鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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さーて、今回はロデニウスの、そして大東洋共栄圏の話です。



121. 大東洋共栄圏の総意

 中央暦1643年5月27日、ロデニウス連合王国 経済都市マイハーク。

 この日の朝から、マイハークには外国から来た多数の人間が集っていた。そうした人々の主な職業は外交官だが、外務大臣や軍人も混じっている。

 また、こうした人々の所属国家も様々で、フィルアデス大陸に領土を持つパンドーラ大魔法公国やマール王国といった第三文明圏の国々から、島国であるアルタラス王国やシオス王国、フェン王国にガハラ神国、なんとマオ王国やネーツ公国、トーパ王国といったフィルアデス大陸の第三文明圏外国家まで、よりどりみどりという様相である。

 これらの国々には、ある共通点がある。それは、いずれの国家も大東洋共栄圏に参加しているということだ。

 

 これより7日前の中央暦1643年5月20日、先進11ヶ国会議で決議された共同声明やフォーク海峡海戦の顛末、そしてグラ・バルカス帝国との非公式会談の結果を受けて、ロデニウス連合王国政府はついに決断を下した。自国の国民を、大東洋共栄圏の参加国を、そして世界の平和を守るため、グラ・バルカス帝国と戦おうというのである。

 そして、この結論を出すのと前後して、ロデニウス連合王国はこの案件を大東洋共栄圏にも共有し、全国家一丸となってこの事態に対処すべきであると判断し、各国に対して「大東洋諸国会議」の召集を呼びかけたのだ。

 

 「大東洋諸国会議」。それは本来、第三文明圏外東側に国土を持つ文明圏外国で行われる国際会議である。定期的に行われるものではなく、何か大きな出来事があった際に不定期に開催されるものである。……いや、「かつてはそうだった」というべきか。

 今の大東洋諸国会議は、その本質を大きく変えている。というのも、直近の開催となった中央暦1639年の会議においてロデニウス連合王国が「大東洋共栄圏」の結成を提唱し、特に第三文明圏東側の文明圏外国がそれに参加した結果、大東洋諸国会議は「大東洋共栄圏参加国による相互連絡・討議会」という側面を持つようになったからだ。また、「大東洋共栄圏に参加している国々による会議」という側面が加わったことで、フィルアデス大陸に国土を持つマオ王国のような文明圏外国から、パンドーラ・マールのような文明国、そしてなんと、フィルアデス大陸にも第三文明圏外にも国土を持たない国ですら参加するようになってしまったからである。ちなみにその「フィルアデス大陸にも第三文明圏外にも国土を持たない国」というのは、第二文明圏最強の国家にして世界五列強の2番手、ムー国のことである。

 

 マイハークの一角に建設されている「国際会議場」……かつては大東洋諸国会議を開催することもあったこの建物で、今、その本質を大きく一新した「新・大東洋諸国会議」とでも称すべき会議が始まろうとしていた。その代表的な参加国は、先進11ヶ国会議には及ばないものの(そう)(そう)たる面子が揃っている。

 

・ロデニウス連合王国(本会議主催国にして「大東洋共栄圏」主宰国)

・ムー国(第二文明圏の中心。世界2位の列強国)

・パンドーラ大魔法公国(第三文明圏文明国。準列強であり、先進11ヶ国会議にも出席)

・マール王国(第三文明圏文明国)

・ドーリア共同体(第三文明圏文明国。元パーパルディア皇国の属領)

・新生パールネウス共和国(第三文明圏文明国。旧パーパルディア皇国)

・アルタラス王国(第三文明圏外国、ただし国力は文明国並み)

・シオス王国(第三文明圏外国)

・フェン王国(第三文明圏外国)

・ガハラ神国(第三文明圏外国)

・アワン王国(第三文明圏外国)

・マオ王国(第三文明圏外国)

・ネーツ公国(第三文明圏外国)

・トーパ王国(第三文明圏外国)

・ナハナート王国(第三文明圏外国)

・カルアミーク王国(第三文明圏外国)

 

 会議に参加した国家の数は、総勢で100ヶ国にも迫らんという数になっており、数だけなら先進11ヶ国会議の参加国すら上回る。これほど多くの国家が出席する会議も、そうあるまいというレベルである。

 

 ロデニウス連合王国以外の各国は代表出席者として、基本的にロデニウス駐在大使又は外交官(もしくは外交担当の貴族)を送り込んでいる。ただし例外もあり、トーパ王国は外務大臣が直々に出席してきた他、マール王国やシオス王国などは技官や軍人も一緒に送り込んでいる。どうやら軍事関連の話があると気付いたらしい、鋭いと言えるだろう。そしてパンドーラ大魔法公国とアルタラス王国に至っては、なんと国家元首自らお出ましになっているのである。このため、国際会議場付近はかなりの厳戒態勢が敷かれていた。

 

「メルデ殿、お久しぶりでございます。この度は遠いところを、よくぞお越しくださいました」

「いやいやリンスイ殿、我が国は貴国のおかげで独立を果たしたと言っても過言ではないのですぞ。この程度では、恩返しにはまだまだ足りませぬ」

 

