鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
中央暦1642年4月25日 午後2時55分、神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス南方 フォーク海峡。
カルトアルパスで行われていた先進11ヶ国会議において、第二文明圏外国の1つであるグラ・バルカス帝国は、全世界に対して宣戦を布告した。そして、その手始めとしてマグドラ群島で訓練を行っていた第零式魔導艦隊を全滅させ、その後会議に参加していた各国外務大臣の護衛艦隊とカルトアルパスに、航空機による攻撃を仕掛けるという不遜極まりない行動に出た。
各国の艦隊は、それぞれの得意分野を生かして応戦したものの、圧倒的に強力なグラ・バルカス帝国軍の航空部隊の猛攻により、大きな被害を出していた。既にパンドーラ大魔法公国とトルキア王国の外務大臣護衛艦隊は全滅し、アガルタ法国、ニグラート連合の艦隊は壊滅的な被害を被っている。ムー国の艦隊は半壊状態だ。現時点で無事なのは、神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦隊とマギカライヒ共同体の機甲戦列艦隊、そしてロデニウス連合王国の艦隊だけである。
航空戦力は、神聖ミリシアル帝国の空軍が中心となり、他にムー国の空母から飛び立った艦上戦闘機「アラル」50機、ニグラート連合の竜母から発進したワイバーンロード48騎、そして先ほどエモール王国の風竜騎士団22騎が参戦した。しかし、ニグラート連合のワイバーンロード隊は全滅、ムーの航空隊も残り10数機にまで討ち減らされ、神聖ミリシアル帝国空軍の天の浮舟は、「ジグラント2」だろうと「エルペシオ2」だろうと勝負にならず、ほとんど一方的に撃墜されていた。そんな中、奮戦していたのはエモール王国の風竜騎士団である。
風竜は、ワイバーンロードやワイバーンと比較すると明らかに巨大な体躯を持っている。しかし、鈍重そうなところは全くなく、むしろ旋回性能も最高速度も、ワイバーンロードをもぶっちぎる。
確かに体躯は大柄であるが、全体的に流線型のスリムな格好をしており、空気抵抗が少なそうに見える。そして、飛行時の最高速度はワイバーンロードどころか、ワイバーンオーバーロードすら凌駕する時速500㎞を発揮するのだ。生物としては規格外のその速さゆえに、通常のヒト種の竜騎士であれば、乗ることすらも叶わないだろう。さらに知能も高く、念話を使って騎乗する竜騎士と話すことすらも可能である。
その口からは導力火炎弾ではなく、圧縮空気弾を発射する。これは導力火炎弾とは比較にならないほどの高い威力を誇り、しかも導力火炎弾よりも短い時間でチャージが完了するという代物である。
ワイバーンなどという「空飛ぶトカゲ」とは異なる……と、風竜たちは自負しているが、その風竜を操って、エモール王国の風竜騎士団はグラ・バルカス帝国の航空部隊と戦っていた。
「ちっ、
騎士団長を務める竜人族の男性ウージは、また1騎撃墜された部下を見て、舌打ちした。
エモール王国は人口100万人と小規模な国家であるため、「数」を揃えるのは難しい。そのため、エモール王国軍は「質」を重視していた。その最たる例が風竜騎士団で、風竜自体が卓抜した力を持っていることから、エモール王国の風竜騎士団は一騎当千とまで評されていた。ウージ自身も、その評価は正しいと思っていた。
実際、エモール王国の風竜騎士団は、高々度空域での戦いでなければ、模擬空戦で相手に遅れを取ったことはない。列強ムー国の誇る戦闘機「マリン」ですら、風竜の相手にならないのだ。ウージは、竜が魔法を使わない飛行機械なぞに負けることはないと信じている。
故に、今回のグラ・バルカス帝国との戦いでも、彼は自分たちの勝利を信じて疑わなかった。相手は文明圏外の新興国家であり、しかも魔力の少ないヒト族中心の国である。あっさり制空権を確保できると思っていた。
しかし、グラ・バルカス帝国の戦闘機は、旋回性能や上昇能力は風竜に劣るものの、風竜の最高速度である時速500㎞を上回る速度で飛行し、そして何より数が多すぎた。
もし相手が同数であったなら、負けはしないだろう。しかし、如何に質の高い風竜騎士団といえども、およそ10倍の数の差があっては苦戦は免れなかった。
現在のグラ・バルカス帝国の戦闘機と風竜騎士団とのキルレシオは1対1。そう、互角なのである。
「また来やがった!」
ウージは後ろをちらっと見て毒を吐くと、手綱を引いて風竜を急上昇させた。直後、彼がさっきまでいた空間を赤い火箭が走り過ぎる。
ウージは即座に風竜を減速させ、わざと相手に追い越させた。そして、上手く相手の後ろを取ったのである。
