鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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いよいよフォーク海峡海戦に突入。初戦はミリシアル空軍の交戦です!



113. 激戦! フォーク海峡!(壱)

 中央暦1642年4月25日 午後2時頃、神聖ミリシアル帝国南端 港街カルトアルパス。

 とある酒場では、酔っ払った商人たちがいつものように話をしていた。口ひげの長い小太りの男が話の(くち)()を切る。

 

「おいおい、聞いたか? 今このカルトアルパスで、先進11ヶ国会議が行われているだろう? その最中、グラ・バルカス帝国が、全世界に向けて実質的に宣戦布告したらしいぞ」

 

 驚きをもって、皆はその男の方向を見る。すると、別の初老の男が話し始めた。

 

「グラ・バルカス帝国は、今第二文明圏の西側にある国家に対し、次々と侵攻し、連戦連勝を重ねているらしい。

宣戦布告したってことは、相当に自信があるんだろ? まさか、我が神聖ミリシアル帝国が、やられることはないだろうな……?」

 

 するとすぐさま、他の商人たちが反応した。

 

「まさか! いくらグラ・バルカス帝国が強かろうと、神聖ミリシアル帝国は別格だ。たとえ列強最弱だったレイフォルには勝てても、我が国はおろかムー国にすら勝てないのではないか?」

「でも、見たか? 港に来たグラ・バルカス帝国の戦艦、名前は『グレードアトラスター』というらしいが、山のように大きかったぞ……。

ムーのラ・カサミ級戦艦が近くにあったが、そのラ・カサミ級戦艦がまるで子供のようだった。あの大きさは、もしかすると、我が国の最新鋭魔導戦艦よりも大きいかもしれない」

 

 (けん)(そう)のある酒場が一時静まる。

 

「他国の者に聞いたのだが、今そのグラ・バルカス帝国の軍がここ、カルトアルパスに向かってきているらしいぞ、会議に参加している各国は、外務大臣護衛艦隊で連合を組み、戦いの準備をしているらしい。

今この周辺海域にいる艦隊戦力は、世界でも有数だろうし、もちろん我が国の魔導艦隊もいるだろう。

そして、皆忘れていないか?

東の列強国だったパーパルディア皇国を滅ぼした、あのロデニウス連合王国の超大型戦艦も、今この周辺海域にいる。俺はその戦艦をちらっと見たんだが、ムーのラ・カサミ級よりも大きく、『グレードアトラスター』とすら並びそうな大きさだったよ。あれなら、『グレードアトラスター』とも戦えるはずだ。

これほどの戦力が、カルトアルパス周辺に集まっているのだ。ここは安全だよ」

「はっはっは、(ちげ)えねぇ」

 

 酔っ払いたちの(のん)()な話は続くのだった。

 

 

 その頃、カルトアルパス港湾管理局の局長ブロントは、2つの感情を抱きながら海を見ていた。1つは「期待」、もう1つは「恐怖」である。

 それも無理はない。彼が見たことのないような超巨大戦艦を持つ国、グラ・バルカス帝国。その国の軍が、世界最強の国家たる神聖ミリシアル帝国に挑んでくるという。

 先ほどから空を見ていると、ミリシアル空軍の誇る多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」や制空戦闘機「エルペシオ2」が、何機も編隊を組んでやってきて、カルトアルパス周辺の飛行場に舞い降りていく。そこから判断するに、おそらくそれは本当のことなのだろう。

 

 だが、彼は取り乱すでもなく、至って冷静だった。

 世界最強の国家たる神聖ミリシアル帝国が、テロならともかく他国の軍から攻撃されるなどということが、彼にとっては非現実的なことにしか思えなかったのだ。

 

 彼が港のほうを見ると、各国の外務大臣護衛艦隊が、続々と出港しつつある。それらの艦隊はいずれも、列強国を中心として「世界の強国の艦隊とは、かくあるべし」という姿を体現したような艦隊である。

 

「マギカライヒ共同体、機甲戦列艦隊出港します!」

 

 第二文明圏の準列強国とされる国の1つ、マギカライヒ共同体の艦隊が出港していく。この艦隊は、規模こそ旧レイフォル国の艦隊に劣るものの、単艦ごとの性能はレイフォル国の魔導戦列艦より上である。具体的には、マギカライヒ共同体の戦列艦は、旧レイフォル国のそれよりも質の高い対魔弾鉄鋼式装甲を装備している他に、地球でいう黒船のように(がい)(りん)を回して走るため、「風神の涙」を使用して12ノットの速力で走る通常の魔導戦列艦より早い、15ノットの速力を出すことができる。それに加えて、ムー国の科学技術を上手く取り込んでいるため、マギカライヒ共同体の戦列艦が備える魔導砲は3㎞もの射程を誇る。

 マギカライヒ共同体の機甲戦列艦は、第二文明圏周辺はもちろん、世界的に見ても高い戦闘力を持っている。

 

「アガルタ法国、魔法船団出港します!」

 

 中央世界において高い魔法技術を持つ国、アガルタ法国の魔法船団6隻が出港しつつある。見た目は普通の木造帆船にしか見えないが、そこにはアガルタ法国の秘めた力がある。

 

「ニグラート連合、竜母機動部隊出港します!」

 

 続いて、マギカライヒ共同体と並ぶ第二文明圏の準列強、ニグラート連合の竜母機動部隊が出港する。竜母4隻、戦列艦4隻の計8隻からなる艦隊だ。

 この竜母には1隻あたり12頭のワイバーンロードが搭載されており、4隻合わせて48騎の竜騎士がいる。彼らはいずれも、士気も練度も高い。

 そのニグラート連合の竜母機動部隊に続いて、今度は多数の機械動力艦からなる艦隊が出港しようとする。

 

「ムー国、空母機動部隊出港します!」

 

 第二文明圏最強の国家、列強ムー国の誇る機動部隊が、錨を上げてフォーク海峡へ向かう。その陣容は、戦艦2隻(「ラ・カサミ」含む)、空母2隻、装甲巡洋艦4隻、巡洋艦8隻という大規模艦隊である。

 数で言えば、今回の世界会議の参加各国の中では最も多い。そして質も高い。グラ・バルカス帝国軍にも対抗できるであろう、ムー国の機動部隊の出撃に、各国が期待する。

 そしてもう一国、各国が期待する国の艦隊がある。それは……

 

 

 ムー国の機動部隊の出港を待ちながら、堺はカルトアルパス港湾管理局に連絡を取っていた。

 

「こちらロデニウス連合王国、第一護衛艦隊。全艦出港準備よし。出港許可を求めます、どうぞ」

 

 本来、堺は各国の艦隊の中でも一番最初に、出港許可を申請していたのだが、文明圏の所属やら序列やらが優先されたせいか、何だかんだと引き延ばされてしまっていた。そのため、やっと出港許可が出た時には、ムー国をはじめとして他国の艦隊が続々と出港していた。

 

