鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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お待たせいたしました。
今回はグラ・バルカス帝国にスポットが当たります。



119. グラ・バルカス帝国の衝撃

 中央暦1643年5月14日、第二文明圏外西側 グラ・バルカス帝国本土。

 国家の大転移という大事件によって一時混乱こそしたものの、その後は「この世界」の諸国家との国力・技術力・軍事力の圧倒的格差に物を言わせ、周辺国を次々と武力で制圧しているグラ・バルカス帝国。広大な領域を支配する帝国を維持するため、必要な物資については制圧した国の現地人に機械の操作方法を教え、強制労働にて物資を徴発するという方法が取られていた。完全に帝国主義的な考え方である。地球では(少なくともこんな形では)絶対に()()らないやり方と言い切って良いだろう。

 そのグラ・バルカス帝国本土、帝都ラグナ。今日も工場の煤煙や自動車の排気ガスなどによってスモッグが発生し、帝都の空はいつもと同じくうっすら曇っている。その帝都の一角にある帝国軍司令部において、会議が開かれようとしていた。

 この会議は、先のフォーク海峡海戦の結果を受けて招集されたものである。現場で指揮にあたった帝国海軍特務軍艦隊司令長官アンネッタ・ミレケネス中将を筆頭として、帝都防衛隊長セトレイ・ジークス少将、東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド中将の「帝国の三将」、それ以外にも数多くの軍の高級幹部が参加していた。それに加えて、帝国情報局の面々も参加している。

 

「それではこれより、緊急会議を開催します。皆様、本日はお忙しいところを急遽お集まりいただき、ありがとうございます」

 

 進行係を務める若手幹部が開会を宣言し、会議はスタートした。

 

「まず、概要をご説明いたします。

去る帝国暦487年4月22日、我が国は神聖ミリシアル帝国からの要請により先進11ヶ国会議と称する蛮族どもの世界会議に出席し、その席上において世界征服を宣言しました。その翌日には、帝国海軍特務軍艦隊から派遣された東征艦隊が、世界最強を自称するミリシアルの1個艦隊を全滅させております。そしてその2日後、東征艦隊は世界会議に参加していた各国の艦隊、そして会議の開催地となっていたカルトアルパスに、航空攻撃と戦艦『ブラックホール』による艦砲射撃をかけ、各国艦隊をほとんど全滅に追いやりました。今回の作戦は、大筋で見て我が軍の勝利に終わり、この世界の蛮族どもは我が帝国の力を思い知ったと考えられます」

 

 ここまでの説明に、どの幹部も笑みをこぼしている。

 この世界の弱小蛮族どもには、相手が神聖ミリシアル帝国でもない限り、我が軍を傷付けることなどできない。それが、共通認識だったのである。

 

「しかし、カルトアルパス湾沖海戦(フォーク海峡海戦のグラ・バルカス帝国側呼称)において、思わぬ損害が生じました。信じがたいことに、作戦に参加した東征艦隊の航空機総勢200機のうち、85機もの航空機が未帰還となり、そしてグレードアトラスター級戦艦『ブラックホール』が大破する被害を受けたのです」

 

 この説明に、幹部たちの間からざわめきが生じた。

 

「敵の中にも、神聖ミリシアル帝国と並ぶ相手がいたようです。これに関しての検討を行い、今後の方針を決定すること、それが本会議の目的です」

 

 進行係がそう言って説明を終えると、真っ先にカイザルが口を開いた。

 「帝国の三将」の中でも、カイザルは「帝国の軍神」とも呼ばれ、彼の一言一言に軍部が注目するほどの影響力がある。そのカイザルの発言の矛先は、特務軍艦隊司令長官ミレケネスに向けられた。

 

「ミレケネス殿、東征艦隊の総合的な被害については資料から判明している。だがその被害は、東征艦隊が受けた全ての被害を総合計してのものであろう? どの国の軍からどの程度の被害を受けたのか、そしてその時の敵の戦力規模を教えてもらえぬか?」

 

 カイザルから話を振られたミレケネスは、席から立ち上がると口を開いた。

 