 会議場の裏手にあるロデニウス代表団の控え室では、部屋を訪ねてきたパンドーラ学院連合総長(ほぼ国家元首)のメルデと、ロデニウス外務大臣のリンスイが言葉を交わしている。

 これだけ多数の国家が集まった本気の会議とあって、ロデニウス側も気合を入れていた。会議の進行係は外交官の1人であるメツサルが担当し、それ以外の出席者としてリンスイ外務大臣は無論、他に先進11ヶ国会議に出席した外交官ヤゴウもいた。その他、国王カナタ1世陛下が直々にお出ましになっているし、軍総司令官ヤヴィン元帥も参加する。そして当然のように、堺も引っ張り出されてしまった。「グラ・バルカス帝国の兵器や戦術について最も詳しく説明できるのは、堺殿、(けい)しかおらん」とヤヴィンが言い出し、かのフォーク海峡海戦を戦って生き延びた指揮官として出席命令を受けてしまったのである。

 

(ったく……俺はどっちかというと人前で話すのは苦手だってのに、あのクソジジイ、聞いてやがったのかな……。しょうがない、後で追加報酬()()るとしますかね。本来ならこの仕事は明らかに俺の職務の(はん)(ちゅう)を越えてるんだからな)

 

 仮にも上司である総司令官を思い切りディスりながら、グラ・バルカス帝国の兵器について何をどうやって説明すべきか堺が頭を巡らせていた時、また控え室のドアがノックされた。もう何ヶ国目かになる来訪者だ。今度はいったい誰が来たのやら。

 控え室のドアを開け、ヤゴウが相手に対応しようとする。が、その途端、ヤゴウの目が一瞬驚いたように見開かれた。そして、相手と二言三言会話した後、急いで堺の元へやって来る。

 

「堺殿、貴方に来客です」

「私に来客?」

 

 首を傾げながらも、堺は思考を中断した。わざわざ訪ねてきたとなれば、対応せざるを得ない。

 

(はて、俺がこれまで対応した案件に関わったのって、誰だ……?)

 

 堺はこれまでいろいろなことに首を突っ込んだ(正確にはその多くが、()()()()()()()()()()()()()())ため、さまざまな人と会っている。自分と関わったことのある外国人といっても、候補が多すぎて絞り込めない。

 

「お待たせいたしました、堺です……!?」

 

 部屋を出て来客の顔を一目見た瞬間、堺は仰天する羽目になった。あまりにも予想外の相手だったからだ。

 彼の前にいたのは、非常に整った容姿を持つ黒髪の…平たく言えば美人の女性だったのだ。素人目にも、これは明らかにそんじょそこらの人とは違う、高貴な方だということがはっきりと窺える衣服に身を包んでいる。

 そしてその女性を、堺は知っていた。彼女は何度もニュースに登場しているし、直接会ったこともあるからである。

 

「これはルミエス陛下、ご機嫌(うるわ)しゅう。お久しぶりでございます」

 

 そう、堺に来た来客というのは、アルタラス王国のルミエス女王だったのである。堺は慌てて敬礼しながら挨拶した。

 

「この度は、はるばる我が国までようこそお越し下さいました」

「サカイ様、お久しぶりですね。私が貴国に亡命していた時や、パーパルディア皇国から我が国を取り戻す『タスフラワー作戦』の折は、大変お世話になりました。あの時は、国の復興やパーパルディア皇国との戦争で忙しく、なかなかお礼をする機会がありませんでしたので、ここで改めてお礼を言わせてください。

本当に、ありがとうございました」

 

 ルミエスは堺に、深々と頭を下げた。

 

「いえいえルミエス陛下、どうか頭を上げてください。小官は特に大したことはしておりませんよ。小官はただ、軍司令部と国王陛下の命令によって動いただけにすぎません。お礼なら、我が国の軍総司令官や国王陛下に仰ってください」

「確かにそうかもしれません。でも、私は現場で『タスフラワー作戦』の指揮を執った貴方にも、非常に感謝しているのです。『タスフラワー作戦』は貴方が立案し、そのまま現場で指揮を執られたそうですね。ならば私にとっては、貴方はアルタラスの再興に力を貸して下さった恩人なのです」

「もったいないお言葉をいただき、光栄の至りであります。小官にとっては、そのお言葉だけで十分です」

 

 堺が微笑を浮かべながらそう言うと、ルミエスはにっこりと微笑んだ。

 

「これでやっと、お礼ができました。……ところでサカイ様、1つお願いがあるのですが……」

「はい、何でございましょうか?」

「以前に、貴方のところでご馳走になりました甘味を、もう一度味わいたいのですが、お願いできますか?」

「甘味ですか? それは構いませんが、どのような甘味でしょうか?」

 

 少々意外な、しかし年頃の少女らしい"お願い"に、堺は少し驚きながら尋ねた。何か大それたお願いをされはすまいかと、少しヒヤヒヤしていたのである。

 

「ええと、氷を綺麗に整形したような冷たい甘味で、名前は確か、あい……あい……」

 

 ルミエスは上手く思い出せなかったようだが、堺はこれだけでピンときた。

 

