行われる筈であるが、神聖ミリシアル帝国から、各国に対し“緊急連絡”がある、との打診があった。そのため、各国の代表たちは続々と帝国文化会館に集まりつつあった。

 会議の開会よりも少し早く帝国文化館に到着したロデニウス連合王国使節団は、会館ロビーにおいてアニュンリール皇国の使節団を発見する。

 

 アニュンリール皇国……あまり情報はないが、事前に得た情報によれば魔法文明を基礎とし、“文明圏外の南方世界”を治める長たる国家として、毎回先進11ヶ国会議に参加している国だそうである。

 文明圏外に位置する国ではあるものの、南方世界に二つある大陸を()()()支配していると言われている。但し、“本土”に上陸した者はいない。外交窓口は、本土の北側にある四国の半分ほどの大きさの「ブシュパカ・ラタン」と呼ばれる島に限定されているからである。日本で言うところの「鎖国状態」であった。

 

 文明圏外に属していると考えられており、本会議において彼らに興味を示す者はいない。“広大な土地を支配している「だけ」の蛮族”といった位置付けで、彼らはこの会議に招かれていた。しかし、唯一の例外がいた。ロデニウス連合王国である。

 ロデニウス連合王国政府は、彼らに非常に高い関心を寄せていた。独立第1飛行隊のディグロッケから撮影された航空写真によれば、鎖国の窓口たるブシュパカ・ラタンには、ほとんど夜の明かりは見られない。しかし、本土に関して言えば、神聖ミリシアル帝国やグラ・バルカス帝国と同じような多くの()()()()()()()があり、昼間においても高度に発展した都市が写真に写っているのである。

 また、港街カルトアルパスへやってきたアニュンリール皇国の船は、あまりにも効率の悪い帆船の艦隊(なんと「風神の涙」すら装備していない)であり、他国と比べると遥かに性能が落ちることが一目瞭然である。だが、本国の()()()()()()には、神聖ミリシアル帝国の魔導艦隊と同じレベルの戦艦がある、ということをロデニウス連合王国政府及び軍部は把握していた。

 そして、なんとアニュンリール皇国は“電磁波を発するレーダー”を実用化していることも判明した。ディグロッケの逆探に、レーダー波と思しき反応が入っていたのである。

 現在、独立第1飛行隊を実質的に掌握している第13艦隊司令官の堺は、アニュンリール皇国をグラ・バルカス帝国とほぼ同レベルの「最重要調査対象国」と見做していた。今のところ、偵察手段はディグロッケのような“特殊機材を装備した航空機による航空偵察”に限られているものの、そろそろ外交官の直接接触やCTR(近距離偵察)の実施も考えられている。危険を承知でディグロッケの高度を落とし、空軍基地の航空戦力や艦隊戦力を詳しく調査しようというのである。

 

 アニュンリール皇国は単一種族の国家であり、人種は「有翼人」である。一見するとヒト種のように見えるが、背中から一対の翼が生えている点が、ヒト種と有翼人の違いを何より雄弁に物語っていた。その翼は片方が白く、そしてもう片方が黒い。

 

 ヤゴウは、機会があればアニュンリール皇国に探りを入れるよう政府から指示を受けていたため、アニュンリール皇国の使節団に話しかける。

 

「初めまして、アニュンリール皇国の方ですね?」

「ああ、そうだ」

 

 感情の無い表情で、アニュンリール使節団の面々は返事をした。その目の奥底には、“人に対しての興味の無さと蔑みの感情”が見て取れる。

 

「私は、ロデニウス連合王国の外交官ヤゴウと申します。我が国の政府は、貴国に大変高い関心を有しています。

今後は、国交開設も視野に入れてお付き合いしていきたいと考えておりますので、どうかよろしくお願いします」

「そうですか。もうご存じかもしれませんが、我が国は国交窓口を北の島、ブシュパカ・ラタンに限定しております。国交開設の際は、同島にお越し下さい。

また、南方世界の我が国配下の国との交易は禁止しておりますので、南方世界との交流についても同島をご利用下さい」

 

 言葉は丁寧であるが、彼らはロデニウス連合王国に対して、無関心であることがはっきりと見てとれる。いや、ここ数日の会議の状況を見るに、この先進11ヶ国会議さえ無関心であるようにも見える。

 

「承知しました。ご教示頂きましてありがとうございます。

ところで、貴国は()()()が相手であっても、国交は北の島ブシュパカ・ラタンに限定しているのですか?」

「はい。我が国は規定により、“他国の者の本土への立ち入り”を許可しておりません」

「では、そのブシュパカ・ラタンでも、貴国の文化を味わうことは出来ますか?」

「はい。ブシュパカ・ラタンは、我が国と南方世界の窓口にして“我が国の一部”です。もちろん、文化は我が国の本土と変わりませんので、お越し下されば味わっていただくことができます。ですが、何故そのようなことを仰るのですか?」

 