「特務軍艦隊が派遣した東征艦隊の最終的な損害は、戦艦1、重巡洋艦1、駆逐艦1の喪失と戦艦1、重巡洋艦1の大破、軽巡洋艦1の中破、その他複数の艦艇の小破です。また、航空機はマグドラ群島海戦(マグドラ沖海戦のグラ・バルカス帝国側呼称)とカルトアルパス湾沖海戦で合計して85機が未帰還となりました。内訳は、マグドラ群島海戦での喪失がアンタレス型艦上戦闘機2機、シリウス型艦上爆撃機2機、リゲル型雷撃機1機。カルトアルパス湾沖海戦での喪失が『アンタレス』25機、『シリウス』39機、『リゲル』20機です。その他に『アンタレス』3機、『シリウス』6機、『リゲル』7機が、損傷により再出撃不可と判定されています。

以上が、東征艦隊の最終的な被害です」

 

 ミレケネスがそう言った途端、

 

「何だこれは!」

 

 大声を出した人物がいる。

 西部方面艦隊司令長官ガルディオ・ガリデー中将だ。血気盛んな指揮官として知られ、彼の性格を如実に反映したような攻撃的な指揮が特徴である。

 

「蛮族相手にこれだけの被害を出すとは! 東征艦隊は何をしていたのだ!?」

「落ち着くんだ、ガリデー君。まだ彼女の報告が終わっていない」

 

 逆上しかけていたガリデーだったが、カイザルの一言で落ち着いた。

 

「次に被害の内訳です。まず神聖ミリシアル帝国から受けた被害は、戦艦1、重巡洋艦1、駆逐艦1の喪失と重巡洋艦1の大破、軽巡洋艦1の中破、その他複数の艦艇の小破。そして航空機11機の喪失と2機の被撃破です。次に、ムー国から受けた被害が、航空機3機の喪失と4機の被撃破。エモール王国から受けた被害が戦闘機22機の喪失。アガルタ法国から受けた被害が航空機2機の喪失。そしてロデニウス連合王国から受けた被害が、戦艦1の大破、航空機47機の喪失、10機の被撃破です。以上で、報告を終了します」

 

 ミレケネスが着席すると同時に、会議室はざわめきに包まれた。

 

「いったいこれはどういうことだ? 神聖ミリシアル帝国は予想された程度だとして、なぜまともな戦闘機もなかったロデニウス連合王国などに、これほどの数の機体が撃墜されたのだ?」

「ロデニウス連合王国が、とんでもない魔法でも持ち込んできたのか?」

 

 ひそひそと言葉が交わされる中、ジークスがミレケネスに質問を投げる。

 

「艦艇の被害の大半は、マグドラ群島海戦での神聖ミリシアル帝国軍との交戦によって出たもの、と考えてよろしいでしょうか、ミレケネス殿?」

「はい、そうです。カルトアルパス湾沖海戦で我が方の水上艦艇が受けた被害は、戦艦『ブラックホール』の大破のみです」

「では、その『ブラックホール』の大破は何が原因でしょうか?」

「主にロデニウス連合王国艦隊との交戦によって発生しました。ですが、その『ブラックホール』艦長から提出された報告書に、意外な内容が書かれていました」

「意外、とは?」

「雷撃を受けた、というのです」

「何ですと?」

 

 ジークスの眉がひそめられた。その隣でカイザルもやや目を見開いている。

 

「いったいどういうことだ!? 蛮族が、魚雷なんぞ持っているというのか!?」

「落ち着け、ガリデー!」

 

 再び激昂しかけたガリデーを窘めたのは、北部方面艦隊司令長官のディンゴ・ブライエン中将である。

 

「雷撃? ロデニウス連合王国軍が、魚雷を撃ってきたということですか?」

「情報局及び特務軍艦隊司令部は、そうだと判断しています」

 

 ミレケネスとジークスの質疑応答が続く中、カイザルは「ふむ……」とだけ呟いて、下顎に手を当てて何やら考え始める。

 

「敵艦隊の編成は?」

「報告書によれば、ヘルクレス級戦艦1、エクレウス級駆逐艦1だそうです」

「ヘルクレス級ですと!? 間違いないのですか?」

「間違いありません。こちらをご覧ください」

 

