鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

134 / 252
以下の問題に答えられた方だけ、続きを読んでよろしい。

【問題】
あなたは、陸軍の兵士です。砂漠地帯にて作戦行動中です。
偵察に出ていた仲間から、次のような通信がありました。この通信に対する()()()答えを言いなさい。言語は何でも可。

「敵の潜水艦を発見!」































答え(一例)
нет(ニェット)!」(ロシア語)
Nein(ナイン)!」(ドイツ語)
Negative(ネガティブ)!」(英語)
駄目(だめ)だ!」(日本語)



124. 潜水艦 vs 水上艦

 中央暦1642年8月6日、ロデニウス連合王国の本土にほど近い、ロデニウス大陸南方45㎞ほどの海域。

 青く晴れ渡った昼間の空の下に、海は(あお)(あお)とどこまでも広がる。その海面の下に(うごめ)く、1つの大きな影があった。

 それは、一見するとクジラや(かい)()のように見える、しかし決してそれらの生物ではない物体であった。その巨体の中央部には背びれとは異なる突起物が高く太く突き出ており、その根本は奇妙に膨らんでいて、明らかに外から蓋がされている。また、その体はよく見ると金属光沢があった。

 そう、これは人工物なのである。

 

 シータス級潜水艦「ミラ」。グラ・バルカス帝国の第2潜水艦隊に所属する潜水艦である。

 ぱっと見た感じは、旧日本海軍の艦艇に詳しい者ならば「特型潜水艦」……「伊400型潜水艦」に似ていると言うだろう。

 

 このシータス級潜水艦は、かつてグラ・バルカス帝国がいた惑星「ユグド」においては、世界最強と言い切ってもいいほどの性能を誇った艦である。

 惑星ユグドは潜水艦(れい)(めい)()であり、そんな中にあっての本級の登場は革新的であった。ケイン神王国をはじめ、グラ・バルカス帝国と敵対していた諸国家の技術では、潜水艦を探知するソナーは作ることができず、この潜水艦の接近を探知する術がなかった。もちろん、爆雷などあるはずもない。そのため本級は多数の大戦果を挙げ、グラ・バルカス帝国軍上層部の一部で「戦艦不要論」が出るほどの活躍を見せた。

 

 グラ・バルカス帝国がこの世界に転移してからは、本級は秘匿のため他の潜水艦とともにしばらくの間前線運用が控えられた。だが、その後の情報局の調査で、この世界には魚雷も潜水艦も存在しないことが判明した。すると軍部は方針を転換し、自国の技術的優位をより明確にこの世界に知らしめるため、シータス級も含めて潜水艦を積極的に運用することを決定したのである。

 前線に復帰した潜水艦は、その隠密性を利用しての偵察や通商破壊作戦、艦隊決戦の際に敵を待ち伏せての奇襲に従事することとされた。

 

 というわけでグラ・バルカス帝国軍は、先のバルチスタ沖大海戦での潜水艦の大規模前線投入に続いて、中央世界(第一文明圏)も含めた全世界に対する通商破壊作戦を開始しようとしていた。また、フォーク海峡海戦においてロデニウス連合王国の力の一端を知ったグラ・バルカス帝国は、ロデニウス連合王国を脅威と見なし、同国に対する(ちょう)(ほう)(いん)の増派・戦力(げん)(さい)(はか)ろうとした。

 そして、それらの手始めとして、この世界のあらゆる国家群の中でも東の端のほうにあるロデニウス連合王国にまでも、自分たちの(やいば)が届くのだということを知らしめることにしたのである。

 

 その「ミラ」の艦橋セイルでは、この艦の艦長を務めるキツネのような目をした中年の男性が潜望鏡を上げ、操作を行っていた。

 そして、その潜望鏡の視界に1隻の艦が捉えられる。ロデニウス連合王国の国旗と、見たことのない赤い太陽を描いた白地の旗を掲げた艦だ。大きさからみて、おそらく軽巡洋艦クラスだろう。

 

「ふっふっふ……見つけたぞ。ロデニウス連合王国の軍艦だ。たぶん、キャニス・メジャー級のような小型の巡洋艦だな。本艦の獲物としてはちと小さいかもしれんが、最初の獲物と考えれば十分だな。

我らの矢は遠く東の果てまでも届くのだということを、ロデニウス連合王国に、そして世界に、知らしめてやらんとな」

 

 艦長は口元を()り上げ、気味の悪い笑みを浮かべながら呟く。

 ちなみに、第ニ文明圏外という遠い西方にある国家であるグラ・バルカス帝国の潜水艦がなぜこんなところにいるのか、という話であるが、これは、海に無数に存在する無人島にその理由がある。グラ・バルカス帝国はそれらの無人島のうちいくつかに秘密基地を建設し、潜水艦や水上艦隊の補給が行えるようにしたのである。こうして作られた基地を複数経由することで、「ミラ」ははるか東方のロデニウス大陸沖に来ることができたのであった。

 

「艦長、彼らが哀れですね……。彼らは何が起こったのかも分からぬまま、いきなり乗艦を撃沈され、海へ沈むこととなるのですから」

 

 隣に立つ副長が、今から沈むことになるであろうロデニウス連合王国の軍艦と、その乗組員を哀れむ。それに対し、艦長は特に興味無さそうな声で答えた。

 

「皇帝陛下の御意志なのだ、仕方あるまい。我々は、栄光あるグラ・バルカス帝国の力を知らしめる(せん)(ぺい)なのだ。この世界の()()なる国家に対しても、我らは圧倒的に強いということ、そしてこれほどの距離さえもが無意味であるということを、教えてやらねばならぬのだ。

