鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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は? え? ちょ!?
今のうp主の気持ちを総統閣下の空耳で言うと、「ふぁっ!?ちょ、待ーって、待ってってば!」です。


平均評価7.09、評価バーがオレンジ色、お気に入り115!!?
評価はともかく、お気に入りが33も急増するとは予想してなかったぞ!?

どうしてこうなった?


前って何したっけ…たしか、日本軍妖精たちにバンザイ突撃させて…。はっ、まさか!?
この頃の日本人は、愛国心の薄い方が多いと思っていましたが、愛国心をお持ちの方がここまで登録してくださったのか? こんなネタのごった煮を!?

評価5をくださいました黒鷹商業組合様、評価7をくださいましたmakieru様、評価8をくださいましたドラくに様、評価9をくださいましたleisured man様、ありがとうございます!
そして、まさか評価10を頂けるとは…ブラックコーヒー牛乳様、ありがとうございます!!
また、お気に入り登録してくださった皆様、本当にありがとうございます!
ついでに評価のほうも、ポチッとよろしくお願い申し上げます。
そして、更なる愛国心の炎上に努めます!(笑)


しばらくドンパチが続いていますが、今回、新たなるドンパチが発生します。
今話のタイトルは、第二次世界大戦の1944年以降(つまりノルマンディー上陸の後)の西部戦線のネタを拾っています。



012. 第二戦線を形成せよ

 中央暦1639年5月2日 午前8時、クワ・トイネ公国北東部の34㎞沖合い、タウイタウイ島。

 地球から飛ばされてきたタウイタウイ島は、そこに根を下ろしていた。今日も、基地航空隊や(かん)(むす)たちが演習に明け暮れ、練度向上を図っている。

 そんなタウイタウイ泊地司令部の一室で、セーラー服とメガネが特徴的な艦娘"(おお)(よど)"が無線通信を受けていた。(さかい)が出撃中のため、泊地の指揮権は"大淀"に委譲されている。

 

「はい……了解しました。どのくらい投入したらいいですか? あと、陸軍の新兵たちが実戦参加を望んでいるのですが。どうぞ」

 

 鉛筆を動かし、紙に何かを書き込みながら通信を飛ばす"大淀"。相手は、現在ロウリア方面に出征中の堺である。

 

「はい……はい、了解しました。では、直ちに部隊の編成にかかります」

 

 そこまで言うと、"大淀"はヘッドホンを外して、無線機の側面に引っかけた。席を立ち通信室を出て、司令室へと向かっていく。

 

「ロウリア王国西部、港湾都市ピカイアへの上陸作戦……。たしか、()(こん)部隊はあの方面から向かってますし、提督は国境を突破してロウリア王国東北部より侵攻中……。なるほど、三方向から包囲ですか」

 

 呟きながら"大淀"は、戦線の展開の様子を頭の中に描いていた。

 

 

 1時間後、午前9時。

 タウイタウイ泊地に、"大淀"の声が無線通信で響きわたった。

 

『通達です。今から名を呼ばれた者は、全員司令室まで出頭してください。戦艦……』

 

 さらにその5分後。

 司令室には、名を呼ばれた艦娘たちが全員集合していた。

 

戦艦"(こん)(ごう)"、"(はる)()"。

航空母艦"(しょう)(かく)"、"(ずい)(かく)"。

重巡洋艦"(みょう)(こう)"、"()(ぐろ)"。

軽巡洋艦"()()"、"()()"。

駆逐艦"()(ぐれ)"、"(むら)(さめ)"、"(ゆう)(だち)"、"(かわ)(かぜ)"。

 

 彼女たちがピカイアに向けて出撃する、強襲揚陸艦隊の第一陣である。

 続いて、

 

重巡洋艦"()()"、"(あし)(がら)"。

駆逐艦"(しら)(つゆ)"、"(すず)(かぜ)"、"(あき)(づき)"。

揚陸艦"あきつ丸"。

 

 これが、強襲揚陸艦隊の第二陣。

 この2本立ての艦隊で、ピカイア強襲上陸を実行する。先行する第一陣は、敵艦隊が残っている中での突入となるため、戦力を多めに割り当てている。

 

「なるほど……つまり、ロウリア王国のcapitalに対して包囲陣を敷け、ということデスネ?」

「はい。提督は国境を突破してロウリア王国に突入していますし、士魂部隊もいます。ですからこの作戦が成功すれば、ロウリア軍は三方面に対して部隊を動かさなければならなくなります。如何に人口の多いロウリア王国といえど、三正面作戦は辛いでしょう」

 

 説明された作戦に、"金剛"がコメントする。それに返事を返す"大淀"。

 

「他に、何か質問はありますか?」

 

 全員、黙って首を横に振った。

 

「では、全艦出撃してください。装備は作戦指令書に載せています」

 

 "大淀"の命令に、全員が敬礼を返した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 同じ頃、ロウリア王国の王都ジン・ハークにある、王城ハーク城においても作戦会議が開かれていた。

 

「現在の敵の位置はどうなっている?」

 

 大王ハーク・ロウリア34世の質問に、ロウリア軍総司令官パタジンが答える。

 

「はっ! クワ・トイネ公国より攻め込んできた敵軍は、現在我が国北東部にある、アイナ平原を進みつつあると見られます。しかし彼らの数ですが、2万にも満たないとされています。同地には我が軍のうち、ゲルベ将軍率いる第4軍、5万人が展開しており、簡単には破られないでしょう。それどころか、ここで殲滅してご覧に入れます」