 ジークスにそう言って、ミレケネスは会議室のテーブルに報告書を広げた。そこには、カルトアルパス港で「ブラックホール」から撮影された「(なが)()」が写っている。

 それを見た幹部たちが、様々な反応を示した。ある者は一度両目をゴシゴシと擦り、それから改めて写真を凝視する。ある者は「そんな……馬鹿な……」と呟いて黙り込む。目を真円まで見開く者もいた。カイザル自身も一度思考を中断して写真に目をやり、驚いた様子を見せている。

 それもそのはず、戦艦「長門」はあまりにもヘルクレス級戦艦に酷似していたのである。一瞬見間違える者すらあったほどだ。電波兵装や高角砲の形状には相違があるものの、主砲の配置や艦橋の形状などの基本的な構造はヘルクレス級戦艦とほぼ同一といってよかった。

 

「なっ、これは……! ほぼ同じではないですか!」

 

 さすがのジークスも、これには驚いた。

 

「はい。ここまで来ると情報漏洩を疑うレベルです。現在情報局が全力を挙げて、内通者あるいはスパイの存在を調べております」

 

 だが今のところ、内通者やスパイらしき存在は見つかっていない。当たり前だ、潜入などしていないのだから。

 実は、グラ・バルカス帝国の兵器とロデニウス連合王国の兵器(正確には日本軍の兵器)が酷似しているのは、今のところは「偶然」としか言い様がないのである。いったいなぜこんなことになっているのか、誰にも分からないのだ。

 

「それで、『ブラックホール』の被害はどうなっていますか?」

 

 ジークスのこの問いは、ミレケネスではなく、同席していたラグナ港湾部造船課の課長レクター・オバノンに向けられた。

 

「詳細に報告いたします。まず全体総括としては大破です。具体的にはレーダーや右舷高角砲・対空機銃の全滅、第2砲塔のターレット損傷、水上機用の航空甲板並びにカタパルト、クレーン等の全壊、主砲射撃方位盤の故障。その他非装甲区画に大破口を複数穿たれ、兵員居住区画や艦載艇に大きな被害が出ております。そして特筆事項として、艦首の喫水線下部を喪失しておりました。特徴的な球状艦首が、根本からそっくり無くなっていたのです」

 

 軍の中でも錚々たる面子が並ぶ会議とあってか、若干オドオドしながらもオバノンはしっかりと報告を行った。そして、「こちらをご覧ください」と数枚の写真をテーブルに並べる。

 それは、乾ドックに入った「ブラックホール」の被害像を収めた写真だった。それらのうち、特に艦首を写した1枚に、幹部たちの目が吸い寄せられる。

 そこに写されていたのは、想像しがたい光景だった。グレードアトラスター級特有のあの球状艦首が、食いちぎられたようになって消え失せていたのだ。文字通り、綺麗さっぱり無くなっている。

 グラ・バルカス帝国は、「ユグド」と呼ばれた惑星に国土があった時点で既にグレードアトラスター級を実用化し、前線に送り込んでいた。ケイン神王国をはじめ幾多の国々との戦いにグレードアトラスター級は動員されていたが、こんな被害は受けたことがない。

 

「これは……完全に艦首が無くなっている……?」

 

 想像を絶する光景に、ジークスも驚きを隠せない。

 

「これが、魚雷によって受けた被害であると?」

 

 この質問を投げたのはカイザルだ。

 

「はい。損傷部分の観察結果からみても、この被害は、魚雷によって受けた以外には考えられません」

「ベルテクス大佐が提出した戦闘詳報でも、右舷艦首に魚雷を受けたとあります。間違いなしと判断します」

 

 オバノンとミレケネスが順番に答えた。

 

「しかし、記録を見ましたが、命中した魚雷は1本だけでしょう? たった1本でこんな被害が出るとは考えにくいのですが」

 

 そこへ新しい声が飛ぶ。声の主は、南部方面艦隊司令長官のハイドム・オルアース中将である。

 

