鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
今回は年が明けて中央暦1643年、2月から5月頃のことです。バルチスタ沖大海戦やオタハイト・マイカル沖海戦の前後でこんなことしてました、っていう話です。
中央暦1643年2月5日、第二文明圏列強ムー国 商業都市マイカル。
マイカルは「商業都市」の名の如く、第二文明圏最大の玄関口となっており、他国からの船舶や航空機、あるいは車両などの出入りが多い。第二文明圏の経済の中心地とも言える街である。冬ではあったし戦時下でもあったが、そんなことはお構いなしとばかり、多数の外国人がマイカルに出入りしていた。
当然ながら、ひっきりなしに出入りする他国の交易船を迎え入れるためには、巨大な港が必要となる。そしてマイカルは広さ・水深ともに十分な天然の良港を有しており、諸外国からの交易船の受け入れ港としては無論のこと、ムー統括海軍の有力拠点の1つとしても使用されていた。
2月5日の午後4時、マイカルの空はどんよりとした鉛色の雲に覆われている。そのマイカルに東から多数の船が接近しつつあった。複数の輸送船を含んでいるため、大規模な交易船団か……と思いきやそうではない。何故かというと、輸送船の数も多いが、それ以上にものものしい装いの艦が多くを占めているからだ。
輸送船の周囲にいるのは、
そう、それはムロ同盟に基づいてムー大陸に派遣された、ロデニウス連合王国海軍第1艦隊並びに第13艦隊のムー派遣部隊であった。航空戦艦を含む戦艦11隻、戦艦空母を含む空母17隻、その他巡洋艦、駆逐艦多数からなる大艦隊である。ムー大陸に陸上兵力及び艦隊戦力を展開し、グラ・バルカス帝国との決戦に備えることが最大の目的であったが、もう1つ、「ラ・カサミ改の護送」という任務も帯びていた。
「現在位置、マイカルよりの方位105度、60㎞。艦隊速度は18ノットですから、このまま進めば2時間後にはマイカルに入港できます」
ムー派遣艦隊総
「了解。日没は17時19分と見られているから、マイカル到着は日没後か。ムー海軍の連中には、少々手を
腕時計をちらりと見て、考え込む堺。そして彼は、新たな指示を出した。
「ではこれより、艦隊を3手に分ける。第1護衛隊群は本艦隊より分離し、陸軍第1軍団を乗せた輸送船団及び第1艦隊の半数と共に、ムー北部の要港スカパ・ブローへ向かえ。ラ・カサミ改と第1・第2海兵師団を護衛する第1艦隊の残り半数及び第2護衛隊群は、北に針路を取りオタハイトを目指せ。第13艦隊本隊は、このままマイカルに入港する」
指示を受けて、まず第1護衛隊群……戦艦「ビスマルク」「
続いて第2護衛隊群……戦艦「アイオワ」「
『貴艦ノ航海ノ安全ト武運ヲ祈ル』
すると、「ラ・カサミ改」からは以下のような返事が返ってきた。
『護衛ヲ深謝ス。貴艦隊ノ奮戦ヲ祈ラントス』
どうやら、ミニラル・スコット艦長以下の「ラ・カサミ改」のクルーは、ロデニウスに大いに感謝しているらしい。
(ま、あれだけ壊れていた艦を蘇らせ、しかも新しい力まで与えたのだから、無理もないか)
