鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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今回は戦艦「ラ・カサミ」の話です。

先に警告しておきますが、「これが本当の魔改造」と言えるレベルの魔改造が出てきます。こんなもん、現実的に考えてできるわけねーだろ、という批判は甘んじてお受けする覚悟です。



122. 戦艦「ラ・カサミ」改造大作戦! ……魔改造も大概にしろ? 知らんな!

 中央暦1642年6月5日、神聖ミリシアル帝国南端部 フォーク海峡周辺海域。

 このフォーク海峡という地名が記憶に新しい、という方は多い筈だ。そう、ここは4月下旬にフォーク海峡海戦があった地である。"(なが)()"の艤装がここに眠る他、先進11ヶ国会議に出席していた各国の外務大臣護衛艦隊や神聖ミリシアル帝国海軍・カルトアルパス在泊地方隊所属艦艇の多くが沈められ、この周辺海域に眠っている。

 そんなフォーク海峡に、数隻の武装艦艇に護衛されて超大型の艦が1隻進入してきた。その艦は非常に大きく、護衛に当たっている戦艦が駆逐艦に見えるほどの大きさである。全長1,670メートル、幅470メートルのその巨体には、これまた巨大なクレーンが数基装備されていた。

 ロデニウス連合王国海軍第13艦隊所属・改(まい)(づる)型移動工廠艦「(くし)()」。それが、この巨艦の名前である。もちろん彼女たちは、神聖ミリシアル帝国政府の許可を得てこの海域に進入していた。

 

「あれですね」

 

 この巨大工廠艦の艦橋では、窓から行く手の海を見つめていた"釧路"がそう呟いた。

 彼女の視線の先には、1隻の軍艦が斜めに傾いたまま停船している。いや、それは停船しているというよりは、座礁しているというほうが適切であった。

 ムー統括海軍が誇る戦艦「ラ・カサミ」。それが、この軍艦の名前である。フォーク海峡海戦の折、グラ・バルカス帝国の艦上機の攻撃により艦尾に被弾して舵が故障した上、機関も暴走してしまい、結果として座礁してしまったものであった。だが皮肉にも、座礁したことにより「ラ・カサミ」は撃沈の運命を免れたのだ。

 

「目標発見。これより、アプローチに入ります」

 

 神聖ミリシアル帝国政府から教えてもらった海の深さの情報を元に、"釧路"は細心の注意を払って「ラ・カサミ」に近付いていく。何をしようとしているのかというと、彼女は「ラ・カサミ」を離礁させ、己の艤装に設置された艦艇修理ドックに放り込もうとしているのだ。

 

 ムー国政府と外務省からロデニウス連合王国に連絡があったのは、中央暦1642年5月22日のことだった。それによれば、ムー国政府と軍部からの依頼により、ロデニウス連合王国において戦艦「ラ・カサミ」を離礁の上修理してもらいたい、とのことであった。

 どうやらムー国は、自国の戦艦の修理をロデニウス連合王国に委ねることで新たな技術の取り込みを図るつもりらしい。もちろんだが、修理や曳航に要する費用はムー側が負担することになっている。

 

 だが……"釧路"はというと、そういった事情には一切構わず、

 

「異世界の科学技術で作られた軍艦、それの改造ができるなんて……どうやって改造して差し上げましょうか!」

 

 新しい玩具を与えられた子供のように、目をキラキラさせていた。同時に、頭おかしい技術屋(マッドエンジニア)の顔になっている。

 

「主砲はどうしようかな……。副砲は多分要らないから撤去して、代わりにあんなものやこんなものを……。(そっ)(きょ)()とかも積みたいですね。グヘヘ……」

 

 この時、隣に立っていた副長妖精はこう思ったという。「駄目だこいつ……早く何とかしないと……」と。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 しかし、それから1ヶ月後、中央暦1642年7月5日。