「はい。それについてですが、先進技術実験室がある可能性を指摘してきました。先進技術実験室の方、よろしくお願いします」

 

 オバノンは、先進技術実験室の代表として出席していたカンダルに話を振った。

 

「では、本件は私、先進技術実験室のカンダルから報告します」

 

 カンダルはいつも通りの落ち着いた口調で話す。

 

「この『ブラックホール』が受けた被害ですが、我が海軍が使用している53センチ空気式魚雷では果たして出せるのか。我々はまず、そこについて検証しました。

計算の結果、グレードアトラスター級にこの被害を与えようとすると、少なくとも5本の魚雷が必要だという結論に至りました。しかしこれは、戦闘詳報の報告と一致しません。何故ならこの被害は、たった1本の魚雷によってもたらされたと考えられるからです」

 

 カンダルの説明を、出席者の面々は黙って聞いている。カンダルは続ける。

 

「そこで我々は、次の視点を考えました。それは、『そもそもこの魚雷はどこから撃たれたのか?』ということです。

敵国に潜水艦があるとは考えにくいですので、我々は、この魚雷は敵の駆逐艦から発射されたのだと仮定しました。エクレウス級なら、魚雷があってもおかしくないからです。

しかしこれにも、不可解な点がありました。詳報によれば、『ブラックホール』に突撃してきた敵駆逐艦は、同艦からの距離6,000メートル地点で反転したとのことです。そして、駆逐艦が反転してから約4分後に魚雷が命中したとあります。これを元に魚雷の速度を計算した結果、雷速48ノットという数字が出ました」

 

 カンダルがそう言った瞬間、出席者がざわついた。予想だにしない数字が出てきたからである。

 雷速48ノット。これは、グラ・バルカス帝国海軍が運用している53センチ空気式魚雷の速度よりも、2割ほど速い(53センチ空気式魚雷の速度は、平均約40ノット)。どうやったら魚雷がそんな速度を出せるのか、想像もできなかったのだ。

 

「また、敵の魚雷はたった1本で『ブラックホール』の艦首をもぎ取っています。このことから、威力も非常に高いことが窺えました。

そして我々は、ある恐るべき可能性に行き着いたのです。それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性です」

「そんな馬鹿な!!」

 

 またもやガリデーが大声を上げた。

 

「魚雷のみならず酸素推進型魚雷だと!? そんなもの、蛮族ごときが作れる訳がないだろう!」

「私とて、信じられません。ですが、戦闘詳報の記録に照らしても、それ以外の可能性が考えられませんでした」

 

 そう答えたカンダルに、静かな声が被さった。

 

「あり得るかもしれない話だな」

 

 口を開いたのはカイザルである。

 

「確か酸素推進型魚雷の特徴は、高速、大威力、長射程、そして無航跡だったはずだ。距離6,000メートルという数字は、我が軍の魚雷では有効射程ギリギリというところだ、酸素推進型魚雷なら十分に射程距離内だろう。大威力というのも、『ブラックホール』の艦首大破によって物証が上がっている。高速は、先ほどカンダル君が発表してくれた通りだ。そして無航跡だが……記録では、当時のフォーク海峡はべた凪の砲戦日和だったとある。そんな状況で魚雷の航跡に気付かないのは、いくら何でもおかしい。だが無航跡だったのなら、説明がつく。

可能性だけで物を論じるべきではないが、これはひょっとするとひょっとするかもしれんな」

 

 軍神カイザルの言葉であるだけに、その言葉には非常に重みがあった。

 

「だが、どうやって酸素推進型魚雷なんて作り出したんだ!? 我が国でも開発を放棄した代物ではなかったのか!?」

 

 怒鳴るガリデーに、カンダルは申し訳なさそうに答えた。

 

「そこは残念ながら、我々にも分かりかねます」

(可能性はある、か……)

 

 カイザルがそう考えているところへ、ミレケネスが挙手する。

 

「ロデニウス艦隊の対空戦闘についても、思いがけない報告が上がっています。攻撃に参加した母艦航空隊のパイロットたちが何人も、ロデニウス艦隊の対空砲には近接信管が使われていると証言しました。実際、ロデニウス艦隊によって撃墜された航空機の数は非常に多く、対空砲の命中率は異常と言えます。近接信管が使われていると見て、間違いないでしょう」