堺がそう考えている間にも、陸軍第1軍団を乗せた輸送船団を護衛する第1護衛隊群と、「ラ・カサミ改」と共にオタハイトに向かう第2護衛隊群との距離は少しずつ開きつつあった。そしてそれに反比例するように、マイカルとの距離は近づきつつあったのである。
そのしばらく後、マイカルの港には若干ピリピリした雰囲気が流れていた。他国の軍がこの地に留まるということで、港湾部のメンバー全員が緊張状態になっている。……ごく一部を除いて。
「ロデニウスの艦隊は、もう来ている頃か……」
埠頭を歩きながらそう呟いているのは、ムー統括軍の技術士官マイラス・ルクレール中佐である。ロデニウスの艦隊が来るというので、一度見学しようと思って出てきたのだ。
既に陽が沈み、夕陽の最後の残光が西の山際をほんの少しだけ赤く照らし出している。光の量は非常に少なく、海のほうはもう真っ暗だ。街灯の僅かな明かりだけが頼りであり、マイラスは足元に十分注意しながら歩いている。2月の冷たい風がコートの上から襲いかかり、肌を刺すような冷気に彼はぶるっと身を震わせた。
(うう、この寒さはやはり
マイラスはつい、3年前のことを思い出していた。
3年前、中央暦1640年の今頃、マイラスはロデニウス連合王国とパーパルディア皇国との戦争に際し、観戦武官の1人としてロデニウスに行っていた。ロデニウス大陸はこの世界でも南方に位置しており、1月2月という冬の季節でも暖かいどころか暑いくらいであった。そのため、当時ロデニウスにいた彼は半袖の衣服で動き回っていたものである。
この身体を切るような寒さを感じると、どうしてもロデニウスの南国気候を思い出さずにはいられない。
(本当に、この寒さには
だが、真っ暗な海に影絵のように浮き上がっている複数の艦影を認めた瞬間、さっきまで感じていた寒さは全て吹っ飛んでしまった。新しい玩具を買ってもらった子供のようにキラキラした目で、マイラスはぼんやり浮かぶ艦影を見つめる。
(夜だから仕方ないが、この距離じゃまともに見えんな……。仕方ない、明日以降の昼にまた来ることにしよう。それにしても、こりゃ間違いなくロデニウスも本気だな。ざっと見た限りだが、10隻ばかりの戦艦を連れているようだ。空母も多分、多数いるだろう。そう考えれば本気だろうな。これでヤマト級がいれば、本気だと断言できるんだが……)
遠く
この日、いよいよロデニウス連合王国軍がムー大陸に到着し、来るべきグラ・バルカス帝国との戦争に備えて展開を開始したのである。
ムー派遣艦隊がマイカルに到着した翌日、次の援軍がひっそりと到着した。それが、独立第1飛行隊である。そう、かのUFOを装備した飛行隊であった。
装備機材の関係でこの飛行隊はムー国内の飛行場に降りることができないため、航空母艦「
一方、スカパ・ブローに入港した陸軍第1軍団は、上陸した後はオロセンガ基地とスカパ・ブロー陸軍基地の2つに分かれて待機していた。陸軍第1軍団の数が多いための、やむを得ない措置である。海兵師団はオタハイトの海軍基地に上陸していた。
また、大東洋防衛軍として参戦したトーパ王国陸軍の狙撃兵2個中隊、それに戦車第11連隊(
そして、早くも活動を開始している部隊もあったのである。
「その機材はこっちに設置しろ! あと、拡張した滑走路の最終点検を急げ!