「喰らえ!」
ウージの合図と共に、風竜は圧縮空気弾の発射態勢に入る。ワイバーンロードなどとは比較にならない高い魔力に裏打ちされて放たれるその空気弾は、凄まじい弾速と威力を併せ持つのだ。
風竜が戦闘機に狙いを定めた、その時だった。
『後方上空に注意!』
部下の叫び声が、魔信から聞こえてきた。
ウージはとっさに圧縮空気弾の発射態勢を解除すると、相棒を急旋回させた。その途端、彼の残像を撃ち抜くような格好で敵の光弾が多数、通過する。
「ええい、
数で押され、ウージはとてもやりにくいと感じていた。
エモール王国の風竜騎士団は、かつてない強敵を前にして悪戦苦闘を強いられていた。
一方、グラ・バルカス帝国軍の戦闘機隊も、風竜に手を焼いていた。
グラ・バルカス帝国の空母から発進した第二次攻撃隊の戦闘機隊長サルトは、アンタレス07式艦上戦闘機隊を率いて神聖ミリシアル帝国空軍の航空部隊、そしてエモール王国の風竜騎士団と対戦していた。
神聖ミリシアル帝国の航空機は、アンタレスと比べて加速力・運動能力・最高速度が大きく劣っているようで、格闘戦に持ち込めば難なく撃墜できた。しかし、風竜はそうはいかなかった。
「くそっ、また来やがった! あの竜には気をつけろ!」
サルトは通信で部下に指示を出す。
今しも部下の1人が、前方を飛ぶ風竜に狙いを定めたところだった。しかし、アンタレスが20㎜機銃を発射する前に、風竜は素早く上昇し、生物とはとても思えない速度で上昇していく。20㎜機銃の曳光弾は、残念ながら空を切った。
『ちっ!』
それを見て、部下がサルトの命令を無視し、竜を追って上昇しようとする。
「ま、待てっ!」
サルトが叫ぶが、部下はそれを無視して竜を追い始める。
しかし、竜の上昇速度はアンタレスをもってしても追いつけないほどであり、しばし部下は竜を追ったものの、距離を離されすぎたために諦め、反転して戻ろうとした。そこへ竜も反転し、急降下しながら口を開く。
次の瞬間、竜から空気弾が発射された。直線的にしか飛ばないものの、ほとんど目に見えないその弾は、サルトの部下が乗るアンタレス戦闘機に迫り、そして右主翼を付け根からもぎ取った。
部下の乗るアンタレス戦闘機は一瞬で右主翼の揚力を失い、
「ちくしょう! またやられた!」
サルトは歯ぎしりした。
現時点で、あの竜とこちらのキルレシオは1対1。しかし、こちらが圧倒的な数的優位を持った上での1対1であるため、事実上負けているに等しい。
たかが生物に栄えあるグラ・バルカス帝国の主力戦闘機が何機も撃墜されたことで、サルトのプライドは打ちひしがれていた。
サルトのプライドはズタズタにされたものの、大まかな戦闘の流れはグラ・バルカス帝国の優勢で推移していた。
各国の艦隊は次々と被害を出し、ニグラート連合の艦隊は全滅しかかっている。ムー国の艦隊も壊滅状態に陥っており、今現在全速力での航行が可能なのは旗艦「ラ・カサミ」以下、巡洋艦・装甲巡洋艦が合計5隻という有り様であった。そんな中、現時点では比較的少ない損害で戦闘を切り抜けているムー艦隊旗艦、戦艦「ラ・カサミ」の艦橋では、ムー艦隊司令ブレンダス・レーベル少将が空を睨みつけていた。その顔には疲労の色が濃い。
「また来おったか……!」
彼の視線の先には、急速に拡大する複数の黒点……グラ・バルカス帝国の航空機の姿がある。数はざっと60機。航空戦力がほとんど壊滅している今の各国艦隊には、厳しい相手だ。
不意に、海上に砲声が幾つも響いた。そして、グラ・バルカス帝国の航空部隊の付近の空に、次々と黒煙が花開く。
「ロデニウスの艦隊か」
ブレンダスが海上に視線を落とすと、前方を行くロデニウス連合王国の艦隊から発射炎と煙が幾つも噴き出ていた。戦艦の舷側に装備された小口径砲や、巡洋艦・駆逐艦の主砲が迎撃を開始したのだろう。
グラ・バルカス帝国の航空機が1機、火を噴いて落ちるのが見える。
「我々の対空機銃も、あれくらい命中すれば良いのだがな……」
ブレンダスが悔しがる。
現時点でムー国の艦隊は、16隻全艦合わせて3機の敵機を撃墜し、2機の敵機を撃破していた。だが、ロデニウス艦隊は目視した限り、明らかに20機以上を撃墜しており、撃墜数は明らかにロデニウス艦隊が上である。
ブレンダスの隣で、「ラ・カサミ」艦長ミニラル・スコット大佐は考えていた。
(今回の会議に集まっていたのは、列強国をはじめとしていずれ劣らぬ強国ばかりだ。それが、我がムー国の艦隊も含めてこれだけの被害を受けるとは……。
地方隊とはいえ神聖ミリシアル帝国ですら被害を出す中で、ロデニウスの艦隊だけは無傷を保っているように見える。もはや、今の我々の心の