「うむ。この前は、部隊が準備を整える前に奇襲され、結果として国境突破を許してしまった。だが、もうそうはさせるな。くれぐれも任せたぞ!」

「ははっ! それと1時間ほど前に、国境に残る部隊から魔信がありました。現在、残存兵力として5万人ほどの集結を確認している、とのことです。こちらは、どう動かしましょうか?」

 

 パタジンの質問を受け、ハーク・ロウリア34世は下顎に右手を当てて、少し考えた。

 選択肢は2つ。国境を越えて侵攻してきた敵を挟み撃ちにするか、もう一度クワ・トイネ公国領内に侵攻させてギムを確保するか。

 だが、戦力分散は極力するべきではない……

 

「国境に半数を残し、警戒に当たらせよ。残りの半数で、アイナ平原にいる敵を叩け!」

「はっ、承知しました!」

 

 これで、なんとかなるはずだ。

 ハーク・ロウリア34世は、そのように考えていた。

 

 

 しかし、その僅か1時間後、午前10時。

 アイナ平原には、砲声が轟いていた。ただし野砲ではない。戦車砲である。

 

ズドォォォォォン!

 

 アイナ平原の一角に、小さな砦のごとくデンと構えている、(はち)(きゅう)(しき)(ちゅう)(せん)(しゃ)50輌。そのうち先頭に立った20輌が、横一列に並んで一斉に発砲する。

 

ドカァァァンッ!

 

 数瞬後、前進するロウリア軍部隊のど真ん中が爆発する。

 

「うわぁぁぁ!」

 

 叫び声とともに、吹き飛ばされる何人ものロウリア兵。吹き飛ばされた者は地面に落ち、動くことは二度とない。

 

「くそっ!」

 

 この現状に、ゲルベ将軍は舌打ちをした。

 

「これでは、兵力の差が2倍でも勝ち目がないではないか……!」

 

 

 話は、10分ほど前に(さかのぼ)る。

 アイナ平原の一角に陣を敷いたロウリア軍、その数は5万。ロウリア王国の紋章を染め抜いた天幕を張った本陣の中で、司令官であるゲルベ将軍は、幹部の1人から敵の情報を聞いていた。

 

「何? では敵の兵力は2万には届かないだろう、というのか?」

「はっ。国境を突破された時は、慌てた故正確な報告が難しかったのですが、あとになって考えてみると、敵の数はそのくらいではないか、ということです」

 

 まあ、非常事態における誤報告なんぞ、古今東西よくある話である。

 

「ふむ……戦場での誤認はよくある話ではあるな。奴らに航空兵力はあるのか?」

「それが……どうやら非常に強力な飛竜隊を持っているようで、国境地帯での戦いだけで27騎もやられています」

「なにっ!? ちょっと待て。我が方のワイバーンは、もう75騎前後しかなかったはずだが!?」

「はい。にも関わらず、“たかだか”2万を攻撃するのに27騎も失い、しかも敵の撃退ができていません。敵のワイバーンは、よほど強力だと見られます」

 

 ロデニウス大陸も含め、この世界においては、ワイバーンは“最も強力な戦力”といっても過言ではない。特に対空防御が貧弱な敵に対しては、ワイバーンが10騎いれば、1万もの敵を足止めすることが可能なほどだ。

 この理屈にあてはめれば、侵入したクワ・トイネ軍2万など、20騎もあれば蹴散らせるはずなのだ。しかし現実には、ワイバーンは27騎も失われ、敵はここまで侵攻してきている。それはつまり、敵がよほど強力なワイバーンを持ってきている、ということに他ならない。

 

「……気をつけるしかあるまい」

 

 ゲルベ将軍が呟いた時だった。

 

「将軍!」

 

 別の幹部が天幕の中に駆け込んできて、ひざまずいて報告してきた。

 

(せっ)(こう)からの緊急報告です! 敵部隊が、本陣の北東3㎞に接近しています。クワ・トイネの国旗を掲げており、敵であることは間違いありません。また、それに混じって、赤い太陽を描いた白地の旗も、幾つか上がっているとのことです。また、敵軍には異様な怪物がおり、ガタガタという耳慣れない音を立てながら、兵士とともに移動している、とのことです!」

「なっ!? 怪物だと? 何なのだ、それは?」

「はっ。目撃した斥候によれば、そいつは人より大きい図体……ちょうど馬のように縦長の図体を持ち、全身に鎧をまとっているそうです。また、一種の昆虫のように胴体両側の足をワシャワシャと動かして動き、一つ目だそうです」

「何なのだ、それは!!?」

 

 ちなみにこの報告であるが、斥候は「八九式中戦車」の車体前面に設けられた覗き窓を、目と見間違えている。

 まあ、戦車を知らない人間が戦車を理解しようとするのが無理な話だから、仕方ない。

 

「全身鎧とはな……。噂に聞いたところでは、フィルアデス大陸にはそんな生物がいるらしいが、そいつを持ってきたのか!? いや、まさかな」

 

 とはいうが、現に敵はすぐそこまで来ている。これは紛れもない事実。となれば、やることは1つだ。

 

 ……全力をもって、叩き潰す。

 

「全軍、戦闘配備!」

 

 ゲルベが号令した、その時だった。

 不意にゲルベの背筋を、悪寒が走り抜けた。

 

(!?)

 

 反射的に、ゲルベは辺りを見回す。

 

(何だ、今のは……?)

 

 その時、遠くからバシュバシュバシュという、妙な音が聞こえてきた。同時に、北東の方向が少し明るくなる。

 次の瞬間、

 

ドォンドォンドォン!