何しろこの飛行場は貴重な、
ムー国西部にある鉱山都市キールセキを守る、エヌビア基地。そこに、ロデニウス陸軍・第2工兵連隊長の声が響いた。
エヌビア基地は現在、ロデニウス軍の工兵隊が現地入りしており、大規模な改修工事が行われている。とはいっても、先進11ヶ国会議の席上でグラ・バルカス帝国に宣戦布告された直後、中央暦1642年5月から、第1工兵連隊による工事が始まっているため、今はほとんど総仕上げの段階である。
工事の内容としては滑走路の延伸と補強、各種無線設備の設置、ジャミング装置まで設置している。そして、早期警戒・防空管制のための防空網を構成するレーダーも設置していた。
このエヌビア基地に設置されたのは、まず早期警戒レーダーとして「13号対空電探改」、やや近距離用のレーダーとして「ウルツブルグレーダー」、そして限定的ながら防空管制を可能とする「FuMO25 レーダー」である。かなり厳重な防空網が敷かれていたのだ。
そして対空装備として、「88㎜野戦高射砲」と「Bofors40㎜機関砲」を設置し、
ムー統括軍では、既に「ロ式41型ヒッカーズ88㎜高射砲」の名で88㎜野戦高射砲が、「ロ式41型40㎜対空機関砲」の名でBofors40㎜機関砲がそれぞれ採用されている。それらと同じ装備を設置することで、ムー統括軍と同じ装備を使用できるようにし、補給体制を一本化することを狙ったのである。
だが……実はエヌビア基地はまだましなほうだった。
エヌビア基地は、空洞山脈の東端に設置されている。その反対側、空洞山脈の西端に建設されたドーソン基地は、さらなる魔改造を受けていたのである。
「ヒドラジンと液体酸素の扱いには特に気を付けて! 絶対に爆発させないように!」
盛んに指示を飛ばしまくっているのは、「安全第一」と書かれた黄色のヘルメットを被った“
そして、彼らの後方、山際には白と黒のツートンカラーに塗装された奇怪な塔のようなものが並んでいる。赤塗りの鉄塔に沿うようにして並べられたそれは、どこからどう見てもミサイルであった。
そう、ドーソン基地に配備されていたのは『
具体的には、RV-1ロケットの性能は最高時速700㎞、射程400㎞に向上させた他、さらにジャイロコンパスの改良によって着弾誤差10メートル以内に収める等、かなりの精密誘導爆弾にしてしまっている。RV-2ロケットに至っては、エンジンや燃料、ジャイロコンパスの改良によって最高時速がマッハ2.5に達し、射程も350㎞に延長、そして着弾誤差50メートル以内に修正できてしまった。V-2の着弾誤差が7~17㎞であったことを考えれば、これは大幅な精密誘導化だと言う他はない。ICBM(大陸間弾道ミサイル)配備の夢にまた一歩近付いたと言える。
ちなみに、何故「報復兵器」なんて物騒な名前が付いているのかというと、「“長門”乗り組みの妖精たちの処刑に対する報復として、このロケット兵器をぶち込むつもりだから」である。後は、「兵器の正体を隠すための、コードネームとしての意味」もある。
これらのロケット兵器は、もちろんだがグラ・バルカス帝国軍を直接叩くために配備されている。
独立第1飛行隊による偵察飛行や、ムー側のスパイによる偵察、そしてムー国内に亡命してきた「自由ヒノマワリ王国」の代表たる第二王子ハルノミヤから情報収集した結果、ヒノマワリ王国の動きがきな臭くなっている。どうもグラ・バルカス帝国に降ることを決定したらしい。
これまでのグラ・バルカス帝国の動きについて調べると、彼らは必ず、降伏した国家には前線基地を築き、他国を侵略するための拠点としている。そして、ヒノマワリ王国とグラ・バルカス帝国領レイフォル州の国境付近で、グラ・バルカス帝国軍の工兵機材の集結と多数の物資の積み上げが確認されたことから、ヒノマワリ王国内に基地が築かれるのはもはや確定的であると判断された。それを遠隔攻撃する手段として、ロデニウス側はこれらの誘導ロケット兵器を準備していたのである。
“釧路”が手伝ったせいもあるのだが、ほんの1ヶ月ほどで第3工兵連隊はRV-1の発射カタパルトを10基、そしてRV-2の発射台10基を建設してしまっている。見事な仕事だと言う他はなかった。
