鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

137 / 230
いよいよ、ロデニウスとグラ・バルカスの本格的な武力衝突…になりかけて、局地的前哨戦、というところです。あと、+αが入りました。



127. 離島強襲! ロホテン島の戦い

 中央暦1642年12月12日 午前9時頃、タウイタウイ泊地のすぐ南の海面。第13艦隊+αが出港してすぐ、艦隊の中央に位置する改(まい)(づる)型移動工廠艦「(くし)()」艦橋にて。

 

「航海より艦長、本艦は外洋に出ました。これより艦隊速度に合わせて、"浮遊航行"に切り替えます」

「艦長より航海、了解。前に敵の潜水艦や『ラ・カサミ』を拾いに出かけた時の護衛の皆さんはともかく、それ以外の人は驚愕するでしょうけど……これは仕方ないわね」

 

 航海長妖精から報告を受けた"釧路"は、艦内電話にて機関室に命令を下した。

 

「艦長より機関室、重力制御装置起動。高度マルマルマルヒト(10メートル)にて浮遊航行を行う。速力10ノット!」

『機関室より艦長、了解。浮遊高度マルマルマルヒト、速力10ノット、宜候(ようそろ)!』

 

 機関室に詰めている機関長妖精から、復唱が返ってくる。

 「釧路」の巨大な艦体が僅かに震動した後、艦橋から見える水平線が傾いた。宙に浮き上がったのである。

 

 しかし、当然のことながら、こんな巨体が空を飛ぶなど想像もしていなかった他の艦では、大混乱となっていた。

 

「何だありゃあぁぁぁ!?」

「あのデカい艦が、空を飛ぶだと!?」

「えええぇぇ!!?」

 

 各艦の見張員妖精の他、この光景を直接目撃した艦娘たちや妖精たちが驚愕したのは、言うまでもない。

 潜水艦「ミラ」のサルベージや「ラ・カサミ」の離礁の際に「釧路」を護衛した面々は、声に出して驚くことはなかったが、それでも内心の衝撃は大きかった。

 

「なんと……あんな巨大艦が空を飛ぶとは……。ロデニウス連合王国には、どれほどの技術力があるのか……」

 

 戦艦「ラ・カサミ改」艦長のミニラル・スコット大佐も、呆れたような声を出している。

 

 そして言うまでもないことだが、「釧路」通信室は次々と流れ込む問い合わせの無線により、回線がパンク寸前となっていた。

 

「はぁー……やっぱりね……」

 

 あまりに予想通りの光景に、"釧路"が1つため息を吐いた時、

 

「通信より艦長。()(かん)(なが)()』より直接通信が入っています」

「了解、それは繋げてこっちに回して頂戴」

 

 「長門」から通信が入ったということは、提督からの直接通話である可能性が高い。彼女はその通信には出ることにした。

 

「釧路より長門、どうされました?」

『提督より釧路。『長門』艦橋から見ていたが、何やら急に宙に浮き上がったみたいだな。どういうことなのか、説明をお願いしたい』

「承知しました。では提督、全艦に艦隊内無線を繋ぐ許可をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

『了解、そっちに渡すぞ』

「ありがとうございます、受け取りました」

 

 艦隊内無線の使用許可を得た"釧路"は、軽く咳払いをした後に説明を開始した。

 

「釧路より全艦へ。皆様、驚かせてしまいすみません。実はこれには事情がありまして……」

 

 彼女が語ったのは、概ね次のような内容だった。

 彼女の前級となる舞鶴型はもともと、艦隊に随伴できることを想定して設計・建造された。ところが、1つ問題が発生した。彼女たちは艦体が大きすぎて、航行時の引き波が大変なことになるのである。それこそ、周囲の艦の航行に支障が出るレベルで。

 舞鶴型の「舞鶴」や「(こう)()」の場合、10ノット以上の速度を出すともういけない。特に駆逐艦などは、引き波に煽られて転覆する危険性が非常に高くなる。その2艦よりデカい「釧路」では、もう考えるまでもない。

 そのため、前線で戦う艦隊、(こと)に高速で動き回る空母機動部隊や水雷戦隊に随伴するのは、浮遊航行でなければ不可能という結論に至り、「釧路」を含む改舞鶴型では浮遊航行能力が付与されたのだ。

 

「……というわけなんです。おそらく、私の次の世代の移動工廠艦は、水上航行能力を基本的にカットして、泊地等の穏やかな海面のみ水上航行することになるのではないでしょうか」

 

 説明が終わると、真っ先に反応したのは堺だった。

 

『提督より釧路、了解。なるほどな……そりゃそうだわ。釧路ほどデカいと、排水量も大きいんだろ? そこから発生する引き波は、下手すりゃ津波になりかねんレベルで洒落ならんだろうし』

「仰る通りでございます」

 

 これにて説明は終了となった。

 ただし、堺が「目標ロホテン島、全艦戦闘配備」を発令した際には、損傷艦娘が出た場合に備えて彼女は着水し、通常航行に切り替えている。

 

 

 同日午後9時、ロデニウス連合王国の南西方425㎞地点 ロホテン島。

 この島は、大きさから言うと非常に小さい。地図の上では点のようにしか見えないと言われる小国ナハナート王国の、さらに半分程度の大きさしかないのだ。縮尺の小さい地図にはまず間違いなく載らない。縮尺がだいぶ大きい地図を持ってきて、ようやく点のように描かれる程度だ。

 島の形状はほぼ円形であるが、砂浜はほとんどない。せいぜい島の東端と西端に申し訳程度にあるくらいで、大半は切り立った崖である。島内の地形も、ちょっとした岩山が中央部にある他は小さな森と草原が広がっているだけで、川もない。とてもではないが、人が住める環境とは言い難い。

 また、この島は大東洋における主要航路から外れており、航海目標としての価値すらも見出されていない。

 これらの要因から、この島は海賊が砂浜を臨時のアジトとして使う程度にしか使われておらず、ほぼ無人島であった。……そう、「であった」、過去形である。

 