 そう聞かれて、ヤゴウは一呼吸置いた。今から()()を投げ込むからである。相手の反応に対しての心構えのつもりだった。

 

「いえ、貴国は窓口の島よりも、()()()()()遥かに発展してらっしゃるようなことでもあるのだろうかと、ふと疑問に思いまして……」

 

 その瞬間、一瞬だけだがアニュンリール皇国使節団の目の色が変わった。何故それを知っている……? そう言いた気な色が、一瞬だけ彼らの瞳に浮かんだのだ。もちろん、それを見逃すヤゴウではなかった。

 一瞬の沈黙。その後、アニュンリール側の1人が口を開こうとした。が、そこへ、

 

『間も無く、先進11ヶ国会議実務者協議を開催致します。皆様、御着席をお願いします』

 

 館内放送の声が流れてきたのだ。当然のように会話は途切れる。ヤゴウは、ここが()()だと見て取った。まあ、ファーストコンタクトとしては十分だろう。

 

「時間ですね。また、改めてご挨拶に伺いますので、その折はよろしくお願いします」

 

 一礼した後、ヤゴウはアニュンリール皇国使節団に背を向けて、会議室に入っていった。

 残されたアニュンリール皇国使節団のうち1人が、ぽつりと呟く。

 

「第三文明圏外の分際で……ロデニウス連合王国、奴ら何者だ?」

 

 その後アニュンリールの使節団も、会議室に入室した。

 

 

「これより、先進11ヶ国会議実務者協議を開催致します」

 

 ヤゴウとアニュンリール使節団の面々が入室してから少しした後、司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。

 

「開会に先立ちまして、本日は議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆様へご連絡がございます。昨日、グラ・バルカス帝国のものと見られる艦隊が我が国の西にあるマグドラ群島に奇襲攻撃を行い、()()()が被害を受けました

 

 神聖ミリシアル帝国は国益のため、第零式魔導艦隊が壊滅したことを伏せ、「地方隊が奇襲された」という()()()を伝える。また、わざと「被害を受けた」という“ぼかした言い方”をしていた。

 地方隊とはいえ、“神聖ミリシアル帝国の部隊に被害を与えた”ことに、出席者一同に衝撃が走る。

 

 各国の代表たちの顔色を(うかが)いながら、議長は話を続けた。

 

「テロ対策として、本港カルトアルパスには、魔導巡洋艦が8隻警備に就いておりますし、周辺の空軍基地に展開する空軍がエアカバーを行いますので、問題はありません。ですが、グラ・バルカス帝国が()()()我が国本土に攻撃を加えた場合の事も考慮し、『皆様の安全を確保する』ために本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブリッドに移したいと思います。

事前にお伝えしていた場所とは異なりますが、ご理解いただきたく存じます」

 

 一瞬の沈黙の後、エモール王国のモーリアウルが立ち上がって、話し始めた。その顔には、怒りの色が見える。

 

「あの新参者にして無礼者が攻撃してきたからといって、“世界の強国”ともいえる我々が、()()()()()()()()()というのか? 堂々と会議をすればよい。

我が国は陸路で来ているが、ここに来ている者たちは、どこも“それなりの規模の艦隊”を連れてきているのだろう? “何かあった”時のための、外務大臣級護衛艦隊ではないのか?

魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも()()()()()()()()()()()()()を相手に、10もの強国が集まっているにも関わらず、“戦わずして逃げる”のは情けないと思うぞ。

先ほど申し上げたように、我が国は陸路で来ているため、艦隊は無い。だが、控えの風竜22騎ならば、これを投入しても良いぞ」

「おお……」

 

 列強エモール王国の風竜騎士団……空気抵抗を抑えるべく、大きいながらも全体的に流線型に近い体格を持つ風竜は速く、その最高速度は時速500㎞にも達する。人間はおろかドワーフや獣人でも絶対に耐えられない空気抵抗も、強靭な肉体を持つ竜人ならば耐える事が出来る。

 風竜騎士団は、風竜の力と練度の高さから神聖ミリシアル帝国の制空戦闘型天の浮舟「エルペシオ3」にも匹敵する戦闘力がある、とされているのだ。各国が一目置く列強エモールの精鋭部隊の投入表明に、場は静まり返った。

 

「わ……我が国の戦列艦7隻も、無礼なグラ・バルカス帝国の軍を退治するためならば、喜んで手を貸しますぞ!