実際、ロデニウス連合王国艦隊はこの艦隊にかなり貢献していると言えるだろう。どこの艦隊よりも先に敵機を発見した旨を報告してきたし、対空戦闘では神聖ミリシアル帝国すら苦戦しているように見える中、かなりの戦果を挙げているようだ。そして何より、被弾らしい被弾をしていない。爆弾1発すら喰らっていないようなのだ。
(実際には戦艦「
まあ、どっかの老水兵ならば「戦艦が簡単に沈むかっ!」とか言いそうだが)
そういうわけで、現在生き残っている各国艦隊の乗組員、特にムーやマギカライヒ共同体の艦隊の乗組員たちにとっては、ロデニウス連合王国の戦艦が頼もしく感じられていたのだ。
「敵機2、我が方に接近! 急降下!」
兵の叫びに、ミニラルは現実に引き戻された。どうやら敵機がここまで迫ってきたらしい。
「対空戦闘! 取り舵いっぱい!」
ミニラルの号令一下、「ラ・カサミ」の艦上に多数設置された20㎜対空機銃が一斉に射撃を開始する。しかし、高速で突っ込んでくるグラ・バルカス帝国のシリウス型艦上爆撃機には、なかなか命中しない。
ダイブブレーキの音が甲高くなり、ミニラルの背筋が冷える。
「面舵いっぱい!」
「敵機、爆弾投下!」
ミニラルが号令するのと、兵が絶叫するのとが同時だった。
なんとか回避しようとする「ラ・カサミ」。しかし、舵が効くより先に敵機の爆弾が落下した。
ドガーン! ドガァァァァン!!
炸裂音が響く。
1発は艦尾に命中したらしく、後部から伝わってきた衝撃はあまり大きくなかった。だが、2回目の炸裂音がするのと同時に、「ラ・カサミ」はこれまでにない異様な揺れ方をした。その一瞬で、ミニラルは何か良からぬことが起きたと直感した。
……が、実は、事態はミニラルが思った以上に深刻だったのである。
『艦尾と左舷中央部に直撃弾!』
被害報告が入った直後、
「艦長! 舵機室より『舵故障』との報告です!」
航海長が血相を変えて叫んだ。さらに、
『こちら機関室、機関に異常発生! 制御不能、出力が落ちません!』
機関室からも切迫した声で報告が寄せられる。
「何っ!?」
ミニラルが驚いた時には、「ラ・カサミ」は操艦不能のまま暴走を始め、勝手に右に回頭して陸に向かって突進していた。
「総員、衝撃に備え!」
ミニラルが大音声で指令する。すぐさま「ラ・カサミ」艦内のクルーは何かに掴まるなどして対ショック体勢を取った。
一瞬後、ガリガリガリッという大きな耳障りな音が響き、「ラ・カサミ」の艦体が激しく震動する。砲撃や直撃弾のそれとは異なる異様な震動に、「ラ・カサミ」クルーの中には転倒する者が続出する。ムー艦隊司令ブレンダスもミニラルも耐えきれずに、椅子から転げ落ちた。
やがて震動が収まり、それと同時に音も止んだ。戦艦「ラ・カサミ」は岩礁に乗り上げ、座礁して止まったのだ。
「被害報告!」
「各艦に伝達! 『各艦は我を省みず、海峡から脱出、本国へ帰投すべし』!」
床から起き上がったミニラルは、相次いで2つの命令を出した。
『こちら機関室、機関停止!』
『艦底部に浸水を認める! 応急修理急げ!』
『こちら無線室、無線機故障! 送信不能!』
無線室からの報告を受け、ミニラルは次の命令を出した。
「各艦に手旗信号、及び信号灯による発光信号にて伝達! 『各艦は我を省みず、海峡を脱出、本国に帰投すべし』!」
「艦底部の防水処理を急げ!」
大破、座礁した「ラ・カサミ」は、機関が暴走したこともあり、もはや自力では動けない。何らかの救援を待つより他に手段はない。
それでも対空機銃は動かせるからと、甲板要員は対空機銃にかじりついて敵機を狙ったが、「ラ・カサミ」に接近する敵機はなく、したがってもう「ラ・カサミ」にできることはなかったのだった。
必死の対空戦闘を行う各国の艦隊。しかしその甲斐もなく、グラ・バルカス帝国の航空部隊の攻撃によって、各国の艦隊は数を大きく減らしている。
パンドーラ大魔法公国とトルキア王国の艦隊に加えて、アガルタ法国の艦隊も全滅。ニグラート連合の艦隊は、戦列艦1隻と竜母2隻にまで激減し、ムーの艦隊も巡洋艦・装甲巡洋艦合わせて5隻にまで減らされている。マギカライヒ共同体の艦隊も、機甲戦列艦を2隻撃沈され、5隻になってしまっていた。神聖ミリシアル帝国の艦隊ですら、魔導巡洋艦「ゲイブルグ」が爆弾4発を受けて舵機室を破壊され、航行不能。1隻も脱落することなく戦闘と航行を続けているのは、ロデニウス連合王国の艦隊のみとなっていた。
航空戦力はというと、ムーの戦闘機「アラル」とニグラート連合のワイバーンロードは全滅し、エモール王国の風竜騎士団は半減。神聖ミリシアル帝国の航空機は、アンタレス07式艦上戦闘機の前にバタバタ撃墜され、勝負になっていない。制空権は完全に、グラ・バルカス帝国が握っていた。