 この島を取り巻く情勢が変化したのは、中央暦1642年の6月頃であった。ロデニウス大陸周辺での通商破壊及びロデニウス連合王国海軍の戦力減殺を命じられた、グラ・バルカス帝国海軍の第2潜水艦隊司令部が、ロデニウス方面への進出拠点としてこの島に目を付けたのだ。第2潜水艦隊司令部は、陸軍の第551工兵大隊の助けを借りてこの島に前線基地を設置し、そこから指揮を執ることにしたのである。

 当初、第2潜水艦隊司令部は潜水艦に補給が行える程度の基地機能があればそれでよしと考えており、小規模な基地だけで済ませるつもりだった。だが、軍部がそれに反対し、この基地を大東洋における中枢拠点にしようとした。そのため、やれ戦闘機隊の進出のため飛行場を建設しろ、やれ本国艦隊の地方隊の駐屯のため港を整備しろ、と注文が後から付けられていった。このため、基地はどんどん大きくなり、ついにはロホテン島全域を拠点化するに至ってしまった。

 現在ロホテン島に展開するグラ・バルカス帝国軍は、この規模の島としては十分すぎる兵力を有している。

 まず陸上兵力は、第551工兵大隊の他に陸軍植民地軍(植民地の警備・治安維持などを主任務とする陸軍部隊。海軍でいう本国艦隊に当たる)の第63警備隊800名と2号軽戦車シェイファーI(性能的には九五式軽戦車ハ号の九四式三十七粍戦車砲搭載型)20輌、それに第2潜水艦隊司令部付の警備要員150名。

 海上戦力は、第2潜水艦隊の他は本国艦隊第51地方隊のタウルス級重巡洋艦(性能は高雄型重巡洋艦に相当)1隻、キャニス・メジャー級軽巡洋艦(性能は川内型軽巡洋艦に相当)4隻、キャニス・ミナー級駆逐艦(性能は吹雪型駆逐艦に相当)8隻、スコルピウス級駆逐艦(性能は睦月型駆逐艦に相当)12隻、スプートニク級小型空母(性能はカサブランカ級航空母艦に相当)2隻。

 航空戦力は、スプートニク級空母に搭載された計58機に加えて、島の西部を南北に縦断する形で長さ1,000メートルの滑走路を持つ飛行場が建設され、アンタレス07式戦闘機40機とシリウス型爆撃機30機が展開していた。

 これほどの戦力があれば、負けることはそうそうないであろう。「この世界」の主要国海軍の主力は時代遅れの戦列艦ばかりであり、航空戦力であるワイバーンやワイバーンロードも大したことがないからだ。

 気になるものがあるとすれば、それはロデニウス連合王国の艦隊だけだ。だが、そのロデニウスの有力な艦隊が出撃したという報告はない。

 

 ロデニウス方面での通商破壊と海軍の戦力減殺だが……上手く行っているとは言えない。輸送船や貨客船は10隻は仕留めているし、軍艦も軽巡洋艦クラス1隻と駆逐艦クラス3隻を沈め、多くの艦船を損傷させたのだが、未帰還となる潜水艦が非常に多いのだ。第2潜水艦隊はもともとシータス級潜水艦(性能は特型潜水艦に相当)20隻とハイドラ級潜水艦(性能は巡潜乙型に相当)35隻を配備しており、さらに本国から増援としてシータス級2隻、ハイドラ級10隻を受け取ったのだが、現時点で両級合わせて37隻もの潜水艦が消息を絶っているのだ。

 

(まずいな、戦果は確かに挙げているが損害も多い。これでは皇帝陛下に顔向けできぬ)

 

 第2潜水艦隊司令ベケット・ローズ少将は、焦る気持ちを抑えようと努力していた。

 今日も1隻のハイドラ級潜水艦が、帰還予定日時を過ぎても戻らず、未帰還と認定されかけている。

 

 ちなみにそのハイドラ級には何があったのかというと、海上からクワ・タウイの港を覗こうとして、大艦隊と遭遇していた。その大艦隊こそ、クワ・タウイを出港した第1艦隊とタウイタウイ泊地を出港した第13艦隊の連合部隊……ロデニウス海軍のムー派遣部隊である。これは重要な情報だと考えた潜水艦の艦長は、急速潜航してこの大艦隊をやり過ごしつつ、その戦力を本国に通報することが重要だと考えた。

 そこまでは良かったが……艦長は気付かなかった。自分もまた見つかっていたということを。

 結果、このハイドラ級は大艦隊の観察に夢中になりすぎて、後方から無音航行で忍び寄った駆逐艦「(かみ)(かぜ)」に気が付かず、奇襲でヘッジホッグと三式爆雷のコンボを喰らって沈められてしまった。せっかくの大艦隊発見の報告も、ついに届けられなかったのである。

 

(幸いにしてこの基地の存在は、ロデニウス側には知られていないようだ。この基地はロデニウス連合王国軍の哨戒圏からは離れているし、この辺りは島も多く、航路からも外れている。そうそうバレるものでもなかろう)

 

 ローズはそう考えていた。そしてこの日の夜も、いつもと変わりなく静かに過ぎていった。

 

 

 翌12月13日 午前4時半。

 ようよう東の水平線の辺りが白み始める頃、ロホテン島にいるグラ・バルカス帝国軍の1日も始まろうとしていた。

 帝国軍の1日のスケジュールは、空中哨戒にあたる「アンタレス」隊の発進で始まる。飛行場に響いていた暖機運転の轟音が一際大きくなり、2個小隊、計6機のアンタレス型戦闘機が順次発進していく。スリムな胴体とナイフのように薄い主翼を持つ機体だが、力強さを感じさせるエンジン音を立て、朝の空へと飛び立っていった。

 

 飛行場から少し離れたところ、岩山の頂上付近に作られたレーダーサイトの根元では、管制室に詰めたレーダーマンが眠気覚ましのコーヒー(正確には代用品)を(すす)りながら、対空レーダーの(かん)(めん)を見つめている。100㎞先まで探知可能なレーダーの管面には、先ほど発進した「アンタレス」隊の影が白い点として映っているのみで、何も異常はない。

 レーダーマンは、まだ頭の片隅に(おり)のように残っている眠気を吹き飛ばそうと、マグカップに半分ほど残っている代用コーヒーを一息に呷った。そして、口元に付いた雫を手の甲で拭いながらレーダーの管面に視線を戻した……その瞬間、彼の目は真円まで見開かれ、眠気は完全に吹っ飛んだ。彼がコーヒーを飲むためにほんのちょっと視線を逸らしていた間に、レーダーの管面は一面真っ白に埋め尽くされ、何も映らなくなってしまっていたのだ。

 

「なっ、何だこれは!?」

 

 初めて見る画面に、レーダーマンは大いに戸惑った。

 

(故障か?)