そして中央暦1643年3月初頭、ちょうどドーソン基地の突貫改修工事が終わりかけており、エヌビア基地の改修工事も完了に近付いていた頃、ロデニウス陸軍第1軍団が鉄道によってオロセンガ基地を出発、ムー国内を南下し始めた。その目的はエヌビア基地に併設されたキールセキ駐屯地、そしてその先にあるドーソン基地への進出である。
3月13日、ムー国西部 キールセキの街。
ムー国を南北に縦断する大陸縦断鉄道。その路線はムー国内を突っ切ってマギカライヒ共同体に至る東回り路線と、ムー国北部を出発して旧レイフォル国を通過、ソナル王国を経てニグラート連合に終着する西回り路線がある。そして東回り路線は途中で二手に分かれ、ムー大陸東岸沿岸部に沿って走る第1路線と西部の山岳地帯を抜ける第2路線に分かれている。
第2路線の沿線にあり、国境の街アルーから最も近い街、キールセキ。付近にある空洞山脈において特殊な金属が採れるこの場所は、鉱業を主な産業として発展してきた。
このキールセキのとある酒場では、鉱山における採掘作業を終えて戻って来た鉱夫たちが、仕事終わりの酒に酔いながら話をしていた。
「聞いたか? グラ・バルカス帝国が、このムーを侵略しようとしているらしいぞ」
神妙な顔をした男が、一杯飲みながら話し始める。
「ああ、聞いた。ついに、戦争になっちまうのか……」
「最初に戦闘になるのはアルーだろう? その次に奴らが狙うなら、一番近くて、鉄道の重要拠点であるこのキールセキを狙うんじゃねえか?」
「そうだろうが、ムー統括軍も、世界第2位列強の意地があるだろ? 西部方面隊主力の基地も近くにあるし、このキールセキが落ちる事はねぇよ」
圧倒的で、絶望的な力の差があるグラ・バルカス帝国。奴らが目と鼻の先とも言える場所にいることを、誰もが不安に思っていた。酔っぱらい達は、不安を振り払うかのように、強がりながら話す。
「
だがその時、
「お前たちは何も分かっていないな!!」
不意に、酒場に大きな声が響き渡った。そして、フードをかぶった1人の男が、酔っ払いどもの話を遮るように話し始める。
フードの横からは尖った耳が出ており、おそらくはエルフ族の者と思われた。
「お前たちは、グラ・バルカス帝国の恐ろしさを何も分かってはいない!!」
男の手は震え、手に持つコップからは酒がこぼれる。
酒場の者達は、その男に釘付けになった。
「俺は……俺は、かつてイルネティア王国海軍に所属していたんだ!!」
酔っ払いたちは、はっとする。
イルネティア王国……ムー大陸の西方約500㎞の沖合、パガンダ島の北側に位置する文明圏外の島国である。パガンダと同様に、西方世界との交流の拠点であり、国は栄えていたと聞く。近年、グラ・バルカス帝国の侵攻を受け、確かあっさりと陥落している。
グラ・バルカス帝国と戦った経験を持つ男の話に、酒場の酔っ払いたちは耳を傾ける。
「グラ・バルカス帝国は、明らかに宣戦布告ととれる挑発活動を行った。当時イルネティア王であったイルティス13世陛下は、これに激怒し、グラ・バルカス艦を撃てとお命じになった。そこで我々は、帝国の外交官が帰る際、奴らが移動に使用した戦艦グレードアトラスターに乗り込んだその瞬間を狙って攻撃を開始した。砲撃は正確に着弾し、敵艦は爆煙に包まれたよ……」
今まで伝説級の強さを誇ってきた恐怖の対象、超戦艦グレードアトラスター。これに文明圏外国家が砲撃を命中させていたという事実に、場はざわつく。
「至近距離の射撃だったので、当たったんだ。我が国は、かつての第二文明圏の列強レイフォル国と同じように、着弾したら爆発するタイプの砲弾を使用した。さらに……魔法砲撃術のリミッターを解除することにより、砲身の寿命や船体の破損と引き替えに、砲撃の威力と発射時初速を4倍に上げる、といった我が国の秘術までも使用し、グレードアトラスターに攻撃を続けた……。しかし、奴は……化け物だ!!」
話しながら、恐怖を思い出しているのであろう……ぽつりぽつりと語る男の額からは冷や汗が流れ、手は震え始める。
「当たった……確かに当たったんだ!! 我が国最強の技術が……我が国最強の砲撃が!!
でも……でも、奴は何事も無かったかのように……何事も無かったかのように、我が艦隊を砲撃したんだ!! しかも1発で、魔導戦列艦が爆散するほどの威力で!!
