鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
…そして、何やら暗い野望を燃やす国が…
中央暦1642年6月5日、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。
フォーク海峡に座礁した戦艦「ラ・カサミ」が“
そんな栄華を極めし都の中心、皇帝の住まうアルビオン城の一室で、世界の行く末を決めるであろう会議が始まろうとしていた。それが、神聖ミリシアル帝国最高の意思決定会議、「皇前会議」である。皇前会議はその名の通り、皇帝ご臨席の元で行われる会議であり、神聖ミリシアル帝国の要人たちが残らず出席して行われるものである。このため、この会議において出された決定は、神聖ミリシアル帝国の運命はもちろん、この世界の運命をも左右し得るとされている。
会議室には、既に国の要人たちが揃っていた。そこへ、荘厳な扉が重厚な音とともに開かれる。一同がひれ伏す中、姿を現したのはミリシアル8世……世界一の国力を持つ国の皇帝である。
「これより皇前会議を開催いたします」
司会を務める外務大臣ペクラスが会議の開始を宣言した。そしてまず口を開いたのは、ミリシアル8世であった。
「余は……許せないことがある」
話す速度は、いつもよりゆっくりとしている。しかし却って、その口調は明らかな怒りを醸し出していた。
「グラ・バルカス帝国。我が民を……愛すべき神聖ミリシアル帝国の臣民を、無差別に殺した国……そしてカルトアルパスを攻撃し、世界の長たる神聖ミリシアル帝国の顔に泥を塗り、世界会議でさえ踏みにじったあの国……。奴らは異世界より出現したらしいが……この世界を舐めきっている!!
余はこの世界の長として、この世界を多大に侮辱したグラ・バルカス帝国に、神罰を下すことを宣言する!!」
静かな会議室に、皇帝の怒声が響き渡る。居並ぶ参加者たちは、それに誰も口を挟まない。いや、「挟む余地がない」というほうが正しいだろう。
「我が国を長として、中央世界及び第二文明圏の文明国で『世界連合軍』を組織し、旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国の艦隊を
その後態勢を立て直し、奴らの本土を……帝都を焼き払うのだ!!!
では、会議を始めよう」
既に皇帝の意志は決まっている。従って、グラ・バルカス帝国への攻撃は、先ほどの皇帝の言葉で決定したようなものである。会議の前置きであったはずの話が、ヒートアップして戦闘宣言にまで至ってしまっている。逆に却って話を進めやすくなった、とも言えるのだが。
だが、方針は決したようなものの、「具体的にどうやって敵であるグラ・バルカス帝国を攻撃するか」といった内容については、まだ決まっていない。それを決定すべく、会議は始まる。
本会議の参加者は国家運営の幹部たちが顔を揃えており、その中には、司会進行係を務めるペクラス外務大臣の他、外務省統括官リアージュ、軍務大臣シュミールパオ、国防省長官アグラといった面々も含まれていた。
国防省長官のアグラが手を挙げ、話し始める。
「陛下、すでに軍は第1、第2、第3魔導艦隊の派遣準備がおよそ完了しており、陛下のお言葉1つで出撃可能です。なお、この3個艦隊は現在カルトアルパスに展開しております。
第4~第7魔導艦隊については、現在準備中ではありますが、第1~第3魔導艦隊の出撃後、本土防衛用に残しておきたいと考えます」
神聖ミリシアル帝国海軍においては、帝都ルーンポリスが国土の西部にあるという地理的要因と、第三文明圏より第二文明圏のほうが技術レベルが高く、敵に回った際の脅威度も高いという理由から、西方への防衛に主眼が置かれている。海軍の全8個主力魔導艦隊のうち、第零式魔導艦隊を除けば、第1〜第3魔導艦隊はミリシエント大陸東方のベリアーレ海(中央世界と第三文明圏を隔てる海)の防衛を、第4〜第7魔導艦隊はミリシエント大陸西方のシルベリア海(中央世界と第二文明圏を隔てる海)及び帝都の防衛を担っているのだ。
最近になって第三文明圏方面の情勢が大幅に変化し、パーパルディア皇国に代わってロデニウス連合王国が東方世界最強の国家となったため、一時的に東部防衛を担う第1〜第3魔導艦隊の司令部は緊張状態に置かれた。だが、同国家は非常に理性的であり平和を好んでいることから、脅威度は比較的低いと判断された。故に神聖ミリシアル帝国は、東部防衛をガラ空きにしてでも、3個魔導艦隊をグラ・バルカス帝国討伐に向かわせようとしたのである。
ミリシアル8世が頷いたところで、外務省統括官リアージュが手を挙げ、アグラに尋ねる。
「アグラ殿にお伺いしたい。
第零式魔導艦隊及び各国の外務大臣護衛艦隊は、グラ・バルカス帝国の空母機動部隊に敗れております。新鋭艦で編成されていた第零式魔導艦隊を撃滅した敵に対して、主力艦隊3つで戦力は足りるのでしょうか?