「そんなものが開発できてたまるか!」

 

 またしてもガリデーが荒れだした。

 

「近接信管の開発には、我々も苦労したんだぞ! この世界の蛮族ごときが、そんなもの開発できるわけがないだろう!」

「いえ、しかしデータは、ロデニウス連合王国が近接信管を使用している可能性が高いことをはっきりと物語っています」

「情報局からも、ロデニウス連合王国には我が国の『アンタレス』に似た機体が多数存在しているとの報告が現地より寄せられています。それに加えて、オリオン級戦艦、タウルス級重巡洋艦、キャニス・メジャー級軽巡洋艦、キャニス・ミナー級ないしエクレウス級駆逐艦といった艦級を確認しています。周辺国と比較してもロデニウスの技術力は突出しており、おそらく我が国同様に転移国家だと思われます」

 

 ミレケネスが反論すると、これまで黙っていた情報局のバミダルも口を開いた。

 

「これは、認めざるを得ないだろう」

 

 そんな中、カイザルが言葉を発した。それが鶴の一声となり、全員が注目する。

 

「ロデニウス連合王国の技術はおそらく、我々と同等レベルにあるに違いない。そうだとすれば、今度の戦争の相手は決して楽なものではないぞ。我々と同格ということはつまり、前世界のケイン神王国より強力だということだからな」

 

 グラ・バルカス帝国は、もともと「ユグド」と呼ばれる惑星に存在する国家であり、その惑星において最強の地位にあった。世界2位の国家だったケイン神王国と世界を二分して、世界大戦を戦っていたが、国力・軍事力・技術力いずれもグラ・バルカス帝国が圧倒的に優越していた(ただし、ケイン神王国にもそこそこの戦闘機……地球でいうブリュースターF2Aバッファローくらいのものはあった)。そのため、世界大戦はいずれグラ・バルカス帝国の勝利で終わり、世界全てがグラ・バルカス帝国の支配下に収まるだろうと見られていたものである。

 この異世界に転移してからも、グラ・バルカス帝国は周辺国を次々と制圧・併合して植民地化している。何せグラ・バルカス帝国の周辺の相手が弱すぎたのだ。ボルトアクション式ライフル銃すら持たない国ばかりであり、文明圏と呼ばれる連中であっても装備は未だに先込め式の単発銃、ひどい場合は銃や大砲すらなく、鎧兜に剣・槍・弓という場合もあった。そのためグラ・バルカス帝国にしてみれば、吹けば飛ぶような弱敵ばかりだったのである。

 だが、これは逆に言えば、グラ・バルカス帝国は同格以上の相手と戦ったことがない、ということを意味する。すなわち、格下相手の戦いしかしたことがないのだ。

 それがここにきて、なんと自国より格上かもしれない相手が出現したのである。自分たちですら実用化できなかった酸素推進型魚雷を、もし敵が運用しているのだとすれば、これは大きな脅威と言えた。

 

「となると、今一度ロデニウス連合王国について調べ直す必要がありそうですね」

 

 ジークスがカイザルの言葉を引き取った。

 

「ああ。情報部は引き続き、ロデニウス連合王国と神聖ミリシアル帝国について調べてくれ。この2国は、どうやら我が国の脅威となりそうだ」

「承知しました。内通者の存在と並行して、調べさせていただきます」

 

 カイザルにそう言われ、バミダルはうやうやしく頭を下げた。そこへ、ミレケネスが口を開く。

 

「それに加えて、ロデニウス連合王国も含めた各国に対して、より効果的な方法で戦力減殺を図る必要があると思います」

「具体的にはどうするのだ?」

「この際ですから、潜水艦を活用します。ロデニウス連合王国はどうやら例外らしいと思われますが、この世界の国々は魚雷を知りません。当然、それを主兵装とする潜水艦なんて想像もできないでしょう。その潜水艦を有効活用し、育成が難しい海軍戦力の減殺を図るのは有効と考えます」