さあ、攻撃を行うぞ。総員戦闘配置!」

「はっ。総員戦闘配置!」

 

 副長が、艦長の号令を復唱する。

 潜望鏡に映るロデニウス連合王国の軍艦は、低速でゆっくりと移動しており、こちらに気付いている様子はない。潜水艦という兵器の概念がないこの世界のことであるから、そんな世界で潜水艦というものの存在に気付けということのほうが、酷なことなのだろう。

 

「各部、戦闘配置よし」

 

 副長が報告してくる。「ミラ」は戦闘配置を整えた。

 

「2本で仕留める。1番・2番発射管に魚雷を装填しろ」

「はっ、1番・2番発射管、魚雷装填。注水し、攻撃準備せよ」

 

 艦長は静かに号令し、副長もまた静かに、艦長の命令を復唱する。

 グラ・バルカス帝国の誇るシータス級潜水艦「ミラ」は、ロデニウス連合王国の軍艦にその牙を()かんとしていた。

 

 

 ……だが、彼らは知らなかった。

 

 ロデニウス連合王国軍の一部は、地球から……潜水艦がうじゃうじゃと蔓延(はびこ)る魔の星から転移しているということを。

 そして、潜水艦(サイレントハンター)が蔓延る星から来たということは……優秀な装備を持つ対潜掃討艦(ハンターキラー)もいるのだということと、目の前にいる小型の巡洋艦はそのハンターキラーの中でも特に強力な()(だれ)の1隻、いや1()()だということを。

 

 

『水測より艦橋。本艦よりの方位2-7-0(フタナナマル)、距離7-0-0(ナナマルマル)の海中に音源探知。潜望鏡深度です』

『こちら左舷見張り、本艦よりの方位2-7-0、距離7-0-0の海面に棒状の物体を発見。潜望鏡と思われる』

「乗組員総員、対潜戦闘配置よし」

 

 ロデニウス大陸の南方45㎞の海域を哨戒していた、ロデニウス連合王国海軍第13艦隊に所属する軽巡洋艦の艦橋に、連続して報告が上げられた。

 

「いたわね……問題の潜水艦」

 

 報告を聞き、この艦の艦長を務めている女性が呟く。彼女は深い海色の髪を白のリボンでツインテールにまとめ、巫女服とセーラー服をごっちゃにしたような独特の衣装を身にまとっている。また、某ちょび髭の総統閣下が見れば、間違いなく「おっぱいぷるーんぷるん!」とツッコミを入れそうなほどに目立つ胸部装甲を有していた。

 彼女の名は、"()()()"。

 

 この時点で「あっ……(察し)」となった提督の方は多いだろう。

 そう、彼女は第13艦隊どころかロデニウス連合王国海軍全体でみても間違いなくトップクラスの実力を持つ、最強の潜水艦キラーなのである。

 

 

 今から時を遡ること2日前、ロデニウス大陸の南方425㎞の海域……つまりナハナート王国の沖合にて、哨戒飛行中だった「PBY-5a Catharina(カタリナ)」飛行艇が、大音響を発する国籍不明の謎の潜水艦を発見した。

 その際、「カタリナ」の電信員妖精が、

 

Enemy submarine spotted(敵の潜水艦を発見)!』

 

 と打電し、それに対して当時航空管制室に詰めていた5人ほどのオペレーター妖精たちが一斉に、

 

『『『『『Negative(駄目だ)!』』』』』

 

 と返電したとかしなかったとか。

 だが、その第一発見報告を行った「カタリナ」に続いて、同じ方向に派遣された「(れい)(しき)(すい)(じょう)(てい)(さつ)()」なども同様に、「敵の潜水艦を発見!」と打電してきた。そのため、管制室としても()()に「駄目だ!」と返電する訳にもいかなくなった。

 報告を受けた堺は、直ちに第13艦隊(れい)()の第1海上護衛隊の派遣を決定。軽巡洋艦「五十鈴」「()()」他の巡洋艦や駆逐艦を展開させ、謎の潜水艦との接触を図った。

 この潜水艦がグラ・バルカス帝国の艦である可能性も十分考えられたのだが、この世界については分かっていないことがあまりにも多く、まだロデニウス連合王国と国交を有していない国が運用している潜水艦である可能性も否定できなかった。それに、潜水艦に関する国際的な条約もない。そのため、堺もまずは様子見をすることにしたのだ。ただし、もし潜水艦が敵対行動を取ってきた場合には、同潜水艦を撃沈する許可も出してある。

 会敵予想海域に到着した第1海上護衛隊のうち、軽巡洋艦「五十鈴」が予測通りに謎の潜水艦と接触を果たしたわけであるが……"五十鈴"は、この潜水艦の行動の意図を図りかねていた。

 この謎の潜水艦は、大音響を……それこそ「九三式水中聴音機」でも拾えるんじゃないかと思えるほどの大音響を発しながら、潜望鏡深度まで浮上している。逆にいうと、隠れているようには見えないのだ。

 そのため、彼女は下手に動くことができないでいた。

 

「それにしても、流石はロッシェル塩ね。しっかり音が聞こえるわ」

 

 "五十鈴"は呟く。

 地球から転移したタウイタウイ泊地に本拠地を置く第13艦隊は、パッシブソナーを一新して「(よん)(しき)(すい)(ちゅう)(ちょう)(おん)()」が全艦に標準装備されていたのだ。これは、非常に優れた捕音材である「(しゅ)(せき)(さん)カリウムナトリウム」……通称「ロッシェル塩」を使用したパッシブソナーで、それまでの主力パッシブソナーである「(きゅう)(さん)式水中聴音機」とは、天と地ほどの性能差があった。それを使い、彼女は潜水艦を捕捉したのである。