 

 辺り一面が爆発した。

 閃光が光った直後、大量の土砂が巻き上げられ、猛烈な砂埃が発生する。それに巻き込まれた兵士たちは…()()()(じん)に吹き飛ばされた。

 

「くそっ! 何なんだ、今のは!? 敵の攻撃か?」

「は、どうもそのようです! 斥候からは、敵軍において強烈な光と音、そして大量の白い煙が確認されたとのこと!」

「て、敵の爆裂魔法は、これほどの射程距離があるのか!? バカな!」

 

 しかしこれでは、こちらは敵に全く損害を与えられぬまま、敵の爆裂魔法で壊滅することになってしまう。

 

「くそ、やるしかない!

全軍、全速前進! 敵軍に突撃、これを粉砕せよ!」

 

 ゲルベ将軍の決断は、“突撃”だった。

 ロウリア軍の兵士の攻撃手段は、基本的に剣である。遠距離兵器としては弓や魔法があるが、射程距離は心許ない。なんとかして距離を詰めなければ、戦いにならないのである。

 そして、今に至るというわけであった。

 

 

 ……だが、そんな突撃を堺が許すわけもなく。

 

 突撃したロウリア軍を待ち受けていたのは、八九式中戦車の57㎜砲弾の雨と、

 

「撃てぇ!」

ズダダダダダダダダダダダ!!

 

 ……戦車の車載機銃と(きゅう)(ろく)(しき)(けい)()(かん)(じゅう)による、弾幕の嵐だった。

 ロウリア軍の兵士たちは兵科の別なく、自分達の間合いに到達するはるか手前で、蜂の巣にされて次々と倒されていく。敵との距離が500メートルを切ったところから、この虐殺は始まっていた。

 

「止まるな! 進めぇ! ここを突破される訳にはいかん! なんとしても接近戦に持ち込み、敵を撃滅するのだ!」

 

 必死に指示を飛ばすゲルベ。自身も足を動かして突撃する。

 しかし、気がついた時には手勢は僅か800まで減らされていた。代わりに、敵との距離は40メートルを切った。

 

「弓隊、用意!」

 

 素早く弓を持った兵士が矢を番える。しかし矢が放たれる前に、機関銃と(さん)(ぱち)(しき)()(へい)(じゅう)の銃撃で全員が倒れた。

 

「止まるな! そのまま進め!」

 

 命令しながら必死に走るゲルベ。しかし残り20メートルまで迫ったところで、信じ難いものを見る。

 敵の中から新たな怪物が出てきて、火炎魔法を撃ってきたのだ。味方の兵士はそれを浴び、悲鳴を上げて倒れていく。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

「ぐああぁぁぁ助けてぇぇ……」

 

 今さっきまで共に走っていた味方が、生きたまま焼かれ、倒れていく。ロウリア軍の兵士たちは、ワイバーンの導力火炎弾で焼け死ぬことくらいは想定していたが、まさか突撃中に丸焼きにされるなどとは思っていなかった。このあまりに惨い光景に、生き残った兵士たちの足が一瞬止まる。

 日本軍は、その瞬間を決して見逃さない。

 

「豚どもを殺せぇぇ!」

「勝利じゃぁ!」

「皆殺しじゃ、攻撃しろぉ!」

「死ね、クズども!」

 

 陸戦妖精は()(せい)とともに、銃の引き金を引く。三八式歩兵銃が死を招く銃弾をロウリア軍の兵士に撃ち込み、歩兵は短い絶叫を発して地面に倒れ伏す。九六式軽機関銃が騎兵を馬ごと(めっ)()()ちにし、騎兵は馬とともにあの世へ召される。鎧を着ていようと、まったく防御の役に立たない。

 

「我々も負けるな! ()て!」

 

 さらに、クワ・トイネ公国軍からも矢が飛んでくる。しかも風魔法が付与されているため、普通の矢より威力・射程ともに増大している。矢と銃弾の雨を受け、ロウリア軍は急速にその戦力を減らしていく。

 

「おのれー……」

 

 ゲルべが叫んだその時、敵を罵ろうとしてゲルべが開いていた口の中に、誰かの撃った三八式歩兵銃の弾が飛び込んだ。それと同時に、彼の額に1本の矢がツノのように突き立つ。

 矢が降り注ぎ銃弾が飛ぶ中で、ゲルべ将軍の身体が糸が切れたように地面に倒れていった。

 

 かくして、アイナ平原北部に展開していたロウリア軍5万人は全滅し、ゲルべ将軍も戦死した。対して、クワ・トイネ公国軍の損害は1兵もない。完全勝利である。

 

 

 2時間後、舞台は再びジン・ハークへ移る。

 ジン・ハークの中心に立つ、ロウリア王国の王城・ハーク城。その中の軍司令部では、大パニックが発生していた。

 

「早く、西方部隊から応援の兵士を回せ! 南方からもだ! 急げ!」

「って言われても無理だ! 移動するのに最低1日はかかる! その間に突破されるぞ!」

 

 いつもなら、各人が談笑しながら平和に過ごすであろうお昼時にも関わらず、あっちこっちで怒号が飛び交う。

 こうなった原因は、少し前に舞い込んできた1つの報告であった。

 

 さて、その報告について述べる前に、まずはロウリア王国の地理について触れておこう。

 ロウリア王国の国土の中央やや北に、王都ジン・ハークは存在する。居住人口は70万人で、ロデニウス大陸最大の都市である。街全体は、高さ30メートルの三重の城壁に囲まれていて、街の中央にハーク城がある。城壁の上には多数の監視塔があり、全方位に睨みを利かせている。さらにこの城塞都市は、見晴らしのいい平原地帯……ロウリア王国の地理において、ハーク平原と呼ばれる場所の真ん中にあるため、奇襲が掛け辛い。まさに難攻不落の城である。

