鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
中央暦1643年5月15日、ロデニウス連合王国 首都クワ・ロデニウス。
第一護衛艦隊、及び第零護衛艦隊を率いて帰還したその翌日、
彼の報告を聞いているのは、国王カナタ1世、軍総司令官ヤヴィン
「……以上のことから、敵のグレードアトラスター級戦艦は、少なくとも半年間は修理のため動けなくなるでしょう。その後の乗員の補充・慣熟訓練のことも考えれば、戦線復帰にかかる時間はさらに増えるものと見込まれます。以上、フォーク海峡海戦と称する本件海戦の経過報告になります」
堺が報告を終えると、真っ先にヤヴィンが口を開いた。
「堺殿、よくぞ戻ってきてくれた。私としては、
「ヤヴィン
カナタ1世が、さらりととんでもないことをカミングアウトした。
「へ、陛下!? それは……その……」
若干しどろもどろになるヤヴィン。
実際、彼は辞表を出そうと考えていたところがあった。……提出前にカナタ1世直々に釘を刺され、禁じ手にされてしまったが。
「お心遣い、恐れ入ります。同時に、皆様に多大なご心配をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。
さて……重要なのは、今後どうするか、ということです。私が帰ってくるまでに、国内外でどのような動きがあったか、教えていただけますか?」
即座に頭を切り替えた堺。カナタ1世はまず、外務大臣リンスイに発言を促した。
「堺殿が戦っている間に、我々は神聖ミリシアル帝国東部の都市カン・ブリッドに移動し、そこで先進11ヶ国会議の続きの協議を行った。議題は主に、グラ・バルカス帝国による世界征服宣言について、だ。そして……我が国を、パーパルディア皇国に代わる新たな列強国と認めるかどうか、だ。
審議の結果、ムー国などからの賛成を得て、我が国の列強入りは賛成多数で可決されたぞ。これにより、新生パールネウス共和国……もといパーパルディア皇国は列強失格。代わって我が国が、正式に列強となった」
どうやら神聖ミリシアル帝国を含め、各文明圏の主要国は軒並みロデニウス連合王国の列強入りを認めたようだ。
「そしてもちろんのことだが、レイフォル国に代わるグラ・バルカス帝国の列強入りは見送られた。あんな宣言をし、しかも各国の外務大臣護衛艦隊に武力攻撃を仕掛けたのでは当然だろう。そして特にムー国は、我が国に対して1日も早い軍事支援を要請してきた。神聖ミリシアル帝国も、グラ・バルカス帝国との戦争において我が国の助力を必要としているようだ」
宣戦布告をされてすぐに軍事支援を要請してきた辺り、ムー国はグラ・バルカス帝国に相当の脅威を感じているらしい。
「先進11ヶ国会議については以上だ。
大東洋共栄圏関連では、各国が我が国に説明を求めている。特に我が国の意志を聞きたがっているな。これに対して政府は、事実はしっかりと伝えているが、自国の意志については『情報収集・精査中』との名目で明言を避けている。だが、王権政府ではグラ・バルカスとの戦争やむ無し、という意見が多数派を占めており、さらにカナタ1世陛下ご自身も参戦の意志をお持ちであることから、参戦は確実と見て良いだろう。堺殿、また第13艦隊に頼ることになりそうだ」
(まあ、そうなるわな)
リンスイの言葉を聞くまでもなく、堺は自らの指揮する第13艦隊、そして己の名代たる"あきつ丸"指揮する第13軍団について、また最前線に投入されることになるだろうと踏んでいた。
グラ・バルカス帝国は
しかし、よほどのことがない限り、グラ・バルカス帝国軍と戦う戦場は、ここから遠く離れたムー大陸近辺になるだろう。となると、ムー大陸に向かう海軍の艦隊には、高い遠征能力も求められる。つまり……現時点で最も高い遠征能力を持ち、そして量・質ともにグラ・バルカス艦隊に対抗可能であろう第13艦隊が、出撃することになる可能性が高い。
(敵戦力の正確な評価を、急がねばならんな……。独立第1飛行隊には、もう一仕事してもらうことになりそうだ)
そう考える堺に、リンスイが続きを報告した。
「国内世論については、グラ・バルカス帝国に対する武力行使論が高まりつつある。だが一方で、一定層の慎重論が存在するのもまた事実だ。『
まだ世論は、完全には固まっていないらしい。まあ、無理もないことである。
(言論統一が必要、か……また、"青葉"に頑張ってもらうことになりそうだな。敵さんが何かしら事件でも起こしてくれると、なお都合が良いんだが)
なかなか腹黒な考えを抱く堺。続いてはヤヴィンが報告し始めた。
「軍部では全軍の全部隊に第1種戦時態勢を発令した。大陸周辺の哨戒のシフトは倍に増えているし、空軍のワイバーン隊にも早期警戒を手伝ってもらっている。卿の第13艦隊も、戦時態勢に入っているはずだ」
「承知しました、ありがとうございます。
早期警戒ですか……では、それに対潜警戒も加えてくださいませ」
堺はばっさりと言い切った。
「グラ・バルカス帝国海軍ですが、おそらく私の第13艦隊とさして変わらない装備を有すると見られます。そう考えますと、潜水艦を持っている可能性が高いと思います。こちらも警戒すべきです」
「潜水艦……確か、いつか卿が言っていた、自発的に海に潜る艦だな」