 タウイタウイ泊地の波止場には、「釧路」がその巨体を浮かべている。「ラ・カサミ」を己の艤装の中にあるドック区画に入れてしまった以上、"釧路"は艦娘形態に戻るのも難しくなったため、実艦化して波止場に停泊せざるを得なくなったのだ。

 その「釧路」の艦長室にて「ラ・カサミ」の修繕案をいろいろ考えていた"釧路"の元に、提督を通じてとんでもない仕様要求書が舞い込んだ。

 

「これはまた……」

 

 机の上に広げられた仕様要求書を見て、絶句する"釧路"。いったいどうしたのかというと、要求書にとんでもない内容が書かれていたのだ。

 

 

[仕様要求書]

(ムー国からの要求)

・戦艦用の大口径砲を搭載すること。

・舷側の副砲を残すこと。

・対空戦闘能力を大幅に向上すること。

・速力を大幅に向上すること。

 

(以上を踏まえて、提督からの要請(命令))

・主砲を35.6㎝連装砲、つまり金剛型戦艦と同じものとすること。

・舷側砲は廃止し、代わりに両用砲を搭載することで「副砲の機能」を残しつつ対空戦闘能力の向上につなげること。

・測距儀ならびに弾着観測機を搭載すること。

・電探(レーダー)は使用可能。

・最高速力として、最低でも30ノットを出せるようにすること。

・対艦戦闘能力を補うべく、魚雷発射管を搭載すること。

 

・以上の要求を全て達成し、6()()()()()()()()()()できるようにすること。

 

 

 率直に言って、かなり厳しい。

 まず、戦艦「ラ・カサミ」は40口径30.5㎝連装砲を搭載することを意識して作られた艦だ。そこに、より大口径かつ長砲身の45口径35.6㎝連装砲を載せるとなると、これはただごとではない。

 両用砲と対空機銃はまだ良いとして、電探に測距儀の搭載、これも大変だ。というのも、電探や測距儀の性質上、できるだけ高いところにこれらの装備を搭載する必要があるからである。となると、戦艦「()(そう)」のように後から必要なフロアを付け足す形で艦橋を高くするか、新たに籠マストのような高い艦橋を新規設計しておっ立てるしかない。

 そして「ラ・カサミ」の艦体で30ノットを出すとなると、機関の交換は当然必要だが、それ以外にタービン・発電機の交換も必要になるだろう。もしかすると艦首を弄ったり、艦体の長さから変える必要があるかもしれない。

 

 何より問題なのは、最後に付けられた「6ヶ月以内に戦線復帰」という条項だ。ムー政府としては、神聖ミリシアル帝国から打診されたグラ・バルカス帝国への反攻作戦に「ラ・カサミ」を参加させたいという思惑があるのだが……"釧路"にしてみれば、堪ったものではない。

 これほどの大規模改造となると、乗組員も一から鍛え直す必要があるからだ。そりゃそうだろう、機械を動かすのが人間である以上、その人間を鍛えておかなければ機械は十全の性能を発揮できない。それも今回の場合、機械類をほぼ新造するくらいの全取っ替えになるから、その機械を扱う人間の錬成はそう簡単に済むものではない。

 

(これはまた厄介な案件ですね……。「アイオワ」の現代化改修もやらないといけない、という時にこれですか……)

 

 正直に言って、かなり厄介な案件だ。だが、異世界の科学技術でできた艦を弄るとなると、これはこれでやりがいのある仕事だろう。

 "釧路"は席を立ち、艦長室を出てドック区画へと向かう。ドックのうち1つには、近代化改装……いや、現代化改装真っ最中の戦艦「アイオワ」が入渠していた。電子装置の取り付けが行われている最中であり、その他に四本の筒を束ねたような、何に使うかよく分からない装置が複数取り付け待ちの状態である。ドックに入れられ、クレーンに取り囲まれて身動きできない状態だが、それでも3基の50口径16inch三連装砲は相変わらず力強い姿を保っている。