 そのジン・ハークの東方4㎞の位置に、ロウリア王国一の工業都市、ビーズルが存在する。同市はロウリア王国軍の軍需物資の生産を一手に担っており、ここがもし陥落すれば、ロウリア王国軍の補給が立ち行かなくなってしまう。ロウリア軍にとって、とても重要な都市である。

 さらにそのビーズルの北方2㎞の位置に、小さな町イェルクが存在する。アイナ平原に面した小さな町だが、ビーズルの目と鼻の先にある町だ。もしロウリア王国に敵が侵攻した場合、アイナ平原を通ってこのイェルクを抜け、ビーズルへと向かうだろうことが予想される。このためこの町は、ビーズル防衛の戦略上、重要な都市である。

 

 その、イェルクの北2㎞の地点にまでクワ・トイネ公国軍約2万が進出してきた、という報告が、つい先ほど寄せられたのだった。この報告こそ、ロウリア軍司令部がパニックに陥った原因である。

 そもそも、敵がイェルクまで来ているという時点で緊急事態である。歩兵の歩く速度は、軽装だとだいたい時速3㎞、重装歩兵でもおよそ時速1㎞。これが何を意味するかというと、敵はその気になれば、夕方頃にはビーズルに到達することができる、ということである。

 さらに言うと、アイナ平原にはゲルべ将軍の守備隊5万人が展開していた()()である。にも関わらず、敵がここにいるということは、この守備隊は突破されてしまった可能性が高い。しかも、敵の数が減っていないように見えることから、どうやら5万もの大軍を(せん)(めつ)するだけの力がある、とみていい。

 極め付けに、現在イェルクに駐屯している兵力は、わずか3,000。2万もの大軍が相手では、あっさり破られることは目に見えているし、何より民間人の避難ができていない。既にイェルクでは住民たちがパニックを起こし、なんとかビーズルの南方へ避難誘導しているが、どうみても間に合わない。

 

「くそっ! なんて進撃速度だ!」

「というより、ゲルベ将軍は何をしていたんだ! たかだか2万に突破を許すなど……!」

「そんなことより、さっさと援軍要請して下さいっ!」

 

 結局、南方部隊から5割、西方部隊から6割ほどの兵力が引き抜かれ、東方防衛に加わることとなった。

 だが、特に西方を空けたことの不味さにロウリア軍が気付くのは、もう少し後だった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 中央暦1639年5月2日 午後4時。

 ロウリア王国西方の港湾都市ピカイア。そこは、ロウリア王国におけるフィルアデス大陸及びその周辺の国家群との交易の拠点である。

 その港を今、ロウリア王国の紋章入りの帆を張った1隻の大型船が出港していく。それと入れ替わるように、1隻の中型船が入港してきた。その帆には第二文明圏の最強国家にして、世界五列強の2番手、ムー国の紋章が描かれている。

 

「やれやれ、やっと届いたか……」

 

 ムー国の観戦武官リアス・アキリーズは、船員たちが降ろしてきた写真機を見て呟いた。写真機というが、それはかつて日本で使われていた、小西六の「リリー」に似ている。つまり日本人からすると、割と古めかしいデザインなのである。

 

「とはいうものの、こんなところまで敵は来るのだろうか……? 西の端だし、こんなところまで来るとは思えんのだが……」

 

 彼はため息をつく。

 

 ロウリア王国には、馬車を使った公営移動業……我々でいう市バスみたいなもの……がある。これはワイバーンを除けば、ロウリア王国内で最も速く移動できる手段であり、かつ庶民でも利用できるものである。広大な王国を移動するためには、これは欠かせなかった。

 しかし現在、この公営移動業は全面的にストップしてしまっている。急いで、東方戦線に援軍を送らなければならないからだ。多数の兵士をできるだけ速く東方に送るには、この馬車がうってつけだったのだ。

 というわけで、ピカイアの移動業者は、その全てが軍の移動任務に駆り出されてしまって、民間人が利用できる移動サービスはゼロになってしまった。その結果、リアスはジン・ハークへ戻る手段を失い、ピカイアで一晩明かさなければならぬ状況なのである。

 こうしている間にも、敵であるクワ・トイネ軍は着実にイェルクへ、ビーズルへ、そしてゆくゆくはジン・ハークへと接近しつつある。早く戻らなければ、敵の兵器を視察できる(せん)(ざい)(いち)(ぐう)機会(チャンス)を、逃してしまうかもしれない。

 しかし、徒歩以外の移動手段がないとあってはどうしようもなく、かといって、写真機を運んできた船に乗って本国に帰るわけにもいかない。リアスは()()みしながら眠りに就いた。

 

 

 翌朝、5月3日午前6時。

 リアスは目を覚ますや否や、すぐに国営移動サービスのピカイア支部を訪れた。今日の運航予定を確認しに来たのだ。

 そこで話を聞いたところ、一番早い便だと午前8時に出発する便がある。これに乗ればいいだろう。

 

(それじゃ、ちょっとだけ時間潰しするかな)

 

 そう考えたリアスはいったん宿に戻ると、昨夕送られてきた写真機を片手に持ち、(かん)(ばん)のマガジンを入れた小型カバンを肩に下げて、海辺へと向かった。

 傍から見れば、風景写真を撮ろうとしているカメラマンにしか見えない。だがリアスの目的はそうではない。可能性は無きに等しいが、あのクワ・トイネの大戦艦が来たら撮ってやろう、と思っているのである。