「それはもしや、アイスクリームのことでしょうか?」

「そう、それです!」

 

 堺が名前を出すと、ルミエスはぱっと花のような笑みを顔いっぱいに浮かべた。

 

「承知致しました。甘味の提供でしたら、総司令官の許可を得るまでもなく、私の権限で可能でしょう。

()(みや)のお店でよろしいでしょうか?」

「そう、確かそのようなお名前のお店でしたね!」

「承知致しました。それでは会議が終わり次第、ご案内いたします」

「すみません、よろしくお願いします」

 

 ルミエスはまた、堺にぺこりと頭を下げた。

 

「ルミエス陛下、頭を下げなくとも結構ですよ。陛下は一国の主なのですから、主らしく堂々としていらっしゃれば良いのです」

「いえいえ、大恩ある方にそんな訳にはいきません」

 

 お願い事が済むと、2人の話題はアルタラスの近況へと移った。

 

「それにしても、『タスフラワー作戦』か……小官にとっては懐かしい名前ですな。数えてみると、あれからもう2年にもなるのですね。アルタラスのほうは、情勢は安定してきましたか?」

「はい、租税制度も復活しましたし、官僚組織も陸軍もやっと整いました。ル・ブリアスの城下町も、他の町や村にも、戦火の跡はもうほとんど残っていません。完全に復興した、と言えますよ。ただ、海軍はまだまだですね。竜騎士団はある程度立て直したのですが、航空機も導入したいと考えています。

できれば、復興した我が国の姿を貴方にも見てもらいたいです」

「復興できましたか、それはようございました。ただ……小官もできればゆっくりしたいのですが、なかなか休みを認めてもらえなくて。そろそろまとまった休みでも取ろうか、と思った矢先にこれですよ。この戦争が終わったら、取り損なっている有休をまとめて取得して、2週間程度貴国に滞在する、というのもいいでしょうね」

 

 苦笑しながらルミエスに語る堺。

 実は、ロデニウス連合王国にも「有給休暇」という制度はある。軍人たちにも認められているのだ。しかし堺の場合、代役が務まる人材がいないに等しく、また仕事場たる泊地司令部が居住地をそっくり兼ねているため、彼の有休は消費されることがないまま貯まりっぱなしなのである。もう3ヶ月分くらいが貯まっており、そろそろ消費したいと思っている堺であった。

 

 そこへ、

 

『間も無く、大東洋諸国会議を開会いたします。出席者の皆様、お席のほうにお着き願います』

 

 館内放送が響いてきた。

 

「おや、お時間のようです。それではルミエス陛下、また後ほど」

「はい。では、会議が終わりましたらよろしくお願いいたします」

 

 挨拶を終え、ルミエスは去っていった。

 

(しまった、完全にルミエス陛下との話に気を取られて、何をどうやって話すか考えられなかったな。まあ、最初は事情説明とかがメインになるから、何とかなるか……)

 

 急ぎ資料の準備をしながら、そう考える堺であった。

 

 一方、

 

「済みましたか、陛下」

「ええ、やっとお礼の挨拶ができました」

 

 会議が行われる講堂へ向けて歩きながら、ルミエスが護衛の女性騎士リルセイドと言葉を交わしていた。ルミエスがアルタラス国王に即位するのと時を同じくして、リルセイドはルミエスの親衛隊「タスフラワー騎士団」の団長に就任している。

 なお、騎士団名はお察しの通り、ロデニウス連合王国とアルタラス王国正統政府(当時)によるパーパルディア皇国からのアルタラス島奪回作戦「タスフラワー作戦」から来ている。

 

「これで、陛下の2年越しのお仕事が完遂したのですね」

「ええ。まずは会議と行きましょう。我が国にも関わる一大事です」

 

 足早に会議場へと向かう2人。だがリルセイドはふと、ルミエスの様子がおかしいのに気付いた。

 

「………」

 

 護衛の仕事に努めているふりをしながら観察してみると、ルミエスの頬はやや赤みが差している。視線は前方に向けられているように見えるが、どこか心ここにあらず、という様子だ。

 

「……?」

 

 いったいどうしたのだろうか。体調不良、ということはないはずだが……。

 考えていたリルセイドは、ふと思い当たった。己の主君がこうなったのは、サカイという方に会ってお礼を言ってからだ。リルセイドは、「タスフラワー作戦」の説明があった折に堺に一度会っているが、その時の記憶を掘り起こしてみると、彼はまだ若かったはずだ。今でもだいたい30代になるかならないか、というところだろう。それに対してルミエスは、まだ20代半ばだ。

 

(もしかして……)

 

 リルセイドはある可能性に思い当たった。だが……まだ証拠不足だ。もう少し探りを入れなければ。

 己の君主のことを考え、リルセイドはそっと気を引き締め直した。

 

 

 会議場に指定された講堂は、もう人でいっぱいであった。ヒト族、エルフ、ドワーフ、獣人、様々な種族が入り混じり、「これが本当の民族のサラダボウル」とでも表現すべき状態となっている。