 念のため一言解説しておくが、ソナーというものは、水中を伝播する音波を用いて水中や水底にある物体の情報を得るための機材のことをいう。このうち、自ら音波を出して相手の情報を得る機能がついたソナーを「アクティブソナー」、相手の音を聞くだけのソナーを「パッシブソナー」という。どちらも一長一短のある兵器であり、使い分けが大事である。

 

(あとはアクティブソナーのほうも、ウォースパイトさんが伝えてくれた「アスディック」の新型に交換できるといいんだけど)

 

 彼女はそんなことを考えていた。

 第13艦隊の主力アクティブソナーは「(さん)(しき)(すい)(ちゅう)(たん)(しん)()」から「Type124 ASDIC」に、第1海上護衛隊のアクティブソナーはさらに新型の「Type144Q/147 ASDIC改」に変わっており、現在HF/DF(ハフ・ダフ)システムを搭載した新型の「Type144Q/147 ASDIC改」の量産が急がれていた。開発はおよそ終わったし、駆逐艦「(あさ)(しも)」に搭載しての性能テストも済んだものの、量産配備はまだである。

 

「何がしたいのかしらね、あの潜水艦。まさか、あれで隠れているってつもりでもないでしょうに。五十鈴には丸見えよ?」

 

 "五十鈴"が呟いたその時、水測室に詰めていたソナー妖精はとんでもない音をヘッドホンを通して聞いた。

 

ゴボボボ……

 

 それは、比較的大きな気泡が湧き出る音。具体的には、潜水艦娘との演習で何度も聞いた、潜水艦の魚雷発射管への注水音に似た音。

 

「こちら水測、注水音を探知! 不明潜水艦は魚雷発射管へ注水したと考えられます!」

 

 妖精は、艦内電話に向かって絶叫する。

 

「何!?」

 

 "五十鈴"は一瞬、驚いた。しかし、すぐさま思考を切り替える。あの謎の潜水艦は、明らかにこちらを狙って攻撃しようとしている!

 

「前進いっぱい! 取り舵いっぱい! 主砲と機銃は、左舷に指向せよ!」

「はっ! 全速前進ヨーソロー!」

「とーりかーじ、90度ようそろ!」

 

 機関長妖精が全速前進を機関室に指示する。同時に、航海長妖精が目一杯()(りん)を回す。

 「五十鈴」の煙突からはもうもうと黒煙が上がり始めた。ここからは、「五十鈴」に搭載された機関……「新型高温高圧缶」の加速力が問われる。

 

 

「ん?」

 

 ロデニウス連合王国の軍艦に対し、魚雷攻撃を行おうとしていた潜水艦「ミラ」の艦長は、潜望鏡を覗くその目を細めた。

 発射管への注水が行われた直後、ロデニウス連合王国の軍艦の煙突から多量の黒煙が噴き出したのである。加速しようとしているようにも見えた。また、艦に搭載されている連装主砲が動き、こちらに向けられようとしていた。

 

「魚雷発射準備完了」

 

 そこへ、副長が攻撃準備完了を告げてくる。艦長は悪い笑みを浮かべた。

 

「まさか気付いたか? だが、もう遅いっ! 魚雷発射!」

「はっ! 1番、2番、魚雷発射!」

 

 魚雷発射管に注入された海水を押しのけ、魚雷が発射管から飛び出す。その直後、魚雷のスクリューが回転し始めた。

 潜水艦「ミラ」は軽巡洋艦「五十鈴」めがけて、2本の魚雷を発射した。

 

 

 機関音が高まる「五十鈴」の艦内にて、水測室でヘッドホンを耳に当てていた妖精は、背筋が冷えるのを感じた。

 水中に、ある特徴的な音が響いたのを聞いたのだ。

 

ボコッ、ゴボボボォォッ……

 

 それは、巨大な気泡が発生した音だった。

 

(この音は……魚雷……!)

 

 妖精は瞬時に判断する。圧縮空気によって押し出され、潜水艦から魚雷が発射されたのだ。

 

「こちら水測。不明潜水艦、魚雷発射!」

 

 妖精はその報告を、ほとんど絶叫と化した声で艦橋に上げた。

 

『こちら水測。不明潜水艦、魚雷発射!』

『こちら見張り、本艦左舷7-0-0に雷跡発見! 数2(フタ)! 直撃コースです!』

 

 2つの報告を受け、"五十鈴"は即断する。

 

「主砲、機銃、各個撃ち方! 魚雷を迎撃、破壊しなさい!」

「は! 主砲、機銃、各個射撃! 目標、魚雷! 撃ち方始め!」

 

 戦術長妖精が復唱する。その直後、

 

ドン! ドン! ドン!

ダダダダダダン!

 

 「五十鈴」が主砲として積んでいる「12.7㎝連装高角砲(後期型)」と、対空兵装である25㎜対空機銃がめいっぱいの俯角をかけ、射撃を始める。

 ズズーン、ズズーンという水中爆発特有のくぐもった音が響き、海面には白い水柱が何本も立ち、対空機銃の連射によって細かい飛沫(しぶき)が舞う。そんな中、

 

ズズウゥゥゥゥゥン!