世界連合を組織するにしても、我が国以外の各国の戦力は実質的に形だけのものであり、あてにしない方が良いかと存じます。
また、もし次に敗れた場合、我が国の信用失墜に繋がりかねません」
リアージュの質問に、アグラは言葉を選びながら答えた。
「第零式魔導艦隊は、確かに新鋭艦で編成されておりました。しかし、16隻と数が少なく、また敵の航空戦力に対して上空支援が貧弱でした。そのことが敗因と考えられます。
敵の航空攻撃による被害は甚大であり、航空戦力に関しては今回の戦訓を活かす必要があると感じております。ですが、それらとレイフォル沖にいると推定される敵の艦隊規模を考慮して、第1、第2、第3の3個主力魔導艦隊で十分に足りると判断したのです。
これらの3個主力艦隊には、天の浮舟を運用するための空母もありますし、大型魔導戦艦も多数配備されております」
アグラの言葉に嘘はない。
実際、神聖ミリシアル帝国海軍における主力魔導艦隊は、魔導戦艦2隻、航空魔導母艦(空母)2隻、重装甲魔導巡洋艦4隻、魔導巡洋艦8隻、小型艦20隻の計36隻を定数として編成されている。その主力艦隊が3個も動員される予定である以上、魔導戦艦、航空魔導母艦それぞれ6隻ずつが出撃する計算となる。
ただ、実はこの艦隊には複数の問題点があった。
まず、魔導戦艦の質がグラ・バルカス帝国海軍の戦艦よりも低いのである。神聖ミリシアル帝国海軍においては、主力魔導艦隊に配備される魔導戦艦はゴールド級が主体であり、最新鋭魔導戦艦がミスリル級とされている。搭載される主砲は、ゴールド級が34.3㎝砲、ミスリル級が38.1㎝砲であり、グラ・バルカス帝国海軍のグレードアトラスター級戦艦はもちろん、ヘルクレス級戦艦の搭載主砲(45口径41㎝砲)よりも威力・射程が劣っているのだ。ついでに言えば、ロデニウス連合王国海軍の第13艦隊所属戦艦にも負けている。この艦隊は、口径41㎝以上の砲を主砲とする戦艦を多く配備し、口径46㎝以上の超大口径砲を持つ戦艦すら実用化しているからだ。
また、戦艦という兵器は基本的に、自らの搭載する主砲の砲撃に耐えられる程度の装甲を有する。ということは、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦の砲撃では、グラ・バルカス帝国の戦艦の装甲を貫くのは難しく、逆にグラ・バルカス帝国の戦艦の砲撃はミリシアルの魔導戦艦の装甲を容易に貫けるということになってしまう。
次に、空母の数と性能、それに艦載機の搭載数で負けている。神聖ミリシアル帝国海軍の航空母艦は「ロデオス級航空魔導母艦」と呼ばれ、空母というよりは「双胴航空戦艦」という表現がぴったりの軍艦である。搭載機数は56機であり、これはグラ・バルカス帝国海軍のペガスス級航空母艦(搭載機84機)に比べて艦載機の搭載数で劣っていることを示す。加えてミリシアルの空母は双胴艦であるため、運動性能と燃費が極端に悪い。
ついでに言ってしまえば、艦載機の性能に至っては、もう目も当てられないほどだ。ミリシアルの最新鋭戦闘機「エルペシオ3」であっても、グラ・バルカス帝国のアンタレス07式艦上戦闘機との性能差は、比べ物にならないのである……。
だが、ミリシアル上層部の面々はまだ、そのことをつゆ知らない。
アグラは逆に、リアージュに質問を投げた。
「ところで、今回の作戦については中央世界と第二文明圏で編成され、第三文明圏は外すということでよろしいのでしょうか?」
それに対し、リアージュは落ち着いた口調で答える。
「はい、そうです。一口に各文明圏の連合艦隊といっても、実質的に我が国が主力となるでしょう。世界の連携という意味合いで連合軍は組織しますが、戦力として数えることはできません。
今回は早期殲滅という陛下の御意志もあり、早急に敵海上戦力を滅する必要性があることから、来るだけでも時間のかかる第三文明圏は除外しています」
ここで、情報局長アルネウスが挙手した。
「ロデニウス連合王国はどうなのでしょう? 先日の空襲では、かの国の艦隊はかなりの対空迎撃能力を有していたと聞いています。また、かの国はムーと同盟していますから、出兵するのは確実ではないでしょうか」
アルネウスのこの発言に、リアージュは首を横に振った。
「確かに、情報局長の仰る通りです。しかし、かの国の本土は第三文明圏外東側……来るだけでも時間がかかる第三文明圏よりも、さらに時間がかかると思われます。
最終的には協力してくるでしょうが、時間がかかりそうなため、今回のグラ・バルカス帝国艦隊強襲には間に合わないでしょう」
「そうですか……承知しました」
いかにも残念そうな口ぶりでアルネウスが返答した時、静かながらよく通る声が割り込んだ。
「よもや、負けることはあるまいな?」
会議のやり取りを聞いていた皇帝が、口を開いたのである。彼は続ける。
「本戦いは、単に文明圏や、文明圏外国、そして列強とそれに反する国の戦いではない!