 そんな中、ロデニウス駐在ムー大使の1人ムーゲは、席に座して配布された資料に目を通していた。フォーク海峡海戦の推移、グラ・バルカス帝国の戦力についての説明……様々な重要情報が並んでいる。ムーゲはそれらを1つ1つ吟味しながら、マイラスから伝えられた話などと組み合わせて考えをまとめていた。その隣では、ムー国とロデニウス連合王国の国交開設以来一貫してロデニウス駐在ムー大使を務めるユウヒが、会場の様子を観察している。

 ムー国は現在、ロデニウス連合王国を「特に重視すべき外交相手」と見なし、外交官を2人も駐在大使として派遣するという異例の態勢で外交に臨んでいた。ロデニウス駐在ムー大使のユウヒは優秀な人間ではあるのだが、相手は「大東洋共栄圏(新たなる文明圏)」を主宰するほどの国家であり、比較的若い外交官である彼にはいささか荷が重いように思える。それに対し、ムーゲはムー外務省でも超が3つ付くようなベテラン外交官である。そのため、「ロデニウス連合王国との外交、及び大東洋共栄圏に対する情報収集や外交交渉を行う」という名目で、ムー政府は2人の外交官を派遣していたのである。

 

 やがて、司会進行を担当するロデニウス連合王国の外交官メツサルが壇上に立ち、開会を宣言した。

 

「それではこれより、大東洋諸国会議を開会いたします。皆様、此度は急な要請にも関わらず、お忙しいところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

今回の会議のプログラムは、4つに分かれております。まず1番目が、先進11ヶ国会議並びにフォーク海峡海戦前後におけるグラ・バルカス帝国の行動の事実説明。2番目が、我が国の意志の発表。3番目が、グラ・バルカス帝国についての解説。そして4番目が、大東洋共栄圏の総意としての宣言の採択です。なお、司会進行はこの私、ロデニウス連合王国の外交官デルムス・フィーナ・メツサルが務めさせていただきます。本会議は2日間の開催を予定しております。

それでは早速ですが、プログラム1番、グラ・バルカス帝国の行動の事実説明に入ります。本プログラムについては、ロデニウス連合王国外務大臣リンスイと、第13艦隊司令官の堺 修一中将から話をさせていただきます」

 

 リンスイの開会宣言と共に、スタートする大東洋諸国会議。

 まずは、グラ・バルカス帝国の言動について、先進11ヶ国会議やフォーク海峡海戦の解説が行われた。ムー国やパンドーラ大魔法公国は事情を知っていたものの、「フォーク海峡海戦の現場にあって直接指揮を執ったロデニウス艦隊の司令官から話を聞くことができる」という点から黙って話を聞いていた。また、マール王国やアルタラス王国をはじめ先進11ヶ国会議に直接参加していない各国の代表は、興味津々で聞き入っていた。そして、地方隊とはいえ神聖ミリシアル帝国の魔導艦隊ですら壊滅したこと、ミリシアルの天の浮舟も歯が立たなかったことなどに戦慄し、グラ・バルカス帝国の脅威を改めて認知したのであった。

 

 そして、誰もが注目しているプログラム2番、ロデニウス連合王国の意志の表明である。

 ロデニウス連合王国はこれまで、自国の意志の明確な表明を避けている。その意志がいよいよ明らかになるのだ。

 ムー国も含めて各国の代表が注目する中、それまで壇上で説明していたリンスイと堺に代わってカナタ1世が直々に壇上に姿を現した。まさかのロデニウス国王の登場に、各国の代表たちは驚きながらも「これがロデニウス連合王国の意志なのだ」と無言のうちに理解した。

 諸外国の代表たちがロデニウス連合王国の意志の表明を待ちわび、固唾を飲んで事態の推移を見守る。そうした面々を静かに一通り見渡した後、カナタ1世はゆっくりと口を開いた。

 

「大東洋共栄圏参加国の皆々様、本日はこのような場所にお集まりいただき、誠にありがとうございます。私、ロデニウス連合王国国王カナタ1世は、我が国の政府を代表して皆様方に御礼申し上げるものであります」

 

 会議場に詰めている報道陣が、まばらにフラッシュを焚く。

 

「我が国は、私は、世界の平和を心から願うものであります。大東洋共栄圏を組織したのもそのためであります。第三文明圏内外の国家が手を取り合い、ともに発展し、そしていつか来る古の魔法帝国との戦いに備え、力を蓄える……そのために、この大東洋共栄圏は存在するのであります。

しかし、平和を実現するためには、相応の力がなくてはなりません。力無き平和は、単なる机上の空論にすぎず、虚しいものなのです。それゆえ、我が国は自国の力を増強すると共に、大東洋共栄圏参加国各々方の自衛のためとして、開発した技術の供与を行ってきました。我が国との技術交換の中で発展してきた国家は、多いことであろうと愚考しております。

そして、力無き平和……換言すれば力無き正義が虚しいのと同じくらい、正義無き力もまた無意味なのです。ここでいう正義無き力とは、他国を武力で無理やりに押さえつけ、自国の発展の犠牲とするようなやり方のことです。はっきり言えば、かつての列強パーパルディア皇国が行っていたことが、これに当たると言えるでしょう」