「左様でございます。対潜警戒・戦闘訓練は我がタウイタウイ泊地において常に実施しておりますゆえ、ハンキ殿・ノウカ殿におかれましては、他の艦隊や基地航空部隊の司令官に連絡を取り、対潜訓練が必要かどうかを問い合わせていただきたく存じます」
話を振られたハンキとノウカは、揃って答えた。
「分かった、改めて基地航空部隊司令の面々に確認する」
「海軍としても、艦隊司令官たちに問い合わせてみよう。潜水艦は非常に厄介な存在のようだからな」
「よろしくお願いいたします」
2人の大臣に頭を下げながら、堺は考えていた。
(この世界に来てからというもの、これまであまり出番のなかった第1海上護衛隊……彼女たちにも、いよいよ実戦の時が来たか……)
第13艦隊第1海上護衛隊。この部隊は、軽巡洋艦と駆逐艦からなる部隊である。その代表メンバーをざっと挙げると、軽巡洋艦娘の"
"五十鈴"がいる時点で察しがついている方もいると思うが、そう、この第1海上護衛隊は潜水艦狩りのエキスパートばかりを集めた部隊である。タウイタウイ泊地がかつて存在していた地球は、深海棲艦の潜水艦がうじゃうじゃとはびこる星であり、そうした潜水艦の中には姫クラスの怪物も発見されるなど、まさに「魔の海を持つ星」と言っても良い状態であった。それに対応すべく、彼女たちの対潜戦術や装備も発展してきたのである。
現在、第13艦隊ではアクティブソナーとして「三式水中探信儀」は全く使用しておらず、代わりに"
「それより堺殿、今回全世界に宣戦布告したグラ・バルカス帝国だが……その軍事力は、どれほどあるのかね?」
「私も、それを聞きたいと思っていました」
ヤヴィンとカナタ1世から逆に質問され、堺は即座に報告した。
「では、
現時点までに分かっている情報から確実に言えることだけをまとめますと、グラ・バルカス帝国の軍事技術は、我が第13艦隊と同等以上のものがあります。フォーク海峡海戦で出現した敵戦艦は、
グラ・バルカス帝国は、国土こそ第二文明圏外にありますが、その軍事力は恐るべきものであります。我が国やムー国、神聖ミリシアル帝国であっても敵いますかどうか……。少なくとも神聖ミリシアル帝国の航空機は、グラ・バルカス帝国の戦闘機に対してまるで歯が立ちませんでした」
「なんだと!? あの神聖ミリシアル帝国が誇る天の浮舟ですら、グラ・バルカス帝国の航空機に通用しなかったのか!?」
報告の途中で、ヤヴィンが声を上げた。
「その通りでございます。世界に名だたる神聖ミリシアル帝国の航空機ですら歯が立たなかったのですから、ワイバーンロードなどでは到底勝てません。そもそもワイバーンロードが戦闘機に勝てないことは、我が国と旧パーパルディア皇国との戦争で証明済みです。
つまり、グラ・バルカス帝国は、文明圏の準列強であろうとも到底敵う相手ではなく、上位列強クラスの軍事力でやっと相手になる程度という恐るべき軍事力を有します。相手の物量については不明な点が多いですが、ムー大陸の一角を3年にも渡って占領し、さらに周辺の島嶼国家も次々と攻め滅ぼしていることから、おそらくかなりの物量があると思われます。
グラ・バルカス帝国艦隊と戦う、ということは、イメージとしては我が第13艦隊を相手に戦うもの、と思ってください」
ばっさりと言い切った堺に、ヤヴィンとノウカの顔が
ロデニウス海軍において、現時点で質・量ともに最大最強の力を有する艦隊、それが第13艦隊である。その戦闘力は凄まじく、第三文明圏内外では文字通りの無敵であり、ムー統括海軍はおろか神聖ミリシアル帝国海軍が相手でも、ある程度戦えるだろうと見られているほどだ。その第13艦隊と同等の質を持ち、第13艦隊より多数の物量で攻めてくる相手となると、これは非常に厳しい。負ける可能性も現実的にあり得る。
「貴殿の艦隊と戦うくらいの相手、ですか。絶対に、侮れない敵ですね」
玉座から静かな声を投げかけたのは、カナタ1世だ。彼自身、観艦式の時に身を以て体感したため、第13艦隊の戦闘力は知っている。それだけに、今度の戦争の相手が容易ならぬ者たちであることを察したのだ。
「間違いなく、これまで我が軍が戦った中では最強の相手です。ゆめゆめ慢心召されぬよう、皆々様にはお願い申し上げます」
堺は深々と頭を下げた。
「分かった、全軍に周知徹底しておこう。それと堺殿、もう1つ聞きたいのだが……我が方の戦艦が撃沈された、というのは本当か? 『世界のニュース』ではそのように報道されていたが」
「正直に申し上げますと、これは誤報であります。確かに我が方の戦艦が沈められたように見えますが、あれはあくまで"艦娘の艤装を放棄した"だけですので、戦力的には大破止まりであります。決して戦艦を喪失した、ということはありません。ただ、この情報はくれぐれも内密にお願いします。
それと、艤装放棄を余儀なくされた戦艦娘についてですが、比較的早期の戦線復帰をお約束します」
普通に考えれば、"
艤装自体は完成しており、交換だけなら1日で済むが、慣熟訓練に1ヶ月は見込まなければならない。しかしそれでも、普通に艤装を再生産してから改造して戦線復帰させるよりは遥かに短期間かつ低コストだろう。
「ふむ……それならば良いのだが。我が方の戦艦が撃沈されたのかと、戦々恐々としておったわい。
では堺殿、此度の外務大臣護衛任務、ご苦労であった。下がってくれ」