魔法すら持たぬ者たちの国が、魔導文明の頂点に立つ我が国に仕掛けた戦いなのだ!! 魔導文明が試されているのだ!!!
軍務大臣! 国防省長官! 決して負けは許されぬぞ!!!」
「「ははーっ!!!」」
軍務大臣シュミールパオと国防省長官アグラは、皇帝にひれ伏すのだった。そんな中、皇帝は他の者に聞こえぬように小さく呟いた。
「場合によっては古代兵器……海上要塞パルカオンの使用も考慮せねばなるまいな……」
その後も会議は続き、最終的に以下のような点が決定された。
・神聖ミリシアル帝国を中心に「世界連合艦隊」を組織し、ムー大陸付近に遊弋するグラ・バルカス帝国艦隊を撃滅する。
・その後、第二文明圏からグラ・バルカス帝国の勢力を排除した後、同帝国の本土まで侵攻し、帝都を焼き払うことで屈服させる。
・世界連合艦隊は、早期反撃がその中心目的であることから、中央世界(第一文明圏)及び第二文明圏の文明国・列強国の戦力を中心に組織する。第三文明圏並びに第三文明圏外の国については、基本的には除外することとするが、神聖ミリシアル帝国の意志に賛同してくる可能性もあるため、世界連合への参加要請だけは出す。
・殊にロデニウス連合王国に対しては、有力な戦力となることが予想されるため、距離の遠さから参加が困難であろうことを承知の上で参加交渉を行う。
この方針に基づき、神聖ミリシアル帝国の外務省や軍、情報局が動き始めた。
神聖ミリシアル帝国軍、特に海軍は、今回の作戦の中心戦力となることが確実であるため、空軍と連携しての作戦準備に余念がない。情報局も、改めて世界各国の軍事力を調べ直し、連合に参加するであろう国の中でどの国の軍が当てになりそうか、再計算していた。
そして、ミリシアルの外交官たちは各国に赴き、「世界連合」結成の意義を説くとともに参加要請を出しに向かったのである。
会議を終えたアルネウスとミリシアル8世を、とんでもない報告が待ち構えていた。
会議終了後、他の出席者の面々が退室した後で2人は話し合いをしていた。「世界連合軍」を組織するにあたり、どの国の軍が有力そうか、見直すためである。そこへ、情報局員の1人であるライドルカが、息せき切って飛び込んできたのだ。
「局長、緊急の報告で……っ!? これは、皇帝陛下!!」
目の前にいるのがとんでもない雲上人だったことに気付き、ライドルカは慌ててひざまずいた。
「良い、楽にせよ。
何やら緊急の報告があるのだろう? そして、そなたが来たということは、ロデニウス関連の報告だな?