 

 静かな口調で話していくカナタ1世。彼の言葉の先を、他国の代表たちは一言も発さずに待つ。

 

「私も、先進11ヶ国会議で話されたことについては、情報を得ております。エモール王国の代表の方が、自国で行われた『空間の占い』において"古の魔法帝国が復活する"という結果が出た、と仰ったそうです。このことと古の伝承に鑑みても、古の魔法帝国の復活はほぼ間違いなく起こる事象となった訳です。エモール王国の方が続けて仰った通り、今この瞬間、この時にこそ、我が国を含む全世界の国家は手を取り合って一丸となり、古の魔法帝国の復活に備えるべきでしょう」

 

 ムー国やパンドーラ大魔法公国以外の各国代表がざわついた。

 古の魔法帝国といえば、その名とその所業を知らぬ者はない。どの種族からも隔絶した魔力量と史上どの国よりも発展した技術力を持ち、しかしそれゆえに非常に傲慢であり、全種族を奴隷としていた恐るべき国家である。神聖ミリシアル帝国をはじめ、この世界のどの国家も「古の魔法帝国」と聞けば震え上がるほどの悪名を轟かせているのだ。その国家が復活する、と予言されたのだから、心穏やかではいられない。

 喧騒が収まるのを待ち、カナタ1世は静かな、しかしさっきよりも明らかに声量の大きい声で、会場全体に演説を響かせた。

 

「しかし、しかしであります。我々はその古の魔法帝国と戦う前に、国際協調の精神に共感しない国家から宣戦布告されることになりました。その国の名は、グラ・バルカス帝国です。

グラ・バルカス帝国は、『古の魔法帝国の復活』を予言したエモール王国の代表に嘲笑を浴びせたばかりか、ついには全世界の国家に対し、自国の軍門に降り植民地となれ、と要求しました。そしてなんと、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパス、及びそこに参集していた各国の外務大臣護衛艦隊を武力で攻撃する、という暴挙に出たのです。その顛末は、先ほど説明があった通りとなりました。

各国の外務大臣護衛艦隊は多くの艦が沈められ、多くの尊い人命が失われました。かくいう我が国も戦艦を1隻、彼らの攻撃により失っております」

 

 カナタ1世はこのように述べた。そして先ほどの事情説明の中で、堺もカナタ1世と同じように「戦艦を撃沈された」と各国に伝えている。

 だが、これは誤報である。実際には"(なが)()"は艤装を放棄しただけであり、沈没は偽装でしかない。そして当の"長門"は、艤装の再調達と同時に改二改造を受けてパワーアップしつつある。

 

「さらに先日、グラ・バルカス帝国は信じがたい暴挙に出ました。なんと捕虜となった各国の兵士たちを、非協力的だからというだけの理由で公開処刑したのです。処刑された者たちの中には、数十人規模の我が国の海軍兵もいた、と報告が寄せられています。

私はこの場を借りて、まずはフォーク海峡海戦で戦死し、あるいは処刑された全国の皆様に対し、心よりご冥福をお祈り申し上げるものであります」

 

 そう言うと、カナタ1世は一度言葉を切り、壇上で胸の前で両手を組み、目を閉じてエルフ式の鎮魂の祈りを捧げた。それに向かってフラッシュが明滅する。

 20秒ばかりも祈りを捧げた後、カナタ1世は目を見開き、これまでとは異なる強い口調で言い切った。

 

「度重なる暴挙に出るグラ・バルカス帝国に対し、私、ロデニウス連合王国国王カナタ1世は、心から遺憾の意を表明いたします。そして、世界中からの非難もどこ吹く風とばかり、侵略行為を続けている同国を、世界平和とは到底相容れない、正義無き力しか持たぬ国だと判断いたしました。

ゆえに、私はこの場ではっきり申し上げたい。我が国、ロデニウス連合王国は、自国の国民と大東洋共栄圏参加国の皆様の平和を守るため、グラ・バルカス帝国の挑戦を受けて立ち、グラ・バルカス帝国の勢力を武力を以て駆逐することをここに誓います!!

 

 はっきりとそう宣言したカナタ1世に、議席から大きなどよめきが上がる。

 

「平和を守るため、我が国も兵を養ってきました。強兵を養うのは武力の行使のためではなく、ただ平和と我が国の国民と主権を守るためです。その平和が、我が国の主権が、そして何よりも我が国の国民が、脅かされようとしている現状、これを座して受け入れることは断じてできません!

私、カナタ1世は、ロデニウス連合王国の国王として、自国の軍に命じます。我が国の、我が国民の脅威となるグラ・バルカス帝国を、全力を以て駆逐せよと!