「なるほど。そのロデニウスだが、彼らが潜水艦を知っている可能性はあるだろうか?」

「現時点では何とも言えませんが……仮に知っていたとしても、大きな被害を受ける可能性は低いと考えます。我が軍にあっても、爆雷の命中率は決して高くはありませんし」

 

 そう話し合う軍幹部たちだが……彼らは思い違いをしている。

 ロデニウス連合王国は当然のように、潜水艦を知っているのだ。そしてそれに対する有効な対処方法も。その理由は言うまでもなく、ロデニウス連合王国の一部は「地球」……潜水艦が「いる」どころか「()()()()()()()()()()()()いる」星から転移しているからだ。

 地球における潜水艦は、深海棲艦の潜水艦級のみに限定したとしてもとんでもないものがごまんといる。戦艦ばりにカチカチの装甲を持つ潜水艦や、幼女のような見た目ながら凄まじい性能を持った潜水艦などなど。果てには、レベル1なのに戦艦レベルの火力と装甲と耐久、それに重雷装巡洋艦も真っ青の雷撃能力を持つ「潜水艦」なんていう、「お前のような潜水艦がいるか」という言葉がぴったりの怪物すらいたのだ。

 また、現代の潜水艦はそれ以上に恐ろしい。SLBMの発射能力はある(この世界流に言うなら、誘導魔光弾を撃てる)し、非常に静かな音しか立てないし、無音航行で原子力空母に撃沈判定を取るバケモノはいるし、原子力を使った潜水艦もある。果てには誘導魚雷まで撃ってくるのだ。グラ・バルカス帝国からすれば到底想像すらもできない潜水艦の魔境、それが地球なのである。

 そして、そんな魔境で戦っていたからこそ、艦娘たちには対潜戦闘術がしっかり根付いている。狼群戦術(ウルフ・パック)を知っているのは当たり前、それを破るアクティブソナーはあるし、「第1海上護衛隊」と呼ばれる部隊の面々は怪物じみた深海棲艦の潜水艦を狩りまくっているため、確かな練度を有する。また、対潜装備も(情報的に)充実しており、爆雷は無論のこと、アクティブソナー、ヘッジホッグ、スキッド、果てはアスロックのような対潜誘導ミサイル、音響や有線による誘導魚雷も知っているのだ(ただし、アスロックや誘導魚雷はまだこの世界では開発されていない)。それらが実用化され、前線配備された暁には、グラ・バルカス帝国の潜水艦などただのカモにしかされないであろう……

 

「では、ロデニウス連合王国に対して第2潜水艦隊を差し向け、情報収集と戦力減殺を図る……ということだな?」

「はい。それがよろしいかと存じます」

 

 そんなこととは露知らず、グラ・バルカス帝国軍の幹部たちはロデニウス対策を決定していた。

 

「具体的にはどんな戦術で当たる?」

「現時点では、輸送船団に対しては短波通信で連携することによる、一斉攻撃作戦を想定しています。単独で当たったとしても、場合によっては味方に敵艦の位置を通報しながら攻撃することになるでしょう。相手が小型艦ならその限りではありませんが」

 

 そう、グラ・バルカス帝国の潜水艦隊も、「あの戦術」を知っているのである。「狼群戦術(ウルフ・パック)」を。

 そして彼らは知らない。ロデニウス連合王国海軍、特に第13艦隊には、そのウルフ・パックを破る必殺兵器「HF/DF+Type144Q/147 ASDIC改」が存在することを。

 

 「狼群戦術(ウルフ・パック)」。それは、ドイツ海軍のUボート部隊が採用していた必殺の戦術である。複数(3隻以上)の潜水艦によって行われる戦術で、偵察機からの情報を元に輸送船団を待ち構え、僚艦と連携してこれを攻撃する、という戦術である。連携は短波通信によって行われる。

 潜水艦黎明期であった惑星ユグドにおいては、グラ・バルカス潜水艦隊のウルフパックは非常に効果的であり、輸送船団のみならずバリバリの水上艦隊に対してもこの戦法が有効に作用した。シータス級潜水艦が活躍し、当時のグラ・バルカス帝国軍上層部の一部で「戦艦不要論」が出たのもこのためである。