あの国には興味がある。ちょうどよい、余にも聞かせてくれ」
「はっ、承知いたしました。しかし……その、よろしいのでしょうか? あまりに荒唐無稽な報告である可能性があるのですが……」
恐縮しきりのライドルカに、ミリシアル8世は微笑んだ。
「構わん、申してみよ」
「では、誤解を恐れず申し上げます。
まず局長、ただいまロデニウス連合王国の艦隊が、我が国の領海に……正確にはフォーク海峡に来ております」
「ああ、ムーから連絡のあった"あれ"か。戦艦『ラ・カサミ』の浮揚のため、ロデニウスの艦を我が国の領海に入れたい、という件だろう?」
今日の予定を思い出したアルネウスが質問する。
「はい、その件です。それで、そのロデニウスの艦隊なのですが……」
ここでライドルカは、手に持った報告書に一度視線を落とした。そして顔を上げ、震え声で説明を再開する。
「その艦隊には超大型艦が1隻含まれていたそうです。ロデニウス艦隊の先導に当たった巡洋艦からの報告では、『巨大なクレーンを複数搭載していたため、工作艦だと思われる』とのことですが、その工作艦がなんと、全長1,600メートル以上、幅もどう少なく見ても400メートルは下らないという超大型艦でした! 巡洋艦からの報告では、工作艦の周囲にいたロデニウスの戦艦が小型艦くらいにしか見えないほどの大きさだった、とのことです!」
「なっ!?」
アルネウスが仰天してしまった。ミリシアル8世も驚愕に目を見開いている。
「全長1,600メートル以上だと!? 正気か!?」
「私も何度も聞き直したのですが、間違いないと断言されました。魔写を見ても、嘘とは思えません」
そう言ってライドルカは、2人に報告書を示した。そこには非常に巨大な艦が写っている。あまりに大きすぎて、スケール感覚がおかしくなりそうだ。
なお、この巨大工作艦というのはロデニウス海軍第13艦隊の改
「余にも確認したいことがある。グラ・バルカス帝国の戦艦『グレードアトラスター』は、どのくらいの大きさであったか?」
「は、カルトアルパスで見た限りですが、全長250メートル、幅40メートル程度とみられる、と報告されています」
ライドルカの報告を聞いて、ミリシアル8世は説明を付け足した。
「この意味が分かるか? つまり、そのロデニウスの工作艦は、『グレードアトラスター』ですらすっぽり収めてしまうほどの巨体がある、ということだぞ?」
「なんと!? ……そうか、確かに仰る通りにございます!」
今度はライドルカが仰天した。その横でミリシアル8世は考え込む。
(これほどの大きさ……我が国の切り札たる古代兵器、海上要塞パルカオンですらすっぽり収まってしまう大きさだ。信じられんが……どうやってロデニウスは、このような艦を入手したのだ?
あの国には、ますます興味が出てきたな……)
◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらく後、中央暦1642年6月18日、中央世界(第一文明圏)文明国 アガルタ法国。
ミリシエント大陸の北端と言っても過言ではない地域に国土を有するアガルタ法国は、第一文明圏の文明国の中でも寒冷な気候であり、夏でもかなり涼しい。その気候を生かし、水や氷を生かした魔法の研究が盛んに行われている。また、第三文明圏のパンドーラ大魔法公国と並んで「学院制」という珍しい政治形態を有している。この政治形態はどんなものかというと、「魔法学校」と呼ばれる魔法・魔導研究教育機関が連合を組み、それらがやがて「学院連合」という1つの連合にまとまって、ついでに行政機関も兼務するようになったものである。
魔法研究において、神聖ミリシアル帝国と肩を並べるほどの質を有する国、アガルタ法国。ただし、神聖ミリシアル帝国とアガルタ法国では、魔法研究の方向性が大きく異なっている。
神聖ミリシアル帝国は、古の魔法帝国の遺産解析に重きを置いている。それに対し、このアガルタ法国では、人間や亜人達が使える魔法の研究……言い換えれば個人の魔法能力を高める研究が盛んであり、個人の魔法能力育成にも力を入れている。そのため、同じ魔法研究が盛んな国といっても、中央世界の中でも文明形態がかなり他国と異なる。
高度な魔導師になると、本当に箒に乗って空を飛ぶ。まさに、ザ・魔法使いというイメージである。
ただし、空を飛ぶ行為は相当に魔力を消費するため、航続距離も短く、もろに風を受けるので最高速度も大して出ない。そのため、ワイバーンに乗る方が楽という事で、実用する者はあまりいない。
そんなアガルタ法国の首都ピールビーで、国のトップ、つまり学院連合総長である「法王」ヴィンセントを前に、国家の行く末を左右する会議が行われていた。
「では……神聖ミリシアル帝国は、世界の主力ともいえる中央世界と第二文明圏の総力を結集し、旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国の海軍に対し、総攻撃を行うつもりなのだな? そして我が国にも、海軍の出撃による協力を求めているのだな?」