『こちらカルトアルパス港湾管理局、了解しました。ムー国の機動部隊の後に続いて下さい。健闘を祈ります』

「こちらロデニウス連合王国艦隊、承知しました。協力に感謝します」

 

 簡単な通信を終えると、堺は「(ゆき)(かぜ)」の艦橋に立ち、号令をかける。

 

「よし……行くぞ! 第一護衛艦隊、全艦出撃せよ!」

「連合艦隊の出撃です!」

 

 堺の号令に、"雪風"が気合いの入った返事を返す。その直後、無線からは仲間たちの頼もしい返事が聞こえる。

 

『戦艦(なが)()、出撃する!』

『第四艦隊、旗艦鹿()(しま)、出撃いたします! 皆さん、続いて下さいね!』

『駆逐艦(はつ)(かぜ)! 出撃します!』

『第一六駆逐隊(あま)()(かぜ)(ばつ)(びょう)よ!』

『いよいよ、第一六駆逐隊の出番かな!』

 

 全員、戦意は十分のようだ。

 

 

 ムー国の機動部隊の出港を、局長室から見送るブロント。

 ムー機動部隊の最後尾を務める装甲巡洋艦「ラ・シルム」が出港した直後、この会議に参加した国の中でもう1つ、グラ・バルカス帝国軍に対抗できると見られる国の艦隊が出港した。

 

「ロデニウス連合王国、第一護衛艦隊出港します!」

 

 そう、ロデニウス連合王国の艦隊である。

 かの国の艦隊は、戦艦「グレードアトラスター」に勝るとも劣らない大きさの巨大な戦艦を1隻保有しており、あの戦艦なら「グレードアトラスター」にも正面から対抗可能と思われた。その戦艦を含む艦隊が味方についてくれたことで、各国の面々は密かに期待していたのだ。

 当然、ブロントも期待している。あれだけの大型艦を有しているのであれば、もしかするとグラ・バルカス帝国軍を破ってくれるかもしれない。

 ブロントは期待と恐怖とを持って、続々と出港する強国の艦隊を見守っていた。

 

 

 今回出撃した艦隊は、以下の通りとなる。第一文明圏の国から順にまとめると、

 

・神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス在泊地方隊 シルバー級魔導巡洋艦8隻

・アガルタ法国 魔法船団6隻

・トルキア王国 戦列艦隊7隻

・ムー国 空母機動部隊16隻(戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦8隻、装甲巡洋艦4隻)

・ニグラート連合 竜母機動部隊(竜母4隻、戦列艦4隻)

・マギカライヒ共同体 機甲戦列艦7隻

・パンドーラ大魔法公国 魔導船団8隻

・ロデニウス連合王国 第一護衛艦隊6隻(戦艦1隻、練習巡洋艦1隻、駆逐艦4隻)

 

 である。なお、外務大臣一行が乗るのに使用していた非武装の民間船の類は、カルトアルパスの港に停泊したままになっている。戦闘にあたってはお荷物にしかならないので、当然であろう。

 また、エアカバーとして、ムー国の空母に搭載されている新型の艦上戦闘機「アラル」計50機、ニグラート連合のワイバーンロード計48騎の他に、エモール王国の風竜騎士団22騎、神聖ミリシアル帝国の多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」と制空戦闘機「エルペシオ2」が合わせて60機、そして第7制空戦闘団に配備された、神聖ミリシアル帝国空軍の誇る新型制空戦闘機「エルペシオ3」42機が、それぞれ護衛することになっている。

 

 

「雪風、艦隊内無線の通信回線を開いてくれ」

「はい!」

 

 堺の指示に従って、"雪風"が無線の通信回線を開く。

 

「はいどうぞ、司令官」

「ありがとう」

 

 電話の子機に似た形状の通信マイクを受け取り、堺は通信を開始する。

 

「全艦に告ぐ。提督の堺だ。重要な話があるので、総員傾注せよ。

まず、状況を簡単に説明する。一昨日の世界会議の席上で、グラ・バルカス帝国なる国家が、全世界に対して宣戦を布告した。宣戦布告の対象国家には、当然ながら我が国も含まれる。

そして今日、神聖ミリシアル帝国の地方隊がグラ・バルカス帝国軍と交戦し、被害を受けたとの知らせが神聖ミリシアル帝国政府から告げられた。だが、我が独立第1飛行隊の報告によれば、やられたのは地方隊ではなく、神聖ミリシアル帝国の新鋭戦艦らしき大型艦を含む、主力艦隊クラスの部隊だったそうだ。しかも、敵は(こん)(ごう)型にそっくりの戦艦2隻を主力とする水上艦隊で砲戦を仕掛けた後、約200機の航空機で攻撃をかけ、ミリシアル艦隊16隻を全滅させている」

 

 堺は一旦、言葉を切った。

 

「何が言いたいかというと、少なくとも敵は、正規空母3~4隻からなる空母機動部隊をこの周辺に展開している可能性が高い。しかも、水上艦隊のおまけ付きだ。

また、諸君も一昨日この港で、大和(やまと)型戦艦に似た戦艦を見ていただろう? あそこからも分かる通り、グラ・バルカス帝国の技術水準は、我々と同格かそれよりやや上だ。さらに言えば、グラ・バルカス帝国の航空機は我々の零戦や(すい)(せい)、九七艦攻に似ていたらしい。

要するに、これから戦うことになるグラ・バルカス帝国軍は、これまで我々が対峙してきたどんな敵よりも()(ごわ)い、ということだ。ここまではいいな?」

 

 堺が言葉を切ると、艦娘たちを代表して"長門"が答える。

 

『うむ。続けてくれ』

「次に、世界各国の艦隊や航空隊についてだ。それなんだが……はっきり言って、どの国もアテにならん。

まず、戦列艦と木造帆船は論外。爆弾どころか、機銃掃射だけで沈みかねん。風竜はその力が未知数なのでともかくとして、ワイバーンロードも零戦相手では戦えない。対パーパルディア戦争で、他ならぬ我々自身がそのことを立証してしまったからな。

ムー国の機動部隊は頼りになりそうにも見えるが、全く頼りにならない。何故なら、搭載している戦闘機は複葉機で、時速380㎞しか出せないときているからだ。さらに言うと、戦艦や巡洋艦も対空兵装を機銃しか持ってないし、レーダーやら高射装置やらがないから、対空射撃の命中率はお察しレベルだ。戦艦も、我が国の(しき)(しま)型戦艦程度の性能しかないので、大和型戦艦には対抗できん。てわけで、話にならん。

ついでに、神聖ミリシアル帝国の地方隊の巡洋艦も、あてにはできない。何よりまず高角砲がないし、機銃の門数も多くない。さらに独立第1飛行隊からの報告では、彼らの対空砲には近接信管どころか時限信管もなさそうだし、高射装置も見当たらない、とのことだ。これでは命中率はガタ落ちだ。頼りにならん。さらに言えば、魚雷のない巡洋艦8隻のみで大和型戦艦に挑むのは無謀だ。