「はっ。では、グラ・バルカス帝国に関して新たな情報が手に入りましたら、持って参ります」
その発言を最後に、堺は退室した。
これにより、ロデニウス連合王国政府はグラ・バルカス帝国がどれほどの脅威なのか、改めて認知したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中央暦1642年5月17日、ムー大陸西方 グラ・バルカス帝国領レイフォル州。
グラ・バルカス帝国による先進11ヶ国会議に対する武力攻撃により、外務大臣護衛艦隊が壊滅的な被害を受けた各国。その中でも捕虜を取られた国家は多く、各国がグラ・バルカス帝国に対する本国の意志を伝え、また可能であれば捕虜返還交渉を行うため、グラ・バルカス帝国領レイフォル州にある地方都市……旧列強レイフォル国の首都レイフォリアに設置された外交窓口に、外交官を向かわせていた。
先進11ヶ国会議での出来事、そしてフォーク海峡海戦の顛末は、「世界のニュース」等のメディアを通じて各国の一般国民も知るところとなっている。プライドの高い先進11ヶ国会議参加国の間では、「グラ・バルカス討つべし!」といった世論が大半を占めていたため、今回の使節派遣は自国民に対しては非公式の訪問である。また、グラ・バルカス帝国の言う「我が国に降れ」というのは、具体的にどういった内容を示すのかが不鮮明であるため、その確認もかねて外交官たちはレイフォリアへ向かう。
ロデニウス連合王国の外交官としては、一人前の外交官と認められたコーデルがグラ・バルカス帝国への捕虜返還交渉のため、派遣されていた。
今回のグラ・バルカス帝国に対する直接交渉の参加者は、以下の4ヶ国から来た4名の外交官である。
・神聖ミリシアル帝国 西部担当外交部長 シワルフ
・ムー国 外交官 ヌーカウル
・ロデニウス連合王国 外交官 リヴァロ・コーデル
・アガルタ法国 外務卿 リピン
彼らはグラ・バルカス帝国のレイフォル地区に、海路にて入国した。なお、帝国側には事前に魔信にて通達済みである。
超弩級戦艦「グレードアトラスター」の全力砲撃を受け、灰燼に帰したレイフォリアは、まだ傷跡が残るものの、僅かに復興が進んでいるようでもあった。ただし、新規に建設された建物は明らかにグラ・バルカス帝国の建築様式の建物ばかりであり、レイフォル人のための復興はほとんど行われていないに等しいようだ。
入国後、レイフォリアの街を歩いていると、生気の抜けた元列強国レイフォルの民たちの姿が見えてくる。彼らの目は死んでおり、やる気や覇気といった感情が全く感じられない。どうやらグラ・バルカス帝国は、彼らに対して厳しい統治を敷いているようだ。
各国の大使は、レイフォル地区にあるグラ・バルカス帝国の出長所の前までやってきた。帝国からは、例え敵対していても外交窓口だけは守ると通達されていたため、大使たちは堂々と出張所に入る。
(本件は、かなりの大仕事になるはず……。グラ・バルカス帝国の狙いは何なのかを掴み、そして捕虜返還交渉を成功させなければ……)
そんなことを考えながら、コーデルは帝国の外交官がいると言われる建物に入っていった。
会議室で待たされること10分。やがて会議室のドアが開き、人相の悪い男が1人入って来た。
「ほう、この世界の強国のみなさん、
その男は、グラ・バルカス帝国の外交官ダラス・クレイモンドである。外交官とは思えない非礼な発言に、他国の外交官の顔が一瞬強張った。
そんな中、最初に口火を切ったのはコーデルだった。
「私は、ロデニウス連合王国の外交官リヴァロ・コーデルと申します。ロデニウス連合王国政府は、あなた方グラ・バルカス帝国の行った武力攻撃に対し、遺憾の意を表明いたします。また……」
しかし、コーデルがまだ3
「ほう! あなたの国が我が国と同様に転移国家であるロデニウス連合王国か!」
ダラスが声を上げ、コーデルの発言を遮った。
グラ・バルカス帝国は情報収集の結果、ロデニウス連合王国は第三文明圏どころかこの世界で見ても比較的上位の技術を有するらしいと見ており、確証こそないものの転移国家で間違いないだろうと踏んでいた。実際、ロデニウス連合王国の一部は地球から転移しているため、彼らの見方は決して的外れではない。
ダラスはそのまま話し始める。
「そちらの戦艦は、我が方の戦艦に敗れたと聞いている。同じ転移国家でも、ここまで差があるものよのう。弱き国の外交官はつらいだろう」
もちろん、ダラスの言葉は挑発である。彼は外交の場でも平気でこのような発言を繰り返しており、どうもサディストの気があるのではないかと考えられている(具体的には、ラクスタルが危険視するレベルである)。
しかしダラスの言葉が途切れたその瞬間、コーデルは平然とした表情でやり返した。
「ならば、その我々の戦艦と戦って大きな被害を受けたあなた方の戦艦こそ、弱いのでしょう。我々の戦艦が弱いのなら、あなた方の戦艦は圧勝できたはず。しかるにあなた方の戦艦は、向こう半年間はドックから出られないのではないですかな?」
まさかの反撃、そしてコーデルがさりげなく痛いところを突いた上に、自国の最新鋭戦艦を思い切りディスったため、下卑た笑みを浮かべていたダラスの表情が、一瞬だけ大きく歪んだ。
実際、「ブラックホール」は大きな被害を受けた艦上構造物の修理、そして「
コーデル、実はかなりのやり手ではなかろうか?