 

 ひときわ大きな爆発音が響いた。そして、「五十鈴」の左舷300メートルほどのところに、砲撃によるものとは違う巨大な水柱が立ち昇る。

 

『見張りより艦橋、敵魚雷1(ヒト)撃破! もう1本は……直撃コースを外しました! 本艦の左後方を通過する模様! それと、魚雷は無誘導です!』

 

 見張りの目には、まっすぐ直進する1本の白い航跡が見えていた。

 

「よし! 今度はこっちの番よ!」

 

 この頃には、既に「五十鈴」の艦体は左への旋回運動に入っていた。艦橋の窓から潜水艦が潜む海を(にら)()え、"五十鈴"は命令する。

 

「提督命令による正当防衛攻撃を発動するわ! ウォースパイトさんに教えてもらって装備した新兵器、使うわよ!

対潜迫撃砲(ヘッジホッグ)発射用意!」

「は! ヘッジホッグ、発射用意!」

 

 戦術長妖精が復唱し、「五十鈴」はヘッジホッグの発射準備にかかる。

 ヘッジホッグとは(たい)(せん)(はく)(げき)(ほう)のことで、イギリス軍がUボートを絶対ぶっ殺すために開発した対潜兵器の1つである。サイレントハンターと呼ばれるに相応(ふさわ)しい(せい)(じゃく)性を持つUボート、それを撃沈するための新兵器が、謎の潜水艦に対して行使されようとしていた。

 

「機関室へ、減速、赤20! 水測室へ、ヘッジホッグの照準を合わせるから、パッシブソナーを使いつつアクティブソナーを起動しなさい! 探信音は2連射、いえ、1連射でいいわ。タウイ最強の潜水艦キラーの名にかけて、1連射で仕留めてみせる!」

「「御意!」」

 

 水測室に務める妖精は、やや緊張した面持ちで「Type144Q/147 ASDIC改」を起動する。「四式水中聴音機」に繋いだヘッドホンは、耳に引っかけたままだ。そのヘッドホンからは、自艦の機関音に混じってギイ……ギギイ……という、金属が(きし)むような音が微かに聞こえてくる。どうやら敵潜水艦は急速潜行に入ったようだ。攻撃に失敗し、一時的に潜って安全確保を図っている、というところだろう。

 

『赤20だ、10ノットまで落とせ!』

『アクティブソナー、起動完了! いつでもどうぞ!』

「ヘッジホッグ、発射用意よし」

 

 水測の準備が整った直後、ヘッジホッグのほうも準備ができた。

 

「進路270度、回頭完了。敵潜のいる海域に向けて突撃します!」

「お願いするわ。ヘッジホッグの射程は200メートル……次の魚雷を撃たれる前に仕留めるわよ!」

「はい!」

 

 対潜水艦戦闘の基本は、「ハリーアップ・アンド・キープサイレント」……「静かに急げ」に尽きる。一見矛盾しているように見えるが、これが対潜戦闘の基本なのだ。

 わずか10ノットにまで速度を落とし、「五十鈴」は静かに波を割いて進む。速度を落とさなければ、自身の機関音などのせいでパッシブソナーが役に立たなくなってしまうからだ。

 

『こちら見張り、敵との推定距離2-0-0!』

「水測、探信音てぇ!」

 

 敵潜水艦との推定距離が詰まったとの報告を受け、"五十鈴"は探信音の発射を決意する。

 

「は、探信音てぇ!」

 

 水測室では、妖精が一声叫んでスイッチを押した。直後、

 

ピコーン!

 

 独特の甲高い音が響く。それが目に見えない波となって水中を伝わっていった。

 

ピコーン! ……ピコーン!……

 

 探信音は1連射分、つまり一定間隔で計5回放たれた。探信音の発射に少し遅れて、探信儀に接続されたTV画面(ASDICが「改」になっているのはこのためである。ASDICは本来耳で相手からの反射波を聴くだけなのだが、これは改造され、「三式水中探信儀」に倣ってTV画面に波形を表示できるようにしているのだ)に示される波形が乱れる。それを見て、妖精は素早く計算を行った。

 

「反応あり、距離約1-9-0、深度70! 本艦の正面です! 目標は急速潜航中と認む!」

(ビンゴ……!)

 

 水測室から報告を聞くや、"五十鈴"は叩きつけるように命じた。

 

「ヘッジホッグ、撃ち方はじめ!」

「は! ヘッジホッグ、てぇーっ!」

 

 戦術長妖精が"五十鈴"の命令に従い、艦体前方の第2主砲を外して装備された新兵器、対潜迫撃砲の発射を命ずる。

 

トトトトトトトトン!

 

 軽い連続音とともに、ドイツの(なが)()(つき)(しゅ)(りゅう)(だん)を思わせる細長い弾頭が24発、次々と発射される。

 英国が産み出した凶悪な対潜兵器が、ついに異世界で初めて火を噴いた。

 

 

「なっ……!?」

 

 潜水艦「ミラ」の艦長は、潜望鏡に映し出された光景に驚きを禁じ得ない。

 魚雷を発射したその直後、敵艦は急激に加速し始めた。だが、それは艦長も想定済みである。そして、あの軍艦の加速力は見たところ、自国の同クラスの艦艇のそれと変わらないようだ。艦長は、これは当たったと確信していた。

 ところが、敵艦は海面に向けて主砲と機銃を撃ちまくり、あろうことか魚雷を破壊してしまったのだ。しかも、どうやら思っていたより加速性能も高かったようで、もう1本の魚雷も回避された。

 潜望鏡の視界には、敵の小型巡洋艦が変針し、こちらに向かって突っ込んでくる様子が映っている。

 

「くそ、攻撃失敗だ! 敵艦がこっちに向かってくる、急速潜航!」

「はっ! 急速潜航!」

 

 副長が命令を復唱し、潜水艦「ミラ」はトリムを下げて急激に潜航に入る。艦体にかかる水圧が急激に増え、ギイ……ギギイ……という艦体の軋む音がする。

 

(魚雷を発射したとたんに、急加速と砲撃での魚雷破壊。そして、すぐにこっちに針路を取ってきた……。もしや、潜水艦との戦い方を知っているのか? ……そんな馬鹿な、偶然だろう)

 

 艦長はそんなことを考えていた。

 

「敵艦、本艦に接近します。推定距離500!」

 

 ソナーを聞いていたクルーが、報告する。その距離が次第に近くなり、「推定距離200」の報告が上がった、その瞬間だった。

 

ピコーン……!