とてつもなく重い1発……たったの1射で、魔導戦列艦が、粉々に粉砕されるんだぞ!! あんな攻撃見たことが無かった……」
亡命兵が語る生々しい戦闘の話に、場はいつしか静まり返っていた。そこへ、酔っ払いの1人が口を開く。
「ま……まあ、お前さんが、大変な思いをしてきたことは良くわかった。しかし、このキールセキは、ムーにとっても絶対に落としたくない戦略的拠点だから、簡単には落ちねぇよ。
それによ、知ってるか?
ええと、どこだったかな……ロデニウスか、そうそう、ロデニウス連合王国も、ムーを救うために参戦するらしいぞ。
なんとかなるって!!」
だが、亡命兵はその発言にも反論した。
「認識が甘いと言っているのだ!! 奴らの次元は、私の知る戦闘の次元を遙かに超えた位置にいる!
陸軍だってとてつもなく強い!! 奴らの陸軍で使用された戦車という名の超兵器も、私は見たのだ! 鋼鉄の車に、高威力の魔導砲が取り付けてあり、我が方の魔導砲が直撃してもびくともしない。しかも、かなりの高速で動くのだ!!」
酒場の熱が高まる。
「まあまあご主人、そう熱くなりなさんなって!
お!? 見てくださいよ、援軍が汽車で到着したみたいですよ」
酒場の横の線路を、汽笛を鳴らしながらゆっくりと重連の機関車が通り過ぎていく。
「ああ、ご主人が見た戦車って、あんなの?」
そこへ、客の1人が窓の外を指差した。熱く語っていた男が、窓の方を向く。
「っ!!」
彼は今までの酔いも忘れて、目を見開いた。
そこには、貨車に乗せられた巨大な戦車が通り過ぎていく光景があった。箱を数段積み重ねたような角ばった車体は、幅の広い履帯に支えられている。その佇まいは見るからに力強く、重厚な雰囲気を湛えていた。そして、車体のてっぺんには長大な砲身を持つ大砲が乗せられている。
それは、ロデニウス陸軍最強の戦車である「VI号戦車E型 ティーガーI」であった。彼の見たグラ・バルカス帝国の戦車に比べ、遙かに巨大な車体を持ち、遙かに巨大な砲を積んでいる。全体としては洗練さには欠けるものの逆に力強く、「どんな奴が敵であろうと撃ち抜いてみせる」という気迫が主砲から感じ取れた。そのティーガーIが1輌、そしてIV号突撃戦車「ブルムベア改」や「クーゲルブリッツ対空戦車」合わせて数輌が、機関車が引く無蓋貨車に載せられて通り過ぎる姿があったのである。
「こ……これは……すごい!!」
彼はグラ・バルカス帝国によって祖国を滅ぼされ、絶望の中でムー国に逃げた。
第二文明圏最強と言われる列強ムーの力をもってしても、とても敵わないと思われた国、グラ・バルカス帝国。だが、これなら……ロデニウスとやらの援軍ならば、もしかするとグラ・バルカス帝国軍を破ってくれるかもしれない。祖国を、取り返せるかもしれない!