なお、なぜコーデルがここまで正確な数字を弾き出せたかというと、堺のせいである。
王宮にて報告を行った際の堺の説明が、そのまま引用されていたのだ。
ちなみにだが……仮に今ダラスと相対しているのが堺だった場合、堺は一瞬で自分の中にある"とあるスイッチ"を入れていただろう。そのスイッチの名は「毒舌スイッチ」である。これを押すとどうなるかというと、堺は「温和な表情で辛辣な毒舌を吐く」ようになる。堺は嫌いと決めた相手に対しては、とことんなまでに毒舌家になるのだ。
見事にコーデルにやり込められたダラスは、矛先を転じてきた。
「ところで、遺憾の意とは何だ? 具体的にどう対応するというのだ?」
それに対し、コーデルは即座に決めてあった通りの質問を投げかけた。
「まずは1つお伺いしたい。あなた方の先進11ヶ国会議での発言は、世界に対する宣戦布告と受け取れます。本気で世界を敵に回して戦って、自分たちは勝てると思っているのでしょうか?」
この質問に、ダラスは平気な顔で答えた。
「弱小国家がいくら連合を作っても、強くはならんよ。弱者は弱者のままだ」
(なるほど、そう来たか……)
ダラスの発言を受け、コーデルは身を乗り出した。このまま自国が舐められたら、ニシノミヤコ虐殺事件のような悲劇が繰り返される可能性がある。そのため、彼はある程度強気に出るのもやむ無しと判断した。外務省からも、そのような指示を受けている。
コーデルが発言しようとしたその時、彼の前にアガルタ法国の民族衣装を着た男性が立った。
「アガルタ法国の外務卿リピンです。我が国としては、先の先進11ヶ国会議における貴国の宣言に関して、その速やかなる撤回を求めると共に、貴国の公式の謝罪、そして捕虜にされている者たちの即時返還を求めるものであります」
続いて、神聖ミリシアル帝国のシワルフが口を開いた。
「神聖ミリシアル帝国外務省・西部担当外交部長のシワルフです。我が国は、あなた方が港町カルトアルパスで行った奇襲、そして蛮行を、痛烈に非難します。そして、直ちに謝罪と賠償、旧レイフォル国からの撤退並びに今回の蛮行の責任者の引き渡し、そして捕虜の返還を行うよう通告に参りました。
我が国、神聖ミリシアル帝国は、他国と違って交渉に来たのではない。
お願いではない。これは命令だ。
従わない場合は、敵になるのは我が国のみではない。先進11ヶ国会議参加国のみでもない。これは中央世界の総意である」
怒りをもって、シワルフは発言する。
ダラスが返答しようとした時、部屋の扉が開き、扉の奥からつり目の美しい女が姿を現す。ダラスの上司にして、先進11ヶ国会議席上にて宣戦布告を通告した外交官、シエリア・オウドウィンである。
「シエリア様……」
「ダラス、ここからは私が責任をもって交渉を行う」
突如として参加してきたシエリアに、ダラスは口を開いた。
「しかし、この場合の担当は……」
担当は自分であります、と言おうとしたダラスに、シエリアは一切の妥協を許さないような口調で言い切った。
「命令だ、相手はこの世界の連合と言っても差し支えない。お前の手には余る」
「ぐ……分かりました」
ダラスはシエリアに席を譲り、隣の席に座る。シエリアはシワルフを見据え、はっきりした声で言った。
「話は聞いていた。帝国の考えは、先進11ヶ国会議で説明したとおりだ。変更は無い」
凛とした顔、曇りなき眼でシエリアははっきりと発言する。
「グラ・バルカス帝国は何を望む?」
シワルフは、シエリアを睨みつける。彼女は動じる風もない。
「我が軍門に降ることだ。当然国家の主権は認められなくなるがな」
「具体的には?」
「植民地……といえば、分かりやすいか?」
シワルフは声の大きさこそ抑えていたが、苛立ちと怒りが声の震えに現れていた。
「その通告を、中央世界が飲むとでも思っているのか?」
「いいや、今は飲むとは思っていないよ。ただ、敗退を重ねた時、お前たちは我が国の案を飲む事になるだろう。
どれだけお前たちの軍が悲惨な事になっても、外交窓口だけは開いておこう。自国の民のためを思うならば、早めに決断を下すが良い」
「舐めおって……。捕虜の返還には応じないのか?」
この質問にも、シエリアは即答した。
「戦争が終わるまで、捕虜の返還は無い。我が軍門に降れば、捕虜は返還してやろう」
「返還までの間、捕虜の人権は当然認められるのだろうな?」
「それは……」
ここに至って、一瞬だけシエリアの目が泳いだ。もちろん、それを見逃すような外交官たちではない。
「それは、我が国が決めることだ。お前たちに答える義務はない」
そう答えたシエリアだが、彼女の心は痛んでいた。
上からは、「利用価値がない(機密情報を話さない)捕虜は処刑しろ」と命じられている。そして彼女は、その処刑を執行しなければならない立場なのだ。しかも、これは決定事項である。彼女の心の痛み、それが一瞬の視線の泳ぎとなって現れていたのだ。
(何かを迷っているのか……?)