 そしてその「アイオワ」の隣のドックに、「ラ・カサミ」が入っているのだ。

 強力な「力」によって様々な場所が破壊された、痛々しい姿。しかし、その姿を見ていると……あり得ないことではあるが、彼女はその艦から話しかけられているように感じた。「祖国を守護するために、我に力を与えてくれ」と。

 

 彼女はわずかに笑みを浮かべながら呟く。

 

「その願い……私が叶えて差し上げますよ」

 

 誰にも聞こえないほど小さな呟き。しかしその声に、彼女は自身の気持ちを込めるのだった。

 

 

 そして、ここからが大変なのである。

 彼女はまず、「ラ・カサミ」が受けた被害について調べると共に、「ラ・カサミ」の艦内区画及び装甲配置等の詳細な設計図を手に入れようとした。設計図のほうはムー国に情報提供をお願いした結果、設計図を届けてもらえることになった。だが、損傷の程度は自分の目で確かめなければならない。

 ドック入りした「ラ・カサミ」には、"釧路"に付き従う妖精が何人も出入りし、種々の情報の把握に努めた。艦内区画の配置から、艦橋の高さ、艦橋基部の耐久性、艦体そのものの搭載限界量など、妖精たちはいろいろな情報を集めては解析し、解析しては集めていた。そして、ムー国から届いた設計図を含むラ・カサミ級の詳細データと照合を行って、"釧路"の設計班は「ラ・カサミ」の評価を完了したのである。

 続いて設計班の面々は、"釧路"本人と共にいろいろな改造案を出し、様々な計算を行って検討を重ねた。海岸の波の間に漂う泡沫(うたかた)のごとく、多くの案が浮かんでは消え、消えては浮かんだ。

 そして、評価と改造計画を合わせて1ヶ月もかかってついに定められた改造仕様、それがこちらである。

 

 

[改造前の「ラ・カサミ」の性能要項]

全長 131.5メートル

全幅 23メートル

排水量 15,140トン

機関 ディーゼルエンジン(燃料は重油)

速力 18ノット

主砲 40口径30.5㎝連装砲2基

副武装 40口径15.2㎝単装砲14基、ロ式41型20ミリ単装対空機銃(エリコン20㎜単装対空機銃)18基

 

[改造案]

1. 全長を131.5メートルから210メートルまで大幅延伸する。艦幅は弄らない。もちろんだが、竜骨には大幅な強化を実施する。

2. 艦橋の高さを増強し、高さ25メートルとする。工期と実用性を鑑み、(さん)(きゃく)(しょう)を採用する。

3. 推進方式をディーゼル2軸推進から、蒸気タービン4軸推進に変更する。

4. 主砲を45口径35.6㎝連装砲に換装する。また、砲配置は艦体前方2基、後方1基とする。

5. 15.2㎝副砲を全廃する。

6. 5. の代わりとしてMk.28又はその改良型の5インチ連装両用砲を搭載。搭載数は両舷合わせて6基を予定する。

7. エリコン20ミリ機銃、及びボフォース40ミリ機関砲を搭載し、対空戦闘能力の強化を図る。

8. 61センチ四連装魚雷発射管4基を新規設置する。なお、この発射管は九三式魚雷に対応したものとする。

9. 艦首の形状を変更し、球状艦首(バルバス・バウ)を採用する。それと同時に「零式水中聴音機」を設置する。

10. 艦体中央側面にバルジを設置すると同時に、対水雷防御の充実を図る。また、特に水平装甲の強化を実施する。

11. 飛行甲板を設置し、弾着観測機の運用が可能なようにする。なお、観測機は「零式水上観測機」とし、露天繋止である。

12. 爆雷投下軌条を艦尾に搭載し、一応の対潜戦闘能力を持たせる。

13. 艦橋基部にCIC(戦闘指揮所)を設置する。

14. 電探としてSG対水上レーダー並びにSK対空レーダーを、射撃指揮装置としてGFCS Mk.37を搭載する。また念のため、砲側照準も可能なようにすると共に、対空機銃の一部を高射装置連動型とする。