そして同時に、皆様に対して提案させていただくものであります。大東洋憲章の第4条には、大東洋共栄圏の軍は共栄圏の存在と平和を脅かす重大なる脅威が現れた場合に、共栄圏の存続と平和を守るためにのみこれを行使する、と定められています。その『共栄圏の存在と平和を脅かす重大なる脅威』の枠にグラ・バルカス帝国を当てはめ、大東洋共栄圏の総力を結集した軍隊……『大東洋防衛軍』を結成してこれを迎え撃とうではありませんか!」

 

 カナタ1世がそう言い切った時、議席の一角からパチパチという音が響いた。ムー国代表の席に座っていたロデニウス駐在ムー大使ユウヒが、拍手したのだ。

 それを皮切りに、議席のあちこちから拍手の音がしはじめ、ついには出席者全員の拍手の音が会場を埋め尽くすに至った。その様子を壇上から眺めながら、カナタ1世は拍手が収まるのを待ち、そして再度声を大にして告げた。

 

「重要なことですので重ねて申し上げますが、グラ・バルカス帝国は我が国も含めた大東洋共栄圏の全ての参加国に対し、自国の植民地になれと要求しています。その要求を撥ね退ければ、戦争は避けられないでしょう。

後でご説明いたしますが、グラ・バルカス帝国は非常に手強い国家です。しかし、彼らの本質は旧パーパルディア皇国と何ら変わるものではありません。ならば、我が国が取るべき途はただ1つです。すなわち、グラ・バルカス帝国と戦い、我が国の主権と民を守り抜くのです!

グラ・バルカス帝国は手強い相手です。しかし、我が国の他に大東洋共栄圏の参加国全てが一丸となり、全力を以て事態に当たれば、手強い相手であろうとも勝てる可能性が出てくるのです。それゆえに、皆様のご協力が必要不可欠なのです! 皆々様、どうか自国の政府に働きかけ、お力をお貸しください。そしてともに戦い、グラ・バルカス帝国の魔の手を撥ね退けようではありませんか!」

 

 再び万雷の拍手。それを最後に、カナタ1世の演説は終了した。

 つまり、ロデニウス連合王国は正式にグラ・バルカス帝国と戦う覚悟を固めたのだ。この戦争は決して容易ならぬものとなるだろう。だがそれでも、戦わなければならないのだ。自国の国民と主権とを守るために!

 

(やはり開戦ということになったか……。さて、これからしばらく大変だぞ。おそらく休みは許されないだろうしな……。だが、それでこそ軍人ってもんだ。

さあ来い、グラ・バルカス帝国よ。この私の率いる第13艦隊が、直々に相手してやる……!)

 

 会議場の空気を震わせる拍手の中で、堺はそう考えていた。

 カナタ1世が降壇すると、続いてプログラム3番、グラ・バルカス帝国についての説明である。この説明は堺が担当することになっていた。堺は壇上に上がり、説明を開始する。

 

「それではこの私、ロデニウス海軍第13艦隊司令の堺から、グラ・バルカス帝国についてご説明いたします。皆様に完全な情報を伝えなければならない、という観点から、グラ・バルカス帝国について明確に判明していることだけをお伝えすることになりますが、それでも皆様が驚かれるのは間違いないと愚考しております。

そのグラ・バルカス帝国ですが、まず本土の位置は明らかになっておりません。神聖ミリシアル帝国などは、この国の本土は第二文明圏外の西側にあると見ているようですが、グラ・バルカス帝国は排他・秘密主義を貫いており、彼らとの接触窓口は旧レイフォル国の首都レイフォリアに限定されている状態です」

 

 ちなみにこれも嘘である。ディグロッケを擁する独立第1飛行隊の偵察により、グラ・バルカス帝国の本土の位置はほぼ明らかになっていた。とはいえ、グラ・バルカス帝国が表立って自国の位置を発表していない以上、どれほど「ここだ」と思える位置を絞り込んだとしても、あくまで"推測"にしかならないのである。そのため、堺はこのように発表したのだ。

 また、これには「もしグラ・バルカス帝国のスパイが紛れ込んでいたら……ということを想定した防諜」という隠された目的もある。

 

「そう、グラ・バルカス帝国本土の位置は第二文明圏外です。ですが、今回のフォーク海峡海戦の結果を見れば皆様お分かりかと思いますが、グラ・バルカス帝国の技術力・軍事力は明らかに、文明圏外どころか上位列強レベルです。この第三文明圏一帯で最強を謳われたパーパルディア皇国であろうと、全く勝ち目はありません。パーパルディア皇国全盛期時代の軍を以て当たったとしても、グラ・バルカス帝国軍には何ら被害を与えられぬまま全滅しているだろうと、確信を持って言い切れます。

我が国の情報部、及び軍の情報収集・分析課の分析では、グラ・バルカス帝国の技術力・軍事力はこのロデニウス連合王国と同等以上と見られています。はっきり申し上げて、並大抵の相手ではありません。

ですが、私自身も自国の主権を、国民を守るため、全力を挙げてグラ・バルカス帝国と戦う所存であります。パーパルディア皇国との戦争の時のような一筋縄でいける相手ではありませんが、それでも勝利を得たいと考えておりますゆえ、皆々様にもご協力をお願い申し上げるものであります」

 

 そう言って堺が一礼すると、即座にムーゲが立ち上がった。

 

「我がムー国は、ロデニウス連合王国と同盟を締結しております。その同盟関係と、これまでの両国の(ゆう)()に基づき、我が国ムー国はロデニウス連合王国と共に、グラ・バルカス帝国と戦う覚悟であります」