 

 そう考えた彼は、あちこちのスイッチを押したり引いたりし始める。しかし、如何なる操作をしようとも、真っ白になったレーダーの管面が変わることはない。電源も入れ直してみたが、てんで駄目であった。

 

「そんな……画面の様子が全く変わらない……。いったい、どこが壊れたんだよ……!?」

 

 完全に血の気を失った顔でレーダーマンが呟いた時、「どうした?」と言いながら上官が管面を覗き込んだ。

 

「は! 突然、レーダーが映らなくなって……」

 

 レーダーマンの報告は、出し抜けに響いた空襲警報のサイレンによって遮られた。

 

「何だ、いったい!? 敵襲か!?

敵はどこのどいつだ!」

 

 混乱しつつも、上官とレーダーマンは配置に付き始めた。

 

 

 この少し前、上空に上がった6機の「アンタレス」の搭乗員たちは、北西の水平線付近の空に黒い雲のようなものが湧き出すのを見た。

 

(やれやれ、朝っぱらからスコールかよ……)

 

 そう思っていた6人の考えは、数分後には完全に覆された。その黒い雲のようなものはどんどんこちらに近づき、そして数えきれないくらい多数の航空機に変わったからだ。

 

「何だありゃあ!?」

「も、ものすごい数だ!」

 

 自分が見ている物が何なのかを理解し、「アンタレス」の搭乗員たちは口々に驚きの声を上げた。そして飛行場や司令部に通報したり、隊内無線を使おうとして異常事態に気付く。

 無線通信機が動かないのだ。いや、正確には電源は入るのだが、どの周波数帯・チャンネルに合わせても、ガガガガガガガガピーという耳障りなノイズが入るだけで、音声が全く聞こえない。送信も受信もできる状態にないのだ。

 

「「くそ、肝心な時に!」」

 

 異口同音に悪態を吐いた2人の小隊長であったが、しかし彼らも確かに軍人であった。部下たちに対して手信号で指示を送り、敵機へと立ち向かっていく。……(うん)()のごとく押し寄せてきた敵機にどこまで立ち向かえるかは不透明だが。

 

「「ん?」」

 

 と、2人の小隊長は異変に気付いた。敵機の中から数機、灰色の機体が前に出たかと思うと、何か白い煙の尾を引く小さな飛行物体を放ってきたのだ。

 

((ロケット弾か?))

 

 2人はそう思った。

 グラ・バルカス帝国においても、「ロケット弾」という兵器の存在は知られている。しかし、グラ・バルカス帝国においてはロケット弾は、砲撃などに比べれば(すこぶ)る命中率が低く、産廃兵器だと考えられていた。

 それほど命中率が低いロケット弾を、なぜ航空機などに向けて撃つのだろうか? 静止目標にすらなかなか当たらないのに?

 疑問に感じつつも、2人の小隊長は部下たちに「散れ」と手信号で命じ、直後に自らも機体を(ひるがえ)した。その頃には、敵の「ロケット弾」は「アンタレス」隊との間合いを半分以上も詰めていた。

 

((思ったより速いな。だが、ロケット弾なんぞ当たる訳が……!?))

 

 振り返って敵弾を見た2人の小隊長は、信じられないものを見た。

 敵の「ロケット弾」は、なんと空中で向きを変え、部下たちの「アンタレス」を追尾しているではないか。それも、磁石に吸い寄せられる砂鉄のようにぴったりと。

 そして、一瞬のうちに距離を詰めた敵の「ロケット弾」は部下たちの「アンタレス」に次々と命中、爆発した。

 

「「!!」」

 

 信じがたい光景である。

 「アンタレス」が……前世界である惑星ユグドでは「最強無敵」と言われた、グラ・バルカス帝国の誇る戦闘機が、まるで(もう)(きん)に追われる小鳥のごとくに逃げ回り、しかしその甲斐もなく叩き潰され、一文の価値もないスクラップと化して墜ちていく。これまで人生を賭けて鍛え上げてきたお前たちの()()に意味などなかったのだ、と言わんばかりに、どこまでも無慈悲に。

 しかし、部下たちの死を悼む余裕は、既に2人の小隊長から失われていた。百発百中の死神の鎌は、既に彼らの背後、()()(かん)に迫っていたからだ。

 

「馬鹿な……そんな馬鹿なぁっ!」

「こんなことが、あってたまるかぁぁぁ!」

 

 その驚愕の台詞を(いま)()の言葉として、2人の小隊長は愛機ごと「ロケット弾」に貫かれ、バラバラになって海に墜ちていった。

 

 

 陸軍第63警備隊の駐屯地に隣接する監視塔で、見張りの任に当たっていたゴードン・ウェーバー兵曹長は、上空を見上げて目を()いていた。

 帝国の誇る最強の戦闘機「アンタレス」が、機銃1発すら撃てずにあっという間に全滅したからだ。しかも敵機の大編隊……おそらく300機はいるであろう敵は、こちらに向かってきている。明らかに自分たちを攻撃しようとしているのだ。

 

「敵機大編隊、北西方低空より接近! 数およそ300! 目測高度2,000メートル!