というわけで、はっきり言うと我々6隻だけで、200機の航空機と水上艦隊、しかもニセ大和を含む艦隊を相手に戦わねばならない、ということになる」

 

 この話だけ聞いていると、各国の一流の艦隊をボロクソにこき下ろしているようにしか聞こえないが、()()である以上仕方がない。

 なお、堺はムー国の空母に搭載されている戦闘機は「マリン」だと思っている。「アラル」ことムー国産「九六式艦上戦闘機」が出てくるとは思っていないのだ。そのため、堺の発言は「マリン」を想定した説明になっている。

 

「さて、ここまでは事前説明。ここからは、作戦の説明になる。各自傾注せよ。

まず、敵が取ってくるだろう作戦の想定だが、敵の攻撃手段はおそらく航空機だ。何故なら、水上艦艇を沈めるには航空攻撃が一番効率が良いからだ。また、このフォーク海峡の地形自体も、航空攻撃に向いている。

となると、彼らが取るだろう作戦は、あのニセ大和で海峡出口に蓋をし、そして各国の艦隊が出られなくなったところを航空攻撃と艦砲射撃で叩く、というものになるだろう。

そして、それに対するこちらの作戦は、簡単に言えば『とにかくまっすぐフォーク海峡の出口を目指し、戦艦長門でニセ大和を食い止めている間に、自分たちだけでも脱出する』というものになる。

彼らの技術が我々のそれと似ている以上、彼らも我々の技術レベルは予想しているはずだ。いくらニセ大和だって、流石に長門型戦艦を無視することはできないだろう」

 

 堺はまた、一息入れた。

 

「各員の役割についてだが、まずは全員、とにかく急いで海峡の出口を目指せ。()()の戦力差を考えれば、世界各国の艦隊にまで構っている暇はない。情報共有くらいはするが、それが限界だ。各自、自衛を徹底せよ。

敵のニセ大和が出てきた場合は、長門、お前に任せることになる。『九一式徹甲弾』の水中弾効果も遠慮なく狙っていけ、お命大事だ。ただ……徹甲弾で撃ち合う前に一つ、やってもらいたいことがある」

『む、それは何だ? 提督よ』

「長門、最初の5斉射くらいは『三式弾』でやってくれ。あ、あと逆探は入れっぱなしにしとけよ」

『「三式弾」だと? わざわざ対空用の散弾を、対艦砲撃に使うのか? 何故だ?』

「もちろん、理由があってのことさ。目潰しだよ」

 

 "長門"は一瞬沈黙し、そして答えてきた。

 

『……なるほど、そういうことか。了解だ』

「頼んだぜ、長門。それ以外の者は、全員対空戦闘に意識を払え。ただし、敵が潜水艦を投入する可能性を否定しきれない。水中への警戒も怠るな」

『『『『「了解!」』』』』

 

 いい返事が返ってくる。

 

「よーし、その意気だ。各自気を引き締めていけ!

これより、『天一号作戦改二』を発動する! 絶対に、タウイタウイに生きて帰るぞ!」

『『『『『「はい!」』』』』』

 

 第一護衛艦隊の面々は、全員が一致団結してこの困難に当たることを決定した。

 

 

 各国臨時連合艦隊は、神聖ミリシアル帝国の地方隊に所属するシルバー級魔導巡洋艦(重巡洋艦相当)を先頭に、カルトアルパス湾を南下していく。その陣立ては、先頭が単縦陣(一列縦隊)のミリシアル艦隊、その次が複縦陣(二列縦隊)のロデニウス連合王国艦隊、その後ろに団子状にごちゃっとかたまった各国の艦隊が続く。最後尾を務めるのは、パンドーラ大魔法公国の魔導船団だ。本来の出港順と入れ替わりが生じているが、これはロデニウスの「第一護衛艦隊」の速力が速かったためである。

 そんな中、最初に敵の接近に気付いたのは、ミリシアル艦隊ではない。ミリシアル空軍基地の魔力探知レーダーでもない。ロデニウス連合王国の艦隊だった。

 

『提督!』

『提督さん!』

 

 "長門"と"鹿島"が同時に、無線通信で堺を呼び出す。

 

「む……鹿島、ちょっと待ってくれ。長門、どうした?」

 

 堺は先に"長門"からの通信を受けることにした。

 

『こちら長門、13号対空電探改に感あり。艦隊よりの方位330度、距離165㎞』

「165㎞か。元々13号電探は150㎞まで探知可能だから、この星はやっぱり地球に比べて大きいらしいな。

それは置いておいて、敵の数と速度は?」

『少し待ってくれ……算出した。

敵速は、時速約350㎞。あと約30分でこちらに到達する。数は……お、およそ200!』

「200か! いきなりフルで出してきやがったな。そして妙に脚が遅いな」

『ああ。まるでワイバーンロード程度の脚しか出ていない。

提督よ、この遅さの理由は分かるか?』

「もちろん」

 

 堺は、"長門"の質問に明快に答えた。

 

「おそらく雷撃機だな。脚の遅い雷撃機に合わせて、編隊を組んでいるんだろう。

独立第1飛行隊からの報告では、ミリシアル艦隊を破った航空部隊には、九七式艦攻に似た雷撃機が約80機いたということだ。多分それが、こちらを狙っている」

『雷撃機80か。厄介だな』

「ああ。ただ、奴らはカルトアルパスへの爆撃も行おうと考えている可能性がある。そうなると、この艦攻の全部が魚雷装備って訳ではないだろう。だが、多分50機は魚雷を抱えているはずだ。

そして長門、おそらくお前が狙われる。警戒を怠るなよ」

『心得ている』

 

 "長門"ははっきりと答えを返してきた。

 

「よし。では長門、対空戦闘の準備を。

すまない鹿島、待たせた。どうした?」

 

 堺は、今度は"鹿島"の通信を受ける。

 

『えっと、長門さんと同じです。13号電探改で敵機大編隊を捕捉しました。艦隊よりの方位330度、距離165㎞、速度は時速約350㎞。あと約30分でこちらの上空に達します。数、およそ200!』

「OKだ。長門とお前で同時に捕捉したってことは、レーダーの誤反応とかではなさそうだな。

そのまま対空警戒を。あと、対潜警戒も念入りに続けてくれ」

『はい!』

 

 歯切れの良い返事をし、"鹿島"は通信を切った。

 

「雪風、艦隊内無線を」

「はいっ!」

 

 "雪風"に指示を出しながら、堺は素早く状況を整理した。

 会敵まであと約30分。敵は200機。おそらく、戦闘機と爆撃機と雷撃機の比率はこのくらいで、狙われるのは……

 

「はいどうぞ、司令官」

「ありがとう」

 

 "雪風"からマイクを受け取り、堺はスイッチを入れた。

 

「提督の堺だ。全艦に告ぐ。

長門と鹿島の対空電探が、敵機大編隊の接近を捉えた。艦隊よりの方位330度、距離165㎞、あと約30分で会敵する。

数は200。比率はおそらく、戦闘機60、急降下爆撃機60、雷撃機80だ」

「にひゃっ……!」

 