彼女の視線を見たコーデルも、そのように考えていた。その時、ムー国の外交官ヌーカウルが質問を開始する。
「ムーの外交官ヌーカウルです。今の会話で、あなた方が捕虜の返還交渉に応じる気が無いのは分かりました。そして、あなた方の宣言とこの場の雰囲気からは察したのですが、どうしても発言としての事実が欲しいので、質問します。
あなた方は、現在我が国を含めた第二文明圏に宣戦布告をしています。そして今回の先進11ヶ国会議で、中央世界並びにロデニウス連合王国に対しても、宣戦布告を行った。これで間違いないですね?」
この質問に対し、シエリアはバカを見る目をもってヌーカウルを眺め、質問に答えた。
「ああ、間違いない」
彼女は知らない。その回答が、グラ・バルカス帝国の未来に重大な影響を与えるものであることを。
彼女の発言を受けて、ムーの外交官が僅かな笑みをこぼし、コーデルをちらりと見た。
すでに宣戦布告を受けているムー国にとって、ロデニウス連合王国の存在は大きな支えとなる。外交官ヌーカウルの仕事は、ロデニウス連合王国を明確に戦争に引きずり込むことであった。
それには、そのように解釈できる発言や雰囲気ではなく、ロデニウス連合王国にも宣戦布告をしているという明確な発言……グラ・バルカス帝国の明確な意思を伝える者の公式発言が必要と考えられていた。今の発言内容は、ロデニウスから伝わってきたICレコーダーを自国で生産した物に録音済みである。
外交目的を達成したヌーカウルは、「分かりました」とだけ発言し、引き下がった。その瞬間、コーデルは状況を察した。
(やられたな、これは……。まあ、同盟規約に照らしても、こうなるだろうことは予想できるが……)
その後も15分ばかり交渉が続いたが、4ヶ国の外交官の要求に対してシエリアは一切首を縦に振らなかった。もはや、交渉の決裂は決定的であると判断し、場をまとめるべくシワルフが口を開く。
「もう良いだろう。グラ・バルカス帝国は、捕虜の返還に応じる気はない。そして、我ら……世界そのものである我らに、自国の植民地になれと要求している。これが明確に判明した。それも、事務レベルではっきりとした訳だ。シエリア殿、これで間違いないな?」
「間違いはない」
「では、最後に……あなた方グラ・バルカス帝国の民のために、発言しよう。神聖ミリシアル帝国の保有艦艇数は、貴国が戦った艦船の数を遥かに上回る。我が国の魔導工学に基づく工業力も他国を遥かに凌駕している。早めの降伏をお勧めする。
貴女が戦火に巻き込まれて死なないように祈っておこう」
「そうか、ではこちらも、交渉窓口だけは開いておこう。自国民を大切に思うならば、早めの降伏をお勧めしよう」
このやり取りを最後に、会議は終了し、シエリアは退室する。
各国の大使が退室を開始しようとした時、それまでほぼ同席していただけの状態であった外交官ダラスが彼らに声をかけた。
「お前たちにとっては、国民へは非公式としているようだが、実質公式的な国と国の会議は終わった。少し個人的なお前たちへの感想を述べよう」
彼は続ける。
「弱者連合が……烏合の衆がいくら集まっても、我が帝国には勝てない。帝国は、今後すべての国々をその配下に治めることとなろう。貴様らも、この世界の連合としてのプライドはあるだろうが、帝国に降るか、弱者連合で国亡ぶまで戦うか……本気で考えた方が良い。
まあ、お前ら蛮族に考える頭があるとは思えないがな」
これに対し、口を開いたのは意外にもシワルフではなく、コーデルだった。
「では、私も個人的な感想を述べよう。……あなた方は、現実が見えていない。今回の、思慮深き文明国とは思えない、国際会議への武力での介入。そして我が国を含む全世界への宣戦布告。今回の暴挙そのものが、グラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう。
我が国も、外交窓口は開いておきます。早めに降伏するならば、ムー国にお願いして入国し、ムー国にある我が国の大使館の扉を叩いてください」
かくて、捕虜返還交渉は失敗に終わったのであった。
その頃、第二文明圏文明国の1つソナル王国。
ソナル王国は、ムー国の南側に国土を持ち、また国土の北西方で旧列強レイフォル国と国境を接している。そのソナル王国の王の間では、緊急の王前会議が行われていた。
会議の議題はレイフォルを落としたグラ・バルカス帝国、そしてその攻撃により、先進11ヶ国会議に参加していた各国の外務大臣護衛艦隊が壊滅的被害を負ったことについてである。
「以上が、先進11ヶ国会議での外務大臣護衛艦隊が受けた被害と、戦闘の軌跡です」
ソナル王国にとっては、先進11ヶ国会議は強国たちの会議……はっきり言えば、自国の力が到底及ばない雲上人たちの国の集まりであった。そして、戦った艦隊はその各国軍の中でも精鋭艦隊と考えられる。それを壊滅させたのであるから、グラ・バルカス帝国の実力がどれほどのものなのか、計り知るのは容易であった。
「なんと……ムーの機動部隊ですら全滅したというのか?」
王は、60隻を超える精鋭艦隊が実質的に全滅したことに唖然とする。
「はい。相手は多数の航空機と、あの列強レイフォルを単艦で滅ぼしたグレードアトラスター型戦艦です」
報告を受けて、会議室は静まり返った。
「列強レイフォルをたったの1隻で滅ぼした、伝説の艦か……。その強さは本物であることが証明された形となった訳だな」
「はい。その艦名を聞いただけで、第二文明圏の海軍は震えあがると言われています。
唯一ムーの艦隊だけは、これに対応可能と思われていましたが、本戦いではムーの機動部隊が手も足も出ずに全滅しており、各国の海軍には、グラ・バルカス帝国に対する恐怖が広がっています。
第三文明圏において列強パーパルディア皇国を倒した、あのロデニウス連合王国の軍艦も、戦艦グレードアトラスターと激しく戦い、敗れて撃沈された由にございます。敵艦にも被害を与えたとはいえ、あのロデニウス連合王国の軍艦でさえ、グレードアトラスター型戦艦に通用しませんでした」
ロデニウス連合王国は、パーパルディア皇国を滅亡に追いやった。そのため、世界では強国と認められていた。その国の軍艦が撃沈されたと分かり、グラ・バルカス帝国に対する恐怖に拍車がかかる。