奇襲で神聖ミリシアル帝国の艦が被害を受けたとのことですが、奇襲以外で文明圏外国家に中央世界の我が国が後れを取るとは、とても思えませぬ」

 

 中央世界のトルキア王国も、会議の移動に反対する。まあ、トルキア王国はエモール王国と同盟を結んでいるため、エモールが動くなら一緒に動く、というところは有るのだが。

 

「我が国が属する第二文明圏では、グラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れ回っている。中央世界の皆様の艦隊と共に戦えるならば、我が艦隊も参戦致します」

 

 第二文明圏内国家の一つ・マギカライヒ共同体の代表も参戦を表明した。第二文明圏から出席している、ムー国とニグラート連合の代表がそれに続く。その横で、ロデニウス連合王国使節団の隣に座っていた、第三文明圏のパンドーラ大魔法公国の代表は、目を輝かせながらヤゴウとメツサルに尋ねた。

 

「対パーパルディア皇国戦での、貴国の数々の()()は伺っています。貴国はどうされるのですか?」

 

 ヤゴウとメツサル、それに同席していたリンスイは顔を見合わせた。

 正直言って、このような事態になるとは全く想像していなかった。神聖ミリシアル帝国からの事前情報では、開催国までの航路と自主警備は任せるが、開催地周辺における警備は安心して任せて欲しい、とのことだったからである。

 確かに、この世界は言わば“弱肉強食”だ。特に第三文明圏周辺ではその傾向が顕著である。しかし、いくら何でも『神聖ミリシアル帝国が主催する世界会議』において宣戦布告するなどとは考えられない。ましてや会議を武力で襲撃する可能性など、()()()もいいところだ。

 

 何にしても、これは一度本国に報告し、今後の指示を仰ぐ必要があった。

 

「開催地変更についての意見は、本国に問い合わせます」

 

 ヤゴウはそう答える他無かった。

 そこへ、アニュンリール皇国の使節の1人が挙手した。議長が発言を許可し、挙手した使節が発言する。

 

「我が国は、()()()()()()です。東方都市への移動と突然に言われましても、対応できません。それにもしもこのまま戦う、となりますと()()()()()になります。ですので、本年の会議はこれにて失礼します」

 

 経済力・技術力・軍事力、全てが低い南方世界は、“慣習的に会議に呼ばれていた”だけであり、「いてもいなくても良い」という認識があった。そのため、全員がこの発議を認め、アニュンリール皇国使節団は退室した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その約3時間後(昼頃)、ロデニウス連合王国 首都クワ・ロデニウス。

 王国の王宮では、各部署の幹部クラスやトップを招集しての緊急会議が行われていた。リンスイたち一行から魔信を受け取った外務省幹部が、王前で(かしこ)まって報告を行う。

 

「以上より、グラ・バルカス帝国が現在先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスに、強襲を行う可能性が極めて高い状態にあります。

神聖ミリシアル帝国は、安全の為に東方都市カン・ブリッドに移動するよう求めていましたが、各国代表の意見は異なり、各国の外務大臣護衛艦隊で迎え撃つ方針が示されています。このため、会議は各国の意見がまとまらず、協議が完全にストップした状態である由、現地からの報告です」

 

 報告が終わるや、即座に議論が紛糾した。

 

「今すぐに、現地にいる外交官と外務大臣を引き上げさせるべきだ!」

「いや、各国が一丸となってグラ・バルカス帝国と戦う意志を示している時に、『我が国だけが逃げ帰った』となると、心証を害し国益を損なう可能性がある」

「グラ・バルカス帝国とやらの戦力は、どの程度の規模なのだ? 第一護衛艦隊の戦力で、どの程度戦えるのか?」

「軍の情報部の分析では、グラ・バルカス帝国の技術力は我が国のそれとほぼ同じだそうだ。それも、我が国における最精鋭部隊である第13艦隊、あれと同程度の質と第13艦隊を上回る数の艦隊があるらしい。各国が一丸となって……という話だったが、間違い無く大勢の死者が出る。何せ、第一護衛艦隊を以てしても、完全に勝利できるかが怪しいほどの敵なのだ。

神聖ミリシアル帝国の航空戦力の規模にもよるが、“艦隊のみでの力量”であれば……このままでは会議参加国の艦隊は全滅、もしくは非常に甚大なダメージを受ける筈だ」

「第一護衛艦隊に増援は送れないのか!?」

「無理だ。距離が遠すぎる。第13艦隊が全速で走り通したとしても、とても間に合わん!」

 

 国王カナタ1世が静かに考え込む傍ら、議論がますますヒートアップしていく。

 

「『パーパルディア皇国によるフェン王国軍祭奇襲』といった前例がありながら、何故あの程度の戦力で護衛としたのか!? 第13艦隊の主戦力がついていけば、今回国益を大きく得ることが出来たのでは無いか?」

「神聖ミリシアル帝国は、“帝国内での警備は自分たちが担当するが、帝国までの来航時の警備とその規模は参加国に任せる”と伝えてきた。そこで我々は、()()()()()()()()()()『必要最低限の戦力のみでの派遣』としたのだ。

そもそも我々は、“他国に対する武力による威嚇”を禁止している。今回の外務大臣護衛艦隊にしたって、各国に対する()()()()()()()になりはしないかと心配しているくらいなのだ。

また、グラ・バルカス帝国が世界に向かって配下に入れと宣言する、などと言うのは全く想像の範囲外だった。更に言えば、神聖ミリシアル帝国主催の国際会議中に強襲をかけてくるとは、このような言い方をして申し訳無いが、想定外だった」