 

 独特の甲高い音が、「ミラ」の聴音機にはっきりと響き渡った。それを聞いた瞬間、ソナーマンは真っ青になり、慌てて艦長に報告する。

 

「か、艦長! 敵、探信音を発しています!」

「探信音だと!? バカな! 探信音といえば、アクティブソナーじゃないか! 我が国でも、まだ開発中のものだぞ!?」

 

 ソナーマンの悲鳴じみた報告に、艦長は焦った声で叫ぶ。

 グラ・バルカス帝国でも開発中のアクティブソナーの音が、何故響いたのだ!?

 艦長はとっさに、聴音機に付いたヘッドフォンを引ったくるようにしてソナーマンから受け取り、音を聴いてみた。

 

ピコーン! ……ピコーン! …ピコーン!

 

 「サイレントハンター」のようなゲームをプレイしたことのある方ならば良く分かると思うが、アクティブソナーが放つ独特の探信音は、潜水艦乗りにとっては(しに)(がみ)の呼び声にも等しい恐怖の音だ。その音がさらに甲高く大きく響き、間隔も短くなってきている。ということは、音源が接近しているということだ。

 しかも、この音響の発生源は明らかに敵艦である。つまり……

 

「ロデニウス連合王国軍は、既にアクティブソナーを実用化しているのか!? ということは、この国の軍には潜水艦がある可能性がある……!? くそっ、この情報、なんとしても持って帰らねば!!」

 

 これは、重大な情報だった。

 ロデニウス連合王国の艦艇が探信音を放ってきたということは、ロデニウス連合王国のほうがグラ・バルカス帝国より対潜戦闘技術が進んでいることの証になる。しかも、こうなるとロデニウス連合王国軍は潜水艦を持っている可能性すら浮上してきた。さっきの敵艦の迅速な転舵も偶然ではなく、対潜戦闘を知っているが故の行動だったのだろう。

 これは、今後のグラ・バルカス帝国の戦略に大きな影響を及ぼしうる、極めて重大な情報である。艦長は、この情報を持って必ず国に帰ると決意した。

 

 しかし……その直後、彼の決意は全て水泡に帰した。

 

「!!!」

 

 異変に気付いたのは、ソナーマンだった。

 

ポチャポチャポチャン……

 

 相手からの探信音が途絶えたと思った瞬間、何かが多数海面に落ちる音を、ソナーが拾ったのだ。

 潜水艦に対して使われる兵器で、海面に落ちる物といったら1つしかない。爆雷である。

 

「て、敵艦、爆雷を投下!」

「そんな馬鹿な!」

 

 顔面蒼白で叫ぶソナーマン。その報告に、艦長は思わず声を上げた。

 敵艦はまだ、こちらの頭上を通過していない。爆雷というのは基本的に艦尾から投下する兵器である以上、艦がこちらの頭上を通過していなければ使えるはずがない。

 

「奴ら、爆雷を()()()()()撃てるのか!? だとしたら、こいつらは……!」

 

 我が国の全ての潜水艦乗りにとって、とんでもない脅威になる。ほとんど血の気を失って蒼白になった顔で、艦長はそう言おうとした。

 しかし残念ながら、艦長は続きを言えなかった。

 

ドドドドドーン……!!!

 

 海面下に、連続した爆発音が響く。「五十鈴」が発射した対潜迫撃砲(ヘッジホッグ)の弾頭が海面に落下し、24個の弾頭のうち2発が「ミラ」に命中、信管が作動して起爆したのだ。

 ヘッジホッグという兵器は、弾頭が接触信管なので、その性質上、1発でも敵潜水艦に直接命中しなければ起爆しないというデメリットがある。だが、1発でも起爆すれば他の弾頭も連鎖的に爆発し、かつ敵潜水艦を包み込むように爆発するので、命中すれば場合によっては敵潜水艦を撃沈に至らしめられる。もし撃沈できなくても、敵潜水艦の深度を割り出せるため、爆雷の深度調定が容易になる。その兵器が、「ミラ」に命中したのだ。

 立て続けに24回の爆発が発生し、海中に小さな爆発の花が次々と咲く。

 シータス級潜水艦「ミラ」の艦体は、ヘッジホッグの弾頭の爆発によって破壊され、艦内へどっと海水がなだれ込む。潜水艦内の空気は一瞬で海水に押し出され、中にいる人間は水圧で押し潰されるか、海水で窒息するかして次々と果てていった。

 爆圧は圧力の弱いところ、すなわち海面のほうに向かって突き上がり、やがて巨大な水柱となって海面に噴き上がった。その真下で、グラ・バルカス帝国の誇る潜水艦「ミラ」は、金属質の圧壊音を立てながら暗い海底に向かって沈んでいった。艦長、副長、以下160人の乗組員の命を巻き添えにして……。

 

 

命中(インターセプト)!」

 