 通信を聞いた"(とき)()(かぜ)"が、小さく息を呑む。

 

「これは厳しいわね……」

 

 "天津風"も冷や汗を流した。

 他の艦娘や妖精たちも、皆騒然となっている。

 

「すごい数だ。(あっ)()()(さつ)の群れと言っても良い。そんな敵と、これから戦わなければならない。はっきり言って、坊ノ岬沖海戦の再来だ。

だが、我々はこの地獄を切り抜け、何としてでもタウイタウイに帰還しなければならない。

全艦、両舷対空戦闘用意! 近接(VT)信管も遠慮なく使え、出し惜しんで死ぬな! 何としてでも生き延びろ! 最後の一瞬まで、生存の努力を諦めるな!」

『『『『『「はいっ!」』』』』』

 

 無線からは、各艦娘たちの歯切れの良い返事が返ってくる。士気は十分のようだ。

 

「見張り員諸君は、対空警戒の他に対水上、対潜警戒も厳となせ! 各艦の応急(ダメコン)班と医療班は、万全を期して待機! 機関班は、26ノットを出せるようにスタンバイしろ! 手空きの妖精諸君は総出で、見張りを手伝うか対空機銃の弾を運ぶかしろ。潜水艦に警戒を怠るな! あと、」

 

 ここで堺は、妙な命令を出した。

 

「高角砲弾と機銃弾を用意するのと同時に、炭素棒もありったけ用意しろ!」

 

 パッと聞いたら、何のためにこんな命令を出したのか、よく分からない命令である。

 だが、歴戦の妖精たちは即座にこの命令の意図に気付いた。そして、言われた品を然るべき所に運び始めたのだった。

 

 

 カルトアルパス港をを出た各国臨時連合艦隊は、平均12ノットの速力で南下していく。これは、各国の艦艇が発揮可能な速力の限界によるものだ。ロデニウス連合王国の艦隊は最も脚の遅い「長門」でも26.3ノット、神聖ミリシアル帝国の巡洋艦は最高30ノットを出せる。ムー艦隊とパンドーラ大魔法公国の船団は最高速度15ノット(戦艦に合わせた速度)であるが、トルキア王国やアガルタ法国、ニグラート連合といった「風神の涙」を搭載した帆船や戦列艦を使っている国の艦隊は、どれだけ頑張ろうがだいたい12ノットが限界なのである。よって、それに合わせざるを得なかったのだ。

 そのうち、ムー艦隊の旗艦である戦艦「ラ・カサミ」に乗り込んでいる司令官ブレンダス・レーベル少将は、初めての対グラ・バルカス帝国戦を前にして、闘志を燃やすとともに自信を見せていた。彼が率いているのは機動部隊16隻……戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦8隻、装甲巡洋艦4隻からなる艦隊である。

 しかも、戦艦のうち1隻はムー国の誇る強力な戦艦であるラ・カサミ級、空母はムー国の主力空母ラ・コスタ級であるし、巡洋艦にしてもムー海軍の主力艦ばかりである。これらの艦は、第二文明圏の他国の艦とは比較にならないほど強力な艦ばかりである。

 

 もし今ここにいるのが、ロデニウス連合王国軍の戦闘を目の当たりにしているリアスやラッサン、あるいはムー国でもトップクラスのロデニウス通にしてムー統括軍きっての技術士官マイラスであったなら、自信など持ってはいないだろう。リアスやラッサンは、ロデニウス連合王国との交流の中でグラ・バルカス帝国の力や戦術を教えてもらっているから、自信を持つどころか警告を発するだろうし、マイラスは技術的な視点から冷静に、この多国籍連合軍の戦力とグラ・バルカス帝国の戦力を比較していただろう。

 だが、ブレンダスは自らの指揮する艦隊に絶対の自信を持っていた。また、「第二文明圏の列強たるムー国が、グラ・バルカス帝国なる文明圏外国などに負けるはずがない、それどころか圧勝できる」と考えてもいた。

 

 ちなみに、神聖ミリシアル帝国に迫る国力を持つとされる、第二文明圏の列強ムー国。その他国とは隔絶した国力・技術力から、近年のムー国は他国からの武力侵略を受けていない。

 

「ミニラル艦長、今回の戦いについて、どう見る? 敵の戦力の規模が不明だが」

 

 ブレンダスは、自分の隣に立つ小太りの男性……戦艦「ラ・カサミ」の艦長ミニラル・スコット大佐に話しかける。

 

「そうですね、確かに敵の戦力が不明です。ですが、奴らの目的に関しては想像がつきます。

おそらく敵の目的は、各国の外務大臣護衛艦隊に恥をかかせること……それと、カルトアルパスの街に一撃を与え、神聖ミリシアル帝国の顔を潰すことだと思われます。

敵戦力についてですが、かの国からの距離を考えると、そう大軍を送り込むことは難しいでしょう。

一方、こちらは数は多いですが、混成部隊です。失礼を承知で申し上げるならば、通常の文明国の艦隊は、弾除けにしかなりますまい」

 

 ミニラルは一度言葉を切り、そして続けた。

 

「相手の数が少ないならば、弾除けとなる通常文明国の艦隊を盾にしつつ接近することで、距離を詰めて攻撃することも可能かと思います。敵の戦艦は、確かに図体は大きかったですが、脚は速くないと見えますので」

「なるほど。では、弾除けにならないだろう艦について、お前はどう考える?」

「そうですね……少なくとも、ロデニウスの戦艦は弾除けどころか、有力な戦力となるでしょう。見渡してみますと、あのような巨艦は1隻だけです。あれなら、グラ・バルカス帝国のあの巨大戦艦とも、互角にやり合うことができるでしょう。

また、我がムーの艦隊はもちろん、神聖ミリシアル帝国の地方隊についても、有力な戦力になると思われます。それ以外の艦は、こんな言い方をして申し訳ありませんが、弾除けですな」

 

 ミニラルはそう言いながら、前方を見つめた。

 南のフォーク海峡を目指してひた走る各国の艦隊、その先頭のほうに巨大な戦艦が1隻航行している。もちろん、ロデニウス連合王国の戦艦「長門」である。

 

(煙突から黒煙を吐いている……我が国の戦艦同様、石炭か石油を動力とする機械動力艦か。あの戦艦は、我が国のラ・コンゴ級戦艦よりも大きいようだ。我が国にも、あんな巨大戦艦が作れるようになるだろうか?)