 

 まあ実際、こんなことになるなんて誰が想像できるというのか。

 

「グラ・バルカス帝国が強襲を掛けてくる可能性があるのならば、外交官や外務大臣の命を考えると、早期避難も已むを得ないでしょう」

 

 会議に出席していた、ロウリア州知事補佐のマオス(旧ロウリア王国宰相)がそう言ったその瞬間を見計らって、カナタ1世は口を開いた。

 

「マオス殿の言う通りです。そして我々は、あまり悠長に議論をしている時間は有りません。

早期に意思決定を行い、現地に伝えなければなりません。堺殿によれば、港街カルトアルパスは二つの半島に挟まれた湾の奥にある、とのことです。内海から外海に出る際にある、幅僅か14㎞の海峡を封鎖されてしまえば、彼らはグラ・バルカス帝国艦隊を倒さない限り、外には出られなくなります。

今すぐにでも避難指示を出すべきです」

 

 カナタ1世のこの意見が決め手となり、ロデニウス連合王国政府は、最終的に人身の安全のため先進11ヶ国会議を途中で離脱し、港街カルトアルパスから外務大臣及び外交官の引き上げを行うことを決定した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして舞台は、港街カルトアルパスに戻る。

 カルトアルパスは、神聖ミリシアル帝国の南部に位置している。街の東と西には南北に延びる半島がそれぞれ突き出ており、長さ約60㎞の内海、そして幅約14㎞の小さな海峡「フォーク海峡」を通過した後に、外海に出ることが出来る。

 外海と異なり、内海は嵐の日でも比較的穏やかである。港の収容能力の高さもあって、この都市は第二文明圏や第三文明圏との交易の拠点として栄え続けている。

 そんな港街の一角で開かれている先進11ヶ国会議。同会議は紛糾していた。

 

「という訳で、やはり万が一の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!!

仮にカルトアルパスに強襲を仕掛けてきた場合、()()()時間がありません。ここで、のんびりと話をしている場合では無いのです!!」

 

 アニュンリール皇国の代表が退室した後、既に4時間が経過している。1回の休憩(昼食を兼ねる)を挟んだとはいえ、まとまらないにも程がある。

 

 危険だから、()()()()()()()()()、避難を行う。

 そんな“単純”なことが何故出来ないのか、リンスイは理解に苦しむ。元々ロデニウス連合王国は第三文明圏外にあり、パーパルディア皇国の圧力に怯えていた。だからこそ、危険を感じればよほどのことが無い限り“さっさと逃げる”、その考え方が身に染み付いているのである。

 

 しかし、避難に反対する参加国にもそれなりの事情はあった。

 各国は、外務大臣一行を護衛するための()()()()()()を送り込んで来た訳では無く、“砲艦外交”の意味合いも籠め、国内で最新鋭の装備を持つ艦隊、もしくは練度の極めて高い艦隊を送り込んで来ているのだ。日本の海上自衛隊に例えると、イージス艦を含む2個護衛隊群を護衛に付けて来ているようなものである。それが10ヶ国もいるのに、揃いも揃って“文明圏外の蛮族の脅迫”で逃げた、となると国家の威信が地に落ちるだけでは無く、国内の批判にも晒されかねないのだ。

 

 様々な事情から会議は空転する。

 

「……閣下。リンスイ閣下!」

 

 会議の様子を眺めていたリンスイの下に、本国への連絡のため一時席を外していたヤゴウが戻ってきた。

 

「どうなった?」

「本国から連絡です。“議長国に連絡した後、迅速にカルトアルパスから避難せよ”とのことです」

「分かった」

 

 リンスイは会議を退席し避難を行うため、会議を取り仕切っている議長に手を挙げようとした。まさにその瞬間、不意に議長の顔が苦渋に包まれる。

 

「皆様、静粛に! 静粛に!! これより重要な伝達事項があります」

 

 場が静まる。

 

「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150㎞地点を北上する、グラ・バルカス帝国艦隊を発見致しました。なお、空母はまだ発見出来ておりません。

これより航空戦力で攻撃を行う予定ですが、このままではグラ・バルカス帝国艦隊は、カルトアルパス南方のフォーク海峡に至ります。

グラ・バルカス帝国艦隊の速度は約20ノットであり、この速度とここから海峡までの距離を考えると、避難はもう間に合わないでしょう。

つきましては皆様の案を採用し、急遽連合軍を組織し、迎え撃つことになってしまいました。ですが、あなた方外交官と外務大臣の身の安全だけは、“我が国の義務”として確保させていただきます。

よって、本会議に出席中の各国使節団の皆様には、早急に鉄道で東に避難していただきます」

 

 あと一歩のところで、退席が間に合わなかったのであった。リンスイは頭を抱えている。

 

 最終的に、会議では以下のことが決定された。

 