 軽巡洋艦「五十鈴」の艦橋には、戦術長妖精の弾んだ声が響いた。同時に、「五十鈴」の左舷前方の海に巨大な水柱が突き立つ。

 「五十鈴」が発射したヘッジホッグは、見事に敵の潜水艦を捉えたのだ。そして「五十鈴」は、ヘッジホッグを投射した後、すぐに減速すると同時に面舵を切り、爆発による艦体損傷を回避しようとした。その結果、「五十鈴」の艦橋からみて左前方に水柱が立つ光景が展開することになった。

 

「見張り、水測、どう?」

 

 水柱が収まった後、"五十鈴"は艦内電話回線で尋ねる。

 

『こちら見張り、海面に油膜を伴った泡の噴出を確認。あと、潜水艦の一部らしきものも一緒に浮いています…あ、今死体が上がってきました』

 

 見張りの視界には、黒い油膜を伴った泡が複数噴き上がってくるのが捉えられていた。さらによく見ると、泡と一緒に潜水艦の破片らしい黒い物体や、水兵服の切れっぱしらしいもの、そして血を流したままぴくりとも動かない人体も浮いている。

 

『こちら水測、海中で金属質の音を探知。本艦から徐々に遠ざかっていきます。アクティブソナーの音響測定の結果と合わせますと、音源は海底に向けて沈降しているようです。現在深度100……120……150……圧壊音探知』

 

 この2つの報告を合わせ、"五十鈴"は結論を出した。

 

「撃沈確実、ね」

 

 ここに、タウイタウイ泊地最強の潜水艦キラーは、異世界に来て初めての敵潜水艦撃沈を果たしたのだ。

 

「帰ったら、報告書が面倒くさいわね……。でも、この海域はあまり深くなかったはず。釧路さんにお願いしたら、サルベージとかできないかしら。ま、いいわ。作戦終了! 対潜警戒しつつ帰投するわよ! 各艦に打電なさい!」

「はい!」

 

 こうして、第1海上護衛隊の「この世界」での初戦闘は終了した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 "五十鈴"から報告を受けた堺は、その翌日、「A-10B改 サンダーボルトⅡ」の設計を後回しにして、先にこの潜水艦をサルベージするよう、"(くし)()"に指令を出した。

 

「全くもう……私は本来、こんな仕事をする艦ではないのに……」

 

 ぶつくさ言いながらも、移動工廠艦の艦娘"釧路"は第1海上護衛隊と戦艦「イタリア」「ローマ」、航空母艦「(あま)()」「(かつら)()」、それに重巡洋艦「()()」の厳重な護衛を受けて、当該海域へと向かうのだった。凄まじいほどのVIP待遇であるが……堺がそれほど警戒して、完全護衛の下で派遣するよう命じたのである。そのため、これほど厳重な護衛態勢となったのだ。

 

「えーと……五十鈴さん、この辺ですよね?」

『こちら五十鈴、天測によればこの辺よ』

 

 "五十鈴"からの報告を受けた"釧路"は、各艦娘たちに連絡を行った。

 

「こちら釧路。ただいまより、軽巡洋艦『五十鈴』が昨日撃沈した正体不明の潜水艦の、捜索とサルベージを行います! 皆様、警戒をお願いします!」

 

 サルベージ作業の開始である。

 

「さて、まずは……海底捜索ですね。ソナーと無人機を総動員して、潜水艦を見つけないと……」

 

 言うが早いか、"釧路"は直ちに無人潜水艇を投下した。有線誘導だが、深海6,000メートルまでは探査できる優秀な逸品である。まさにどっかの正規空母のいう「優秀な子たち」。

 捜索を開始してから1時間後、ようやくそれらしいものが見つかった。まず音響測定装置によって海底にそれらしいものが発見され、続いてその地点にビデオカメラを装備した潜水艇が差し向けられる。そしてついに、2つに折れた艦体が発見されたのだ。

 

「釧路より各艦へ、目標らしき潜水艦を発見。これよりサルベージにかかります。警戒よろしく!」

 

 簡単に各艦に打電すると、"釧路"は己の()(そう)の艦橋に待機していた、何人かのスク水姿の少女たちに向き直った。

 

「では、サルベージ班の皆様、お願いします!」

「全く、こんな仕事をやることになるなんて思わなかったわ」

 

 スク水の少女たちを代表して、スマホ端末らしき機材を持った少女……第13艦隊潜水艦隊の元締、イムヤこと"()168"が口を開く。

 

「イクが足つらせて沈没しかけたのを救出したこともあったけど、あれは海底まで行ってないからノーカンでちね」

「あーっ! ゴーヤ、それは言っちゃダメなの!」

 

 さらっととんでもないことを(ばく)()したゴーヤこと"伊58"に、イクと呼ばれた潜水艦娘……"伊19"が真っ赤な顔で叫ぶ。

 そう、今回のサルベージ作戦において、"釧路"は堺の了承を得て潜水艦の艦娘たちに協力をお願いしたのだ。堺からの命令書と"()(みや)"の(よう)(かん)で話はトントン決まり、そして当直その他の当番に当たっていない潜水艦娘たちが、ここに揃っているのである。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「メインタンクブロー!」

「イヨ……それ、浮かぶ時の……」

「え? あ、間違えちゃった!」

 

 (そう)(ぞう)しくも、仕事に取りかかる潜水艦娘たちであった。

 

 

 たっぷり3時間もかかったサルベージ作戦は、とりあえず成功と見て良い結果に終わった。

 潜水艦娘たちと「甲標的」搭乗妖精たちの応援を得て、"釧路"は2つに折れた潜水艦の艦体をまるごと回収することに成功。沈没からそれほど日が経っていないせいもあり、非常に()(れい)な状態の潜水艦を回収することができた。飛び散っていた細かい部品、艦内に残されていた書類等もあまさず回収されている。