ただ……彼らが勘違いを起こしていることを忘れてはならない。ロデニウスの軍艦は沈んだように見える……が、実際は艦娘の艤装が放棄されただけであり、真の意味で「撃沈」されたのではない。あくまでも大破止まりである。
「さらに……これは確定情報ではありませんが、神聖ミリシアル帝国に放っているスパイによると、神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊が、グラ・バルカス帝国の機動部隊に襲われ、全滅したとのことです……。
繰り返しますが、これは不確定情報です」
王の間は絶望に包まれる。
「第零式魔導艦隊が全滅したのであれば、世界で彼らに抗する術はないではないか……」
そう呟き、少し考えた後、王は告げた。
「外務卿!」
「はっ!」
「民のためだ……状況によっては、戦わずして降伏の道も、考慮しておいてくれ」
この発言を受けて、王の間では泣き始める者も出てくる。
「承知しました、降伏する場合の道筋も検討いたします。1,200年続く伝統ある国家が失われるのは……心苦しいのですが……」
ソナル王国は、戦わずして降伏することも検討していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その翌日、中央暦1642年5月18日、神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス。
帝国始まって以来、初の空襲に見舞われた港街カルトアルパス。だが、街の喧騒はそう簡単に途切れるものではない。
「うおー……今日も、復興作業で疲れたぜ」
この日の夕方、街の一角にあるとある酒場では、店に入ってきた筋骨逞しいドワーフの男性が、席につきながら腕を回して肩をコキコキと鳴らす。そして、ウェイターに料理と酒を注文したのだが…その際彼は「ロデニウス式の注文」をした。それは、「マナズエアリト」という一風変わった呪文を唱えることである。
神聖ミリシアル帝国では最近になって、ロデニウス連合王国からビールを輸入していた。ロデニウス製のビールは輸送コストが嵩むため、ミリシアル製のビールに比べて値段が高い。しかし、ミリシアル製ビールよりも苦味が強く(これはロデニウス産のホップのせいである)、そしてミリシアル製のビールより強烈なシュワシュワ感が楽しめるため、「ミリシアル製ビールに負けず劣らず美味い」と評判であり、比較的大規模な酒場では奮発して入手しているところもあった。
なお、ロデニウス製ビールを導入した店は、必ず看板に「ロデニウスのビールをご注文の際は、呪文として『マナズエアリト!』と叫んでください」と但し書きを付けている。……この”呪文”とやら、逆さから読むと「
待つこと数分、湯気を立てる肉料理とビールの大ジョッキが出てくる。ドワーフの男性は真っ先に、ジョッキに並々と注がれたビールを一息に飲み干した。
「美味い! 労働の後に飲むロデニウスのビールは、最高だな!」
彼は、キンキンに冷えたビールを褒め讃える。肉体労働で疲れた体に、ビールの香りと美味さが染みていくのが手に取るように分かる。
カルトアルパスに対して行われた空襲は、主に政府施設と港湾施設、それに軍事施設が重点的に狙われたため、幸運にして酒場は被害を免れていた。
「まさか、この国が空襲を受けることになるとはな……」
「しかし、我が国の軍は空軍と地方隊しか戦っていないようだぜ」
「でも、ミリシアルの地方隊を滅するだけでも、とんでもない相手だ。皇帝陛下は、民に被害が出たことについてひどく悲しみ、グラ・バルカス帝国に対して烈火のようにお怒りになられたそうだぞ」
「皇帝陛下の怒りを買った国で、滅びなかった国は無い。グラ・バルカス帝国もこれで終わりだな」
酒場の酔っ払いたちは「神聖ミリシアル帝国が負ける」という可能性を全く考えておらず、想定すらしていなかった。
それほどまでに、神聖ミリシアル帝国への信頼は(空襲を受けたとはいえ)篤いのである。
「グラ・バルカス帝国は強いな。先進11ヶ国の一部を除く連合艦隊を、ほぼ滅してしまったらしいじゃないか」
「ロデニウス連合王国の艦隊は、敵の天の浮舟をバンバン落として必死に戦っていたらしいぞ。そのロデニウスの戦艦でも、敵のグレードアトラスター級戦艦に撃沈されてしまったらしい」
「ロデニウスがグラ・バルカス帝国に負けてしまっては困るな。こんな美味いビールを作る国が無くなってしまっては困る」
「しかし、グラ・バルカス帝国がロデニウスを陥すとしたら、ムー国やこの神聖ミリシアル帝国を陥さなければ、地理的に無理だ。まあ、この酒が途切れることは無い。安心だよ」
「ははは、
神聖ミリシアル帝国の民は、空襲は一過性の奇襲だと捉えていたため、帝国の行く末に対して楽観していた。
酔っ払いどもの話は続く。
その頃、第二文明圏の列強国ムー 首都オタハイト。
ムー統括軍総司令部のとある部屋にて、技術士官マイラス・ルクレール中佐は、50代半ばくらいの男性と2人で話をしていた。この50代の男性は、名を「アルバス・フィッシャー」と言い、第1級総合技将の資格持ち准将である。そしてマイラスの上司にして、これまでムー統括軍における数々の兵器開発に関わってきた男であった。このため、彼は軍内部ではかなりの発言力を有している。
余談であるが……この「アルバス・フィッシャー」のネーミングの元ネタとなった人物が、かつての地球にいた。その名は「ジョン・アーバスノット・フィッシャー」である。この名前を聞いた瞬間に「あっ……(察し)」となった人、うp主怒らないから素直に手を挙げなさい。
「では君は、我が国の誇る戦艦『ラ・カサミ』の修理はロデニウス連合王国に任せるべきだと、そう言いたいのかね?」
「はっ。グラ・バルカス帝国は今回、ロデニウス連合王国に対しても明確に宣戦を布告しました。我が国はロデニウス連合王国と軍事同盟を締結しており、それを事由としてロデニウス連合王国からの大規模な軍事・技術支援の話が来ているそうです」
「確かに、ロデニウス連合王国の技術は高いのだろう。しかし、機械文明列強を誇るこのムーが、同盟国とはいえ戦艦を他国に公開することの危険性くらい、君にも分かるだろう?」
難しい顔をしているフィッシャーに、マイラスは必死に語る。
「はい、分かります。しかし、それでもロデニウス連合王国からの技術支援は受けるべきです。