15. (ほう)(すい)所の設備の全交換。圧力釜・圧力鍋の新装備の他に、冷蔵庫・冷凍庫・コンロ・シンクも一新する。

16. 消火設備を一新し、二酸化炭素を利用する方式に変更する。なお、海水を利用するポンプは従来のままとするが、機械をチューンアップして出力を向上し、結果的に性能向上とする。ついでにラムネ製造機の設置。

 

 

 ここで「魔改造も大概にしろ」とツッコミを入れたくなった人は挙手。

 まずそもそもこれ、ラ・カサミ級戦艦としての原型がほぼ無くなってしまっている。艦幅は変わっていないが、全長は大幅に延長されており、艦の全高も大きく変わっている。その上艦首も弄られている。

 主砲は1基増えた上により大口径の砲にされ、測距儀と電探まで設置。おまけに舷側砲を全廃して両用砲を設置し、対空機銃も増設、とどめに魚雷発射管まで設置。しかもこの発射管、よく見ると九三式魚雷に対応している。そう、あの酸素魚雷が撃てるようになってしまったのだ。しかも、ロデニウス海軍第13艦隊の九三式魚雷対応型発射管は「40式魔導酸素魚雷」にも対応しているため、この改装を実施すれば「ラ・カサミ改」はロデニウス連合王国海軍の最新式魚雷も撃てるようになってしまう。

 防御力も強化されており、戦闘指揮所まで設けられ、更には水上機の運用も可能になってしまった。もはやラ・カサミ級戦艦の原型はないに等しく、旧日本海軍の(こん)(ごう)型戦艦やイタリア海軍の戦艦「コンテ・ディ・カブール」もびっくりの劇的ビフォーアフターである。

 

 なお、なぜ魚雷発射管があるのかというと、「ラ・カサミ改」の運用方法のせいである。

 現在のムー統括海軍には、太平洋戦争頃の性能を持つ巡洋艦が不足している。何せ今のムー海軍の巡洋艦は、日露戦争頃のもの程度の性能しかないのだから。

 そこで、この「ラ・カサミ改」を巡洋艦クラスの代わりとして使うことが考えられたのである。このため、「水雷戦隊の駆逐艦とともに行動する」ことが考えられたのだ。従って、魚雷発射管の設置に至ったのである。

 また、将来的に「ラ・カサミ改」が前線を引退した際、練習艦として運用する、という計画もムー国内にあった。それに従い、雷撃戦の基礎くらいの練習にはなるだろう、ということで魚雷発射管も載せられたのである。

 

「ま、こんなもんでしょうか。後は予算通過を待って、工事開始ですね!」

 

 "釧路"はそう呟いたが、どう見ても「こんなもん」ではないだろう、と筆者はツッコミを入れたい。

 

 

 それから2ヶ月半程度の間、タウイタウイ泊地の埠頭に停泊したままの「釧路」艦内ドックにおいて、戦艦「ラ・カサミ」は史上類のない大規模改造を受けることとなった。

 また、艦長のミニラル・スコット大佐、副艦長のマーベル・シットラス中佐をはじめ「ラ・カサミ」のクルーは、「新生ラ・カサミ、いやラ・カサミ改に搭載する装備を十全に操ることができるようになる必要がある」として、全員が金剛型戦艦「(はる)()」に乗り込み、昼夜を問わない猛訓練を課されることとなった。また、「ラ・カサミ改」に魚雷発射管が設置されることを受けて、訓練のためロデニウス連合王国に派遣された水雷系専門の水兵たちも、大変な訓練を受けることになった。これはムー軍部からの命令と堺の判断に基づくものである。

 

 この際なのではっきりと申し上げておくが、この訓練は歴代のムー軍人の誰も受けたことのない、筆舌に尽くしがたいほど強烈な訓練であった。後にこの当時のことをインタビューの中で聞かれた際、当時の「ラ・カサミ改」クルーの誰もが口を揃えて、「あんな訓練はもう二度と受けたくない」と語っている。訓練担当の艦娘が"榛名"であるため、その優しい性格から訓練も比較的(ぬる)いと思われがちだが、そんなことは全くない。彼女だって、「地獄(やま)(しろ)、鬼金剛」と称された"金剛"には及ばないものの、()れ歌に登場するほど苛烈なシゴキを以て知られるのである。