上空警戒隊は既に全滅した。繰り返す、上空警戒隊は全滅……!」

 

 ウェーバーは見張り台に設置された電話機に飛びつき、舌をもつれさせながら報告した。

 数瞬後、不吉な響きを持った空襲警報が基地全体に鳴り渡り、基地は騒然となった。

 搭乗員たちは大急ぎで飛行帽を被り、「アンタレス」へと走る。飛行場では作業員たちが「アンタレス」のエンジンを回し、あるいは飛行場守備の任に当たる2号軽戦車シェイファーIや「シリウス」に擬装ネットを被せる。その周囲では兵員たちが40㎜対空機関砲や75㎜高射砲に取り付き、上空に照準を合わせようとする。

 だがしかし、兵員たちが対空砲を(いじ)り始めた時には、もう既に轟音が飛行場上空に達しつつあった。次の瞬間、ゼロ距離で落雷したかのような凄まじい轟音と共に、(やじり)のような尖った形状の灰色の機体が複数、高速で頭上を駆け抜ける。それらの機はプロペラを持たず、代わりに尾部から1本の炎を噴き出していた。

 灰色の機体は、次元の違う速力で急上昇をかけた後、宙返りして機首をこちらに向けた。そして、下腹部から白い煙の尾を引くロケット弾のような物を次々と発射したのである。

 放たれた「ロケット弾」が着弾するや爆炎が沸き起こり、対空砲が()()()(じん)に吹き飛ぶ。滑走中だった「アンタレス」は一撃でバラバラにされ、ウェーバーは監視塔を降りようとしていたところに攻撃を受け、骨も残さずに消し飛ばされた。

 そんな中、2号軽戦車シェイファーIに乗り込んでいた戦車隊の隊員たちは今のところ、被害を免れていた。敵の攻撃は飛行場の滑走路や駐機場、及び付帯設備に集中していたからである。

 ……だが、彼らは知らなかった。恐るべき死神、いや()()が、すぐそこまで迫っていることを。

 

 

 ロホテン島を攻撃した無数の航空機、それはロデニウス連合王国海軍ムー派遣部隊から発進した、第一次攻撃隊であった。航空母艦「()()」「グラーフ・ツェッペリン」「アクィラ」「(りゅう)(じょう)」、そして戦艦空母「(あか)()」から発進した、総勢約280機の航空機(戦闘機・爆撃機・雷撃機連合)による攻撃である。

 今「アンタレス」を撃墜したのは「赤城」から飛び立った戦闘爆撃機、「F-86D改 セイバードッグ」であった。「AIM-9M サイドワインダー」空対空ミサイルを放ち、ほぼ何もさせないまま「アンタレス」を一方的に葬り去ったのだ。

 

 実はロデニウス連合王国は、グラ・バルカス帝国がロホテン島に建設したこの基地の存在を知っていたのだ。というのも中央暦1642年の7月初頭に、基地建設のための機材や資材を運ぶ輸送船団を、遠洋哨戒に出ていた”伊58”が発見・尾行して、基地の存在を突き止めてしまったからである。

 しかしロデニウス連合王国上層部は、この基地の存在を知った上であえて放置していた。グラ・バルカス帝国側を勝手に泳がせて、彼らの使う通信用暗号などを傍受・解読したりするためである。このため、グラ・バルカス帝国海軍の使用する「GN暗号」はほぼ完全に破られてしまっていた。

 

 そして今回、データをほぼ集め終えた……逆に言えば利用価値がなくなった……ということと、ムー派遣部隊の秘匿性保持のため、及びロデニウス大陸に残留する部隊の邪魔になるから、という理由によりこの基地は叩かれる運命となったのだ。ムー派遣部隊の総司令官に任じられた海軍第13艦隊司令官・(さかい) (しゅう)(いち)中将は、ロデニウス本土進発直後から許可されている自由行動権を活用し、海軍第1艦隊や海兵隊の練度確認と実戦訓練等を兼ねて、この基地を攻撃・制圧することにしたのである。

 作戦の内容は、簡単なものであった。まず、「赤城」や「加賀」、「釧路」に分乗している独立第1飛行隊の新鋭機材を使用し、電子攻撃を仕掛けてレーダーと無線通信を無力化し、その間に艦隊を展開させて島を包囲する。(しか)るのち、空母機動部隊から発進した航空機による波状攻撃と水上打撃部隊による艦砲射撃を行って基地を徹底的に攻撃し、最後に海兵隊を揚陸、占領するのである。特に電子攻撃は、今後使用する場面が大幅に増加すると思われたため、今後に生かすための実験としての側面もあった。

 この作戦は、艦隊戦力によって迅速に島を包囲し、電撃的な速攻で一気に敵戦力を叩き潰す方針であることから、「雷の(ラギア)(クルス)作戦」と命名されていた。

 もちろん、命名者は堺である。名前には当然のように元ネタが存在しているが、詳細の調査は各自でお願いする。

 

「第一次攻撃隊、敵の上空警戒機を全機撃墜。攻撃を開始しました」

 

 ロホテン島の東の沖合300㎞地点、ムー派遣艦隊総旗艦「長門」の艦橋にて、通信長妖精からの報告に堺は黙って頷いた。今のところ、作戦展開は順調のようだ。

 

「長門、(ずい)(かく)に発光信号。『第二次攻撃隊発進準備せよ』」

「『第二次攻撃隊発進準備せよ』了解。瑞鶴に発光信号を送る」

「あと、艦砲射撃に備えて全艦に20ノットの速度で島に接近するよう伝えてくれ。伝達形式は発光信号のリレーで良い」

「了解した」

 

 “長門”を通じ、堺の命令は正確に伝達された。

 その時、不意に「戦闘」のラッパが鳴り渡る。続いて慌ただしく報告が飛び込んできた。

 

「右後方に潜望鏡! さらに()(つき)(ふぶ)()より推進機音探知との報告あり!」

「敵の潜水艦を発見!」

「了解、対潜戦闘!」

「爆雷、対潜迫撃砲(ヘッジホッグ)用意。急げ!」

 