『ラ・カサミ』は確かに優秀な戦艦です。しかし、私はロデニウス連合王国へ行き、彼らの技術水準をこの目で見ました。かの国の技術を基準にすると、ラ・カサミ級戦艦は、約200年前の骨董品になるそうです。
200年も先の技術で……いや、最新式のシステムは載せてくれないでしょうが、それでも200年先の技術で蘇る新生『ラ・カサミ』は我が国の発展に大きく寄与します。
少なくとも、このまま国内で修理するよりは、はるかに有用であると愚考します」
マイラスの熱意に押し切られ、ついにフィッシャーが折れた。
「うーむ……分かった、検討しよう」
「ありがとうございます。それと……実は、ロデニウスとの同盟を利用して我が国の戦闘機を一新することが可能である可能性が浮上しました」
「なっ、なんだと!?」
フィッシャーが愕然とした表情を見せた。
「我が国から見れば、ロデニウス連合王国の戦闘機は最新鋭のものであり、非常に強力な代物です。『マリン』はもちろん、現在の数的主力である『アラル』艦上戦闘機であっても、ロデニウスの戦闘機には勝てません。『バミウダ』艦上戦闘機でやっと戦える、という程度です。
ですが今回、ロデニウス連合王国からの技術支援に戦闘機の支援が含まれるらしいことが判明しました。であれば、これを契機として我が国の艦上戦闘機を一新することが可能かと思います」
「ふむ、なるほど。だがなマイラス君、ロデニウス連合王国だって戦わねばならん身だ。そんな国が、最新鋭戦闘機の技術を供与してくれると思うかね?」
「いいえ、小官もその可能性は低いと考えます。しかし……なんという偶然だ、としか言えないのですが、非常に優秀な戦闘機がありました。ロデニウス連合王国にとっては一世代前の機体……つまり我が国に供与される可能性がある機体で、しかし我が国にとっては最新鋭機であり、グラ・バルカス帝国との戦闘機とも互角以上に戦えるであろう戦闘機です」
「なんだと!!? そんな都合の良い機体が、あるというのかね!?」
「はい、あります。その機体が、こちらです」
驚愕するフィッシャーに対し、マイラスは笑みを浮かべながら、写真が付いた資料を差し出した。それには、低翼の単座戦闘機の写真が貼られている。
「シデン-カイニ。それが、この機体の名前です」
そう、マイラスが持ってきたのは、「紫電改二」のデータであった。
「この『シデン-カイニ』は、我が国の新鋭戦闘機であるバミウダ艦上戦闘機すらぶっちぎる高性能を有しています。『バミウダ』と同様に12㎜級の機銃に対する防弾板を装備していますが、『バミウダ』より高い機動力を誇っており、最高時速はなんと640㎞をも超えます。バミウダの最高時速が530㎞であることを考えると、これは大幅な性能アップだと言い切れるでしょう。しかも、
実用上昇限度は11,300メートル、これは『バミウダ』の実用上昇限度と大して変わりません。その上、武装は機首13㎜機銃2丁に主翼20㎜機銃4丁というものであり、『バミウダ』の火力すらもぶっちぎっております。しかも、250㎏爆弾2発を抱えて戦闘爆撃機として運用することも可能です。
シットラス中佐のお話では、敵の戦闘機は時速500㎞以上出ていたそうです。『バミウダ』なら並ばれる・超えられる可能性がありますが、『シデン-カイニ』なら追い越されることはそうそうないでしょう。この『シデン-カイニ』を実用化し、量産できれば、グラ・バルカス帝国の航空戦力を超えることも可能なのです!」
生き生きと語るマイラスだが、フィッシャーの顔は険しい。
「その『シデン-カイニ』なる戦闘機の優秀さは分かった。だが、国内の航空機製造メーカーは少なく、その製造メーカーも『アラル』の量産や『バミウダ』の機構解析・量産態勢の確立で精一杯だ。そんな時に、この機体の解析・量産を行ってくれる企業があるかね?」
「私としては、エストリバー社にお願いすればよろしいのではないかと考えています。
エストリバー社は『オクタール』(「マリン」の前の世代の戦闘機)の開発経験があり、『マリン』にしても共同開発の経験がありますから、戦闘機の何たるかは把握していると思います。しかし、そのエストリバー社は『マリン』の注文数の激減等により、業績不振に陥っているそうではありませんか。
エストリバー社にとっても、この機体の解析・量産プロジェクトは悪い話ではないはずです。彼らも食わねばならない身ですから、この話に乗ってくれる可能性は十分あると思います」
マイラスは、熱く上司に語るのだった。
その日の夜、グラ・バルカス帝国領レイフォル州 州都レイフォリア。
この世界の魔信器と呼ばれる機械を使い、これより恐怖の放送がなされようとしていた。レイフォル地区から発信された魔信は、ムー国等を中継地点とし、各国にも放送される仕組みとなっている。各国には既に「重大な放送がある」と通達しているため、おそらくこの放送は全世界の者たちが知ることになるだろう。
シエリアは、罪なき者達の処刑執行を宣言し、世界に発信しろという本国の命令に、心を痛める。
彼女の前に、自国の重要情報を話さなかった者達……グラ・バルカス帝国の上層部に言わせれば「不必要な、利用価値のない捕虜たち」が目隠しをされて前に並べられる。彼らは自分たちが何をされるか、まだ分かっていないようだった。
彼女は、本国のために身を粉にして働いてきたつもりだった。全ては国のため、皇帝陛下のため……しかし今回、捕虜殺害の命を発しなければならないという状況に、心は折れそうになる。
そんな中、テレビカメラに取り付いているカメラマンが合図した。放送が開始されたようだ。
(嫌だ! こんな虐殺ともとれる仕事をするために、私は外交官を目指したのではない!!)
心が叫ぶ。しかし彼女の口は仕事のため、いつものように、何事も感じていないかのように話し始める。
「捕虜たちよ。今からお前たちの処刑を行うが、最後のチャンスをやろう。先ほど聞かれた事柄について、話す気があれば、申し出るがよい」
(全員手を挙げてくれ!!!)
シエリアが必死に祈る中で、何人かが手を挙げる。
シエリアは、捕虜に目を配る。ロデニウス人は……誰一人として申し出る者がいなかった。
「もういないのか? これから殺されるのだぞ? 答える気があるならば、知る、知らないは問わぬ。申し出るがよい」
(早く手を挙げるんだ馬鹿ども! 本当に死んでしまうぞ!!)