彼の心に、かすかな希望の光が生まれる。
その少し後、ムー統括陸軍西部方面隊主力が屯するキールセキ駐屯地、司令室。
「失礼します」
一人の男が司令室に入り、報告を開始する。
「マクゲイル司令、まもなくロデニウス連合王国陸軍の第1陣が、駐屯地駅に到着いたします」
「うむ、報告ご苦労。さてと……客人を出迎えるとするか」
キールセキ駐屯地は、キールセキの街につながる駅とは別に、駐屯地へ鉄道が引き込まれており、大規模な陸軍部隊を迅速に展開させることが可能となっている。駐屯地駅では、貨車に積まれた戦車はそのまま方向転換をすれば、荷台から降りることが出来るのだ。
「しかし……最近はグラ・バルカス帝国やロデニウス連合王国など、我が軍以外の軍がこの第二文明圏を我が物顔で駆け回るな……」
ムー統括陸軍の将官マクゲイル・セネヴィル少将の言う通り、このところ第二文明圏はグラ・バルカス帝国のせいで激動状態となっている。既に旧列強レイフォル国とその属領・属国が全て降伏した他、最近になってヒノマワリ王国もグラ・バルカス帝国に降ったそうだ(ヒノマワリ王国の降伏は3月2日なので、今から11日前ということになる。ちなみに同国の第二王子ハルノミヤがムー国内に脱出してきたのは2月26日。結果的には、間一髪で彼は脱出に成功したことになる)。遠からずグラ・バルカス帝国軍は、ムー国に攻め込んでくるだろうと見られており、厳戒態勢が続いている。
「ロデニウス連合王国の海軍や空軍の強さは、聞き及んでいる。しかし陸戦は、対空戦闘とは異なるものだ……。ロデニウス連合王国に、いったいどれほどの力があるというのだ?」
軍上層部からは、全面的に協力するように命令を受けていた。だが、ロデニウス陸軍の強さについては未知数の部分が多く、マクゲイルはロデニウス陸軍の強さには疑問を抱いていた。
司令マクゲイルは、複雑な感情をもって、出迎えに向かう。
キールセキの陸軍駐屯地駅には、ムー国政府がこれほどまでに気を遣うロデニウス連合王国の陸軍を一目見ようと、陸軍軍人たちの人だかりが出来ていた。
けたたましく列車の汽笛が鳴り、駅では列車の到着を知らせるベルが鳴り響く。
「さて……どんな奴らが来るのだろうか?」
マクゲイル司令は傍らに立つ部下につぶやくように話しかけた。
「政府や海軍は、ロデニウスの技術を高く買っているようですが、陸軍は数と戦略がものを言う事が多い。今回の派遣兵力は20万人、とのことですが、我がムー国を救うには少ないように思えます」
「そうだな……援軍は助かるが、中途半端な援軍は軍の運用を妨げる場合がある。数の優位を覆すほどの力があるとは思えないが……。まあ、ここに到着する者たちだけではなく、航空支援も着くらしいから、少しは期待しているが……」
ゆっくりとホームに入ってくる貨物列車、その貨車を見たマクゲイルは固まった。
「っ!!」
見たことの無い兵器、圧倒的な存在感がそこにあった。
野次馬として来ていた兵たちもざわつきはじめ、各々が話し始める。
「おいおい! 見ろよあれ!!」
「な!? で、でけぇ……!」
「あんなデカいの見たことないぞ!?」
兵たちのざわめきの原因となっていたのは、列車が運んできた「ティーガーI」であった。「ティーガーI」は、ムー統括陸軍が配備している「ラ・テックス戦車(性能的にはマークI戦車とサン・シャモン突撃戦車を足して2で割ったくらい)」や「ラ・スタグ自走砲(III号突撃砲F型)」とは一線を画する巨体を有し、搭載された主砲も信じ難いほど大きい。存在感は抜群であり、見るからに強そうであった(そして実際、圧倒的に強い)。
なお、なぜ「ティーガーI」を1輌しか運んでいないのか、という話であるが、これは単純に「ティーガーI」が重すぎるのだ。ムー国でも最強の機関を搭載するディーゼル機関車を重連にしたとしても、重量57トンの巨体を牽くのは容易ではなかったのである。
「あ……あれ、戦車かな?」
「分からん、たぶんそうだろうが……色々な種類がありそうだな」