 

 ミニラルはそんなことを考えながら、言葉を続けた。

 

「情報通信部や技術部からの情報では、ロデニウス連合王国海軍の艦隊は、圧倒的な戦闘力を持つとか。彼らがどう戦うのか、実のところ楽しみです。

今回の戦いは激戦となるのは確実ですが、我々が負けるということはないでしょう」

「そうか」

 

 ミニラルの意見に、ブレンダスが頷いた時だった。

 

「む? ……司令! 艦長!」

 

 通信機を操作していた乗組員が、声を上げた。ブレンダスが応じる。

 

「む、どうした?」

「ロデニウス連合王国艦隊の司令官から、入電がありました!」

「読め」

「は! 『我、グラ・バルカス帝国のものと思われる航空機の大編隊を探知せり。艦隊から見て11時の方向、距離165㎞、数は200』……に、200!? 『あと30分で会敵する公算大』とのことです!」

「なんだと!?」

「何!?」

 

 ブレンダスとミニラルは、一緒に驚いた。

 

「ロデニウスの艦隊は、そんな165㎞も先の敵をどうやって探知したのだ!?

……いや、それは一旦置くとしても、敵の数が200機だと!? 馬鹿な……!」

 

 ブレンダスがおろおろする。

 

「いかがいたしますか、司令!?」

 

 一瞬動揺したものの、ブレンダスは直ぐ様指示を発した。

 

「直掩機を上げろ! 200機という敵の数は多い。空母にいる機体は全て上げるんだ! 早くしろ!」

「はっ。装備の種別は如何いたしますか?」

「艦隊上空の防衛を優先する。機銃のみで良い、全て上げて、艦隊上空のエアカバーを行え!」

「は!」

 

 直ちに2隻のラ・コスタ級空母は、戦闘機の発艦準備に入る。

 エレベータに乗せられたのは「マリン」戦闘機……ではない。新型の全金属製艦上戦闘機「アラル」である。ムー国内で生産された「九六式艦上戦闘機」が甲板に上げられ、プロペラエンジンが轟音と共に始動する。搭乗員が次々と甲板に駆け上がり、「アラル」に乗り込んでいく。

 搭乗員が乗り込んだ「アラル」は、順番にゆっくりと飛行甲板を走り出す。そしてラ・コスタ級空母の飛行甲板を目一杯使って走り、高速で風を捉えて甲板から離れ、空へと舞い上がる。

 青い空へと飛び立っていく、全身白く塗装された固定脚を持つ幾つもの機体。それと一緒に、ニグラート連合の竜母からも飛竜が……この世界の主要な文明国の航空戦力であるワイバーンロードが、飛び立っていく。

 ムー国が誇る新鋭主力戦闘機「アラル」の編隊と、ニグラート連合のワイバーンロード部隊の編隊の姿に、世界各国の外務大臣護衛艦隊の者たちは心強いものを感じ、勝利を確信するのだった。

 

 ……ただ一国、ロデニウス連合王国海軍の者たちを除いて。

 

(ムーとニグラートが、航空戦力を出してきたか)

 

 艦隊の上空を舞い始めた竜と航空機を見て、堺は考えた。

 

(あいつらは多分、艦隊防空がその役割だな。……ん!? ムーの空母が出してるあれ、九六式艦上戦闘機じゃねえか! まあそれでも、10分も保てば御の字だが。

んで、肝心の神聖ミリシアル帝国の空軍がどう出るかが、問題だな。ミリシアルの連中の行動如何によっては、こちらの高角砲による迎撃に影響が出る。ミリシアルの連中の動き次第だな)

 

 そう考えつつ、堺は引き続きどうやって戦うべきか、頭を悩ませた。

 

 

「何っ? ロデニウス連合王国の艦隊が、敵機を探知した?

……馬鹿な! 艦隊から見て11時の方向、距離165㎞、機体数約200だと!?」

 

 ロデニウス連合王国艦隊から放たれた通報は、魔信と無線の両方で各国の艦隊にも通報された。勿論、神聖ミリシアル帝国の航空基地にもこの通報が送られている。

 だが、ミリシアルの航空基地の職員たちは、この通報に愕然としていた。

 

「165㎞先の敵を探知するだと……!? まさかロデニウス連合王国は、我々よりも優れた魔力探知レーダーを持っているのか!?」

「馬鹿を言うな! 魔力探知レーダーの開発には、我々も苦労したんだぞ! 第三文明圏外国に、そんな高度な代物が開発できる訳がないだろ!」

 

 そう、彼らは2つの意味で驚いている。1つは、敵の数である。そしてもう1つは、ロデニウス連合王国が自分たちよりも先に敵を捕捉した、ということだった。

 文明圏外国に、レーダー技術で上回られた。この通報が意味するものは、そういうことである。これは、神聖ミリシアル帝国にとっては屈辱でしかない。

 

「誤報だろうか?」

「そうかもしれん。レーダーを艦隊から見て11時の方向に向けろ!」

 

 ミリシアル航空基地の職員たちは、ロデニウス側が誤報を伝えてきたのかと思い、魔力探知レーダーを報告された方向に向ける。そして、

 

「魔力反応を多数探知! 敵機大編隊が接近中! 艦隊から見て11時の方向、距離135㎞、数はおよそ200!」

 

 誤報ではなかったことが証明された。証明()()()()()()()

 

「なんてことだ……!」

「ロデニウスという第三文明圏外国に、レーダー技術で我が国が負けるとは……!」

 

 基地の職員たちは、揃って愕然とする。

 神聖ミリシアル帝国が……世界最強の呼び声も高い、世界一の魔法技術を持つ国家が、第三文明圏外国にレーダー技術で負けた。それは、大きな衝撃であると同時に屈辱であった。

 

「馬鹿者ども! それは今は置いておけ! それより迎撃だ! 戦闘機を上げろ! 早くするんだ!」

 

 基地司令が一喝し、職員たちは慌てて迎撃指令を出し始めた。

 命令を受けて、滑走路でスタンバイしていた機体…神聖ミリシアル帝国空軍の誇る最新型の制空戦闘型天の浮舟「エルペシオ3」が、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの音を高めていく。

 

キイィィィ……ゴオオォォ!

 

 エンジン音は一気に轟音に変化し、機体後部のコンダイノズルから猛烈な気流が発生する。

 次の瞬間、「エルペシオ3」は滑走路を走り出し、()(じく)を蹴って空へ飛び立った。

 

 「エルペシオ3」。それは、分類としてはジェット機にカテゴライズされる。その外見的特徴は、研ぎ澄まされた刀のようにすらりとした機体形状と、機首にある機体下部をぐるりと半周するエアインテークである。

 パッと見はなかなかカッコいい機体であり、強そうに見える…が、現代地球の戦闘機を見慣れた我々からすると、妙にチグハグな印象を与える機体である。

 まず、ジェット機なのに主翼がテーパー翼であり、後退翼やデルタ翼ではないのである。ちなみにテーパー翼とは、真横に真っ直ぐ伸ばされた形状の翼の1つで、簡単に言えば翼の付け根から先端にいくに従って、翼の太さが細くなっていく翼である。

 それで、これが何を意味するかというと、この機体は超音速(マッハ)を出すことができない、ということである。というのは、超音速を出すと発生する衝撃波から主翼を守るために開発されたのが、後退翼やデルタ翼だからである。それが使われていないということは、必然的に音速超えは不可能である。