・各国の外務大臣護衛艦隊は一丸となって、自衛のためグラ・バルカス帝国軍を迎え撃つ。

・外務大臣及び外交官に関しては、神聖ミリシアル帝国の誘導で避難を行う。避難先は東部の都市カン・ブリッドとする。先進11ヶ国会議(今や2ヶ国が離脱して先進9ヶ国会議になっているが)を続けるかどうかは、そこで決定する。

 

 

「堺殿、このような事態に巻き込んでしまって本当に申し訳無い」

「“想定外”ではありましたが、事が起きてしまった以上仕方ありません。リンスイ外務大臣殿、皆様に責任はありませんよ。こんな事態、誰に予測できるというのでしょう。

さあ、お早く避難を。我々は、“我々が()すべきこと”をします」

 

 カルトアルパスの港では、ヤゴウとメツサルを従えたリンスイが堺に頭を下げていた。慌てて口を開く堺。

 

「国王陛下と政府、そして軍部には、こちらから事を伝えておく。堺殿、そして艦隊の皆様には……でき得る限りの生還を祈っておる

「承知致しました。皆様がどうやって帰国するかは、すみませんが国王陛下や他の要人の方、そして神聖ミリシアル帝国の方と話し合っておいてください。今は、私には余裕がありません。

全てを救うことはできないでしょう。ですが、最善は尽くします。さあ皆様、お早く避難を!

 

 何度も頭を下げながら、埠頭から離れていくリンスイ。それを見送って、堺は頭を切り替えた。

 

「まさか、本当に軍事行動に出てくるとはな…。初日の会議の席上で、グラ・バルカス帝国の連中は我々のことを野蛮だの何だのと抜かしていたそうだが、()()なのはどっちだっつーの。

さて……これは、一戦交えるより他に無いな。フォーク海峡の地形から考えるに、“逃げ道”は無い。あの海峡を強行突破するより他に手段は無いか。やるしか無いな。それに……そっちから宣戦布告してきたんだから、こっちは()()()()()()()よなぁ?

 

 真っ黒な笑みを浮かべる堺。

 

「ま、“どんな手”を使ってでも生き残らねばならん。それだけは確かなことだ」

 

 呟いて、彼は素早く「(ゆき)(かぜ)」に乗り込んだ。そして艦橋に駆け上がるや、指示を飛ばす。

 

「雪風、艦隊内無線を繋げ! 全艦出港するぞ! だが……グラ・バルカス帝国の水上艦隊及び航空部隊が迫っている。

出港準備急げ、同時に対空・対水上戦闘用意!」

「はいっ!」

 

 "雪風"が良い返事を返し、堺に艦隊内連絡用の無線機を投げて寄越す。その間にも「雪風」艦内は慌しい雰囲気に呑まれつつあった。

 

「こちら堺、旗艦より全艦へ通達。グラ・バルカス帝国の水上艦隊及び航空部隊が、こちらへ向かっているようだ。敵水上艦隊の位置は、カルトアルパス南方約150㎞地点。敵の戦力規模は不明。かなりの近距離だ。

よって、第一護衛艦隊はこれより直ちにカルトアルパスを出港。フォーク海峡を脱出し、タウイタウイへ帰還する! 外務大臣一行については、神聖ミリシアル帝国が避難場所を用意するとのことだ、我々が気にする必要は無い。我々は、ただ生き残らなければならん。

全艦出港準備、錨鎖詰め方! カルトアルパス港湾管理局の許可を得られ次第、直ちに出港する! 同時に全艦、対空・対水上戦闘用意! 見張員諸君は、潜水艦への警戒を怠るな!」

『『『『了解!』』』』

『こちら(なが)()、了解。提督、司令部はどうするんだ?』

「しまった、それがあったな。司令部は雪風に戻す。撤収準備は?」

『そういうだろうと思って、もう始めてある。八割方の作業は終了した』

「ありがたい!

では、雪風への司令部の移乗とカルトアルパス港湾管理局の許可が得られ次第、直ちに出港する!」

 

 この頃には、既に他国の外務大臣護衛艦隊も動き始めていた。ムー国の機械動力艦やマギカライヒ共同体の機甲戦列艦は煙突から黒煙を吐き出し、各国の戦列艦や竜母、木造帆船は次々と帆を広げつつある。そして各国の艦隊を先導すべく、神聖ミリシアル帝国海軍カルトアルパス在泊地方隊のシルバー級魔導巡洋艦8隻が錨を上げ、先んじて出港しつつあった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「『グラ・バルカス帝国軍によるカルトアルパス襲撃は、最早確定的。本職及びヤゴウ・メツサルの三名は、神聖ミリシアル帝国の誘導に従い、帝国東部の都市カン・ブリッドに移動せんとす。第一護衛艦隊に、自衛のための戦闘を認められたし』……以上が、リンスイ外務大臣より送られた魔信です」

 

 ロデニウス連合王国首都クワ・ロデニウス 王宮。御前会議が行われる大会議室において、魔信を受け取った通信士が沈んだ声で文章を読み上げる。それを聞いて、連合王国外務省情報部代表エドが深い溜め息を吐いた。