もともと低速の艦が多い上に、敵航空機の攻撃を受けているため、艦隊の隊列は大きく乱れ、各国の各艦艇がバラバラに戦うような状態に陥っていた。まともな隊列を保っているのは、神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦隊とロデニウス連合王国の艦隊のみという惨状を呈している。それでも各国の残った艦艇は、フォーク海峡の出口を目指して全速航行を続けていた。
神聖ミリシアル帝国・カルトアルパス在泊地方隊司令のパテスは、自らの座乗するシルバー級魔導巡洋艦「ゲイジャルグ」の艦橋にて、苦い顔をして「ゲイジャルグ」艦長ニウムに話しかける。
「ニウム艦長、戦況をどう見る?」
「そうですね。正直に申し上げて、グラ・バルカス帝国の航空機がこれほど強力だとは思いもしませんでした。まさか、我が国の天の浮舟が勝負にならず、一騎当千を謳われるエモール王国の風竜騎士団が互角とは……。
我が艦隊は現時点で2機の敵機を撃墜し、アガルタ法国も艦隊級極大閃光魔法で2機を、ムー艦隊も2,3機を撃墜しております。しかし、ロデニウス連合王国艦隊は、6隻合わせて少なくとも20機は撃墜しております。かの国の艦隊が、これほどレベルの高い……それこそ我が国すら凌ぐほどの対空戦闘を行えるとは、想像もしておりませんでした。
何にしても、フォーク海峡に向かっている敵戦艦を撃沈するか、最低でも追い返さなければ、カルトアルパスに被害が出る可能性が大きいです。ですので、この戦力で死守しなければなりません」
「うむ。それにしても、まさか我らがカルトアルパス防衛の最後の防波堤になるとはな……。不運なことだ」
パテスが呟く間にも、魔信から流れる状況報告は、各国艦隊の状況が刻一刻と悪化していることを告げていた。
『ニグラート連合、竜母「スラグート」「ヘドグル」、轟沈! 戦列艦「パラグル」小破!』
『ムー国、装甲巡洋艦「ラ・シルム」中破!』
『東方低空より敵機接近! 数、約20!』
突然、緊迫した声で報告が寄せられる。
「低空だと!? 何をする気だ!?」
ニウムは急いで艦橋の窓から、「ゲイジャルグ」左側の海を見た。見ると、複数の敵機が海面すれすれの高度をこちらに向けて飛んでくる。
『ムー国艦隊、射撃開始!』
ムー艦隊のうち、残る5隻の巡洋艦が8㎜機銃や20㎜機銃を発射する。しかし、海面に多数の細かい飛沫が上がるだけで、敵機は墜ちない。
『ロデニウス艦隊、射撃開始!』
ミリシアル艦隊の後方を走るロデニウス連合王国の巨大戦艦が、左舷側の小型砲を連続して発射する。後方にいる小型艦も、機銃の銃身を水平に倒してグラ・バルカス帝国の機体に対空砲火を浴びせる。
と、ロデニウス艦隊左側の海面に、戦艦の砲撃によるものらしい水柱がいくつも立ち、1機の敵機がそれに突っ込んだ。あたかも海面が口を開けて敵機を飲み込んだように見えた。続いて、青白い曳光弾を浴びた敵機が1機、主翼から火を噴いた。と見る間に、その敵機は全身火だるまとなって海面に叩き付けられる。
続いては、ミリシアル艦隊の番だ。
「左舷対空魔光砲、魔力充填! 属性比率、爆10炎65風25! ……魔力充填完了、自動呪文詠唱開始。発射まで、あと7、6、5、4、3、2、1、自動呪文詠唱完了! 発射!」
巡洋艦の左舷側に多数搭載された20㎜連装対空魔光砲の砲口がほのかに赤く光り、光の粒子が砲口に吸い込まれていった。
次の瞬間、ミリシアルの魔導巡洋艦隊7隻が一斉に対空魔光砲を発射する。視界を埋め尽くさんばかりの多数の赤い光弾が、グラ・バルカス帝国の航空機に向かっていく。
しかし、ロデニウス艦隊の射撃に比べ、ミリシアル艦隊の射撃は嫌になるほど当たらない。そうこうするうちに、敵機は海面に爆弾らしき何かを投下し、遁走に入った。この時になって、ミリシアル艦隊が1機を撃墜するも、タイミングが遅かった。
(あの敵機ども、いったい何がしたかったんだ? 艦隊から遠く離れたところに爆弾を捨てやがって……)
パテスの思考は、急遽飛び込んできた2つの報告によって遮られた。
『左舷海中より何かが多数向かってきます!』
『ロデニウス艦隊、左一斉回頭!』
ニウムが見ると、ロデニウス艦隊の大型戦艦が艦首を左に振っていた。その隣を走るロデニウスの小型艦も、左に舵を切っている。
見ると、その海面に白い細い線が多数現れ、艦隊に向かってくるではないか。ロデニウス艦隊はどうやら、その白い線の隙間に潜り込もうとしているようだ。
「取り舵いっぱい! 回避せよ!」
ニウムはとっさに、ロデニウス艦隊に倣って取り舵を命じた。
巡洋艦は艦体の重さが軽い分、戦艦よりも舵が効き始める時間が短い。巡洋艦「ゲイジャルグ」は20秒ほどのタイムラグの後に左に回頭し始める。
(間に合うか……!?)