 

 ピカイアの市街地を少し離れ、南にちょうどいい小高い丘を見つけたリアスは、そこに陣取って西の風景を眺めた。彼の目の前には、青い海がどこまでも広がる。彼からみて右手前方に目を向ければ、石造りの建物が並ぶピカイアの市街地が見え、マストを立てた軍用帆船が1,000隻、港を埋め尽くすように並んでいる。後ろを振り向けば、そこにはロウリア軍の飛行場があり、ワイバーン1騎が滑走路脇で草を()んでいる。他のワイバーンは竜舎で休んででもいるのだろう。どこまでも“平和な景色”である。

 

(まあ、さすがにクワ・トイネ軍もここまでは来ないだろうがな)

 

 そのようなリアスの考えは、観察を始めてから僅か5分でひっくり返された。

 ぼんやり南側の海を眺めていた彼は、ふとした拍子に北西の方向の海を見て、

 

「?」

 

 思わず目を見開いた。

 北西の空の一角にだけ、小さな()()()がぽつんとかかっている。どうみても不自然である。

 リアスが見上げているうちに、その黒雲はだんだんはっきりした形を取ってきた。何かが群れで空を飛び、こちらに近づいてきている。

 

(ワイバーンか?)

 

 しかし、それにしては何かがおかしい。羽ばたいていないように見える。さらに、どこからかブーンというなんだか聞き覚えのある重低音が聞こえる。どこで聞いた?

 少し考えたリアスは、突然思い出した。ムーの飛行場で、50機編隊を組んで飛ぶ訓練をしていた「マリン」の飛行隊。それが、これに似た重低音を出していたことを。

 

(まさか! 航空機!?)

 

 何度も言うが、航空機なんて装備は列強国、それもムー国か神聖ミリシアル帝国くらいしか持っていない。そんなものが、こんな()()()()()を飛んでいるはずがないのだ。

 となると、これは間違いなく……

 

(あの時の、赤い円を描いた単葉機か!)

 

 リアスは、反射的に写真機を構えた。

 黒雲に見えた群れは、だんだんこちらに近づいてくる。それに伴い、リアスの目には羽ばたかない翼と鼻先で高速回転する物体が見えはじめた。それを、1機1機が保有している。

 

(間違いない、奴らだ!)

 

 リアスは立て続けに、2回シャッターを切った。まず遠めのアングルで1枚。それから、もう少し近づいたところで、なんとか航空隊のうちの1機の(ぜん)(ぼう)が写るようにして1枚。

 謎の航空機を写した乾板をリアスがカバンにしまった時には、敵はもうすぐそこまで来ていた。黒い爆弾を抱いた足の速い機体が、見上げるリアスの頭上を越え、まっしぐらにワイバーン飛行場に突っ込んでいく。今頃になって、数騎のワイバーンが慌てたように離陸を開始するが、もう遅い。

 低空で突っ込んできた最初の1機が、腹の下に抱えた爆弾を投下するや、滑走路のど真ん中に強烈な爆炎が立ち上る。離陸中のワイバーンが1騎巻き込まれ、竜騎士ともども爆砕された。

 続いて、仲間の機が同じように爆弾を投下し、離陸しようとするワイバーンに機銃掃射を浴びせる。たちまちワイバーンは、竜騎士ごとミンチ肉と化して滑走路に横たわり、滑走路にも大穴が開き、竜舎は爆弾が命中して粉微塵に破壊される。これにより、ロウリア軍は制空権を失った。

 

 敵の爆撃を見て、シャッターチャンスを狙うリアスの耳に、さらなる爆発音が少し遠めに響く。振り返れば、港に停泊していたロウリア軍の帆船が、急降下爆撃でかたっぱしからやられるところだった。ロウリア軍が混乱しているのが、ここからでも見て取れる。

 爆炎を透かして、クワ・トイネの航空機が海面すれすれを飛んでいるのに気付き、リアスは写真機を構える。このおかげで、彼は奇跡的な写真をマイラスに送ることができた。シャッターを切る瞬間、ちょうど海面すれすれを飛んでいた機体……艦上攻撃機「(りゅう)(せい)」が、魚雷を投下したのだ。投雷する瞬間を捉えられたので、シャッターはまさに完璧なタイミングで切られた、というべきだろう。

 リアスは続けて、海面を走る白い線を狙ってシャッターを切り、大急ぎで乾板を取り外して新しい乾板をセット。ギリギリで、魚雷が命中してへし折れる船を写真に収めることができた。

 

「よし! 次は……」

 

 そう呟いた瞬間、リアスは背後から殺気を感じた。

 

「!?」

 

 振り返ると、飛行場を襲っていた航空機の1機が、機首をこちらに向けて近づいてくる。爆弾は抱えていない。

 リアスは、この機が何をしようとしているか察した。あわてて横っ飛びに飛びすさる。

 次の瞬間、タタタタタという連続音がしたかと思うと、さっきまでリアスがいた位置に細かい土埃が大量に舞った。ちぎれた草が宙を舞う。

 リアスは危ういところで、零戦62型の機銃掃射を喰らわずにすんだ。

 

(あ、あっぶねぇぇぇ!)