 

「外務大臣ご一行は()()無事……か。だが、堺殿率いる護衛艦隊がカルトアルパスに取り残されてしまったか……」

 

 彼の隣では、連合王国軍総司令官ヤヴィン元帥が沈痛な面持ちをしていた。

 

(私の失敗だ。重大な判断ミスだ)

 

 ヤヴィンは、自身を責めていた。

 国際会議において、まさか“宣戦布告”が行われるとは思わなかった。会議は平穏無事に済むものと考えていたのだ。……そしてその結果、自分は“自国の軍において何にも代え難い()()()()()()”を、命の危険に晒してしまった。

 現在、ロデニウス連合王国軍は“第三文明圏外の軍”とは思えない程恵まれた装備を有するに至っている。その軍事力はかつての全盛期時代のパーパルディア皇国皇軍をもぶっちぎり、神聖ミリシアル帝国軍とやり合っても“ある程度戦える”のではないか、と思えるほどになっている。そして、それほどまでに軍を育て上げてくれたのは、他ならぬ堺 修一なのだ。その彼は今、()()()()()()()()()()。これでは、結果的に“恩を仇で返したようなもの”ではないか。

 また、堺率いる陸軍第13軍団と海軍第13艦隊は、現在のロデニウス連合王国軍の中で、間違い無く“最精鋭の部隊”だ。規模・装備・練度いずれも申し分無く、特に第13艦隊には“ロデニウス連合王国軍が保有する()()()戦艦と空母”が集められているも同然である。それほど優秀な部隊を率いる指揮官は、そう簡単に育つものではない。

 ここまで軍を育て上げ、国難に対しても知恵と力を貸してくれた彼に対する申し訳無さに、“何にも代え難い友を失うかもしれないという()()”に、彼に報いることのできなかった悔しさに、そして楽観的な見通しを立てていたことへの自責の念に、ヤヴィンの心は暗く沈んでいた。

 

「ヤヴィン卿、落ち込んでも仕方がありません。彼はこれまでにも、数々の困難を切り抜けてきました。今度もきっと、彼は()()()()()()()()でしょう。それを信じ、我々は“我々の為すべきこと”をしなければなりません」

 

 落ち込んでいるヤヴィンに声をかけたのは、現ロデニウス連合王国国王カナタ1世である。着席して以来ずっと視線を下に向けていたヤヴィンは、ここでようやく顔を上げた。

 

「ヤヴィン卿、あなたは全ての軍の戦力を把握するとともに、全軍に命令を出しなさい。『我が国はグラ・バルカス帝国に宣戦を布告された。よって、全軍は直ちに敵襲に備えるべく第一種戦時態勢に入れ』と。それと、周辺海域の索敵も密にしなければならないでしょう。

“彼が部下たちとともに帰ってくる”と信じ、彼が戻るまで留守を全力で守る。それがあなたの任務です。……ああ、それと人事異動並びに辞表の提出は、これを()()認めません。良いですね?

 

 口調も表情も穏やかだったが、カナタ1世の言葉には“有無を言わせない”ものがあった。

 

「……はっ! 承知致しました!」

 

 その瞬間、ヤヴィンもついに吹っ切れた。まあ、人事異動も辞職も許さないとまで言われ、先手を打たれたのでは致し方あるまい。

 

「外務省の皆様は忙しくなりますよ。大東洋共栄圏の筋を利用して、今後どうするのかという問い合わせが各国から寄せられるでしょう。宣戦布告された、というような事実程度でしたら答えても結構ですが、『本件に対する我が国の考え』については、今は明言を避け、“リンスイたち一行が戻ってから協議して結論を出すので、それまで待って欲しい”と伝えなさい。

それと久しぶりですが、大東洋諸国会議の招集準備を。これは、大東洋共栄圏の参加国全てが一丸となって当たらなければならない事態です」

「「はい!」」

「エド殿率いる情報部は、そのまま現地からの続報を待ちなさい。それと、王宮の試作魔導テレビも魔信ラジオも全て使って構いませんから、必要なだけの人員を割いて情報をできるだけ多く集めなさい。最新情報を常に入手し、不測の事態に備えるのです。あと、特に海軍第13艦隊の拠点であるタウイタウイ泊地には、常に最新情報を送り続けなさい」

「承知しました!」

「それから緊急記者会見の手配も。我が国は立憲民主主義国家であり、従って事態の理解を国民全員と共有しなければなりません。我々には、この事態を国民全員に大々的に報じる()()があります」

「はい!」

 

 普段は(内政を除いて)あまり各部署に口を出さないカナタ1世だが、こういう緊急事態となれば話は別だ。こういう時にこそ、“()()()()が動かなければならない”。

 ロデニウス連合王国政府は、国王カナタ1世の勅命の下、“自分たちにできること”に全力で取り組み始めた。

 

 