 報告と命令とが、めまぐるしく飛び交った。

 

 

 ここで、攻撃隊のほうに話を戻そう。

 第一次攻撃隊は、実は役割分担が決まっていた。「赤城」「グラーフ」「アクィラ」の艦載機隊が飛行場及び基地を攻撃し、「加賀」「龍驤」の艦載機隊で空母を含む敵艦隊を攻撃するのである。

 攻撃隊の先陣を切った「赤城」の「セイバードッグ改」は、6機の「アンタレス」を一瞬で撃墜した後、「Mk.4 FFAR マイティマウス噴進弾」による対地攻撃を開始していた。駐機されていた航空機や対空砲が、噴進弾の攻撃で次々と破壊され、あるいは「セイバードッグ改」の機首にある12.7㎜機銃4丁の射撃で引き裂かれていく。ジュラルミンの蜂の巣と化した機体が散乱し、駐機場は()()(るい)(るい)の様相を呈し始めていた。また、対空砲は噴進弾の攻撃で弾薬が誘爆し、盛大な火柱を噴き上げているものもある。緊急発進(スクランブル)に成功した「アンタレス」も4機ばかりあったのだが、時速1,100㎞以上の速度を叩き出す「セイバードッグ改」相手には何もできず、あっさり全滅していた。

 そして、先手を取った「赤城」隊に続き、「アクィラ」から発進した26機の「(りゅう)(せい)改」と「グラーフ・ツェッペリン」から発進した30機の「Ju87C改」が攻撃を開始しようとしていた。

 

「全機、攻撃用意。第1シュタッフェルは私に続け、敵飛行場を叩く。第2シュタッフェルは対空砲陣地と地上施設の討ちこぼしを狙え。第3、第4シュタッフェル目標、レーダーサイトと電波塔。

シュトゥーカ隊、突入を開始せよ

 

 「Ju87C改」飛行隊を率いる妖精”ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”は、オルジス信号灯を点滅させて指揮下の各機に命じた。現在この一帯は電波妨害がかかっており、無線電話機が使えないため、ハンドサインか発光信号で指示を伝達することになるのだ。

 地上の滑走路には、既に爆煙がわだかまっている。先行して突撃した「アクィラ」の「流星改」の一部が急降下で800㎏爆弾を投下し(「流星改」は艦これのゲームシステム上艦上攻撃機扱いだが、実際は艦上攻爆撃機であり、急降下爆撃もできる)、滑走路に大穴を穿(うが)ったのだ。

 残る「流星改」は、高度4,000メートルを保ったまま進撃している。どうやら水平爆撃を実施する気らしい。

 

(……ん!?)

 

 攻撃目標となる飛行場を見渡したその時、妖精ルーデルはあることに気付き、後部座席に座る相方の妖精”エルンスト・ガーデルマン”に叫んだ。

 

『おいガーデルマン!』

「どうしたルーデル?」

『下を見ろ、滑走路の縁あたりだ!』

 

 そう言われて妖精ガーデルマンは地上を見下ろした。滑走路の外側は草地が広がっているだけに見える……が、よく見るとところどころ模様がおかしい。

 その理由は、妖精ガーデルマンにはすぐに分かった。何かに擬装ネットを被せて隠しているのだ。

 

「擬装網か?」

『ああ! 何に見える?』

 

 妖精ルーデルのこの問いは、「何を隠しているように見えるか?」ということだ。

 妖精ガーデルマンは、もう一度地上を見直した。ここは飛行場だから、隠すといったら基本的に航空機だろうが……見た限り、隠された対象物は翼を広げているようには見えない。この形は、むしろ……

 

「もしや、戦車か?」

 

 そう言ってしまってから、妖精ガーデルマンはあっと気付いてしまった。忘れていたのだ。相方は、「敵戦車」という言葉には激烈な反応を示す奴だった、ということを。

 だが、一度言ってしまった言葉は取り返せなかった。

 

『そうか、ガーデルマン! お前にも、そう見えるか!』

 

 伝声管から伝わる相棒の声が、急にやたらハイテンションなものになったのを聞いて、妖精ガーデルマンは自分の発言がもたらした効果を悟った。そして、

 

『ひゃっはぁーー!!!』

 

 興奮のあまり、妖精ルーデルが奇声を上げ始めたのである。

 

『夢にまで見た、久しぶりの戦車狩りだァァァ!』

(あー……駄目だこりゃ。完全にスイッチ入っちまったよ)

 

 腹の内でそう(どく)()きながら7.92㎜機銃を構え直した妖精ガーデルマンの耳に、相棒の声が響いた。

 

「ナントカいう国でやり損なった戦車狩り、ここで取り返す!

行くぞガーデルマン、突撃だ!!

 

 その直後、「Ju87C改」が大きく右に傾いた。天地がひっくり返った、と思う間もなく、大地が機体の正面に来る。そして、特徴的なサイレンのような音が鳴り始めた。急降下に入ったのだ。

 

「3,600! 3,400! 3,200!」

 

 サイレンじみた音がどんどん大きく甲高くなる中、妖精ガーデルマンは一心に高度計の数字を読み上げる。地上からは対空砲火が飛んできているが、その密度はまばらだ。「赤城」や「アクィラ」の連中が相当数の対空砲を破壊したためであろう。

 見つかっていないと思っているのか、偽装ネットを被ったまま動かない敵戦車に向けて、妖精ルーデル率いる第1シュタッフェルは1本の棒のように連なり、天空から落ちかかるようにして突っ込む。

 妖精ガーデルマンの「400!」の叫びに、「投下!」の声が重なった。そして動作音が耳に届き、「Ju87C改」が機首を引き起こす。母艦から抱えてきた250㎏爆弾3発を、まとめて投下したのだ。

 水平飛行に戻った「Ju87C改」は、立ち昇る黒煙の隙間を縫うようにして島の上空を飛ぶ。妖精ガーデルマンが地上を振り返った時、敵戦車の車列にパッと閃光が走り、次いで激しい爆発が2つ起きた。