 へとへとになった潜水艦娘たちや「甲標的」搭乗妖精たちを乗せて、VIP待遇の調査艦隊はホクホク顔でタウイタウイ泊地へと帰還した。

 

 

 さらに1週間後。

 

「……で、これがブツか」

 

 "釧路"に呼び出されてタウイタウイ泊地の工廠にやってきていた堺が、眼前に横たわる巨大な黒い物体……"五十鈴"が撃沈した正体不明の潜水艦を見て言った。そして、さらに一言。

 

「どんな船かと思ったら、こりゃ驚いた。うちのしおいにそっくりじゃねえか。間違えて建造してました、なんてオチじゃないだろうな?」

「そんなつまらないオチじゃありませんよ」

 

 堺の冗談に、"釧路"が眉を顰めた。

 

「すまん、下手な冗談だった。んで? こいつの正体は分かったのか?」

「はい、ばっちりです。簡単にですが、ご説明いたします」

 

 堺にそう言うと、"釧路"はサルベージした潜水艦を指差しながら説明を開始した。

 

「こちらが先日、五十鈴さんが撃沈した謎の潜水艦です。結論を先に申し上げますが、この潜水艦の所属はグラ・バルカス帝国海軍でした」

「何だと?」

 

 堺の片眉がつり上がった。

 

「間違いないのか?」

「はい、艦内に残っていた書類をВерный(ヴェールヌイ)ちゃんと(ふぶ)()ちゃんに解読してもらって、判定しました」

「まあ、大和型モドキを作れるような国だし、こんなのがあっても無理ないか。続けてくれ」

「はい。書類解読の結果によると、この潜水艦の名は『ミラ』。シータス級潜水艦の1隻だそうです」

「シータス?」

 

 堺が首を傾げた。

 

「地球では、『くじら座』を意味する言葉らしいですよ。(あお)()さんがそう言ってました」

「星座の名前か。これがグ帝艦艇のネーミング法則かな? いや、でも『グレードアトラスター』なんて星座はなかったはず……」

「その『グレードアトラスター』ですが、よく似た響きの言葉として『グレートアトラクター』というのがあるそうです。星座ではありませんが、天文学用語の1つだそうですよ」

「天文用語か……なるほど。もしかしたら、それが奴らのネーミング法則か。

すまん、話が脱線した、続けてくれ」

「はい。まず、この潜水艦『ミラ』ですが、全長122メートル、幅12メートル、排水量は推定3,500トンと、大きさはほぼ伊400型潜水艦そのものです。機関も、推定出力7,500馬力程度のディーゼルエンジンと、推定出力2,500馬力前後のモーター2基という状態であり、また船殻やバラストタンク、燃料タンクの容積から考えますと、航続距離や速度性能などもほぼ伊400型に一致する、とみられます。

魚雷については、艦首発射管室に綺麗な状態のものが残っていましたので、それを解析したところ、直径53㎝の空気式無誘導魚雷と判明しました」

「魚雷が空気式かつ無誘導……五十鈴が出した戦闘詳報の記載と一致するな」

 

 言いながら、堺は小脇に抱えていた書類…"五十鈴"が提出した戦闘詳報を引っ張り出した。

 

「はい。その他の武装については、口径14㎝の単装砲1門に、20㎜三連装対空機銃3基と単装20㎜機銃1丁。何から何まで伊400型のそっくりさんです」

「ここまで似ていると、やっぱり驚くな。

待てよ? 艦そのものが似てるってことは、まさか、搭載されている艦載機も似てるのか?」

「いえ、そこは違いました」

 

 "釧路"はあっさりと否定した。

 

「この潜水艦の格納庫には、大破状態の機体が1機、かなり綺麗な組み立て済の機体が1機、分解パーツ状態の機体が1機ありました。綺麗な組み立て済の機体は、そちらに引っ張り出しています」

 

 言われて堺が見た先には、

 

「おやまあ……機体は(せい)(らん)じゃなくて()(しき)(すい)(せん)モドキか?」

「仰る通りと思われます」

 

 「ミラ」が搭載していた特殊攻撃機「アクルックス」が置かれていた。

 

「ふーむ……あ、それと釧路、こいつのステルス性はどうだ?」

「それなんですが提督、ほとんど全くといって良いほど考えられていません。

船体の金属はもちろん、船体やエンジンの構造まで全て調べましたが、音波吸収材やデコイの搭載はおろか、エンジンの(せい)(おん)性すら考慮されていない設計でした。潜水艦といえばどれだけ静かであるかが鍵なのに、なんでこんなことに……」

「まあ気持ちは分かるがな。第二次大戦当時の潜水艦のうち、特に日本とアメリカの潜水艦は騒音がひどかったらしい。イギリス人に言わせりゃ、水の中でドラム叩きながら走ってるようなもんだってさ。

ということはだぞ釧路。もしかするとグラ・バルカス帝国では、潜水艦の運用思想が遅れているのかもしれない」

「どういうことですか?」

「例えばだぜ、釧路。神聖ミリシアル帝国海軍の連中が、この潜水艦を見つけて倒せると思うか?」

「無理でしょう」

 

 堺の質問を、"釧路"は即答でぶった切った。

 

「何故そう言い切れる?」

「この世界には、ラヴァーナル帝国を除けばほとんど魚雷という兵器が浸透していません。我が国から情報を得ているムーや大東洋共栄圏各国はともかくとして、神聖ミリシアル帝国ですら魚雷を知らないのです。つまり、神聖ミリシアル帝国にすら、魚雷、そしてそれを主兵装とする潜水艦への対処方法及び探知方法はない、と言い切れると考えられるからです」