 

 ギリギリで蜂の巣になる運命を免れたリアスは、滝のように冷や汗を流すのだった。

 

 

 30分後、敵機は引き上げていったが、ロウリア王国軍が(こうむ)った被害は想像を絶するものだった。

 まず、港に残っていた1,000隻の軍用帆船……先のロデニウス沖海戦から逃げ帰った艦隊である……のうち、実に220隻が沈没。ロウリア軍はいきなり、生き残りの艦艇のうち5分の1以上を失った。

 さらに、ワイバーンの飛行場が攻撃され、ワイバーン隊は全滅。滑走路も竜舎も爆撃され、飛行場は機能を喪失している。

 極めつけに、敵の被害はゼロ。隠しようもなく()()である。

 

「くそっ! いいようにやりやがって!」

 

 シャークン亡き後(ロウリア軍では、海将シャークンはロデニウス沖海戦で戦死したとされている)、残存艦隊の指揮を執っていた海将ホエイルは、ロウリア艦隊旗艦のとある船室で()(だん)()を踏んだ。

 

(ワイバーンと対空兵器さえあれば、戦えるものを……!)

 

 その時、

 

「て、提督!」

 

 幹部の1人が、血相を変えて飛び込んできた。

 

「何だ!?」

「沖合いに、敵艦隊接近! 超大型のヤツが2隻、それ以外に小さいのが複数!」

「何だと!?」

 

 ホエイルは船室を飛び出し、甲板に出る。マストに登る必要があるかと思われたが……必要はなかった。目標は、はっきりと目視できたのだ。

 

「デカい……!」

 

 沖合い10㎞ほどの位置に、とんでもない大きさの船が2隻いる。目を凝らすと、豊穣の女神と麦穂のデザインの旗、そして赤い太陽を描いた白地の旗が翻っていた。クワ・トイネ公国軍で間違いない。のだが……

 

「あんな軍艦あったのか!? パーパルディアでもあんなの持ってないだろ!?」

 

 まず大きさが(けた)(ちが)いである。ロウリア王国の軍用帆船は、大きいものでも全長約30メートル。地球だと、コロンブスが使った「サンタ・マリア号」がこのくらいのサイズである。……が、今ホエイルの前にいる軍艦は、どうみてもその約5倍はある。

 さらによく見ると、この軍艦は鋼鉄製らしい。パーパルディア皇国の軍艦であっても、鋼鉄の装甲を張ったものはごく一部にすぎないというのに、である。

 

「あんなのが、接近して白兵戦を仕掛けてくるってのか!?」

 

 ホエイルが驚愕していたその時、超巨大な敵艦の片方が動いた。

 艦の前方に据えられた、鉄製らしい銀色の箱。それが回転して、その箱から突き出た2本の筒がこちらに向けられたのだ。

 

「何をする気だ?」

 

 疑問を抱くホエイル。

 その時、その箱がピカッと光った。

 

「何だ? 勝手に爆発したのか?」

 

 ホエイルが呟いたその時、聞いたことのない轟音が大気を揺さぶった。

 直後、

 

ズズゥゥゥゥン!!

 

 帆船のマストよりも高い水柱が、2本立ち上る。同時に、ホエイルの前で2隻の帆船が白い光に包まれた。

 光が収まった時、そこにはもう帆船はいない。海面に浮かび、助けを求めている兵士たちと、その周囲の木切れと破れた帆が、帆船がどうなったかを物語っている。

 

「な!? い、今のは攻撃だったのか!? なんて威力と射程があるんだ!」

 

 驚愕と絶望から、ホエイルは叫んだ。

 

 

「初弾命中ネ」

 

 距離わずか10㎞と、砲戦距離としては近い距離で砲撃を開始したタウイタウイ艦隊。その旗艦「金剛」の艦橋で、艦娘たる"金剛"は呟いた。今の第一射は交互撃ち方によるもので、各主砲塔の左砲から砲撃している。

 事前に情報は得ていたが、こうして実際に目で見ると、なんだか奇妙な感じがしてくる。前方に見える艦隊、それが敵の主力艦隊なのだが、どう見ても()()()()()()()()である。そんなのを相手にするには、「41㎝連装砲」はどう考えてもオーバーキルに過ぎる。

(なお"金剛"は改二仕様なので、主砲が「35.6㎝連装砲」ではなく「41㎝連装砲」になっている)

 

『主砲、砲撃開始!』

 

 続いて"榛名"が、「35.6㎝連装砲(ダズル迷彩塗装)」を発射する。左舷方向への交互撃ち方だ。

 4発の356㎜砲弾が、風を切って飛翔する。着弾と同時に水柱が2本。そして、赤い炎の柱が2本。

 

『命中です! 続いて右砲の照準を調整。命中弾あり次第、次より斉射!』

 

 その報告を聞きながら、"金剛"は指示を出した。

 

「妙高、羽黒、Open fireネ!」

『妙高、参ります!』

『全砲門、開いてください!』

 

 高角砲と機銃を空に向けて対空警戒しつつ、2隻の妙高型重巡洋艦が、計10発の203㎜砲弾を発射する。こちらも見事に命中し、6隻ばかり沈んだようだ。同じタイミングで、「金剛」の右砲が一斉に砲弾を撃ち出す。ひときわ大きな水柱が3本、そして火柱が1本見えた。

 

「次より斉射始めるネ! 弾種はそのまま通常弾!」

「了解。通常弾装填、次より斉射!」

 

 "金剛"の命令を、砲術長妖精が復唱する。

 敵艦隊はやっと帆を上げ、混乱しつつも出港しようとしていた。だが、かなりの被害が出ていることは間違いない。

 

「『榛名』交互撃ち方、敵艦隊に命中を確認。次より斉射!」

 

 通信長妖精からの報告。「榛名」の主砲の照準が合ったようだ。

 

「『妙高』『羽黒』照準よし。次より斉射!」

 