前方に迫る白い線を見つめるニウム。
やがて接近してきた白い線は、「ゲイジャルグ」の左右を抜けていった。
「ふう…」
ニウムが息をついた時、左後方から鈍い爆発音が響く。
『見張りより艦橋、巡洋艦「ゲイボー」被弾!』
「ゲイジャルグ」の後方を走っていた「ゲイボー」が、魚雷を1本喰らったのだ。回避運動の間に合わなかった「ゲイボー」の艦体左中央に、太い水柱が白く高く噴き上がっている。
ほとんど間を置かずに、2本目が「ゲイボー」の第1主砲塔直下に命中し、巨大な水柱を立てる。その白い柱は、一瞬後には赤い柱に変わった。
鼓膜を突き破るような、凄まじい爆発音が響く。砲塔とおぼしき四角い構造物が、空に向かって吹っ飛んだ。その真下で大量の水蒸気が発生し、焼き入れのような音が鳴る。
水柱が崩れ落ちた時、「ゲイボー」の姿はそこに無かった。魚雷の命中によって主砲の弾薬庫が爆発し、真っ二つとなって轟沈したのである。
『じ、巡洋艦「ゲイボー」轟沈!』
更に、「ゲイジャルグ」の右前方にいた「アーイン」の左舷艦尾にも、被雷の水柱が突き立った。「アーイン」の速力がみるみる落ちていく。やがて「アーイン」は左に傾いたまま、洋上に停止した。
『巡洋艦「アーイン」航行不能!』
航空機の攻撃で、戦闘行動中の巡洋艦が無力化され、沈められる。それは、「航空攻撃では軍艦は沈まない」という神聖ミリシアル帝国の常識を、根底から覆すものだった。あまりの被害にパテスもニウムも絶句してしまい、声も出ない。
『ムー国、装甲巡洋艦「ラ・シルム」沈没!』
『ニグラート連合、戦列艦「パラグル」轟沈! ニグラート連合の艦隊、全滅!』
『ロデニウス艦隊、右一斉回頭! 本艦隊に後続します!』
次々と報告が上がる。そんな中、別の報告が舞い込んだ。
『前方、フォーク海峡出口付近に超大型戦艦出現! 艦種識別、グラ・バルカス帝国、グレードアトラスター級!』
やはりというべきか、空襲で足止めを喰らった各国の艦隊よりも、「ブラックホール」が海峡に到着するほうが早かった。
しかし、各国の艦隊は追い詰められながらも、前方に見えてきた「ブラックホール」の艦影を確認して戦意を上げている。
「全艦、最大戦速! 対艦戦闘用意!
敵は巨大な戦艦だが、栄えある我が神聖ミリシアル帝国の強さを見せつけるぞ!」
大音声で号令を下すパテスに、クルーたちの「了解!」の声が重なる。
神聖ミリシアル帝国・カルトアルパス在泊地方隊のうち、航行が可能な魔導巡洋艦5隻は一気に速力を上げ、艦隊行動が行える速度としては最高速度である30ノットの速力を発揮する。
神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦隊は、ムー国の機動部隊や各国の戦列艦隊、さらには26ノットの速度で走るロデニウス連合王国艦隊ですらも置き去りにして、戦艦「ブラックホール」に向けて突撃していった。
ミリシアル巡洋艦隊の突撃を見て、ロデニウス連合王国艦隊の旗艦「
「長門、左舷砲戦用意! 目標はグレードアトラスター級! 最初の5斉射は目潰しで頼む」
『こちら長門、それなんだがな、提督。三式弾改二、使って良いか? 通常の三式弾よりそっちのほうが効果が高そうだ』
「お前の判断に任せるよ」
『了解だ。派手にやらせてもらう!』
「海峡を抜けたら、
『天津風、任されたわ』
「
『時津風、りょうかーい』
『初風、了解。提督はどうするのよ?』
"初風"からの問いに、堺は迷いなく言い切った。
「雪風は戦場に留まり、長門を援護する! なぁに、雪風の幸運なら大丈夫だ!」
『はあ……』
無線の向こう側で、"初風"がため息を吐くのが聞こえた。
『……雪風を道連れにして死んだら、承知しないわよ』
「怖い怖い。大丈夫だ、必ずタウイへ帰ってくる!