 訓練の内容をざっと説明するなら、午前6時に「総員起こし」がかけられ、5分以内に持ち場につかなければならない。1秒でも遅れると鉄拳制裁……の代わりに腕立て伏せ100回の罰則が課される。そして何をするかというと、朝礼と掃除・装備点検である。広大な「榛名」艦内の清潔を保つために掃除を行うのだが、その掃除たるや、通常のビルディングの大掃除並みに大変な仕事である。何せ広大な甲板を隅から隅までモップがけし、それが済んだと思ったら今度はワックスで磨かなければならないからである(ワックスは毎日やるものではないが)。それと並行して、主砲はもちろん、副砲から高角砲、対空機銃1基に至るまでも点検しなければならない。いざ実戦になった時に動作不良で戦えないなんて、洒落(しゃれ)にならないからだ。普段からの点検が欠かせない。水上機にしても、暖機運転まで行う必要がある。

 なお、(ほう)(すい)部の面々はこの時間帯が戦争だ。全乗員分の朝食を準備せねばならないからである。

 朝の一仕事がやっと済んだら、午前7時から30分間の朝食である。軍人は基本的に体力勝負、しっかり食べておくこともまた任務のうちなのである。余談だが、"榛名"の飯は量・質ともに十二分だと評判であり、「ラ・カサミ改」クルーの面々の唯一の楽しみは三度の食事であった。

 朝食の後は各自の寝具などの点検。そして午前8時から訓練開始となる。午前中の訓練内容は、日によって異なるが、だいたい座学か実技かのどちらかである。座学の場合は、各自の配属によって教育内容が異なる。例えば航海部なら天測のやり方や雷撃・航空爆撃に対する回避運動術など。砲術部なら数学や物理の計算が多い他に、電探のAスコープやPPIスコープの読み方を教えられる。時に実習を伴いながら、基礎からきっちり叩き込まれることになる。もちろん、その間礼儀を忘れてはならない。

 実技の場合は、だいたい艦隊行動訓練や砲撃演習が多い。が、時には模擬戦が入ることがあり、その場合は応急修理(ダメージコントロール)から医療救護からトリアージ、弾着観測にかこつけた飛行訓練、艦長の指揮・状況判断訓練に至るまで盛りだくさんの訓練を行うことになる。

 内容があまりにも濃密なので、大抵の場合「ラ・カサミ改」クルーは午前中でヘロヘロになるのだが……手加減は一切存在しない。午後0時から30分間の昼食の後、すぐにまた実技訓練に入る。「戦闘配置」が発令され、5分以内に1人でも持ち場につけなければアウト。全員一律で腕立て伏せ200回の厳罰に処される。

 そしてここからは、戦闘訓練に端を発して航海訓練や電探による探知・砲撃訓練、時に筋力トレーニングなど、ひたすら実技訓練に明け暮れることになる。たまに座学が入り、過去の海戦のデータなどを基にした図上演習なんかも行われる。

 午後5時にはだいたい実技訓練が終了、交代での入浴と夕食を交えつつ午後7時までは自由時間(という名の温習)。その後座学がだいたい午後7時から午後10時くらいまであり、午後11時に消灯が命じられる。これで、航海部の夜間天測訓練以外は各自の1日が終わる……と思いきや夜中に突然「戦闘配置!」が発令され、そのまま夜戦訓練に突入することもある。この場合であっても、寝過ごしは許されない。もしやらかせば、「精神がたるんでいる」ということで即座に海軍精神注入棒の出番である。そして夜戦訓練があった日であろうと、翌朝6時の「総員起こし」の時間だけは何としても守らなければならない。

 

 ……聞いているだけでもお分かりかと思うが、かなり大変なのである……。

 