長く白い髭を生やしたヴィンセントが、服の上からでも確認できるほどの筋肉を持ち、黒ひげを生やした猛者、「軍王」エサイアスに質問する。
「左様でございます。我が軍では、先進11ヶ国会議に出席していた外交官の護衛に当たった艦隊が、グラ・バルカス帝国軍によって沈められておりますがゆえ、これは良い弔い合戦となりましょう」
中央世界といえば、この世界の中でも最も文明の進んだ世界と言える。そこに、科学技術文明大国ムーを中心とする第二文明圏の文明国までが加わり、大規模な世界連合艦隊を編成するのだ。世界の主力艦隊といっても差し支えないほどの連合軍が、世界最強の国の音頭の元に結成される。中央文明圏の雄として、この軍に参加しないわけにはいかない。
外交官護衛艦隊は、グラ・バルカス帝国の奇襲によって敗れた。だが、今回行われたのは奇襲であり、さらに神聖ミリシアル帝国は、地方隊と基地航空隊しか戦力がなかったため、惨憺たる戦果となっただけだ。中央世界の強国たちが準備に準備を重ねた主力艦隊で挑めば、負けるはずがない。そのような認識が会議場へ広がっていた。
そのような雰囲気の中、魔導技術研究学の権威たるオシアトス魔導大学校の校長オロフが話し始める。
「しかし……大丈夫なのでしょうか? 奇襲とはいえ、グラ・バルカス帝国は我が国を含めた強国の艦隊を殲滅しています。第二文明圏の列強国ムーでさえ、空母機動部隊が敗れています。ムーの艦隊は、神聖ミリシアル帝国ほどでは無いにせよ、他の文明圏強国と比べて圧倒的な強さを誇っていたにも関わらずです。
我が国の海軍主力ともいえる魔法船団も、ムーやその他の国の艦があまりにもあっさりと沈んだため、やむを得ず試作段階の艦隊級極大閃光魔法を使用せざるを得なかったのでしょう。今は亡きバクタール艦隊司令が艦隊級極大閃光魔法の使用に踏み切ったのは、それ以外の対空兵器だとグラ・バルカス帝国の飛行機械を落とす事が出来ないと判断したからかと存じます」
オロフの言葉を聞いて、外務大臣が手を挙げ、話し始める。
「オロフ殿、確かに彼らは侮れず、強いだろう。しかし、彼らの要求を、戦いもせずに飲む訳にもいかないことも分かるだろう。今回の戦いは圧倒的侵略者と世界の戦いなのだ……いや、この際、相手の強さは関係ないだろう。ここで勝たねば……この程度の敵に勝つ事が出来なければ、来るべき古の魔法帝国の復活の刻、我らは家畜となり下がるだろう。
それに、今回仮に戦いに参加しなかった場合、世界は我が国を弱小国とみなすだろう。それは、断じて許されるものではない」
その後も様々な議論がなされたが、外務大臣のこの一言が決定打となった。アガルタ法国は世界連合に参加し、神聖ミリシアル帝国と共に戦うことを決定したのである。
アガルタ法国の他にも、中央世界からは傭兵国家として知られるギリスエイラ公国や、外務大臣護衛艦隊が全滅の憂き目に遭ったトルキア王国などが、世界連合への参加を決定している。ただし、エモール王国は参加を見送った。その理由は「我が国は内陸国であり、海軍を持たない。また、竜母での風竜の運用は実績に欠ける。従って、今回の参戦は見送りたい」とのことである。……真の理由は「多数の風竜騎士をフォーク海峡海戦で失ったため、戦力の温存を図ろうとした」なのだが。
また第二文明圏からは、外務大臣護衛艦隊全滅の憂き目を見たニグラート連合、そしてマギカライヒ共同体が世界連合参加を決定した他、ムー国も参加を決めている。こうして、世界の主要国が連合軍を組み、グラ・バルカス帝国と戦おうとしていた。
そんな中、神聖ミリシアル帝国の外交官の1人がロデニウス大陸へと向かったのだが、我らがロデニウス連合王国が下した決断はどのようなものだったのかということを、ここでお話させていただこう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中央暦1642年6月22日、ロデニウス連合王国 首都クワ・ロデニウス。
この日、ロデニウス連合王国の外務省を1人の女性が訪れていた。神聖ミリシアル帝国の外交官フィアームである。2日前の6月20日、彼女はこの国を訪れてリンスイ外務大臣と会談し、世界連合への参加要請を行った。そしてロデニウス側はこれについて1日かけて協議し、決断を下したようである。
応接室のソファで待つこと5分、静かな音とともにドアが開き、外務大臣リンスイ、そして軍総司令官ヤヴィン元帥が入ってきた。
「フィアーム殿、お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いえいえ。先日要請した世界連合への参加について、結論が出たのですね?」
「はい、そうです」
リンスイとヤヴィンもソファに腰かけ、フィアームと対面になる位置に座った。そして、リンスイがおもむろに口を開く。
「誠に申し訳ございませんが、我が国、ロデニウス連合王国は、この度の世界連合への参加要請を辞退いたしたいと思います」
フィアームには、この反応は想定済みであった。