 そして、主翼がテーパー翼なのに尾翼はしっかり後退翼になっていて、機首もジェット戦闘機相応の形状であるから、余計にチグハグである。

 

 ちなみにであるが、この「エルペシオ3」の最高速度は時速530㎞。繰り返すが、時速530㎞。

 ジェット機にあるまじき遅さである。これなら、「(れっ)(ぷう)一一型」(最高時速624㎞)や「零戦52型」(最高時速565㎞)の方が速い。最高速度でレシプロ機に負けるジェット機とは、これ如何に。

 

 その他にも機体をよく見ると、境界層隔壁(ダイバータ)が見当たらなかったり、コンダイノズルとテールコーンが同棲していたりする。説明が長くなるので詳細は各自でググっていただきたいが、これが意味するのは「非常に非合理的な設計である」ということである。

 

 なんでこんな非合理的な設計なのかというと、それは神聖ミリシアル帝国の技術や学問における考え方に原因がある。

 神聖ミリシアル帝国が使っている技術は、そのほとんどが古の魔法帝国の遺跡や遺物を解析したものなのである。ところが、古の魔法帝国の技術が高度過ぎて、ミリシアル側は「なんでこんな機構になっているのか分からないけど、とりあえず真似してみる」という格好になってしまっているのである。

 要するに、基礎技術や機構解析もろくにできないまま丸パクりしているだけであるために、こんな非合理的な設計の代物がまかり通っているのである。

 また、神聖ミリシアル帝国の学問においては魔法・魔導技術の研究発展が至上命題とされ、科学や基礎物理に対する理解がおざなりになっている。これもまた、ミリシアルの工業製品などに暗い影を落としていた。

 

 実は「エルペシオ」シリーズの戦闘機のエンジンからして、本来は戦闘機に用いられるエンジンではないのだ。「エルペシオ」の胴体に収まっている魔光呪発式空気圧縮放射エンジンは、なんと輸送機に使われるような高バイパス比エンジンなのである。要するに旅客機に使われるジェットエンジンを、ターボファンのブレードを無理やりぶった切って戦闘機のスマートな胴体に収めているのである。これはひどい。

 また、超音速で飛ぶと衝撃波が発生する、ということくらいはミリシアルでも知られているものの、「なぜ高速飛行時にエンジンに上手く空気が流れ込まないのか」などといったことはほとんど注意されておらず、対策も取られていない。そのために「エルペシオ3」になってもダイバータが設置されておらず、超音速飛行もできないのである。

 

 これは何も、戦闘機に限ったものではない。軍艦にしても他の兵器にしてもそうなのである。

 「世界最強」の真の姿がこの始末。これでは、「古を模倣帝国」と呼ぶ他はないと筆者は愚考する。

 

 

 ともかくも、発進した第7制空戦闘団の42機の「エルペシオ3」は、編隊を組んで南東の方向を目指して飛び、各国の外務大臣護衛艦隊の頭上を超えていく。上空を飛ぶ神聖ミリシアル帝国の誇る航空機を見て、各国の者たちは沸き立ち、勝利は疑い無いと信じていた。そんな中、

 

「んー……?」

 

 駆逐艦「雪風」の艦橋から空を見上げていた堺は、この「エルペシオ3」を見て呟いた。

 

「え……遅くね?」

 

 そう、堺の目から見ると、「エルペシオ3」は遅いのだ。形状から考えてジェット機であることは間違いない。だが、やけに遅い。レシプロ機並みの速度しか出ていないのだ。

 これはおかしい。堺は猛烈な違和感を抱いた。

 

「なあ雪風、今頭上を飛んでいる機体の速度って、どのくらいか分かるか?」

「はい! ちょっとお待ちください……出ました、だいたい時速530㎞です!」

「は!?」

 

 少々舌足らずな声で報告してきた"雪風"に、堺は思わずすっとんきょうな声を上げた。

 

「530!? それマジで言ってんの?」

「大真面目ですよ?」

「計算間違いとかは?」

「ありません」

「そ、そうか。しかし、何だこれは……たまげたなぁ……。うちの零戦より遅いじゃねえか。なんでだ? ジェット機といえば速度がウリで、700㎞くらいは出るはずなんだが……」

 

 言いながら、堺は空を見上げて「エルペシオ3」を観察した。そして、あることに気付く。

 

「あっ!?」

「な、なんでしょう? 司令官」

 

 堺が上げた大声に、"雪風"がビクッとして話しかけてくる。だが堺は、自身の考察に夢中になっていた。

 

(主翼がテーパー翼だと!? デルタ翼やら後退翼じゃなくて!? 尾翼はしっかり後退翼になっているし、機首もジェット戦闘機相応のものなのに?)

 

 その瞬間、堺は違和感の正体に気付いた。

 

(尾翼が後退翼ってことは、元々あの機体は主翼も後退翼になっていたはず……。

まさかあの機体……エンジンが非力すぎてマッハが出ないのか! 「(きっ)()」と同じパターンか!)

 

 堺は、頭を抱えたくなった。

 「橘花」とは、第二次世界大戦末期に日本軍が設計していたジェット戦闘機である。ドイツの誇る「Me262」をコピーするような格好で作られた。しかし、日本はドイツほど工業技術が進んでいなかったため、せっかくネ20エンジン(日本製ジェットエンジン)を作ってはみたものの、その出力はドイツのエンジンほど優秀ではなかった。そのため、「橘花」は設計が変更され、コピー元の「Me262」が後退翼であるところをテーパー翼にして作られていた。堺の言う「橘花と同じパターン」とは、そういうことである。

 ちなみに、現在タウイタウイ泊地の第五航空戦隊に専属配備されている「橘花改」は、妖精さんの謎技術を駆使した結果、ネ20エンジンを改修して「Me262」のエンジンと同程度の性能を発揮できるようにされている。このため機体も再設計され、しっかりと後退翼を使用している。

 

(なんてこった……しかも、「橘花」より性能悪いじゃねえか!

あの機体はおそらく、技術的には地球の黎明期のジェット機相当の性能だろう。だが、黎明期のジェット機といえば、速度は出るものの加速力や旋回性能は劣悪で、格闘戦ではレシプロ機に勝てんものだった。当時のジェット機の唯一の売りが、圧倒的な速度だった。

これでは……あのミリシアルの機体、零戦擬きに勝てんぞ……)

 

 考え込んでいた堺は、"雪風"に服の裾を引っ張られた。

 

「あの、しれぇ? 大丈夫ですか?」

「あ? ああ、すまん。考え事をしてた。

雪風、あのミリシアルの機体だが……ありゃダメだ。グラ・バルカス帝国の戦闘機に勝てんわ」

「なんでですか? 司令官」

「うん、まずあの機体は噴式機。つまりジェット機だ。それも、地球でいう黎明期のジェット機だろう。要は、橘花と同じだ」

「橘花っていうと、ウチでも運用してますよね?」

「ああ。だがな、黎明期のジェット機ってのは、速度は時速700㎞とか出すことができて、これは大概のレシプロ機より速い速度だ。けど、加速力とか、旋回性能とかの運動性能は、レシプロ機に負けるんだ。黎明期のジェット機って、そういうもんなんだよ。