 やはり、203㎜砲弾のほうが軽い分、410㎜弾や356㎜弾より装填が早い。だが、第一斉射は「金剛」が最初だ。

 

「甲板員、艦内退避よし」

「照準よし、装填よし、射撃用意よし!」

 

 妖精たちが次々と報告を入れる。

 "金剛"はさっと右手を振り上げ、叫んだ。

 

「Burning Love!」

 

 4基の「41㎝連装砲」が、これまでの射撃に倍する大音響を放った。反動で艦体が少し右へ傾き、びりびりと震える。

 ほどなく、敵艦隊のど真ん中に水柱と火柱が高く立ち上った。

 

「副砲も、どんどん撃ってくだサーイ!」

「了解。左舷副砲、一斉撃ち方!」

 

 砲術長妖精が敬礼した時、

 

「『榛名』斉射! 『妙高』『羽黒』続いて斉射!」

 

 各艦が斉射を開始した旨、通信長妖精が伝えてきた。

 

 

『敵艦、我が艦に攻撃しぐえっ!』

『嫌だ! 死にたくないぃ! う、うわぁぁ』

 

 魔信からは、敵の砲撃に遭っている仲間たちの断末魔が次々と聞こえてくる。ロウリア王国軍の艦隊は、いまや壊滅しようとしていた。相手に接近することもままならず、気付けばもう300隻も残っていない。

 

「ちくしょうめ!」

 

 ホエイルが叫んだその時、「羽黒」が放った203㎜砲弾が、ホエイルの乗るロウリア艦隊旗艦を真っ正面から貫いた。

 砲弾は、まず帆船の船首を打ち砕き、マストをなぎ倒して船室に突入。そして船尾までを一挙に刺し貫いて、射線上にいた兵士たちを血祭りに上げた。と同時に、その周囲にいた兵士たちにも破片の洗礼を容赦なく浴びせる。ホエイルも、その洗礼を受けたのだった。

 本当なら、船室に突入した辺りで砲弾の信管が作動し、砲弾は爆発して木造船など木っ端微塵になるのだが、この砲弾はたまたま不発だったため、船室を突き破って海面に落下、猛烈な水柱を吹き上げる。

 

「ぐふっ!」

 

 ふいに下腹部に走った鋭い奇妙な感触に、ホエイルは苦悶の声を漏らす。そして、下を見ると……

 

「!!!!!???」

 

 自身の下腹部が、真っ赤に染まっていた。体から噴き出す深紅の液体。その中心に、長さ10㎝はあろうかという深い切り傷が、ぱっくり開いている。

 それを認識したとたん、ホエイルの知覚野に猛烈な痛みが押し寄せる。

 

「あああああああああああああ!!!」

「て、提督! 提督がやられた!」

「衛生兵! 衛生兵ー!」

 

 悲鳴と怒号とが入り交じる中、激痛に悲鳴を上げながらも、ホエイルは視界が霞むのに気付いた。意識も次第に(もう)(ろう)としていく。

 

(ああ……これまでか……)

 

 直後、ホエイルの意識は、完全に暗闇に閉ざされた。

 

「て……提督……」

「提督が! 提督が戦死なされた! くそっ!」

 

 航行能力を失った旗艦の上で、ロウリア軍の兵士たちが思い思いに声を上げる。

 将を失ったロウリア艦隊は、ろくな対処行動も取れぬままタウイタウイ艦隊に(じゅう)(りん)され、全艦がピカイア港の水底に沈んだ。

 

 

『敵艦隊、全滅しました』

「OK!

第二段階発動! 揚陸部隊は、浜辺にapproachして、揚陸を開始してくだサーイ!」

 

 "妙高"からの報告を受け、"金剛"は指示を飛ばした。

 「那珂」と駆逐艦隊の護衛を受けて、「鬼怒」と「江風」が接近し、ピカイア北部の砂浜……おそらく漁師たちの漁港だろう……に揚陸作業を開始する。砂浜に乗り上げた(だい)(はつ)から、八九式中戦車が唸りを上げて発進し、武装した兵士たちがぞろぞろと降りていく。よく見ると、その兵士たちには“ある特徴”があった。

 まず、ほぼ全員が面持ちを(こわ)()らせている。中には、腕や足が小刻みに震えている者もいた。動きもどことなくギクシャクしている。

 さらに一部の兵士は、“ヒトらしからぬ”特徴が見られる。鉄帽の下からケモミミが覗いていたり、耳がやけに細長かったり……

 

 ……そう。妖精たちに混じって、クワ・トイネ公国陸軍の兵士たちが上陸していたのである。いや、“公国陸軍の兵士たちの中に、妖精が少数紛れ込んでいる”といったほうがいい。

 

 なんでこんなことになっているかというと、もちろん理由がある。

 公国陸軍第5歩兵大隊が、ロウリア国境突破作戦の実行部隊に選抜されて出撃しているのは、既に皆の知るところとなっていた。そしてその活躍ぶりが伝わるや、他の新兵たちもこぞって実戦参加を懇願してきたのである。

 それについて"大淀"が堺に話したところ、堺は軍務卿チェスター・ヤヴィンの許可が得られるなら、という条件付きで新兵の出撃を許可した。なんだかんだ言っても、妖精の数は決して多いとは言えない。せいぜい2万少々であり、圧倒的に兵士の数が足りないのだ。

 そこで、どうせならクワ・トイネ公国陸軍の兵士たちを動員して実戦投入してみよう、という話になったのだ。戦車隊はともかく、歩兵隊はそろそろ訓練も十分であり、実戦を経験してもいいころだと判断されたのである。各国外務官の話では、“周辺国を次々と併呑しているパーパルディア皇国との開戦も、遠くない未来のことだと思われる”とのことだったため、その練習台とする意味もあった。