 そしてその頃、神聖ミリシアル帝国政府首脳部もまた、今回の事態への対応を協議していた。

 “世界の中心”とも言える帝都ルーンポリスの更に中心、世界の覇者たる皇帝が住まう皇城「アルビオン城」において、緊急会議が開かれようとしていた。その会議の議題は「グラ・バルカス帝国への対策」……今まで敵無しで外交を行ってきた彼らに、奇襲攻撃とはいえ“()()()土を付けた国”への対策である。

 

 出席者は皇帝ミリシアル8世を中心とし、軍務大臣シュミールパオ、国防省長官アグラ、情報局長アルネウス、外務省統括官リアージュの他、国の幹部といっても差し支えない面々が勢揃いしていた。本来なら、外務大臣ぺクラスも出席者に名を連ねる筈であるが、彼はこの時、先進11ヶ国会議のため港街カルトアルパスに出向いており、本会議には不参加であった。

 なお、外務省統括官リアージュは、度重なる会議でカルトアルパスと帝都を何度も往復しているため、疲労の色が濃い。

 

「これより帝前会議を始めます」

 

 司会進行をしているのは、国防省長官アグラである。

 

「今回の会議を開くきっかけとなった事案の概要を説明致します」

 

 各人が手元の資料を開くのを見て、アグラは説明を開始する。

 

「去る4月21日、先進11ヶ国会議初日の席上において、西方の文明圏外国家グラ・バルカス帝国が、()()()()()()世界に向け、“従属せよ”と要求致しました。

グラ・バルカス帝国は現在、第二文明圏西側各国を陥とし、連戦連勝を重ねています。そして、“列強レイフォルを単艦で破った”ことから自信を付け、このような()()に出たと思われます」

 

 説明は続く。各人は静かに説明に聞き入っている。

 

「グラ・バルカス帝国使節団は、先進11ヶ国会議で暴言を吐き宣戦を布告した後、カルトアルパスから彼らの乗ってきた戦艦で立ち去っています。

その後、この戦艦とは別の艦隊が西のマグドラ群島において、当時訓練中だった第零式魔導艦隊に攻撃を仕掛けました」

 

 一同は、その後の戦況経過報告に息を呑む。

 

「敵の規模は戦艦2、大型巡洋艦3、巡洋艦2、小型艦5の計12隻であり、戦艦の総合的な強さは我が方の最新鋭魔導戦艦に匹敵するものでした。

敵に与えた被害は、戦艦1、大型巡洋艦1、小型艦1を撃沈し、また大型巡洋艦1を大破、巡洋艦1を中破、その他多数の艦の損傷です。本海戦は第零式魔導艦隊の勝利に終わりました。しかしその後、敵の航空隊多数の猛攻に晒され、第零式魔導艦隊は全滅致しました」

 

 一旦静まった場がざわついた。

 第零式魔導艦隊は、神聖ミリシアル帝国の最新型が配備される“花形の艦隊”であり、同国の強さの象徴だった。その艦隊が、()()()()により全滅したとの報告により、国の幹部は改めて衝撃に襲われる。

 

「戦闘航行中の戦艦が航空機ごときにやられる筈が無い! その時、我が方の戦艦は既に損傷していたのか?」

 

 総務大臣が尋ねる。

 

「詳細は不明ですが、国防省では航空攻撃前の海戦で、“既に戦艦は損傷していた”と分析しています。なお、マグドラ群島は警備用の航空機を少数しか配備していなかったため、エアカバーは事実上ありませんでした。

グラ・バルカス帝国艦隊は、陸軍離島防衛隊基地に艦砲射撃を加え、その後東に進路を取りました」

 

 アグラは更に話を続ける。

 

「彼らの侵攻目標は、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスと思われます。

ただ、首都に来る可能性もあるため、首都警戒中の艦隊は動かせません。現在東方展開中の第1・第2・第3魔導艦隊をカルトアルパスに向かわせていますが、間に合わないでしょう。対応可能戦力は、カルトアルパス在泊地方隊の巡洋艦8隻と空軍によるエアカバーのみであり、この戦力で戦います。

カルトアルパスに被害が出る可能性は高く、各国に対して東の街カン・ブリッドに会議場所を移すように申し入れるも、各国はこれを拒否し、グラ・バルカス帝国と対峙する道を選びました。

尚、アニュンリール皇国のみ、既に離脱しています」

 

 アグラの説明に、外務省統括官リアージュは疑問に思い質問する。

 

「各国の戦力で対抗できるのですか?」

「相手は第零式魔導艦隊を葬った軍隊です。戦力として期待できるのは……そうですね、ムー国の艦隊と、ロデニウス連合王国の艦隊くらいだろうと思います。特に、ロデニウスの艦隊は“超大型の戦艦”を1隻連れてきており、その戦艦ならグラ・バルカス帝国の戦艦にも対抗可能かと思われます。他の国の艦隊は、的になるだけでしょう。しかし()()()()ので、『弾除け』として見るならば有力かと思われます。

現時点での、状況の概要は以上です」

 