 そして「榛名」とは別の箇所に配属された水雷系の乗員の訓練は、実はさらに大変であった。というのも、基礎課程を担当した"()(とり)"と"(なが)()"の訓練も大概なのだが……その先、本当の雷撃訓練の担当教官が、鬼ばかりだったのである。その教官の面子はというと、"(きた)(かみ)"、"(おお)()"、"()()"、"(せん)(だい)"そして"(じん)(つう)"。もうお分かりだろう。そう、雷撃専門の重雷装巡洋艦の面々に加えて、「三水戦の夜戦バカ」こと"川内"、そしてかの有名な「()の二水戦」の親玉のお出ましなのである。夜戦訓練はもちろん、昼間水上砲戦訓練だろうが対潜戦闘訓練だろうが対空戦闘訓練だろうが一切妥協しない彼女たちの前に、「ラ・カサミ改」水雷系の乗員たちは連日ヒイヒイ言わされ通しだったとか。そして夜戦訓練にしても、時間の予告が一切なくゲリラ的に行われるため、片時も精神の休まる暇がないのである……。

 余談だが、水雷系の乗員たちは教官の気弱そうな見た目に騙されて、"神通"の担当科目を多めに入れてしまった。そして、全水雷戦隊嚮導艦の中で最も過酷と言われる彼女の鍛え方に、悲鳴を上げることになってしまったのである。

 

 

 工事開始から3ヶ月が経とうという頃。

 戦艦「榛名」及び第二水雷戦隊において、「ラ・カサミ改」クルーの卒業試験が行われる傍ら、移動工廠艦「釧路」艦内のドック区画でも「ラ・カサミ」改造の最後の仕上げが行われていた。

 兵装の搭載はほぼ完了しており、後は過負荷状態での機関運転テストや全速航行試験、そして電探や測距儀の動作テストなどくらいである。外観が整えられた「ラ・カサミ改」は、同一の艦とはとても思えないほどに見違える姿になっていた。事情を知らない者が見たら、同一の艦とはとても思うまい。

 

 

 そして、中央暦1642年10月22日。

 点の辛い"榛名"や"神通"の厳しい試験を潜り抜け、なんとか「ラ・カサミ改」クルー全員が最終試験に合格したその日、艦長のミニラル大佐以下全員は呼び出され、それぞれの訓練担当艦を降りることとなった。そして彼らが案内された先にあったのが、生まれ変わった「ラ・カサミ」だったのである。

 

「「「おお……!」」」

 

 その姿を目にした瞬間、彼らは揃ってまず感嘆し、ついで男泣きに泣き始める者が出た。

 彼らの前に姿を見せた「ラ・カサミ改」は、かつての姿はほとんど面影を残していなかったが、全長が大幅に延長されたことでかえって俊敏そうな姿になっていた。35.6㎝連装砲3基は誇らしげに長い砲身を水平線に掲げ、艦中央部にびっしり装備された5インチ連装両用砲と各種対空機銃が空を睨みつけている。そして高くそびえ立つ三脚檣は、列強ムー国の栄光を象徴するかのように彼らには思われたのだった。

 それではここで今一度、「ラ・カサミ」が改造前後でどれほどの劇的ビフォーアフターを遂げたのか、文字にして調べてみよう。

 

 

戦艦「ラ・カサミ」

全長 131.5メートル

全幅 23メートル(バルジを入れると23.8メートル)

全高 20メートル

排水量 15,140トン

速力 18ノット

主武装 40口径30.5㎝連装砲2基

副武装 40口径15.2㎝単装砲14基、ロ式41型20ミリ単装対空機銃(エリコン20㎜単装対空機銃)18基

光学兵装 1.5メートル測距儀

電波兵装 無し

音波兵装 無し

搭載機 無し

 

戦艦「ラ・カサミ改」

全長 210メートル

全幅 23メートル

全高 33メートル

排水量 26,800トン

速力 31.5ノット

主武装 ロ式40型45口径35.6㎝連装砲3基(艦体前方2基、後方1基)