 この堺の説明に対し、ヤヴィン卿は新兵たちの出撃を許可した。

 

 かくして、クワ・トイネ公国陸軍2千人がピカイアへ上陸することとなったのだ。ちなみに、後方より向かっているあきつ丸には、追加の兵5千人が乗り込んでいる。

 人員以外の装備としては、4輌だけではあるが八九式中戦車が上陸し、さらに2輌だけだが、(きゅう)(なな)(しき)(ちゅう)(せん)(しゃ)チハもいる。また(きゅう)(よん)(しき)(ろく)(りん)()(どう)()(しゃ)が100輌以上。それらに牽引されるか、あるいは荷台に載せられる形で、(きゅう)(はち)(しき)高射機関砲が8基(地面に設置して使う型が6基、九四式の荷台に設置されたものが2基)、(はち)(はち)(しき)75㎜野戦高射砲4基。

 また、「あきつ丸」の格納庫には、旧式ながら「一式戦闘機 (はやぶさ)Ⅱ型」と「同Ⅲ型」を装備する戦闘機隊も搭載されていた。ピカイア南部のロウリア軍飛行場を鹵獲、修復して使う予定である。

 

「いたぞー!」

「敵だ、撃て!」

 

 早くも、一部の兵士たちは向かってくるロウリア軍の兵士を見つけ、三八式歩兵銃で応戦している。今回出陣したクワ・トイネ公国の兵士たちは、扱いの難しい大砲や(てき)(だん)(とう)は持っておらず、三八式歩兵銃か、九六式軽機関銃か、九七式狙撃銃のどれかしか持っていない(十四年式拳銃と小刀、それに九七式手榴弾は全員装備しているが)。

 ピカイアの砂浜は、流血に染められつつあった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……よし、これだけあれば十分か!」

 

 ピカイアの南側の丘の上、頭から葉っぱを振り落としながら、ムー国の観戦武官リアスは満足そうに呟いた。彼は危うく機銃掃射で殺されかけた後、茂みに潜って地面に伏せるように隠れていたのだ。そのため、シャツもズボンも草と泥がついているが、そんなことは些細なことにすぎなかった。

 支給された乾板を、全て使いきる勢いで写真を撮りまくった結果、いろいろなものを撮影できた。

 空に舞う単葉機、急降下する爆撃機、海面すれすれを飛ぶ機体、海面の白い線と爆発する船。

 海に浮かぶ巨大な2隻の戦艦。しかもよく見ると、先日ロデニウス大陸沖で見たものとは別の戦艦らしい。そして、それらより小さい巡洋艦や駆逐艦らしき存在。そのどれもが回転砲塔を有している。それらより遠い沖合いに奇妙な平べったい船も見えたが、それもなんとかフレームに収めた。

 とどめに、それらから発進してきた小型ボート。砂浜に乗り上げ、船首をパタンと倒したそのボートから出てくる鋼鉄製らしい怪物や自動車、兵士たち。しかも、全員ボルトアクション式のライフル銃を持っていた。

 そして、まさかの個人携行可能な機関銃。ムーにも機関銃はあるが、野戦砲のように車輪がついたものでサイズも大きいため、あちこちへの持ち込みが利かない。地球でいうところの、いわゆるガトリング砲(名前は同じだが、戦闘機に乗っけるバルカン砲やA-10のアベンジャーの仲間ではない。我が国だと、幕末に長岡藩で使われた、多数の銃身を束ね、銃口が円形に並ぶように配置して、それを一定の速度で回転させながら次々と発砲するもの)やマキシム機関銃にあたるものだ。

 しかし彼らは、個人が持ち込むことが可能な機関銃を配備している。あれがあれば、弾幕をどこででも展開させることが可能になる。しかも個人携行が可能であるので、複数人数が持ち込むことも容易であり、我が軍の機関銃部隊のそれの、何倍もの凄まじい弾幕を張ることもできる。

 その他に、どうやら掌サイズの爆弾(手榴弾)を実用化しているようで、彼らは石のような黒い物をロウリア軍に投げつけていた。それは、投げられてから少し経つと爆発していたので爆弾であると想像される。その写真もしっかり撮ってある。

 さらに、少しだけだが野戦砲の写真まで撮れた。

 

「よし、これでだいたい撮れたかな? これだけあれば、マイラス先輩にもまあ満足して貰えるだろう」

 

 命の危機すらあった危険な任務だったが、達成できたと見ていいだろう。

 なんとかして、できるだけ早くムー本国へ帰る手段を見つけることと、敵の攻撃に巻き込まれて命を落とす危険に気を付けることを意識しながらも、リアスは達成感に包まれていた。




いつもご愛読ありがとうございます。
活動報告に新たな投稿を載せまして、日本軍ボイスの入ったゲームを求めていますので、できれば教えていただけるとありがたいです。
今のところ、「バトルフィールド1942」と「Red Orchestra2」の「Rising Storm」は把握しています。
それと、タグに「万歳エディション」を追加しました。天皇陛下バンザーイ!

なお、ホエイルのセリフは総統閣下の空耳です。お気付きになった方はどれだけいるやら…


次回予告。

第二戦線を形成したクワ・トイネ-日本軍。そのニュースがクワ・トイネ公国軍部に伝わる一方で、戦後と将来を見据えて、タウイタウイ泊地から新たな軍艦の設計図が、クワ・トイネ公国軍部に提出された…
次回「新たなる計画ーーこの中世の公国に近代軍艦を!」

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