 

 この狼群戦術に対してイギリス軍が取った対抗戦術は、「FH-4」と呼ばれる短波方向探知機(High-Frequency Direction Finder、略称HF/DF(ハフ・ダフ))の装備、アクティブソナーの改良、そして対潜兵器の開発等であった。特に、Uボートが僚艦との連絡に使う短波を探知する方向探知機は、有効に働いた。また、「Qアタッチメント」と呼ばれる補助ソナーの装備、そしてヘッジホッグやスキッドといった凶悪な対潜兵器の装備は、Uボートに対して極めて有効に作用した。これにより、イギリス海軍は狼群戦術を封じ込め、輸送船団を守ることに成功するようになったのである。

 

 そしてもちろんだが、地球から転移したロデニウス海軍第13艦隊も、イギリス兵器の情報を"Warspite(ウォースパイト)"から教えられて急ピッチで配備していたのである。第13艦隊・第1海上護衛隊には常に最新鋭のアクティブソナーが装備されており、主力アクティブソナーは「Type144Q/147 ASDIC」だが、それをアップデートしてHF/DFシステムを付属させた「HF/DF+Type144Q/147 ASDIC」に更新しつつあったのだ。他にも、第1海上護衛隊の一部の軽巡洋艦は、試験的に新兵器「ヘッジホッグ」を搭載している。潜水艦乗りにとってのヘッジホッグの恐ろしさは、「サイレント◯ンター」のようなゲームをプレイしたことのある方なら、お分かりいただけるだろう。

 第1海上護衛隊以外の艦艇にしても、さすがに最新型アクティブソナーは持っていないものの、「Type124 ASDIC」から「Type144Q/147 ASDIC」へと更新が進みつつあり、パッシブソナーも酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)を使用した「四式水中聴音機」を持っているのだ。防振ゴムなどをほとんど全くといっていいほど装備しておらず、騒音対策がガタガタであるグラ・バルカス帝国の潜水艦が、果たしてどこまで戦えるものであろうか……

 

「よし、ではそれで行こう。ロデニウス方面には、第2潜水艦隊を差し向けよう」

「現在、ロデニウス大陸南方500㎞地点にある無人島に、小規模ですが潜水艦隊用の前線基地を建設中です。これが完成すれば、ハイドラ級潜水艦であってもロデニウス方面への展開が可能になるでしょう。未だ詳細が判明していないロデニウス大陸の北東部を、海上から偵察することも可能かと思います」

 

 そのように発言するミレケネスだが、神ならぬ彼女はもちろん知る由もなかった。もしロデニウス大陸北東部に潜水艦が迂闊に近付けば、どうなるかということを。

 ロデニウス大陸北東部沿岸は、第13艦隊の哨戒圏に入っている。当然のように、強力な最新鋭の対潜装備でガッチガチに固めた第1海上護衛隊の面々が哨戒する可能性もあるエリアなのである。そんなところへろくすっぽ騒音対策をしていない潜水艦が近付けば、どうなるかは火を見るよりも明らかなのである……。

 

 

 ともかくこうして、グラ・バルカス帝国はロデニウス連合王国に対する軍事行動を開始しようとしていた。

 ロデニウス連合王国海軍とグラ・バルカス帝国海軍。彼らが激突する日は、そう遠くはないと思われる。激突した時、果たして運命の女神はどちらに微笑むのか……それはまだ、誰にも分からない。




はい、今回はグラ・バルカス帝国回でした。
潜水艦隊をロデニウス方面に差し向けようとしていますが、ロデニウス側も第13艦隊を筆頭に対潜戦闘訓練は一通り行っておりますし、さらに「三式水中探信儀」などのアクティブソナーも配備しております。どうなるやら…


評価8をくださいました兎師様
評価10をくださいました護衛艦 ゆきかぜ様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

グラ・バルカス帝国による宣戦布告を受け、またフォーク海峡海戦の結果を受けて、各国に動きが生じる。そして、グラ・バルカス帝国は文明国にあるまじき暴挙に出、一石を投じた…
次回「各国の動向」
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