列車には「ティーガーI」の他に「ブルムベア改」や新型の対空戦闘車輌……「クーゲルブリッツ対空戦車」が乗せられていた。それらを見たムー統括陸軍兵士が、各々の考察を述べる。
貨物列車に積まれた車輌は、どれもムーの兵士たちにとって見たことが無く、重厚感があり、大きかった。
用途、戦闘力等、判然としない部分は多かったが、とにもかくにも「とても強そう」に見え、陸軍の士気は上がるのだった。
ホームに到着した列車がブレーキをかけ、停止する。すると、連結されている客車から何人もの軍人がホームに降り立ち、下士官らしい人間の指示に従って装甲戦闘車輌を降ろし始めた。
存在感を放つロデニウスの軍用車輌に圧倒されたマクゲイル司令だったが、しかし気を取り直し、最初に降りてきた軍人に近づき、声をかける。
「よくぞおいでくださった、私は基地司令のマクゲイル・セネヴィルといいます。我がムー統括陸軍は、ロデニウス連合王国陸軍を歓迎いたします」
すると、相手は綺麗な敬礼をしながら自己紹介してきた。
「お出迎えありがとうございます。私は、ロデニウス連合王国陸軍第1軍団司令官、モッツァラ・ノウ中将と申します。よろしくお願いいたします」
同じタイミングで右手を差し出し、双方の指揮官はしっかりと握手をかわす。
そしてロデニウス陸軍の幹部達は、基地に降り立ってすぐにムー統括軍幹部たちと合流し、基地司令部にて作戦会議に移行した。
陸軍第1軍団がオロセンガ基地からキールセキ駐屯地に移動する傍ら、「マリン」や「アラル」の歓迎飛行を受けながら多数の航空機がムー大陸各地の飛行場に舞い降りた。それらは、ロデニウス連合王国の陸軍戦略航空軍に所属する第11・第12戦略航空爆撃団、それから海軍第11・第12航空艦隊である。海軍の部隊は名称こそ「航空艦隊」だが、正体は基地航空隊であった。
戦略航空爆撃団の装備は、爆撃機として「B-29改 スーパーフォートレス」、戦闘機として「F-86D改 セイバードッグ」、及びその高高度迎撃調整型である「F-86DM改」。一方、航空艦隊の装備は「
「紫電改二」は本来、艦上戦闘機であるのだが、「
「紫電改二」は、航続距離こそ「烈風一一型」に劣るものの、最高時速は644㎞をマークしており、これは「烈風一一型」の最高時速624㎞を上回る。それに加えて、火力は機首13㎜機銃2丁に主翼20㎜機銃4丁もあり、主翼20㎜機銃4丁装備の「烈風一一型」より強力だ。そして、「烈風一一型」にはできない芸当として、250㎏爆弾2発を抱えられる。20㎜機銃4丁と250㎏爆弾2発の組み合わせは、対地襲撃には向いていると判断されていた。そして何より、「紫電改二」はカルアミーク王国において実際に対地襲撃機として運用され、戦果を挙げている。また、さすがの第13艦隊でも「烈風一一型」の数が完全には足りず、足りない穴を急遽「零式艦戦21型(熟練)」や「零式艦戦52型(熟練)」で埋めたため、基地航空隊に回す戦闘機が足りなくなっていた。これらの事情から「紫電改二」の価値が見直され、「紫電改二」は新たな地に翼を得ることとなったのである。
また、「紫電改二」の一部機体はムー国の航空企業エストリバー社に納入され、エンジニアたちの手で調べられていた。グラ・バルカス帝国の戦闘機を圧倒し得る新型機ということもあり、エンジニアたちも本気で解析に当たっている。自分たちの働きにムー国の行く末がかかっているのだ、と信じて。
陸軍の航空部隊のうち、第11戦略航空爆撃団はムー大陸の北部地域を担当し、第12戦略航空爆撃団はムー大陸中部が担当区域となる。また、海軍の2個航空艦隊も同じように分散し、11航艦は北部、12航艦は中部をそれぞれ担当区域としていた。
また、マギカライヒ共同体などのムー大陸南部のムー飛行場には、海軍の基地航空隊である第13・14航空艦隊が進出し、戦闘態勢を整えようとしていた。なお、第13航空艦隊にはかの「