命令は以上だ! 全艦行動開始!」
通信を切ると、堺は"雪風"に向き直った。
「雪風、すまん。だが……頼む」
「しれぇ! ゼッタイ、大丈夫! 雪風は、沈みませんっ!」
まだあどけなさが残る口調ながら、"雪風"は明快に言い切った。
「その意気だ。行くぞ!」
「はいっ!」
"雪風"が良い返事をしたのを確認すると、堺は続いて各国艦隊への魔信回線を開きつつ、"雪風"にムー艦隊への無線通信回線を繋げさせた。そして、2種類のマイクを手に持ち、各国の艦隊に通信を行う。
「こちらロデニウス連合王国艦隊。敵のグレードアトラスター級戦艦は、本艦隊の戦艦が引き受けます。各国艦隊におかれましては、自らの身の安全を確保すべく、全速力でフォーク海峡及びその周辺海域から離脱していただきたく存じます。
繰り返します。敵の超巨大戦艦は我々に任せ、各国艦隊におかれては全速力でこの海域から退避されたし。
堺がマイクを置いた時には、既に"長門"が「ブラックホール」に照準を合わせ始めていた。
神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦5隻は、全速で「ブラックホール」に突進していた。既に敵艦との距離は15㎞を切っている。
旗艦「ゲイジャルグ」の艦橋では、艦隊司令パテスが大声で指示を飛ばす。
「各艦、対艦戦闘用意! 準備が出来次第、各艦の艦長の判断で攻撃せよ! 敵艦を沈めるんだ!」
各艦の乗組員たちは迅速に動き、対艦戦闘の準備を進めていく。その練度は高い。
「主砲弾に魔力注入! 属性比率、炎40爆60! ……80、90、100、魔力注入完了! 続いて主砲撃発回路に魔力注入、属性比率爆10、炎40、風50! ……90、100、注入完了!」
「敵艦に照準! 左20度、仰角36度、相対速度約50ノット!」
シルバー級魔導巡洋艦の艦体前面には、2基の20.3㎝連装魔導砲が搭載されている。それがゆっくりと回転し、「ブラックホール」に照準を合わせる。
「てーっ!!」
パテスの号令一下、
ドドドオォォン!!!
5隻の魔導巡洋艦が、一斉に砲撃を行った。太さ20.3㎝の砲弾が、敵艦に向けて飛翔していく。
その時、敵艦の艦体前部がパッと閃光を発した。そして、大量の茶色い煙が噴き上がる。
「命中か!?」
「いえ、弾着には早すぎます! あれは、敵艦の砲撃です!」
パテスが喜んだように叫ぶが、「ゲイジャルグ」クルーがそれを否定する。
「取り舵いっぱい! 回避運動!」
パテスが叫ぶ。だが、そこそこの排水量を持つ5隻の巡洋艦は、すぐには舵が効かない。
「だんちゃーく!」
見張りが叫ぶ。その直後、「ブラックホール」の左の海面に多数の水柱が上がった。ミリシアル艦隊の第1射は外れたのだ。
「くそ、外したか! 次弾装填、弾着修正急げ!」
パテスが命じたその時、ヒュルルルルルヒュイーン…という甲高い音が空気を震わせた。「ブラックホール」の主砲弾が降ってきたのだ。
「敵弾来ます!」
「ゲイジャルグ」クルーの1人が叫んだ時、ミリシアル艦隊の周囲に巨大な水柱が4本噴き上がった。
「うおぉぉぉっ!?」
パテスは思わず叫ぶ。
噴き上がった水柱は、彼がこれまで目にしてきたどんな水柱よりも太く、高く噴き上がったのだ。弾着位置が近いせいもあるのだが。
「初弾で、ここまで近距離に撃ち込むか!」
パテスが叫ぶ横で、ニウムは冷や汗を流した。
間違いなく、敵は非常に強い。我々の力が及ぶかどうか分からない。
「第2射、てぇーっ!」
ニウムが命令し、20.3㎝連装魔導砲が2回目の射撃を行う。同時に、敵艦も新たな発砲炎を閃かせた。
「もう撃ってきたか! くそ、装填が早い!」
「いえ、発砲炎の大きさからして、あれは主砲ではないでしょう。おそらく副砲です」
叫ぶパテスに、敵艦を冷静に観察していたニウムがコメントする。