 

 「永世中立」とは名ばかりの「日和見主義」、などと陰口を叩かれることのあるムー国が、ここまではっきりと自国の意志を表明するのは類を見ないことであった。それだけに、ムー国の名を知る各国代表からは驚きのざわめきが上がっている。

 続いて、

 

「我がトーパ王国は、魔王ノスグーラを退治してくださったロデニウス連合王国に対し、強い恩義を感じております。我が国は、国際信義と大東洋憲章に則り、軍事支援を含む必要な支援をロデニウス連合王国に対して行うことを決定いたしております」

 

 トーパ王国の外務大臣が、直々に自国の意志を表明した。それに続くのはアルタラス王国の女王ルミエスである。

 

「我が国、アルタラス王国は、先の第三文明圏大戦の折に、ロデニウス連合王国に非常に助けていただきました。その恩義と、大東洋共栄圏の理念に基づき、アルタラス王国はロデニウス連合王国を全面的に支援します」

 

 さらに、国難を救われたフェン王国の代表モトムも、国家の総意としてロデニウス連合王国に対する支援の意を表明した。だが、他の国は少々迷っているようだ。

 

「現時点で国家の意志を表明されていない方々の国家につきましては、明日またお伺いさせていただくものであります。まだ時間はございますから、ゆっくり考えていただいて結構でございます。

それでは、本日の会議はこれでお開きとさせていただきたいと思います」

 

 司会進行係のメツサルがそう宣言し、これを以て大東洋諸国会議の1日目は終了した。

 

 

 その翌日。

 2時間を見込んで午前9時から開始された大東洋諸国会議の2日目だが、しかし刻限が来る前にあっさり終わってしまった。というのも、参加国全ての代表が次々と、「ロデニウス連合王国への協力」と「グラ・バルカス帝国との戦い」を決意したことを表明したからであった。

 

「それでは、大東洋共栄圏の総意として、ここに2つのことに関して評決を取ります。

まず1点目、大東洋憲章第4条に定める『共栄圏の存在と平和を脅かす重大なる脅威』として、グラ・バルカス帝国を設定すること。賛成の方はご起立ください」

 

 メツサルがそう言うと、参加者たちは一人残らず一斉に立ち上がった。頭数を数えたメツサルが、厳かに告げる。

 

「では、全会一致の賛成により、大東洋憲章第4条に定める『共栄圏の存在と平和を脅かす重大なる脅威』として、グラ・バルカス帝国を設定します。

次に2点目、大東洋共栄圏はその総意として『大東洋防衛軍』を組織し、グラ・バルカス帝国の脅威から共栄圏と自国の主権並びに自国の国民を守るために、武器を取って同国と対峙すること。これについて賛成の方、ご起立をお願いします」

 

 メツサルが言い終わる前に、ザザッ! という音が響いた。参加者全員が、一斉に起立したのだ。

 

「それでは、全会一致の賛成をもちまして、我々は大東洋防衛軍を組織し、グラ・バルカス帝国と対決することと致します!」

 

 メツサルの宣言に、大きな拍手が沸き起こった。

 

 かくて、2日間にわたった大東洋諸国会議は終了した。

 大東洋共栄圏はその総意として、グラ・バルカス帝国を重大な脅威と認め、全国一致でこれに立ち向かうことを決定したのである……。

 

 

 大東洋諸国会議が終了して1時間後、午前10時35分、タウイタウイ島。

 タウイタウイ泊地は通常営業……どころか戦時体制に突入したため厳戒態勢となっていた。だが、そんな中にあっても平常通り営業している店があった。

 その店は、一見すると和風の茶屋に似た風情の建物である。店先には赤い唐傘をさした席が用意されており、店の入り口には群青色の暖簾がかかっていた。それには白い字で「(かん)()(どころ)」と書かれている。

 そう、「甘味処 間宮&()()()」。それが、この店の名前であった。読んで字の如く、給糧艦の艦娘"間宮"と"伊良湖"が運営する甘味の店である。

 

「はい、お待たせしました!」

 

 その店だが、店内には3人連れの客が訪れていた。男性1名、女性2名である。

 彼らの前に、茶色のコーンに盛られたアイスクリームが置かれた。毎月31日に大規模セールをやっている日本の某アイスクリーム店のアイスのように、コーンの上に2つの球体型アイスが乗せられ、その上から茶色のチョコレートソースがかかっている。

 

「うわぁ……! 以前に食べたのより美味しそう……!」

 

 女性2人のうち、特に若い方の女性が目をキラキラさせてアイスクリームを見つめる。

 

「ルミエス陛下、はしたないですよ……」

 

 もう片割れの女性が、その女性を(たしな)める。そう、この2人はアルタラス王国のルミエス女王と、その親衛隊長リルセイドであった。

 

「ははは……まあリルセイド殿、年頃の女性らしい反応ではありませんか」

 

 そう言って苦笑している男性こそ、このタウイタウイ泊地の主人たる堺 修一その人である。既に彼は注文したアイスに手を付け始めていた。

 

「陛下、感心するのも結構ですが、あまり放置すると溶けてしまいますよ。この国はただでさえ暑いのですから。溶けてしまう前に、美味しくいただきましょう」

 

 堺にそう言われて、ルミエスはやっと我に返った。

 

「そ……そうですね。では、いただきます!」

 

 頰を少し赤く染めながら、アイスを食べ始めるルミエス。この時点で、リルセイドは既に確信していた。

 

(やはり……。陛下は、この男に惚れていらっしゃるようです……!)