で、だ。あのミリシアルの機体なんだが、ジェット機のくせに零戦より遅い速度しか出ていない。

今回の場合は、ミリシアルにとっては『敵に領空に侵入される』という非常事態が発生していて、かつミリシアル側としては、各国の艦隊にいいとこを見せなきゃならん。だから、あの戦闘機隊は全速で飛んでいるはずなんだ。そう考えると……」

「しれぇ、ということは……あの機体って、役に立つんですか? 敵を追い返せる気がしないんですけど」

「ああ、役に立たん」

 

 バッサリと言いきる堺であった。

 

「あんな性能じゃ、残念だがグラ・バルカス帝国の戦闘機に勝てんな。ほとんど返り討ちで終わるだろう。

そして雪風、この後の対空戦闘はおそらく地獄そのものになる。かつてお前さんが経験した『坊ノ岬沖海戦』のようにな。覚悟はいいな?」

「大丈夫です! 沈むわけにはいきませんっ!」

「よーし、その心意気だ!」

 

 

 さて、堺におもいっきりディスられているとは露知らず、第7制空戦闘団の42機の「エルペシオ3」は南東に向けて飛び続けている。

 第7制空戦闘団の団長シルバー中佐は、「エルペシオ3」を駆っての初の空中戦を前に、緊張していた。

 だが、緊張してはいても、彼は頭が真っ白になってどういう戦法を取るべきか忘れた、なんてことにはならない。

 

「全機、高度5,500メートルまで上昇せよ。下方の警戒を厳となせ」

『『『了解!』』』

 

 魔信からは、部下たちの勇ましい返事が返ってくる。42機の「エルペシオ3」は一斉に機首を上げ、上昇し始めた。

 これは、ムー国の戦闘機やエモール王国の風竜騎士団を相手にすると想定した時の、神聖ミリシアル帝国空軍の空戦方法である。

 ムー国の戦闘機「マリン」に対しては、そもそも機体の性能差があるため、一撃離脱は特に有効とされる。

 また、エモール王国の風竜騎士団を相手にする場合は、竜騎士の呼吸が続かないような高空まで飛び上がった後、位置エネルギーを味方に付けて、速度を落とさず、一撃離脱で戦うことが有効であるとされていた。

 

 シルバーは、グラ・バルカス帝国の航空機と戦うにあたっても、この一撃離脱戦法は有効だと考えていたのである。

 そこへ、カルトアルパスの基地から魔信が入ってきた。基地司令直々の魔信である。

 

『諸君、間もなく君たちは、グラ・バルカス帝国の航空機200機との戦いに突入するだろう。確かに君たちは、機体の数は少ない。しかし、臆することはない。

君たちは、この世界最強の国家の、最新鋭の戦闘機を駆る精鋭の飛行隊なのだ。

初の最新鋭機による実戦、それも魔法文明 対 科学文明の戦いだ。機械動力の航空機ごときに、魔法文明最強の天の浮舟が負けるわけにはいかない。

我らの誇りは、諸君の双肩にかかっているといっても過言ではないだろう。

諸君の活躍に期待する。諸君に、戦神の導きあらんことを』

 

 そして、司令は魔信を切った。司令からの魔信に、シルバー含めパイロットたちの士気は、天を衝かんばかりに高まった。

 

 そのしばらく後、彼らはついに敵機を発見したのである。

 

「敵機大編隊、発見! 左30、下方45!」

 

 部下の1人からの報告に、シルバーは下方を見た。

 報告通り、敵機の大編隊がカルトアルパスの方向に向けて飛んでいる。真っ黒の雲のようだ。

 

「数が多いな……」

 

 シルバーは呟く。そして敵機をよく観察するが、どれが制空戦闘機でどれが爆撃機なのか、よく分からない。

 

「ムーの飛行機械を尖らせたような格好だな……」

 

 彼は呟いた。

 敵機はどれも、胴体の中でも低いところに翼があり(これを専門用語で「低翼を採用している」という)、機首に大きなプロペラが1つ付いている。だが、飛行速度や機体の大きさから考えると、ムー国の機体よりも強力そうだ。

 

(とにもかくにも、まずは敵に一撃を与えなければ……!)

 

 そう考えたシルバーは、指示を飛ばした。

 

「全機に告ぐ! まずは敵の先頭集団をやるぞ!

敵編隊上方から突入し、そのまま敵中を突っ切って敵編隊後方に抜ける!」

『『『了解!』』』

 

 頼もしい部下たちの声。それを聞き、シルバーは操縦桿をぐいっと手前に引いた。

 「エルペシオ3」の機体が機首を下に向け、敵編隊に向けて突っ込んでいく。魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの音がどんどん高くなり、機体のスピードが上がっていく。それと同時に、機体の振動も激しくなる。

 その時、

 

「!?」

 

 突然、シルバーの背筋を殺気が貫いた。

 反射的にシルバーは、殺気を感じた方向……太陽のほうを見上げる。光の眩しさに彼が目を細めた、その時。

 太陽の中に、いくつもの微かな黒い点が見えた。

 

「!!!」

 

 敵の意図に気付き、シルバーは魔信に叫ぶ。

 

「敵襲だ! 前方上空、太陽の中から来るぞ!」

 

 第7制空戦闘団の「エルペシオ3」が、一斉に機体を翻しにかかった。それとほぼ同時に、太陽の中から赤い光を引く曳光弾が飛んできた。ついで、鈍い連続音がする。敵の機銃の射撃音だ。

 第7制空戦闘団は、回避行動にかかりはしたものの、少しばかり遅かった。

 5機の「エルペシオ3」に、真っ赤な()(せん)が突き刺さる。次の瞬間、ある機体は胴体に開けられた大穴から炎を噴き上げ、ある機体は翼をへし折られて錐揉み状態となって墜落していく。別の機体は空中で木っ端微塵にされた。

 敵機20機が太陽の中から現れ、第7制空戦闘団とすれ違う。

 

「お……おのれ!」

 

 奇襲で部下を5人も失った怒りに駆られ、シルバーは叫ぶ。

 目の前の敵を放置する訳にもいかないと、第7制空戦闘団は敵機との交戦に入った。各機が散開し、敵機と空戦を開始する。

 

 先手は取られたが、相手は20機。対してこちらはまだ37機いる。数ではこちらが勝っている。勝てる。

 シルバーはそう考えていた。

 

 ところが。

 

『くそっ、また後ろに付かれた! ふ、振り切れない! がぁっ!!』

 

 悲鳴のような魔信が切れ、味方が1機、燃え盛る赤い流星となって落下していく。

 

『そ、そんな! 旋回能力が違いすぎる! 後ろに付けない! そして敵機が後ろに……!』

 

 また1機、今度は両方の翼をもがれ、錐揉みになって墜落していく。

 

『馬鹿な! 上昇能力でも勝てないだと!? ぐあっ!!』

 