「敵艦の主砲は、口径は大きいですが、その分砲弾が重いのでしょう。ならば、我々は手数で勝ります。今のうちに畳みかけましょう」
「うむ!」
ニウムの意見具申にパテスが頷いた時、
「だんちゃーく!」
次の報告が入った。敵艦を取り囲むように水柱が立つ。そして、敵艦の艦上にパッと赤い爆発光が走り、黒煙が上がった。
「我が方の砲撃、命中弾1!」
見張りの報告の声が弾み、「ゲイジャルグ」艦橋内に歓声が響く。その直後、敵艦の副砲の射弾が落下し、「ゲイジャルグ」の至近に3本の水柱を立てた。
こちらが先に命中弾を出した。これで、敵艦の砲撃にも少なからず影響が出るだろう。
しかし、敵艦は副砲の砲撃よりも強烈な発射炎を艦上に閃かせた。
「敵戦艦、主砲発射!」
さらに、副砲もこれまでと変わらないペースで撃ち込んでくる。
巡洋艦の大口径魔導砲を食らっても、敵艦は何事もなかったかのように砲撃してきた。その事実に、パテスは唖然とする。
「まさか、まさか我が方の砲撃が効いていないのか!?」
実際、ミリシアル艦隊の放った20.3㎝砲弾は、「ブラックホール」の左舷側の装甲が最も分厚い区画…バイタルパートに命中していたのだ。だが、戦艦「ブラックホール」のバイタルパート(VPと略される。軍艦の装甲のうち、主砲弾薬庫や機関を守るための装甲。軍艦で最も分厚い装甲である)は410㎜もの分厚さを誇っており、46㎝砲の弾着でも貫通を容易には許さない。そんな分厚い装甲には、ミリシアル艦隊の20.3㎝砲弾は豆鉄砲も同じだった。「ブラックホール」のバイタルパートは、ミリシアル艦隊の砲撃をあっさりと弾いたのだ。
「いや、そんなはずはない。このまま攻撃を……!」
パテスが叫んだ時、上空から降ってきた甲高い音がパテスの声をかき消した。
次の瞬間、「ゲイジャルグ」の両舷に巨大な水柱が
「なっ……何が起こった!?」
衝撃で海図台に頭をぶつけ、血を流しながらパテスが叫ぶ。
「か……艦体前部に被弾! 艦首消失、第1・第2砲塔大破!」
クルーが絶叫した。
「ブラックホール」の46㎝砲弾が「ゲイジャルグ」の艦体前部を直撃したのだ。第1砲塔は引き裂かれた紙箱のような惨状を呈し、砲身は2つとも砲鞍を外れて海中に落下していた。第2砲塔も、砲身は2本とも力なく垂れ下がっており、どう見ても砲撃不能である。そして、艦首がバッサリ消えて無くなっており、艦内の隔壁を直接海水が洗っていた。火災も起きており、黒煙と炎が視界を遮る。
どう考えても、沈没は免れない。
「総員離艦! 繰り返す、総員離艦だ、急げ!」
ニウムが叫んだが、遅すぎた。
火災によって主砲の弾薬庫が誘爆した「ゲイジャルグ」は、天を貫くような凄まじい火柱を突き上げ、一瞬で艦体が炎に包まれる。そして、白い水蒸気を大量に巻き起こしながら、艦隊司令パテス、艦長ニウム、その他多数のクルーを乗せたまま、一瞬で海中に引き込まれていった。
いきなり旗艦を司令部ごと失ったことで、ミリシアル艦隊が混乱し始める。
『こちら長門、砲撃用意よし。ミリシアルの巡洋艦が1隻轟沈したぞ。あと、ミリシアル艦隊に混乱が見られる』
「了解。ミリシアル艦隊を援護する格好で戦闘に突入する。目標グレードアトラスター級、砲撃始め!
戦闘開始したら、長門はタイミングを見て面舵を切ってくれ。グレードアトラスター級に同航戦を挑むんだ。戦闘中の細かい判断は任せる!
他の艦艇は取舵90度! グレードアトラスター級の右舷を掠めるようにして離脱せよ! 敵の副砲の射程に入るなよ!」
堺はついに、「ブラックホール」との戦闘開始を決断した。
『左砲戦。目標グレードアトラスター級! 11時方向、距離ヒトナナマル(17,000メートル)!
一斉撃ち方、第一射、てぇーっ!』
「『天津風』増速! 最大戦速に加速し、艦隊の前方に出ます!」
"長門"の声と一緒に、見張りの声が「雪風」艦橋に飛び込んだ。
その直後、
ドドオォォォォン!!