「そうですか。お差支えなければ、理由をお伺いしても? 貴国はムー国と同盟している、と伺っていますので、もしかすると出兵するかもしれない、と思っておりました」
フィアームのこの質問には、ヤヴィンが答えた。
「はい、我が国はムー国と軍事同盟を締結しております。この同盟の規約には、『加盟国のいずれかが第三国から宣戦布告された場合、全ての加盟国は参戦の義務を負う』という条項がありますので、我が国はムー国に出兵し、グラ・バルカス帝国軍と戦う所存であります。
しかし何分にも、我が国からムー大陸までは距離が非常に遠うございます。軍を派遣するにしても、この距離を移動するのには相応の時間がかかりますし、移動中の疲労も考慮せねばなりません。また、フォーク海峡海戦の結果を鑑みるに、グラ・バルカス帝国軍は相当の強敵と思われます。以上のことから、国防体制とのバランスを考えた上で相当数の兵力を派遣しなければなりません。これは極めて微妙な作業になります。
また、ムー国の事情も鑑み、ムー側との調整も必要となります。これら全ての条件を考え合わせると、ムー方面への早期の兵力派遣は困難であるとの結論に達しました。従いまして、誠に遺憾ではありますが、今回の早期反撃への参加は辞退させていただきたく思います」
ヤヴィンの説明は理路整然としており、これにはフィアームも納得せざるを得なかった。
「分かりました。ただ、派兵の意志がある、というのは間違いないのですね?」
「そこにつきましては、確約いたします。早期の反撃への参加は困難ですが、我が国も必ず兵力を派遣します。証拠として、こちらの誓約書をお渡しいたします。我が国の国王直々の署名に加えて国印まで押しておりますゆえ、偽造文書でないことは明白と存じます」
ひとまず、ロデニウスの参戦は取り付けられた訳である。
一定の成果を挙げたフィアームは、目的はある程度果たしたと判断し、誓約書を持ってミリシアルへと帰っていった。
一方、フィアームが引き揚げた後のロデニウス連合王国では、ヤヴィン元帥が堺を司令部に呼び出していた。
「……というわけで、ミリシアルの方には『参戦の意志はあるが、早期反撃への参加は困難』と回答したのだが、これで良かったのか?」
「完璧です。ありがとうございます」
深々と頭を下げる堺。
「いや堺殿、気にするな。これも
そう言ったヤヴィンは、不意に声を潜めて堺に尋ねた。
「それにしても堺殿、卿の第13艦隊の戦力ならばムー大陸への早期展開も可能だったのではないか?」
「はい、理論上は確かに可能です。ですがその方法は、いろいろと欠点が多いので、あまり取りたくないのであります」
そう、第13艦隊の艦娘たちならば、「人形形態」のままムー大陸へ飛行機で飛ばしてしまえば、早期反撃に参加することも可能である。それこそ、世界中どの国の軍よりも早く駆けつけられるであろう。
だが堺は、敢えてその手は取らないことにした。もちろん明確な理由がある。
まず、形態変化の際に発生する疲労が、決して無視できないのである。艦娘の形態変化の際には、必ず疲労が発生する……それも、艦これ流に言うなら「黄」ないし「赤」の疲労が発生するのだ。これは、決して無視できるものではない。
次に、世界連合に参加するとみられる各国艦隊の技術レベルの差が、理由の2つめである。グラ・バルカス帝国の技術力とその他各国の技術力を比較すると、グラ・バルカス帝国と対等なのは神聖ミリシアル帝国(と辛うじてムー国)のみであり、他の国は完全に
さらに言えば、合同訓練を一度も行っていない他国の部隊と共同作戦に当たるのは、まず不可能だ。在日米軍と自衛隊ですら、連携のためにあれほど訓練しているのだから、訓練を行っていない中で共同作戦をするのは、無茶以外の何物でもない。それが、堺の意見であった。
そして何よりも堺が重視した理由が、これである。
(ミリシアル側も、各国の軍が当てにならないことくらい想定しているはずだ。ということはミリシアルは、自分たちがグラ・バルカス帝国艦隊を撃破するための囮として、各国の艦隊を使う可能性がある。そんなところへ、うちの大事な艦娘たちや妖精たちを出す訳には行かん。グラ・バルカス帝国軍との直接衝突での犠牲ならまだしも、可愛い仲間たちを囮にされて失って堪るもんか)
実に堺らしい理由であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、第三文明圏の文明国 リーム王国 王都ヒキルガ。
王城では、国家の方針を決定するための王前会議が行われていた。
ちょうど王下直轄軍の大将軍リバルの報告が終わったところである。
「リバルよ、ではお主はグラ・バルカス帝国は神聖ミリシアル帝国を降し、やがてはこの第三文明圏にも手を出して来る……そしてロデニウス連合王国よりも軍事力は上と申すのだな」
「ははっ!! グラ・バルカス帝国とロデニウス連合王国の艦船による砲撃力を比べた結果、グラ・バルカス帝国の戦艦の方が圧倒的に口径が上でありました。また、砲撃の威力は口径の3乗に比例するとのことであります。このことから、威力はグラ・バルカス帝国が圧倒的に上にございます!!