副武装 ロ式41型38口径12.7㎝連装両用砲改(5inch連装両用砲Mk.28 mod.2改)6基、ロ式41型40㎜機関砲(ボフォース40㎜機関砲)四連装4基、同連装16基、ロ式41型20ミリ単装対空機銃30基、61㎝四連装魚雷発射管(九三式魚雷対応)4基、九五式爆雷投下軌条(爆雷10個)

光学兵装 10メートル測距儀

電波兵装 ロ式41型対水上電波探信儀(SG対水上レーダー)、ロ式41型対空電波探信儀(SK対空レーダー)、ロ式41型射撃管制装置(GFCS Mk.37)4基

音波兵装 ロ式42型大型水中聴音機(零式水中聴音機)

搭載機 ロ式41型複座水上観測機(零式水上観測機)2機

 

 

 おい、どれだけ魔改造になってんだ。原作「ラ・カサミ改」も155㎜三連装砲やら10式戦車砲塔流用の副砲やら多目的誘導弾の搭載やらで大概だったけど、こっちもこっちで大変なことになってるじゃねえか。というか、こっちの「ラ・カサミ改」の場合、もはや「ラ・カサミ」の原型が無いじゃねえか。

 

 ちなみにこの改造において"釧路"が「ラ・カサミ改」の手本にしたのは、ロイヤルネイビーの「レナウン級巡洋戦艦」と日本の「()()()型軽巡洋艦」である。ある程度防御力に妥協しつつも、相応の火力と機動力を持たせた艦をコンセプトにしたかったため、それに適う艦を選んだ結果、レナウン級に白羽の矢が立ったのであった。ただし、艦橋の高さは金剛型相応にしてある。また、水雷戦隊旗艦ということで阿賀野型も参考にされた。

 それと、意外に思われるかもしれないが、T-34が一部参考にされている。「T-34って戦車じゃないか、何故そんなものを戦艦に?」と思った方もいらっしゃるだろう。参考にしたのは傾斜装甲である。そう、装甲板の厚さを弄った際に傾斜装甲を採用することで、若干の防御力強化に繋げたのだった。

 乗組員の練度が十分なものとなれば、という前提であるが、この性能であればグラ・バルカス帝国の重巡洋艦程度なら余裕で相手ができるし、オリオン級戦艦を向こうに回しても何とか戦えるだろう。流石にヘルクレス級戦艦が相手では厳しいが。グレードアトラスター級? やめてください死んでしまいます。

 

 それにしても、これほどの魔改造をたった3ヶ月ほどでやってしまうとは、恐るべし"釧路"。しかも、戦艦「アイオワ」の現代化改修もちゃんと期限通りに済ませている。

 あの痛々しい姿はどこへやら、見違えるように強くなった「ラ・カサミ改」の雄姿を見て、ミニラル艦長以下の「ラ・カサミ」クルーの面々は感激すると共に、「ラ・カサミ」をこれほどまでに生まれ変わらせてくれたロデニウス連合王国と"釧路"に、そして生まれ変わった「ラ・カサミ」に対応できるよう自分たちを鍛えてくれた"榛名"以下の教官たちに深く感謝した。

 そして彼らは、強く誓った。「この新しい力を授かった『ラ・カサミ改』を以て、今度は自分たちがムー国を守り抜こう。それこそが、ロデニウス連合王国に対して自分たちができる唯一の恩返しなのだから」と。

 

 

 ムー国への帰国命令が出るその日までの約3ヶ月間、ミニラル艦長以下の「ラ・カサミ改」クルーの面々は慣熟訓練を繰り返した。

 ロデニウス連合王国にて軍事教練を受けていたことが幸いし、彼らは鍛え抜かれた体力とメンタルとを以てひたすらに厳しい猛訓練を自身に課し、またこれに耐え抜いた。それも、艦娘たちや妖精たちからの苛烈なシゴキあっての賜物である。