 

「命中! 敵戦車2輌撃破!」

 

 妖精ガーデルマンが伝声管に叫ぶと、「よーし!」と満足そうな声が返ってきた。どうやら戦車狩りの魔王も、少しは満足したようである。

 

 

 飛行場が魔王たちに制圧されていたその頃、ロホテン島東部の空では激しい空中戦が起きていた。第51地方隊を攻撃しにかかった「加賀」「龍驤」の飛行隊に対し、スプートニク級小型空母「カッシーニ」「ホイヘンス」から発進した「アンタレス」計20機が迎撃に当たったのである。スプートニク級空母の搭載数は「アンタレス」13機、「シリウス」10機、リゲル型雷撃機6機なのだが、ロデニウス連合王国軍の第一次攻撃隊の襲来が迅速であったため「アンタレス」全機の発進が間に合わなかったのだ。

 それで戦況はというと、

 

「何だこいつ!? アンタレスより速い!」

「7.7㎜機銃じゃ落ちねえぞ!」

「後ろにつかれた! ……おかしい振り切れん! グワーッ!」

 

 一方的であった。……「アンタレス」のボロ負けで。

 「アンタレス」に対し、挑みかかったロデニウス軍戦闘機の数は、ほぼ同等である。だが、戦闘機の性能と搭乗員の練度が違いすぎたのだ。

 ではここで、グラ・バルカス帝国のアンタレス07式艦上戦闘機と、ロデニウス連合王国の艦上戦闘機「(れっ)(ぷう)一一型」の性能を比較してみよう。

 

アンタレス07式艦上戦闘機

離昇出力 1,100馬力

最高速度 550㎞/h

武装 機首7.7㎜機銃2丁、主翼20㎜機銃2丁

 

烈風一一型

離昇出力 2,000馬力

最高速度 624㎞/h

武装 主翼20㎜機銃4丁

 

結論: こ れ は ひ ど い

 

 エンジン出力のせいで、「アンタレス」が速度性能でボロ負けしているのだ。しかも「烈風一一型」の水平面での運動性能は「アンタレス」とほぼ同等であり、その上「アンタレス」より頑丈なので急降下制限速度は「アンタレス」より高い。この性能の差は、大きかった。

 加えて、搭乗員の練度にも歴然たる差があった。

 第51地方隊はグラ・バルカス帝国海軍本国艦隊に所属している。この本国艦隊はもともと「植民地護衛艦隊」と呼ばれており、植民地の治安維持と反乱の鎮圧を主たる任務としていた。……言い換えれば、第51地方隊の「アンタレス」の搭乗員たちは「弱いものいじめ」しかしておらず、練度はお世辞にも高いとは言えなかったのだ。

 翻って、ロデニウス連合王国側はどうだろうか。搭乗員は、小型ながら幾多の戦場を駆けた名空母”龍驤"に、最強の航空戦隊たる(いっ)(こう)(せん)の双璧”加賀”が、限界まで鍛え上げた連中ばかりである。その練度の高さは、「左(ひね)り込みができるのは当たり前」という”加賀”戦闘機隊の妖精の言に表れている。そればかりか、つい最近まで(しん)(かい)(せい)(かん)相手に文字通りの「命のやり取り」をしていたのだ。弱いものいじめしかしていない連中とは、訳が違う。

 というわけで、「アンタレス」は一方的に押されまくっていた。戦闘機の性能も搭乗員の練度も何もかもが、これまでグラ・バルカス帝国が相手にしてきた敵とは違っていたのだ。

 

 戦闘機隊が「アンタレス」を抑え込んでいる間に、艦爆・艦攻が突撃を開始している。狙いは、2隻の空母と大型の巡洋艦、それと潜水艦だ。

 第51地方隊の艦艇は必死で対空弾幕を張り、第2潜水艦隊の潜水艦は急ぎ潜航しようとし、狙われた2隻のスプートニク級空母は舷側から射弾を放ちながら死に物狂いの回避運動を行っている。だが、それらを意に介することなく、航空隊は攻撃を開始した。

 まず、800㎏爆弾を抱えた「加賀」の「流星改」9機が一塊となって、空母「カッシーニ」に向けて急角度で突っ込んでいく。逆ガル翼を持つ機体の急降下は、ハヤブサの狩りを思わせる光景だった。

 一方で、残り11機の「流星改」と12機の「(すい)(せい)一二型甲」が高度5,000メートルの高空から軍港へと向かっていく。「流星改」は軍港施設への水平爆撃を担当し、「彗星一二型甲」は潜航していない潜水艦を見つけるや、機体を翻して小隊ごとに突っ込んでいった。

 そして低空では、「加賀」の「流星改」20機と「龍驤」の「流星」28機が海面スレスレの低高度から、空母「ホイヘンス」と重巡洋艦「プレイオネ」に向かっていく。空母の急速転回にも重巡洋艦の激しい対空射撃にも怯まず、両隊は幾ばくかの被害を受けながらも肉薄雷撃を敢行した。結果は、「龍驤」の第1飛行分隊12機が魚雷5本を命中させて「ホイヘンス」を仕留め、「加賀」隊は先陣の10機だけで6本もの魚雷を直撃させ、重巡洋艦「プレイオネ」を撃沈した。目標を失った「龍驤」の第2飛行分隊16機と「加賀」の雷撃隊10機は、腹いせとばかりに付近にいた軽巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を狙って魚雷を投下している。

 空母「カッシーニ」はというと、7発もの800㎏爆弾が直撃して大火災を起こし、行き脚が完全に止まっている。もはや鎮火の見込み無しとして総員退艦が発令され、クルーたちは炎と黒煙に追われるようにして海面に身を踊らせていた。タンカー改造の小型空母が、これほどの痛打に耐えられるわけがなかったのである。

 そして軍港の施設も、黒々とした黒煙を多数、空に向かって立ち昇らせていた。

 

 