遠雷のような砲声が響く。「長門」が主砲を発射したのだ。
「長門、撃ち方始めました!」
見張りの報告に、堺は黙って頷いた。そして更に指示を飛ばす。
「雪風、面舵90度。回頭終了後に30ノットまで加速し、長門の前方に出てくれ」
「はいっ!」
戦艦「ブラックホール」は、その巨体で海水を押しのけながら25ノットの速度で進んでいた。
当初の予定ではこのグレードアトラスター級戦艦で海峡出口を封鎖し、航空機によって各国の艦隊を叩くつもりであった。しかし、各国艦隊の方が海峡から出てきてしまったため、結果的にこの艦が各国艦隊の相手をすることになっている。敵にヘルクレス級戦艦がいるという、想定外のイレギュラーもあったのだが、「ヘルクレス級戦艦なら、十分に倒せる。それに、グラ・バルカス帝国の圧倒的強さを見せつけるには、『ブラックホール』単艦で各国艦隊に挑むのが最も効果的である」というミレケネスの意向により、当初の作戦通りこの「ブラックホール」が単独で突出してきたのである。
その46㎝三連装砲は、敵である各国の艦隊に向けて次々と砲弾を撃ち出している。今は専ら神聖ミリシアル帝国の巡洋艦が相手だが。
前世界「ユグド」においても、この世界においても最強の戦艦クラスの艦橋で、「ブラックホール」艦長セスドール・ベルテクス大佐は、グラ・バルカス帝国の外交官シエリア・オウドウィンと共に海を見つめていた。
前方にいる神聖ミリシアル帝国の巡洋艦が46㎝砲弾を受け、大爆発を起こして沈んでいく。
「ほう、1発で沈むとはな」
感心したようにシエリアが声を上げ、それにベルテクスが応答した。
「はい。やはり本艦の主砲は威力が高いですな。それに、交戦距離もたった10数㎞程度ですから、砲撃が当たりやすうございます」
「やはり、さすがは不沈艦だな」
シエリアは、グレードアトラスター級戦艦が無敵であると信じて疑わなかった。
その間にも46㎝砲が
「グレードアトラスター級は無敵だな」
シエリアが呟いた、その時だった。
大気を震わせて、ヒュルルルルルヒュイーン……という甲高い音が降ってきたのだ。それが何であるかをすぐに悟ったベルテクスは、とっさに指示を下す。
「衝撃に備え!」
その直後、「ブラックホール」上空で眩い光が弾け、大量の破片が降り注いできた。
一瞬後、1万発くらいのかんしゃく玉をまとめて破裂させたような音が響く。「ブラックホール」艦橋にも何発かの破片が命中し、昼戦艦橋の窓ガラスは全て粉々に砕け散った。
床が一面ガラスまみれになった艦橋で、ベルテクスは矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「被害報告!」
「シエリア殿、一旦重要装甲区画へお入りください。どうやら正念場です」
シエリアが退室していくのをちらっとだけ見て、ベルテクスは正面の海を見据えた。
さっきの音は、明らかに戦艦の大口径砲による砲撃だ。そして、敵である各国の艦隊の中でそんな砲撃ができるのは、1隻しかいない。
そう、ロデニウス連合王国のヘルクレス級戦艦である。
「来たか……」
壊滅しかかっているミリシアルの巡洋艦隊。その奥に見える巨大な艦を見て、彼は呟いた。ついに、今回の敵の中では最強の戦力が登場したのだ。あれを叩けば、我が国の威力を世界に知らしめることができる。
「副砲はそのまま、ミリシアルの巡洋艦を攻撃せよ。主砲は目標変更! 新たな目標、ヘルクレス級戦艦!」
ベルテクスは高らかに号令を下す。その時、敵のヘルクレス級戦艦が艦首を大きく右に振るのが見えた。「ブラックホール」の進行方向を考えると、敵戦艦は「ブラックホール」に同航戦を挑む針路を取ったのだ。
間違いない。敵のヘルクレス級戦艦は、正面からこの「ブラックホール」に砲撃戦を挑もうとしている。
「正面から戦うつもりか。……面白い! そうこなくてはな!」
自分の中を流れる血が
ベルテクスは、獲物を発見した肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべた。彼はこれまで巡洋艦の艦長などを歴任していたが、ここまで勇敢な相手と戦ったことがなかったのだ。
「取り舵60度、最高速度へ加速せよ! 同航戦で撃ち合い、あのヘルクレス級戦艦を倒す! 右砲戦用意!」
『被害報告、左舷前部対空機銃多数損傷! 射撃不能!』
『左舷第2・第4・第6高角砲損傷!』
さっきの敵の散弾は、対空兵装や装甲化されていない対象物に大きな被害を与えたようだ。
間違いなく、あのヘルクレス級戦艦は強い。だからこそ、倒しがいがある。
ベルテクスはふと、自分がこの状況を楽しんでいるのに気付いた。高揚感、闘志、興奮……いろいろな感情がごっちゃ混ぜになって、自分の中で渦を巻いている。
こんな感情はこの世界に来てこの方、感じたことがない。
(これは、退屈せずに済みそうだ……!
ロデニウスの戦艦よ、楽しませてもらうぞ!)
かくして、戦艦「長門」と「ブラックホール」の正面切っての対決が、開始されようとしていた。
グラ・バルカス帝国軍の航空攻撃は、ほぼ成功ですね。ただ、エモール王国の風竜騎士団は予想以上の強敵であり、そしてロデニウス艦隊の思わぬ力によって想定以上の被害を生じた…というところです。
そして、ついに迫るグレードアトラスター級。それを迎え撃つは長門型。いよいよフォーク海峡海戦も大詰めです!
UA51万突破、総合評価7,800ポイント突破! 皆様、ご愛読本当にありがとうございます!!
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そして、拙作の推薦文を書いてくださったLIZE様、ありがとうございます!!感謝感激雨霰です!
次回予告。
フォーク海峡の出口付近に姿を現した、グレードアトラスター級戦艦「ブラックホール」。味方や各国艦隊の海峡突破を支援するため、堺は"雪風"、"長門"と共に「ブラックホール」に挑む!
次回「激戦! フォーク海峡!(肆)」