 今度は、敵機の上昇能力についていけなくなって反転したところを背後から狙われ、機体を空中分解させられる。

 「エルペシオ3」が……神聖ミリシアル帝国の誇る最新型の制空戦闘型天の浮舟が、1機また1機と失われていた。

 まさに乱戦である。その最中、シルバーは自身の機体を駆りながら、絶望感を感じていた。

 世界最強の国家たる神聖ミリシアル帝国、その空軍が誇る最新型の制空戦闘型天の浮舟が、数では優勢であるにも関わらず、次々と撃墜されていく。それも、グラ・バルカス帝国という文明圏外国の飛行機械によって。

 

 神聖ミリシアル帝国は、古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)の技術を解析し、それに基づいて武器を強化してきた。これは、来るべきラヴァーナル帝国との戦いの際に、世界の全種族を守る盾たらんため、そして敵を討つ矛たらんためである。

 それが、たかだか文明圏外国の飛行機械に、遅れを取っているのだ。

 

「おのれぇぇぇぇぇ!」

 

 ()えながら、シルバーは1機の敵の後ろにつく。しかし、シルバーが機銃のトリガーを引く瞬間、敵機は急に上昇した。それにより、シルバー機の攻撃は空を切った。

 一撃は避けられたが、機体を上昇させ、反射的に敵機を追うシルバー。その時、照準から敵機が消えた。

 

「っ!? 消えた!?」

 

 敵は、地面に対して翼が垂直になるように機体を傾け、意図的に失速状態を作り出して、シルバーに追い越し(オーバーシュート)をかけさせたのだ。そして、

 

「なっ!?」

 

 シルバーが追い越していったのを確認するや、再び加速してシルバー機に追いすがったのだ。いわゆる「木の葉落とし」という技である。

 恐るべき身軽さ、そして加速力である。「エルペシオ3」には、あんな機動はとれない。

 

「くそ!」

 

 シルバーは機体を旋回させ、相手を振り切ろうとするが、全く振り切れない。敵はしっかりと食い下がってきている。

 

「くそ……」

 

 「エルペシオ3」のエンジンは悲鳴を上げているというのに、敵機は平気でついてきている。どう足掻いても、逃げられない。

 

「くそっ! ちくしょおぉぉぉぉっ!」

 

 シルバーが悔しさを滲ませた叫びを上げる。

 その直後、シルバーの乗る「エルペシオ3」は、敵機…グラ・バルカス帝国軍のアンタレス型艦上戦闘機から、20㎜機銃の太い火箭を突き立てられ、バラバラになって墜落していった。

 

 

 神聖ミリシアル帝国のカルトアルパス空軍基地では、魔力探知レーダーの操作員が、水晶体の画面を見て、信じられない思いを抱いていた。

 この魔力探知レーダーは、生物や物体が発する魔力を探知し、その魔力発生源を光点として水晶体画面に映し出す仕掛けである。また、光点の大きさが魔力の大きさを示している。

 現在、レーダーには小さな点と大きな点が入り乱れて映っていた。大きさから考えて、小さい反応はグラ・バルカス帝国軍のものだろう。というのは、グラ・バルカス帝国の航空機は飛行「機械」であるため、魔力を発しないのだ。そのため、中に乗っているパイロットの魔力しか反応せず、光点の大きさは小さいのである。もう一方の大きな光点は、「エルペシオ3」のものだ。

 そして今、その大きな光点は、次々と消えていっている。ということは、それが意味しているのはただ1つ。

 

(え、「エルペシオ3」が、片っ端から撃墜されている……!)

 

 操作員が驚いている間に、大きな光点は全てなくなってしまった。

 驚き冷めやらぬまま、彼は大声で報告する。

 

「大変です! 魔力探知レーダーから、第7制空戦闘団の反応が全て消えました! 全滅と思われます!」

「「「「「!!!」」」」」

 

 基地司令部に、凄まじい衝撃が走った。

 

「そんな、そんなバカな! 最新型の機体を装備した、練度の高い精鋭部隊なんだぞ! レーダーの故障という可能性はないか!?」

 

 血相を変えた基地司令が、レーダーの画面を覗き込む。

 

「レーダーの故障は、現在確認できません!」

「まずい! 新型機も旧式機も、上げられる機体は全部上げろ! ジグラントでも構わん、本土に近付けさせるな!

それと、エモール王国の風竜騎士団に応援要請を送れ!」

「はっ!」

 

 基地職員が命令を伝達する傍らで、基地司令は呟いた。

 

「まずいな……。このままでは、先進11ヶ国会議に参加した各国の外務大臣護衛艦隊の上空直衛が、ムーの飛行機械とニグラート連合のワイバーンロードのみになってしまうぞ……」

 

 基地司令の焦りをよそに、基地は大騒ぎとなり、職員が慌ただしく行き来し、航空機を飛ばす準備が始められた。

 

 

 そして、ミリシアル空軍全滅の様子は、ロデニウス艦隊にも捕捉されていた。もう艦隊から見て目視圏内に入っているので、当然ではあるが。

 

『提督よ、どうやらミリシアルの航空隊は全滅だ。敵機は、3機くらいは減ったかもしれんが、ほぼ減ってないとみていいだろう』

「だろうな。そして長門、準備はいいな?」

『愚問だ。新型の対空砲弾、準備はできている。いつでも撃てるぞ。

あと、敵機の近くに友軍機がいないのも確認済みだ』

 

 "長門"の言葉通り、艦体前部に設置された2基の「41㎝連装砲」は新型の対空砲弾を装填し、長い砲身に仰角をかけていた。砲口は真っ直ぐ、敵機の大編隊を見据えている。

 

「よし。

目標、グラ・バルカス帝国軍航空隊! 主砲三式弾()()、砲撃始め!」

『了解だ!』

 

 堺の命令に気合いの入った返事をし、"長門"は握り拳を振り上げて命令を下した。

 

「ビッグセブンの力、侮るなよ! てぇーっ!」

 

ズドドオオオオオォォン!!!!

 

 "長門"の思いに応えるかのように、「41㎝連装砲」が空に向かって全力の咆哮を轟かせた。




はい、「エルペシオ3」は案の定、アンタレス戦闘機に勝てませんでした。
まあそうなりますわな…

ちなみに「エルペシオ3」の性能ですが、某二次創作における考察を参考にさせていただいております。日本国召喚二次の読者の皆様は、どの作品のことかお分かりいただけるかと思います。


皆様、いつもご愛読ありがとうございます。完結まではまだ道半ばに達したかどうか、というところですが、完結に向けて頑張らせていただきます!

評価8をくださいましたハチベー様
評価9をくださいましたARIAHALO様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

最新鋭戦闘機の全滅により、激震走るミリシアル空軍。各国連合艦隊に襲いかかるグラ・バルカス帝国軍航空隊。それを戦艦「長門」の主砲が真っ先に迎え撃つ…!
次回「激戦!フォーク海峡!(弐)」
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