 

 実はリルセイドは、昨日の時点でその可能性に思い至っていた。そこでその可能性を確かめるべく、彼女は密かに手を打った。具体的には、なるべく堺とルミエスの距離が近くなるように立ち回ったり、会話中の様子をさりげなく観察したり。今のこの席も、ちょうど堺とルミエスが向かい合う格好になるように、彼女は自分の立ち位置を調整していた。

 すると出るわ出るわ、それらしい証拠がぽろぽろ出てくる。

 

(うーん……。陛下もそろそろ結婚相手を探さなければならないお年頃。この私リルセイドも、陛下の御身を案ずる者として陛下の婿入り相手を探していますが、良い候補者というのはなかなか見つからないものです……。しかし彼ならばどうでしょうか?)

 

 上機嫌でアイスを食べるルミエスの横顔をそっと見ながら、リルセイドは考えていた。

 ルミエスが惚れているらしい(まだ証拠が完全に固まっていないのでこの表現になった)サカイというこの男性は、リルセイドなりに観察してみるとまず容姿は悪くない。そこそこルミエスが好みそうな顔立ちであるし、2人の背丈も比較してみるとルミエスのほうが10㎝ばかり低く、地球でいう壁ドンでもやったらかなり絵になりそうだ。年齢的にも釣り合いが取れている。

 次に、サカイの職業を考えてみると、軍人であることは間違いない。そうでなければ「タスフラワー作戦」の指揮なんて執ったりするはずがない。しかも、まだ若いのにこんな大規模作戦の指揮を執る辺り、相当の実力者らしい。

 その様子は、彼が拠点としているこのタウイタウイ泊地にも表れている。ここの部隊は国産の飛行機械を実用化し、その上全長200メートル以上の超大型艦(かつてリルセイドが見た「大和(やまと)」のことを言っている)まで建造している。これらのことから考えても、彼の率いている「赤い太陽の旗の艦隊」は凄まじく高い戦闘力を持っているとみて間違いない。エストシラント沖海戦でパーパルディア艦隊200隻を全滅に追いやった50隻のロデニウス艦隊というのも、この「赤い太陽の旗の艦隊」で間違いないだろう。

 

(もし、彼をロデニウス連合王国から引き抜いて陛下に婿入りさせることができれば……そうなれば、今苦労して再建中のアルタラス王国海軍も、空軍への飛行機械の導入も、一気に叶うかもしれません。しかも、この島にも陸軍部隊が駐留しているようですし、仮にそれらの部隊も彼の指揮下にあるとすれば、並行して陸軍の強化も行えるかもしれません。そして男児でも生まれれば、断絶しかかっているアルタラス王家の命脈を保つこともできる……良いですね、このプランも……! グヘヘ……)

 

 アイスを口に運びつつ、取らぬ狸の皮算用をしているリルセイド。

 

「リルセイド、どうかしましたか?」

 

 どうやら知らぬ間に口元がにやけていたらしい。リルセイドの様子に気付いたルミエスが尋ねてきた。

 

「いえ、陛下が幸せそうにしていらっしゃるので、微笑ましいと思っていただけでございます」

 

 もちろんこれは嘘である。だがルミエスは、それにあっさり騙された。

 

 

 ……しかしリルセイドは知らない。堺の社会的立場云々を抜きにしたとしても、彼女のプランが既に叶わぬものになっていることを……。何故なら、堺は既にケッコン済みであるからだ……!

 もし仮に無理やり堺を引っこ抜いたとしたら、下手をするとアルタラス王国の王都ル・ブリアスが戦火に包まれることになるだろう。パーパルディア皇国の皇都エストシラントよろしく、46㎝砲の全力咆哮("大和"の怒り)によって……! もしくは、シュラバヤ沖海戦勃発待った無しとなるであろう。

 堺の、ルミエスの、そしてアルタラス王国の明日はどっちだ……!?




はい、今回は久しぶりの大東洋諸国会議でした。
原作でもたった1回出てきたっきりの会議ですが、拙作では何かある度に開催していきたいと思います。

そしてルミエスさん、その恋は既に終わってるぞ…。あと、リルセイドも気付け…


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次回予告。

フォーク海峡海戦で大破、座礁してしまい、動けなくなったムー国の戦艦「ラ・カサミ」。その「ラ・カサミ」の修理依頼が、ロデニウスに舞い込んだ。そして「ラ・カサミ」の船体は、マッドエンジニア…つまり"釧路"の手に任される…!
次回「戦艦『ラ・カサミ』改造大作戦!」

!注意!
次回、「そんなもんできるわけねーだろ」というツッコミ覚悟の魔改造になります。その点予めご了承願います。

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