また、船の防御力、そして艦船を量産する力、保有艦艇数を比べたところ、グラ・バルカス帝国がロデニウス連合王国を圧倒しています。また、船速に大差はありませぬ。
グラ・バルカス帝国は、空母を多数保有しておりますが、ロデニウス連合王国に空母は少数しかございませぬ。
これらのことから、海での戦いにおいて、ロデニウス連合王国はグラ・バルカス帝国に勝てませぬ。
さらに、陸や空での戦いも数がものをいいます。保有する歩兵用装備に大差は無く、装甲車と呼ばれる車輌はロデニウス、グラ・バルカス双方が所有していますが、戦車と呼ばれる車輌はグラ・バルカス帝国のみが所有し、ロデニウスにはありませぬ。
航空機にしても、ロデニウスの保有数よりグラ・バルカスの保有数のほうが圧倒的に上にございます。空の戦いでも、ロデニウスはグラ・バルカスに勝てませぬ」
そう断じるリバルに、バンクスは重ねて尋ねた。
「リバルよ、その分析は正しいのだな? 相手はあのパーパルディア皇国を叩きのめしたロデニウス連合王国ぞ。
国家運営のための大切な情報だ。戦力分析が間違っていました、では冗談にならぬ」
このバンクスの言葉にも、リバルははっきりと言い切った。
「陛下、情報に間違いはございません。
このままでは、グラ・バルカス帝国は神聖ミリシアル帝国をひねり潰し、現在国力の落ちた元パーパルディア皇国もあっさりと滅するでしょう。そしてロデニウス連合王国もまた、グラ・バルカス帝国に敗れるでしょう。
つまり、現時点でグラ・バルカス帝国と交渉し、帝国と組むほうが国家が安泰となるのです。陛下、ご決断を」
「うむむ……」
バンクスは考え込んだ。
仮にグラ・バルカス帝国と組んだ場合、パーパルディアをひねり潰したロデニウス連合王国と敵対することになってしまう。かの国の軍事力は決して侮ることはできない。
しかし、グラ・バルカス帝国の強さも本物だった。
周辺国家を瞬く間に制圧し、文明国パガンダ王国すらも短期間で落ち、列強レイフォルでさえ単艦で滅した。
伝説は留まることを知らず、ついには世界最強の国家、神聖ミリシアル帝国にまで手を出し、地方隊とはいえミリシアルの戦力をも壊滅させている。
ロデニウス連合王国とグラ・バルカス帝国、どちらに付くべきか。その舵取りは非常に難しい。
だがその時、リバルが口を開いた。
「陛下、今こそ昨年実行しようとした計画……第三文明圏統一を、実行に移す時です!