 説明が終わる。それと同時に皇帝ミリシアル8世が手を挙げ、場が静まる。

 神聖ミリシアル帝国皇帝は、ゆっくりと話し始める。

 

「アグラ、説明ご苦労」

 

 ゆっくりとした口調。そのたった一言に、アグラは威厳を感じ取る。

 

「ははっ!!」

 

 アグラはただ返事をし、頭を下げる。

 

「グラ・バルカス帝国か……それなりに強国のようだが、我が国を()()()()()()()()()()とは……愚かなり。

グラ・バルカス帝国の本土は、どの位置にある?」

「ははっ! ここでございます」

 

 アグラは地図をテーブルに広げ、ムー大陸の西にある海域を指す。

 

「ここに大きな島がございまして、そこが帝国の本土であります」

「このような辺境の島国……小国か……」

「ロデニウス連合王国より貰い受けた地図により、同帝国の位置が判明致しました」

「ん? ロデニウス連合王国?」

 

 ここでミリシアル8世は、“何か”に気付いたようだ。

 

「ロデニウス連合王国……あのパーパルディアを滅した国か。何故、東の辺境国が、西の辺境国の位置まで把握しているのだ?

まさか、裏で繋がってはいまいな?」

 

 皇帝は、ロデニウス連合王国がグラ・バルカス帝国の位置まで()()()()()()()()()ことが気になったのだ。

 

「それにつきましては、私が説明致します」

 

 情報局長アルネウスが手を挙げ、発言する。

 

「ロデニウス連合王国と国交が結ばれて、まだ僅かな期間しか経過していません。ですので、かの国の実力についてはまだ未知数なことが多いです。

しかし、このような地図を描けることから、彼らの技術は相当に高いことが予想されます。第三文明圏外にありながら第二文明圏外の様子まで知れるとなると……もしかすると彼らには、あの『(しもべ)の星』のようなものでもあるのかもしれません」

 

 その瞬間、一同に衝撃が走る。

 僕の星……それは、歴史に名を残す悪名高き国家「ラヴァーナル帝国」が、空力の届かぬ空の遥か高みに浮かべたという“観測機械”である。神聖ミリシアル帝国の技術を総結集したとしても、到底作れない高度な代物である。

 …実は、ロデニウス連合王国にはそんな“宇宙から観測する機械”は無い。それは()()のだが……代わりに、「絶対に感知されず、遷音速で飛び、宇宙空間にも行くことができ、空間跳躍(ワープ)すら可能」というトンデモ機材を保有している。グラ・バルカス帝国本土の位置を含む世界地図は、そのトンデモ機材……「ディグロッケ」のデータ収集によって作られたものである。

 どこぞの人なら、「我ぁがドイツの科学技術は世界一ィィィィーー!!」とか言うだろう、絶対に。

 

 衝撃による沈黙の中、口を開いたのはミリシアル8世だった。

 

「ロデニウス連合王国か、興味の湧く国だな……。

いかん、話が脱線したな。グラ・バルカス帝国だが、今回の奴らの侵攻を凌いだ()のことだ。中央世界と第二文明圏で連合艦隊を作り、大規模部隊を以て奴らの窓口となっている旧レイフォル領に行き、第二文明圏から奴らを叩き出すぞ。その際に、是非共ロデニウス連合王国の力を見てみたいが……。

リアージュ、ロデニウス連合王国は早期に艦隊を送ることに同意するか?」

 

 ミリシアル8世は、外務省統括官リアージュに問う。

 

「それは考えにくいかと思われます。何せ、ロデニウス連合王国があるのは第三文明圏外です。第二文明圏から見ても2万㎞も離れており、この距離を航行して第二文明圏まで行くのは容易では無いと考えられます。それに、かの国は武力行使があまり好きでは無いようですので」

「そうか、分かった。

卿の言う通りだ。第三文明圏は遠すぎるし、“技術レベル”から考えてもグラ・バルカス帝国軍の相手は厳しかろう。早期反撃の戦力抽出対象からは外すとしよう。

作戦案詳細は、アグラ、貴様に任せる」

「ははっ!!」

「我らに恥を掻かせた代償、()()()()()では釣り合わぬが……レイフォルから奴らを叩き出した後は、本土にも制裁を加えるぞ」

 

 中央世界の雄、神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世は、怒りに燃えていた。




はい、というわけで原作と同様、迎撃が決定しました。
迫るグラ・バルカス帝国艦隊、それに挑むは各国連合。しかし今回は、ロデニウス連合王国という戦力、そしてグレードアトラスター級ともやりあえるかもしれない長門型戦艦がある……どうなるか?


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次回予告。

グラ・バルカス帝国軍と戦うため、緊急出撃する各国の艦隊。多数の航空機による攻撃を仕掛けてきたグラ・バルカス帝国軍に、神聖ミリシアル帝国空軍の最新鋭戦闘機「エルペシオ3」が立ち向かう…
次回「激戦! フォーク海峡!(壱)」

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