 この1回の空襲だけで、ロホテン島のグラ・バルカス帝国軍は大きな被害を受けた。第2潜水艦隊は10隻以上の潜水艦を撃沈され、第51地方隊は重巡洋艦「プレイオネ」、空母「カッシーニ」「ホイヘンス」、軽巡洋艦1、駆逐艦3を失って半壊。飛行場に展開していた空軍部隊は、「アンタレス」と「シリウス」の大半を撃墜ないし地上撃破され、戦力の大半を喪失した。おまけに滑走路も大穴を穿たれ、離着陸が不能となった。

 そこへ、第一次攻撃隊が撤収してから20分後、第二次攻撃隊が飛来する。空母「(しょう)(かく)」「瑞鶴」「(じゅん)(よう)」「()(よう)」「(しょう)(ほう)」「(ずい)(ほう)」から発進した、計200機の戦闘機・爆撃機連合であった。

 第二次攻撃隊は艦隊を狙わずに、専ら地上施設を狙った。そのため兵舎や燃料タンク、ドック、格納庫、対空砲陣地などに大きな被害が出ている。

 

 第二次攻撃隊が離脱して15分後、第三次攻撃隊が来襲。こちらは空母「(そう)(りゅう)」「()(りゅう)」「(たい)(ほう)」「(うん)(りゅう)」「(あま)()」「(かつら)()」から発進した、計350機にもなる大部隊である。

 第三次攻撃隊は第51地方隊の残存艦艇を狙って攻撃を開始し、軽巡洋艦や駆逐艦を次々と攻撃した。その結果、空襲が終わった時には第51地方隊の戦力は駆逐艦6隻を残すのみになってしまっていた。巡洋艦以上の艦艇は(ことごと)く沈められ、(ぎょ)(しょう)に変えられてしまったのである。

 そしてこれで終わったと思ったら大間違いであった。第三次攻撃を生き延びたスコルピウス級駆逐艦6隻の艦上に安堵の雰囲気が流れた……その瞬間、スコルピウス級の1隻が突然、左舷中央に巨大な水柱を突き立てられ、真っ二つとなって轟沈したのだ。第三次空襲と前後してロホテン島に到着した潜水艦「呂500」が、狼の狩りを始めたのである。

 「呂500」の攻撃で瞬く間に2隻が沈められ、残る4隻の駆逐艦は必死で対潜戦闘を行った……が、アクティブソナーがなく、パッシブソナーも「九三式水中聴音機」程度の性能しかないのでは、「サイレントハンター」と名高いUボートを発見するのは不可能であった(「呂500」はもともと「U-511」という名であり、UボートIXC型の1隻である)。爆雷を何発叩き込んでも、油膜を伴った泡が浮いてくる・船体圧壊音を探知するといった敵潜撃沈の確証は得られず、そもそも敵がどこにいるのかさえ確証を見つけられない。

 

 焦りばかりが募る中、各駆逐艦の対空レーダーが多数の機影の接近を捉えた。ロデニウス連合王国軍の第四次攻撃隊が襲ってきたのである。

 第四次攻撃隊は、第一次攻撃隊の面々が補給を終えて再出撃してきたものであり、搭乗員の疲労も(超ハイテンションになっている某魔王を除いて)回復しきれていない。だがそれでも、200機という数は圧巻であった。

 対潜戦闘をしていた4隻の駆逐艦は、急いで缶の出力を上げようとしたが、蒸気タービン機関であるためなかなか出力が上がらない。そこへ突っ込んできた「セイバードッグ改」がマイティマウス噴進弾を叩きつけ、4隻は煙突や対空機銃を損傷して炎上し始めた(なおマイティマウスは本来「空対空、又は空対地」噴進弾であり、対艦兵器ではないのだが、搭乗員たちにはそんなことは知ったことではなかった)。

 そして速度の鈍った4隻の駆逐艦には、「ジェリコのラッパ」を吹き鳴らしながら突進してきた「Ju87C改(Rudel Gruppe)」が次々と500㎏爆弾を直撃させ、4隻はついに沈められてしまった。これにより、第51地方隊は文字通り全滅したのである。

 水上艦隊の全滅を確認した第四次攻撃隊の面々は、残存する地上施設や対空砲陣地に爆弾を叩きつけると、意気揚々と引き上げていった。

 

 

 『攻撃終了。敵水上艦隊ノ全滅ヲ確認セリ。今ヨリ帰投ス。ヒトゴーフタサン』

 この報告を第四次攻撃隊から受け取ったムー派遣部隊は、襲ってくるグラ・バルカス帝国の潜水艦を返り討ちにしながらロホテン島に向けて接近していた。当初の予定通り、艦砲射撃を見舞うためである。

 距離150㎞に接近したところで、堺は”Iowa(アイオワ)”に命令を出し、新兵器の実戦テストを行わせた。その新兵器とは、鋼鉄製の箱に収められた4本の筒から発射される、円筒形のロケットのような物体である。……そう、お察しの通り、巡航ミサイル「トマホーク」であった。

 「BlockⅩⅩ Tomahawk」。それが、発射されたトマホークである。このトマホーク、正直に言うととんでもない性能を有していた。まず、弾頭にはカメラが搭載されているのだが、このカメラは光学のみならずサーモ映像にも対応でき、さらには弾頭のセンサーによって金属反応まで探知できる。また、内部には記憶媒体が設置されており、そこには多数のデータが収められているのだが、カメラやセンサーで捉えた物体を素早くデータと照合して、捕捉した目標が何であるのかを瞬時に判定できる。それだけではなく、例え偽装された砲台であろうとも捕捉できてしまうのである。そして、記憶媒体と一緒に搭載されたCPUにより、目標との距離、弱点、突入速度・角度などを瞬間的に計算し、さらにはチャフやフレア、EA(電子攻撃)のような妨害手段も極力無力化して、迎撃ミサイルや機関砲などに対しては回避機動を素早く計算して実行するという、正に悪夢のようなトマホークである。このトマホークを産み出した米国の技術は伊達ではない、というわけであった。USA! USA!