グラ・バルカス帝国ならば、ロデニウスであろうと新生パールネウスであろうとあっさりと滅するでしょう。そのグラ・バルカス帝国から早期に軍事支援を受ければ、フィルアデス統一、そして第三文明圏内外の統一も果たせるでしょう。我がリーム王国が全てを支配する夢が、現実となるのです!」
リバルの後押しに、国王バンクスは目を閉じたまましばし沈黙する。考え込んでいるのだろう。
ややあって目を開いた時、バンクスの目には危険な光が宿っていた。
「……分かった。
グラ・バルカス帝国と組み……ロデニウス連合王国と戦うことにしよう。これで第三文明圏内外の統一を果たし、我がリーム王国こそが勝者となるのだ!」
会議室はしばしざわついた。
かくて、第三文明圏の文明国リーム王国は、グラ・バルカス帝国の軍門に降る事を決意するのだった。
戦乱の気運は確実に、全世界に広がりつつあったのである。
だが……この時、バンクスはもちろん、リバルも全く気付いていなかった。リバルの分析が、根本から間違っていることを。
確かに、ロデニウス連合王国とグラ・バルカス帝国、双方の保有艦艇数や航空機の保有数を比較すると、グラ・バルカス帝国のほうが数が多い。しかし、ロデニウスにはそれをひっくり返し得る「隠された質」がある。例えば航空機で比較すると、グラ・バルカス帝国の航空機はレシプロ機ばかりであるのに対し、ロデニウス連合王国の航空機は(特に本土防空用の部隊は)装備をジェット機に更新している。現在のロデニウスには、「F-86D改」に加えて「F-104 スターファイター」まで存在しており、それらに合わせて「サイドワインダー」空対空ミサイルも実用化済なのだ。艦対艦誘導弾にしても、戦艦「アイオワ」への「ハープーン」搭載をモデルケースとして、水上艦艇への配備が計画されているのだ。
また、リバルは「ロデニウスに戦車はない」と言ったが、それはかつての対パーパルディア皇国戦争の折にリーム王国軍が見た範囲でのロデニウス軍の装備からそう判断したものだ。あの時、リーム王国軍と共に戦ったロデニウス軍は、ハノマーク装甲車は使用していたが、戦車は1輌も持ってきていなかった。そのため、リバルはとんでもない間違いをしでかしたのである。
実はロデニウス連合王国も戦車を実用化している。……それも、グラ・バルカス帝国の戦車が比較にならないような、強力な奴を。
参考までに、グラ・バルカス帝国の主力戦車は「2号軽戦車シェイファーII(性能的には九五式軽戦車ハ号相当)」と「2号中戦車ハウンドI・II(性能的には九七式中戦車チハ相当)」である。それに対するロデニウス連合王国の戦車は、III号戦車M型にN型、III号突撃砲F型、IV号戦車H型、IV号突撃戦車ブルムベア改、V号戦車パンターG型改、止めにVI号戦車E型 ティーガーI。チハやハ号擬きなどでは決して敵わない、強力なドイツ戦車のオンパレードだ。殊にティーガーIなど、乗員に"ミハエル・ヴィットマン"がいることを考えれば、絶望的存在でしかない。
ついでに言ってしまえば、「敵の装甲車を発見!」などと通報しようものなら、まず確実に“アイツ”が飛び出してくる。……そう、ドイツ東部戦線でソ連戦車や自走砲を片っ端からぶっ壊していった「空の魔王」、“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”が。しかも、航空機用37㎜機関砲の配備は既に完了しており、あとは実戦待ちの状態である。もしかすると、前年のリーム王国との武力衝突の際に使われていたかもしれなかったほどだ。
そこに敵戦車発見の報告が入ろうものなら、妖精ルーデルは絶対に「行くぞガーデルマン、出撃だ!」と言って、自身が重傷を負っていようと「Ju87C改」のコクピットに飛び込み、書類を偽造してでも出撃するだろう。そして「ひゃっはぁー! 敵戦車は破壊だァ!!」などと叫びながら「ジェリコのラッパ」を鳴らして突っ込み、37㎜機関砲をぶっ放すか爆弾を投下するにちがいない。
……グラ・バルカス帝国の機甲師団が、コイツ1人だけのために壊滅する未来しか見えない……。グラ・バルカス戦車隊逃げて! 超逃げてー!!
これほどの差がついているのだが、果たしてリーム王国は浮かばれるだろうか? ……それは神のみぞ知ることである。
世界連合の編成を決定した神聖ミリシアル帝国。ロデニウス連合王国はこれには参加を見送りましたが、出兵の意図を固めております。
その一方で、リーム王国の動きが怪しくなってきました。密かに降伏を決定したリーム王国、その行く末はいったい…
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次回予告。
ロデニウス連合王国の戦力の減殺を狙うため、ロデニウス方面に潜水艦を派遣することを決定したグラ・バルカス帝国。その潜水艦のうち1隻が、ロデニウス近海に達しようとしていた。それに対し、ロデニウス海軍は「ある軽巡洋艦」を投入する…
次回「潜水艦 vs 水上艦」
P.S. 次回は久しぶりにロックを設定します。今のうちにパスワードの準備をお願いします。
もちろん、拙作をご愛読いただいている皆様には、パスワードとして何を準備すれば良いか、お分かりですよね?