申すまでもなく、その1個飛行隊というのは「Ju87C改(Rudel Gruppe)」である。「今回の敵であるグラ・バルカス帝国は、多数の戦車を保有している」と情報が入って以来、兼ねてから前世以来の「戦車狩り」を目論む妖精“ハンス・ウルリッヒ・ルーデル”が、「今回は戦車狩りに専念させてくれ」と堺に懇願し、「ムー沿岸にいる敵主力艦隊を撃破した後に転属を認める」という形でそれが通ったのだ。「Ju87C改」には、搭載用モジュールとして37㎜機関砲も用意されていることから、ムー大陸戦線が始動すれば、ムー大陸南部に展開したグラ・バルカス戦車隊は、サイレンと共にやってくる「魔王」の牙から逃れること能わぬであろう……。
その一方、マイカルに停泊する第13艦隊本隊では、堺が「ある兵器群」を前にして驚きを隠せなくなっていた。
「何だこれは……たまげたなぁ……。」
彼の視線の先にあったのは、複数の爆弾らしきものと1輌の装甲車、そして1種類の砲弾らしきものであった。いずれも、タウイタウイ泊地からムー大陸へ移動するまでの間に“釧路”が開発した新兵器である。
彼女が書き残していった説明書によれば、爆弾は「三号爆弾」と「三一号光電管爆弾改」であり、それ以外に零戦62型に搭載して運用するための噴進弾……ロケット弾もあった。「三号爆弾」とは対地クラスター爆弾であり、芙蓉部隊なども使用した他、史実では零戦パイロット「
装甲車については「LVT-4」とだけネーミングが書かれていたが、これは要は第二次世界大戦時にアメリカ軍が運用していた水陸両用車「LVT-4 ウォーターバッファロー」のことである。以前の「ロホテン島の戦い」で海兵隊に思いのほか大きな被害が出たため、「上陸を支援できる水陸両用車が要る」という戦訓分析が出た。それに基づき、"釧路"があっさり作ってしまったのである。
そして、砲弾については「四三式弾」とシンプル極まりない名前が付けられていただけだったが、その下に書かれた説明書きが堺の目を引いた。
『四三式弾は、いうなれば対空サーモバリック砲弾です。対空戦闘においての使用を想定されており、発射後空中で炸裂すると半径200〜500メートル以内の全方位を衝撃波でなぎ払い、その後気化燃料で焼き尽くします。敵の艦上機や重爆撃機を一掃するのに向いています』
つまりこの「四三式弾」とやら、どこぞの後世日本が開発した「三×弾」そっくりの性能なのである。航空機の天敵ともいうべきチート砲弾が出てきたのであった。
(アイツ、ほんっと何つーモノ作ってんだよ……)
半ば呆れつつも、堺は即決でこれらの兵器の採用を決めるのだった。
こうして、ロデニウス連合王国海軍第1・第13艦隊のマイカル到着から数えて3ヶ月ほどで、大東洋防衛軍はムー大陸各地に展開し、確実に戦闘配備を整えつつあった。
グラ・バルカス帝国軍と正面切って激突する日は近い。果たして彼らのうち何人がこの戦いを生き残ることができるのか? そして勝利の女神はどちらに微笑むのか? ……それはまだ、神のみぞ知ることである。
というわけで、今回ついに初実戦となる兵器が勢揃いしました。初実戦投入となるであろう兵器はまず、かのナチス・ドイツ第三帝国謹製のロケット兵器「V-1」に「V-2」の改良型、それからIV号戦車を改造して作った対空戦車、対地クラスター爆弾に光電管爆弾、水陸両用車、そして最後に燃料気化砲弾。勢揃いですね。
四三式弾については、申し訳ないのですがどうかご登場のお許しを。「艦これ」の要素をなるべく保ちながら、グラ・バルカス帝国のみならず「古の魔法帝国」ことラヴァーナル帝国と戦おうと思ったら、これだけは最低限必要な装備なのです。「最近拙作における艦これ要素が薄まっている」という批判もありますれば、ここで一度心理的な原点回帰を図りたいと思います。
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ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
ロデニウス連合王国が着々とグラ・バルカス帝国への反撃の準備を進めていた頃、神聖ミリシアル帝国もまた動いていた。中央世界と第二文明圏の諸国家に働きかけ、グラ・バルカス帝国艦隊をムー大陸沿岸から叩き出す「世界連合艦隊」の編成と集結を進めていたのである…
次回「世界連合艦隊の集結」