 また、1ヶ月ほどして慣熟訓練に自信がついてくると、彼らはロデニウス海軍第13艦隊に協力を要請して合同訓練を行った。模擬戦はもう数えるのも嫌になるほど何回も行ったし、時には隊列を組んでの艦隊行動訓練や対空戦闘訓練にも参加した。第13艦隊と第1艦隊の合同模擬戦にも参加したことがある。

 それらの模擬戦の中で、彼らはひどい目に遭うこともしばしばであった。ある日の砲撃訓練の際に、いつものようにラ・コンゴ級戦艦……つまり「榛名」が相手として出てくると仮定して作戦を立て、いざ挑んでみたら、なんと暇潰しに"大和(やまと)"が"榛名"に代わって演習に出てきており、結果として彼らは「グレードアトラスター級戦艦擬き」に戦闘を挑むことになってしまった。"榛名"よりも性能・練度ともに高く、間違いなく第13艦隊最強の戦艦である"大和"に「ラ・カサミ改」が敵うはずもなく、当然のように彼らはボコボコに叩かれて大敗した。

 またある夜には、"()()(くま)"率いる第一水雷戦隊から突如として奇襲を受けて夜戦訓練に突入し、"()()"率いる第四水雷戦隊と共にこれを撃退してほっとしていたら、第一水雷戦隊を囮にして反対側から高速で接近してきた"神通"の第二水雷戦隊から反撃を喰らってしまった。まさかの襲撃に対応しきれず、「ラ・カサミ改」は6本もの酸素魚雷の直撃判定を受けて、一瞬で轟沈判定を喰らわされた。

 他にも、"()(とり)"率いる第五水雷戦隊と(たか)()型の第四戦隊との連合部隊を迎え撃ち、五水戦の魚雷を回避して得意になったところに、隙ありとばかりに第四戦隊が発射した魚雷を喰らって逆転負けしたこともある。砲撃を掻い潜って肉薄してきた"北上"から25本もの酸素魚雷を一度にぶつけられて、あっさり轟沈判定を取られたこともあった。え? 「なんで25本? 20本じゃないの?」って? 残念、確かに"北上"が「改」ならば、片舷に装備されているのは四連装魚雷発射管5基だから、4×5=20(本)となる。しかし、この"北上"は「改二」であり、魚雷発射管は四連装ではなく五連装に換装されていたのである。よって、5×5=25(本)であった。

 こうしてひどい目に遭いながらも、彼らは祖国ムーを守護する海軍軍人たるの誇りを胸に、日々訓練に明け暮れた。その結果、ロデニウス側も驚くほどの速度で彼らの練度はめきめきと向上し……中央暦1642年12月、ムー国への帰還命令が伝えられた際には、彼らはかなり動けるようになっていた。練度に不安がないわけではなかったが。

 

 そして、ミニラルたち一同は「ラ・カサミ改」に乗り込み、ムー国へと帰ることになった。……十二分どころか過剰すぎる護衛を伴って。

 そう、ミニラルたちが帰国するのを利用して、ロデニウス連合王国はムー国に対し援軍を送ることを決定したのだ。そしてその援軍というのが、陸軍1個軍団と海軍第1艦隊、そして海軍第13艦隊だったのである……。




おや? ラ・カサミの ようすが…?

おめでとう! ラ・カサミは ラ・カサミかいに しんかした!


はい、ラ・カサミは前弩級戦艦から超弩級戦艦になりました。
まさか、こんなことになるなんて誰も思いませんよね。金剛型やコンテ・ディ・カブールもびっくり、これが本当の魔改造です。そして原作ラ・カサミ改も真っ青の劇的ビフォーアフターになってしまった…

この「ラ・カサミ改」の活躍は、今後以降をお楽しみに!


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次回予告。

マグドラ沖海戦とフォーク海峡海戦の結果を受けて、激怒した神聖ミリシアル帝国。ミリシアルは世界連合を組織し、グラ・バルカス帝国を討たんとする。その一方、暗い野望を燃やす国もあった…
次回「激昂、決断、そして野望」

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