だが、彼女の必死の願いにも関わらず、やはりロデニウス人は誰も申し出ない。
「そうか……ではしょうがない」
(嫌だ! 嫌だ!! 殺したくない!!!)
彼女がそう考えていた時だった。並べられた捕虜たちの一角から声が上がった。
「……契約違反だな」
それは、ロデニウス人……フォーク海峡海戦で捕虜となった"長門"乗り組みの妖精の1人が発した声だった。
「捕虜にも黙秘権がある、捕虜となった者の人権も認める……そう言っておいて、これか。まあ良い、軍人なればこそ、いつでも命を捨てる覚悟はできている」
かつて"長門"の副砲術長をしていたその妖精は、目隠しをされたまま淡々とした口調で告げた。
「だが忘れるなよ、嘘つきのグラ・バルカス帝国人め。我が国のことわざで言うなら、天網
それを皮切りに、他の妖精たちも次々と口を開いた。
「撃つなら撃てよ、どのみち銃殺刑だろう? だが、その引き金を引いた時点でお前たちの負けだ」
「我が国にはこんな言葉がある。『狂人の真似とて大通りを走らば、すなわち狂人なり』。世界会議の席上で、お前たちは我々のことを蛮族とかのたまったらしいが、そのお前たちもまた、蛮族と呼ばれる運命を免れることはない」
「我が国の上の連中には、少なくともこんな嘘つきどもは絶対に見習って欲しくないものだな」
彼らの一言一言が、形なき槍となってシエリアの心に突き刺さる。しかし、こうした声にコメントすることはなく、また表情を変えることもなく、シエリアは叫んだ。
「これから帝国と戦う者どもよ! これより、捕虜になり、帝国に従わぬ愚か者たちの処刑を行う。
愚か者の末路をその目に焼き付けるがよい! そして、我が国が怖ければ自国の政府に、帝国に降るよう働きかけるがよい。降らねばこれからの光景は、未来のお前たちの運命だ!!
我が軍門に降れば、永遠の繁栄を約束しよう!!」
(殺したくない!! 殺したくない!!!)
シエリアは、僅かに目に涙をためる。
「構え――!!」
(神様、ごめんなさい!)
処刑人が、一斉に銃を構える。
「撃てーーっ!!」
シエリアのその号令と同時に、ロデニウス連合王国の妖精たちは一斉に「国王陛下万歳!」を唱和した。
ダダダダダーンッ!!
発砲音の後、捕虜たちは血飛沫を上げ、あっさりと崩れ落ちる。
「帝国に逆らう国は、皆こうなる。お前たちが、利口なことを願おう」
放送は終わる。その光景は、全世界に放送された。
当然のように、世界の民は激高する。それは、ロデニウス大陸にあっても例外ではなかった。……そして、そのロデニウス大陸から少し離れたとある島では、この放送を見てほくそ笑む者がいた。
「まさか、狙ったようなタイミングでこんな事件が起こるとは……。ある意味では好都合、というところか? なあ、青葉?」
タウイタウイ泊地の提督室、珍しくドアを閉めたその部屋では、堺が机に両肘をつき、顔の前で両手を組み合わせた格好……「碇ゲンドウのような座り方」と言えば分かりやすいか……で座っていた。
「全くその通りですね。これで、世論も参戦に一本化するでしょう。ですが、それには後押しが必要ですね」
その堺の目の前で、新聞の下書き記事を抱えた"青葉"が笑みを浮かべる。
「というわけで青葉、頼む」
「任されました! ペンは剣よりも強し……青葉、世論を煽って煽って煽りまくりますよぉ!」
満面の笑み(ただし腹黒さ1,000%)を浮かべ、"青葉"は小走りに退室していった。
ドアが開けっぱなしになった提督室の机で、堺は目を閉じて心の中で呟く。
(凶弾に
そして目を開けた時、彼の目にハイライトというものは存在していなかった。
(グラ・
かくて、壮大なる弔い合戦が始まろうとしていた。
果たして、堺の両手はどれほどの血に塗れることになるのか? ……それは、
一方、放送が終わった直後のグラ・バルカス帝国レイフォル州では、処刑された捕虜の遺体を片付けるため現場の指揮を執っていたシエリアが、驚愕すると共にある種の畏怖の念を抱いていた。
目隠しを取ってみると、処刑された捕虜たちはいずれも恐怖の表情をありありと浮かべていた。しかし……40人ばかり、笑みを浮かべたまま死んでいた者たちがいたのである。しかも、恐怖などを押し隠すような表面的な笑みではなく、「心の底からの不敵な笑み」という以外の表現が見つからないような、凄みを湛えた笑みであった。
無論、その40人全てがロデニウス連合王国の捕虜であった。
(自分たちがこれから死ぬと分かっているのに、明確な死を前にしてなお笑うことができるとは……。もしかして我が国は、とんでもない相手に喧嘩を売ったのではないか……?)
シエリアには、それが不気味でならなかった。
はい、「例のイベント」…グラ・バルカス帝国による捕虜たちの処刑イベントが発生しました。しかし、ロデニウスの妖精たちが見せた最期の笑いに、シエリアがぎょっとする事態に。彼女の抱いた不気味な感じは、果たして回収されるのか…?
UA54万突破! 本当にありがとうございます!!
評価9をくださいましたizumino様、ウイロウ様、Zakuweru様、戦魔術師様、雲雨様
評価10をくださいましたYoshi1029様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
グラ・バルカス帝国による捕虜の公開処刑という事態に、ロデニウス連合王国もついに決意を固めた。そして、大東洋共栄圏における最大の国際会議、「大東洋諸国会議」が久しぶりに開催される…
次回「大東洋共栄圏の総意」