 しかも、コンクリート製トーチカやマジノ線のような要塞でも破壊できるよう、弾頭は貫通弾として設計されている。グラ・バルカス帝国には到底想像すらもできない、凶悪極まりない兵器であった。

 そのトマホークが、「アイオワ」から次々と発射されたのである。レーダーを潰され、人の目による見張りとアナログ的な対空迎撃しかできないグラ・バルカス帝国軍に、こんなミサイルが阻止できるはずもなく、最初の2斉射、計16発のトマホークにより、グラ・バルカス帝国軍の沿岸砲台はあっさり全滅した。入念に偽装したはずの沿岸砲台がなぜここまであっさり偽装を看破されたのか、全く理解できず、生き残って現場を目撃したグラ・バルカス帝国軍の将兵は恐怖に(おのの)いた。

 第3斉射以降のトマホークは、残っていた陣地や兵舎、戦車までもを狙って突入し、グラ・バルカス帝国軍の迎撃システムはもはや破綻しかけていた。7斉射に及ぶトマホークの発射が終わった時点で、グラ・バルカス帝国軍の建造物は大半が破壊され、シェイファーI軽戦車の生き残りもわずか7輌しかなくなっていた。

 

 そして夜になると、ついにロデニウス艦隊はロホテン島を目視圏内に捉え、戦艦や巡洋艦の艦列を敷き並べて艦砲射撃を見舞った。既に沿岸砲台が全滅していたグラ・バルカス帝国軍に反撃の手段はなく、彼らは黙って撃たれるままになるより他になかった。なお、ついでとばかりに浮上した「呂500」も、持参した「WG42」を発射し、30㎝ロケット弾をありったけ叩き込んでいる。

 艦砲射撃を行いつつも、ロデニウス軍は「ラギアクルス作戦」の最終段階の準備を進めていた。そう、第1海兵師団の揚陸準備である。夜闇の中での作業は難航したが、どうにか夜明け前には全ての準備が整った。

 そして翌朝、空が白み始めると同時にスタンバイしていた「大発動艇」や「特大発動艇」が一斉に前進を開始。航空機による上空援護の下で上陸を開始した。

 ロデニウス連合王国軍の上陸作戦が始まった時点で、まる一昼夜に及ぶ攻撃を受けたグラ・バルカス帝国軍は既に大きな被害を出していた。第63警備隊と第551工兵大隊で戦える者は3分の1以下、第2潜水艦隊司令部付の警備要員も僅かに45人だけが戦える状態だった。

 それに対し、第1海兵師団は総勢12,000名が意気軒昂であり、装甲戦力もIII号戦車M型20輌に同N型30輌がある。負ける要素は、どこにも見当たらなかった。

 島の西海岸に上陸した海兵隊は、迎撃に出てきたシェイファーI軽戦車2輌を一瞬で返り討ちにすると、直ちに飛行場に向けて前進を開始。グラ・バルカス帝国軍の残兵を排除しながら優勢に戦いを進め、午前7時頃には飛行場を制圧。そして、敵軍の抵抗を粉砕して12月14日正午頃、ついにロホテン島全域の制圧を宣言した。ここに、ロホテン島の第2潜水艦隊前線司令部は陥落し、ロデニウス連合王国はグラ・バルカス帝国との初の本格的な戦闘で勝利したのである。

 第2潜水艦隊司令官ベケット・ローズ少将は、僅かな残存兵と共に降伏してロデニウス側の捕虜となった。捕虜となったのは全部隊合わせて僅かに100人にも満たず、残りは全て戦死するか玉砕した。ロデニウス軍第1海兵師団は戦死者92名、戦傷者101名を数え、戦車隊には損害はなかった。ロホテン島を巡る戦いは、完全にロデニウス連合王国の勝利で終わったのである。

 そして、ロデニウス軍ムー派遣部隊総旗艦「長門」の航海日誌(ログ)のこの日の記録は、以下の文で締め括られた。

 

『この戦いは、かつて本艦に乗り組み、フォーク海峡にて敵に捕らえられ、死刑に処された妖精たちの弔い合戦、その第一幕としては十分であろう。

敵は勇敢だったが、我々ロデニウス連合王国軍の敵ではなかった。ロホテン島には間もなく、ロ連国旗と(きょく)(じつ)()が翻るであろう。我々の勝利である』




大本営陸海空軍部発表、精強なる我が海兵隊、及び海軍部隊は、ロホテン島に建設されていたグラ・バルカス帝国の基地を強襲。激戦の果て、同地の基地を壊滅・制圧せしめたり。

…ニュースならこんな風に発表されるでしょうが、残念ながらロデニウス政府と軍部には、この戦いを公表する意志は全くありません。なぜ発表しないかというと、「軍の行動方針等の秘密を守るため」です。ですので、この作戦は極秘裏のうちに闇に葬られるでしょう。タウイタウイ泊地の記録には、しっかりと残されますが。

なお、初っぱなに浮遊航行で艦娘&妖精たちを驚かせた"釧路"ですが、彼女の準姉妹艦となる「舞鶴型移動工廠艦」の2隻は、SEALs氏の「超艦隊これくしょんR -天空の富嶽、艦娘と出撃ス!-」にて登場しております。本来は"釧路"もこちらの方に送られるはずだったらしいのですが、予定変更で「この世界」のタウイタウイ泊地へと着任することになりました。


UA63万突破、そして総合評価が、ついに、ついに9,000ポイントに到達…! 拙作をここまで応援していただき、本当にありがとうございます!

評価8をくださいました甘い嘘様、GUNPEI様、tomone様
評価9をくださいました五郎二郎様、Daudai様
評価10をくださいましたZakuweru様
ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!


次回予告。

前哨戦に勝利を収めたロデニウス連合王国軍・ムー派遣部隊。1ヶ月以上かけてムー大陸に到達した彼らは、同大陸のグラ・バルカス帝国勢力を駆逐すべく、展開を開始する。恐るべき新兵器を携えて…
次回「展開、大東洋防衛軍!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。