「うむ、その通りだ」

 

 堺はあっさりと"釧路"に同意した。

 

「ということは、だ。グラ・バルカス帝国にしてみれば、潜水艦が無敵の兵器に見えている可能性がある。何せ周辺国のどこも、潜水艦を探知して迎撃することができないんだからな。周辺国がそんな国ばっかりでは、せっかくの技術も遅れる部分が発生し、最悪の場合本質的に重要な部分すら見落とされかねない」

「なるほど、それでこのひどい静音性になるわけですね」

「ああ。それはつまり、グラ・バルカス帝国の潜水艦運用思想の遅れと言えるってわけだ。しかも、第二次世界大戦当時の潜水艦の技術を改めて調べてみたが、伊400型は静音性以外は世界トップクラスの性能だったんだ。ということは……」

「このシータス級は、グラ・バルカス帝国にとっては最新型の潜水艦である、と?」

「確証はないが、そんな気がする。よくやったぞ釧路。相手の新兵器をほぼ完全に鹵獲・解析できたのはかなり大きい。あとで、改めて五十鈴にも礼を言って、間宮の羊羮あたりを出しておかんとな」

「全くですね。では、この潜水艦の他にこちらの水上機も解析に入ります。潜水艦を優先したので、この機体の解析はまだなんです」

「分かった。よろしく頼む。

あ、それと……こいつを取っといてくれ」

 

 堺は"釧路"の作業着のポケットに、そっと"間宮"の無料券(メニュー、サイズ全てが完全フリーのもの。つまり、これ1枚でバケツサイズのアイスだろうとハンバーグ10段重ねだろうと無料で食べられる)5枚を押し込んだ。

 

(わい)()ですか提督」

「人聞きの悪いことを言うなよ。仕事に対する正当な報酬だ。

それとも、要らないとでも?」

「とんでもない、もらっておきますよ」

 

 笑い合う堺と"釧路"であった。

 

 

 そしてこれが、グラ・バルカス海軍潜水艦隊の無敵伝説の終焉だったのである。

 グラ・バルカス帝国海軍が運用している潜水艦は、2つのクラスに分けられる。シータス級とハイドラ級だ。性能的には、それぞれ「潜特型」「巡潜乙型」に相当する。そしてこの2クラスとも、騒音対策がほぼ皆無だったのである。"五十鈴"曰く「水中でドラムと和太鼓と大太鼓とティンパニのカルテットでもやりながら走ってるようなものね」「潜水カ級のノーマル型よりやかましいから、ほぼ丸見えよ」とのことであった。当然、「四式水中聴音機」を実用化しているロデニウス海軍の艦艇なら1発で位置を特定できてしまう。そして爆雷やヘッジホッグを叩き込まれておしまい、であった。

 グラ・バルカス海軍第2潜水艦隊も黙ってはおらず、複数の潜水艦で連携して戦う術…地球でいう「ウルフパック」を導入してきたのだが、そこに立ちふさがったのが"朝霜"であった。彼女の持つHF/DFシステム搭載型「Type144Q/147 ASDIC改」はウルフパック潰しに効果覿面であり、たった5日の間に彼女は2隻ものグ帝潜水艦を血祭りにあげるという活躍を見せている。これにより、第1海上護衛隊へのHF/DFシステム導入が急がれた。

 

 ロデニウス方面へ投入された第2潜水艦隊は、作戦開始からたった1ヶ月でなんと10隻もの潜水艦が未帰還になってしまった。当然、その全てが海底に叩き沈められたものである。だが、ロデニウス大陸の南方500㎞に位置する無人島「ロホテン島」に設置されつつある第2潜水艦隊司令部は、まだこの事態を把握してはいなかった。

 そして、グラ・バルカス帝国海軍にとっても(将来的に)試練が訪れることが確定してしまった。読者の皆様は、ロデニウス海軍第13艦隊が潜水艦を持っていたのをお忘れではないでしょうね?

 

 …そう、第13艦隊には"()500"が……「サイレントハンター」の呼び声も高いドイツの誇る潜水艦「Uボート」がいるのである。Uボートということで皆様お察しの通り、彼女は非常に静音性に優れており、「九三式水中聴音機」程度の性能しかないグラ・バルカス帝国のパッシブソナーでは、その音を捉えるのは非常に難しい。それに加えて彼女が持っている魚雷も、威力・雷速・ステルス性いずれもずば抜けて高い酸素魚雷、しかも「41式魔導酸素魚雷」を搭載しているのだ。

 なお、マッドトーピーダーズどもは、磁気信管の開発を狙っているばかりか、なんと磁気による金属探知装置&高精度の音響追尾装置を搭載した"誘導酸素魚雷"の開発まで狙っているのだ。もし実用化されれば、大変なことになるだろう。

 

 果たして、「海の()(ろう)」と恐れられたUボートの一翼"U-511"……もとい"呂500"が、グラ・バルカス帝国にその牙を剥くのはいつだろうか?




さて、皆様は最初の質問に何語で答えましたか? 教えていただけると幸いです。もし外国語であれば、恐れ入りますが読み方まで書いておいていただけると恐縮です。


UA57万突破!本当に、ご愛読ありがとうございます!!

評価8をくださいました大希様、黒鷹商業組合様
評価10をくださいました死怨殺鬼様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

神聖ミリシアル帝国に対し、「ある要請」を行うため、ロデニウス連合王国の外交官ヤゴウはミリシアル本土へと向かう。その一方、「ある女性」が絶望していた…
次回「ヤゴウの奮闘、"釧路"の絶望」

P.S. 重要報告がありますゆえ、「活動報告」のほうもお読みいただけますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。